《谷口雅春先生に帰りましょう・第二》

 

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【シリーズ】親子で読む物語。第31最終回    森の手かがみ(新作) (15829)
日時:2025年11月16日 (日) 12時36分
名前:芥川流之介

森の手かがみ


ある国の広い森のなかに大きな木が立っていました。その木の下には大きな手鏡がおちていました。森の中を旅した人が落としていったのです。

夏の晴れた日。その木の下を通りかかったタヌキが手鏡を見つけました。「これは何だろう」と思って手鏡をのぞくと、キラキラと輝くようなタヌキが入っています。「おや。ここには、たぬきの神さまがすんでいる。」そう思ったタヌキは手鏡にうやうやしく頭をさげて行ってしまいました。

その木の近くには小川が流れています。小川で水あびをした孔雀がいい気持ちで木の下を通りかかると丸い手鏡が落ちています。「あら。これは何かしら」と、孔雀は手鏡をのぞきました。すると羽根がキラキラひかってひどく美しい孔雀がこちらを見ています。「まあ美しい。ここには孔雀の神さまがいらっしゃるわ。」孔雀は手鏡にそっと口づけをすると、うれしそうに行ってしまいました。

そのあと、熊がいばって木の下を通りました。「ウオー。熊さまのお通りだ。」ところがそこに丸い手鏡が落ちています。「おや、これは何だ。」熊は右手をふりあげて手鏡をのぞきました。すると、強そうな熊が手をふりあげて、こっちをにらんでいます。「うゎ。ここには乱暴な熊の神さまがすんでいる。これは目をあわさないほうがいい。」熊はコソコソと行ってしまいました。

トラが、熊のうしろから声をかけました。「おい。クマ。うなだれて、どこへ行くのだ。」「その手鏡には、こわい神さまがにらんでいる。あまり近よらない方がいいぜ。」と、熊が答えました。トラは、いつでも逃げられるように後ろ足を手鏡から遠く離して、しかし大きく口をあけ、するどい牙をむいて手鏡をのぞきこみました。すると、ぴかぴか光った牙をむきだしにした大きなトラが、ゆっくりとこちらに向かってきます。「わっ。これはトラの神さまだ。オレの歯よりもっと大きく、もっと鋭い牙をもっている。臆病なクマがこわがるのは、むりもない。」トラは、はいつくばって手鏡から離れると、いそいで熊を追って行ってしまいました。大きな木の下の神さまのうわさは、森のなかのすみずみにまで広がりました。

しかし、森の中で、うたがいぶかいキツネだけは、神さまのうわさを信じません。「うーむ。どうも変だ。神さまがいるというのは、どうもあやしい。おれはかしこいのだ。絶対にだまされないぞ。コーン。」

キツネは、だれもいない時をみはからって、一人でそっと大きな木の近くにやってきました。そのとき森のなかに風が少し吹いていて、だれもいない静かなお昼でした。キツネは、あたりをもう一度見渡しました。青い空のうえから、つばめが矢のように地上すれすれをヒューと飛んで行きました。キツネは、思い切って手鏡の中をのぞきこみました。手鏡のなかには、キラキラと光り輝いてひどく賢そうなキツネが、こちらをじっとのぞいていました。「おお。これは。なんと。キツネの神さまではないか。」キツネはそうつぶやくと、手鏡にむかってうやうやしく頭をさげて、しずかに穴ぐらへ帰っていきました。



その次の日のことです。タヌキが木の近くを通ると孔雀が手鏡に頭をさげていました。「あっ。孔雀が手鏡をおがんでいる。おれの神さまだともしらずに。ばかな孔雀だ。」タヌキがそっと見ていると、孔雀は手鏡に口づけをして、いそいそと行ってしまいました。

タヌキが隠れて見ていると、そのあとに熊がやって来て、やはり手鏡を拝んで行ってしまいました。その次にトラが来ました。キツネも来ました。みんな手鏡を拝んで行ってしまいました。タヌキが思いました。「みんなタヌキの神さまに頭を下げていく。おれの神さまが一番えらいのだ。」

その次の日のことです。孔雀が手鏡の神さまに口づけしようと思って手鏡の近くまで来ると、熊が手鏡に頭をさげて、そそくさと逃げるように去っていくのが見えました。「あら。美しい神さまをおがんで行った。くさいクマのくせに生意気だわ。」孔雀が草のなかに隠れて見ていると、トラもキツネも手鏡を拝んで去っていきます。頭のわるいタヌキも手鏡を拝んでうやうやしく去っていきます。「みんなわたしの神さまを拝んで行く。やはり、美の神さまは最高よ。」孔雀は何だか自分が「おお。美しい」とほめられたような感じがしました。

またその次の日。トラが手鏡の近くを通りかかると、キツネが手鏡にむかって、うやうやしく頭をさげて通り過ぎていくのが見えました。「おお。フニャフニャきつねが、おれの神さまの前を怖そうに通っていった。なんといっても森でいちばん強い神さまだ。ちょろいキツネが怖がるのは無理もない。」トラが茂みの奥に隠れて見ていると、タヌキも熊も手鏡に頭をさげて通って行く。そのあと美しく羽根を飾った孔雀がいそいそと手鏡の前に現れました。孔雀はうっとりと手鏡を見つめていました。孔雀はとつぜん手鏡に口づけをして、うれしそうに行ってしまいました。トラはおどろきました。「なんだ。あれは。おれの神さまがこわくないのか。おう。そうか。孔雀は強い神が好きなのだ。そうか。そうか。女なんて強いものに惚れるだけだぜ。」

さらにその次の日のことです。キツネが獲物を探しに手鏡の近くに来ると、熊が手鏡に頭をさげて、そそくさと去って行きました。「コン。らんぼうもののクマが、おれ様の神さまに頭をさげていた。コン。バカでも少しはかしこくなろうという気になったのかもしれないな。」そう思ったキツネが近くの茂みのなかに入って獲物を探していると、タヌキもトラも手鏡にむかって頭をさげて行きます。孔雀はうっとりとした目つきで手鏡の中をのぞいています。「孔雀め。お化粧のことしか知らないくせに、おれの神さまの賢さがわかると見える。やはり知恵の神さまは最高だわい。コン。コーン。」

森の動物たちは、みんな自分が一番えらくなったようで、ひどく愉快な気持ちになりました。さて、森のなかで一番えらい神様はだれなのでしょうか。



以上で全部終了です。 (15830)
日時:2025年11月16日 (日) 12時46分
名前:芥川流之介

以上の第31回目ですべて終了です。

第30回と第31回は、この掲示板の読者のためにわざわざ原著作者が新しく創作してくださったものです。原著作者の先生、ありがとうございました。

すべてを御覧になってくださった読者のみなさまも、ありがとうございました。





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