| [9196] Ultimate Recycling Chapter4 No.30 |
- シベリア - 2007年03月18日 (日) 00時38分
三人はさっき居た部屋の前へ戻った。 マルコは何かを訴えかけるようにジェーンを見た。 が、それはジェーンに伝わらなかった。 「どうしたの?」 「いえ、部屋の鍵を・・・」 「空いてるよ。ほら」 そういうと、ジェーンは取っ手を回してドアを開いた。 まさか――マルコはギクリとした。 「え・・・・もしかして、全員この部屋・・・?」 「うん。その方が安かったから」 「・・・・・・・そうですか」 マルコは深いため息をついた。 「何故、女性二人と同室なんですか・・・せめて自分だけでも分けてくれたって・・・」 ジェーンは宿の状態、評価なんてお構いなし。 要は泊まれれば何でも良いらしい。
一方、一階のスタッフルームでは宿主がまだ笑っていた。 「幸せなもんだ・・・この睡眠再生術師クラック・ペリオンがこんなに近くに居ると知らずに・・・ 起きて活動する為のエネルギーを睡眠作用に再生してしまう異型かつ斬新な再生術! どんな奴もこの術さえあれば、寝こみを狙えるって訳だ!」 クラックが術を試そうと、頭に手をつけた。 パリッと小さな音と、少量の光が発生した。 「どうだ!これさえあればどんな筋肉質な男だろうが色っぽい女だろうが何だろうが! 眠らせて・・・・・・・・隙作って・・・・・・・・ふぁ・・・」 クラックは寝てしまった。 当然だ。自分の今日動く為に作られたエネルギーの一部を睡眠時間にしてしまったのだ。 スタッフルームで一人眠り始めた。 彼が眠ってしまうと一番困るのは、ここの客の三人だ。 そして、実は安心なのもここの客の三人だ。 ジェーンは時計を眺めて呟いた。 「晩御飯て出ないのかな・・・」 「ここならご飯は出ないと考えても問題ありませんね」 「食べに行きます?」 「行く行く!そうしよう!」 マルコの提案に皆賛成し、宿を出た。 宿を出てからもクラックはまだ眠っていた。
ルソナはソシエムよりも人が多い。 それになかなかの面積を持っているので、ジョエルを探すとなると難しくなってくる。 マルコは軽くジョエルを探しながら歩いていたが、他の二人はそんな事をする気は微塵もないらしい。 「そうだフローラ。ミサンガに何を願ったの?」 「え?ええっと・・・・・別に・・・」 「照れてる照れてる!そんなに恥ずかしい事を願っちゃった?」 「そんなことはないです!普通の願い事です!」 「・・・・皆さん、ちょっと気を緩めすぎでは?」 マルコも集中力が途切れてしまったらしい。 正直、女性二人と行動を共にするのは少し照れくさい。 なるべく他人を装いたいが―――二人が許してくれない。 しばらく歩くと、ジェーンも周囲をキョロキョロと窺い始めた。 ようやくその気になってくれたか?とマルコは少し感心した。 が、ジェーンが探しているのはジョエルでなく、食堂だった。 「ね!あそこでよくない?何か雰囲気が!」 「あれ・・・・何だ、食堂を探していたんですか」 「当たり前じゃない。ね、フローラ?あそこでいいよね?」 「私はどこでもいいですよ」 「決まりっ!じゃああそこにしよう!」 「・・・何で自分の意見は聞いてくれないんですか」 「え?じゃあ、あそこ嫌なの?」 「いいえ。いいですよ」 「・・・・あ、そう」 不思議な疑問を抱きながら三人は食堂へ入っていった。 クラックが目を覚ましたのは、三人は食堂へ入って五分後の事だった。 ハッと目を覚まして時計を見た。 「げっ!何でこんなに眠っちまったんだ!・・・・あ、そうか。再生術を試して・・・」 玄関を見ると、靴がなかった。 三人は出かけてしまったらしい。 「(しゃあねぇ・・・・帰ってくるまで待つか・・・帰ってきたらどう殺してやろうか・・・)」
食堂では、テーブルに伏せるように倒れている女性が一人。 それを呆れた表情で見守る男性と、心配そうに背中を摩る女の子がいた。 「酒なんて飲むからですよ・・・」 「だぁーってさぁー、たまにゃ飲みたい日だってある訳で・・・・・ック・・・・」 「ジェーンさん、落ち着いて・・・・あらら・・・完全に酔っ払っていますね・・・」 マルコは腕を組んでため息をついた。 「電車に酔わなかったのに、酒に酔っちゃいましたか」 「いいのいいの、気にせんこに!」 「こっちが面倒くさいんですよ」 「っるさいなぁ。酔ったくらいで・・・ねえ、フローラは私の味方ですよねェ?」 「え?・・・・・分かんないです」 「分かんないなんて言わないでー寂しいからー」 ジェーンは半泣きでフローラに抱きついた。 フローラは対応に困ってマルコを見つめた。目が合ったマルコは、首を横に振って再びため息をついた。 「仕方ない。宿へ帰りましょう」 「ほら、ジェーンさん。お水飲んで・・・」 「ありがとー・・・・・ああ、久し振りにいい気分だわァ・・・・」 もしや、自棄酒だったのだろうか。 やはりこんな環境に彼女は慣れ切っていないのだろうか―― が、今はどちらでも構わない。正直、酔っ払いは面倒くさい。 しかもこの調子だと、今までも何度か飲んだことがあると思われる。
宿に帰るのにとんでもない時間が掛かってしまった。 いい加減、クラックはイライラしていた。あまりに帰りが遅いから。 で、ようやく三人が帰ってきた。 「お帰りなさいませ!いったいどちらへ・・・・・!?」 ベロンベロンに酔っ払ったジェーンに肩を貸して客が帰ってきた。 想定の範囲外の光景だ。 「すいません・・・・酒飲んですごい酔っているもんで・・・」 「は、はぁ・・・」 「ジェーンさんしっかりしてください。もうすぐお布団ですよ」 「お布団?バーカッ。お布団なんざ要らないよ。寝ようと思えばゴミの山の上ででも寝れるよ私はぁ」 「はいはい。ここは彼方の部屋じゃないから綺麗ですよー」 「私の部屋・・・・懐かしいねぇ。確か以前寝返り打ったら棚の上のペンケースが落ちてきて・・・・」 訳の分からない雑談をしながら、三人は階段を登って行った。 あまりにバカらしい光景に、クラックは攻撃の意欲を喪失してしまった。 部屋の前に到着した。 フローラは素早く部屋の鍵を開け、布団を敷いた。 ジェーンをそこに降ろし、二人はその場に座り、ふぅと一息ついた。 彼女の寝顔をボーッと眺めていたフローラがふと呟いた。 「幸せそうですね」 「ですね」とマルコが即答した。 「酒に酔っちゃうなんて。まるで、自分達のやっている事のを大きさを知らないみたい・・・」 「・・・知っているからこそ―――だと思いますよ」 「そうでしょうか」 「ええ。きっと」 少し間を置いてフローラが自分の布団を掴んだ。 「マルコさん、どこがいいですか?」 「あ、自分は隅がいいです。女性に囲まれて寝るのは寝苦しい」 「そうですか」 そう言うと、フローラはジェーンの隣に布団を敷いた。 それを確認すると、マルコも窓際に布団を敷いた。 フローラとの距離がやたらと長い。 「おやすみなさい・・・」 「はい。おやすみ」 二人もゆっくり目を閉じた。 数分後。 クラックがギシギシと階段を鳴らして上へ上がってきた。 「今のうちに殺してやればいいじゃねえか・・・・へへ・・・・・待ってろよ呑気な三人・・・・ お前らに夜明けは訪れないぜ・・・・!?」 クラックは手に包丁を持って舌なめずりをした。 この声を聞いた者はいない。 「・・・・・・・・うん・・・・・・・これはマズイわね・・・」 ジェーンは寝言を言った。
_next_ ++++++++++ シリアスシーンがほぼ無。 息抜きみたいな場面です。この辺りは。 目立った戦闘描写とかも書く予定はありません。 ジョジョの第四部で言うイタリア料理を食べに行くシーンに値します。 それにしても、睡眠再生は我ながら無理やりだと思う。反省。 何だ。活動に使うエネルギーて。orz
>>A・Yさん 凄まじいトンデモです。 もう考えてありますが、本当にトンデモです。 でも睡眠再生と比べてしまうと少しはマシに見えるかもしれません。 それくらい今回の睡眠再生はトンデモなんです。 乗り物酔いはやっぱり一人くらいはいると盛り上がる。 今回は二人で大盛り上がり(?)ですね。 酒に酔うのもなかなか好き。 クラック殿も攻撃する気マンマンだったんですが、いまいち上手く行っていない。 空回りしちゃっています。 三人のあまりの緊張感の無さのせいですかね。
>>宙さん マルコは遠出はあまりしません。と言うよりできません。 なるべく拠点周辺で情報集めたり、人伝であったり。 自分はまったく乗り物酔いしない。ゲームしてようがなんだろうが。 だから乗り物酔いの苦しみがよく分からない。 でも、せっかくの遠出がぁって気分にはなるんだろうと思います。 すごい宿です。これでもかというくらい。 仕掛けは特にないですが、すごい再生術師が一人です。睡眠再生。 満足に戦う筈だったジェーンが泥酔状態です。 どうなるかはまた次回。

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