《谷口雅春先生に帰りましょう・第二》

 

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【シリーズ】親子で読む物語。第6回  日本の国や社会に貢献しましょう (15605)
日時:2025年04月07日 (月) 20時30分
名前:芥川流之介

日本の国や社会に貢献しましょう


今では昔のこと、奈良に安国寺という寺がありました。その寺に一人のお坊さんが住んでいました。お坊さんは村の人たちから大変に尊敬されていて、いつも森の雑草を刈りとり、村の人たちに法華経というありがたいお経を教えていました。貧しい人が死んだときには無料で葬式をしていました。

その村には大きな池がありました。その池の中に一匹の竜が住んでいます。竜はお坊さんのお説教に心をうたれ、人間の姿に身を変えて毎日お寺にやって来てお説教を聞いていました。お坊さんは男に向って、「そなたはいつもやって来て説教を聞いているが、一体どこに住んでいるのじゃ」と尋ねました。男は自分が竜であることや池に住んでいることを正直に述べました。お坊さんは竜の気持ちがわかり、竜と親しくなろうと思いました。竜もお坊さんと親しくすることを約束しました。やがて、この噂が世間に広がっていきました。

ちょうどそのころのことです。日本の国が日照りつづきでまったく雨が降らず、米や野菜は全滅寸前という状態になってしまいました。身分の貴い人も賤しい人も、ひどく嘆き苦しみました。すると、ある人が左大臣に言いました。「奈良に安国寺という寺があり、その寺に住んでいるお坊さんは竜と仲がよく、何年ものあいだ親しくつきあっております。竜は雲を呼んで空を飛び、自由に雨を降らすことができるそうです。安国寺の坊さんと親しい竜が雨を降らせてくれれば、全滅寸前の米や野菜が生き返るでしょう。ぜひ、その坊さんをお呼びになり、『竜に雨を降らすように頼め』とお命じください」と。

左大臣はそれを聞くとひどく喜び、さっそくお坊さんを呼びつけました。お坊さんは何事かと恐る恐る役所にうかがいました。左大臣はお坊さんに命令しました。
「お前は長年お経をよみ、説教をいたしておるゆえに竜がいつもそこに来て熱心に教えを聞いているというではないか。そしてその竜は、お前と非常に仲がよいという評判である。ところで現在、日本国内は日照りつづきで穀物はみな枯れようとしている。国民の嘆きこれに過ぎるものはない。

お前はただちにお経を読んで説教せよ。そうすれば、その竜は必ずやって来るであろう。その時おまえは竜に頼み、雨を降らせるようにせよ。もしそれができねば、多くの者が飢えて死ぬことになる。よって、お前を追放して日本に住めないようにする」と。

お坊さんはこの命令を承ってひどく驚き、お寺に帰ってから竜を呼んで事情を話しました。すると竜が言いました。
「私は長年お説教を聞いて自分の悪業による苦しみが去り、安楽の毎日をすごしております。だからこの身をすててお聖人様のご恩に報いようと思います。ただ…この雨が降らぬことは私が原因ではありません。地獄の大王が雨を降らさないのです。それなのに私が天にのぼって雨の戸を開くならば、たちまち私は大王に首を斬られてしまうでしょう。

しかし私はこれから三日のあいだ雨を降らせましょう。そのあと私は殺されるでしょう。お聖人様。どうかわたしの死骸を捜し出して土の中に埋め、その上にお寺を建ててください。その場所というのは、この安国寺の西の山の上に一つの池があります。そこなのです。そこへ行ってみてください。この約束を守ってくださるのならば、わたしは三日連続で雨を降らせましょう」と。

お坊さんはこれを聞いて嘆きましたが左大臣の命令なので逆らえません。竜の遺言を承知して、泣く泣く竜と別れました。次の日にお坊さんはこのことを左大臣に報告しました。左大臣はそれを聞いて喜び、雨が降るのを楽しみにしました。そして竜が約束した日になりました。朝が来るやにわかに空が曇り、稲光がひらめき、雷鳴が響くと同時に激しい雨が降ってきました。それが三日三晩つづきました。日本の国全体に水が満ちあふれ、すべての草木が生き返り、豊かにたわわに実りました。左大臣や天皇陛下はたいへんお喜びになりました。役人たちや一般の人たちもみなこの上なく喜んだのでした。

その後、お坊さんが竜の遺言に従って西の山の峰にのぼってみると、竜が言ったとおりに一つの池がありました。その水の色は真赤でした。池の中では竜がずたずたに切られて死んでいました。竜の血が池にあふれて真赤になっているのでありました。お坊さんはそれを見て、泣く泣くその死骸を土に埋め、その上に小さな寺を建てました。

お坊さんが寺の中で法華経を読んでいると池の水が透きとおった色に変わり、水の中に鯉や亀が現われて気持ち良さそうに泳ぎはじめました。そのとき遠くの山の上で雷鳴がとどろきました。お坊さんが空を見上げると、雲に乗った竜が三回稲光を輝かせ、山の彼方へスーッと飛んで行き、しだいに小さくなって、ついに姿が見えなくなったのでありました。


(『今昔物語集』巻第十三の33を翻案)





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