| [19] 放課後 |
おお振り - 2012年10月05日 (金) 20時14分
ずい、と突きつけられた腕に、若干腰が引けた。 いきなりだぞ、いきなり。 力いっぱいじゃないにしろ握った拳が目の前にドン、だ。 大抵のヤツは驚くだろ。
「……なによ」 「ボタン」 「は?」 「ボタン。取れそう」 「……で?」 「ソーイングセット持ってんじゃん」 「貸そか?」 「なんで」
なんでってアナタ。 俺の溜息にも動じない年下のタメは、俺らのほかには誰もいないことも手伝って、いつもの万倍傍若無人だ。 ま、いーんですけど。いつものことだから。 もっかい溜息をついて、カバンからソーイングセットをあさる。 そして見てみれば、なるほど確かに、今までくっついてたのが不思議なほど、袖口のボタンは今にも取れて転がってしまいそうだ。
「こんななる前に直しとけよ」 「アンタやってくれっからいーじゃん」
どうでも良さそうな口ぶりに、じわっと頬が熱くなる。 何言ってくれちゃってんのオマエ。 新しい糸でボタンを縫いとめながら、バレないようにこっそり視線を上げると、眩しそうに夕日を見ている泉も赤くなっていた。
……ま、しゃあねえ。 こんでカンベンしてやらァ。
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