レンガ積みの3階建てぐらいのアパートが延々連なり
その隙間の路地には高い所にも低い所にもロープが幾重にも渡してあり洗濯物が干されていた。
通りを一本越えるとそこからは別世界で、まるで新宿のオフィス街のような景色が続く。
そんな街を歩いて抜け、上海の駅に着いたのは朝遅くだった。
広場には所狭しと数千人は集まっており
日本でいえば夏の湘南あたりの海水浴場のような状態。
人を踏まないよう、またいでいかなければ前には進めない。
みな何するでもなく地面にそのまま座るか寝ころぶかしており「喧騒」とうものは感じず
むしろその人口密度の割には空虚な雰囲気が漂っていた。
後で知ったことだが
このとき地方の農村部から都市部へ貧困層の農民が多く流入しており
仕事を探さなければならないのだが何のあてもなく、どうにもしようがない・・という人たちだった。
とにかく人を踏まないように気をつけて進んでいるうちに
10歳に満たないであろう子供が2~3人、僕の後をついてきた。
そのうち一人は僕の手を握ってきたのだが
暫く無視をしていたらそのうちどこかへ消えてしまった。
なんとか駅構内にたどり着いた20代の僕は、持てる最大のエネルギーと声を使い、
それこそ汗だくで成都行きの外国人用の汽車の切符を手に入れることが出来た。
このときズボンのポケットに入れていたはずの、
買ったばかりのガムが無くなっていることに気がついた。
・・・、ハッと駅前の子供たちのことが思い出されたが
驚くことに、この子たちは傍にいるあいだ中僕の方を向くことはなく、顔を見た記憶がない。
記憶にあるのは後頭部の姿だけで、男女の別も解らなかった。
上海に住んでいるけど20年前は私は解らない(笑)。
そう語った中国からのお客さん。
どこへ行ってもビルばかり、と少し笑っていた。
あの駅前で座り込んでいた人たちも
或いは、今は少し裕福になっているのかもしれない。
それでも、今も高層ビルの下には土があり、
それを耕していた時代があり、
汗を流して家族を養ったあなた達の父母世代のことや
向かいの部屋と洗濯ロープを共有していた他人への思いやりを
風潮に流されることなく、大切にしてください。
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