| [21] きみの、おんど |
おお振り - 2012年10月05日 (金) 20時16分
不意にコツン、と重みがかかる。 たったそれだけでドキンと跳ね上がった心臓が、声になって漏れそうな気がして、大慌てで口を手で塞いだ。 (ふ、…う、…お、) ガチガチに固まった体で、どうにか少しだけ動かせば、さらさらとした黒い髪が見える。 (……!!!) ゆらり、ゆらりと不規則に揺れる髪……というか、頭。ゆったりとした呼吸は静かで、体勢は決して安定していないのに、それはとても穏やかで。 (あああ、あ、あ、阿部君、が、) 自分の肩に頭を預けて、眠っている。 すう、と、気持ち良さそうな寝息が聞こえて、また変な声が上がりそうになった。 ガラスの向こうで鳴く、セミの声も気にならない。 冷やしすぎるのは体に良くないから、少し高めに設定されている冷房の温度は、部屋の温度をキンと冷やすには全然足りなくて。 そんな中、触れ合った所がじわじわと熱を上げていく。 (…う、ど、どうし、たら、) 変に動いて起こしてしまったら、と思うと、体がビキッと固まってしまう。 息をするのさえ憚られる。そーっと、そーっと、浅い息を吸って、吐いて、吸って……。 「……ッ、ぷは!」 息苦しい。 堪えられずに大きく息を吐くと、その拍子に肩口から「う…ん、」なんて声が聞こえてくる。 (ああああ、あ、阿部、くん!) 初めて聞いた声に、心は数メートルも飛び上がっていた。
ドクドクドク、とうるさい心臓の音。 起こしてしまわないだろうかと気がかりだけど、邪魔にならないのか聞こえる寝息は変わりない。 じわり、と伝わる体温はほんの少し高くて、つられて自分の目元も何となく暑くなる。 (…そう、いえば、) 彼がこうして、まるで全部預けたみたいに眠ってるのなんて、初めてのことだ。 いつもは、頼るってよりは頼られる方で。それを当たり前みたいに、どっちも思っていて。 気をつけるのも、世話を焼くのも、全部。 「……へ、へへ、」 口を片手で覆って、笑った。腹の底から、嬉しさがこみ上げてくる。動けないし騒げないから、でも何もしないままではとてもいられないから、ほんの少しだけ外に出す。 大好きな人が、自分の傍で安心してくれている。 またひとつ、新しい幸せの味を覚えた気がした。
ガラスの向こうに広がる空は、雲ひとつなく、真っ青だった。
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