| [9612] Cage garden 9 |
- A・Y - 2008年03月21日 (金) 16時21分
美歌「ボーカロイドって凄いわねぇ。最初ただのニコニコ看板とかネタとか萌えしか認識してなかったけど」 美音「最近になって気付きましたよね」 美歌「正に電子の歌声ね。本格的なものほど人間の領域を超えてるわ」 美音「今も聴きながら作業しています」
response to 宙さん なるほど。観戦側ですか。ゲーセンの音はよく偏ってるからねぇw そういや女の子ばっかりだった。エイロネイアは正直ですよ。ふざけてるけど。 もう逃げ切れるかどうか分かんない位近くに来てるけどね。>破壊 タイラストは普通のカタアリですよ。(普通って言葉は案外便利)
美歌「ところでまた朝に寝ちゃうのかしら」 美音「今日こそ徹夜覚悟ですね。本気かかってますから」 美歌「そゆこと」 美音「では、ENTERです」
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「はす」 「はい……」 「お疲れでしょう。しばらく休養なさい」
それは、予想の内にある言葉だったのだろうか。
「浜木綿さんが、藤宮人さんと一緒に唐突に眩まして、あなたもここ数日気が滅入ったでございましょう? 先程から眠気の拭えない様子が見えます。今から数時間程休憩を与えますから、午睡なさい」
美歌もここは乗れ、一つの命令だ、と伝えるので、リューサは頷いた。
花が気になった。 突然だが美歌はそう思った。 腹が空いたという自然現象と違うようで、似た欲求。 なんだろう、と美歌は疑問を持つ。大体、花といってもどんな花だ。と美歌は訝しんだ。 少し後ろを見やると、彼が自分の胸を押さえるような仕種をしていた。
「……姉さん?」 「……ん?」 「どうしましたか?」 「な、なんでもないわよ?」
花が気になる。 華爪の花なのかと考えた。とても近い筈だ。 美歌は紅茶を飲んで思考を巡らせた。 けれど、答えが出ない。霧が吹き付けてきたような、荊に囲まれてしまったような。
「…………?」
美歌は、まだ気付かない。 後ろの白い影が、焦燥と苦痛に堪えていることを。
はすの部屋に戻る。……訪れるか、リューサの場合は。 侍女達の共同寝屋とは違い、彼女は自室があった。一応華爪の一族故か。 はす当人の説明で、リューサは手間取らなくその部屋に辿り着けた。 落ち着きのある少女らしい部屋だ。こざっぱりと整えてあり、鉢植えの花は小さいが目に優しいものばかり。 窓枠の机には奥に十冊くらいの本が並べられ、やや手前には小さな花瓶と写真立てがあった。 写真にははすと知らない青年と少年の三人。はすに似た青年は兄の浜木綿だろう。 では兄妹と一緒に居る少年は、藤宮人か。……きっとそうだ。尋ねなくても、代理家元に似ているから分かる。 三人は仲睦まじい関係をその写真の中に納めていた。 彼らに微笑ましさを貰って、リューサは通信機の向こう側に話しかける。
「……とりあえず、お言葉に甘えさせて貰ってよかったのでしょうか?」 『うーん。代理家元さんの目を見てないから分からないけど。……バレたと思う?』 「何を?」 『変装』 「なっ……そんなことありません!」 『そっか……。リューサちゃんの声が、緊張の度合い高々だったからね』 「見えなくても、声で判断出来るんですね……」 『自信も程ほどにね。……とりあえず横になんなさい。こっちも静かにしてるから』 「……そういえば、美歌さんもどうかしましたか?」 『え?なんにもないわよ』 「はぁ、気のせいですか?」 『気のせい気のせい。とかくアンタは気を使い過ぎ。いいから休んどきなさい』
何にせよ、仮眠する時間を拝借できたのはリューサにとっては美味しい。 しかし、美歌の言うとおり隙は見せないようにしよう。 リューサは布団を敷く前に、専用の道具を出した。 考えられる事態に対応する為に。
窓から、橙色の光が差していた。 そろそろ、夕刻か。
「食パン様。統堂院様。シュバルツベッケンバウアー様」
三人の青年が我が物顔で華爪家の門を潜った。 其の前に黒塗りのベンツから降りて来た。 身なりの整った、僧侶のような学生服。 彼らは有名な資産家の子息だとか。
「ご多忙の中、またこのような黄昏間近の時間に、ようこそお越し下さいました」 「わざわざ来てやったんだ。それなりに持て成せよ」
傲慢な態度だが、黙って傅くのが正しい対処である。実際この彼女らの主が頭を下げているのだから。 どうやら代理家元が招待したようだ。 しかし何故また急に?予定の入ってない賓客だった。 ただでさえ客が続く今日になって。下働くもの達の仕事を増やすなんて。 当然、侍女如きの疑念・文句は心に吐くだけで、当人達の口に出すなんて幼稚な真似はしない。 態度に表すだけでもう使用人失格し、邸から叩き出されるのだ。
「食パン様」 「ほぉ……これは」
用意した花束を渡す。 最初と二番目とは違って、花束を用意してからの出迎えだった。 代理家元からの指示だ。きっとこちらが召喚する際の礼儀なのだろう。
「受け取って、下さいますか」 「――――いいでしょう」
その名が示す頭をした非人間型は、けれど鋭く整えた双眸を細めて。口に笑みを形作って。 代理家元の花束を受け取った。
ちなみにこの侍女。一般からの雇われ者で、花は好きだが博識ではない。 だからその意味も知らなかったし、彼らを呼んだ目的も悟らなかった。
「――――あ……?」 ……匂わなくなった。
美歌は席を立って部屋から出た。 駆け足で。後ろから美音の「姉さんっ!?」って驚嘆の声がしたが、止まらない。止まれない。止められない。
走って辿り着いた場所は外、いやまだ王宮の中。王宮の中庭。 華爪家ほどじゃないけど、此処も公園並みに広くて様々な花がある庭園。 美歌の部屋から大した距離じゃないのに、息が上がってる。
探しているのは、どんな花? 薔薇の筈だ。『私の好きな彼の花だ』。 ローズ・ピンク。美歌も好きな色。『私の見たかった色』。 傾いた日に当てられると、真っ赤になった娘のような、愛らしく紅くなって。『赤はこんなに愛しい色だったと知った』。
見つけた。ローズ・ピンク。 今日も愛らしく微笑んでいる。 『私はやはり、何もなかったんだねと撫でようとした』。
――――そして、愕然とする。
薔薇の鮮やかさが、今にも消え失せそうなことに。
「……お姉さん…?」
美音が姉に追いついた。はすも付いて来ていた。 美歌の様子がおかしいのは、誰の目にも明らかだった。 どんな風に声を掛ければいいのか、まるで見当が付かない。
そうだ。今に気付いた。 もう少し早く気付ければ、良かったのに。 こんな今更になって。
赤と金に煌めきながら、この一帯の地上に今日必要な光を与え、そろそろ闇を返そうとする。 美歌の手は、その丸い光を掴もうとしているようだった。 実際は違う。こんな日星じゃなくて、もっと大切な。
「き……く……きく……」 「姉さん……?」
風が伝えていたものは 愛しい花の香り どんなに遠くても届く この大気の下なら だってそれは、無事平穏な其処にあるから
途絶えてしまった。ということは 消えてしまった。ということは ……いや、まだ、失った、訳ではない。 まだ、間に合う筈だ。 でも、もうすぐ、あの花が、消えようとしている。 この大気の下から、大地の上から、何処にもいなくなる――――!
「…『…菊之丞…』…が……」
一瞬、聞こえた美歌と違う声。 はすは首を傾げた。 精神状態が昂ぶっている人間の声は日常と様変わりすることが多い。特に女は高さと低さが激しい。 それを考慮しても、その声は違っていた。 まるで他人が乗り移ったかのような声色だった。 幻聴か迷ったその時、もう一度聴いた瞬間、確信に傾いた。
「……どうしたんですか!?」 「菊之丞が…『…危ない……!!!』」
人の肉声であって、人にはまず出せない声。 反響もしない屋外で、その声は深く幾重に重なるようにして、はすの耳に届いた。 マイク等の機械を使えば、その不思議な響き自体はすにも出せるもの。 だがそんな些細なことより、急変する美歌に、戸惑わなくてはならなくなった。 ……そもそも、『美歌』という人物なのか?
傍のはすにも感じ取れた異常に、美音が気付かない筈はない。 ただ、彼はその正体を知ってるようだった。
「お前、いきなりどういうつもりだ……!?」 「『今言葉にした通りだ……我が花嫁の命に危機が迫っている……!』」 「……!?」 「『私は行く……!直ちに、今すぐに、彼の下へ……!!』……待って!!!!」
別の人物に制止をかけるように、美歌本人の意識が、本来の彼女としての口が伝える。
「お、お願い、美音…………私、少し出かけなきゃならない……!!!」 「ええ……!?!」 「だから、リューサちゃんのこと、頼むわよ…………今回のこと、皇室派の武器になれるなら、 アースやよっちゃんにも教えといてね……」
そして、彼女はその身を誰かに譲るように。……委ねるのでなく、きっと奪われるように。 一瞬だけ崩れ落ちる。けれど、地に着く前に、また美音の手が届く前に。 彼女は、宙に跳ね上げられた。
黒い眼は美歌のまま。後は全く別の人物だった。 白い髪は美歌より短くて、綺麗に整えられていた。 美歌より小さな体をしている人間が、紫の広大な翅を広げていた。 蝶のように複雑な模様に、鳥に等しい白い覆いが塗っていった。
「『きくのじょおおおぉぉおおおぉぉぉおお――――――――!!!!!!!』」
白い鳥が、空に舞った。 眩い限りの閃光を放ちながら。
目を引き寄せられた領内の住民は、まるで王宮が突然爆破したようにも見えただろう。 白き光は、留まるように瞬いて、次に息を吸う前に、消えた。
白い鳥が、赤と青の空の彼方へ消えてった。 花火のように、鮮やかな一瞬を描きながら。
「……な、なんなんですか、今のアレは……!!?」 「…………」
残された二人は、対照的な表情で空を見上げる。 呆然と口を開いたはすと、睨むほどに厳粛し切った顔の美音。 廊下から騒がしい足音。乱暴に開けられた扉。 ツルリーナ四世を筆頭にアースや兵士達が中庭に殺到した。 「どうした美音!?今のは美歌だったよな!!?何があった!?」
たった今見た美歌の姿の意味を、彼らは知っている。 だからこそ教えなければならない。理由を、目的を。 美音はこの国の王に振り返り、頭を垂れて片膝を付いた。 そして目を伏せた姿勢で、抑揚しきった声で告げた。
「皇帝陛下。アース殿。……四大元素『大気』が『大地』の危機に緊急『隔世』しました」 「……何だと!?」 「一方で我々は、現段階まで終了してない内偵があります。このはすと美雷に、一通り話すので。 もし手を貸して頂けるのなら……私もまた、『大気』の眷属として後を追わねばならない……!!!」
あとがき ここで急展開です。 いわずもなが、この流れで美歌(と誰かさん)と美音が華爪編からカタアリ編に移動(乱入)フラグ立ちました。 B3の食パンはカッコイイね。というか顔だけ食物系のイロモノはみんな好き。カッコイイし、お茶目だし。弄られてるし。

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