| [15] ツレないアナタ |
おお振り - 2012年10月04日 (木) 22時43分
小兵のクセに、なのか。小兵だから、なのか。 一体どこで練習しているのかと聞きたくなるほどに正確無比な泉の足払いをマトモに受けて、浜田はものの見事にひっくり返った。 うーん我ながらゲイジュツテキ? 咄嗟に頭を庇った腕が痺れたみたいに痛いけど、お陰でコブは出来ないだろうしまあいいや。 ……いや、状況はあんまり宜しくないわけなんだけども。 見本のようにコケた浜田の腹に、さも当然の顔で泉が乗っかってくる。 いやオカシーからそれ。 イジメ?もしかして俺イジメられてんの? 足払いキメて、相手ぶっ倒して、そいつの上に馬乗りとかって、アレよ。俺らの年がもっと下だったらフツーに親飛んでくるレベルだからマジで。 じんじんと痛む腕をさすりながら、浜田は「んもー、」と口を開いた。 「泉オマエね。年上にコレはないんじゃねーの」 「ダブリのくせに年上もへったくれもないだろ」 「いやダブリ関係ないし。ダブリでも何でも俺のが年上だし」 「うるせーよ浜田のクセに」 ……キサマはジャイアンか。 浜田の腹の上で、泉はもぞもぞと体を動かしている。体というか、尻だけど。座り心地のいい場所を探しているみたいな、動き。 「……なあ、そろそろどいてくんない」 女の子相手じゃないんだから、座り心地なんて悪いに決まってるのに。つか、女の子相手にコレやったら鬼だけどな。さすがのコイツもそこまではしないと思うけどな。 「るっせ。アンタこそいい加減ハラ決めたら」 「ハラってなに」 「……こんなんなってて、まだ分かんねえの?」 ベストポジションを見つけたのか、動きを止めた泉がそのまま一気に体重を掛けてくる。うっかり内臓を押さえつけられて、浜田の口から奇妙な声が漏れた。 「色気も何もねえのなー」 「アホ!体重掛けるなら掛けるって言えよ!」 「体重掛けた」 「事後報告なぞ要らんわ!」 「ワガママだなー浜田は」 「ワガママって!クソ、オマエもいっぺんやられてみろ!」 そんで自分がどんだけ妙な事を口走ってるか、思い知ればいい! 泉のあまりの言いように、こちらも負けじとがなり返す。 すると、泉は心底不思議そうな目つきになった。 ……あー、そうしてっと可愛いのになあ、まだ。 「何で俺がやられンの?」 「いやいやいや、オマエね、その質問おかしいから」 「だって、やんのは俺じゃん。決まってンじゃん」 「……一応念の為に聞いとくけどね。───何を?」 「セックス」 間髪入れない回答に、浜田は天を仰いだ。いや、視線はさっきから天井を仰ぎっぱなしだけれども。 思わず意識が遠くなりそうだ。 ホント、まだまだ充分カワイコちゃんなのに、何でこんな言葉をポンポン言うようになっちゃったんだか……。 はー、と息を吐いて、浜田は両手で泉の腰を掴んだ。 自分より細く、さすがに現役野球部員とあって引き締まっている。柔らかいとかってのは正直全くないわけだけど、嫌なカンジはしない。 そのまま、掛け声と共にぐっと半身を起こした。 この体格差をナメんなよ。泉くらいのが相手なら、ハンデやってもいいくらいなんだから、こっちは。 腹の上の重しをものともせず起き上がると、バランスを崩した泉はちょっとばかり慌てながら後ろに傾ごうとする。 ──意趣返しに手を離してやってもいんだけどね でもそれじゃ、今度は泉が頭ぶつけるかもしれないから。それじゃあんまり可哀想だ。 片手だけど腰から離して、その手で倒れそうな背中を支えてやった。 お、何かコレって抱きかかえてるみたいなカンジ? ちょっとドキドキしそう……って、ンなわけねえか。 「……っ、危ねえな!いきなり起き上がんなよ!」 「オマエねえ、いきなり人に足払いかけたヤツの台詞かよ、ソレ」 「あいた!」 意趣返しはこんでいいや。 デコピンを一発お見舞いしてから、浜田は泉の髪をぐしゃぐしゃとかき回してやる。今度は浜田の足の上でじたばたし始めた泉だが、浜田がその気になって抑え込みにかかっているのでどうする事も出来ないようだった。 バカじゃないんだからいいかげん分かればいいのに。体格差はそのまま力の差になって表れちゃうんだから。 「いたいいたい!暴力反対!年上のクセに年下イジメんなよ!」 「最初にソコんとこブッチしたのお前だろ!」 「お前までつられてブッチするなよ!」 「意味わかんねえし!大体な、こんだけ体格差あんのに向かってくるとかオカシーだろ!」 やれやれ、なんて今にも言ってしまいそうな口調で、それでも手の力をちょっとだけ抜いてやる。 すると泉は、ほんの少しだけ浜田から体を離して、ぼそっと告げた。
「ンだよ。俺が本気になったら困るクセに」
……え?

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