最初から解っていた筈だった。 姫に恋焦がれた瞬間から……
私は呉の軍師で、相手は呉の姫君。 何度この想いを断ち切ろうとしたか。 それでも、貴女が私に微笑むたびに、心の底に埋めたはずの感情が芽を覚ましてしまう。 私はそのつどどうしたらいいかわからなくなる。 姫に逢いたい。姫と話したい。姫の傍にいつも……居たい。所詮無理なことだとわかっていても、諦めようとしても、駄目でした。 でもそんな時に、姫と仲良くなれて私は、本当に嬉しかったんです。どれだけ願っても叶わなかった一番の願いが叶ったのですから。
ですが、 やはり神などいなかった。
縁談の話が来たのです。私は即座に断ってもらおうとしましたが、今の呉の現状。曹魏の勢い。それらを言われると、軍師としても意見を押し切る術がありませんでした。 でも 私はまだ、諦めていなかった。姫ならいつものように断ると踏んでいたんです。
ですが、今回はそうなりませんでしたね。 あの時、私が姫に本心を話していたら、こうはならなかったでしょうね。
独りで己を嘲笑しながら陸遜は城に戻り食事もとらず、誰と言葉を交わすことなく、眠りについた。 ―――その間自身がずっと涙を流していたことに 本人は気付いていなかった―――
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