《谷口雅春先生に帰りましょう・第二》

 

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ルソーと福沢の対話。天皇永続の原因と意義【8】神武建国の詔は、日本的な社会契約 (怒らず冷静に最後まで読んでください) (15850)
日時:2025年11月19日 (水) 18時54分
名前:政治思想マニア

神武建国の詔は、日本的な社会契約

福沢
「日本には昔、『神武建国の詔(みことのり)』という宣言がありました。」

ルソー
「何ですか?それは。」

福沢
「あまり古すぎて、いつごろ作られた物語なのかよくわからないのですが、日本神話のなかに、このような物語があります。昔むかしの大昔、天の上にある国は平和だったけれども、地上の国は戦争でひどく乱れていた。それで、天の国を治めていた天照大神という神様が地上の国をひどく心配して、自分の孫の神を地上に派遣した。地上に派遣するときに天照大神は孫に、『これから地上の国は私の子孫が責任をもって平和に治めろ』と命令した。それで孫の神は地上に降りて行った。」

ルソー
「ほう。なかなか楽しいおとぎ話のようで…。」

学生
「すみません。塾長。それは違います。」

福沢
「ん…。なにが違うのかね?」

学生
「天照大神は地上の国を侵略するのが本心だったけれども、それをごまかすために、『戦いで乱れた地上の国を平和に統一してこい』ときれいごとを言ったのです。『古事記』や『日本書紀』に書いてあるその話は、天皇を頂点とする政治権力が自分に都合のよいように嘘八百をまとめた本です。」

福沢
「そう言うだろうと思っていた。」

学生
「そう言います。」

福沢
「君が言っていることは昔、丸山眞男という政治学者が言い出したことだ。その丸山眞男は、津田左右吉という歴史学者の主張に悪乗りして君のようなことを言い出した。…君は丸山眞男の主張を正しいと信じている大学教師の受け売りを、今、言ったのだろう?」

学生
「僕は高校と大学で習いました。」

福沢
「ところがネ、その津田左右吉は丸山眞男たちの主張に全面的に反対して激しい批判文を提出した。丸山眞男たちはその批判文に驚き、『津田は転向した』と言って津田を非難するだけだった。丸山たちは合理的に反論できなかったのだよ。」

学生
「津田左右吉はどのような批判文を出したのですか?」

福沢
「あとで出す。それを読めば、君も納得するだろう。あとで読んでみたまえ。」

学生
「はあ。」

ルソー
「…ということで、福沢さん。ご説明をつづけていただけませんか。」

福沢
「地上に降りた神様は平和な国家統一に尽力しました。しかしその神様の代だけでは地上の国を統一できなかった。だが、その神の曽孫(ひまご)である神武天皇が何とか地上を統一した。神武天皇は日本の奈良にある橿原という所に地方の豪族を集めて宣言した。『これからは天皇を中心にして、みなが幸福になる国を皆の力で作って行こう。それが、私の先祖が私に命令したことなのだ。』と訴えた。それに対して多くの豪族が、『それはよい』、『そうしよう。そうしよう。』と賛成した。それで、天皇を中心にして皆で良い国を作ろうという約束が交わされた…という物語があるのです。」

ルソー
「ふむ。…なかなか面白い物語ですな。その神武天皇が言ったとかいう、『みなが幸福になる国を皆の力で作っていこう』という宣言は面白い。これは私の『一般意志』と似たようなものです。これはおもしろい…。」

福沢
「やはりそうですか。…それで、今でも日本では、その神武天皇の子孫である天皇を中心に国家と国民が統一されています。それを今の日本の憲法の言葉でいうと、『天皇は日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴である』ということになっています。」

ルソー
「ほう。ふ~ん…。国王のくせに『国家のシンボル』ですか。生意気に…。さらに、『国民統合のシンボル』ですか。ふ~ん…。」

福沢
「日本人はこの神武天皇の宣言を『神武建国の詔』と呼んでいるのですが、この神武建国の詔は、『日本的な社会契約』になるのではありませんか?」

ルソー
「なります。それは立派な日本的な社会契約です。」

海舟
「ほう…。」

学生
「僕には何のことか、わからない…。」

龍馬
「バカ。少しは真剣に考えろ。」

ルソー
「学生さんには難しいですか。…さきほど説明したように『社会契約』とは、国家を造るときの人間同士の約束です。日本の『神武建国の詔』は、当時の人間が交わした約束だから、立派な『日本的社会契約』です。」

海舟
「ふ~む。」

龍馬
「しかしルソーさん。『神武建国の詔』は天皇が先に言い出しました。だから敢えてうかがいますが、人民よりも天皇が先に言い出したのに、それでも『社会契約』になるのですか?」

ルソー
「天皇が先に言い出そうが、ホームレスが先に言い出そうが、国家建設に関する約束を交わしたのだから、立派な『社会契約』です。」

龍馬
「ふ~む。」

海舟
「どうだ。学生。わかったか?」

学生
「全くわからない。」

海舟
「こまった奴だなあ。」

ルソー
「それでは、あえて時間の座標軸にそって説明しましょう。まず私の社会契約からです。私の社会契約は、はじめにバラバラの人民がいました。その人民たちが、『国民全体のためになる国家』を造ろうと考えた。そしてその人民たちが、『私は一般意志に従い、一般意志を守ります』という約束(契約)を交わした。そのあとで、契約した人たちだけで新しい国家を造った。さらに、その国家の行政者(政治家)も選んだ。もちろん行政者も一般意志に従い、一般意志を守らなければなりません。…このようにして出来た新国家が、『国民全体のためになる国家』です。これによって、『国民全体のためになる国家』という理想が実現します。」

龍馬
「ふむふむ。」

学生
「ぼくにも少し見えてきた…。」

ルソー
「それに対して日本的な社会契約です。日本的社会契約は、はじめに神武天皇が、『私は国民全体のためになる国家を造るために努力します。』と約束した。この約束は私の言葉でいうと、神武天皇が、『私は一般意志に従い、一般意志を守ります』と宣言した…ということです。それと同時に神武天皇が地方の豪族たちに、『だから私と一緒に、国民全体のためになる国家を造っていこうではないか。』と呼びかけた。これも私の言葉でいうと、神武天皇が豪族たちに、『私と一緒に一般意志に従い、一般意志を守って国を造ろうではないか。』と呼びかけた…ということです。」

龍馬
「ふむ。ふむ。」

ルソー
「そしてその神武の呼びかけに対して、豪族たちが『そうだ。そうしよう。』と賛成した。約束(契約)を交わした…。この時点で日本的な社会契約が成立したのです。これによって今の日本国ができあがった…のですよね。福沢さん。」

福沢
「そうなります。」

海舟
「ふ~む。」

龍馬
「なるほど。なるほど。」

福沢
「そうすると、ルソーさん。」

ルソー
「なんですか?」

福沢
「話の内容が細かくなりますが、ルソーさんの社会契約はバラバラの対等な人民が契約に参加して横に広がる構造になっています。それに対して日本の社会契約は、上の神武天皇が最初に約束して、それが下に広がる構造になっています。ルソーさんの社会契約は横へ水平に広がり、日本の社会契約は上から下に広がっている。二つの社会契約は、広がる方向がちがっています。これは何故なのでしょうか?」

ルソー
「う~ん。なかなか鋭いご質問ですね。これは極めて重要な問題です。…しかし、今この説明をはじめると話の流れが狂ってしまいます。あとで説明します。あとで必ず説明しますから安心してください。」

福沢
「わかりました。」

海舟
「…ということで、ルソーさんが言う『神武天皇が建国の詔を発したときに、日本的な社会契約が成立した』という論理は、たしかに成り立つ。」

福沢
「うむ。私も海舟さんに同感です。ただ……少し話が変わるけれども……今の日本は資本主義の弊害で金持ちのために都合のよい社会システムになっているような気がします。そういう気がする。そういう気はするけれども、『神武建国の詔』が日本的社会契約だという論理は、たしかに成り立つ。う~む。この論理によって天皇存在制の原因と意義を欧米の人たちに欧米の論理で合理的に説明できるような気がします。ルソーさん。ルソーさんにお礼を申し上げます。ありがとうございます。」

ルソー
「それは良かった。私も工夫しながら説明した甲斐があります。ただし…福沢さん。」

福沢
「なんですか?」

ルソー
「天皇だろうが何だろうが、国王というものは碌なことをしません。」

福沢
「ほう。それは…。もしルソーさんが日本の天皇をその国王のなかに含めて言っておられるのならば、そのご意見には少し違和感があります。しかし、まず、ルソーさんのご意見を伺いましょう」





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