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[5] 孤立の塔 08/15(Thu)
匿名 - 2016年05月27日 (金) 06時08分

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[6] 孤立の塔 08/15(Thu)
匿名 - 2016年05月27日 (金) 06時09分

孤立の塔 08/15(Thu)
幾筋にも絡みつく魔の海流に、ゆるりと囲まれた南海の孤島。
そこにそびえ立つ、巨大な紫水晶の塔。
天空域まで届くこの塔は、大陸からもその不思議な姿を目視できる程巨大であった。
塔の存在を誰もが知っていた。そして、あらゆる種類の憶測が飛び交っていた。
にも関わらず外海域の誰一人として、塔の真の姿を言い当てるものは居なかった。
真実を確かめようと、無謀にも孤島に近づく船は、ことごとく嵐によって打ち砕かれた。
嵐は自在に動き回り、船だけを襲った。
それゆえ、その孤島の紫の塔には魔物が住むと思われていたのだった。
私もそうした憶測を胸に秘めていた探究者の一人だった。
貧乏学者である私には、家庭もなく、定職もなかった。
会計士として船に乗り、傍ら旅記などを綴って、わずかばかりの銀貨を得る。
冒険風の航海日誌をつけ発表したこともあるが、それなりの評判だった。
その生活が苦しくもあり、楽しくもあった。

だが、そんな私に乗船の話が来た時には、いよいよだなと思った。
魔の海域へ向かうという、その絢爛豪華な船を見上げ私は驚いた。
呆然としている私を捕まえて、顔なじみの港男が言った。
「まるで城が水に浮いてるみたいだろ?」
その男も、夢見心地な惚けた顔をしていた。
その後、船長が私に簡単な経緯を説明してくれた。

どこかの瀕死の大金持ちが、親族どもの遺産目当ての争いに嫌気が差して、
全財産つぎ込んでこの豪華な船を造ったという事。
財産を一文たりとも親族に渡したくないので、
自分の命があるうちに、この船を粉々にして欲しいと言う事。
ただ粉々にするのはつまらないので、何か派手なプランを練って欲しいと言う事。

「で、魔の南海の孤島へ、紫の塔を拝みに行くことになったわけだ」
船長は涼しい顔をして言った。
「此れ程のデカイ船だ。
 あの生きた嵐にバラされたって、誰かは生き残るかもしれんだろう?
 だから、詰め込めるだけの人を乗せて、行くつもりなんだ」
なんとも豪胆なことを考える人物がいたものだ。
できる限り島に近づいて、難破して、漂着を狙うなんて。

こんな馬鹿馬鹿しいような無謀な旅に、多くの男達が集まった。
パッとしない人生を送ってきた者同士、
「いよいよ人生を変える運命と命を懸けて向き合うんだろうな」
という妙な連帯感もあって、船旅は快適だった。
それでも、食料と水が帰りの分まで用意されているらしい事を聞いて、
甲板に括りつけられたボートの数を数えた後は、少し安心した。

「降りたい者はいつでも降りていいぞ」という、
船長らの仲間割れを警戒した発言も、私の心を軽くした。
向こう見ずな英雄的行為への憧れと、小心者の打算とで私の心は揺れ動いていた。
心を確かにこれと何かを決めないままに、流れるままその場所へ着いてしまった私は、
やはり英雄にはなれないのかもしれない。

魔の海流は一見して穏やかな海だった。
その異常さを知ったのは、入り込んでからだった。
水がまったく波打たないのだ。
船は確かに進んでいる。
しかし、どんなに速度を上げても周囲に波はたたなかった。
ゼリーを切っているようなものを想像してもらいたい。
絵画のような静寂の美の中で、誰もが生命に関わる恐怖を感じ取っていた。

島が近づくと、嵐が生まれた。
その内部に何かを隠しているような紫の塔も、激しい雨とひどく濃い霧とで隠され、
十分に堪能する間はなく、同乗していた絵書き達を嘆かせることとなった。
生きた嵐は容赦なかった。
生きたというのは全くもって正解だった。
船だけを覆うその雨雲も、船だけを覆うその霧も。
ちゃんと顔がついていて、憎悪の眼でこちらを睨みつけていたからだ。
絵書き達は化け物を描くはめになった。
かくゆう私も、半狂乱になりながら、化け物の特徴に筆を走らせていた。
唯一の救いは、その化け物があまり私の方を見なかったことだった。
あんな熟れた果実のような濡れ光った真っ赤な目で見つめられたら、
私は本当に狂ってしまっただろう。

恐ろしい程の揺れにも関わらず、船はすぐには転覆しなかった。
それが船員達の恐怖を増長させた。
意味のない何事かを叫ぶ者、
衣服を脱ぎ捨て海に飛び込む者、
自分の体を傷つける者が現れた。
私も限界に達していた。

隣でうずくまり吐き続けていた男が突如立ち上がると、
力いっぱい私を殴りつけ筆とノートを奪った。
甲板に倒れた私を見もしないで、その男は一心不乱にノートに向かった。
どこかおかしくなりながらも、私は男の書いた文字を見た。
ひどい綴りで読めなかったが、家族の名前を順番に書いている事が分かると、
乱れていた心が落ち着いた。
予備のペンを胸元から取り出すと、私は手帳にありのままを書き綴った。
激しい揺れで床にぶちまけられた酒瓶の中に座り込み、
なぐり書いたメモを瓶詰めにする。

生きた嵐は、なかなか船が沈められないと知ると、
雲で出来た右手と霧で出来た左手を伸ばして、器用に船を引き裂き始めた。
風が人間味溢れる唸り声を発する。
その切れ間切れ間に、船体を引き剥がす破壊音と、仲間達の悲鳴と怒声が聞こえる。
ばらばらにされた船の一部とともに、仲間達はゼラチン状の海に叩き込まれていた。
海水は水ではなく、ドロドロとした弾力があるもので、
魚のように水と親しんできた港男達でも、到底泳ぐ事は出来ない。
取り込まれてぐったりとしている幾つかの人影を見て、私は目を反らした。
私も同じ運命をたどることだろう……

早朝の浅い日の光を受け、暗褐色の刺々しい岩肌は、所々紫に光っていた。
美しい輝きとは裏腹に、険しく切り立った絶壁の形は、触れる者には大層残虐であった。
表面は大小さまざまな岩刺だらけで、触れる者があればその血を好んで良く吸った。
刺に手や足を掛けられないよう、大きな刺には小さな紫の刺がびっしりと生えている。
この人の手が加わったのかと思う程、
巧妙な姿の血吸いの崖に小さな影が蠢いていた。

傷だらけの白い手が、血を滲ませながらも岩の突起を選び取って掴み、
泥だらけの白い足が、足場を探しては頼りなく動いて、何度も宙をもがいている。
ボロ布を体に巻き付けただけの一人の長髪の少女が、
刺の鋭さに押されながらも岩場を降りていた。
体勢を何度か崩したが、その事がたまたま岩場を滑り降りる助けになり、
彼女は両膝と両腕を擦りむき、手の平を深く抉りながらも、
目的の場所へ降り立つことが出来た。

ほんの小道程度にしか幅を持たない狭すぎる砂浜に着くと、
彼女は首を伸ばして降りてきた岩場をしばらく見上げた。
その後、彼女はくまなく岩場の根元を探索した。
すぐさま、ネズミ返しのように張り出した岩の下に眠る男の姿を見つけた。

少女は、男を包むドロリとした海の細胞をむしり取った。
微かに男の睫毛が震える。
痣のある頬がひきつれ、その目が明くかと思うと、
少女は宙に小さな魔方陣を描いて、小さな睡魔を呼び出し、
男の頭に取り憑かせてしまった。
頭に睡魔を張り付かせ、夢現の状態になった男は、
焦点の定まらぬ目で、少女の顔をぼうっと眺めていた。

間もなく、少女を探す一団が崖の上に現れ騒ぎだした。
怪鳥が引き出され、崖の下へ飛び立ち少女を救出する。
怪鳥の背に少女ともう一人の人影を認め、一団は驚いたが、
数日前に雲様と霧様が現れたという話になって、
男が船に乗って魔の海流を渡ってきたに違いないと、皆の意見が一致すると、
騒動はすっかり納まり、話題は少女の奇行への説教とに切り替わっていった。

「血吸いの崖を降りようなんて!
 しかも、その様な裸同然のお姿で!
 爺がどれほど、心配したことか!」
老人が、少女と睡魔憑きの男と怪鳥を乗せた荷押し車に向かって、
大声で泣き叫んだ。
少女は素知らぬ顔でいたかと思うと、
突如にやにやと閉まりの無い笑みを浮かべたりして、
おおよそ聞いているとは思えぬ態度で、周囲を呆れさせた。
「可哀想になあ、老師も……」
「あの聡明な姫さまが、すっかりおかしくなっちまったんだもんな……」
荷台の揺れに頭を打ち付け、男から睡魔がぽろりと落ちた。
少女が男にだけ分かるように手を差し伸べた。
少女の手の動きに誘われて、男は目線を動かした。
その視線の先に……

紺碧の天空までそびえ立つ紫水晶の山のごとき巨大な塔。
半透明のその内側には、無数の壁と無数のフロア。
水槽のように水をたたえた外壁には、大小様々な魚群の影が悠々と泳ぎ周り、
その水壁の向こうには、階段状に発達した街らしきものも見て取れた。
目を凝らせば、生活のための凝った調度品と、人々の蠢く姿さえ見つけられた。
男は驚愕し、身を乗り出そうとしたが、
少女が取れた睡魔をひょいと引っ掴んで、男の頭にぐいぐい押し憑けたので、
再び夢の中に引きずり込まれてしまった。

少女の更なる奇行に、泣き声で老人が注意した。
「姫さま、だめですじゃ。そのように怪我人を扱っては!」
他の人々には見ることが叶わぬ睡魔とじゃれ遊んでいた少女は、
病的な狂ったような目つきで、口をひどく大きく開けて叫んだ。
「この者を、私にくれ!」
「わかりました。そのように計らいましょう。  その代わり、爺に内緒で城から勝手に出たり、地階へ潜ったりしないで下さいよ」
老人が半分泣きながら頼み込むと、少女はけたたましい声で笑った。
荷台は少女のヒステリックな叫び声を乗せ、紫水晶の塔へ入っていった……

男はやがて目覚め、知るだろう。
記憶の海に落した情報と引き変えに、彼には知る権利があるからだ。
紫の水晶の塔の中には立体的に削り出された不思議な街と城が存在し、
そこに実に四つの王族と数千人の人々が暮らしているのである。
外海の歴史から切り離されたこの孤島は、天まで届く紫水晶の塔を滴る、
天空の聖水に守られた小世界である。
この島が何のために作られたのか。
そしてその秘密を探るために、精神の均衡を狂気に傾けつつある狂姫……
男は水晶の塔を溯り天を目指し、姫は闇を求めて地階の底へと堕ちていくのだった。



この夢はあまりにも長すぎて、うまくまとめることが出来ません。
実際に夢で見た紫水晶の塔の美しさ、あのオーロラを纏ったような、不思議な雰囲気は、
とても言葉では伝えられません。
水晶壁は何重にもなっていて、中は水で満たされているのです。
大きな竜宮の使いのような魚や小魚の群れが優雅に泳いでて、水族館みたいでした。

夢の中での私の立場は、狂姫半分、流れ着いた男半分、と言ったところでした。
姫は真実を探るために、地下階に潜って魔界と取引してるんですが、
爺やさんを泣かしてばかりで心配でした。
流れ着いた男が、海細胞に記憶を吸い出される前に書いたメモ入りの小瓶を、
なんとか回収できると、話が進みそうですね。

続きを夢見ることが出来れば、また……



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