《谷口雅春先生に帰りましょう・第二》

 

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【シリーズ】親子で読む物語。第12回  親孝行をしましょう。 (15646)
日時:2025年05月15日 (木) 17時08分
名前:芥川流之介

親孝行をしましょう

(一)
昔、武蔵の国(いまの東京都)に、仲のよいお百姓さんたちがいました。一人は貧しいお百姓で、もう一人は広い田畑を持つ庄屋さんでした。庄屋とは村のみんなのお世話をするお百姓のことです。貧しいお百姓は豊かな庄屋さんから時々お金を借りていました。そしてある日、重い病気にかかって、それでついに亡くなってしまいました。その次の年には庄屋さんも同じ病気で亡くなってしまいました。

さて、庄屋さんが亡くなってから、お百姓の息子が寝ている時の夢に、死んだ父親がやって来て、ひどく嘆きながら息子にうったえました。「私は庄屋さんからお金を借りて返さなかった。それで、こちらに庄屋さんが来てからは毎日のように『金を返せ。返せ』と責められる。これが堪えられないほど辛いから、庄屋さんの息子さんにお金を返してくれ」と。

息子さんは父親が借金をしていたことを知らなかったので、夢からさめると親戚の人たちに夢の話が本当のことかどうかを尋ねました。すると全ての親戚の人たちが、「たしかに庄屋さんから金を借りておられた」と言います。息子さんはいそいで父親が借りた金額のお金を集めて、死んだ庄屋の息子さんの家に手紙とお金を送りました。手紙には、「実は、こういう不思議な夢を見ました。私の父が借りていたお金をお返しします」と書いておきました。ところが次の日、庄屋の息子さんから同じ金額のお金と返事の手紙が届きました。その返事の手紙には、「私がこのお金をいただくことはできません。あの世で私の父があなたの父を毎日責めて苦しめている上に、またお金をいただくわけにいきません」と書いてありました。

それで百姓の息子さんはまたお金と手紙を送って言いました。「私の父がこの世で金を返さなかったからこそ、あの世であなたのお父上に責められているのです。私は自分の父親の苦しみを終わらせたいのです。このお金はどうしても受け取って下さい」と言って送りました。そのお金と手紙が庄屋の息子さんの家に届きました。しかし庄屋の息子さんにはお金を受け取る気持ちがありません。息子さんは、「お奉行様に相談してみよう」と思ってお奉行に相談しました。お奉行とは今の裁判所です。

お奉行様は、「このような珍しい話は聞いたことがない。特に、父の苦しみを消そうとする息子が持っている親孝行の心は国の宝である。今から二人の息子はその金を半分に分けて、それぞれ父のために立派な墓を造るがよい」と命じました。それで二人の息子が墓を造って自分の父親をお祭りしました。その次の日の夜のことです。百姓の息子が見た夢のなかに父親と庄屋さんが現れて、「ありがとう。ありがとう」と言って、いっしょに消えてゆきました。そのとき庄屋さんの息子さんの夢にも二人の父親が現れて、やはりお礼を言いながら消えていったということです。

                       (『沙石集』巻七の5を翻案)

(二)
おなじころに岐阜の遠山という村には五郎兵衛というお百姓さんがいました。五郎兵衛の妻が寝ていると夢のなかに亡くなった自分の父親がやって来て、「明日、この村を治める殿様が狩りをなさる。それで私の命があぶない。もし私がこの家に逃げ込んだら、私を助けてくれ。私は昔から左目の下に小さな傷があったが、今もそれは変っていない」と、少しふしぎなことを言いました。

妻は目がさめてから「ふしぎな夢をみたものだ…」と思っているうちに昼すぎになって、殿様が近くの森で鷹狩をはじめました。鷹狩とは鷹を使って雉や狐などを捕まえる狩りのことです。大勢の男たちが狩りをしている声が外から聞こえるようになったとき、一匹の雉が家の中に飛び込んできました。妻は、「私が夢に見たのは、このことかもしれない」と思って、この雉を捕まえてお釜の中に隠し、その上に蓋(ふた)をしました。そこへ狩人たちが雉を探しに家の中へ入ってきました。狩人たちは家の中をジロジロと見渡しましたが、釜の中に雉がいるとは思いもよらず、何も取らずに出て行ってしまいました。

さて、日が暮れてから五郎兵衛が畑から帰ってきたので、妻が「実は…」と話をすると五郎兵衛が釜の中から雉を取り出しました。二人がその雉をよく見ると、左目の下に小さな傷があります。二人が雉に触れても雉は恐れる様子を見せません。「さぞかし怖かったことだろうよ」と言うと、雉は涙を流して家から出ようとしません。そのあとこの話が噂になって殿様に知られてしまいました。殿様は噂を聞いたあとで、「その夫婦は実に立派な夫婦である」と感心して鷹狩の回数を減らし、五郎兵衛夫婦に広い田畑と雉の餌をお与えになりました。夫婦は長らく雉を育てながら豊かに生活したということです。

                       (『沙石集』巻第九の11を翻案)






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