| ルソーと福沢の対話。天皇永続の原因と意義【13】日本は天皇陛下をいただく君民共治の独立国 (15858) |
- 日時:2025年11月21日 (金) 22時10分
名前:政治思想マニア
日本は天皇陛下をいただく君民共治の独立国
福沢 「ところで…ここで話を振り出しにもどすようですが。ルソーさん。…たしかルソーさんは、「国王がいない共和国が良い。」と主張していらっしゃったはずです。ルソーさんは、国王がいる君主国を否定して、国王がいない共和国を肯定していらっしゃいましたよね。」
ルソー 「はい。そうです。」
福沢 「しかし日本の天皇は、欧米の目から見れば国王です。」
ルソー 「もちろん。」
福沢 「そうすると、ルソーさん。ルソーさんは天皇がいる日本国を否定するはずです。しかしルソーさんはここまで天皇と日本国を否定していない。これはルソーさんの論理矛盾ではないでしょうか。」
ルソー 「いや。違います。それは福沢さんの誤解です。」
福沢 「誤解…?」
海舟 「しかしルソーさんは君主制の国家を認めず、共和制の国家だけを認めたではありませんか。」
ルソー 「それが誤解だと申しているのです。」
学生 「あの…。お取り込み中にすみませんが、君主制とか共和制とか…。それは何ですか?」
龍馬 「あちゃ~。またこいつは…。」
海舟 「おまえ。まだいたのか。はやく日本へ帰れ。」
学生 「そう言われましても、時間と空間を飛び越えることができないもので…。へへ。」
福沢 「う~ん。学生君。簡単にいうと、『君主制』とは国王がいて、その国王が国を治める制度のことだ。それに対して、『共和制』とは国のなかに国王が存在せず、国民全員で国を治める制度のことだ。ついでに言うと、『貴族制』もある。これは少数の人間が国を治める制度のことだ。」
海舟 「おい。学生。僕が説明をつづける。よく聞け。今から福沢さんがおっしゃった内容をおまえに説明してやる。 (1)ルソーさんは昔から国王がいる君主制の国を認めず、『国王がいない共和制の国が良い』と主張していらっしゃった。 (2)しかし日本の天皇は欧米の人から見れば国王だ。だから日本は君主制の国になる。日本が君主国だから、ルソーさんは天皇と日本国を否定しなければならない。 (3)それなのにルソーさんは、今、半信半疑ながらも天皇を高く評価しておられる。これはルソーさんの論理矛盾ではないのか。 …と、福沢さんがおっしゃっているのだ。」
学生 「なんだ。そんな簡単なことですか。それならそうと言ってくれれば良かったのに…。」
龍馬 「ばかやろう。大西洋と太平洋を泳いで日本に帰れ!」
福沢 「こら。学生。これ以上私に恥をかかせたら、慶應義塾大学退学のうえ幼稚舎への転入を命じる。」
ルソー 「ちょっと待ってください。福沢さん。海舟さん。私は矛盾していません。みなさんが私の考えを誤解しているだけです。」
福沢 「誤解している…?」
海舟 「それならば、ルソーさんはどのように考えていらっしゃるのですか?」
ルソー 「私はたしかに君主制の国家を否定し、共和制の国家を肯定しました。しかし、私にとって最も大切なものは一般意志です。一般意志が実現している国家ならば、それが君主制の国家であっても私は肯定します。その反対に、一般意志が実現していない国家ならば、それが共和制国家であっても私は否定します。なぜならば、それは外見が共和制だが単なる利己主義者が集まった国家にすぎないのですから。」
海舟 「ふむ…。」
福沢 「ルソーさんはそのことをどこかで言っておられるのですか?」
ルソー 「もちろん私の『社会契約論』のなかで言っています。」
龍馬 「式神。証拠を持ってこい!」
式神 「へい。『中公版』の261頁に、『私は共和政という言葉で、貴族政あるいは民主政を理解するばかりでなく、法をなす一般意志によって指導される政府を全般的に理解している。…そうなれば、君主政さえ共和政なのである』と、書いてあります。」
龍馬 「ふむ。」
式神 「次に『岩波版』の60頁です。『この(共和的という)言葉によって、わたしは、貴族政または民主政だけを意味しているのではない。一般に、一般意志――すなわち法——によって導かれるすべての政府を意味している。…この場合、君主政そのものさえ共和的となる』と、書いてあります。」
福沢 「ふ~む。」
龍馬 「知らなかった…。」
海舟 「すべての日本人は、『ルソーは君主制国家を否定して、共和制国家だけを肯定した~』と思い込んでいるのに…。」
ルソー 「だから二流三流のルソー研究者には困るのです。私にとっては大変な迷惑です。」
福沢 「う~む。そうすると、日本はルソーさんが考えている『理想の共和国』だということになりそうですね。」
ルソー 「そうなります。日本は、完璧ではありませんが世界で最も理想的な共和国です。」
福沢 「ふ~む」
龍馬 「う~ん。…しかし日本には国王と思われる天皇がいるのに、『日本は共和国だ。』というのは奇妙だ。」
福沢 「そうは言っても、その天皇は、国民と激しい対立や闘争を行ったことがない。天皇は常に国民全体の幸福と平和を願い、行動してきた。」
海舟 「だから、『天皇と国民は一つだ』ということになる。すると、『日本は共和国だ。』といっても間違いではない…。」
学生 「なんだか変な理屈になってきた。」
龍馬 「おや…。バカにもここまで理解できているのか。これはめでたい。」
福沢 「龍馬さん。わが慶應義塾にバカはいません。」
龍馬 「これはどうも。失礼いたしました。」
海舟 「そもそも、『日本は君主国なのか共和国なのか。一体どちらなのか。はっきりしろ。』という大前提がまちがっているのかもしれない。」
福沢 「そうなのだ。海舟さん。大前提がまちがっているのだよ。今の日本国憲法と同じだ。」
海舟 「今の憲法と同じ…?」
福沢 「今の憲法は第一条で『国民主権』を宣言している。これは天皇と国民を分断させて、『日本は天皇主権なのか国民主権なのか。一体どちらなのだ。はっきりしろ。』という考え方に立つ宣言だ。」
海舟 「ふむ…。」
学生 「しかし塾長。明治憲法(大日本帝国憲法)は『天皇主権』だったのでしょう。」
福沢 「ちがう。明治憲法の中に『天皇主権』という言葉はない。そもそも明治憲法は『主権』という言葉を使っていない。明治憲法を制定した人たちは憲法の中に『主権』という用語を含めることを避けたのだ。」
学生 「なぜ避けたのですか?」
福沢 「簡単にいうと、憲法の中に『天皇と国民との対立』という意識や論理が入ることを避けたかったからだ。」
学生 「はあ…?」
龍馬 「福沢さん。もう少し詳しく説明してください。」
福沢 「もともと『主権』という言葉は、欧米で『最高性』とか『最高権力』とかいう意味を表わすSovereigntyの翻訳語だ。この言葉は、ヨーロッパの国内で教会と国王が対立したり、国王と国民が対立したりしたときに、『私はお前よりも上だ。おれのほうに正当性がある。おれの権利権力が最高だ~』と言って、自分が勝つための道具に使われた言葉なのだ。」
学生 「へえ…。」
福沢 「ところが日本では天皇と国民が争ったことがほとんどない。だから明治憲法は、『天皇と国民の対立』を前提とするような『主権』という言葉をまったく使っていない。憲法を制定した人たちが避けたのだ。」
学生 「なるほど。」
海舟 「それなのに日本が太平洋戦争で負けた翌年、GHQのマッカーサーがどういうつもりか知らないけれども今の憲法草案に『主権の存する国民』という言葉を盛り込んで、日本政府に『これで行け。さからうことは許さん~』と命令した。」
学生 「その話は聞いたことがある。なるほど。」
海舟 「その結果、今の憲法は『国民主権』ということになっている。」
学生 「なるほど。なるほど。」
福沢 「今の憲法の『国民主権』は、たとえていうと長いあいだ仲良く暮らしてきた夫婦の家に突然入ってきた欧米の人間が、『夫婦というものは『亭主関白』か『かかあ天下』か、どちらかに決まっている。今から俺が決めてやる~」といって、むりやり押し付けたようなものなのだ。」
学生 「ようするにマッカーサーは馬鹿だったのだ。」
龍馬 「おまえ。人のことを言えないだろう。」
海舟 「だから……話をもどすけれども……やはり『日本は君主国なのか共和国なのか。一体どちらなのか。はっきりしろ。』という大前提が間違っているのだ。」
龍馬 「そうだ。天皇と国民とは一体だ。」
福沢 「…しかしネ、龍馬君。天皇と一般国民との間には決定的な違いがあるのだよ。」
龍馬 「決定的な違い?…何ですか。それは。」
福沢 「天皇は初代の神武天皇から必ず、『国家と国民全体の幸福』を祈り、行動しなければならない。なぜならば、初代の天皇が国民とその約束を交わしてしまったからだ。ルソーさんの言葉で言うならば、初代の神武天皇が豪族たちに、『これから天皇は一般意志を守ります』と約束してしまったからだ。
龍馬 「え…?」
福沢 「それに対して、一般国民に『一般意志に従う義務』はない。ルソーさんの論理に従うと、たとえ自分の親が、『私は一般意志を守ります』と宣言して約束(契約)を交わしても、そのことと子供の意志とは無関係だ。子供は親の約束と関係がない。子供は一般意志を拒否する自由を持っている。これは明瞭な論理的事実だ。この事実は、『天皇の、一般国民に対する特殊性』を表している。」
龍馬 「なるほど…。」
福沢 「しかし、その特殊性を『けしからん。』と言って怒る日本人はいないだろう?」
龍馬 「いないでしょうね。」
福沢 「それどころか、日本人は1500年間その特殊性を維持し続けた天皇家の努力に感謝するのではないか?」
龍馬 「おそらく今後も感謝するでしょう。」
ルソー 「そこなのですよ。龍馬さん。」
龍馬 「おっ…。ルソーさん。なんとも唐突ですね。」
ルソー 「これは失礼しました。…しかし竜馬さん。そこを考えてみてください。福沢さんがおっしゃった、『天皇家の、一般国民に対する特殊性』は、視野を世界に広げると、日本国の、他国に対する特殊性でもあるのです。なぜならば、初代の国王から一貫して国家と国民全体の幸福を祈る責任を負った王家など、日本以外には存在しないからです。」
龍馬 「なるほど。」
海舟 「ふむ。ふむ。たしかに。」
ルソー 「だから……天皇をむりやり国家論の中に持ち込むと、日本は君主国なのか共和国なのか、よくわからないことになってしまうのですが……私の用語を使って日本の国柄を強引にまとめるならば、日本は『天皇陛下をいただく君民共治の独立国』なのです。」
福沢 「あ…。なるほど。」
龍馬 「うむ。確かにそうなる。ルソーさんは、さすがに鋭い。」
海舟 「う~む。そうすると、日本は天皇陛下をいただく君民共治の独立共和国とも言えるだろう。…それでルソーさん。ここで念を押しますが、この独立共和国は、ルソーさんが理想とする、一般意思に指導された共和国ですね?」
ルソー 「もちろんです。そうでなければ話になりません。」
龍馬 「そうか…。日本は天皇陛下をいただく君民共治の独立国家なのだ。」
海舟 「おう。そう言えば思い出した。私は幕末のころに幕臣だった。しかし心のなかでは、『もはや日本国のために徳川幕府をつぶしても止むを得ない』と考えた。今思うと、そのとき私は未来の日本を、『天皇陛下をいただく君民共治の独立国』として構想していたのだ。あのころ私は智恵者の横井小楠と話をして、横井からその構想を得たのだった。だからこそ私は御一新のあとに福沢さんからしつこく批判され、『痩せ我慢の説』をぶつけられながらも明治新政府に協力したのだった。」
福沢 「その節はどうも…。」
海舟 「いえ。どういたしまして。…そうだ。今の日本は、『一般意思を遵守する天皇陛下をいただく君民共治の独立国』の初心にもどらなければならぬ。」
学生 「そうだ!」
海舟 「自分の金もうけしか考えていないような日本人を叩き直さなければならぬ。」
学生 「そうだ!」
龍馬 「今の日本には自分の出世や金もうけしか考えない人間が多すぎます。」
学生 「そうだ!そうだ!」
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