「?」 今日も今日とて凌統に追われていた甘寧はふと足を止めた。 「やっと観念したか、甘寧」 「ちげーよ。おめぇ、あれ何に見える?」 甘寧の目線の先を追えば、そこには呆然と立ちつくす陸遜の姿があった。 「あぁ?お前、目まで悪くなったのか?」 陸遜だろう?と続けようとする凌統より先に、 「……あいつ、何泣いてんだ?」 とても小さく甘寧が言った。
あたりはもう黄昏時に程近く 仄暗い空はそこに立つひとの落胆や後悔、全てを表すかのように 次第に光を失っていく。
凌統には声をかけるのが躊躇われた。 「おい」 だが隣に立つ男は違ったらしい。 空気を読まないのか、はたまたその空気を打ち破る為か 立ちつくす陸遜の肩を掴んで揺さぶった。 「何があった?」 「何でも…ありませんよ」 ゆっくりと顔をあげて陸遜は微笑した。 その表情に甘寧も凌統も言葉を失う。
陸遜の本当の笑顔が極限られた場所で、極限られた人間にしか向けられないことは二人も知っていた。 それは二人が限られたその内側の人間だからだ。 けれど、この今の表情は……。
「ああ、いけませんね。少しぼんやりしていたらもうこんな時間ですか。 それで声をかけてくださったんですね?感謝します、甘寧殿」 「あ、……ああ」 痛々しいほど普通を装おうとする陸遜に二人はそれ以上言うべき言葉が見つからない。 「……おい、甘寧。…いくぞ」 「……わかってるよ」
何も訊かなくても彼がそうなった理由は、もう二人にもわかっていた。
夜に抱かれた新しい光が空に煌きはじめている。
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