《谷口雅春先生に帰りましょう・第二》

 

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文学作品としての古事記神話        【2】国生み (15804)
日時:2025年11月08日 (土) 01時28分
名前:比較文化の好事家

【2】 国生み   

そこで多くの天の神様たちが、「いざなぎの神」「いざなみの神」の二人の神様に、「この漂っている国を造り固めなさい」といって、りっぱな矛(ほこ)をお与えになりました。それで二人の神様は天から下りていく階段に立って、その矛(ほこ)をおろして下の海の水をゴロゴロとかき回し、そのあと上に引き上げると、矛の先から塩水が滴り落ち、それが積もって「おのころ島」が出来あがりました。お二人はその島に降りて行って、大きな中心の柱を立て、広くきれいな御殿をお建てになりました。

 ここで「多くの天の神様たちが」とあるように、二人の神様に国を生むように命令したのは、多くの天の神様たちです。一人の権力ある神様が命じたのではありません。天の神様たちが話し合って決めた事を、二人の神様に命令したのです。これは重要です。これは「神代民主主義」とでも言うべき日本神話の大きな特徴であって、日本の神々は独断で物事を決めるということを、ほとんどしません。

 たとえば、あとの物語で出てきますが、天照大御神が天の岩戸に閉じこもったために世の中が真っ暗闇になってしまい、全ての神様が困った時がありました。そのとき八百万の神々が集まって「どうしよう」と相談し、そこで決まったことを実行して問題を解決しています。決して一人の神が決めたことを実行したのではありません。

 また、さらにあとに登場する「国ゆずり物語」の話ですが、戦争で乱れた地上の国を平和にするために天上の神々が地上に神様を派遣した。ところが地上に派遣された神が地上の国の神(大国主の神)になついてしまって、なかなか天上に服務報告をしない。そのために天の神々が困ってしまいました。

 そのとき、困った天上の神々は何度も大会議を開いて次の策を決定しています。決して天照大御神が独断的に命令を下したのではありません。天の神々は何度も大会議を開いた。その会議の結論にしたがって次の使いの神を地上に派遣した。ところが、その神も地上につくと真面目に仕事をしない。天上の神々はまた困って大会議を開いて次の神を派遣した。そのようなことを繰り返して、最後に地上へ派遣した神がやっと地上の国を平定しました。

 このような「天上からの命令による日本統一」という古事記中核の物語の背後に、たび重なる神々の大集会があるということは、すでに日本神話が書かれたときに日本人のあいだに「重要問題に関する話しあい主義」が確立していたということです。これを逆にいうと、欧米の民主主義思想を「唯一の民主主義思想だ」と思い込んでしまうと、現実の日本の政治運営に色々な悲劇をもたらす可能性があるということです。もちろん、このことは日本以外の非西欧諸国全般についても言いうることであります。

 ギリシア神話には、このような衆議による決定あるいは全会一致的な性格は薄いものです。たとえば、最高神ゼウスは人類を一度滅ぼして、そののち次の人類を造っていますが、ゼウスは人類を滅ぼす時も次の人種を造る時も、「全ての神々を集めて意見を言わせて、その決議に従う」などという面倒なことをしていません。ギリシア神話は、ゼウスが独断で物事を決めるのが当たり前という意識で語られている神話であって、もしも「民主主義」を「話し合い主義」とするならば、日本神話はギリシア神話よりもはるかに民主的な神話です。





そこで男の「いざなぎの神」が女の「いざなみの神」に尋ねました。「あなたの体は、どのように出来ていますか。」女の神様が答えました。「わたしの体は、出来上がってまだ足りない所が一か所あります。」男の神様が言いました。「私の体は、出来上がって余った所が一か所あります。だから、わたしの体の余った所を、あなたの体の足りない所にさし塞いで国を生もうと思うが、どうだろう。」「それが良いでしょう」 

それで男の神様が、「それなら、私とあなたが、この『天の御柱』の周りを廻って結婚しよう。あなたは右から廻りなさい。私は左から廻ってお会いしましょう。」と約束して二人が廻り、出会ってからまず女の神様が、「なんとまあ立派な男神でしょう。」と言い、次に男の神様が、「なんとまあ美しい女神だろう」と、仰いました。

しかし、二人が言い終わったあと、男の神様は、「女が先に言ったのは宜しくない。」と、仰いました。が、それでもお二人は結婚して子供をお生みになりました。しかし生まれた子は、骨の無い不完全な子でした。この子は、葦(あし)を編んで作った船に乗せて流してしまいました。また次に生んだ子も、子供の中に入らない子供でした。


 ここにも神々の「話し合い」が述べられています。二人の神は話をして意見の合ったところで結婚の儀式に及んでいます。ギリシア神話には男神が気に入った女神を強引にものにする話がたくさんありますが、日本神話にはそういう話はほとんどありません。

 また、もう一つ日本神話全般に特徴的なことは、男が女を半歩リードしているということです。結婚の儀式の形式を提案したのも男の神で、二人がいざ実行に及んで先走りした女神の非を指摘したのも男の神です。このあたりは男女平等主義者から批判が出るかもしれませんが、男の神はどちらの場合も女神の理解を得るように説明しているのであって、女神に強制したり叱りつけたりしているのではありません。今回の物語には、仲の良い男女一組の幼児が協力し合って何かを作っている姿を見るような趣があります。





それでお二人が相談して、「今、私たちの生んだ子供がよくない。天の神様の所へ行って申し上げよう。」といって、二人いっしょに天に上り、天の神様のご意見を伺いました。すると、天の神様は占いをして、「女が先に言ったのが良くなかった。もう一度地上に降りて、改めて言い直しなさい。」と、おっしゃいました。

お二人は再び地上に降りて、さっきのように「天の御柱」を廻り、今度は男の神様が先に、「なんとまあ美しい女神だろう」と言い、そのあとで女の神様が、「なんとまあ立派な男神でしょう。」と、仰いました。そして結婚なさって、子供の淡路島を生みました。次に、伊予の島を生みました。この島は体一つに顔が四つあり、その顔ごとに名前があります。伊予の国を愛姫と呼び、讃岐の国を飯依彦、阿波の国を大げつ姫、土佐の国を建依別(たけよりわけ)といいます。またさらに、小豆島またの名は大野手姫、その他多くの島々をお生みになりました。

また、神々をもたくさん生みました。まず、「大事忍男(おおことおしお)の神」、次に「石土彦(いわつちひこ)の神」、また海の神や河の神、風の神、木の神、野の神、山の神、さらに火の神である「火焼速男(ほのやきはやお)の神」をお生みになりました。しかし、この子を生んだ時に、「いざなみの神」は火傷を負って、気の毒に亡くなってしまいました。


 この話は示唆するところが多い話であります。
(1)まず、二人の神々が相談し、二人いっしょに天上に上って「天の神様」に相談するところは、仲の良い「神代民主主義」です。さらに……これが重要なのですが……「天の神様」は自分の考えを二人に述べているのではなく、占いの結果を述べています。つまり、「天の神様」の上には、さらに上位の神がいるのであり、その神は姿を見せず、声も出さないが、「天の神様」は確かに上位のその神の意向を伺っています。

 この「姿を見せぬ上位の神」は、時々『古事記』本文の中に現れています。たとえば少しあとの話で登場しますが、天照大御神(活動する神の中の最高神)でさえも神を祭っており、さらに、「天照大御神の岩戸ごもり」の場面では八百万の神々が集まって占いを行ない、それによって「より上位の神の意思」をうかがっています。

 これを抽象的に言うならば、日本の神々は上位の上にさらに上位の神がおり、究極の上位の神は言葉で規定されず、活動もせず、姿を見せてもいません。姿を見せていないが存在しないのではない。重要な場面では事態の進展を大きく左右しています(実例は後出)。これは日本人の宗教思想の一般的性格であって、このような宗教的性格が、日本神話が書かれた時すでに確定していたのです。

(2)次に、二人の神様は神々と島々を生みながら人間を生んでいません。人間を生んでいませんが、島には顔があり、人間の別名がついています。また、この時に生まれた神々にも人間を思わせる名が多くついています。「大事忍男の神」などは、「大事件にあっても忍耐する人間精神」を喩えたような名前です。これらのことから言えることは、日本神話では神と人と自然との境界線が極めてあいまいだということです。これを少し乱暴に言うならば、日本神話のなかで人と神とは極めて近い存在であって、極論するならば日本神話では人も国土もみな神なのです。



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