《谷口雅春先生に帰りましょう・第二》

 

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【シリーズ】親子で読む物語。第18回  欲張る心をすてましょう (15674)
日時:2025年07月23日 (水) 23時01分
名前:芥川流之介

欲張る心をすてましょう


 むかしむかし、奈良の都に留志長者(るしちょうじゃ)という大金持ちの男がいました。留志長者は広い庭のなかに大きな蔵を建て、その蔵のなかにたくさんの金や銀や大判・小判をあふれるほど積んでいました。ところが留志長者は大変に欲張りな男でした。おいしいものを食べるときには召し使いの者に食べさせません。自分はいつもきれいな着物をきているのに、妻にも子にもきれいな着物を着させません。都の人たちは留志長者のことを「けちだ」「欲張りだ」といいました。その噂がときどき留志長者の耳に入ってきました。長者は少し反省しました。

 ある日、留志長者が妻に向って、「飯、酒、くだものなどを、たくさん用意をしてくれ」と言いました。妻が、「なんのために用意をするのですか」とたずねると、留志長者が「自分にとり憑いている欲張りの神をお祭りする。そうすれば自分の欲張りな心がなおるだろう」と言いました。妻は、「欲張りの心がなくなるのは良いことだ」と思って、どっさりとごちそうを作りました。長者がそれを受け取って見ていると、「だれもいない所へ行って、自分だけで食べてしまおう」という気持ちがわいてきました。留志長者は食べ物を大きな箱に入れ、徳利に酒を入れて、一人で持って森の中へ出かけてしまいました。

「一人だけで食べられる場所をさがそう」と考えた留志長者は森の中を歩きまわりました。ようやく森の奥に鳥や獣もいない所をみつけました。長者は一人でごちそうを食べはじめました。その楽しいことといったら何ものにもたとえようがありません。長者は、「人がいない所でごちそうを食べて酒を飲む。この楽しさは帝釈天のお寺にお参りするよりも楽しいことだ」とつぶやきました。帝釈天は空を飛ぶことができる少しこわい仏様です。その帝釈天が空の上から留志長者をじろっと見ました。

 留志長者が森の中でごちそうを食べているころ、帝釈天が留志長者の姿になって留志長者の家にやってきました。そして都の人たちに大声で言いました。「私は森のなかで欲張る神様を祭った。そのおかげで欲張りの心がなくなった。今からみなさんにお金や食べ物をさしあげる」と。留志長者はたくさんある蔵のすべてを開けました。まず妻と子と召し使いにお金を与えました。家の近くの人たちにも金や銀をあたえました。そこへやってきた見知らぬ人々にもお金を与えました。さらに乞食にも大判・小判をばらまきました。集まった人たちはたくさんのお金や食べ物を手に入れて、喜んで帰ってゆきました。その噂を聞いた人たちが留志長者の家に集まって、大騒ぎになりました。そこへ本物の留志長者が帰って来ました。

 留志長者が見ると、すべての蔵を開けて多くの宝物を人々が取り合っています。留志長者は驚きました。「どうしてこんなことをするのだ」とわめきました。ところが自分と同じ留志長者が人びとに宝物を分け与えています。留志長者はどうにも不思議でなりません。留志長者が「あれは化け物だ。私こそが本物の留志長者だ」と大声で叫びました。しかしそれを聞く人は誰もいません。もう一人の留志長者も声を大にして、「あの男は嘘をついている。私こそが本物の留志長者だ」と大声で叫びます。

 本物の留志長者が国王に訴え出ました。国王が見ても二人の区別がつきません。国王は役人に、「留志長者の母親ならば二人のちがいがわかるだろう。母に尋ねてみよ」と言いました。役人が母親にたずねると母親は、「私の子には腰のあたりに黒いほくろがありました。それを調べれば、どちらが本物かわかるでしょう」と言いました。

 さっそく国の役人が二人の留志長者の腰を調べました。すると二人そろって同じ場所に黒ほくろがあります。国の役人にもどうしようもありません。みんなが困り果てているときに、帝釈天が化けた留志長者はとつぜん空にのぼって消えてしまいました。一人のこった留志長者が本当の留志長者でした。しかしそのとき、留志長者のお金や食べ物は何も残っていませんでした。留志長者は本当に自分の欲張りな心を反省しました。

次の日、留志長者が目をさまして家の庭を掃除していると、すべての蔵の戸がひらいていますた。ふしぎに思った留志長者が蔵のなかをのぞくと、すべての蔵に宝物がいっぱいあふれていました。もともと人間は欲張らなければ必ず豊かになるようになっているのです。

(『宇治拾遺物語』巻六の3を翻案)





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