《谷口雅春先生に帰りましょう・第二》

 

本流宣言掲示板」「光明掲示板・第一」「光明掲示板・第二」「光明掲示板・第三

谷口雅春先生に帰りましょう・伝統板・第二
この掲示板の目的
この掲示板のルール
本掲示板への書込法
必ずお読みください
管理人への連絡
重要リンク
TOP PAGE

コピペで文字に色や下線をつけて太字にする方法
 

 

【シリーズ】親子で読む物語。第20回  いつも正直でいましょう (15715)
日時:2025年09月07日 (日) 23時08分
名前:芥川流之介

いつも正直でいましょう


むかしむかし、摂津の国に小さなお寺がありました。その寺の鐘つき堂には、金でできた立派な鐘がつるしてありました。鐘が金でできているのは、昔から寺のお坊さんがいつも正直で村人のために尽くしているので、それに感心した国の殿様が金で鐘を造り、その鐘をお寺に与えたのです。村の人たちはお寺の鐘を「金の鐘」と名づけて大切にしていました。

 ある日の夕方、小僧さんが鐘をついていると、年をとった法師が杖をつきながら入ってきました。法師は小僧さんに、「わたしは播磨の国から上ってきて、京の都に行く者です。しかし年をとったせいでひどく疲れてしまいました。この先とても歩けそうにありません。しばらくの間このお寺のどこかに置いてくださいませんか」と頼みました。小僧さんは、「お気の毒ですが、ここは小さな寺なのでお泊めできる部屋がありません」と言いました。

 老法師は鐘つき堂を見上げながら、「この鐘つき堂の一階は周りを板で囲ってあります。この一階に居させていただくのは、いかがでしょうか。朝と夕方に私が梯子で二階に上がって鐘をつきます」と言いました。小僧さんから話をきいたお坊さんは、「それはよい。一階にむしろを敷いて、そこでお泊りなされ」と言いました。老法師はたいそう喜びました。

 次の日の朝、この老法師が鐘をつきました。その日の昼に小僧さんがおにぎりを持って鐘つき堂にやってきました。「法師さん。おいでかね」と言って小僧さんが戸をあけると、老法師が死んだように手足を伸ばしていました。小僧さんは驚きました。お坊さんの所へ飛んでいって、「老法師が死んでいます。どうしましょう」と告げました。お坊さんが小僧さんをつれて鐘つき堂へ行き、戸を細目にあけてのぞいてみると、本当に老法師が倒れています。その噂をきいた村の人たちも集まって、みなが気味悪がりました。

 ちょうどそこへ若い男が二人やってきました。男たちがお坊さんに言いました。「きのう老人の法師が来ませんでしたか」と。お坊さんが、「老いた法師が来ました。しかし、今朝なくなりました」と言いました。男たちは、「これは大変なことになった」と言うや、大声で泣き出しました。お坊さんが、「あなた方はどういう人ですか。なぜそのように泣くのですか」と聞くと、二人の男は、「じつはその老いた法師はわたしたちの父親なのです。ひどく頑固な人で、何かあると、いつもこうして家出ばかりしていました。きのうまた家出したので私たちが捜していたのです。さっそく鐘つき堂に行ってみて、死んだ法師が本当に私たちの父ならば、夕方には葬りたいと思います」と言って、鐘つき堂の下に入っていきました。

 二人の男が中に入って老法師の顔を見るとすぐに、「父上はここにおいでになったのだ」と言って声を限りに泣きだしました。お坊さんや村の人たちもそれを見て同情しました。二人の男は、「こうなっては仕方がない。さっそくお葬式の用意に取りかかろう」と言って、寺を出ていきました。お坊さんや村の人たちは気味悪く思いながらも男たちに同情して涙をながしました。

 そのあと、すっかり暗くなったころに十人ほどの人が寺にやってきました。死んだ法師を人力車に乗せ、念仏を唱えながらお寺を出て行きました。鐘つき堂は本堂や屋敷から離れているので、老法師をかつぎ出すのを見ている坊さんは一人もいませんでした。村人もうす気味悪く思って、自分の家に閉じこもっていました。

 その次の日の朝のことです。お坊さんが鐘つき堂へ行ってみると、なんと「金の鐘」が消えうせています。「これは一体、どうしたことだ」と、お坊さんは驚きました。そこへ小僧さんや村の人たちがやってきました。このとき、お坊さんがようやく気づいて言いました。「あの葬式は、金の鐘を盗もうとして企んだ芝居だったのだ」と。村人たちも、「あの法師が倒れていたのも死んだふりだったにちがいない」と言いました。しかし、すでに「金の鐘」は盗まれて、鐘をつるす太い綱が垂れ下さがっているだけでした。

 ところが、その次の日の夜明けのころです。寺の小僧さんが庭を掃除していると、遠くの山の上から金色に光るものが寺にむかって飛んで来るのが見えました。光るものはどんどん寺に近づいて、寺の庭ぜんたいが金色の光で輝きました。驚いた小僧さんが本堂にいるお坊さんを庭に連れ出すと、なんと盗まれたはずの「金の鐘」が昔のように太い綱にぶらさがっているではありませんか。金色の鐘には一枚の紙がはってあり、その紙には「正直の功徳は正直者のもとで輝く」と書いてありました。

(『今昔物語集』第29巻の17を翻案)





名前
メールアドレス
スレッド名
本文
文字色
ファイル
URL
削除キー 項目の保存


Number
Pass
SYSTEM BY せっかく掲示板