| [13] 藪をつついて |
おお振り - 2012年10月04日 (木) 22時33分
このままじゃダメだ。
風呂から上がったばかりの湯気に包まれながら、巣山は重々しく頷く。 いつも何故か分からない間に水谷に圧し掛かられているが、……いや、そんなに言うほど回数があるわけでもないが、とにかく何だか水谷に主導権を握られている気がするのだ。 そりゃ確かに、自分はいつも受け入れる立場ではあるけれども。 そこに異存があって仕方ないというのでもないけれども。
今も若干戸惑いは残っている。 なんでわざわざ同性相手にと思う事だってある。 水谷だって別にモテない訳じゃなし、寧ろ女の子ときゃいきゃい言ってるのが似合ってたりもするし。 なのになんでまた──と、それはいつまで経ってもきっと巣山には解けない謎。 ただ、そういった戸惑いや不思議さに右往左往する時期を、幸か不幸か巣山はもう抜けてしまっていた。 腹を括った、と言うか。 絆されているだけかもしれないし、それこそ水谷の勢いに呑まれているだけなのかもしれないけれど、それでもいいと決めたのは巣山自身であるのだから。
──だからこそ。
寝室のドアを開けると、いつも通り、ベッドの上には水谷がいる。 ぶんぶんと尻尾でも振りそうな勢いで、満面の笑顔で、毎度毎度寸分違わずこれほど喜んでもらえるというのは、幸せなことなんじゃないだろうか。 水谷の辞書には倦怠期とかマンネリとか、きっとないのに違いない。 あいつにはそもそも、マトモに登録されてる日本語自体が少ないんじゃねえの、なんて、阿部あたりは断言してしまいそうだが。
「わーい巣山ー!コッチコッチー!」
変わらない水谷に、巣山はごくんと唾を飲み込んだ。 水谷が変わらないのなら、自分が変わるしかない。 判で押したように常に水谷が主導権なんて、それはさすがにどうだろうと思ってしまったのだから。 自分だって男なんだし。 立場の逆転とか逆襲とか、そこまでは考えてないけれど、たまには水谷を翻弄してみたいじゃないか。
「……巣山?どったの?お腹でも痛いの?」
きょとん、と首を傾げた水谷を見やって、巣山はその肩にそっと手を掛けた。 ぐっと力を込めれば、巣山よりうんと薄い体は簡単に倒れる。ふわふわの髪が乱れて、見上げてくる水谷の顔が何だか幼い。 ──アレ? ふっと胸に過ぎった感覚に、巣山はぱちりと瞬きをした。
アレ?なんか、俺。もしか、して。
後日。 「あん時の巣山チョーかっこよくてさー!いつもかっこいーけどもー格別って感じでさー!俺、もちょっとで目覚めるかと思ったよー!」 きゃいきゃいと三橋に語る水谷の姿があったとか、なかったとか。

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