| ルソーと福沢の対話。天皇永続の原因と意義【12】天皇は一般意志のシンボル (15856) |
- 日時:2025年11月20日 (木) 22時23分
名前:政治思想マニア
天皇は一般意志のシンボル
ルソー 「それでは私の方から福沢さんにうかがいます。」
福沢 「はい。なんでもどうぞ。」
ルソー 「おたくの国の国王の話にもどりますが、おたくの国王は本当に国民全体の平和と幸福を願って行動してきたのですか?」
福沢 「そうです。」
ルソー 「『そうです』などと当たり前のように…。福沢さん。あなたは『そうです。』と簡単におっしゃるが、それならば、天皇は私が主張している『一般意志』そのものですよ。」
福沢 「そうですか。」
ルソー 「『そうですか』などと、また鈍いことを…。」
福沢 「そんなに驚くものですかね。…今まで私が申してきたことは、少し天皇のことを勉強している日本人には当然のことです。だから私は明治31年に『帝室論』を書いて、『日本国民が皇室と対立したことはない』と断言した。そのとき、だれも私を非難しなかったものです。」
学生 「へえ~。そうだったのか。」
龍馬 「きさま。慶應の学生のくせに知らなかったのか。」
海舟 「式神。すぐに福沢さんの『帝室論』を確認しろ。」
式神 「へい…。明治31年(1898)に時事新報社が発行した『福澤全集巻五・帝室論』の1頁から5頁にかけて、
帝室(皇室)は政治社外のものなり…帝室の尊厳とその神聖とを乱用 すべからず。…日本国の人民がこの尊厳神聖を用いて直に日本の人民に 敵したることなく、また日本の人民が結合して直に帝室に敵したること もなし。吾輩は…わが帝室の一系万世にして、今日の人民がこれ(帝室) によりて以て社会の安寧を維持する所以(事情)…を了解して疑はざる ものなり。 https://dl.ndl.go.jp/pid/89873...
と、書いてあります。」
海舟 「よし。」
ルソー 「ほう…。これはおどろいた。福沢さん。このときの日本人は福沢さんの主張に反対しなかったのですか?」
福沢 「正面から反対してきた人は、ほとんどいませんでした。」
ルソー 「信じられない…。」
福沢 「ルソーさんが信じられなくても、それが事実です。」
ルソー 「ふ~む。…しかしまだ疑問があります。日本の天皇は1500年以上のあいだすべての天皇が国民全体の平和と幸福を第一に考えて行動してきたのですか?」
福沢 「少数の例外はあるかもしれませんが、ほとんど全員が同じです。」
ルソー 「誰かそれを証明した人がいるのですか?」
福沢 「126代すべての天皇について証明するのは不可能です。なぜなら、神武天皇は半分が神話の世界の人ですから。…しかし古宮春人という人が育鵬社から 『和歌で読みとく。天皇と国民の歴史』という本を出して、かなり論証しています。」
ルソー 「具体的には、どのような事実をあげて論証しているのですか?」
福沢 「たとえば、政治権力を喪失しただけでなく経済基盤力も失って大変な貧窮状態にあった後花園天皇(第102代)の御製を紹介しています。」
ルソー 「御製とは何ですか?」
福沢 「天皇が作った定型詩です。それはこの歌です。『よろづ民うれへ無かれと朝ごとに 祈る心を神や受くらむ』」
ルソー 「それはどういう意味ですか?」
福沢 「『すべての国民の不幸がなくなれと毎朝祈る私の心を、神は受けてくださっているだろうか』という意味です。」
ルソー 「え?…金も権力もない天皇が全国民の幸福を祈る歌を詠んでいたのですか?」
福沢 「はい。その歌を詠んだことは間違いありません。」
ルソー 「信じられない。そんなこと私はとても信じられない。そもそも金も権力も失った国王が平然と生きているだけでも信じられないのに、その国王が国民全体の幸福を祈っているなどと…。福沢さん。その歌は偽作なのではありませんか。」
福沢 「そんなことを言われても…」
龍馬 「式神。証拠を持ってこい!」
式神 「へい。…列聖全集編纂會が大正4年10月13日に発行した『御製集』第四巻の268頁に、後花園天皇の御製としてこの歌が掲載されています。インターネットのurlが、 https://dl.ndl.go.jp/pid/94530... です。」
ルソー 「とても信じられない…。」
福沢 「ルソーさん。このような歌はたくさんあります。政治権力を失った鎌倉時代からあとの時代に生きた天皇は、このように政治と国民生活を心配する歌をたくさん詠んでいるのです。」
ルソー 「その事実を、どういう本が紹介しているのですか?」
福沢 「今もうした『和歌で読みとく。天皇と国民の歴史』という本です。」(と、さりげなく宣伝)
ルソー 「それは実に貴重な本です。ぜひ世界中の人々に読んでもらいたい。」(と、ふたたび宣伝)
式神 「あの~。これもついでに。」
ルソー 「なんですか?」
式神 「その本には書いてないけれども、同じ後花園天皇が、このような歌も詠んでいます。『曇らじな天つ日つぎのいや継ぎに 守り来にける神の御国は』。このurlは、 https://dl.ndl.go.jp/pid/94530... です。」
ルソー 「福沢さん。この歌はどういう意味ですか。」
福沢 「この歌は倒置法で詠まれているのですが、普通の語順でいうと、『天照大神の霊を継いでいる天皇が次々と皇位を引き継いで守り続けてきたこの神の国は、これからも曇ることがないだろうよ。』という意味です。」
ルソー 「え?…そうすると、この二つの歌を詠んだ後花園天皇にとって、『神の国』とは『すべての国民の憂い悩みがなくなった国』だということですか?」
福沢 「そうなります。」
ルソー 「しかも後花園天皇はそのような国が実現することを本気で祈っていた…ということですか?」
福沢 「そうです。」
ルソー 「信じられない。とても信じられない。福沢さん。福沢さんもご存じのように、私は王権神授説と戦いました。私が戦った王権神授説は簡単にいうと、『人民に権利などない。国王が神の子孫であって絶対だ』という狂暴な思想でした。だから私は王権神授説と戦いました。」
福沢 「よく存じております。」
ルソー 「私のライバルであるイギリスのジョン・ロックも王権神授説と戦いました。ロックが戦った理由は、イギリスの王権神授説もやはり『神の子孫』を理由にして『神から与えられた国王の権利』ばかりを強調し、その反対に『人民の幸福』を無視する内容だったからです。」
龍馬 「なるほど。なるほど。」
ルソー 「ところが日本の王権神授はまったく違う。天照大神という神から国を治める権利を与えられた後花園天皇は『全国民の幸福が実現した国』を『神の国』と考えた。そして、その神の国が実現することを本気で神に祈った。 ヨーロッパと日本とでは、国王が同じように『神の子孫』を自称しても『神の国』の内容がさかさまです。」
学生 「なるほど。」
ルソー 「しかも何と…。何とその後花園天皇は当時の権力集団から政治権力を奪われただけでなく、経済基盤も失って大変な貧窮状態だった…。金も権力もない国王などいるはずがない。それなのに…。私は何が何だかわからなくなってしまいました。とても物を考えることが出来ません。このままでは、私は気が狂ってしまいそうです!」
福沢 「そのように叱られても、私が悪いわけではない…。」
ルソー 「あ…。これは失礼しました。たしかに福沢さんのせいではありません。…しかし、それにしても、福沢さんのご説明は、欧米の人間には信じられない内容です。いや。世界中の人間にとって信じられない内容です。それはそうでしょう。一般意志を守り続けた国王が1500年の間に一つの家系から126代連続して現れた…。そのようなこと、誰にも信じられない。」 福沢 「そうですか…。」
ルソー 「福沢さん。よいですか。ヨーロッパの昔の国王のなかにも、そのように国民全体の平和と幸福を第一に考えて行動する国王はいました。一般意志を実現しようとした国王がいました。しかし、そのような国王は時々あらわれただけです。福沢さんがおっしゃるように連続して、しかも一つの家系から、一般意志を維持する国王が1500年も連続して現れたなどということは考えられません。」
龍馬 「しかし、あったものはあったのだから仕方がない。」
ルソー 「龍馬さん。あなたたち日本人は驚かないのですか?」
龍馬 「何を?」
ルソー 「一般意志を維持する国王が1500年以上のあいだに一つの家系から126代も連続して現れたということを。」
龍馬 「そう言われると奇妙な気もする。」
学生 「たしかに奇妙かも…。」
ルソー 「日本人は今までこの事実を知って、誰も驚かなかったのですか?」
龍馬 「べつに驚かなかった。なあ。低能。」
学生 「別におどろきませんね。」
ルソー 「日本人はみなバカなのではありませんか。」
龍馬 「なんだと?」
学生 「まあまあ。話しあい。話し合いで…。」
龍馬 「それでは貴様に何か意見があるのか?」
学生 「ございます。」
ルソー 「何でもどうぞ。」
学生 「日本に天皇制があるのは、日本がフランス革命のような民主主義革命を通過していないからです。」
龍馬 「思ったとおりだ。」
福沢 「ああ。私はこのようなバカを作るために慶応義塾を創設したのではない。」(涙)
ルソー 「学生さん。」
学生 「なんですか?」
ルソー 「学生さんは力一杯のバカですね。」
学生 「なんだと。」
龍馬 「まあ。まあ。話しあい。話し合いで…。」
ルソー 「学生さん。フランス人民は、フランスに日本の皇室のような王家がなかったから、王家から権力を奪うために革命を起こして100万人もの死者を出したのです。」
学生 「100万人…。本当に100万人も死者が出たのですか?」
福沢 「学生君。僕が説明しよう。最近の研究者の意見では、フランス国内での死者が100万人。革命の影響を避けようとする近隣諸国とのナポレオン戦争で死者が100万人出た。」
学生 「それは、だれが言っているのですか?」
福沢 「ルネ セディヨという研究者が1991年に草思社から出版した『フランス革命の代償』の12頁に、『フランス革命とナポレオン戦争で200万人が死んだ』と、書いてある。」
学生 「フランス革命だけの死者数は書いてないのですか?」
海舟 「そういえば、河出書房新社の『世界の歴史15・フランス革命』に、ナポレオン戦争で死んだ人の数は85万人だと書いてあった。」
学生 「200万人から85万人を引いて115万人。ほぼ100万人がフランス革命だけで死んだ。」
福沢 「海舟さん。ぼくに説明させてください。…日本ではフランスと同じように近代化を進めて強い国家を作るための明治維新という政治の変革がった。これは政治の変化だけでなく社会の構造や風習も変化したから、革命と言っても良いくらいの激変だった。しかし明治維新の内乱で死んだ人の数は3万人ほど。しかも 当時の日本の人口はフランスと同じ3000万人 だった。」
龍馬 「同じような人口なのに日本の明治維新の死者は3万人。フランス革命の死者は100万人。」
学生 「フランス革命の死者は多すぎる。」
海舟 「明治維新の死者が少なすぎるのかもしれぬ。」
ルソー 「学生さん。あなたは先ほど、日本がフランスのような革命を経験していないからダメだと言いました。あなたは日本人の100万人が死ぬことを望んでいるのですか?」
学生 「いや。そういうわけでは…。ぼくは日教組に習ったことを言っただけ…。」
龍馬 「おい。こら。学生。日本でフランス革命を起こすということは、天皇陛下の首をルイ十六世のようにギロチンではねるということだ。お前はそれを望んでいるのか。」
学生 「なにも、そういうつもりでは…。」
ルソー 「学生さん。もし福沢さんのご説明が正確なものならば、日本の天皇は『一般意志』のシンボルです。なぜならば、日本の天皇は国民全体の平和と幸福を第一に願って行動する人だから。…よいですか。学生さん。そのシンボルの首を切れなどと言う者は人間ではありません。『一般意志』を否定する人間は民主主義の敵です!」
学生 「う~。」
龍馬 「しかも『一般意志』が126代も続いているのだ。おい。学生。わかっているのか。」
ルソー 「おお。そうでした。126代。…しかし126代は長すぎる。」
学生 「そうでしょう。大学の教授は、神武天皇や126代などは嘘だと言っていました。」
ルソー 「それでは、本当は何代続いたのですか?」
学生 「教授は、第26代の継体天皇から本当にいた天皇だと…。」
ルソー 「それでも、120代ほど『一般意志』が続いていることになる。…やはり信じられない。」
学生 「それに…どうも天皇家は気持ち悪い。」
龍馬 「なに?また奇妙なことを言い出した。それも大学の教授が言っているのか?」
学生 「国会議員も言っています。」
龍馬 「なんという名前の国会議員だ?」
学生 「つ…つ…」
龍馬 「しっかり思い出せ」
学生 「ほら…。あの…ライオン歯みがきの広告に出て来そうな、明るく元気のよい女性国会議員。」
龍馬 「ライオン歯みがきの広告?」
学生 「笑うと白くて丈夫な歯が見える…」
龍馬 「笑うと白くて丈夫そうな歯が目立つのか?」
学生 「そうだよ。つ…つじ…。」
龍馬 「しっかり思い出せ!」
学生 「つじもときよみ。辻元清美という国会議員が、『天皇家なんか気持ち悪い』と言っていた。」
ルソー 「学生さん!」
学生 「はい…。」
ルソー 「今すぐ日本に帰りなさい。」
|
|