| [12] ひとつの、しあわせ |
おお振り - 2012年10月04日 (木) 22時31分
ふわあ、と。 思わず口をついて出たらしいあくびに、水谷の目は釘付けになった。
だって、それはとっても珍しい光景なのだ。 いつも自分よりうんとしっかりしている巣山が、まるで自分みたいに気の抜けたあくびを人前でする、なんて。 珍しい。 珍しい。 思わずガン見していると、さすがに気がついたらしい巣山が、目尻を指でこすりながら「ゴメン」なんて言う。
「今日提出のレポートがてこずってて…明け方くらいまでかかっちゃって」 うわ。だったらいつもと同じ時間に起きてこなくてよかったのに。 「…したら、何か5日間休校になるっつって、提出も休み明けでよくなって」 そうそう。俺が教えてあげたんだよね。ガッコしばらく休みみたいだよーって。 タチの悪いインフルエンザのせいで、ガッコだけじゃなく活動自粛しろって連絡が入ったのは、巣山が部屋から出てくるちょっと前だった。 俺が最初に話した時の巣山のカオ、かわいかったなー。眠そうなのと驚いたのが混ざってて。 「気、抜けちゃって、…」 あ、また。 ほわって。 よっぽど眠いんだなー。ってか、疲れてんのかな。きっとそうだよね、ずっとレポート書いてたんなら眠いのに決まってる。 「……ゴメン」 「いーよ謝んなくったって!オレ怒んないよ?」 「うん、けどさ、なんか、」 どこかぼーっとしてるみたいな巣山が、それでも俺に何か話そうとしてくれてる。 眠いし疲れてるのに。 ぱちぱちと何度か瞬きをして、でもすぐにぼうっと力が抜けて。 カーワイイ。 「…水谷のこと、どーでもいいとかじゃ、ねえから」 「ハイ?」 「どーでもよくて、だからあくび連発してるとか、そんなんじゃねえから…でも、なんか、なんか……こう、」 え?エ?何?何の話になってんの今?
座っててもゆらゆら揺れてるのが危なっかしくて、俺は慌てて巣山の隣に座った。 隣ってあんま好きじゃないんだけど。顔見にくくなっちゃうし。 でも、こやってもたれあったり出来るのはウレシイかな。 思い切ってエイって巣山の肩を寄せると、巣山はそのまま俺にもたれかかってくれた。 くっついた体はほかほかと暖かくて、あーこりゃーむちゃくちゃ眠いな、巣山。 このまま一緒に寝ちゃおっかな。
「……一緒だと、安心するっつか、なんか」
ふわん、とした声で、そんな事言うなんて反則なんじゃないかな。 だって巣山が超眠いの分かってるから、俺は何にも出来ないってのに。
──仕方ない!
暖かい巣山を抱えなおして、俺は勢いよく後ろに倒れ込んだ。 夏用に換えたばかりの薄い敷物の上、ごろんとだらしなく転がって。 「…み、ずたに?」 「もう寝よう!どうせ5日間は活動自粛だもん。今日くらいだらだらしてていいって!」 「んー……」 背中をぽんぽん叩いてやると、巣山はますます眠そうな声を出す。 もうほとんど寝てるんだろうけど、腕の中で何度か体を動かして、それはまるでちっちゃい子が親にくっつくみたいな感じで。 いつもしっかりしてる巣山が、いつもゆるゆるの俺にこんなに甘えてる、なんて。
いつの間にかすうすうと寝息を立て始めた巣山を抱えて、俺の口からもあくびがひとつ。 幸せを分け合って、とりあえずは一緒に眠ろ。

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