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柚良
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ポツポツと音がして、それは次第に勢いを増す。
「わ、すごい雨」
自身の大きさに合っていない大き目の傘を差して、向かい風に負けじと歩みを進めていた。
それは確か、親しい友達の家に遊びに行った帰りだったかと思う。
その友達の母親は雨が雨が降りそうだと言い、少し大きいけどと傘を貸してくれたのだ。 途中まで送ってあげようかとも言ってくれたが負けず嫌いのオレは頑なに「いい。へいき」と言い張り、おばさんに困った顔をさせた。 けれどすぐに笑顔になって「じゃあ、また遊びに来てね」といつものように手を振るのである。 そして友達も「またあした、学校でね!」と笑って見送ってくれる。
それに笑顔で返して走り出し、晩ご飯が待っているだろう家に帰るのだ。
けど思いもよらず雨は強く降り注いだ。
それでも当時6歳のオレは借り物の傘をしっかりと握って歩みを進めた。 何度か飛ばされそうになりながらも家の近くにある公園まで辿り着く。
近道をしようとその公園を通っていると、突然強風に襲われてその場にしゃがみ込んだ。
「わぁッ」
あまりの風に思わず傘を手放してしまって、冷たい雨に打たれることとなる。 おまけに尻餅までついてしまい、ズボンの尻が泥で汚れてしまった。
「いってぇ…」
「……だいじょうぶ?」
「へ?」
声をかけられるとは思っていなくて、思い切り間抜けな声を出してしまう。 驚いて顔を上げれば、鳶色の瞳がオレを覗き込んでいた。
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「……、………」
んあ?
誰だよ、うっさいな…。
「おい、起きろ!」
「ぐはっ!」
人が寝ているというのに、容赦なく背中を蹴られて目が覚めた。乱暴だなと怒鳴るべきか、鳩尾じゃなく背中にしてくれてありがとうと感謝すべきか。そんなもの判りきっている。答えは「怒鳴る」だ。 痛みと戦いながらなんとか上半身を起こし、自分を見下ろしている人物を睨み付ける。
「っにすんだよ可憐ちゃんのバカ!痛いって〜の!」
今度は頭を膝蹴りされた。
「馬鹿は貴様だ。その呼び方はやめろといつも言ってるはずだが?」
うん、だってわざとだもん! そんなこと言ったら本当に殺されそうだから黙っとくけどさ。ぷんぷん!
蹴られた頭部を擦りつつ起き上がり、頬を膨らませる。
「オレだっていっつも言ってるじゃねーか!もっと優しく起こせよ!」
「貴様が登校時間になっても起きて来ないから叩き起こしているんだ。さっさと準備しろ」
確かに時計を見れば、やばい。五分で支度しても遅刻だ。いやそもそも五分で準備できるはずがない。 既に制服姿で鞄も持ち、素知らぬ顔で「先に行っているからな」などと言いながら部屋を出て行こうとする可憐ちゃん、もとい神坂憐を全力を持って引き止める。
「ま、待って待って待ってかれ…いや憐ちゃん!なんでもっと早く起こしてくれなかったんだよ!」
おかげで遅刻だろ!うあうああー。
だがしかし!嘆くオレ様の視界に想像を絶するものが飛び込んできた!
「お?憐ちゃん寝癖あるぜ?」
「はっ?嘘だろ、どこだ?」
「嘘じゃないって、ココだよココ」
そう言いながら憐ちゃんの後頭部を指すと、手で髪を撫でていた憐は「あ」と呟く。
ほっほ〜う、もしかして憐ちゃんも寝坊か。 でもそれをオレに知られたくなくて急いで支度をしてオレを起こしに来た訳だ。ふんふんふん。プライド高いねえ。 寝坊なんて誰でもするだろうにさ。だから気にせず、今度からはオレを先に起こしてくれ。オレ遅刻決定じゃん。
[21] 2007年02月17日 (土) 15時38分
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