《谷口雅春先生に帰りましょう・第二》

 

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谷口雅春先生に帰りましょう・伝統板・第二
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笑いま小説。吾輩は神の子無限力である。 (13960)
日時:2022年01月06日 (木) 12時19分
名前:夏目偽漱石

吾輩は神の子である。名前はまだ無い。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。

それも道理である。神の子は神であって神が生まれる場所のあるはずはない。

吾輩が幼いとき生命学園というところで少し話を聞いてたくさん遊んだ。

あとで聞くと大人たちは本当は少し遊ばせてたくさん聞かせたかったそうだが、吾輩たちは遊ぶことに無限力を発揮した。

教化部とか呼ばれる木造ニ階建ての二階で走りまくったから、下の事務室にいるオジサンが何度も「静かにしろ」と怒ってきた。

吾輩たちは一旦静かになってまたすぐに走りまわった。また叱られたが吾輩たちは屈しなかった。人間神の子無限力である。

そのうち高校生になったから生高連というところに加入した。吾輩の県は田舎だったからそのとき県全体の会員はせいぜい10人ほどだったが、十年ほどまえには50人ほどの会員がいたということだった。

吾輩が高校三年生になったときには会員がさらに減って常連の者は二人になっていた。そのうちの一人は次第に集会に来なくなったので県の委員長を決める時に自然と吾輩が委員長になった。

吾輩はなにもせずに県で一番になった。人間神の子無限力である。

委員長になってから「昔のように会員を50人にしよう」と決意した。

そのころ東京の本部から「生高連育成本部長」とか何とかいう偉いさんがわざわざ来てくれて教化部で講話をしてくださるということがあった。

委員長の吾輩はたくさんの仲間を集めて偉いさんを迎えようと奮闘したが、もともと2名の常連会員だった県だから講話を聴きに来てくれたのは6名だけだった。

本部から派遣された偉いさんは部屋に入って吾輩たちを見るや少し驚いたような顔をして、それでも静かに話をはじめた。

吾輩はなぜ偉いさんが驚いたような顔をしたのかわからずに話を聞いていたが、話が終わったあとで吾輩は県の「生高連育成部長」のおにいさんから呼びつけれられ、偉いさんの目の前で叱られた。それでようやく偉いさんが初めに驚いた顔をした理由がわかった。

吾輩は叱られたが常連2名の会員を6名に増やして三倍にした。自民党ならば現在370人の国会議員が1110人になり、国会議員全体の710人をはるかに上回る独裁権力を握ることになる。

人間神の子無限力。

そのあと大学に進学することになった。

そこで生学連(生長の家学生会全国総連合)の面々と遭遇することになった。

これが大変な面々だったのである。



吾輩は神の子無限力である。(その弐) (13961)
日時:2022年01月06日 (木) 12時24分
名前:夏目偽漱石

吾輩が進んだ大学は田舎大学だったが、そのころは都会も田舎も大学は左翼学生たちが「大学を革命の拠点に」を合言葉として暴れまわっていた。

吾輩の田舎大学も日共系と新左翼のセクトが大学を牛耳っていて「人間神の子」を宣布する学生はないに等しい状態だった。

しかし吾輩が生高連の委員長だったことを知った隣県の生学連メンバーがわざわざ会いに来て話をしてくれた。

それはいわゆるオルグ活動だったのだが、田舎者には全国の大学がどれほど異常な状態であるかを具体的に教えてくれる刺激的な内容だった。

吾輩は今の生長の家とちがって「尊皇・敬神・愛国」をモットーとする「人間神の子」を標榜する生長の家に感化されたから「尊皇」と「無限力」の血が騒いだ。一年生だった吾輩は生学連の全国集会や大学生練成会に参加した。

ところがそのころの生学連は政治活動に熱心で、吾輩のように田舎の生長の家、「合掌ありがとうございます。みんな神の子大調和…」を語る生長の家とは少し感触が違っていた。

「生学連は少しおかしいのではないか。政治に走りすぎているのではないか…」

田舎者は生学連や生学連を指導する青年会中央部に疑問を抱いた。

そこへ「神の子無限力」の言葉が頭に浮かんだ。

吾輩は、「生学連と青年会中央部が生長の家の教えを捻じ曲げるのならば、吾輩が生学連を潰してやる」と勝手に決意した。

ところが、吾輩が生学連の首都圏ブロックの集会に参加していたときに日大の七回生だったか八回生だったKさんが吾輩たち新入りの学生に向かって、

「生学連は単なる学生運動ではない。生長の家の教えを実行して日本を守る運動体だ。生長の家は『天地一切のものに感謝せよ』と教えている。君達。鉄パイプを振りかざして自分に向かってくる左翼過激派に合掌して感謝できるか!」と、質問というか説教をした。

それを言われた新入りたちは何も言えずに黙ってしまった。

「そんなこと、できるはずがない。」

相手の過激派はこちらをゴキブリのように思って、「右翼を殺しても社会のためになる」と本気で信じている連中である。「その連中に対して、合掌ありがとうございます…」

人間神の子無限力とはいっても、これは無理な命令だ。

これが禅宗の問答ならば返答を間違えたり答えられなかったりしても、せいぜい老師から「喝!」を入れられたり、警策や金剛棒で引っぱたかれるだけだ。

しかし相手が過激派の場合は合掌したまま頭を鉄パイプで殴られることになる。実際に怪我を負った先輩もいたとのこと…。

吾輩は思った。「生長の家は無茶苦茶な教えだ。しかし大学を革命の拠点とする左翼を抑えて大学を正常化しようとすればこうなるのは避けられない。必然だ…」

そうかといって、生学連の活動が危険だから生学連を去る…というのは癪にさわる。そもそも人間神の子無限力のはずだ。

人間は神の子無限力。

吾輩は生学連の集会に参加を続け、高校生練成会の裏方を本部派遣の青年局員といっしょに担当して青年会中央部の真意を探った。



吾輩は神の子無限力である。(その参) (13962)
日時:2022年01月06日 (木) 12時34分
名前:夏目偽漱石

原宿本部の地下にあった生学連首都圏ブロックの部屋で異様な光景を眼にした。

さきのKさんが東大の一年生に部屋の掃除をさせてこき使い、しかしその東大生の質問に答えて日本の歴史や天皇のこと、さらに生長の家の教えなどを丁寧に教えていたのである。

そのころの日大は今とちがって、「日本三大バ〇大学の一つ」と呼ばれることもあった。吾輩の少し前のころには「ポンキンカン」とも呼ばれた。ポン大は麻雀ばかりしているバ〇が入る日本大学。キン大は近畿大学。カン大は関西大学。今は三大学ともバ〇では入学できない大学だが、吾輩が大学一年生のころはそのような意識がないわけでもなかった。

その日大のKさんが東大の学生に掃除をさせてこき使い、しかし東大生に親切に教えていたのである。

吾輩はその様子を見た瞬間、それまでのいわゆる偏差値序列で大学をランク付けする考え方を粉砕された。

「これが本当の学問だ。これが実現している大学が本当の大学だ。これを全国の大学に実現しようとしているKさんの態度は間違っていない!」と、神の子無限力が吾輩に語った。

またそのころ、吾輩は隣の県の高校生練成会の裏方を本部派遣のHさんといっしょに務めることがあった。

Hさんは吾輩が属する生学連ブロックの先輩に当たる人だが、小柄であるにもかかわらず堂々としていてしかし偉ぶるようなところは全くなく、自然体でありながらいつも神の子の雰囲気を放射しているような人だった。

高校生練成会が終わって、Hさんが「打ち上げをしよう」とおっしゃったので、内心それを期待していた吾輩は喜んで酒や肴の買い出しに出向いた。

場所はその県の教化部の近くにある仲間が下宿しているアパートの一室である。

そこでHさんと酒を酌み交わし、Hさんが昔の生学連メンバーの逸話や武勇伝を語るのを聞いているうちに、本物の生学連メンバーはみな左翼と戦いながらも左翼学生に合掌する精神を棄てていない人たちばかりであることを感じた。

さらにHさんの気宇壮大な話をうかがっているうちに、吾輩のなかの人間神の子無限力が動きだした。

「これならば本物の生長の家だ」
「これは谷口雅春先生の悲願を実現しようとする活動だ」
と、神の子無限力が吾輩にささやいた。

さらに、
「大学で左翼集団と対峙したことのない青年会の人や白鳩会のお母さんには解ってもらえないかもしれないが、これは教えの極限を生きる活動だ」
とも語った。

吾輩は二年生になったころ本格的に生学連の活動にのめり込んだ。生学連の活動や生学連と関係ないこと、偉大なことや阿呆なことをたくさん仕出かした。




吾輩は神の子無限力である。(その四) (13963)
日時:2022年01月06日 (木) 13時42分
名前:夏目偽漱石

これは生学連と関係のない阿呆なことだが、吾輩が二回生のとき、ある地方のある小学校が平日なのに朝から児童を教室で自習させたまま、先生全員が職員室に集まって、「なんたらかんたら反対集会」というのを開いて、児童を一日中教室に放っておくらしいという情報が入った。

吾輩は詳しい事情を知らなかったが、その小学校の親の一人が喫茶店を経営していて、たまたま飲みに来ていた客に、
「うちの子供の学校の先生がネ、来週ストライキをするっていうのだよ。どんな理由があるのか知らないが、なんとかならないのかねえ。」
とグチった。

それを聞いた客の一人が地元の学生だった。学生がマスターから詳しく話を聞くと、どう見ても違法ストである。しかし親が先生に文句を言うと、その子があとで担任から虐められる可能性がある。親は子供を人質に取られたようなもので、誰も文句を言わないということらしい。

その某教職員組合の先生に言わせれば、いろいろ理由はあったのだろう。だが、学校の教員が子供を教室に放置して違法ストライキを行うなどは到底認められなかった。

「違法ストをする先生は、先生の資格なし!」
地元の学生たちは意志の一致を確認して、一週間後の違法ストを潰す方策を考え出した。

これは先生たちを一網打尽にして全員に授業をさせるのが目的だから、先生全員が集まっている職員室へ踏み込まなければならない。時間は一限目終了後の休み時間がベストだ。

一限目に授業をしなかった証拠を握っておいて、職員室に踏み込む。これをするのが一限目より前だと、「これから授業をします。」と、かわされる。昼休みだと、「昼は児童を帰宅させるから、授業できません。」と、誤魔化される。 

それで、喫茶店のマスターに、父兄代表としてスト破りに協力してくれるよう学生が頼んだ。マスターは、子供が六年生で先が長くないからということで協力を約束してくれたということだ。それから、この小学校の先生の中にたまたまストに反対の先生が一人いたので、この先生を説得して協力を約束してもらった。 

この先生は素知らぬ顔で初めから学校にいて、ストにも参加する。そして一限目が終わった休み時間に、学生たちが突然職員室になだれ込む。なだれこんだら、出入り口は体育会系の学生が固める。同時にガラス窓も鍵をかけて学生が張り付く。次に電話機は学生3人が押さえて、先生には絶対わたさない。当時は携帯電話が無かったから、これで外部との連絡を遮断できる。

これと並行して、学生代表が校長に声明文を読み上げて手渡す。続いて喫茶店のマスターに親代表として先生たちに抗議してもらう。これをしないと単なる暴力団になってしまう。続いて内通教師が我々学生に向かって、
「なんだ、お前たちは。そのように偉そうなことを言うのならば、法律を守って抗議しろ。」
と、怒鳴る。

それに対して学生が、
「違法ストをしていて、なにが法律を守れだ!」
と言い返す。即座に内通教師が学生を叩く。

叩くのを合図に、学生全員が個々の先生に抗議する。一人の先生に必ず3人は付いて、ストの反省と授業にもどることを誓わせる。もっとも、先生が反省しても部屋の外へは出さない。外へ出すと警察に通報される恐れがある。

そのかわりに内通教師が怒って校長に詰め寄る。
「俺が違法ストに反対だと言い続けてきたのにストに突入して、しかし暴力学生に脅されたらストを止めるのか。俺のようにまともな教師と、こいつらのように狂った学生と、どちらの言い分が正当だと思っているのか。こうなったら、殺されてもストを止めない。」
と、ゴネる。

要は、先生たちを外へ出さず、
「違法ストに対して世間の目が光っているぞ」
と、脅しになればよい。

…という計画ができあがったあとで吾輩に地元の学生から電話があって協力を依頼された。

吾輩はその地方から遠い大学の学生だったが、声をかけてきた学生とは同郷の友人だったので即座に快諾した。そしてスト前日に新幹線でその地方に潜入した。




吾輩は神の子無限力である。(その五) (13966)
日時:2022年01月07日 (金) 12時21分
名前:夏目偽漱石

吾輩は日〇組の違法スト潰しを決行する前日に、懇意にしている同郷友人の部屋に立ち寄って一晩泊めてもらった。

その部屋には東京の青山学院大学のメンバーも泊まりに来ていた。この男は今、編集者をしていて、自分の出版した本が賞を取ったこともあるクールな切れ者だった。

6畳の部屋に3名が転がって、互いの大学の様子や自分のしていること、さらに国家社会をどう考えているかなど、今の若者が聞いたら異星人かと思うようなことを語りあった。夜が更けてくると、眠い者から勝手に寝転がって寝た。

翌朝、友人が吾輩に、
「君は遠い交通費がかかっているから。」
といって、朝メシを食わせてくれた。

そして、目指す小学校の近くの駅に全員が集合。あとで警察に追われて逃げることがあるかもしれないから、近くの駅の切符を買っておき、10分ほど歩いて小学校の正門前に到着した。そこで何気ない顔でたむろしているうちに、職員室を偵察に行った一人が手を上げた。

「それっ!」と、50人ほどが正面玄関から職員室になだれ込み、出入り口をふさぎ、窓を閉め、先生たちが外へ出られないように取り囲んだ。中にいた先生たちは、突然のことで何が起ったのか理解できず、ポカンとしていた。 

さっそく学生代表と喫茶店のマスターが校長を捕まえ、まず学生代表が大声で抗議文を読み上げた。読んでいるうちに事態を理解した先生たちが、
「なんだ。君たちは。暴力団か街宣右翼か!」
「帰りなさい!」
と叫んだ。

吾輩たちは、
「違法ストをしていて、なにが先生だ!」
「子供の気持ちを考えたこと、あるのか!」
「親も来ているのだ!」
「あんたらこそ教室へ帰れよ!」
と、三倍にして言い返した。これで、先生たちは何も言わなくなった。

学生代表が抗議文をむりやり校長に手渡すと、気の毒なことに、校長は青ざめていた。学生の抗議を認めてストを中止すれば、あとで組合から反発される。学生の要求を認めなければ学生たちが暴れる。どちらにしても校長の管理責任が問われる。

学生代表に続いて喫茶店のマスターが声を絞って訴えた。マスターは、
「子供のことを考えてほしい。」
というようなことを先生全員に向かって話した。

マスターが話している時、突然、
「ふざけるな!」
と、男の先生が大声で叫んだ。内通教師である。
「学校には、学生には分からない事情があるんだ。素人は引っ込んでいろ!」
と、怒鳴った。

それに対して学生の一人が、
「そういう独善的なことを言っているから、学校は親の気持ちが分からなくなっているんだ!」
「そうだ。そうだ!」
「あんたは明日、子供たちに顔を合わせられるのか!」
とやり返した。 

内通教師が力一杯学生の頬をひっぱたいた。バシーンと、ものすごい音がして、学生の鼻血が飛んだ。先生は本気で叩いたのだ。学生は鼻を押さえて職員室から出ていった。

吾輩たちは音を合図に各個撃破に移った。吾輩は目の前にいた若い女の先生に、
「先生はどういうつもりで、ここに居るんだ」
と、詰め寄った。

見ると、新卒らしい女の先生は既にうつむいて半分泣きかけていた。吾輩は敗者をいたぶるのは趣味に合わないから、
「お願いだから、授業をしてくださいよ。」
「先生ご自身の問題なんですよ。」
と、ジェントルマンで迫った。近くで見ると、きれいな先生だった。

吾輩がなお、「法律を無視していて、児童生徒に道徳を教えられるのですか?」と説得していて、ふと気がつくと、この女の先生の周囲に予定の二倍の6人も学生が集まっていた。その一方で、中年のおばさん先生の所には誰も付いていなかった。

そんなこんなで、吾輩たちが言いたい放題を言って、中には
「反日集団、日○組解体!」
と叫ぶ奴もいて、本当に街宣右翼のようになっていたころ、突然、外を見張っていた仲間が職員室に飛び込んできて言った。
「機動隊が来た!」
この一言で、職員室はシーンとなった。

吾輩が窓ガラスを通して外を見ると、ジュラルミンの盾を持った隊員が二列に隊列を組んで、こちらへ迫ってきていた。




吾輩は神の子無限力である。(その六)  (13967)
日時:2022年01月08日 (土) 11時55分
名前:夏目偽漱石

友人たちの計画ではせいぜい警察を相手にするだけで、機動隊が出てくる想定はなかった。

だが、吾輩がガラス戸を通して外を見ると、ジュラルミンの盾を持った隊員が二列に隊列を組んで、こちらへ迫ってきていた。全員が、象が踏んでも潰れないといわれるブーツを履き、強化プラスチックが顔面を覆ったヘルメットを被っていた。

学生代表は、「まずいことになった。」という顔だった。殴り合って勝てる相手ではない。ここで機動隊に逮捕されて組織を壊すよりも、一旦逃走して組織を守る方が賢明だ。

代表は学生全員に、「転進!」と命令した。「転進」とは、旧日本軍が「退却」というのが悔しくて、苦し紛れに使った言葉である。

吾輩たちは、
「今度違法ストをやったら、裁判に訴えるぞ!」
「ひごろ自衛隊や機動隊の悪口しか言わないくせに、おまえら機動隊に頼るのか!」
「自己矛盾!」
「それでも教師か!」
と、言いたい放題を言って職員室を出た。だが、正門前へ出てみたら、機動隊との距離はほとんどなかった。

軍隊の先頭の髭おやじが吾輩たちに指揮棒を向けて、「不法侵入。監禁。逮捕!」とか宣言すると、ジュラルミンの集団が吾輩たちに向かってきた。

たまたま機動隊から逃げやすい方向に駅があったので、吾輩たちは脱兎のごとく駅のある方向へ駆けだした。駅までは歩いて10分ほどの距離である。

5分も逃げれば駅の雑踏に紛れ込める。雑踏に紛れ込んだら電車に飛び乗り、ドアが閉まればこっちのものである。警察権力に電車を止める力はない。電車が動いてしまえば、あとは次の駅でまた雑踏に飛び込んで、完全に私服の尾行をまく。吾輩は駅めがけて全力で走った。

駅が見えてくるまでの間、吾輩の背後に隊員の足音を感じることはなかった。機動隊員は分厚いブーツを履き、重い楯を持っている者もいるからスピードが出ないのだ。

吾輩は駅に入ると電車に飛び乗った。運よく電車はすぐに発車した。吾輩が車内に隊員がいないかを確認していると、少し離れたところに、吾輩と同じように息を切らせて周囲を確かめている奴がいた。仲間かと思ったが、私服の可能性もあるので、その男からも遠ざかって人混みの中に入った。

電車は5分ほどで隣の駅に着いた。吾輩は人混みにもまれて、そのまま人込みと一緒に流れて、後ろを付けている者がいないか何度も確認して、昨夜泊まった友人の部屋にもどった。

「おう、君も逃げ切ったか。」
と、友人が吾輩に言った。
吾輩が、「みな逃げ切ったのかな。」
と言うと、友人は
「Sが捕まった。」
と言った。Sは新潟大学の学生だった。吾輩はSの親が保証人として遠い田舎から来てくれるのか、気になった。

「Sの親は、急には来られないから、代表が保証人として警察へ行って、保釈請求をする。」と部屋の主が言った。「保釈金は十万円かかるらしい。今、資金カンパを呼びかけている。僕は一万円出すが、君は出せるか。」と、吾輩に聞いてきた。

吾輩は財布の中には自信がなかったが、田舎への帰りに新幹線を使わず、在来線でチンタラ帰れば五千円ほど浮くので、小を五枚渡した。

Sは、結局ブタ箱に一泊二日して、十万円で釈放された。後日談だが、Sは履歴書に傷が付いたにもかかわらず、大学卒業後すぐに都内の私立高校に就職した。そのころ教員採用試験はどの都道府県でも倍率が十倍以上あったのに、である。

人間神の子無限力


(少し休んで続けます)





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