| [7] 二つの体 08/23(Fri) |
- 匿名 - 2016年05月28日 (土) 08時17分
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| [8] 二つの体 08/23(Fri) |
- 匿名 - 2016年05月28日 (土) 08時18分
二つの体 08/23(Fri) 赤褐色の岩肌に緑は無い。小国ほどの巨大な岩山。 山肌には張り出した異形な突起が複数あり、 山の中腹に向けては細長い石橋の様な物が続いく。 この赤い燃えるような奇岩山を背に、 裾野に向けて濃淡のある美しい緑地が広がっている。 斜面に沿って変わり行く、赤から緑のコントラストの美しさ。 羊の群れが見える。 ぽつり、ぽつりと立つ家の煙突から夕げの煙がこぼれている。 家路を急ぐ少年達。 洗濯物を片付ける女達。 引き締まった自然の色合いの上、人々はのどかに生きているようだった。 この緑豊かな田園都市に、かつて誇り高き民族が住んでいたなど、誰が知っていようか。 まして、それ以前の勇者達の記憶など…… やがて日が去り、闇が来る。
私は二つの器を持って、この麓の町にある中規模な学校へ来ていた。 この平和そのものの町で、何が起こっているというのだろう? 毎度のことだがろくな説明もなく、目覚めるとそこに居たというわけだった。
ああ、違う…… 私は言葉を改め、つなぎなおすべきだろう。
我々「精神体」が覚醒させられるのには、それ相応の手順を踏んでいるのだ。 覚醒には記憶混乱が伴うのだ。 目覚めは三つの段階に分かれている。
第一段階の覚醒では、 その歴史に関わる諸問題について全ての関連情報が開示されている。 (ちなみに問題の多くは、古代文明などを核とする「失われた時」に関するものである) 多くの精神体が、その公開情報に制限なく接続する事が出来る。 その中で興味を持った精神体、あるいは制御体から推薦を受けた精神体が、 諸問題に対して、解決策を提示する。 その中から、適任者が選び出されるというわけだ。 選ばれた適任者たる精神体は、より自然な形での任務遂行のために、 殆どの情報を消去される。
第二段階の覚醒は、情報削除が終った段階で訪れる。 今の私の状態がそうだろう。 手元には必要最低限の情報、この問題を解決するために適当とされる登場人物情報、 「キャラクターデータ」しか残っていない。 現文明にとって超常的な「失われた時」関連の問題の解決について、 我々「精神体」は極力人間として接する事が望まれている。 超常的な現象を超常的に解決した所で、 現文明に与える精神的驚異が二倍になるようなものであろう。 我々「精神体」は、登場人物情報に基づいて作成された器に入り込み、 その人物を演じながら、問題の解決に当たるのである。
第三段階の覚醒は、第一、第二覚醒と違い、じわじわと揺り起こされるものである。 問題にかすり、確信に近づいて行く時、 徐々に「何をすべきか?」という意識が目覚めていくのだ。 これは、第一覚醒で適任者とされた「精神体」が提示した解決策、そのものだ。
特定の器を持たない我々「精神体」にとって、思考は命である。 目覚めのたびに記憶混乱を引き起こすのは、 我々がかつて特定の器を持っていた証だとも言われているが、 そのあたりは定かではない。
とにかく、私が第二覚醒中らしい事は分かった。 目の前にある人物データは、二つある。 双子の姉妹という設定だ。
不思議だな。スペアの器というわけではないのか? 二つの器を同時に動かす必要が何処かにあるのだろうな。
私は目の前に流れていく、学生としての日常生活を片手間で処理した。 現文明の人々にとっては数ヶ月に相当する時が、 私が瞬きする間に矢の様に過ぎていく。 友人も出来、クラスにも馴染んでいる。 おかしなことに、片方の器がどうしても不調で、私の精神が上手く入り込めない。 双子の妹の方には、いつの間にか初期設定には無い項目、 「病弱」というものが付け加えられてしまった。
私は焦った。 まだ、じわじわと来るはずの、第三段階の目覚めの兆候が無いのも気になる。 出来る限り情報を集め、問題の核心に触れようと、私は姉の器を駆使した。 そして姉の器までもが私の精神を受け付けなくなってしまった。
制御体に連絡を取るべきなのか?
思考を彷徨わせる私の目の前で、ベッドで横たわっていた器の一つが目覚めた。 妹の方だ。接触を試みる。 今までの拒絶が嘘のように、砂が水を吸う様に、精神が硬い器の隅々に行き届く。
学校へ行こう。
私は器から何かを感じ取って、学校へ向かった。 久々に登校してきた妹に、姉の学友達が群がった。 殆どの会話は、人々の思い入れとは無関係に、早送りしてこなしてしまえる。 だが、一言だけ引っ掛かる言葉が発せられた。
「部活まだ入っていないでしょう?」 「うん」 私はとっさに答えていた。 「じゃあ案内してあげるよ」
姉の友人だという少女は親切に、「病弱な」妹向きの部活動を紹介してくれた。 時を早送りする。 それは、美術部で起きた。 高い窓と、絵の具の匂い。 思考の枝に込み上げてくる予兆。 案内をしてくれた少女と美術部の部員達と歓談する頃には、 私は、また時間を瞬きで飛ばしていた。
操りの糸が切れた様に、家に帰ると妹は倒れ伏し、ぴくりとも動かなくなった。 だが、明けて朝、妹は私の精神をはね付け、動き出した。 人間ならざる動きだった。 凄まじい早さで、紙に絵を描きつけていた。 絵の具をたっぷりと筆に取って、画面に叩き付ける様に描いている。 そして妹は倒れた。
私は動きそうな姉の器を操り、妹と偽って学校へ出向いた。 授業を飛ばし、放課後に集中する。 美術部の部室の中で、部員達にスケッチを見せる。
赤い山の王国の絵。 まつりごとの絵の中に、落馬する男の姿。 帝。その隣に男の姿。 占星術士と男。 宝剣を持ち、赤い岩肌の中腹に掛かる橋を渡る男。 突き出た三頭の奇岩。
情報の断片が、物語によって繋がれた瞬間だった。 物語は二つあった。 一つは、今より数百年前の王朝の物語。 身分の低い野心家の男が、度胸と知略とで、 大臣の位まで成り上がっていく様を描いた物語だった。
まつりごとで、自分だけを嫌悪するよう仕込んだ馬に乗り、 わざと群衆の前で落馬して見せる。 さして騒がなくても、対抗勢力の仕業と噂が立ち、 調査に乗り出した者達の手によって、叩けば出る埃を溜め込んだ輩は、 自然と淘汰されてしまった。 そして、はじまるもう一つの物語。 低い身分から伸し上がった男は、時のスターであった。 山に掛かる橋、その花道を、剣を携えて練り歩く男。 本来は、勇敢なる者のみが歩くことを許された道だった。 今や、そのルーツを知ることも無い人々の手で、 華やかな就任式典へとその意味を変えたこの祭りで、男は過去を垣間見る。
かつてここは勇者の集う国だった。 世界に無数に存在した、形持つ悪意や嫉妬の怪物を、 勇者と呼ばれた人々が退治し、この赤い山へと封印しに来るのだ。 突き出た奇岩の数々が、岩に閉じこめたのだ異形の悪魔と知った時、男は錯乱した。 三つ頭の奇岩が、男を見下ろしていた……
私は、絵から浮かぶ二つの物語を思考の中央で押さえ込み、 引き伸ばして何度も反すうした。 最後の絵、三つ頭の奇岩が、焼き付く様に熱く、印象に残っている。 その絵を考えるうちに、思考の枝先で弾け飛ぶような感覚が起きた。
あの三つの奇岩は、最後まで抵抗を続けた双頭の銀の龍と、 それを打ち止めた巨大な剣の束である。
私は唐突に思い出した。 二つ頭。冷酷な鏡の四つ目。どう猛な二つ口。 全身を銀色の鬣で覆う銀の魔龍。
あいつが目覚めようとしているんだ。 封じの剣の効力が消えて。 それで、あの残虐な銀龍を倒さねばならないのだ。 二つ頭を同時に。 だから双子だったのか!
第三覚醒が来ていた。 家で横たわっていた妹の方の器が動けるような気配を見せている。
さて、どうしたものか?
視野を町全体まで拡げ、私は思案に暮れた。 思界の端で、男達が鍬を振るい、女が鶏に餌をやっていた。 「精神体」は、これからの作業が楽しいのだ。 第一段階で出した自分の解決プログラム、 それを推理しつつ、競い合い、さらに良き解を獲るための実践。 最良の解を目指して、私は思考を活性化させた。
この夢は、ごく最近に見た夢です。 「精神体」や「制御体」、高度技術の古代文明…… 時の向こう側の計り知れない文明を感じられて、 わくわくしてしまう夢でした。
夢の殆どの部分は学校で過ごしていた様な感じなのですが、 時間の感じ方が違って、ものすごく早く時が過ぎてしまうので、 学園生活自体は全く楽しめませんでした。 双子の姉妹は二つ結いで、可愛らしい感じの人だったと覚えています。
「精神体」が推理した「二つ頭を同時にやるために双子なのだ」という解釈は、 私が目覚めた時に持っていた感覚なんですが、 今思い返すとどうにも違うような気がしてなりません。 姉、妹、どちらの器も、上手く起動していないようなので、 姉妹の体を駆使して、あの双頭の銀龍と戦うという事は無いでしょう。 姉妹は戦士ではなく、「精神体」を拒絶し、 過去と同調するシャーマンの様な役割かと思います。
だとすれば、勇者としての器は「精神体」の知らない所にいるのでしょうね。 きっと、学校の中に目覚めを待っている少年少女がいるのでしょう。 姉妹と眠れる勇者さんが早く会えるといいなあ、と思います。
今夜も素敵な夢が見れますように。 続きの夢を見れればまた……

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