昔、大阪の朝日放送ラジオ「フレッシュ九時半! キダ・タローです」という番組のゲストとして、ひばりさんが来られ、いろいろ興味深い話をされたことがあった。たとえば「私のバック・オーケストラは腕がいいだけじゃだめなんで、私の肩の動きを読んでリズムを取ってほしい--- そうお願いしています。」こう話された。
美空ひばりという歌手、やたらに肩を振る、変な人だ ---- そう思っていたので、それを聞いて成る程と納得しました。
もっとも小柄なひばりさんが肩をゆすって歌うのは、やはり、あまり格好のよいものではなかったが---。
番組の最後にキダさんがひばりさんに「いま一番欲しいものは何ですか?」と質問されたが、その答えを聞いて感動しました。
ひばりさんは、何のためらいもなく即座に「ヒット曲」と答えたのです。「今一番欲しいものはヒット曲ですね --- 」。
聞いたキダさんも、まさかそのような答えが返ってくるとは夢にも思っていなかったようで、長い沈黙がつづきました。
なんという素晴らしい人だろう --- 美空ひばりといえばもちろん誰よりも多くのヒット曲をもった歌手です、「歌の女王」といわれ自分の曲だけで、何時間でもつづくショーを開ける人です。その人が「今一番ほしいものはヒット曲」という --- それは今の自分にはヒット曲がないということを率直に認めることです。
美空ひばりという歌手のイメージ、多くの人が「女王」と呼ばれ、不遜でプライドの高い歌手と思っていただろう --- 私もそう思っていました。しかし、実際はひばりさん自身はまったくそんな人ではなかった、「人はいろいろ言う --- 言うにまかせておけ --- しかし私はそれとは違う --- 」多分、こう考えておられたのではないだろうか?
これと同じ質問をいまの歌手にしたら、はたしてどんな答えがかえってくるだろう ---
「いま一番ほしいものはヒット曲」と答えられる歌手が何人いるだろう。