《谷口雅春先生に帰りましょう・第二》

 

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【シリーズ】親子で読む物語。第25回  欲張る心をすてて、神仏を敬いましょう。 (15775)
日時:2025年10月18日 (土) 11時40分
名前:芥川流之介

欲張る心をすてて、神仏を敬いましょう


 今では昔のこと、摂津の国の村にお坊さんが持仏堂を作って妻といっしょに住んでいました。お坊さんはお経の読み方が上手で、説教もうまかったので、その村で葬式や法事を行うときには村人がいつも持仏堂に集まりました。持仏堂にお供え物の餅や野菜がたくさん集まりました。わざわざとなりの村から森をこえてやってきて、賽銭箱に一分銀を入れてお参りする人もいました。一分銀は今の一万五千円ぐらいです。その持仏堂にはお金がたまり、小僧さんの数もふえてゆきました。

 ある日、お坊さんの妻がよいことを思いつきました。お供えの餅を小僧たちに食べさせるよりも、固くなった餅を細かく砕いて酒にしたほうがいいと。今でも、もち米から美味しいお酒を造っています。妻がお坊さんに、「餅をお酒にして、二人だけで飲みましょうよ」と言うと、お坊さんは、「それはいい考えだ」と言って酒を造ることにしました。二人は餅を細かく砕き、白い壺に入れたまま冷たい台所の土間のうえに置いておきました。

 その後しばらくたって酒ができあがる日の夜に妻が台所へ行って壺のふたの板をのけてみました。すると壺の中で何かが動いています。「おかしいな」と思ったが暗くて何も見えません。妻がろうそくを持って壺の中をのぞくと、たくさんの蛇が壺のなかいっぱいに鎌首を持ち上げ、舌を出してうごめいています。「ああ、こわい。これはどうしたことなの」と言って、妻はふたの板をかぶせ、台所から逃げ出しました。妻がお坊さんに語って二人いっしょにのぞいても、やはり多くの蛇がうごめいています。二人は壺の上にふたの板をかぶせ、「壺ごと森に捨てよう」と言って、二人で壺を持ち出して森の奥に捨ててしまいました。
 
 その次の日の朝のこと。となりの村から権太さん、弥助さん、平助さんの三人がそれぞれお賽銭用の一分銀を持って、寺の持仏堂へ向かって歩いていました。三人が森のなかを進んでいると、大きな木の下に泥だらけの壺がおいてあります。これは何の壺だ。権太さんが壺のふたをのけると、壺の中からすばらしい酒のにおいが広がりました。これを見ろ、すごい酒だと権太さんが言うと、二人も寄って来てのぞきました。壺のなかにはやはり酒があふれるように入っています。これはどういうことだろうと三人が言っているうちに、弥助さんが、「おれはこの酒を呑んでみたい」と言いだしました。

 あとの二人は、「やめたほうがよい。森の真ん中に捨ててあるものだ。何か理由があるのだろう。なんだか気味が悪い」と言ったけれども、弥助さんはこの酒が飲みたくてたまらず、「かまわぬ。お前たちが飲めないのならば、おれがどうしても呑んでやる。この酒を呑めるのならば、おれの命なんか惜しくない」と言って、腰にぶらさげていた湯飲みを取り出し、それで酒をすくってグッと飲み干しました。酒はふくよかな味でまろやかな舌ざわり。実にすばらしい酒である。弥助さんは立て続けに三杯飲み干しました。それを見ていた二人はたまらなくなって、「一人だけが死ぬのを黙って見ていられるか。たとえ酒に殺されても三人いっしょに死のう」と言って、自分の湯飲みで呑みはじめました。やはりこの世のものとは思われない素晴らしい酒である。三人はわれを忘れて酒を呑みつづけました。

 三人が壺の酒をすべて呑んでしまい、酔っぱらって良い気持ちになってふと気がつくと、壺の表面の土が少しはがれています。権太さんが指の爪で土を落とすと、壺の表面から黄金の光がさしてきました。それに驚いた三人がすべての土をはぎ落とすと、壺は黄色に輝く黄金の壺でした。三人は酔いもさめてしまいました。この壺をどうしようか。三人は小声で相談をはじめました。権太さんが、「これを村へ持って帰って売ればもうかる」と言いました。平助さんは、「持仏堂へ持って行こう。これを仏様へのお布施として賽銭箱の横へ立てておこう」と言いました。「それがよい。そうしよう」ということになって、三人は金色の壺をかついで持仏堂へ持って行き、賽銭箱の横に壺を立てておき、さらに壺のふたの板の上にそれぞれが一分銀を乗せて、熱心にお祈りをしてから持仏堂を出て行きました。

 その次の日の朝のことです。持仏堂を掃除していたお坊さんと妻が賽銭箱の横に黒い壺が置いてあるのに気がつきました。二人が壺のふたの板をのけると、壺の中にはたくさんの蛇さらに虻や蜥蜴がうごめいています。驚いた二人は黒い壺を森に捨てに行きました。二人が森から寺にもどったちょうどそのころ、となり村の権太さん、弥助さん、平助さんの家の台所に、すばらしい香りただようお酒が入った金色の壺が出現し、その壺のふたの上にはなぜか一分銀が三枚も乗っているのでありました。

(『今昔物語集』巻19の21を翻案)






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