「な、何を言っているのだ!お前はもうすぐ・・・」 「わかってるわよ!わかってる・・・だから、これが最後なの」 孫権の焦りの言葉をかき消すように、尚香は声を上げた。 「お願いよ、兄様」 懇願する愛妹に、孫権はしぶしぶながら承諾の頷きを返す。 「ありがとう兄様。みんな、今度の戦、よろしくね!」 明るい声がいつもだったら場を和ませるのに、今度ばかりは皆沈痛な面差しでいる。 彼女が縁談の相手に会うと言った事を知っていた。それは初めての事で、そのまま嫁いでしまうのだと噂になっている。 「なによぉ、みんな暗いな〜ほらっ!軍議がんばってよね!」 一人一人の顔を見回し、にこりと笑うと来た時と同じように風の様に軽やかに去って行った。 後ろ姿を見送って、誰がついたであろうか、溜め息が漏れる。 「・・・すまんな」 苦笑交じりの君主の声に、わかっていますと皆頷くだけだった。
どのくらい歩いたのだろうか? ぼうっとしながら此処まで来てしまった。 急に力が抜けて、その場に崩れる。 見れなかった、彼だけは見れなかった。 もう会わないと言ったのに、この気持ちを失くしてしまおうと思ったのに―――まだこんなにも・・・あなたを愛してる。 「陸、遜・・・陸遜っ!」
零れ続ける涙を、止める術を見つけられない。
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