| [23] あまいはなし |
おお振り - 2013年01月31日 (木) 00時15分
「あー!!」 水谷の絶叫に、巣山は思わず目を瞑った。 ある程度、予想はしていた。けれども予想はあくまで予想でしかない。巣山が予想出来る範囲などたかが知れていて、水谷は大抵そうした範囲をいとも容易く飛び越える。 「ああああああああ!!!」 物凄い顔をしている。口を開けっ放しにして、大袈裟なくらい指を震わせている。 「なんで見つけてんの!?」 「なんでって。探したから」 「なんで探すの!!??」 「着ていくからだよ」 「着ていくってどこに!!??」 「仕事」 「わあああああああ!!!!」 仕事、の「と」の字に被せるように、更なる大音響。 耳を押さえたくなるのを堪えて、代わりに巣山は水谷の額に、軽く拳を当てた。 閉めきった部屋の中とはいえ、あんまりな大声は近所迷惑になる。 「しょーがないだろ。っつか、前から言ってただろ」 「仕事なんかなくなっちゃえばいいんだよ!」 「怖いこと言うなよ。失業したら大変だろ」 「巣山を出張させる会社なんかなくなっちゃえ!」 「お前は俺をそんなに失業者にしたいのか」 溜息を零しつつ言うと、水谷は何か言いたげにもごもごと口を動かし、けれどもそれ以上は何も言わず、ぷうと膨れてそっぽを向いた。
──やれやれ。
押し入れに隠されていた服を抱え直す。 ついでに空いていた手で、わしゃわしゃと水谷の頭を撫でた。 「次の週末も、ちゃんと帰ってくるから」 「──辛いラーメン、一緒に食べてくれる?」 「わかった」 「そのあとケーキも食べたい」 「……わかった」 聞いただけで何となく胃もたれを起こしそうだ。まあでも、いざとなったら水谷が2人分のケーキを食べるだろう。
「ちゃんと飯食って、朝もちゃんと起きるんだぞ」 「コドモ扱いすんなよ!」
ますます膨れた水谷を横目に、こっそりと、巣山は笑う。胸のうちだけでそっと。
──ああ、甘い甘い。
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