| [9409] 猫被りの実験 壱 |
- 宙 - 2007年07月18日 (水) 19時04分
19年前。ある清潔な部屋にて
「・・・・・・ふぅ、無事に生まれたわ」 女はフフッと笑った その笑いは何処か歪な感じがする。場にそぐわないというか だがそんな事に男はさして注意はしない 「そうか。予定通りになるか?」 「勿論。あたしの腕をなめないで?確かに余り使わないけどね」 女は不敵に笑った そして“対象”を見やる
「母から受け継いだこの“呪”は・・・ねぇ?」
何かを唱え出し、それはすぐに終わった
「準備は出来たわ。さて、この子を例の所に置いてきてねv」 「そうか。長くかかるな・・・・・・」 「それでもいいのよ。フフv」
いたずらっ子のような笑みを女は浮かべた
* * * * * * * * * *
物心ついたとき、親は何処にも見当たらなかった 湧き出たのは、どうやって今まで育ったのかという疑問 物心がつく前から親はいなかった気がする それならば誰かの加護なしでは生きていけない幼子がどうやって生きていったのか それを教えてくれる者も勿論いなかった 1人だったから 独りだったから
何か大事な事を忘れている気がする けどそれを取り戻す術はないと思った とりあえずこれからは正真正銘1人で生きていかなくてはならないとわかった
捨てられた―――大方そうであろう所は幸いな事に本が沢山あった 毎日毎日それを読んだ。字は何故か読めた ちらりちらりと会話も耳にした それは食べ物を探す時によく耳に入れていた 此方から話のコンタクトを取った事はなかった とったとしても話題がない。せめてあるのはいつも手に入れている本の知識だけ 一部、経験でしか得られないものもあった けれど大抵の事はなんとかなった それぐらい書物の質や量は充実していた 偏りがあるといけないから結局全部を網羅した 中には物語もあった つまり、虚構 しかし現実と虚構の狭間というのは脆い そもそも今見えているものだって脳の映像なのだ 目という器官を通して脳に伝え、その情報を元に脳は《セカイ》を作り出す 五感、もしくはそれ以上の感覚を参考にして脳は自らの《セカイ》を作り出す それを現実というならば、なんと虚構じみているのだろう
知識だけ増えても意味はないから、実用的なものも鍛える事にした 少し頭の中で体の動きをシミュレートする それを実践する それだけで並以上の筋力はついた 動きは尋常ではないらしい 周りは驚愕と畏怖と・・・何故か蔑むような目でその幼児を見ていた 只人ではないと、それだけは共通していた そんな心の機微もその幼児は見抜いていた 読む事など、他愛無かった。わかりやすかった 表情が乏しいその子供は表情豊かな他人を不思議そうに見るのだった
―――何故
何故この人はこんなに筋肉を動かしているのだろうか? 面倒だろうに そもそも感情で此処まで表情が変わるというのが解せない 幸せそうな笑顔を 怒ったしかめっ面を 悲しそうな泣き顔を 安心しきった無防備な面を 嗚呼、理解できない 理屈ではない、という事しか分からない 知ろうとしても知れない 縁がなさすぎた 誰もその感情を教えてくれない 誰も自分に―――真っ向から表情を向けない
その子供は余りに処世術に長けすぎていた だから必要以上に、感情を向けられなかった
8歳くらいになって、いい加減ゴロツキがその子供に注意を向けた 嫌な注意だ こんな子供に構って何があるというのか それも分からない。全く ただ子供は黙ってやられるタチではなかった 本で見た――――所謂人体の急所を狙っていた 丁度針師、という本を最近読みふけっていた 其処にあった所謂ツボという場所に、尖った細い物を思いっきり刺す すると相手は動かなくなった どうやら死んではいないようだ ただ、気絶しただけらしい その様子を見て、子供はふむと唸った (案外簡単に出来るものだな) 勿論普通は違う。鍛錬が必要だ だがその子はそれを必要としなかった。頭の中でシミュレートするだけだった
それからというもの子供はゴロツキ相手に自分の腕前を磨いていった 使う針は元々そこにあったもの 形からして、通常ルートではまず購入できないだろう、暗器 千本と言っただろうか 子供はそれを武器として、治療道具として使った 頭に直接刺して脳を活性化させることもしていた そのお蔭で更に知能は高まった
此処に在る書物は全て読了していた 内容ももう覚えてしまった 子供はもう此処に留まるつもりはなかった 留まっていても何にもならない あてのない旅が始まった
何処から来た。何処へ行く その問いを発しても誰も答えず
何処へ向かうというのか この足は、何処へ着こうとしてるのか
子供は何かに突き動かされるように、進んでいた それが何なのか、まだ
続
******************************************************* 三人称使わないのって結構難しい。 しかも会話が冒頭しかない。見事に。 書いてる分には別にいいのですが。
*A・Yさん ある生命体として、はいまいち実感湧きませんが>脳 死体愛好家・・・ああ、綺羅がそうでした(オイ) 僕は好きですが。いや死体じゃなくて。脳とか肝臓とか肺とか・・・ああ友人の影響ですかね?(え?) 取り出されたのに動いてる蛙の心臓をキラキラした目で見た記憶がありますし。 ああいうのが自分の体内にもあるのかと思うとなんか・・・こう・・・嗚呼言葉って無力!! ・・・レス返しまで変な方向にズレました。すみません; えぇようやく彼等の話に入れます。

|
|