「私は、日本人の一人として、松任谷由実さんと同じ思いを抱く。それを醜態と言われても一向に構わない。」 上島嘉郎氏 (12590) |
- 日時:2020年09月04日 (金) 10時35分
名前:コスモス
上島嘉郎
https://www.facebook.com/ykamijima/posts/3188838907877970
安倍晋三総理が病気による辞任を表明し、その後あれよあれよという間に後任の自民党総裁に菅義偉官房長官が選ばれる流れとなっている。ここでは、政局については措く。 ――とにかく、安倍さん、長きにわたって御苦労さまでした。国民の一人として粉骨されたことに感謝申し上げます。
松任谷由美さんがニッポン放送のラジオ番組で、安倍総理の辞任記者会見を見て切なくなった、と語ったという。 それに対し、こうフェイスブックに投稿した政治学者がいる。
「荒井由実のまま夭折(ようせつ)すべきだったね。本当に、醜態をさらすより、早く死んだほうがいいと思います」
京都精華大学の専任講師白井聡氏だ。氏は朝日新聞の言論サイト「論座」で「安倍政権の7年余りとは、日本史上の汚点である」(8月30日)と書き、「安倍政権を総括する」というこの連載はしばらく続くらしい。
白井氏は、安倍政権を多くの日本人が支持してきたことは「耐え難い苦痛」で、支持者に「嫌悪感」を持つという。さらに、氏の隣人たちが安倍政権を支持している事実は「己の知性と倫理の基準からして絶対に許容できない」とも。
いやはや言葉を失う。 私は、安倍政権を基本的に支持してきたが、同時に安倍政権の批判は大いにやったよいとも発言してきた。
ただし、それは我が国の名誉と利益、垂直的な存在としての国民――今生きている我々だけではない御先祖、未来の同胞を含めた――意識のもとになされる「あるべき批判」で、事の本質や軽重をわきまえなければならない。
マスメディアの多くが「民意」を盾に執拗に重ねた安倍批判には、それが大きく欠けていた。
憲法改正を自らの内閣の具体的な目標に掲げた戦後初の総理が安倍氏だった。「戦後体制」の守護者を任じる朝日新聞が敵意と憎悪を剥き出しにするのは当然といえ、ために、その批判には知性も倫理感も感じられないものが多かった。
「戦後レジームからの脱却」を正面に掲げた第一次政権に、私を含め保守派の期待は大いに高まった。乾坤一擲の内閣ができたと思った。
だが、戦後レジームの壁はあまりに強固だった。その壁の前に苦吟して、安倍氏は「匍匐(ほふく)前進」しかできないことを覚ったのだろう。自民党の中にも真の味方はごく僅かしかいないことを思い知らされた。
「戦後レジームからの脱却」は果たし得ない目的なのか…。
第二次政権以降も、実は、戦後日本が挑むべき根本課題に対して「安倍一強」などという内実はなかった。それは安倍氏自身が最も感じていたはずだ。
何より過半数以上の国民が「根本課題」に無関心か、勘違いを続けてきたのが戦後という時間で、安倍氏はその「民意」の中で政策の幅を決め、連携可能な相手を探すしかなかった。
期待の高さゆえに保守派は常に安倍氏に「こんなものか」という落胆を感じたが、戦後の日本で「保守」の態度を続けることは、常に少数の側にいることを自覚しなければならない。暮らしにおける保守の態度は、必ずしも政治選択においても保守であるとは限らない。
第二次安倍政権が発足したとき、私は、〈安倍晋三、「救国」宰相の試練〉と題する『別冊正論』を世に出した。
「戦後レジームからの脱却」が日本の根本課題として浮上すると、これに反対する勢力が内外で大きな声を張り上げる。閉された言語空間≠フ中で、「平和」や「人権」などといった記号化された言葉を以て日本を独立国たらしめないとする力がはたらく。
安倍政権の歴史的意味は、それを乗り越えてゆくことにあった。第二次以後7年8カ月にわたる長期政権となったが、それすら長い道のりへの序曲でしかなかった。「未完の日本」は続く――。
第一次政権発足のとき、故佐々淳行氏がこう嘆息したという。 「弁慶がいない。困ったなあ。」 再び辞任する安倍氏の会見を見ていて、それを思い出した。
「戦後体制」という平氏を打ち倒す使命をもって登場した安倍義経には、源義経に付き随った武蔵坊弁慶のような存在がいない。当時の自民党という陣屋を見ると、弁慶がいなくて、朝日新聞をはじめマスメディアに袋叩きにされる安倍氏をみなで見殺しにした。国民もただ見物していただけだった…。
芝居の世界には一幕物があるが、人間の一生も、国家の歩みも、一幕限りではない。第二幕、第三幕がある。安倍氏は民主党政権を倒して復活した。そして、多くの成果と無念を残して、また舞台から去ってゆく。今後しばらくは治療に努め、是非体調を回復させていただきたいと思う。
私は、日本人の一人として、松任谷由実さんと同じ思いを抱く。それを醜態と言われても一向に構わない。
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