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- 宙 - 2007年03月24日 (土) 20時03分
「どうしたん?珍しいやないの、私を呼ぶなんて」 「やぁ鉄代(テツヨ)。久しぶりじゃないか」 「久しいな鉄代・・・・・・と、鉄(クロガネ)」 「銀(シロガネ)こそ。久しいねェ」 それは1人の男と1人の女と1匹の白い雄狼と1匹の黒い雌狼だった
「それで何か用があるんと違う?さっさとお言い」 「妾(あたし)らも暇人じゃないんだからねェ」 美麗、という単語が似合う女性 名前は霧碕鉄代という。霧碕の中でも銀郎と同じ位置にある 霧碕の中で今では古株となっているのだ 口紅が塗られており、よく似合っている その服装は異性を挑発するのに充分すぎる程 それも矢張り似合っているのだからファッションセンスはかなりのもの
鉄(クロガネ)と呼ばれた雌の狼 黒く、大きさは銀と同じくらいだろうか 矢張り銀と同じく喋れている
彼らが今いるのはとあるバー かなり気品の高い所だ そこで堂々と、というか常連らしい鉄代 銀郎もかなり自然体である 彼はこうすると、家族愛の塊でロリコンでショタコンには完全に見えなくなる あくまで外見は
「用件?ああ、それは勿論『家族』の事さ」 「なんだい、その事かい」 「その態度はなんだ。折角可愛い可愛い妹が出来たというのに」 「へェ?妹なんだァ?」 鉄代ではなく、鉄の方が興味示した 「ああ、妹さ。まだまだ発展途上だけど可愛いからよし」 「オイ」 「ふぅん?それで、私に対して言う事はそれだけではないろ?」 「その通り。相談事さ。話が早くて助かるな」 銀郎はニヤリと笑った この表情をすれば他の家族は別の事を考えるだろう 対して鉄代は微笑み返した 「当然よ。どれだけ付き合いが長いと思うてるん?」 挑発的に笑った
「新しい妹・・・・・・名前は金子だ。その子ね、素質はあるんだがなかなか開花しない」 「カナコ・・・・・・そう、金子ね」 「素質が開花しないィ?一体どの段階で家族に引き入れたのォ?」 「それはかくかくしかじか」 簡単に金子が『霧碕』に加わった経緯を説明した それをすると大まか見当はついたらしい
「それを私に育てて欲しい、と言う訳?」 「そう」 「結論先に言うわ。それはムリ」 「何故だ?」 問うたのは銀 「無理に伸ばそうとするもんやないでそういうの。時期を待ちなさいな」 「時期・・・・・・?」 「時には待つ事も必要。少なくとも今は違うと思うわ」 「そう、か・・・・・・信用しよう」 「その代り、私からも伝えようと思う事はある」 「なんだい?」 「一応こっちでも新しい『家族』見つけたんよ。けど、ちょっと微妙なんやわ」 「へぇ?」
身を乗り出して聞いてくる銀郎 ペットオーケーのこのバーで銀と鉄はもさもさと下で食べていた 上では2人がカクテルを飲んでいるが
「簡単に言うとね。二重人格の子でそのうちの片方を霧碕に加えたの」 「・・・・・・・・・・・・は?」 「それだけ、なんだけど」
しばし沈黙した
「どういう事か、簡単に教えてもらいたいんだけど」 「そーね。それだけ言って後は酒を楽しむとしようか」 ニィと妖艶に笑う鉄代 それに全く動じる事無く、銀郎はその話に耳を傾けた
〜 〜 〜 〜
入り組んだ路地 1人の少年が複数の人間に追われていた 捕まる事無く、少年は器用に角を曲がりながら奥へ進んで行く 「なんだよー!いきなり追いやがって」 「待ちやがれ!」 「おとなしくしろ!」 「はいそうですかって、従う奴なんていなーいよ!」 ごもっとも 少年の名は島崎哲也。14歳の中学2年生で陸上部所属 体は結構頑丈であり、スタミナも勿論豊富 というか世間一般の14歳とは格の違う体力の持ち主 特にその足の速さはもはや人外とされている 彼が常人ではないエピソードの1つとしてあげるならば、 トラックと衝突して彼の方が賠償金を支払う羽目になった、というのがある その前にこうして追いかけられている時点で常人ではないだろう
「!」 行き止まり。袋小路 「おっしゃ!もう逃げられねぇぜ!」 「・・・・・・」 くるりと哲也は振り返る かなり黒に近い茶色のその髪が邪魔をして瞳は見えない ぼんやりと口をあけている 「ひぃふぅみぃ・・・・・・全部で8人、か」 相手の数だ ニィ、と途端に哲也の口角が吊りあがる 雰囲気が変わった 別人のようだ――――いや、まさしくその通り 「・・・・・・あぁあ。ま、こんだけなら大丈夫かな」 そう言って『彼』は跳んだ 8人いる敵に向かって
「!?」 ただの無謀な行為であろうと思った ヤケを起こしたのだろうと しかしそれは訂正せねばなるまい 気付けば半分、やられていた
「ボサっとすんなよー。一瞬の油断が戦場では命取りって言うだろ?」 ポリポリと頭を右手でかく 左手には普通の工具の金槌。少々血が付いているが 皆一撃でやられているようだ。人体の急所を、全て 今更ながら彼らは戦慄した 背筋に悪寒が走る 「お、お前は・・・・・・!?」 「え?知っててきたんじゃなかったの?まぁいいや。俺は霧碕鉄也っていいます。よろしく・・・なっ!」 再び向かってきた 「!!」 男達の顔に恐怖の色が浮かぶ そしてそれが最後に、顔を彩った表情になった
ガン ゴン
鈍い音がした
「はいはい終了ー。・・・・・・後片付けはその辺のプロに任せようかね」 そう言って携帯電話をかける 簡潔に用件を依頼すると返事を待ってから電話を切った 「さてー、こいつら何者だったんだ?」 ゴソゴソと今はもう動かなくなった彼らの衣服や持ち物を漁る 大体わかったようで眉を潜めた 「あ。あぁー、そうかこの前哲也に一方的に喧嘩売ってあっさり交わされちゃった奴の・・・・・・」 『え?何?おれのせいだったの?』 急に声が響いた 但し、鉄也の脳内でのこと 「ま、気にすんなよ。勝手に喧嘩売って交わされて逆上した方のこいつらが悪い。よってお前は気にする必要皆無!」 あっさりと弁護する鉄也 それを聞いて特に悩む事もなく、哲也は「うん」とだけ言った 「処理班が来る前にさっさと立ち去るぜ。念の為、しばらく俺に人格任せとけ」 『言われなくてもー。というか確認なんていちいちとる必要ないって。お前が主人格なんだし』 「・・・・・・・・・」 鉄也は無言 哲也も何も言わなくなった
散らばったゴミ箱を跨いで歩く 散らかしたのは追っ手の方だ。哲也はハードルの要領で飛び越していった こんな事をたまにやらかすせいか障害物競走で哲也に勝てる者はいなくなった
霧碕鉄也――旧名島崎鉄也は元は1人の人間だった だが極々幼い頃、自分が他人とは決定的に違いすぎる面をもっていると悟る 人を見ると顔を出す殺戮衝動 どれだけ反射的にやってしまった事だろうか だから、このままでは、この『普通』の世界では生きていけないと思った 裏に行く気はなかった。まだそれだけのレベルはないと思ったし、まだいたいとも思ったから そこで鉄也はある事を思いついた ―――もう1つの人格を作ってしまおうと
意識し始めたのは矢張り極々幼い頃 元々『人工的な他人格』を作り出すのには才能があったらしく、案外簡単に出来た よって生まれたのが島崎哲也 日常生活を安穏に営む為に生まれた人格 主人格は鉄也。これは動かざる事実 だがそれを哲也は受け入れている 本来、別人格の記憶は受け継がない筈だが情報という点では受け継いでしまっている 繋がらなかったのは思考と嗜好 後者が繋がれば元も子もないが
まともである哲也は鉄也に対して敵対意識は皆無 どう思っても見当たらないのだ お人好し過ぎないかと鉄也は思ったが、普段の生活態度からしてそうではなさそうだ 彼らはいわば体が1つの双子 互いに強く依存しあっている決して別離のない二人 鉄也の方は前に述べた通りであり、哲也の方も今回のような事があるからだ 利害の点でもあるし何より感情でもすっかり依存している
最近、ついに裏に目をつけられた 殺し名の『霧碕』その存在は一応知っていた だがまさか仲間入りするとは思っていなかった 鉄也の方がその姓を名乗っている。彼の方だけに殺戮衝動はあるのだから 哲也にはないから名乗れない。だから彼の姓は島崎のまま 鉄也が霧碕に入ったのは、哲也へ手出しをさせないため 仮に哲也が殺されれば同じ体にいる『家族』の鉄也も死ぬ その家族思いな所が更に気に入られたらしく鉄代と名乗る女性から「合格」とされた
「ふー・・・・・・オイ、哲也。お前に代わるぞ」 『えあ?もう?もうちょっと表出てたらー?』 「もう出ちまったよ。とっとと出てきて抑えてくれよ」 『わかったー』「これでOKだね?」 『サンキュ。じゃあ俺は休んでるさ』 そう言って鉄也は黙り込んだ 哲也はのんびりと歩き始めた
Fin
************************************* なんて手抜きなタイトルなんだ!(爆) 2つのエピソード合体。鉄(クロガネ)とその飼い主。 それと二重人格。ついにやってしまった・・・・・・! 主人格もさっさと明かしておきます。隠す必要ないですし。 彼らの出番今度いつになるかもわかりませんし。 口調も余り変わんないんですよねぇ・・・一人称がひらがなか漢字かしか。
*A・Yさん お爺さんじゃなくておじさんですよ>クロル 調べには出してませんー。 うん。でもまだ物足りないんです。藍と聖が。 目的は趣味・道楽・暇潰しです。好きでやってんです。 所詮知的欲求を満たすなんて全てが単なる自己満足ですよ。 え、誰が?>人外
(『風の想い出』の方) なるだけ早めにやりましたーv>風真絡みのネタ うーん、宙と凪の繋がりは風真関連じゃないんですよねぇ。また別物。 風真の話は昔書きました。結構殺った記憶があります(待) 妹想いだけどシスコンじゃないんですよね。 彼女の自立が最期の願いですから。
金槌とトンカチって同じ物でしたっけ。

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