《谷口雅春先生に帰りましょう・第二》

 

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文学作品としての古事記神話        【16】山幸彦と海幸彦 (15844)
日時:2025年11月18日 (火) 15時45分
名前:比較文化の好事家

【16】 山幸彦と海幸彦   

火照りの命(ほでりのみこと)は海幸彦といって、海のさまざまの魚をお取りになり、火遠理の命(ほおりのみこと)は山幸彦といって、山に住む鳥獣をお取りになりました。

あるとき、山幸彦が兄の海幸彦に、「お互いに道具を取りかえて使ってみましょう」と、三度頼んだけれども、兄は許しませんでした。しかし、最後に兄は取りかえることを許しました。

そこで山幸彦が釣道具で魚を釣りましたが、一匹も釣れません。そのうえ、鉤(つりばり)を海に失ってしまいました。そのあと、兄の海幸彦が、「お互いの道具を、もとどおりに戻そう」と言ったので、山幸彦が、「私は魚を釣ろうとしましたが、一匹も釣れず、鉤(つりばり)を海でなくしてしまいました」と言ったけれども、海幸彦は、なお「鉤を返せ」と言いました。

そこで山幸彦が自分の長い剣を折って、五百の鉤を作って謝りましたが、海幸彦は許しません。「どうしても、もとの鉤を返せ」と、責めました。

それで、山幸彦が海辺に出て泣いていると、そこへ海の神様である「塩椎の神(しおつちのかみ)」が来て、「貴い御子が泣いていらっしゃるのは、どういうわけですか」と尋ねました。

「わたしは兄と鉤を交換して、その鉤をなくしました。私は多くの鉤を作って、それで返そうとしましたが、兄は受けとらないで、『もとの鉤でないと、だめだ』と言います。それで私は泣き悲しんでいるのです」と言いました。

そこで塩椎の神が、「わたくしが、あなたのために良いようにしてあげましょう」と言って、隙間の無い籠の小舟を造って、その船に山幸彦を乗せて教えました。

「わたしがその船を押し流しますから、少し進んでいくと、道があります。その道のとおりに進んでいくと、魚の鱗(うろこ)のように造った宮殿があり、それは海の神の宮殿です。その宮殿の門まで行くと、門の横の井戸の上に立派な桂の木があるでしょう。あなたがその木の上に止まっておられると、海の神の娘が貴方を見て、何とかしてくれるでしょう」と教えました。

山幸彦が教えられたとおり、小舟で進んで行くと、すべて塩椎の神が言ったとおりでした。それで、山幸彦が桂の木の上に止まっていると、海の神の娘・豊玉姫の召使の女が美しい椀(わん)を持って、水を汲もうとして、井戸に光が射しました。

召使の女が上を仰いで見ると、美しい男性がいました。女が不思議に思っていると、山幸彦が、「水をください」と言いました。そこで、女は水を汲んで椀に入れて、差し上げました。

しかし、山幸彦は水を飲まず、頸(くび)におかけになっていた玉の首飾りをお解きになって、玉を口に含んでその椀に吐き入れました。すると、その玉が椀にくっ付いて、女は玉を離すことが出来ません。女は玉が付いたまま、豊玉姫に椀を差し上げました。それで、豊玉姫が玉を見て、下女に、「門の外に誰かいるのですか」と尋ねました。

「井戸の桂の木の上に人がおります。それはそれは大変りっぱな男性でいらっしゃいます。私たちの王様よりも貴いお方です。その方が水をお求めになったので私が差し上げたのですが、なぜか水をお飲みにならずに、この玉を椀に吐き入れました。その玉が、少しも離れないので、そのまま持って来たのです」と申しました。

そこで豊玉姫が不思議に思って、出て見て、目を合わせて、父の王に「門の前に立派な方がおります」と申しました。それで、海の神が自分で出て見て、

「これは貴い天の神の御子だ」と言って、すぐに山幸彦を御殿の中にお連れ申して、敷物八枚を重ね、その上に絹の敷物を八枚敷いて山幸彦を坐らせ、たくさんの献上物を積み上げ、御馳走をして、豊玉姫と結婚させました。

それで山幸彦は三年の間、その国に留まっていました。しかし、あるとき、山幸彦は初めここへ来た時の用事を思い出して、大きな溜息をつきなさいました。豊玉姫がそれをお聞きになって、父に、「あの方は三年間お住みになっていて、お嘆きになることが無かったのに、今夜、大きな溜息を一つなさいました。何か仔細があるのでしょうか」と申しました。

父の海神が山幸彦に、 「今朝わたくしの娘が語るのによれば、貴方様はここに三年間おいでになって、一度もお嘆きになることが無かったのに、今夜大きな溜息を一つなさったということです。何か訳がおありでしょうか。また、ここにおいでになった理由はどういうものでしょうか」と、お尋ねしました。

山幸彦は海神に詳しく事情を説明しました。そこで海神が海中のすべての魚を集めて、「この鉤を取った魚はいないか」と問いました。多くの魚が、「このごろ鯛が、喉にささった骨があって物が食えないと言っております。きっとこの鯛が取ったのでしょう」と、申しました。そこで鯛の喉を調べたところ、鉤がありました。

それで鉤を取り出して、洗って山幸彦に差し上げ、海神が、
「この鉤を兄に渡す時には『この鉤は貧乏鉤だ』と言って、後ろ向きに渡しなさい。そして兄が高い所に田を作ったら、あなたは低い所に田を作りなさい。兄が低い所に田を作ったら、あなたは高い所に田を作りなさい。そうすれば、私が水を支配しておりますから、三年の間に兄様が貧しくなるでしょう。もし、兄がこのようなことを恨んで攻めてきたら、貴方は、潮の満ちる珠を出して溺れさせ、もしも謝ってきたら、潮の干上がる珠を出して生かしてやり、このようにお苦しめなさい」
と言って、潮満つ珠と潮干る珠、合わせて二つの珠を与えました。

さらに、すべての鰐(わに)を呼び集めて、「今、天の神の御子が地上の国にお帰りになる。前たちは何日でお送り申し、その報告が出来るか」と、尋ねました。それで、鰐(わに)たちが自分の体の大きさを考えて返答している中に、一匹の大きな鰐が、「私は一日でお送り申し上げて、帰って参りましょう」と言いました。

それで、海神はその鰐に、「ならば、お前がお送り申し上げよ。海中を渡る時に山幸彦の神様をこわがらせ申すな」と言って、その鰐の頸に山幸彦をお乗せ申して、送り出しました。鰐は約束どおり一日でお送り申し上げました。

こうして山幸彦は、すべて海神の教えたとおりにして鉤を返しました。そこで兄の海幸彦は、ますます貧しくなって、さらに乱暴な心を起こして攻めて来ます。

山幸彦は、兄が攻めようとする時は潮の満ちる珠を出して溺れさせ、兄が謝ってくる時は潮の干上がる珠を出して救い、ひどく苦しめたので兄が降参して、「わたくしは今から後、あなた様の昼夜の守護人となってお仕え申し上げましょう」と言いました。


 さて、この話のなかに、豊玉姫の下女が山幸彦に初めて会うときの情景が描かれています。その部分の通常の読み方は、

   ここに海神(わだのかみ)の娘(みむすめ)、豊玉姫の従婢(まかだち)、
   玉器(たまもい)を持ちて水を酌(く)まんとするとき、井に光(かげ)あり。
   仰ぎて見れば、うるわしき壮夫(おとこ)あり。いと奇異(あや)しと思いき。

です。

 私はこの文章のリズムと音調に感じいって惚れてしまうのですが、この文の中の「うるわしい」とは「整った美しさ」を表す言葉です。たとえば「みめうるわしい女性」とは「化粧をしていなくても目鼻立ちが整った綺麗な女性」です。また、「太郎と次郎は仲うるわしい兄弟だ」という言葉は兄弟二人の間に争いがなく秩序が整って仲の良い関係であることを表しています。

 ここで改めて考えてみると、天上の国である「高天原」には大きな異変がなく、海の中の「竜宮城」も異変のない麗しい世界でした。だから天上の世界から竜宮城に下ってきた山幸彦(天照大御神の子孫)を「たけき男」とも「美しき男」とも呼ばずに「うるはしき」と訓読させた(おそらく)本居宣長は、『古事記』が「高天原」と「竜宮城」を秩序整然たる世界として描いている事実を充分に理解し、さらにそれを「良し」としたのだろうと思います。


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