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[1128] ポケットモンスターDP外伝 ヒカリストーリーThe New Dawn STORY39 史上最強のポケモン使い フリッカー - 2010/03/02(火) 18:46 - HOME

 オリジナル展開もついに本格化。
 新たな仲間と新たな敵が登場!

・ゲストキャラクター
イザナミ イメージCV:門脇舞以
 シスターを髣髴させる風貌を持つ少女。その正体はギンガ団の残党と戦うためにこの世界に現れた、そうぞうポケモン・アルセウスの化身。
 無邪気な性格ではあるがその意識はアルセウスそのもので、かつて自分を救ったサトシの事も覚えている。この姿でもある程度アルセウスの力を使う事ができ、生身でも普通のポケモン程度なら軽く倒せるほどの実力を持つ。見た目によらず万能で、いかなる物事にも高い実力を発揮する。

ヒルコ イメージCV:進藤尚美
 イザナミの仲間で、ギンガ団の残党と戦うためにこの世界に現れた、はんこつポケモン・ギラティナの化身。和風の法衣を着た少女の姿をしている。
 ぶっきらぼうで、一人称は「アタイ」。一見、不良少女のような印象を与えるが、根はお人よしな偽悪家。この姿でもある程度ギラティナの力を使う事ができ、生身でも普通のポケモン程度なら軽く倒せるほどの実力を持つ。ディアルガ、パルキアが動けない中で、イザナミを補佐する唯一の存在となっている。
 かつて共闘した縁からサトシの事を慕っており、借りを返そうと思っている。

スズ イメージCV:下屋則子
 自然を愛する心を持つ少女。年齢は15歳。
 心優しい性格の持ち主で、普段は暇さえあれば動植物の観察をしているポケモンウォッチャー。だがその正体は、ギンガ団に加担するエコテロリスト。
 一筆書きの模様『コルフォーマ』からポケモンを自在に召喚する力を持つ異能力者で、任意の場所に無数のポケモンを同時に召喚する事ができる。呼び出すポケモンは、全て自然で出会って心を通わせたポケモン達であり、その中には伝説のポケモンも含まれている。スズはそのポケモン達を「自分の思いに共感してくれた同志達」と呼ぶ。それは、ポケモンレンジャーが使用する『レンジャーサイン』と全く同じ能力である。
 呼び出せるポケモンが多彩であり、かつ呼び出せる数に制限がない事から、いかなるポケモンに対しても弱点を突く事ができるため、『史上最強のポケモン使い』とも呼ばれる。ただ、本人は戦いをポケモン自身の意思に任せている。

[1129] SECTION01 ヒルコとの出会い! フリッカー - 2010/03/02(火) 18:48 - HOME

 あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事!
 パートナーはエンペルト。プライドが高くて意地っ張りだけど、進化して頼もしいパートナーになった。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。
 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……


SECTION01 ヒルコとの出会い!


 森と聞かれたら、誰もが緑に覆われた景色を想像するだろう。
 とはいっても、森の全てが緑色をしている訳ではない。秋になれば赤く変わっていくし、冬になれば雪によって白く変化する。
 だけどこの森には、色というものがない。
 並び立つ木々の葉は全て抜け落ち、剥き出しになった枝が刺のように見える。そして木の幹も生気というものを感じない。まるで人工的に作られた柱のよう。そしてそこには、うごめく影は1つたりともない。
 葉を失った木々が延々と広がるだけの、色を失った森。それはまるで、墓標が連なる墓場のようにも見えた。
 そう、ここは森の墓場。
 身勝手な欲望のために、大地を汚した人間達に殺戮された、命の墓場――

 そんな光景を見ていると、私の心は悲しみに覆われる。私が来ている黒い服が、喪服のようにも思えてくる。
 ここにかつて、どれだけの命が生まれ、育まれていたのだろう。その命は全て、人間達の愚かな行為によって殺戮された。そしてこの大地は土や水まで汚染され、二度と命が育めない不毛の土地へと変わってしまった。まさに墓場だ。そこは死者が永遠に眠るだけの場所であり、新たな命が生まれる場所ではない。
 彼らに何も罪はなかったというのに、なぜこのような惨劇を受けなければならなかったのか。

 込み上げてくるのは、人間という生物への憎しみ。
 自然とは、この星で命を育むのに必要なゆりかごのようなもの。それが失われれば、人間ですら生きていく事はできなくなる。だっていうのに、人間は自らの暮らしをよりよくする事しか考えずに自然を破壊していき、それによって多くの命が犠牲になった。
 自分以外の存在は、生きていくのに必要なものすらも排除し、自らの首を絞めてまで、よりよい生活が欲しいというのか。
 最近は人間達もようやくその過ちに気付き、環境保護だのエコロジーだの呼びかけるようになってきてはいるが、そんな人間はこの広い世界の中ではほんの一握りだ。今でも世界のどこかで、このように自然が破壊されている。そのようではもう手遅れだ。この星はいずれ、人間と共に滅んでしまうだろう。

 自らがひどい目に遭わなければ、自らの過ちに気付かない。
 自らの欲望のためには、周囲のモノを食らう事もためらわない。
 自らの過ちに気付いても、一致団結して過ちを解決しようとしない。
 それが、人間という生物の真の姿。
 知性というものを手にしながら、人間はそれを自らの欲望のためにしか使わない。自分以外の何かに尽くしているように見えても、それも自分の欲望を満たせるからである事に変わりはなく、本当に他の何かに尽くす人間はいない。結局は、知性を持たない生物と何も変わらないのだ。むしろ知性によって得た知識が欲望を加速させ、この星を破滅させようとする事態に追い込んでしまっている。

 人間はなんて、愚かな生物……

 隣にいる白いポケモンが、私の顔をじっと覗いていた。憐みを湛えた、その瞳で。
 きっと私が、泣いているのかと思っているのかもしれない。でも、私の目には涙は溜まっていなかった。
「大丈夫よ、アブソル。平気だから」
 私はそう言って、隣にいるポケモン、アブソルの頭をそっとなでた。
 こうしていると、不思議と気持ちが和む。アブソルが私の、数少ない理解者だからだろうか。
「……行きましょう、アブソル」
 私はアブソルにそう告げると、顔を正面に戻してその場を歩き出す。アブソルは私の後をしっかりとついて来た。

 私は、自然を汚す人間が許せない。
 そして私は、そんな人間を戒めなければならないと思った。だから、私は自然を破壊しようとする人間を容赦なく殺してきた。そうでもしないと、人間は自らの過ちを認めようとしないから。
 人間達はそんな私を**(確認後掲載)者と呼んだ。彼らから見れば、私は悪の人間でしかなかった。そして彼らは、そんな私を裁こうと挙って私を捕らえようとした。私の自然破壊に対する警告など、丸っきり無視して。

 ああ、これが現実なんだ。
 ますます私は、人間が憎くなった。
 自らの過ちに気付かずに、自らが決めた正義に反する者は悪として処罰する。
 それだけなんて――

 ある人物は、私に言った。
 人間の心は、曖昧で不完全なものなのだ、と。
 その通りだと、私は思った。

 ある人物は、私に言った。
 不完全な人間の心を消し去るには、世界そのものを創り変えるしかない、と。
 その通りだと、私は思った。

 だから、私は決めた。
 愚かな人間達が蔓延るこの世界を創り直し、自然破壊のない世界を創る事を。そうしなければ、この星の破滅は免れない。
 そのために私は、ここにいる。

 私の目的を成し遂げるためには、あの2人を消し去らないといけない。
 一時は成し遂げられそうになった私の目的を打ち破った、あの2人のポケモントレーナーを。

 * * *

 そこは、あたし達が旅をしてきた中でも、初めて見る光景だった。
 あたし達がいるのは、森の中。とは言っても、ただの森じゃない。森の木々には、葉が1枚も生えていない。ポケモンの姿も1匹もない。葉が刈り取られたようになくなっている木だけが延々と広がる、まるで廃墟のような森だった。
 タケシの話だと、ここはかつて酸性雨の影響で枯れちゃった森らしい。土や水も汚染されてるから、もう木も育たなくなっているって話。
 酸性雨といえば、学校で習った事がある。大気汚染の影響で空に広がった有害な物質が、雨となって降ってくる事。その影響で、銅像が溶けちゃう事もあるらしい。森を枯らすって事も学校で習ったけど、こうやって実際に枯れた森を見てみると、酸性雨がどれだけ大変なものなのかが理解できた。やっぱり環境破壊はよくない。自然は大切にしないとね。

 周りが枯れ果てた森だからか、あたし達の気分も自然と落ち込んでいて、話が弾まない。こういう場所だと、何だか墓場の中にいるみたいで、楽しい事を話したい気分じゃなくなる。そんな場所に長くいたくはなかったけど、ここを抜けるにはまだ時間がかかるから、結局この枯れた森の中でしぶしぶ食事を取る事になった。
 タケシが料理の支度をしている間に、あたしは枯れた木を背もたれにして何かを考えているように足を延ばして座っているサトシの隣に座る。何だかこういう場所に1人でいると、不安だったから。ねえ、って声をかけてみても、サトシは何も答えない。
 こういう場所にいると、嫌でも嫌な出来事が脳裏に浮かんじゃう。
 思い出すのは、ついこの間タケシが持っていたポケギアのラジオで聞いたニュース。
 この間のポケモンコンテスト・アサツキ大会襲撃テロの影響で、当分の間ポケモンに関するイベントが全て中止される事になった。ポケモンコンテストはもちろん、ジムまでも閉鎖されて、シンオウリーグやグランドフェスティバルも延期になるって話だった。とりあえず次のジムがあるナギサシティに行こうとしていたあたし達によって、衝撃のニュースだった。
 とんでもない事件に巻き込まれて最後のリボンをゲットし損ねたあたしにとって、それは凄くショックな出来事だった。だって、しばらくの間最後のリボンに挑戦する事ができなくなったんだから。きっとサトシも最後のバッジに挑戦できなくなっちゃった事がショックなのかもしれない。もしかしたら、今サトシが暗い感じなのも……
「やっぱり、ジムに挑戦できない事、気にしてるの?」
 あたしが聞くと、サトシはああ、とうなずいた。
「ヒカリだってそうなんだろ? 最後のリボンをゲットできなかった事……」
 サトシはあたしと同じような事を聞いてきた。あたしはうん、とうなずいた。
 あのコンテストでやった内容自体は、満足している。1次審査も2次審査も、ダブルパフォーマンスはうまくいったとは思ってる。だけど、予想外の出来事で最後まで進めなかった事が悔しい。これじゃ、脱落したのと何も変わらない。そういえば、二度ある事は三度ある、なんて言葉もあったっけ。
「でも、仕方ないよな。あんな事件が起きたんじゃ……俺はあんな事件を起こしたギンガ団が許せない。だけど悔しいよな、ギンガ団があんな事件起こしても、俺達は何もできないなんて……」
 サトシが珍しく、弱音みたいな言葉を言った。そして悔しそうにく、と歯噛みして顔を伏せた。
 でもサトシの言っている事は当然の事だった。アルセウスの分身、イザナミからギンガ団の残党を倒してって頼まれたはいいけど、具体的にどうしろとは言われなかったから、何をしたらいいのかはわからなかった。とりあえず警察に知らせてみたけど、警察は根拠のない事だ、として全然相手にしてくれなかった。結局あたし達は、旅を続けるしかなかった訳。だけどその旅の目的もなくなっちゃったから、今度こそ行く場所がなくなっちゃった。ギンガ団をやっつけに行こうにも、肝心のギンガ団の場所がわからなかったら何もできない。
「サトシ……」
 あたしはサトシの手をそっと握った。何か言葉をかけてあげたかったけど、何を言えばいいのかわからなかった。だから代わりに、サトシの手を握るという行動をした。
「あたし達、どうしたらいいのかな……?」
 そんな疑問をつぶやきながら、あたしはそっとサトシの体に体を委ねて寄りかかった。どうしてこうしたのかはわからない。こうやってサトシとくっついていれば不安な気持ちが少しでも紛れると思ったのかもしれない。
 サトシは少し驚いたように顔を向けて、ヒカリ、とつぶやいた。

 だけど、その時。
 不意にあたしの体が、横から何かに掴まれた。
 その瞬間、あたしの体はいきなり強く引っ張られて、サトシの体から強引に引き剥がされる。そして宙に浮かび上がる体。
「きゃあああああっ!!」
 あたしは思わず悲鳴を上げた。サトシの姿が、どんどん遠くなっていく。ヒカリ、ってサトシの声が聞こえる。驚いてピカチュウやエンペルト、タケシが集まってくるのが見えた。
 そして気が付くと、あたしは箱のような何かの中に閉じ込められていた。目の前はガラス張りで正面の風景だけが見えて、周りは鉄の壁で覆われている。その壁にあたしは張り付けられている状態。腕や足は鎖のようなものでがっちりと固定されて、動かす事ができない。誰かに捕まっちゃった!?
『わーっはっはっは!!』
 突然聞こえてくる、スピーカーからの聞き慣れた声。これって、まさか……!
「一体どうしたんだ!?」
 サトシの元に駆け付けたタケシが声を上げた。すると、がたん、と内側から何かが開く音がしたと思うと、嫌というほど聞いたフレーズが聞こえてきた。
「『一体どうしたんだ!?』の声を聞き!!」
「光の速さでやって来た!!」
「風よ!!」
「大地よ!!」
「大空よ!!」
「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」
「誰もが震える、魅惑の響き!!」
「ムサシ!!」
「コジロウ!!」
「ニャースでニャース!!」
「時代の主役は、あたし達!!」
「我ら無敵の!!」
「ロケット団!!」
「ソーナンス!!」
「マネネ!!」
 顔は見えないけど、いつものように、息の合った自己紹介するあいつら――間違いなくロケット団だった。そうか、ここはきっとあいつらのメカの中。あいつらはきっと、いつものようにメカから出て得意気にポーズを決めているに違いない。
 でもあいつらが、なんであたしをメカで捕まえたの? 捕まえるのはいつもならピカチュウのはずなのに。
「ロケット団! ヒカリをどうするつもりだ!」
 サトシが叫ぶと、ムサシがよくわからない言葉を口にした。
「へへーん! 今回はいつもと違う方法で、ピカチュウをゲットしに来たのよ!」
「いつもと違う? どういう事だ!」
「ズバリ、取引って奴だ!」
 コジロウの言葉を聞いたサトシが、取引、と繰り返す。
「今捕まえたジャリガールは人質ニャ! 返して欲しいのならおとなしくピカチュウを渡すのニャ!」
 そういう事だったのか。あたしを人質にして、ピカチュウを奪おうって作戦なのね! でもそんな事にサトシが応じるはずがない。
「そんな事に応じられるか! ピカチュウ、“アイアンテール”だ!!」
 サトシの指示で、ピカチュウは真っ直ぐこっちに向かってくる。あたしを助けるつもりなんだ。
 そんなピカチュウを見たロケット団は、なぜかいいのかな、なんて余裕そうな言葉をつぶやいた。そして、また中で音がした。きっとメカの中に乗り込んだんだと思う。
 ピカチュウが目の前のガラスの前に姿を現すと、横回転の勢いで尻尾をガラスに叩き付ける。
 けれど、ガラスは傷1つ付かない。ピカチュウの体が逆に跳ね飛ばされちゃった。
 その時、バチッ、と火花の音が聞こえた。
 途端に、あたしの体をいきなり電撃の痛みが走り抜けた。
「きゃあああああっ!!」
 思わず悲鳴が出る。電撃はすぐに終わったけど、それでも痛みはかなりのもので、一瞬であたしの体から力が奪い取られた。頭ががくりと下がる。
「ヒカリ!?」
 サトシが動揺した顔を見せる。あたしの悲鳴が、聞こえていたみたい。
 同時に、ニャハハハハ、とニャースが笑い出した。
『助けようとしても無駄ニャ! このメカには外からのポケモンの攻撃に反応して、自動的にジャリガールに電流が流れるようになっているのニャ!』
『つまり、このメカのダメージはジャリガールにも伝わるって事なのよ!』
『ついでに、ジャリガールの悲鳴が聞こえるようにマイクも付けてあるのだ!』
 ロケット団の2人と1匹は、得意気に説明した。
 そんな、サトシがあたしを助けようと攻撃すれば、あたしが電流を浴びる事になっちゃうなんて……これじゃどう見ても、サトシに打つ手なんてない。
『さあ、どうするのよジャリボーイ? 愛しのジャリガールを助けたくないのかしら?』
 ムサシが挑発するように言う。
 ……ってなんでロケット団があたしとサトシの関係を知ってるの!?
「ど……どうしてそんな事を!?」
『俺達ロケット団はちゃーんと知ってるのだ! お前とジャリガールがラブラブなんだって事くらい!』
 戸惑うサトシに、からかうようにコジロウはラブラブ、って言葉を強調して言う。
 そうか、だからこんな、いつもと違う作戦ができたんだ。あたしとサトシの関係に付け入るなんて、なんて卑怯なの……!
「ひ……卑怯じゃない、ロケット団……! 今すぐあたしを、離して……!」
 あたしは痺れて力が抜けた体に鞭打って、叫んだ。マイクが付いているなら、あいつらにも聞こえるはずって思って。
『あんたは人質なんだから黙ってなさい! ニャース、せっかくだから「あれ」やっちゃってよ!』
『ほいニャ!』
 ムサシとニャースのやり取り。あたしは『あれ』って言葉が気になって、嫌な予感がした。
 すると、ピカチュウが何もしていないのに、あたしの体にまた電流が走った。
「きゃあああああっ!!」
「ヒカリッ!?」
 もう悲鳴を上げるしかないあたしを見たサトシが、目に見えて動揺し始めた。
「ああ……あ…………」
 くらり、とめまいがして、あたしの頭がさっきよりも大きく下がった。まるで糸の切れた人形のように。
 まさか、攻撃受けてなくても電流を流せるなんて思わなかった。あたしはもう、喉元にナイフを突き付けられているも同然の状態。攻撃すればあたしに電流が流れるし、サトシにはもう打つ手はない。
『さあ、どうするんだジャリボーイ? 早く結論を出さないと、ジャリガールがもっとひどい目に遭っていくぞ?』
 コジロウがせかすようにサトシを挑発する。
『一体どっちを選ぶのかしら? ピカチュウ? それとも愛しのジャリガール?』
 続けてムサシが愛しの、って言葉を強調して挑発する。
 く、とサトシが歯噛みする。サトシは完全に打つ手がない。これじゃ嫌でもピカチュウを渡すしかなくなっちゃう。ピカチュウはサトシに取って大切なポケモン。あたしと引き換えにして差し出すなんて事はさせたくない。
 もう、やる事は1つだった。
 あたしは腹をくくって、叫んだ。
「サ、トシ……!」
 サトシの顔が、こっちに向けられた。
「ピカチュウの“10まんボルト”で……メカを丸ごと壊しちゃって……!」
 簡潔に言うと、サトシは当然驚いて声を上げた。
「な、何言ってるんだ!? そんな事したら、ヒカリまで……!」
「いいから……! あたしに、構わないで……!」
 そう、ピカチュウを奪われずに、あたしが助かる方法は、あたしがピカチュウの攻撃を我慢するしかない。正直、2回も電流を浴びせられたあたしの体は耐えられるかどうかわからない。だけどもう、それしか方法がない。
『そんな事できる訳ニャいニャ! やれるもんならやってみるのニャ!』
 あたしの言葉をバカにするように、ニャースは笑い出した。その言葉を聞いたからか、サトシは戸惑っている。
「ダイジョウブだから……お願い、サトシ……!」
 あたしはそう言って、サトシの背中を後押しする。するとサトシは覚悟を決めたのか、迷いを振り切るような声で指示した。
「ピカチュウ、“10まんボルト”!!」
 サトシに後押しされたピカチュウは、迷う事なく“10まんボルト”を放った。電撃はたちまちメカを飲み込んだ。
 途端、あたしの体にも電流が走った。
『ぎゃあああああああっ!!』
「きゃあああああああっ!!」
 ロケット団の悲鳴と、あたしの悲鳴がほぼ同時に響いた。
 今体を流れている電流が、メカが流しているものなのか、ピカチュウの“10まんボルト”なのか区別はつかない。でもあたしは、飛ばされそうになる意識を必死で抑えつけた。ここで耐えなきゃ、あたしが呼びかけた意味がなくなる。そのためにも、何とか耐え抜いて……
 メカの中で何か爆発する音。
 体が前に倒れるような感覚。
 そして、激しい衝撃。
 その瞬間、あたしの目の前が一瞬で暗くなった。

「ヒカリ! ヒカリ!」
 聞こえてきたサトシの声で、あたしはゆっくりと目を開けた。
 目の前には、あたしの顔を見つめるサトシの顔があった。
「よかった……!」
 それだけ言って、サトシはあたしの体を強く抱き締めた。サトシの腕の中の感触を感じてあたしは、自分が助かったんだとわかった。
「サトシ……信じてたよ……サトシなら、ダイジョウブだって……」
 あたしもサトシの背中にそっと両手を回した。こうしていると、何だか安心する。しばらくこうしていたかったけど、不意に入ってきた声であたしの心は現実に引き戻された。
「ど、どうなってんのよ、ニャース……!」
「迂闊に攻撃できるはずがニャいって思ってたから、電撃対策はしてなかったのニャ……」
 見るとそこには、何だかよくわからないガラクタの山になっていたメカの残骸から出てきたロケット団の2人と1匹がいた。
 サトシがそっと立ち上がった。あたしもそれに合わせて、サトシから離れて重い体をゆっくりとだけど立ち上がらせた。
「ロケット団、もう許さないぞ!!」
「さっきのお礼、しっかりとさせてもらうんだから……!!」
 サトシの言葉に合わせて、あたしも負けじとロケット団に叫んだ。それに合わせて、ピカチュウとエンペルトが前に出てくる。2匹共いつでも攻撃できる体勢になっている。
「ええい、こうなったら力ずくでもピカチュウをゲットしてやるんだから! 行くのよハブネーク!!」
「マスキッパ、お前も行け!!」
 ムサシとコジロウは受けて立とうと言わんばかりに、モンスターボールを力強く投げた。現れたのはいつも通り、ハブネークとマスキッパ。だけどマスキッパはいつものように、コジロウの頭にかぶり付いたけど。
「ハブネーク、“ポイズンテール”!!」
 ムサシが真っ先に指示を出す。ハブネークは得意技の“ポイズンテール”を使って、エンペルトに襲いかかってくる。
 でもエンペルトは腰に手を当てて、胸を張って動じない。どうぞ攻撃してください、って言ってるように。
 ハブネークの尻尾が、エンペルトに打ち付けられる。だけどエンペルトは微動だにせず、平気な顔を浮かべている。ハブネークは何度も尻尾を打ち付けるけど、エンペルトは全く動かない。まるで銅像にでもなったかのよう。はがねタイプを持っているエンペルトには、どくタイプの攻撃は全く効かない。だからエンペルトは、“ポイズンテール”を平気で受け止める事ができる。
「エンペルト、“はがねのつばさ”!!」
 あたしが指示すると、エンペルトは腰に当てていた右手をすっ、と広げる。そしてその羽から、光る剣が伸びる。その剣の素早い一撃で、ハブネークを一瞬で吹き飛ばした。たちまちムサシの目の前に飛ばされてしまうハブネーク。
「マスキッパ、“つるのムチ”!!」
「ピカチュウ、“でんこうせっか”だ!!」
 コジロウとサトシの指示がほぼ同時に響いた。マスキッパは“つるのムチ”を伸ばそうとしたけど、それよりも前にピカチュウがマスキッパに飛び込んだ。スピードを活かした一撃を前に、マスキッパは一瞬でコジロウの目の前まで弾き飛ばされた。
「エンペルト、“ふぶき”!!」
 隙あり!
 エンペルトは指示通りに、“ふぶき”を放った。“ふぶき”は一瞬でハブネークとマスキッパはもちろん、ロケット団も飲み込んで、たちまち氷の塊へと変貌させた。これで後はサトシがやってくれれば……!
「今だピカチュウ、“10まんボルト”!!」
 あたしの思った通りに、サトシは指示してくれた。
 ピカチュウが放った電撃が、氷漬けになったロケット団を容赦なく飲み込んだ。
 そして、爆発。
「やな感じ〜っ!!」
 そんな言葉を残して、ロケット団は空の彼方へと消えていった。その前に何かやり取りしていたような気がしたけど、あたしにはちゃんと聞こえなかった。
「やったぜ!!」
 いつものようにガッツポーズを取るサトシと、一緒になって喜ぶピカチュウ。エンペルトはさっきと同じように腰に手を当てて、見たか、と言わんばかりに胸を張っている。
 あたしもそんなみんなと勝利を喜ぼうとしたけど、くらり、と目の前の景色がふらついた。さっきまでの電流のダメージが、と思った時には、あたしの体は倒れそうになった。
 でもその体は、目の前に現れた影に受け止められた。
「おいヒカリ、大丈夫か!?」
 その声で、あたしを受け止めたのがサトシだって事に気付いた。サトシはさっきと同じように、あたしを優しく抱き締めていた。
「ご、ごめん、ダイジョバなかったみたい……でも、ありがとう、サトシ」
 あたしは、そんなサトシの優しさが嬉しかった。あたしはサトシの背中に両手を回しながら、あたしの顔のすぐ近くにあったサトシの顔の頬に、優しくキスをした。
 体を少し離してサトシの顔と向かい合うと、サトシは少しだけ驚いた表情を見せた。だけどそれは、すぐに優しい笑みに変わった。
「俺も、ヒカリが無事でよかったよ」
 サトシはそう言って、あたしの顔に顔を近づけてくる。その口は、少しだけ開いていた。サトシのしようとしている事をそれだけで理解できたあたしは、目を閉じてそれを受け入れる用意をする。
 お、おい、ってタケシの声が聞こえたけど、そんな声は気にしなかった。

 お互いに体を抱き締めた瞬間。
 あたしとサトシの唇が、そっと重なり合った。
 そしてあたしはサトシと唇を、舌を絡めあって、その味を堪能し続けた。
 大好き。その思いを互いに伝えあうために。

「よう、いつまでやってるんだ、それ?」
 いきなり聞き覚えのない声が耳に入って、あたしの溺れていた心が現実に引き戻された。
 サトシの唇を離して、声がした方を見る。そこには、見慣れない人が立っていた。
 黄色の髪と赤い瞳を持つ女の子で、灰色を基調に、赤と黒のアクセントが入った変な模様の和服を身に着けている。その和服はお坊さんが着ているもののようにも見えるけど、服装の奇抜さと、どこか性格が悪そうな顔立ちと相まって、何だか怪しい雰囲気が漂っている。
「確か、キスって言うんだっけ? 人前でも平気でそんな事するなんて、サトシとヒカリも物好きなヤツなんだな。それとも、アタイが空気読むべきだったかな?」
 誰、って聞く前に女の子は、不良のような言葉遣いでそう言ってあはは、と軽く笑った。
 サトシとの行動を赤の他人に見られたあたしは、途端に恥ずかしくなって、顔が一気に熱くなった。それは、サトシも同じだったみたい。
「な、な、な、」
 あたしとサトシは何か言おうとするけど、言葉が思い付かない。動揺するあたし達を、女の子は楽しそうに見つめながら、近づいてくる。そして目の前に来ると、ぽんとあたしとサトシの肩に手を置いて、じっとあたし達の顔を見つめる。
「ま、アタイはサトシとヒカリの関係に文句を言う気はないから、安心しな。この世界で生きる生き物の本能だもんな」
 そんな事を言ってはいるけど、あたしは女の子の笑みがあたし達の事を見て楽しんでいるようにしか見えない。女の子は肩から手を離してくるりと背中を向けると、いやー、男と女って面白いな、なんて事をつぶやきながら1人で笑っていた。
 ……やっぱりあいつ、あたし達の事を見て楽しんでる。
「おい君、どうしてサトシとヒカリの事を知ってるんだ?」
 その時、タケシが女の子に聞いた。そういえば、女の子はさっきからあたしとサトシの名前を呼んでいた。見ず知らずの人のはずなのに、あたし達の事を知っていた。
 タケシの質問に反応して、女の子はん、とつぶやいて背中を向けたまま顔を向ける。
「ああ、そういえば自己紹介してなかったな。アタイ、前にも会った事あるから忘れちまってたよ」
 え、前にも会った事がある?
 でもあたし、あんな変な格好のチャラチャラした女の子になんて会った記憶なんてない。
「アタイはヒルコ」
 ヒルコなんて変わった名前。やっぱりこんな人なんて知らない……
「先に言っとくと、本当の名は『ギラティナ』さ」
「ギラティナ……ってええええ!?」
 女の子、ヒルコの突拍子もない発言に、あたし達は声を揃えて驚いちゃった。


TO BE CONTINUED……

[1131] SECTION02 エコテロリスト、スズ登場! フリッカー - 2010/03/06(土) 18:07 - HOME

「アタイはヒルコ。先に言っとくと、本当の名は『ギラティナ』さ」
「ギラティナ……ってええええ!?」
 女の子、ヒルコの突拍子もない発言に、あたし達は声を揃えて驚いちゃった。
 ギラティナといえば、この世界の裏側にある世界『反転世界』にたった1匹で暮らしている、神と呼ばれしポケモン。分類ははんこつポケモン。権威や権力に逆らう強い心、という意味の言葉が表しているように、シンオウ地方の神話では暴れ者故に追い出されたって描かれているポケモン。
 確かにヒルコの服装や髪型は、よく見てみると確かにギラティナの体の模様っぽい印象がある。
「お前、本当にあのギラティナ、なのか?」
「ああ、そうさ。会うのはこれで4回目だっけな。だから自己紹介するの忘れちまった」
 半信半疑なサトシの問いに、ヒルコはそう答えてあはは、と軽く笑った。
 ヒルコの言う通り。ヒルコが本当にギラティナなら、あたし達と会うのは確かに4回目になる。
 1回目は、テンイ村で出会ったシェイミを花畑に送ろうとした時。
 2回目は、ミチーナでアルセウスが怒りで目を覚ました時。
 3回目は、反転世界を根城にする怪盗、ローナとの戦いの時。
 そして、今ここで会うのが4回目、って事になる。でも神と呼ばれしポケモンが、こんなチャラチャラした性格なんてしてるのかな? 神と呼ばれしポケモンならもっと、礼儀正しい態度を取るはずだとあたしは思うんだけど。
「あなた、本当にギラティナなの?」
 あたしは、念のために聞いてみる。本当、って言葉を強調して。
「おいおい、なんでアタイの事信じてくれないんだよ。イザナミに命令されて来てやったって言うのに」
「イザナミ? イザナミってあの……?」
 イザナミって言葉にタケシが反応した。イザナミといえば、あたし達にギンガ団の残党と戦うようにお願いしたそうぞうポケモン・アルセウスの化身。ヒルコの口からどうしてその名前が出たんだろう。神話繋がり?
 それを聞こうとした時、ヒルコは不意に何かを見て急に嬉しそうに目を輝かせておお、って声を上げた。
「メシが用意されてるじゃねえか! なら話は早ぇ! 話さなきゃならない事はいっぱいあるからさ、メシ食いながらでも話そうや!」
 ヒルコが顔を向けた先には、タケシが食事のために用意していたテーブルがある。さっきまでロケット団と戦っていた中で、巻き込まれていなかったのが奇跡を言えるほどに、何事もなくテーブルの上には食事が並べられている。
 ヒルコはそれを見るや否や、すぐにテーブルへと一目散に駆け出していった。その姿には、神と呼ばれしポケモンの化身という威厳はどこにもない。こんな人の正体が神と呼ばれしポケモンだなんて、誰が信じる? 同じ神と呼ばれしポケモンの化身でも、イザナミは神秘的な所があってそれらしい雰囲気は出してたんだけど。
 ヒルコって、本当に正体がギラティナなのか、あたしはますます疑わしくなった。


SECTION02 エコテロリスト、スズ登場!


「しっかしタケシって料理うまいんだな」
 ぱくぱくと無造作に目の前にある焼きウインナーを口に運びながら、あたしから見てテーブルの斜め向かい側に座るヒルコはつぶやいた。
 ヒルコの食べ方は、まさに傍若無人の一言。食事のマナーなんてものはどこ吹く風、席の座り方もだらしなくて、ただひたすら出されている食事を無造作に口の運び続けるその姿は、まるで荒くれ者みたいだった。そして、周りが廃墟みたいな枯れた森の中って言うのに、それをものともしない食べっぷり。まるでこのテーブルの周りだけ空気が切り取られているようだった。そんなヒルコの姿に、あたし達は呆気に取られていた。やっぱりこんな女の子の正体がギラティナなんてとても想像できない。
「なあヒルコ、1つ聞いていいか?」
 ヒルコの隣、つまりあたしの真向かいに座るサトシが、ヒルコに聞いた。何だ、とヒルコはサトシに顔を向ける。
「ギラティナって、実は女の子だったのか?」
 その問いかけにヒルコは一瞬、きょとんとした表情をサトシに向けて、食事の手を止める。そしてすぐにあはははは、と笑い出した。
「そうか、アタイは男だって思われてたのか! 人間って見た目だけでセイベツって奴を勝手につけるんだな!」
 その事が余程面白いのか、ヒルコは足をばたつかせて笑っている。そんな事を神と呼ばれしポケモンがしているんだって考えると、何だか凄くシュールに見える。
 少しすると満足したのか、ヒルコは笑うのをやめて答える。
「アタイはさ、正直セイベツなんてどうでもいいんだよ。イザナミもそうだけどさ、アタイ達には元々セイベツって概念はないんだ。この体を借りる時にどっちか選ばなきゃならないってなったから、女を選んで女として振る舞ってるだけさ」
 ……そうは言うけど、振る舞い方は全然女の子らしくないと思う。でも、女の子の姿を選んだって事は、ギラティナにも女の子らしい所があるって事なのかな? あの外見でちょっと想像つかないけど。
「じゃあ、なんで女の子になろうって思ったんだ?」
「正直どっちでもよかったんだけどさ、人間って男の方が権力強いそうじゃないか。そっちを選ぶのは何だか面白くなかったし、逆の方を選んだ方が怪しまれないんじゃないかな、って思っただけさ」
 ……前言撤回。こんな奴に女の子らしい所があるんじゃないか、なんて考えたあたしがバカだった。そもそも女の子でもそんな格好だったら、逆に目立つと思うんだけど。
「ねえ、ヒルコって本当にギラティナなの?」
 あたしはもう一度、念を入れてヒルコに聞いてみる。本当、って言葉を強調して。
 今更何を聞くんだよ、って言うような目を、ヒルコはあたしに向けてくる。
「まだ疑ってんのか? アタイはこう見えて、イザナミの補佐をしてるんだぜ?」
 今はアタイしかいないからな、とヒルコは自慢するように付け足す。そして、フォークをペン回しのように指の間で器用にくるくると回して見せる。危ないからやめて。
 正直、こんなチャラチャラした女の子がイザナミの補佐役なんて信じられないけど、そういえばギラティナはアルセウスが生んだ分身って話を聞いた事があるから、そういう意味では不自然じゃない。こんな人が補佐役なんて、イザナミも大変だろうなあ。
「さっきも言ったけどさ、アタイがここに来たのは、イザナミの命令さ。万が一ギンガ団に襲われた時のための護衛と、補佐のためにな。アタイにとっても、都合がいい命令だったよ。借りを返せるからな」
 ヒルコは回しているフォークを器用に止めて、サトシに目を向けた。え、とサトシがその視線に驚く。
「アタイは忘れちゃいないぜ。サトシがあの時変なヤツに捕まったアタイを助けて、一緒に戦った事をさ」
 ヒルコはサトシの前で、わざとらしくウインクしてみせた。その表情を見たあたしは、なぜか不愉快な気持ちになった。そういえばそんな事があったな、って照れながらつぶやいたサトシの姿も、なぜか不愉快に見えた。
「だから、一緒に戦おうぜ。今世界を壊そうと暴れてるギンガ団ってヤツをやっつけるためにさ」
 ヒルコはフォークをテーブルに置くと、サトシの前に右手を差し出した。その意味をすぐに理解したサトシは、ああ、とうなずいてヒルコの手を取って強く握った。
 ……何だろう、あたしもよく見ているサトシがポケモンと友情を深める場面なのに、見ていて凄くいらいらする。ヒルコが女の子の姿をしているからなのかな。
「ヒルコ、あんたどうして人の姿になんかなってるの?」
 気が付くとあたしの口から、そんな疑問を投げかけられていた。いらいらしていたからか、口調は自然と強くなっていた。
 それでもヒルコは何事もなかったかのように、ん、ってこっちに顔を向けるだけだった。その態度も何だかいらっときた。
「さっき護衛のために来たって言っていたけど、人間の姿だと戦えないじゃない? 戦う事が目的なら、わざわざ人の姿にならなくたって……」
 あたしの言葉は自然と愚痴をこぼしているみたいになっていた。するとヒルコは、ばつが悪そうな表情を浮かべた。
「おいおい、何言ってるのさ。そのままの姿だったらでかすぎて正体バレバレじゃないか。それだと目立って動きが取りにくいだろ?」
 困ったように両手を広げるヒルコ。
 ……言われてみれば、確かに。ヒルコの言葉は、意外と的を射たものだった。
「正体を隠して柔軟に行動できるようにするために、人の姿を借りている、って事か?」
 タケシの疑問に、ヒルコはああ、とうなずいた。
「ヤツらは侮れない敵さ。何も考えずにやっつけようとしたって、返り討ちに遭うだけさ。だから戦う前に、ヤツらの事を慎重に調べる必要があるのさ。それは、人の姿じゃないとできない」
 意外と真面目なヒルコの説明に、あたしはへえ、ってうなずいた。チャラチャラしてるけど、意外と真面目な部分もあるんだ。
「ってイザナミが言ってたんだ」
 ……前言撤回。ヒルコに真面目な部分があるなんて、考えたあたしがバカだった。
「……ねえヒルコ。言いたい事はそういう事だけな訳?」
 意味もなく、あたしはヒルコをにらみながら愚痴っていた。
 するとヒルコは思い出したように、ああ、そうだったな、なんて他人事のようにつぶやいた。その態度も何だかいらっと来た。
「じゃ、そろそろ本題に入るか」
 ヒルコはまたフォークを手に持って、先生が持つ指し棒のように立てる。
「イザナミから『指令』だ。カンナギタウンの歴史研究所に行って、『金剛珠』と『白珠』を壊せってさ」
 ヒルコはまるで人の伝言を回すような口調で言った。相変わらずいらっとするその態度だけど、発された言葉そのものには驚いた。
「カンナギタウンの歴史研究所に?」
「『金剛珠』と『白珠』を壊せ?」
 サトシとタケシがヒルコの言葉を繰り返す。
 ヒルコの言った『金剛珠』と『白珠』っていうのは、ディアルガとパルキアに深い関わりがあるアイテム。ギンガ団はこれを盗み出して、鑓の柱でディアルガとパルキアを呼び出すために使っている。あの後どこに行ったのかは知らなかったけど、カンナギタウンの歴史研究所にあったんだ。
「ああ。あれが存在し続ける限り、ディアルガとパルキアが操られる可能性はゼロじゃなくなる。つまり、ヤツらに盗られる前に壊しちまえば、ヤツらは大迷惑するって事さ」
 他人事のようにそう言いながら、フォークでウインナーを刺して、口に運ぶ。そんな大事な話、食べながら話さないでよ。
「ヤツらの動きは、今イザナミが探っている。向こうもひょっとしたら妨害してくるかもしれないから、何か遭ったら連絡するってさ」
 そう言いながらフォークを置くと、目の前にある野菜スープが入ったスープ皿を持ち上げて、そのまま口を付けて直接口の中に流し込む。まるで優勝を祝うお相撲さんみたいな、何とも大胆な飲み方。スープ皿を置くと、ヒルコは手の甲を使って口元を拭く。あまりにも行儀が悪い。
「……という事だ。そういう訳で、アタイはこれからみんなと一緒にカンナギタウンに行くから、よろしくな」
 ヒルコは笑ってみせるけど、あたしにはちっともかわいくない、インスタントなものにしか見えなかった。
 タケシは苦笑いしながら、ああ、よろしくな、と答える。あたしはその態度が苛立って、答える気にならなかったけど、ヒルコは特に気にしないで隣のサトシに顔を向ける。
「サトシ、何か困った事があったら、何なりとアタイに声かけてくれよ。アタイは護衛役なんだからさ」
「あ、ああ。伝説のポケモンが味方なら心強いよ。頼りにしてる」
 ヒルコはまたウインクをしてみせる。サトシは少し苦笑いしながらも答えた。側にいるピカチュウも、ヒルコに挨拶する。
 ……親しげにしている2人が、何だか見ていて凄く不愉快になる。あたしはイザナミ、もといアルセウスがギラティナを追い出した理由がわかったような気がした。
 さ、それじゃ腹ごしらえしないとな、ってつぶやきながら相変わらず無造作に食べ続けるヒルコを見ながら、あたしは隣に座るタケシにそっと声をかけた。
「ねえ、ヒルコって何だか嫌な人じゃない?」
 ヒルコには聞こえないように、口元に手を当てて小声で話しかける。
「ま、まあ、そうは見えるがな。だけど、根は悪い人じゃなさそうだから、あまり気にする事はないと思うぞ」
 タケシは苦笑いを浮かべながら答えた。その返答がやけに不満に思ったあたしは、自然と愚痴る。
「……何よ、タケシまでヒルコの肩を持つの?」
 あたしはタケシから離れて、野菜スープをスプーンですくって口に運ぶ。
 タケシが作った料理なのに、不思議とおいしく感じない。味そのものは悪い訳じゃない。別の何かが、このスープの味を悪くしている。この廃墟のような森の事もあるかもしれないけど、一番の理由はやっぱりヒルコだ。
 あたしの目の前では、ヒルコが食べながらいろいろと親しそうにサトシに話しかけている。その光景が、とても不愉快。
 ――ああ、そうか。
 あたしはようやくわかった。
 ヒルコが、サトシに親しそうにしている事そのものが、不愉快なんだって事に。

「……ピカ?」
 するとピカチュウが、急に耳を立てて立ち上がった。何かに気付いたみたいに。
「どうしたの、ピカチュウ?」
 あたしが聞いてみると、ピカチュウはじっとどこか一点を見つめたと思うと、急に何か見つけたように声を上げてその方向を指差した。何だろうって思ってピカチュウが顔を向けている方向に目を向けてみると、そこには、いくつかの黒い影があって、こっちに鋭い視線を送っている。あたしは反射的に席を立った。
 その正体は、ポケモンの群れ。こっちをにらみながら、じりじりとこっちに向かってきている。それも結構いる。スピアー、エレブー、マリル、ドンファン、ドゴーム、コータス、ルクシオ、ヨノワール……とにかくいっぱいいて、数えていたらキリがない。気が付くとあたし達は、いつの間にかそんなポケモン達の群れに取り囲まれていた。その鋭い表情は、廃墟のような森の中だとまるで墓場から出てきた幽霊のようにも見える。
「な、何だこいつら!?」
「こんな所に、野生ポケモンがいたなんて聞いてないぞ!?」
 驚いて席を立つサトシとタケシ。
 タケシの言う通り。環境破壊で土まで汚染されて、植物すら育たなくなっているこの廃墟のような森は、ポケモンが住めるような場所じゃない。だから、野生ポケモンなんているはずがない。ならこのポケモン達は、どこから来たって言うの?
「へえ、やる気なんだ」
 ヒルコはあたし達を取り囲んだポケモン達に目を向けると、まるで来るのを待っていたかのように笑みを浮かべてゆっくりと席を立つと、ポケモン達の前にゆっくりと躍り出た。ちょ、ちょっと待って。まさか人の姿のまま……?
「おい、何やってるんだヒルコ!?」
「さあ、来な。相手になってやるからさ」
 思わず声を上げたサトシをよそに、ヒルコは得意気に胸の前で拳をぽきぽきと鳴らし始める。その姿は、まさに不良としか言いようがない。ヒルコは完全に、やる気だ。
 そんなヒルコを見て、1匹のオコリザルが飛び出した。オコリザルは右手で手刀を作ると、それを勢いよく振り上げてヒルコに迫ってくる。あれは“からてチョップ”!
「ヒルコ危ない!」
 サトシが思わず叫ぶ。
 だけどその心配をよそに、ヒルコは軽く体を横に傾けただけで、オコリザルの“からてチョップ”を簡単にかわしちゃった。そして隙を見せた所に、ヒルコは右手の拳を一気に突き出した。
 途端に、オコリザルは顔面を思い切り殴られて、ヒルコの前から弾き飛ばされる。オコリザルは、ヒルコのパンチ一撃でノックアウトされていた。
 その光景に怒ったのか、今度はドンファンが体を丸めてヒルコに向かって転がってきた。ヒルコを跳ね飛ばそうと、“ころがる”でヒルコに向かってくるドンファン。だけどヒルコは飛んできたサッカーボールを蹴ろうとするように、右足を強く蹴り出した。普通だったらそんなものでドンファンを蹴られるはずはないけど、ヒルコはそれをあっさりとやってのけちゃった。サッカーボールのように蹴り飛ばされたドンファンは、近くの枯れた木に衝突して地面に落ちた。
「へへ、こんなんじゃ元に戻るまでもないな」
 ヒルコは余裕に満ちた表情をみせてつぶやきながら、着物の裾を直す。
 生身でポケモンを簡単に倒した光景を目の当たりにしたあたしは、初めてヒルコがギラティナの化身なんだって事を実感した。
「ほら、何してんのさ。応戦しないとやられるぞ」
 ヒルコは肩越しに視線を送りながら、あたし達に言った。見ると、ポケモン達は一斉にあたし達に向かって襲いかかってきた。ヒルコの言う通り、ここは応戦しないと!
 すぐにあたしの隣で食事をしていたエンペルトがあたしの前に出る。相手の数が多いから、あたしは持っているモンスターボールを4個全部取り出して、一斉に投げ上げた。ミミロル、パチリス、マンムー、ヒノアラシが一斉に姿を現して、向かってきたポケモン達の前に立ちはだかる。
 サトシも同じように、モンスターボールを5個一斉に投げ上げた。ムクホーク、ハヤシガメ、モウカザル、ブイゼル、フカマルが一斉に姿を現して、ピカチュウと一緒にポケモン達に立ち向かっていった。そしてタケシも、3個のモンスターボールを同時に投げる。ウソッキー、グレッグル、ピンプクが一斉に姿を現して、向かってくるポケモン達に応戦する。
 かくして、ポケモン達の壮絶な戦いが始まった。いろいろポケモンが入り乱れすぎる乱戦になっていて、誰がどんな事をしているのか全部把握できない。あたし達は真ん中で固まって、離れないようにしつつ戦いを見守る。あたし達のポケモンは相手のポケモン達を結構倒していっている。これならいける、って思った時。
 倒されたポケモンの真下に、一筆書きの模様が描かれて、倒れたポケモンが水の中に沈み込むように消えてしまう。そして、別の一筆書きの模様が描かれて、その中から別のポケモンが水の中から浮かび上がるように現れて、あたし達のポケモンに襲いかかる。
「あれは……!!」
「あの時と同じ模様だ!!」
 サトシとタケシが声を上げた。
 あの一筆書きの模様は、アサツキ大会襲撃テロの時もポケモンが現れる時に出てきたものと、全く同じものだった。その時、ウララはそれを『レンジャーサイン』って呼んだ。確か、ポケモンレンジャーが最近導入したもので、スタイラーを使って一筆書きの模様を地面に描いて、既に心を通わせているポケモンを、空間を超えてどんな場所でも呼び出す事ができるっていう魔法みたいなものだって言っていた。
 そんなものがまた目の前に現れているという事は、まさか、アサツキ大会を襲撃した時と同じ――
「もしかして、ギンガ団の仕業って事!?」
 あたしがつぶやいた時、ポケモン達の攻撃が急に止まった。ポケモン達は倒された訳じゃなくて、自分から攻撃を止めた。いきなり攻撃を止めるなんて、どういう事、なんて考えていると、どこからか声が聞こえてきた。
「マサラタウンのサトシ、フタバタウンのヒカリ……コンテスト襲撃でも生き延びていたなんて、実力は相応にあるようね。だけど、同じ事は二度も通じない!」
 女の人の柔らかい声。でもまるで幽霊のようなどこか不気味な声だった。しかも、あたし達の事を知っている?
「誰!?」
 あたしは声をした方を見ると、ポケモン達の群れが2つに割れた。まるで、誰かの通り道を開けようとしているかのように。
 するとそこに、何かに乗っている人影が現れて、ゆっくりとあたし達の前にやって来た。
 それは、わざわいポケモン・アブソルの背中に腰かけている、黒いワンピースを身に着けた、赤いロングヘアーに赤い瞳を持つ女の人だった。見た目からして、タケシと同じくらいの年の人っぽい。その顔立ちはきれいだけど、その赤い瞳は明確に敵意を持って真っ直ぐあたし達をにらんでいる。
 あの女の人は、見覚えがある。そして、女の人が乗っているアブソルにも。そう、前にギンガ団のアサツキ大会襲撃テロの犯行声明がテレビに流れていた時、映っていたあの人に似ているけど、まさか……?
「お前はまさか……エコテロリストのスズか!?」
 その姿を見るや否や、タケシが目を見開いていきなり声を上げた。
「タケシ、知ってるのか?」
「ああ、聞いた事があるんだ。あちこちで環境保護を訴えるために大きな事件を起こし続けて指名手配になっているテロリストだ」
 サトシの問いかけに、タケシはスズって言うらしい女の人に顔を向ける。
 そういえば聞いた事がある。環境保護を訴えるために、過激な行動を起こしている人の事を。それが、エコテロリスト。環境保護のためにテロを起こすなんて考え方は、あたしには全然理解できないものだった。
 スズは何も答えずに、アブソルの背中から降りて、こっちに顔を向けた。やっぱりきれいな人。もう少し年上だったら、タケシが心を奪われてもおかしくなさそうなほど。だっていうのに、あたし達を視線だけで殺すかのように赤い瞳でこっちを鋭くにらんでいて、何か得体の知れない不気味なオーラのようなものを感じるから、まるで幽霊のようにも見える。
 その襟元に、何かが輝いているのが見える。見るとそれは、『G』の文字を象ったバッジが付いている。そのバッジのマークは、ギンガ団のマークと全く同じものだった。
「そのバッジは、ギンガ団!?」
「……そう、私はギンガ団。いえ、ギンガ団に『協力している』者よ」
 スズはあたし達をにらみ続けながら、初めて答えた。ギンガ団、とヒルコがスズをにらみながらつぶやく。
「俺達に一体何の用なんだ!!」
 サトシが叫ぶ。
「私がここに来た目的は1つしかないわ。それは、あなた達の抹殺」
 スズは冷たい声で、あたし達をゆっくりと指差しながら冷たい声で告げた。
 抹殺。その言葉を聞いて、あたしの背筋に一瞬、冷たいものが走った。だけど、あたしはそれにも怯まずに、スズをにらみ返す。
「だけどその前に1つ、聞きたい事があるわ」
 スズは指差した手を下ろして言う。
「聞きたい、事……?」
「あなた達はなぜ、この不完全な世界を守ろうとするの? なぜ完全な世界を作ろうとするギンガ団の邪魔をしたの?」
 その問いと同時にスズの目線が、あたし達に深く突き刺さった。答えない事は許さない、って言っているように。
 ギンガ団は新世界を作る事を目的にしている。そのためにギンガ団は手段を選ばない行動をした。ギンガ団の人達はそれが正しいなんて事を言っていたけど、そんなのは絶対に間違っている。だからあたし達はギンガ団を止めた。
「なぜって……当たり前の事じゃないか!! 世界がどうこうとか言って、人やポケモンを苦しめてまでそれを成し遂げようとするなんて、どこが悪くないって言うんだ!!」
 サトシが、あたし達の気持ちを代弁してスズにぶつけた。だけどスズは顔色1つ変える事はなかった。スズは顔をうつむけると、ぽつりと言った。
「……あなた達は、この荒れ果てた森を何とも思わないの……?」
「……え?」
 その声は、さっきまでと違ってどこか悲しそうな声だった。予想外の問いと声の変わりように、あたし達は驚くしかない。
「この森は、酸性雨によって枯れ果てて、土や水まで汚染されて二度と命が育めない不毛の土地になってしまった……ここも、多くの命が育む美しい森だったっていうのに……この森を破壊したのは誰なのか、わかっているの? それはあなた達が守った世界の人間なのよ!!」
 スズは顔を上げて叫んだ。その目は怒りが籠っていたけど、それと同時に悲しみも籠っていて、今にも泣き出しそうな目だった。
「身勝手な欲望のためなら、周囲のモノを食らう事もためらわない人間達が、この森を殺戮して、墓場に変えてしまったのよ!! 今もどこかで、人間達はこの星の自然を蝕み続けている……そんな人間達を、あなた達は庇ったのよ!! 一体なぜ……なぜそんな事をしたの!? あなた達は、この世界を自然が壊される事のない世界にしたいって思わないの!?」
 スズの問いかけに、あたしは大きく動揺した。
 確かに、環境破壊は許される事じゃない。だけど環境破壊は今も続いているって事くらいはあたしも知っている。この世界を守ったって事は、環境破壊を続ける人達も庇った事になる、ってスズは言った。あたし達が悪い人も庇っちゃったって言う事実は、あたしの心に深く突き刺さった。当然か、世界中の人を全て救ったって事は、悪人も一緒に救ったって事を意味しちゃうから……その言葉に、あたし達は誰も反論する事ができなかった。
「……なるほど。要は、あんたには世界を破壊して創り直す明確な『大義名分』があるって事なんだろ」
 ヒルコがスズの前に出て、言った。あたし達がスズの言葉で何も言えない中で、ただ1人ヒルコはその瞳から闘志を失っていなかった。
「そう、人の心ほど、歪(いびつ)なものはないわ。知性というものを手にしながら、それを自らの欲望のためにしか使わないのだから。そんな人間に最初から心なんてなければ、壊された自然で苦しむものはいなくなるのに……だから、私は、美しい自然を守るために……!」
 スズは強い決意を表すように、両手をわなわなと握っていた。
 スズの考え方は、悪人のものじゃなかった。その言葉には、『環境破壊から自然を守りたい』っていう強い正義を感じ取れる。スズは、本当はいい人なんだってあたしは思った。だけど、それなら尚更気になる事がある。
「それならどうして、悪事なんてしようとしたの!」
 あたしはその疑問を、スズに直接ぶつけた。


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[1139] FINAL SECTION スズの怒り! 最強の力! フリッカー - 2010/03/12(金) 18:30 - HOME

「そう、人の心ほど、歪(いびつ)なものはないわ。知性というものを手にしながら、それを自らの欲望のためにしか使わないのだから。そんな人間に最初から心なんてなければ、壊された自然で苦しむものはいなくなるのに……だから、私は、美しい自然を守るために……!」
 スズは強い決意を表すように、両手をわなわなと握っていた。
 スズの考え方は、悪人のものじゃなかった。その言葉には、『環境破壊から自然を守りたい』っていう強い正義を感じ取れる。スズは、本当はいい人なんだってあたしは思った。だけど、それなら尚更気になる事がある。
「それならどうして、悪事なんてしようとしたの!」
 あたしはその疑問を、スズに直接ぶつけた。
「悪事……?」
「そんな考えがあるなら、どうしてもっと別な方法で訴えようとしなかったの? ギンガ団に入るなんて事しなくても、その思いをみんなに呼びかける方法はいっぱいあるでしょ!」
 あたしの言葉を聞いたスズは、なぜか眉を寄せた。その言葉が、スズの気に障ったように。
「自分だけわかったような事を言わないで!!」
 スズは右手を強く横に向けて振って叫んだ。
「そんな言葉はもう聞き飽きてるのよ!! 何も知らないから、現実を他人事のようにしか見ていないから、私にそんな事ばかり言うのよ!! いいわ、あなた達に質問した私が馬鹿だったわ!!」
 逆ギレしたように、スズはあたし達に叫ぶ。それはまるで、思い通りにいかなくなってわがままを言う子供みたいにも見えた。
「勝手な事言うな!!」
「どうして……どうしてこんな事……!」
 あたしはサトシと一緒にスズに訴えようとしたけど、スズは全く耳を貸さない。真っ直ぐ、幽霊のような瞳であたし達をにらみつける。
 あんな人が、悪人になる理由はどこにもない。あたしは説得しようとしたけど、不意にあたしの前に出てきた手で止められた。その手は、ヒルコのものだった。
「ここまでにしておけ。明確な意思があるあいつにはもう、何を言ってもムダだ。黙らせたいんだったら、戦うしかないぜ」
 ヒルコはスズをにらみながら、不良のようなのは相変わらずだけど真剣な口調で言った。あたしはすぐに反論しようとしたけど、スズの声がそれを許さなかった。
「考えてみれば、あなた達も自然を破壊しているものね……ポケモンを欲望のために捕獲するあなた達にわかるはずがないわ……自然を破壊されて苦しむポケモン達の、いや、この星そのものの悲鳴が……だから私は、あなた達をここで殺す……!」
 あたし達も自然を破壊している。ポケモンを欲望のために捕獲する。その言葉が、何だかポケモントレーナーへの偏見のように聞こえた。
「コルフォーマ」
 スズはすっ、と右手を真横に伸ばして、呪文のような言葉をつぶやいた。すると、スズの近くにあの一筆書きの模様――レンジャーサインがいくつか現れて、その中からポケモンが浮かび上がるように現れた。あたし達は驚いた。それはまるで、スズが自分の意思で呼び出したように見えたから。でも、スズは道具なんて一切使っていない。まるで、魔法みたいだった。それは、スズがここにいるポケモン達を全部操っている事を意味する。スズって、一体何者なの!?
「お前は、一体……!?」
 タケシが思わず問いかける。だけど、スズは答えずに、ゆっくりと右腕を下ろして、告げた。
「見ての通り、これからあなた達が挑むのは自然全てのポケモン……つまりは自然そのものの怒り……抗うのなら、恐れずしてかかって来なさい!」
 自然全てのポケモン、という言葉の意味が、あたしにはよくわからなかった。だけど、そんな事を考えている時間はなかった。
 スズが右手を前に突き出したのを合図に、ポケモン達が一斉にあたし達に攻撃してきたから。


FINAL SECTION スズの怒り! 最強の力!


 ポケモン達の攻撃は、さっきまでと違ってその場から動かないまま、一斉射撃を浴びせてくる。炎、水、電気、氷……いろいろな攻撃が、あたし達の前に飛んできて、雨あられと降り注ぐ。予想外の攻撃を前にして、あたし達はただ立ち尽くす事しかできなかった。
 目の前で次々と起こる爆発。あたし達の体が、簡単に宙を舞った。悲鳴を上げたのかは爆音に遮られてわからなかった。そしてすぐに、体を思いきり地面に打ち付けられた。
「ヒカリ……大丈夫か……!?」
「う、うん……何とか……」
 攻撃が止んだ時、サトシの苦しそうな声が聞こえた。あたしはかろうじて返事をする事ができた。体を起こす。体のところどころが痛む。見ると、体のあちこちに切り傷ができていた。あの攻撃の中に、“エアカッター”みたいな切り裂き系の攻撃も混じっていたみたい。振り返ると、あたしと同じようによろよろと立つサトシとタケシの姿が確認できた。
 目の前は爆発の煙で包まれていて、どうなっているのかはっきりと見えない。煙が晴れた時、そこには信じられない光景が映っていた。
 あたし達のポケモンが、目の前で一斉に倒れている光景が広がっている。残っているのは、エンペルトとピカチュウとピンプクだけ。それ以外はみんな戦闘不能状態だった。いつの間にかヒルコの姿もなくなっている。
「み、みんな……!?」
 あたしはショックでそれしか言葉が出なかった。たったあれだけの攻撃で、ポケモン達がほとんど壊滅状態になっちゃうなんて……
「ひ、卑怯だぞ!! ポケモンバトルなら正々堂々と1対1で勝負しろ!!」
 サトシがスズに向かって叫ぶ。だけどスズはそれを聞いても、表情1つ変えない。
「卑怯……? 私はポケモンバトルなんて競技のルールに従ういわれなんてないわ。そもそもこれは競技なんかじゃない。命をかけた戦いなのよ。そこに、競技のルールなんてものは通用しないわ」
 淡々と語るスズだけど、確かにそれは的を射ていた。これはポケモンバトルの試合じゃない。だから、そこに競技のルールなんて持ってきても無駄。前もあたしとサトシはギンガ団のエージェントに、そこを突かれて危うく殺されそうになった事がある。
「だが、どういう事だ!? ポケモントレーナーが6匹以上のポケモンを持つなんて、不可能なはずだぞ!?」
 タケシがそんな疑問を投げかける。タケシの言う通り、ポケモントレーナーが一度に持てるポケモンの数は6匹まで。それ以上持っているポケモンは、別の場所に預けないといけない。だけどスズは、そのルールを無視して何10匹ものポケモンを一度に操っている。こんな事は、普通はできない。
「ポケモントレーナーと一緒にしないで。私はポケモントレーナーじゃないの。ここにいるポケモン達はみんな、『私の思いに共感してくれた同志達』なの」
 スズは隣にいるアブソルの頭を優しくなでながら答えた。
「同志達……?」
 あたしはその言葉を繰り返す。同志達、っていうのはどういう事だろう。つまり、スズの手持ちポケモンじゃないって事?
「そう、私が回った自然で触れ合って、心を通わせたポケモン達。私は必要とした時にみんなを『呼ぶ』事ができるから、あなた達のように捕獲なんてしていない」
 呼ぶ……そういえば、あの時ウララは言っていた。レンジャーサインは、既に心を通わせているポケモンを、空間を超えてどんな場所でも呼び出す事ができるっていう魔法みたいなものだって。それなら、モンスターボールなんて必要ない。ゲットなんてしなくても、自分の近くに呼び出す事ができるんだから。
「じゃあ、ここにいるのは……!」
「だから言ったでしょう? 自然全てのポケモンだと」
 タケシの言葉に答えたスズは、心なしかあたし達をあざ笑っているように見えた。
 その言葉を聞いて初めて、あたしはスズのあの言葉の意味が理解できた。ここには、スズが回った自然の数だけ、ポケモンがいる。モンスターボールでゲットなんてしていないから、一度に何10匹も呼び出す事ができる。だから、自然全てのポケモン。だから、自然そのものを敵に回しているも同然。あたしは初めて、あたし達がとんでもない相手を敵に回している事を感じた。
「私達の繋がりは、あなた達のポケモンのように機械だけで繋がっているものじゃない。だから、私はあなた達には負けない!」
 スズがそう言って右手を横に振ると、ポケモン達が一斉にあたし達に襲いかかってきた。
 あたし達が、機械だけでポケモンと繋がっている、ですって?
 そんな事はない。あたし達だって、ポケモンの事は大事に思っているのに。
 それを勝手に、大事に思っていないような事を言って……

 ヒルコの言葉通りだ。あたし達はこいつと戦わなきゃならない。
 あたしはこいつに、絶対勝たなきゃいけないって思った。

「負けるもんか!! ピカチュウ!!」
 ピカチュウに対するサトシの言葉で、あたしにもスイッチが入った。
「エンペルト!!」
「ピンプク!!」
 あたしの声と同時に、タケシの声も聞こえた。
 あたし達の指示を受けたピカチュウ、エンペルト、ピンプクは、向かってくるポケモン達を迎え撃つべく向かっていった。
 ピカチュウが“アイアンテール”で、エンペルトが“はがねのつばさ”で、ピンプクが“はたく”で、向かってくるポケモン達を片っ端から蹴散らしていく。パワーだけなら、3匹は決してスズのポケモン達に劣ってはいない。
 だけど、スズはポケモンが倒されるとすぐにコルフォーマ、とつぶやいて、別のポケモン達を呼び出す。どんなに倒しても、次から次へと出てくるポケモン達。無尽蔵とも取れるほどの数で襲いかかってくるポケモン達の、数にものを言わせた袋叩きを前にして、エンペルト達も次第に押され始めている。もうきりがない。戦いは数、なんて言葉を聞いた事があるけど、今はその言葉の意味が実感できる。数がたくさんいるって事はこれほど厄介な事だったんだ。
「俺達は負けないぞ!! 俺達だって、ゲットした時からいつも気持ちが通じ合っているんだ!! その気持ちさえ負けなければ……!!」
 サトシがそんな事を叫ぶ。サトシは歯噛みしていたけど、その目からはまだ闘志の炎は消えていなかった。その思いに答えるように、ピカチュウはポケモン達の中に飛び込んで、“10まんボルト”を放つ。
「絶対に負けない、とでも言うの?」
 スズが、サトシが続けようとしたであろう言葉を口にした。サトシは驚いて顔をスズに向ける。
「勝手な事を言わないで。あなた達のポケモンを思う気持ちには、絆なんて微塵もないわ」
 スズは真っ直ぐあたし達をにらんだまま、そんな事を言った。絆なんて微塵もない、って言葉にあたしは苛立って、思わず叫んだ。
「どういう事よ!! あたし達はポケモン達の事を大切にしているわよ!!」
 だけどその言葉は、そんなのただの言い訳よ、というスズの言葉に跳ね返された。
「自分にとって都合のいいポケモンしか手にせず、目的を成し遂げるための道具としてしか使わない……そこにある絆なんて、偽りのものに過ぎないわ!」
 スズは堂々と異議を述べる裁判官のように、あたし達に強く言い放った。その言葉が凄く勝手な思い込みのように聞こえて、あたしは言い返さずにはいられなかった。
「違うわ!! そんな事……」
「どこが違うというの。『あなた達の絆』には、ポケモンバトルとか、ポケモンコンテストとかいう、あなた達の目的が前提にあるでしょう? それがなければ、あなたはポケモンに近づこうともしなかったんじゃないの?」
 だけど、その言葉を聞いて、あたし達は激しく動揺した。
 確かにスズの言うように、もしポケモンコンテストに出たいって目的がなかったら、あたしはポケモンに近づこうと思ったのかな。あたしがポケモンを持ちたいと思った理由は、ポケモンコンテストに出て、トップコーディネーターになるため。だからあたしは、ポケモンの事に興味を持った。つまり逆に考えると……
「あなた達はあなた達の目的のためにポケモンを欲しただけ。『本当に心を通わせるために』ポケモンに近づいたのではないのでしょう? いかに愛情を注いでいようと、目的がなくなれば、あなた達は自らが持つポケモンへの興味をなくしてしまうのでしょう!! そんな絆のどこが、偽りでないって言うの!!」
 その言葉が、あたし達へのとどめになった。
 スズの言う通りだった。ポケモンコンテストなんて、トップコーディネーターになるなんて目的がなくなれば、ポケモンを持っている意味はなくなる。そうなったら、あたしは持っているポケモン達をどうするだろう? あたしはなぜか、それでもポケモン達を必ず側に置いておくって自信はなかった。ひょっとしたら、他の人に託すって事もあるかもしれない、って思って。
「あなた達にとってポケモンは、遊ぶ目的がなくなれば捨てられる、おもちゃにしか過ぎないのでしょう!!」
 スズの心の叫びを表すように、ポケモン達が一斉に、エンペルト達に集中攻撃を浴びせた。数にものを言わせてエンペルト達をリンチにする。次から次に殴られ、蹴られ、切られたエンペルト達は、あたし達の目の前に弾き飛ばされて、倒れた。その光景はもう、ポケモンバトルのものではない、何か悲惨なもののように見えた。
「エンペルト!?」
「ピカチュウ!?」
「ピンプク!?」
 3匹共、まだ戦闘不能にはなっていない。だけど、その体力はもう限界が近い。このままだと、いくらなんでもまずい。
「生き物をモノ同然にしか扱わない人間は、許さない……!!」
 スズが右手を前に突き出すと、一斉に何本もの白や緑のツタがあたし達に伸びてきた。それが何なのか確かめる前に、あたし達の体にツタは巻きついていた。
 あたし達は目の前のポケモン達もろとも、腕に、足に、体にツタを巻きつかれて、完全に動きを封じられた。どんなに動こうとしても、体を動かせない。それはまるで、十字架に磔にされたような気分だった。見ると、ツタの先には何匹ものくさポケモンや、むしポケモン達。“つるのムチ”と“いとをはく”を使ったのね……!
「私の、勝ちよ」
 スズはあたし達ののどにナイフを突き付けるようににらみながら、つぶやいた。そして、ゆっくりと右手を挙げると、ポケモン達が一斉にスズの周りに集まってきて、あたし達をにらむ。まさか、動けなくした状態で攻撃を……!
「待て……!」
 その時、サトシが声を上げた。スズが反応して、サトシに目を向ける。
「お前だって、人の事は言えないだろ……!! 自然全てのポケモンだか知らないけど、お前だってポケモンを勝手な目的のために利用しているんじゃないのか!!」
 サトシがそんな疑問をスズに投げかける。だけどスズは冷静さを失わずに、逆に怒った表情を見せて言い返した。
「私はあなた達とは違う……私の望みは私だけのものじゃない。愚かな人間達に故郷を脅かされている、全てのポケモン達の望みなのよ!! 私はそんな同志達と共に、立ち上がっただけ!!」
 思わぬカウンターを受けたサトシは、唖然として目を見開いた。それは、あたしも同じだった。改めてスズは、あたし達とは完全に別格の人だって事を思い知らされた。環境破壊から自然を守るという正義を貫くために、ギンガ団に加担しているエコテロリスト――
「だから私は、間違ってなんかいない……!!」
 スズは上げたままの右手を振り下ろして、手前に突き出した。すると、ポケモン達が一斉に構えて、一斉射撃の体勢になった。
 動けない状態のあたし達に、あれから逃げるなんて事はできない。
 ああ、あたし達は死んじゃうんだ。死ぬのなんて嫌、死ぬなんて怖い……
 あたしの心が絶望と恐怖に包まれた、その時。

 スズの背後に、何か巨大な黒い触手のようなものが伸びてきた。その先には赤いとげが1本付いている。それが真っ直ぐ、スズの背中を貫こうと伸びている。
 スズはその気配に気付いて振り向き、触手に気付いたけど、その時はもう手遅れ。触手の鋭いとげは、振り向いたスズの腹を容赦なく貫いた。
 言葉にならない悲鳴が出た。スズはそのまま数歩後ずさりすると、そのまま腹を抱えてうずくまった。かなり苦しんでいるみたいで、うずくまったまま苦しそうな声を上げて動かない。それに驚いて、ポケモン達は攻撃を中止して一斉にスズに顔を向ける。
 一体何、って思って触手が伸びてきた先を見る。そこには、巨大なポケモンの姿があった。
 スズの目の前に浮かんでいる、赤と黒の縞模様の体、黄色のとげと黒い触手を生やしている巨大な虫みたいなポケモン。口の部分は、黄色のマスクみたいなもので覆われている。あたし達が前にも、見た事があるポケモンの姿だった。
「ギラティナ……って事はヒルコ!?」
 サトシが声を上げた。
 その通り、目の前にいるのははんこつポケモン・ギラティナだった。マスクが横に開いて口が現れると、ギラティナは甲高い鳴き声を発してスズを威嚇する。
 だけど、あたしはギラティナの姿形に違和感を覚えた。今のギラティナは、『オリジンフォルム』になっている。だけどそれは、反転世界でないとなれないはず。本来なら、この現実世界では竜みたいな脚と羽を生やした『アナザーフォルム』って外見になるはずなのに。
「ギラティナ……どうして、こんな所に……!?」
 スズはよろよろと腹を右手で押さえて立ち上がりながら顔を上げて、つぶやいていた。
 アブソルが、果敢にギラティナに向けて飛び出した。だけどギラティナは、触手をムチのように使って簡単に向かってきたアブソルを退けた。
 倒れたアブソルをよそに、ギラティナは口を開けて青白い炎を連続して放った。“おにび”だ。それはあたし達を拘束していた“つるのムチ”や糸を簡単に焼き切った。あたし達はやっと、自由の身になれた。
「アブソル、ここは分が悪いわ……逃げましょう」
 スズはぎこちなくも起き上がったアブソルに呼びかける。アブソルがうなずいたのを確かめて、スズはアブソルの背中に乗った。
 目の前にいるポケモン達の足元に、一斉にレンジャーサインが現れて、ポケモン達はその中に沈むように消えていく。それに合わせるように、スズを乗せたアブソルは、軽やかな足取りで廃墟のような森の中を駆けて去っていく。
 そんなアブソルを、ギラティナは追おうとはしないでただ見つめていた。不意に、ギラティナの体が黒い光に包まれると、ギラティナの体が見る見るうちに縮まっていく。そしてそれは人の形になって、光が消えるとヒルコの姿になっていた。
 たん、とヒルコはきれいなフォームで着地する。その右手には、白金に輝く正八面体の宝石のようなものが握られていた。ヒルコはくるりと体をこっちに向けて、こっちに歩いてくる。
「みんな、無事だな?」
 ヒルコの言葉に、サトシが代表してああ、とうなずく。
「お前のお陰で助かったよ、ヒルコ」
「なあに、アタイは護衛としての仕事を全うしただけさ」
 サトシが言うと、ヒルコはへへ、って笑ってから軽い口調で答えた。そして、手にしている宝石のようなものを、何度が器用に投げ上げてみせる。相変わらずのその態度は、あたしを少し苛立たせる。
「助けてくれるんなら、もっと早く助けてくれればよかったのに」
 いつの間にいなくなるんだから、なんて事をあたしは愚痴っていた。ん、とヒルコは何も知らないような顔をしてあたしを見る。
「何だよ、助けた事には変わりないじゃないか」
 だから別にいいだろ、なんて目でヒルコはあたしを見つめる。右手は未だに、宝石のようなものを投げ上げ続けている。その態度が、尚更苛立つ。
「そういう問題じゃないでしょ!? 勝手にいなくならないで、もっと早く助けてくれてたら、あたし達あそこまで追い込まれずに済んだかもしれないのに」
 あたしの愚痴を聞いたヒルコは、少しの間きょとんとあたしを見つめていたけど、宝石をキャッチして握った瞬間、あはははは、とスイッチが入ったように笑い出した。
「な、何がおかしいのよ!」
「おかしいも何も、お前ってバカなほど真っ直ぐすぎるんだなって思ってさ」
 真っ直ぐな事のどこがおかしい訳? そう思うあたしをよそに、ヒルコは笑い続けている。
 少しすると満足したのか、ヒルコは笑うのをやめて、話し始める。
「いいか? ヒカリが言ったような事をしたって、結果は同じになってた。ヤツは呼んだポケモンが倒されても、いくらでも代用品を用意してくるからな。いくらアタイだって、あいつらの集中攻撃受けたらひとたまりもねえからな。だから、ヤツを退けるには不意打ちしかないって思ってさ、ドサクサに紛れてこっそり隠れて攻撃のチャンスを窺っていたのさ」
 ヤツが一番油断する瞬間を狙うためにな、とヒルコは付け足した。
「おい、ちょっと待て。それじゃあ俺達を餌にしたって事か!?」
 タケシが言う。確かにタケシの言う通りだ。これだとまるで、勝つためにあたし達を囮にしたも同然の状態。あたし達を助ける気があったのか疑わしくもなってくる。
「ま、そういう事になるな。敵を騙すにはまず味方から、って言わないか? だけどさ、餌っていうのは間違いだよ。餌は相手に食べさせなきゃ意味ないからな。餌にしちゃったら、みんなを助けない事になっちまうだろ」
 困ったように両手を広げて、あはは、と笑いながらヒルコはタケシの問いに答えた。それが何だかふざけているようにも見えて、あたしの我慢は限界に達した。
「ふざけないで!! ヒルコ一体どんな事考えてたの!? あたし達を護衛するために来たんじゃなかったの!?」
 あたしは思わず叫んでいた。だけどヒルコはそれを聞くと、またあはははは、と不謹慎に笑い出した。
「アタイがふざけてる? バカ言うなよ、アタイはちゃんと護衛を果たしたじゃないか。そのやり方ぐらいでカッカするなよ」
 そのやり方が不満なのよ、と言い返す前に、ヒルコはあたしのすぐ目の前にいた。ヒルコはあたしの目をじっと見つめながら、あたしの顔の前で宝石を握ったままの右手の人差し指を立てる。
「いいか? ヤツは正攻法でなんて攻めて来なかったじゃないか。そんな奴に正攻法で攻めるなんて事は通じない。戦いってものは本来、ルール無用なんだよ。ポケモンバトルなんてスポーツと一緒にしたら、痛い目に遭うぜ」
 そう言って、あたしの鼻を人差し指で軽く押すヒルコ。そのせいで、顔が一瞬だけ上がった。
 相変わらずのチャラチャラした表情だけど、その目には何か心に届くほどの力が宿っていて、あたしは言葉を出す事ができなかった。同じようにサトシやタケシも、何も言葉を返さなかった。
「ギンガ団とやり合うんならさ、それくらいの事は承知してなきゃ。イザナミだって、きっと同じ事を言うと思う」
 そう言って、ヒルコはあたしに背中を向けて離れる。ま、アタイが守ってやるから、細かくは気にするな、と軽く左手を上げて言いながら、また宝石を投げ上げて遊び始めるヒルコ。
 あたしはそんなヒルコの背中を見たまま、何も反論する事ができなかった。ヒルコの言葉は、的を射ていたものだったから。
 ヒルコ、とサトシのつぶやきだけが聞こえた。

 * * *

 ここは、トバリシティの郊外にある、とあるギンガ団基地。
 トバリ隕石強奪未遂事件の際に、この町にあった拠点のビルは放棄された事になっている。だが、残党勢力は未だ発見されていないこの施設を新たな拠点にして、もくもくと新たな活動の準備を整えている。
 私は、そんな敵の根城に単身、潜入して偵察を行っていた。私は空間移動が簡単にできるから、こんな敵の拠点の中に潜入する事も逃げる事も容易い。もし何か動きがあれば、すぐにヒルコやサトシ達に連絡する。
 私が今、覗き込んでいる研究室と思われる部屋にあるのは、いくつも隅に並ぶコンピューターと、中央に立つカプセルのような装置。そのカプセル中に、ディアルガとパルキアを操った忌まわしきモノがある。
 そのカプセルの前で、やり取りを交わしている男女がいる。私は2人の言葉に耳を傾けてみる。
「『赤い鎖』の再生作業はどうなっている、ムーン?」
「現在、25パーセントほど進んでいます。ですが、完成までにはまだ時間がかかりそうです」
「そうか……ならば、『あれ』を奪うのはまだ先になりそうだな」
「それと、アース指令」
「何だ?」
「ウラヌスから、例の少年達の事で、あるミッションプランが提案されています」
「ミッションプラン……?」
「これを見てください」
「……これは一体、どういう事だ、ムーン?」
「知っての通り、我々の活動を円滑に行うには、あの少年達の排除は不可欠です」
「だがそれは、協力者スズが行っているはずだが?」
「確かにそうですが、万が一という事も考えられます。そのための予備的なプランとして提案されたのです。ウラヌス曰く、このミッションならば少年達の戦意を確実に大きく削ぐ事ができる、との事です」
 少年達――サトシ達の戦意を削ぐ?
 それは一体、どういう事なのだろうか。予備的なものとの事だが、決して実行されないと決められた訳ではない。彼らの動きは、引き続き警戒する必要があるだろう。
 一度引き上げよう決めた私は、すぐに空間移動を使い、一瞬でギンガ団の基地を後にした。


STORY39:THE END




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