執務室に向かう陸遜は、途中で会った呂蒙からある願い事をされた。 「陸遜、今から姫の下へ向かってもらえないか?」 「姫の所へですか?何かあるのでしょうか?」 「いや、実はまた殿が縁談の話をしているらしくてな」 苦笑しながら話す呂蒙の言葉に、あぁなるほどと返す。 「ご立腹の姫の相手をしろという事ですね?」 「まぁ、そういう事になるな」 「呂蒙殿も人が悪い」 「そう言うな、お前の今日の仕事はそれだけで良いから」 それだけとは簡単に言ってくれる。 あの姫を宥めるのにどれほどの労力を使う事か。 「・・・仕方ありませんね」 溜め息を混ぜつつ答えれば、呂蒙は頼むと一言残して去って行った。 その後ろ姿が妙にスッキリしていたのは気のせいだろうか? 見慣れた背中を見送って先程まで向かっていた方向とは逆を向く。 「・・・さて、行きますか」 きっと今頃物に向かって八つ当たりをしているだろう人の下へ歩み出す。 彼女の相手は自分が適任である事はよくわかってる。 そしてそれを楽しんでいる自分も理解しているのだ。 「不謹慎ですかね?」 誰もいない空間への問いは笑みを含んでて。 彼が普段浮かべている年齢不相応の笑みしか知らない人々が見たら驚愕するであろうその表情は、まるで小春日和の様に穏やかだった。
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