《谷口雅春先生に帰りましょう・第二》

 

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ルソーと福沢の対話。天皇永続の原因と意義【3】祖国防衛からの逃避は犯罪 (15827)
日時:2025年11月15日 (土) 17時47分
名前:政治思想マニア

祖国防衛からの逃避は犯罪

福沢
「突然おじゃまします。ルソーさん。日本国で大学を創った福沢と申します。」

ルソー
「日本の人…。よくいらっしゃいました。」

福沢
「今日は、国家と天皇のことについて伺いたい事があって参ったのですが…」

ルソー
「天皇…。はて。それは何ですか?」

福沢
「あ…。それはあとで説明します。…それで、天皇よりも国家の方がわかりやすいので、国家に関するルソーさんのお考えから伺ってもよいでしょうか?」

ルソー
「もちろん結構ですよ。なんでもどうぞ。」

福沢
「それでは…。実は、私が創った大学の学生たちが、『国家や国王はいらない。国家や国王は人民を搾取するだけだ』と言っております。『ルソーに学べ』とも言っています。」

ルソー
「ほう…。それは光栄です。」

福沢
「そこで伺いたいのですが、あなたは国家を消滅させようとしたのですか?」

ルソー
「とんでもない…。たしかに私は目の前にあるフランスやイギリスを否定しました。しかし国家そのものを否定したのではありません。」

福沢
「本当ですか?」

ルソー
「本当です。私は自分が書いた『社会契約論』の第三編第十八章の〔注1〕に明記しました。『祖国が国民を必要としている際に、祖国に奉仕することを免れる目的で国外に去ることはできない。それは犯罪であって処罰されるべきだ。』と。」

福沢
「ほう…。ずいぶん厳しい国家観ですな。」

海舟
「しかし、それは本当なのかなあ…」

式神
「本当ですよ。証拠があります。」

海舟
「なんだ君は。突然出てきて…」

式神 
「驚かせてすみません。私は式神と申します。本当は平安時代に陰陽師の安倍晴明に使われていたのですが、晴明様から『今から18世紀のフランスへ飛んで行って福沢さんを助けてこい!』と命令されました。それで10世紀の日本からはるばるとやってきました。」

海舟
「はるばるとやって来た…。霊は簡単に飛んで来られるだろう。」

式神
「実は、霊だからあっというまに…。へへ。」

龍馬
「変なやつが来たものだ。」

海舟
「それならば、式神。今のルソーさんの言葉が本当だという証拠を持ってこい。」

式神
「ここに持ってきていますよ。証拠は二冊あります。まず、中央公論社『世界の名著・ルソー』の319頁です。ここに、『義務を回避するためとか、祖国がわれわれを必要としている際に、祖国に奉仕することを免れるために、国外に去ることはできない。その場合、逃亡は犯罪を構成するものであり、処罰さるべきであろう』と書いてあります。

海舟
「ふむ。」

式神
「次に、岩波文庫『社会契約論』の143頁です。ここに、『もちろん、義務を回避するためや、祖国がわれわれを必要とする戦争のような時に、祖国に奉仕する務めをまぬがれるために、国を去ることはできない。この場合の逃亡は犯罪であり、罰せられねばならぬ』と、書いてあります。

海舟
「なるほど。よく調べた。その二冊の本はあとで必ず返しておけ。」

式神
「へい。…ところで、これからは中央公論社『世界の名著・ルソー』を『中公版』と言います。岩波文庫の『社会契約論』を『岩波版』と言います。」

海舟
「よかろう。」

福沢
「これは驚いた。私は、『ルソーさんは国家を否定した。』と思っていた。少なくとも、『戦争になったときに国民が国外へ逃げるのは国民の自由だ。』と、ルソーさんがおっしゃるだらうと思っていたのに…。」

ルソー
「とんでもない。…繰り返しになりますが、戦争になって外国に逃げるのは犯罪です。戦争で祖国を棄てるような愚か者は、日本人だろうがフランス人だろうが牢屋にぶちこんでおけばよいのです。」

龍馬
「これは何とも…。俺も驚いたぜよ。」

海舟
「ルソーさんのイメージがまったく変わってしまった。」

ルソー
「おや…。この程度のことで驚いていただいては困ります。私の国家観はもっと厳しいものです。」

福沢
「…と、おっしゃいますと?」

ルソー
「あとで触れることになるだらうと思いますが、私は『社会契約論』のなかで、ふつうのキリスト教信仰とは別の社会的な信仰を提唱しました。それは決して過激な信仰ではありません。しかしその信仰箇条は私の理想国家の住民が必ず信仰しなければなりません。」

福沢
「ほう…。」

海舟
「必ず信仰しなければならない…。」

ルソー
「そうです。その信仰箇条は五箇条あります。たとえば、全知全能の神が存在することを信じる、あるいは、来世が存在することを信じる…という信仰箇条です。」

龍馬
「ふむ…。」

福沢
「それならば穏健な信仰だ。決して危険なカルト宗教ではない。」

ルソー
「どうもありがとうございます。…しかし私は、この信仰項目を信じない者を私の国家から追放します。また、この信仰を信じているようなふりをしながら、実際には背反することを行う者を死刑に処します。」

福沢
「え…?」

龍馬
「死刑ですか?」

ルソー
「そうです。死刑です。これは本当です。」

海舟
「ずいぶん厳しい…。」

龍馬
「式神。証拠を持ってこい!」

式神
「へい。…『中公版』の355頁に、『純粋に市民的な信仰告白が存在する。…それを信じない者はだれであれ国家から追放できる。…社会性の意識を欠く人間として…緊急の際に義務のために生命をささげることのできない者として、追放するのである。…公然とこれらの教義を認めながら、それらを信じないかのように行動するとすれば、(その人間は)死をもって罰せられるべきである』と、書いてあります。」

福沢
「ほう…。」

龍馬
「死刑に処する…。」

学生
「これはむちゃくちゃ。」

式神
「次に、『岩波版』です。『岩波版』の191頁には、『純粋に市民的な信仰告白がある。…それを信じないものは誰であれ、国家から追放することができる。非社交的な人間として…必要にさいしてその生命を自己の義務にささげることのできぬものとして、追放することができるのである。…この教理を公けに受けいれたあとで、これを信ぜぬかのように行動するものがあれば、死をもって罪せらるべきである』と、書いてあります。」

福沢
「ふ~む。『中公版』は、誤植ではなかった。」

龍馬
「それにしても厳しい。今のわれわれにはとても信じられんぜよ。」

海舟
「そうするとルソーさん。ルソーさんのご意見によれば、国民は宗教や国家が危機に陥ったときには生命を棄てるぐらいの覚悟を持たなければならない…ということですね。」

ルソー
「そうです。そのようなことは当り前のことです。」

龍馬
「へえ~。」

学生
「この人は、こわい人だ…。高校や大学で習ったルソーと別のルソーがここにいる。」

ルソー
「私は本物のジャン・ジャック・ルソーです。学生さんが高校や大学でどのようなルソーを習ったのか知りませんが、その学生さんの驚きようから判断すると、日本の高校や大学で教えている内容はウソです。少なくとも私の全体像を教えている内容ではありません。おそらく先生たちは自分の主義主張を生徒や学生に洗脳するために私を利用しているのです。」





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