| [9229] 誘いの黒、迷いの夢。 闇を映す鏡 |
- 雷 - 2007年03月22日 (木) 17時14分
月がマヤカシと戦った夜が開け、朝は来た。
『誘いの黒』のメンバーは、宿のロビーの席の一角で、簡単な朝食をとっていた。
「―――へぇー。ひとりでマヤカシ倒しちゃったんだ!」 黒鳥は関心したように言った。
「まぁ…そんなに強いワケじゃないし…」 月はそう言って、ミルクの入った紅茶をすすった。
「でも、妙だよね…そのマヤカシ身体媒介でしょ?月の武器の炎に当たっても消えなかったんだもんね…」 ベリチーは神妙な顔をしている。
彼女の言うように、『夢斬り』の武器は別名『夢武器(むぶき)』とも呼ばれていて、力の弱い『身体媒介』ならば、一撃で倒すことができるのだ。
「最近多いのよね…3日前だったけ?私がこの町の近くで倒したマヤカシも一撃では仕留められなかったもの…」 ベリチーにつられてか、斬も真剣な顔で言う。
「あ、オレも!軽い技じゃムリ!」 啓介も斬の言うことに同感のようであった。
「どういうことかは分かりませんが…マヤカシに変化があったのは間違いないようですね…」 蓮は、静かにそれだけ言うと、食器を片付け始めた。
「さっき、月だけじゃなくて斬も林檎も一撃で倒せなかったって言ってたよね?じゃあこの街周辺をもう少し調べてみない?」 睦海の提案である。
「あ、それいいかもな!」 雷月丸も、これに賛成のようであった。
*
『誘いの黒』の面々は、朝食兼会議の結果、 「もう少しこの街周辺を調べてみよう」ということになり、この宿にもあと3泊ほどすることになった。
そして、街の様子を調べるために、各自が出掛けていった。 「じゃあ、私達は宿泊期間延長の手続きしてから行くから!」 睦海と黒猫は、少しフロントに残ってはいたが。
*
「しっかし…真昼間じゃマヤカシも出ねぇだろ…」 いつものかったるそうな口調で神猫は言った。
「仕方ないよ、それに情報は集められるでしょ?」 やわらかい物腰が心地よい蓮は、神猫にそう言った。
「ってか…なんで俺とお前がペア行動してんだ?」
「………作者の気まぐれ」
「ハァ?」 スイマセン、君たちを絡ませたかったんです…(BY雷)
「あ、ところで…」 どばらく途切れていた会話を再開し、神猫は話し出した。
「朝ン話だけどさ、やっぱマヤカシは強くなってるんじゃね?」
「そうだね…そう考えるのが自然だからね…」
「おいおい、マヤカシが強くなってるってことは…」 神猫はあせって切り出した。
*
「マヤカシが強くなっているってことは…ヒトの恐怖が増大したってことだよね?」
こちらは林檎とベリチー。こちらもペア行動中であった。
「うん…でもおかしいよね?マヤカシが強くなったのは最近になってからだし…自然に起こるとは考えられないよ?」 ベリチーは冷静に考えて言った。
「うん…だからやっぱり誰かさんが裏で意図的にやってるんじゃないかなぁ?」
ヒトが「怖い」と感じることが多くなればなるほど、マヤカシは どんどん増えていく。恐怖と戦おうとするとき、さらなる 恐怖は生まれる。
「ヒトの恐怖を増大させるモノがいる…ってコト!?」 林檎は冷静さを失いかけていたようであった。
『誘いの黒』は、マヤカシを強くする『ある組織』の存在に近づきつつあった。
*
宿の手続きを終え、睦海と黒猫は裏通りの様子を調査することになった。
「……何も無い」 黒猫はそれだけ言った。
「ほんとだねー。もっと手がかりとかあると思ったのに…」 睦海もそう言って、黒猫の少し手前を歩いていた。
裏通りは、人通りも少ないようで、道も狭く、ゴミ袋が置いてあったりもした。 所々に、割れた瓶が落ちていた。
「でもさ、黒猫。マヤカシが強くなっているとしたら、これからの戦いはもっと大変になるよね?」
「――――そうだね。」
タタカイガハゲシクナル。 アブナクナル。 ミンナシンジャウ。ワタシモ、ミンナモ。 ――――――コワイ。
「でもさ、頑張ろうね!マヤカシを残部消そっ!」 睦海は笑顔で言った。
マヤカシヲ ケス? ソウダ、マヤカシはケスンダ。 コワクナイ。すべてタオセバイインダ。
『ムリしなくていいんだよ? 闇に勝とうとしないで―――。』
どこからか、そんな声が聞こえた。
「誰っ!?」 睦海は、声の主に話しかける。
すると、睦海の背後にあった鏡の破片がギラリと光った。 そして―――ふたりは眼を疑った。 鏡の破片から、少女が現れたからだ。
「こんにちは!」 突然現れた少女は、元気にあいさつした。
それを弾みにしたように、ふたりは武器を構えた。 黒猫は大鎌の「華狐」、睦海は銃の「鬼火」だ。
「怖いなぁ…あ、自己紹介はまだだっけ? 私はマヤカシ組織『迷いの夢』の零皇 由宇(レイオウユウ)だよ!」 由宇と名乗る少女は笑顔で言った。 黒い髪を両サイドで結び、黒い着物を着ていた。
「マヤカシ組織――――!?」 睦海はそう言って固まった。黒猫も、動きを止めた。
「そっ☆主にマヤカシで世界を埋め尽くすことを目標に活動 していまーすっ!」 明るく言ったが、それはとんでもないことである。
「ってことは…貴方はマヤカシ!?」
「うん!精神媒介でーすっ!」
絶句するふたりをよそに、由宇は続けた。 「あ、でも今日はその子に用があったのよ? これを渡したくて…」 黒猫を指差し、懐から小さな鏡を取り出した。
「はいっ!どーしても貴方に渡したくて…」 黒猫の手のひらに置かれた鏡は、黒い装飾が美しかった。
「どうして、私に…」 黒猫は事態が飲み込めないようだった。
「貴方はマヤカシと戦う身でありながら、マヤカシにおびえているから。 貴方はそっち側のヒトじゃない…私達と来てほしいから!」 そう言う由宇は、どこか切なげであった。
「あの――――」
「勝手なこと言わないでよ! 黒猫は私達の仲間なんだから!」 何か言おうとした黒猫をさえぎって、睦海は叫んでいた。
「――――そう。 じゃあ仕方ないね…今は消えるしかないか…」 由宇は諦めたように言って、出てきた鏡の破片に近づいた。
「黒猫ちゃん…その鏡はあげる。 仲間にならないか…考えておいて」 それだけ言うと、また由宇は消えた。
「何なんだろう…あの子…」 睦海は銃をレボルバーにしまいこんだ。
「………」 黒猫は、何も言わずに黒い鏡を見つめた。
*続く*
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 鏡の中から由宇ちゃん登場。 前回最後にちろっと出たキャラです。
今回は黒猫ちゃん&睦海ちゃん中心に。 由宇が黒猫ちゃんに迫ったわけなどの詳しくはこれから少しずつ 迫っていく予定です。 ところでこういう小説、私にとっては書きにくい… ノリで書けるギャグとは違うなぁ…
とりあえずこれで終わります。 春休み入れば書く時間も沢山とれると思うので!
でわ。

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