| ルソーと福沢の対話。天皇永続の原因と意義【15】天皇は一般意志を守ったから1500年以上つづいた (一) (15860) |
- 日時:2025年11月21日 (金) 22時20分
名前:政治思想マニア
天皇は一般意志を守ったから1500年以上つづいた(一)
ルソー 「それにしても…話を振り出しにもどすようですが…私はまだ信じられません。」
福沢 「何が信じられないのですか?」
ルソー 「一つの家系が120代以上も『一般意志』を維持してきたということです。これは、世界の歴史を見るかぎり信じられないことです。」
福沢 「そうですか。」
ルソー 「もし福沢さんのご説明を信用するならば、『なぜ世界の王家のなかで天皇家だけが1500年のあいだ120代以上も続いてきたか』という問題に対する解答は簡単です。正解は、『歴代天皇が一貫して一般意志を維持してきたから』です。」
学生 「そうかなあ…」
ルソー 「それ外にありえません。あると言うのならば、遠慮なく言ってください。」
学生 「そう言われると困るけれども…。」
ルソー 「ここで天皇に関する私の理解を、一般意志とからめて申し上げましょう。まず、私は先ほど申したように、最初は『最高の国家』を目指しました。『最高の国家』とは、『国王と国民が同じ利益や幸福を求める君民共治の国家』です。それは『中公版』の100頁に書いてあります。岩波文庫の『人間不平等起原論』ならば10頁です。
龍馬 「ふむ…。」
ルソー 「それで……ここから先は誰も言っていないことですが……実は、その『最高の国家』は、日本でいうと天照大神が子孫に地上建設を命令した理想国家と同じものなのです。なぜならば、天照大神の神勅は、実質的に、『天皇と国民が同じ利益や幸福を実現する平和な国家を創れ』という命令であったから…です。」
福沢 「ふむ。」
海舟 「なるほど…。」
ルソー 「しかし残念なことに、私の『最高の国家』は実際には不可能です。不可能である理由は、国王と国民が別の人間であり、国民の間でも利害が衝突するからでした。このことも同じ頁に書いてあります。」
学生 「ふむ。ここまでは僕にもわかる。」
ルソー 「…それで、それと同じ理由で、天照大神が子孫に建設を命令した日本国も、実は、人間が実現することは不可能です。なぜならば、どれほど神武天皇が立派な天皇であっても、天皇が国民全員の利害を完全に一致させることは不可能だから…。だから、残念ですが天皇の利益が国民全体の利益と完全に一致することはありえません。」
福沢 「う~む。」
海舟 「残念だが、そうなる。」
ルソー 「それで私は次善の策として『社会契約論』を書きあげました。つまり、『一般意志を遵守する社会契約』による新国家建設を理想としました。その核心部については既に説明したとおりです。それで…実は…その核心部が日本では『神武建国の詔』であったのです。『神武建国の詔』は日本的な社会契約である…。これも既に説明した通りです。」
福沢 「ふむ。」
海舟 「なるほど。たしかに。」
ルソー 「もっとも…ここで細かいことを申すようですが…私の社会契約と日本的社会契約は、異なる性格を持っています。たとえば、私の社会契約は、『対等の人民が契約を交わして、契約が横に広がる構造』になっています。それに対して日本の社会契約は、『上の天皇が最初に契約(約束)して、その契約が下の人民に広がる構造』になっています。」
海舟 「ふむ。」
ルソー 「このような構造上の相違点が『ルソーの社会契約』と『日本の社会契約』のあいだにあるけれども、どちらも、『国民全体のためになる国家』を創ることを目的として約束(契約)が交わされた。この意味で、『神武建国の詔』は、『日本的な社会契約』でした。」
龍馬 「なるほど。…たしかに二つの社会契約は、同じ目的を持っているが、広がり方が違っている。」
福沢 「ルソーさん。ルソーさん。ここでルソーさんの話の腰を折るようで恐縮ですが、なぜルソーさんの社会契約が横に広がり、それに対して日本の社会契約が上から下に広がったのですか…。これは、先ほど私がルソーさんに尋ねた内容です。だから、この理由を説明していただけませんか。」
ルソー 「わかりました。今から説明しましょう。」
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