| [2] Good Night,Baby |
ONE PIECE - 2012年10月04日 (木) 21時45分
港に寄ったからといって、いちいち町で寝泊りする必要はない。 だが常日頃が船の上、波に揺られて船室で眠る日々であるから、たまの陸地には何となく心が躍る。その必要がなくてもついつい、港町の適当な宿で一泊しがちになってしまう。 サンジは割と船に残る方だったが、今回は食材の買い込みが終わらなかったので、そのまま町で寝泊りすると決めた。 一旦船に帰っても良かったが、町に泊まれば買出し作業が早くから始められる。その分、船にも早く戻ることができる。 他のクルーと違い、戻った後にもあれこれとやる事を抱えているサンジは、故に翌日の作業時間をより多く獲得する為に、省ける手間は出来る限り省きたいと思っていた。 ハンモックよりは広いベッドの上で、久々にゆっくり眠りたい気持ちも勿論強かったけれど。
適当に選んで入った宿は、価格も手ごろ。設備も手ごろ。高級とか豪勢とかからはかけ離れているが、一晩眠るにはこれくらいで充分だ。 バスルームも清潔だったし、ベッドの具合もちょうどいい。 あちこちを歩き回ったほどよい疲れをほんの少し残したまま、サンジはぼすっとベッドに倒れこんだ。 スプリングは少々硬い。しかしサンジの重みをしっかりと受け止めて、それなりの弾力を伝えてくる。 うつ伏せに横たわったまま、サンジは、次第に濃さを増す眠気にうつらうつらとなりながらも、明日の買出しルートを考えていた。 どこまでいっても根っからの料理人。加えて仲間の台所を預る身だ。下手は打てない。 それにしてもこの町はなかなかにアタリだった。見て回ったそれぞれの店で並んでいた食料は、鮮度も良かったし種類も豊富、オマケに値段も良心的とあっては文句のつけようがない。 (…まずはじめにあの店行って…それから……) とろりと落ちた目蓋を開けられないまま、手探りで器用にランプの火を消す。 即座に訪れた暗闇に包まれて、サンジの意識もそのまま落ちていった。
今日は皆がそれぞれ好きに出歩いているから、朝食の支度は必要ない。 それでもいつもと同じ時間に目が覚めてしまうのは、職業病というやつだろうか。 日が昇るよりずっと前に目を覚ましてしまったサンジは、布団に包まれたまま、ほわ、と欠伸を漏らした。 今から起きたってどの店も開いていない。それ以前に自分の朝食も侭ならない。 (……寝るか) こんな時くらい、少々寝汚く過ごしたって罰は当たらないだろう。 寝ている間に少しばかり固まってしまったらしい手足をぐっと伸ばし、二度寝を決め込むべくごろりと寝返りを打って、 「…………」 閉じかけた視界に、サンジは驚くべきものを見た。 昨夜自分は、確かにひとりで泊まったはず。連れがいるなんて話もしていなかったはず。眠りに着く瞬間までひとりだったはず。 だというのにどうして。 「…………」 ひとつ布団に収まって、ルフィが寝ているのか。 どうやって入ってきたというのだろう。部屋に鍵は掛けたはず。窓からか。ルフィなら出来ない話ではないだろうが、窓が開きっぱなしになっている気配はない。部屋に入った後、きちんと閉めるなんて芸当がこの男に出来るだろうか。しかもサンジが起きないようにそうっと、なんて。 (……ま、いっか) 一旦は起こしかけた頭を、サンジは枕へと力なく落とした。 眠い。とにかく眠い。早起きしなくてもいいのに無駄に起きてしまうのは嫌だ。甲斐甲斐しく起きて動き回るのは船の上だけで充分。 なにより。 (……あったけえし) まるで幼い子どものように体温の高いルフィ。抱き枕とするには筋肉質でゴツゴツとしすぎだが、布団の中に置いておく分には心地いい。どうしたわけかルフィの寝相もいいようだし、邪魔になってくれば自慢の足で蹴り落としてしまえばいい。 もぞ、と布団に潜り込んだ時、ルフィが夢うつつにサンジを呼んだ。 寝言だ。 どこかたどだどしい口ぶりで、「メシィ〜…」と声を漏らしている。 半ば眠りかけながらそれを聞いたサンジは、しょうがねえなと微笑んで、 「……あとで、な……」 夢の中へと、消えた。

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