《谷口雅春先生に帰りましょう・第二》

 

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【シリーズ】親子で読む物語。第13回  お寺や神社を大切にしましょう。 (15653)
日時:2025年05月25日 (日) 01時09分
名前:芥川流之介

お寺や神社を大切にしましょう


むかし、江戸の神田にある貧乏長屋に源さんという職人が住んでいました。源さんは腕のよい大工で綺麗な奥さんがいました。しかし源さんの父親は年をとって亡くなり、母親は馬に蹴られて傷を負ったために寝たきりの生活でした。母の傷を治すために塗る薬は高価な薬です。源さんは一所懸命に大工の仕事をしますが、お金がたりません。

源さんは近くにある神田明神へ行って、明神様に「薬代を私にください」とお願いしました。その源さんの姿を見て、病気の母親が、「観音様も功徳があるから、浅草寺の観音様にもお願いしておくれ」と、源さんに頼みました。源さんは、「仏様のなかで観音様が一番有名なだ」と考えて、毎日、大工の仕事が終わると神田明神と浅草寺にお参りしました。ところが源さんが一週間お参りしてもお金が現れません。一か月たっても出て来ません。源さんは悲しくなりました。

とうとう源さんの奥さんが源さんに、「あなたは貧しい大工なのに、どうして毎日、明神様と観音様にお参りするのですか。お参りする時間を大工仕事にあてて、もっとお金をかせいでください。あなたのように熱心にお参りしても功徳がないのは、あなたに神様や仏様とご縁がないからです。あなたは二度とお参りしてはいけません」と言って、源さんを止めました。しかし源さんは「もう一か月はお参りをしよう」と思って、こっそりとお参りを続けました。それでもなかなか功徳があらわれません。

ついに一か月がすぎて最後の日になってしまいました。源さんが浅草寺と神田明神にお参りして、貧乏長屋へ歩いているときにもお金が出て来ません。源さんが大工道具をもって神田川に架かっている昌平橋の上を歩いていると、とつぜん奉行所から出てきた役人や侍たちが走ってきて源さんをつかまえました。

源さんが、「どうしてわたしを捕えるのですか」と尋ねると、火事で死んだ多くの遺体を墓地に運ぶ人夫が足らないので、むりやり源さんにも死体を運ばせようとして源さんをつかまえたのでした。侍たちは源さんを神田川の河原につれていき、河原に捨ててあるたくさんの死体を指さして、「これを谷中墓地に持って行って埋めて来い」と命令しました。

源さんは、「神田明神と浅草寺に二か月お参りしたのに、その功徳がこれか…」と思って、ますます悲しくなりました。しかしお奉行所の命令にさからうことはできません。源さんが死体に手をかけました。すると死体がひどく重いのです。源さんはなかなか死体を持ち上げられません。しかし侍たちが見ています。源さんは何とか死体を持ちあげました。だが、あまりに重い。源さんは侍に、「わたし一人ではとてもこの死人を遠い墓地へ持って行けません。今からこれを家に持って帰り、妻と二人で墓地へ持って行こうと思います」と言うと、侍たちが「好きなようにしろ」と言いました。

源さんは家に死人を持っていきました。奥さんが驚いて、「これはいったい何ですか」と言います。源さんは、「二人で墓地へ持って行かなければならないのだ」と言いました。奥さんは、「そら、ごらんなさい。わたしの言ったとおりでしょう。といっても、このまま放っておけませんね」と言って、源さんと二人で死体を持ちました。しかしやはり重い。二人で力を振り絞ったが、やはりひどく重いのです。

二人がふしぎに思って死体に触ってみると、なぜか非常に固い。源さんが金槌(かなづち)で死体をたたいてみると金属の音がします。奥さんが灯を近づけて釘(くぎ)で死体を突っつくと、死体の中がなにか金色に光っている。二人が灯をさらに近づけて見ると、死体のなかに大判小判がびっしりと詰まっていました。二人はどうにも不思議な気がしましたが、「これはひとえに神田明神と浅草寺の神仏が与えて下さったのにちがいない」と思って、その死体を人目につかぬよう押し入れの奥深くに隠しておきました。

その次の日の朝のことです。二人が死体を墓地に運ぼうとして押し入れの奥を見ると、なんと死体がありません。大判小判がのこっているのに死体がありません。二人がどこをどう探しても死体が見つかりません。源さんがお奉行所に行って、死体が消えてしまったことを報告しました。すると奉行所の役人たちは不思議そうな顔をして源さんを見つめながら言いました。「神田川に死体などない。墓地に死体を運ぶ仕事もまったくない。おまえは何を寝ぼけたことを言っているのだ。え~い。この忙しいときにこれ以上御用の邪魔をするものでない!」と言って、源さんを奉行所から追い払ってしまいました。


『今昔物語集』巻十六の29を翻案






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