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いつも、いつまでも。
柚良 棗(管理人)
いつだって愛してると言えたら、どんなに幸せだっただろう。




「アッシュ、聞いてる?」
突然声をかけられて、アッシュは驚いたように肩を震わせた。
本当はさっきからずっと話しかけられていたのだが、気がついていなかったらしい。
「え、ああ。なんだ?」
どこか上の空の返事をしながらも今度はしっかり聞こうと会話に集中する。
「…まったく、本当に聞いてなかったの?これじゃ困るんだけどね。
ま、いいか。アッシュ、アンタに任務があるよ。ホントにどうでもいい任務だけどね……」
シンクが心底呆れたように言った。
そんなにアホらしい任務なのかと思って気を抜いていると、アホらしいというか、唖然とするような内容が告げられた。
「老人のボランティア…つまり、タダ働きで奉仕活動をして来い、だってさ」

……………………はぁ!?



「なんで六神将のこの俺がボランティアなどと馬鹿げたことを…」
ブツブツと呟きながらも老人ホームと呼ばれる施設の広い廊下の掃除をしていた。
それにしても、本当にヴァンからの任務なのか疑うような内容だ。
だがシンクがこんな嘘を言うとも思えないし、事実なのだろう。
上からの命令は絶対だからこんなことをしているが、そうでなかったら絶対にやらないことだ。
普通の任務でさえ面倒なのにこれ以上くだらないことはない。
それに、今日は約束があった。
今日はシンクと出かける、ということになっていたのだ。
久々に仕事の区切りもついて、任務の予定もなかった。だから、息抜きに買い物でもしようと話していた。
だが、その予定もこのくだらない任務のせいで潰れたのだ。
「この屑がッ!ヴァンの野郎、邪魔しやがって…!!」
感情が抑えられずに思わず呟くと、たまたますれ違った老人がこちらを驚いた目で見ていた。
そんなことにも気がつかずに廊下の掃除を続ける。
この後は風呂掃除と食事の配給の手伝いをすることになっている。
早く終わらせれば時間はあまる。まだ昼にはなっていないし、シンクとの約束は2時からだ。
「チッ。なんとかやれば間に合うか…」
言い終わったところで一応一通り廊下の掃除は終え、今度は風呂掃除に取り掛かる。
廊下掃除については実を言うとまだホコリやゴミが落ちていたりして、大雑把すぎるくらい簡単にやっていたのだがそれに気づかずに終わらせてしまった。
風呂掃除の方も汚れが落としきれていなかったり、泡がまだついていたりと適当にも程があったが、これでも丁寧にやっているつもりらしい。
そして、そろそろ昼食の時間が近づいてきたので食堂へと移動し、食事の配給を手伝う。
だがそれも良く出来ている、とは言い難かった。アッシュ自身は全て均等にしているつもりらしいが全然なっていない。
隣でご飯をよそっている女性が苦笑しながらこちらを見ていたが、結局それにも気がつかなかった。

一応言われた仕事を終えて壁に寄りかかりながら休んでいると、施設の管理のおばさんが近づいてきた。
「アッシュさん、ご苦労様。もう帰ってもいいよ」
おばさんはそう言って、白い封筒を差し出した。
「…これはなんだ?」
「ヴァン様が昨日ね、明日は出かけるからお金を稼がせてやってくれって言いにきたんだよ。
アッシュさん給料日前なんだろう?そんなに入ってないけど持っていきな。働いてくれたお礼だよ。丁度人でも足りなかったしね」
そう言っておばさんはお金の入った袋をアッシュに渡して、また忙しそうに仕事に戻っていった。
「クソ、ヴァンの奴…余計なことしやがって!
確かに金欠気味ではあったが誰も頼んでいない!……シンクに何か買ってやれる、という面では感謝しているが…」
文句を言ったり感謝したりと勝手なことばかり言っているが、本当は凄く感謝していた。
それも、封筒の中には以外にも結構入っていたからだった。
どうせ老人ホームなんてそんなに自給は良くないだろう、と思いながら封筒を開けて本気で驚いた程だ。
「まぁ、とにかく後は待ち合わせに間に合うように急ぐだけだな…」
封筒をポケットに突っ込んで、待ち合わせの宿屋の前に急ぐ。
シンクには任務が終わり次第急ぐ、とは伝えてあるが来ているだろうか…という不安が胸を過ぎる。
待ち合わせ時間を5分過ぎてしまったが、なんとか宿屋前には到着した。
「……いない、か…」
急いで仕事を終わらせたにも関わらず、そこにシンクの姿は見当たらなかった。
アッシュは目に見えて落ち込み、肩を落とす。
「やっぱり…来ないよな、普通。約束を破られたようなものだしな……。
いきなり任務を告げたヴァンも悪いが、それは俺を気遣ったもので………でも、断らなかった俺も悪いしな…」
そこで、誰かの声が割り込んできた。
「なにやってんの?」
アッシュが驚いて振り返ればそこにはシンクの姿があった。
「え……お前、どうして来た…?」
「アンタが来いって言ったからでしょ?それとも、来なくても良かったわけ?」
シンクはアッシュの発言が気に障ったように眉を寄せたが、それよりもアッシュの様子がもの凄く挙動不審で可笑しかったらしく口元に笑みを浮ばせている。
「い、いや、そんなことはないが」
珍しく笑っているシンクの姿を見て今までの自分の言動がどんなに傍目から見て変だったかを覚り、慌てていつもの顔に戻す。
「…それで?何を悩んでたわけ?さっきから一人でブツブツ言ってさ」
「な…ッ!見てたのか!?」
「見てたも何も、アンタみたいな不審者なんてすぐに目に入るよ」
「…………そんなに、怪しかったか?」
アッシュは恐る恐る、といったふうにシンクに訊く。
そのアッシュの様子を見てシンクは一度鼻で笑い、問いに答える。
「うん、すっごくね」
目に見えて沈んだアッシュに向かってシンクは、元気付けるように話しかける。
「でも、ボクのこと考えててくれたんでしょ?…聞こえてた。
……ほらっ!買い物行くんじゃなかったの?早く行こうよ。行きたいところあるからさ」
シンクの気遣いに感謝しながら、なんとか立ち直って気を取り直す。
「ああ、そうだな。……あとシンク、この事は誰にも言うなッ!宿屋の前で変質者みたいな行動してたなんて言うんじゃねぇぞ!!」
念を押して言うアッシュを見ながら、先程の優しさは何処へ行ったのやら、シンクは仮面の下から見える口元を僅かに歪ませて笑った。
「…ふぅん……どうしようかなぁ?」
試すようなその口調は、アッシュの態度しだいで皆に言いふらす、という事らしい。
「余計なこと言うなよッ!…今日は、お前の好きなもの買ってやる。それでいいな!?」
半分自棄になって言ってから、後で後悔した。
「上出来だよ。じゃ、買い物付き合ってよね。高いもの買わせてやるからさ」
「おい、あまり高いものは買えないんだぞ!?金がないんだ!」
シンクは容赦なく、アッシュの必死な言い訳も軽くかわして言い包める。
「さっき働いて貰ったでしょ」
「だから…そうじゃねぇ!」
「何が違うの?結構な額入ってたんでしょ?嘘吐いても無駄だよ」
「いや……だから…理由があるんだよ!」
段々と焦ってきているアッシュを不思議に思って、問い詰めるのをやめる。
「……なんかあったわけ?財布掏られたとか?」
「んなヘマするわけねぇだろ!」
「じゃあ何さ?理由があるんでしょ?話してよ」
「お前に……金使ったんだよ」
「は?まだ何も買ってもらってな――」
シンクが言い終わる前に、アッシュは小さな箱をシンクに付きつけた。
「…何、これ?」
「いいから開けてみろッ!」
「あ……うん…」
アッシュに怒鳴られて不満に思いながらも、箱を開けた。
「…え、アッシュこれって?」
「………特別だぞ。限定品だ」
「なんでこんなものくれたのさ。指輪なんて…」
シンクが開けた箱の中には指輪が入っていた。それも、限定品で数の少ないものだった。
「気が、向いただけだ。そんなに滅多にプレゼントなんてしないぞ!
それに、指輪なら格闘技を使うお前にも邪魔にならないだろう」
赤くなった顔を隠すように横を向いたアッシュを意外そうな目で見ながら、シンクは指輪をはめてみる。
「……ぴったり、だね」
「当たり前だ。お前の指のサイズくらい知ってなくてどうする」
「普通は知らないでしょ」
疑わしい視線を向けてくるシンクから慌てて視線を逸らし、話題を変える。
「…とにかく、早く店を回るぞ!日が暮れる!」
「はいはい。わかったから走らないでよ。それに、まだ昼間だし」
シンクは、その場から逃げるように走っていくアッシュを苦笑しながら追いかけていった。





+あとがき+

うわぁ終わり方微妙だとか言わない、言わない。
途中で力尽きたって感じ?いやいや、ネタがないながらも頑張ったほうですよ。
ちなみに、どの指に指輪をはめたっていうのはご想像にお任せしますよ。
個人的にはシンクだったら人差し指かなー、と思いましたけど。









おまけ。


「…で?なんで指輪なわけ?」

「いや、まぁ……その…」

「ブレスレットとかペンダントとか他にも色々あったでしょ?

ていうか、アクセサリーから選ぶのがまず間違ってるよね」

「別にいいんだよ!限定品だしな」

「限定品ならなんでもいいってわけじゃないよね」

「……それはまぁ…気に入ったんならいいじゃねぇか」

「気に入ったとは一言も言ってないけど?」

「……………」←沈黙

「よく考えてから選んでよね (気に入らなかったとも言ってないけどね)」






[13] 2006年03月21日 (火) 18時56分



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