| ルソーと福沢の対話。天皇永続の原因と意義【6】外国に押し付けられた憲法の破棄 (15841) |
- 日時:2025年11月17日 (月) 18時27分
名前:政治思想マニア
外国に押し付けられた憲法の破棄
ルソー 「なんですと…。学生さん。あなたは自分が安全な場所に居て、私のように本気で国家社会を改革しようとして真剣に語っている者の発言を傍観者のように眺め、しかもからかいの材料にしています。そのような人間を大衆(マス)というのです。それは民衆(フォーク)や市民(シトワィアン)とはまったく違います。あなたのような大衆が集まった国家は、最後には滅びるだけです。あなたのような大衆には、『思想の自由』や『祖国の独立』を維持しようとする精神的な気概がありません。」
学生 「そんなに怒らなくても…。」
ルソー 「よいですか。学生さん。私が『社会契約論』のなかで言っている市民とは、『思想の自由』を奪う者と闘い、『祖国』を侵略する国と最後まで闘う人間です。それに対して、あなたは…」
海舟 「まあ。まあ。ルソーさん。抑えて。抑えて。…学生君は若いから、つい軽薄なことを申してしまいました。このあたりで勘弁してやってください。」
ルソー 「学生さん。あなたは一体、何ですか。『思想の自由』や『祖国の独立』を本気で維持しようとする気持ちなど持っていないでしょう。」
福沢 「ルソーさん。ルソーさん。」
龍馬 「ルソーさん。おちついて。」
ルソー 「よいですか。私は『社会契約論』の第二編第十章「人民について(続)」のなかで、『今のヨーロッパ諸国のなかで、立派な法を持つに値する人民がいる国はコルシカ島しかない。』と断言しました。…学生さん。なぜ私がそのように断言したか解りますか。」
学生 「はて…?」
ルソー 「コルシカ島の住民だけが外国の侵略を断固拒否する戦闘を貫徹したからです。コルシカ島の住民は、ジェノヴァ共和国の侵略に対して激烈な独立戦争を行った。私が主張している市民とは、そのような人間です。それに対してあなたは…」
海舟 「ルソーさん。落ち着いて。」
龍馬 「ルソーさん。気をたしかに!」
ルソー 「それに対して学生さん。あなたは何ですか。あなたは本気で自分の国の自由と独立を維持しようとする気概を持っていないではありませんか。あなたのような人はキュクロプスの囚人の物語を知るがよい。」
学生 「はあ…?」
ルソー 「昔、キュクロプスの巨人に捕えられて洞窟に幽閉されたギリシア人たちがいた。ギリシア人たちは洞窟の中で平和な生活を送ることができた。ギリシア人たちは、『これも悪くないではないか。』と考えた。しかしギリシア人たちは、実際には自分が巨人に食い殺される順番が来るのを待っているにすぎなかった…。私はこのことを第一篇第一章「奴隷状態について」のなかに明記しました。学生さん。このギリシア人とはあなたのことです。学生さん。あなたのような人は、『自分たちが将来殺されることになっても、今が平和ならばそれで良い』と言う人間です。また、『自分たちが外国との戦争に負けて、それで外国から憲法を押し付けられても、今が楽ならばその憲法でよいではないか。』と言い出す人間です。」
福沢 「う~ん。これは困ったことになったな…」
龍馬 「学生。お前がバカなことを言うからだ。」
学生 「……。」
ルソー 「学生さん。よいですか。本当の独立国家の国民は、たとえ外国から押し付けられた憲法の内容が良いものであっても、その憲法を後生大事に持ち続けるものではありません。もし外国に押し付けられた憲法の内容が本当に良いのならば、一度その憲法を破棄して、それと全く同じ内容の憲法を、『自分たちの、自分たちによる、自分たちのための憲法』として新しく制定する。そして、それを国内外に宣言するものです。それが本当の市民社会です。」
学生 「はあ…。」
ルソー 「しかし、あなたのような人間は、『憲法の内容がよいから今のままでよい』などと、平気で言う人間です。そのような奴隷根性の人間は私の市民社会に一人もいません。いることを私が許しません!」
海舟 「あ~あ。ルソーさんは本気で怒ってしまった。」
龍馬 「学生。あやまれ。とにかく謝れ。」
学生 「ルソーさん。どうも済みませんでした。」
福沢 「もしもし。ルソーさん。よろしいですか。そろそろ話をもどします。…そうするとルソーさんは国王の権力も否定しなかったのですか?」
ルソー 「いや。とんでもない。私は、はっきりと国王の権力を否定しました。」
龍馬 「否定した…。」
海舟 「今度は否定したのだ…。」
ルソー 「そうです。私は目の前にあるブルボン王朝を否定するために『社会契約論』を書いたのです。」
福沢 「そうすると、あなたはイギリスのロックとちがって、目の前の国家を全否定した…ということですね。」
ルソー 「そうです。」
海舟 「ふ~む。」
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