アニメ投稿小説掲示板
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既に昨日本文は完成していたのですが、今日のアニメを見てから公開したかったので、この時間になりました。 今回は波導に関する物語です。・ゲストキャラクターシナ イメージCV:斎藤千和 森羅万象が持つ気のようなもの『波導』を見る事ができる能力を持つ少女。具体的には、物体の存在を遠くからでも感じ取ったり、相手の考えや行動を読み取ったりする事ができる。昔でいう『波導使い』であり、その能力はわずかしか波導を捕らえられないサトシとは比べ物にならない。しかし、その能力故に周りからは『魔女』と呼ばれて気味悪がられ、その影響で心に傷を負っていたが、ヒカリ達との出会いによって克服し、「波導の力を他の人に役立てる」という夢を抱いて、パートナーのシェイミと共に旅立った。 普段は物静かで、感情をあまり表に出さないが、自分に正直な性格であるため、自分の力を隠す事はせず、思った事ははっきりと言う。グラシデアの花が好き。ワト イメージCV:鈴村健一 シナと同じく波導使いではあるのだが、己の欲求を満たすために波導の力を悪事に用いる犯罪者。古の昔はこのような波導使いは『闇の波導使い』と呼ばれていた。 性格はかなり性悪でサディスティック。自分の力に強い自信を持っており、「オレには力があるんだ!!」が口癖。その言葉通り、彼の波導の力は高いもので、その力を“はどうだん”のような武器として使う他、相手の意識を遮断したり(つまり気を失わせる)とトリッキーな使い回しをする。 各地を転々としながら、自分の興味のいくままに犯罪行為をする。シナを狙ったのは、彼女の波導がすさまじいものであるかららしい。 手持ちポケモンはドンカラスなど。
あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事! パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……SECTION01 闇の波導使い、現る! それは、私が家族と一緒に旅行に出かけた時の事だった。 家から遠く離れた場所に行くんだから、いじめっ子達に邪魔はされない。だから、私は体を縛っていた縄から解放された、自由な気分になれた。 しかも、行った場所は私の好きなグラシデアの花がいっぱい咲き乱れている花畑。『花の楽園』って呼ばれている場所だった。一面に咲くグラシデアの花の色合い。一面に漂う心地いい匂い。それが、私の心を溶かしてくれる。いじめっ子達にいじめられる苦しくて、辛い思いを忘れさせてくれる。私にとっては、まさに楽園だった。辛い事から私を自由にしてくれる楽園。それも、誰にも邪魔される事はない。このままずっとここにいられたらいいな、と考えずにはいられなかった。 私はその花畑の真ん中で仰向けになって、目を閉じてグラシデアの花の香りを味わっていた。まるで空に浮いているような、ふんわりとした心地いい感触に包まれる。癒される。その言葉しか言いようがない。 その時だった。 誰かが苦しんでいる。 誰かの苦しんでいる声が聞こえてくる。 それも、ただ苦しんでいるんじゃない。 今にも倒れてしまいそうなほどに、弱っている。 それを感じて、私ははっと体を起こした。 波導。私がいじめられている理由になっているそれを、私の体が感じ取った。 私は何かの波導を感じたら、その場で黙ってなんていられない。必ず何か行動しちゃう。どんなにその事でいじめられても、それだけは変えられなかった。 それに、苦しんでいる『何か』は、助けて、と言っているようにも感じた。どんな人なのかはわからないけど、このまま放っておく訳にはいかなかった。 私はすぐに、波導を感じる方向に向けて駈け出していた。そう遠い場所じゃない。その場所に付くには、長く時間はかからなかった。 波導は、すぐ近くに感じる。でもそこには誰の姿もない。でも確かに、波導は感じる。この近くに、間違いなくいるはず。 もしかして、足元……? 私は足元を見てみた。 一見すると何もないように見えるけれど、よく見てみると、そこに苦しんでいる『何か』の姿を見つける事ができた。 背中が草で覆われているけれど、その下には白い体が見える。そしてその草には、私の好きなグラシデアの花が咲いていた。 小さなポケモンだった。でも、グラシデアの花が咲いているポケモンなんて、私は見た事がなかった。そのポケモンは、背中で息をしながら、ぐったりと横に倒れている。明らかに弱っている。 そのポケモンが、私の影に気付いて小さな顔を上げた。そのポケモンと、初めて目が合った瞬間だった。 私はポケモンに触った経験なんて、この時は一度もなかった。でも、だからってこのままにしておく訳にはいかない。「だ、大丈夫?」 私は小さなポケモンにそっと手を伸ばした。恐る恐るが半分、脅かさないように気をつけているのがもう半分。「……!!」 すると、小さなポケモンの目がひきつった。そして、体を縮めた。怯えているんだ。この子の波導が、そう私に教えてくれている。「こ、怖がらないで。私、助けてあげたいだけだから」 そう言うと、小さなポケモンの波導が落ち着いてきた。体の力も抜けてきている。よかった、話をわかってくれて。 私は小さなポケモンをそっと抱き上げると、すぐに急いでパパとママの所に走って行った。 そのポケモンは、シェイミってポケモンだった。結構珍しいポケモンらしくて、見せるとパパもママも驚いていた。 早速私はシェイミを元気にしてあげようと、ポケモンを治してくれるっていうポケモンセンターに連れて行った。治療室の前で待っていた時、「とんでもないものを連れてきたなあ」とパパに言われたけど、私はそんな事はどうでもよかった。ただ、シェイミが無事でいてくれますように。そう祈るだけだった。 そしてしばらくすると、病室の前のランプが消えた。手当てが終わった事を表している。その後ジョーイさんにシェイミは無事ですよ、と言われて、私はほっとした。 それからしばらくはシェイミを休ませるために病室に入る事はできなかったけど、次の日になって、病室に入る許可をもらえた。ベッドには、あの時と違って顔色のいいシェイミの顔を見る事ができた。(ありがとう、ボクを助けてくれて) 側に行くと、いきなりそんな言葉が私の頭の中に響いて、驚いた。波導じゃない。これって、テレパシー? テレパシーでポケモンが喋れるなんて、私は驚くしかなかった。「あ、その……どういたしまして」 私はそのせいで少し慌てちゃって、拍子抜けした答えを返す事しかできなかった。すると、シェイミの少し笑った顔を見せた。(君、なんていうの?)「えっ?」 私は声を裏返しちゃった。他人に名前を聞かれるなんて、初めてだった。私は当然ドキッとしたけど、聞かれたからにはここで教えない訳にはいかない。「……シナっていうの」(そう、シナっていうんだ。助けてくれてありがとう、シナ) シェイミは笑みを浮かべた。名前を呼ばれた事にも、私はなぜかドキッとした。シェイミの波導は、なぜか今まで会った他人の中で、とても暖かいものに感じられた。今まで会った人達は、みんな波導が冷たかった。でも、シェイミは違う。パパやママと同じ、暖かい波導。このシェイミとなら、私はずっと欲しかった友達になれるかもしれない。 私は何気なく、シェイミをそっと抱き上げた。今回は恐る恐る、って気持ちはない。抱いてみると、波導の暖かさを体で感じる事ができた。(シナって、優しいんだね) すると、シェイミは安心したようにそっと目を閉じると、背中の草にまた2つのグラシデアの花が咲いた。 シェイミが、私に心を許してくれた。私は波導を感じてそうわかると、嬉しくなった。 周りからはいじめられる私でも、このシェイミとなら、友達になれる。それがはっきりわかったから。 そう、それが私とシェイミの出会いだった―― * * * たまたま水を汲みに行った時、あたしは野生のボスゴドラに襲われちゃった! あたしはマンムーで応戦したけど、マンムーは逆にケガをしちゃって大変な事に。あたしはポケモン達と一緒にケガの手当てをしてあげた。そしてボスゴドラはまた襲ってきたけど、元気になったマンムーはあたしと一緒に戦ってくれた。あたしの言う事も、ちゃんと聞いてくれたの! よかった、言う事を聞いてくれるようになってくれて。 そんな訳で、あたし達のキッサキシティへの旅は、今日も続く。 旅を続けるあたし達が到着したのは、大きな町。大きな建物が連なって、通りにはたくさんのお店が並んでいる。そしてたくさんの人でにぎわっていて、いかにも大きい町って感じがする。 そんな町に久しぶりに来たんだから、やりたい事はいっぱいある。でも、一番したい事と言ったら、もちろん……!「ねえ、せっかくだからショッピングに行きましょうよ!」 あたしは迷わずサトシとタケシにそう提案した。ちょうど予定も入ってないんだし、タケシもいろいろ買い出しをしたいって言っていたし。でも、2人はなぜか表情を曇らせる。「行くって……どこにショッピングをしに?」「決まってるでしょ! コンテスト用のシールとか、アクセサリーとか、いろいろ……」 サトシの質問に、あたしは胸をときめかせながら答えた。だって、こういうのを見て回ったり、買ったりするのって、とっても楽しいんだもん!「ね、いいでしょ?」「……う、うん、まあ、悪くはないよな。な、タケシ?」「あ、ああ……確かに、買い出しに行くついでに寄るのも、悪くはないよな……」 2人はなぜか苦笑いしながらそうやり取りをしていた。何だか行くのが嫌そうな顔をしてるけど……なんで? そこが何だかムッとするんだけど。「ねえ、どうしてそう、嫌そうな顔してるのよ?」「あ、いや……そんな事は、ないよ……なあタケシ?」「あ、ああ、まあな……」 素直に聞いてみると、2人はやっぱり苦笑いしながらぎこちない言葉で答える。サトシの肩の上にいるピカチュウが、おいおいと言っているように、溜息を1つついていた。やっぱり怪しい。ひょっとして、前にアケビタウンでショッピングした時、2人にあたしが買った物を運んでもらったけど、それが嫌で…… と考えていると、あたしの背中に、ドンと何かがぶつかった。そしてあたしのすぐ足元に、何かがバッと落ちた音が聞こえた。いけない、今まで2人の方に顔を向けていたから、前をちゃんと見ていなかった!「あっ、ごめんなさい!」 あたしはすぐにそう言って、振り向いた。するとそこには、見覚えのある顔があった。物静かそうな顔立ちをした女の子。右目が赤で、左目が水色と、左右違う色の目。縛ってポニーテールにした長い緑色の髪には、グラシデアの花が一輪刺さっている。そして何も飾りがついてない、青紫色一色の半袖、ひざ丈くらいの長さのスカートの地味でシンプルなワンピース姿。「シナ!」 そう、それは間違いなく『波導』を見る事ができる女の子、シナだった。波導が見えるって事でいじめられていたけど、今はもう、それで苦しんでいるような表情はなくなっている。「ヒカリ!」 シナもあたし達の顔を見て、嬉しそうな顔を見せた。「ごめん、ちょっと話してたから前に気付かなくて……」「いいよ、こっちは平気だから」 あたしが謝ると、シナは笑みを見せて許してくれた。そして、あたしの足元に落ちていた何かを拾って、ついちゃったほこりをはたき落した。それは、1冊の本だった。といっても、雑誌とかじゃなくて、小さいけど渋そうで難しい事が書いてありそうな印象の本だった。シナって、読書するのかな?「久しぶりだな、シナ。その本は何なんだ?」 サトシが挨拶と一緒に、その本の内容を聞いた。(波導についての本だよ) すると、頭の中でそんな言葉が響いた。テレパシーだ。まさかと思ってシナの足元を見てみると、そこにはシナのパートナー・シェイミの姿があった。「私、今まで波導の事、全然知らなかったの。だから波動の事、もっと知らなきゃって思って……」 なるほど、見てみるとシナが持っている本のタイトルは、『波導の謎』って書いてある。「なるほど、自分の持っている力の事を勉強している訳だな。いい心がけだな」 タケシが言うと、シナは少し恥ずかしがるように、少しだけ顔を赤くして、うん、とうなずいた。 ふと、あたしはシナの服装に目を止めた。飾りは何もついてない、青紫色一色の半袖、ひざ丈くらいの長さのスカートのシンプルなワンピース。この服装、見てみるとやっぱり地味だよね……こんな地味なものじゃなくて、もっとかわいいものも似合いそうな気がするのよね……そうだ! せっかくこれからショッピングに行こうとしてたんだから……!「ねえ、シナって、おしゃれに興味ないの?」「……え!?」 思いがけない質問だったのか、シナが声を裏返した。そのままシナは答えに戸惑っている。「そんな地味な服装よりも、もっとかわいいものの方が、あたし似合うと思うよ?」「え? そ、そうかな……?」 シナは言葉に詰まっているみたいで、あたしから顔をそらす。そこであたしは本題を持ち出す。「ねえ、あたし達これからショッピングに行こうと思ってるんだけど、ついでにシナの服もコーディネートしてあげる!」「え……!?」 それを聞いた途端、シナの顔が真っ赤になった。「でも、私……このままでいいよ……」「恥ずかしがらなくていいから! あたしがいいのを選んであげる! じゃ、行きましょ!」「あっ、ちょっと、待って……!」 あたしは早速、ポッチャマと一緒になってあたしがシナの腕を引っ張って、ポッチャマがシナの足を押す形で、通りを進み始めた。「ほ、ホントに、いいってば……!」「心配しないで! こう見えても、ヨスガコレクションじゃ優勝してるんだから! ダイジョウブ、ダイジョウブ!」「そ、そういう問題じゃなくて……!」 恥ずかしがるシナをなだめながら、あたしは引っ張られるのを踏ん張るシナを引っ張って進み続けた。こういう事は、恥ずかしがってちゃ始まらないからね! そんなあたし達を見て、みんなも笑みを浮かべながら、あたし達の後をついて行った。 * * * そんな訳で、あたしはシナを1件の洋服屋さんに連れて行った。あたしは早速、シナに似合いそうな服をいろいろ見て回る。そして目に止まったものは、試着室でシナに試着してもらう。シナは相変わらず恥ずかしそうにしていたけど、仕方ないと思っていたのか、恥ずかしさで動けなくなっちゃったのか、逃げるような事はしなかった。あたしはそんなシナにダイジョウブ! って何回も言いながら、シナにいろんな服を試着してもらった。そして。「よし、これでダイジョウブ!」 ようやくシナに似合う服装が完成!「ほ、ホントに、大丈夫なの……?」「ダイジョウブ、ダイジョウブ! とっても似合ってるから!」「ポチャポ〜チャ!」 シナの不安そうな質問に、あたしは自信を持ってそう答えた。ポッチャマも一緒に答える。それでもシナは不安そうな表情を変えなかったけど。きっとみんなに見てもらえば、シナだって気に入るはず。 カーテンを大きく開けないように気をつけて、試着室を出る。そこにはサトシとタケシ、そしてシェイミがいる。結構時間がかかっちゃったから、みんな待ちぼうけをくらって少しいらだっていた様子だった。「おまたせ!」 あたしが呼ぶと、みんなの顔が一斉にあたしに集まった。「ようやく決まったのか?」「うん! じゃ、早速お披露目するわ!」 あたしはそう言って、試着室のカーテンに手をかけた。ポッチャマがあたしの前で得意げに胸を張る。服を選んだのはあたしなんだけど、ってつっこみたいけど、いつもの事だから、いっか。「ジャジャーン!」 そう叫ぶのと同時に、あたしは勢いよくカーテンを開けた。そこに、あたしがコーディネートした新しい服装のシナの姿が、みんなの前に披露された。 今まで縛っていた髪はほどいている。そして今までのワンピースも一新。水色に白いアクセントが入っている、明るい感じのものに。その上に、小さめの青いカーディガン。そして手首には、ブレスレットも付けてあげた。 みんなの視線がシナに集まる。シナは恥ずかしさからか、顔を真っ赤にしてそのまま凍ったように動かなかった。「どう、みんな?」 あたしはみんなに感想を聞く。「結構イメージ変わったな」 まず最初に、サトシが感想を言う。「うーん。明るい印象になって、いいと思うぞ。ヒカリのコーディネートは、うまくいったと思うぞ」 次にタケシ。(印象が変わっていいじゃない。似合ってるよ) そして最後にシェイミ。「ほ、本当……?」(うん。ボクは前よりいいと思うよ、その服装) シナが念を入れるように聞くと、シェイミは笑みを浮かべて答えた。「あ、ありがとう……」 シナは相変わらず真っ赤な顔のまま、ぎこちなくだけどお礼を言った。「ほらね、みんな似合ってるって言ってるじゃない」「う、うん……」 シナは恥ずかしそうな顔は変わってないけど、その表情には嬉しさも混じっているように見えた。シナはこの服装に馴染んでくれるはず。あたしはそう確信できた。 と、その時。「ミイッ!!」 いきなり、シェイミの悲鳴のような鳴き声が聞こえた。見ると、シェイミが誰かに体を鷲掴みにされている。その人は、どう見ても3人組の店員さんだった。赤い髪の女の人、青い髪の男の人、そして不自然なくらいに背が低い人。「シェイミ!?」「このシェイミはいただいていくわよ!!」 女の人が堂々と叫んだ。その声は、聞き慣れたものだった。まさか……!「何なんだ、お前達は!!」 サトシが叫ぶ。すると、3人組は聞き慣れたフレーズを言い始めた。「『何なんだ、お前達は!!』の声を聞き!!」「光の速さでやって来た!!」「風よ!!」「大地よ!!」「大空よ!!」「天使か悪魔か、その名を呼べば!!」「誰もが震える魅惑の響き!!」「ムサシ!!」「コジロウ!!」「ニャースでニャース!!」「時代の主役はあたし達!!」「我ら無敵の!!」「ロケット団!!」「ソーナンス!!」「マネネ!!」 いつものように自己紹介して、身を翻すと着ていた服と帽子を一気に脱ぎ捨てた。その姿は、間違いなくいつものロケット団だった。「ロケット団!!」 あたし達は声を揃えた。「ここでバイトをしていたら、わざわざあんた達からやって来るなんて、めったにないチャンスだったぜ!!」「そんな訳で、シェイミはいただいていくのニャ!!」 コジロウとニャースがそう言い放つと、ロケット団はさっと身を翻して、店の中から素早く逃げだした。「待てっ、ロケット団!!」「シェイミを返して!!」 あたし達は、すぐにロケット団を追いかけた。店の外に出る。するとそこには、もうロケット団の姿はなかった。相変わらず逃げ足だけは速い……! すると、あたし達を大きな影が覆った。そして、ロケット団の高らかな笑い声が上から聞こえてくる。見上げると、どこに隠していたのか、いつものニャースの顔を象った気球が、あたし達の真上に浮いていた。「ジャリボーイ、今回はピカチュウゲットは見逃してあげるわ!」「まずはこのシェイミを、確実にボスにプレゼントするのだ!」「ニャー達は今まで欲張ってたから、失敗してたのニャ。物事は計画的に行かニャいとダメニャ」 コジロウの手には、シェイミが閉じ込められた檻がある。シェイミは必死でこっちに声を上げている。「そんな訳で!!」「帰るっ!!」 ロケット団が最後の言葉を合わせた後、気球が上昇を始めた。逃げられる!「逃がすもんですか!! ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」「ポッチャマアアアアッ!!」 あたしはすぐに指示を出した。それに応えて、ポッチャマは今まさに上昇しようとしている気球目掛けて、“バブルこうせん”を発射! 真っ直ぐ気球に吸い込まれていく“バブルこうせん”。命中! 気球に、大きな穴が開いた。たちまち気球は、上昇する力を次第に失っていって、そのまま地面に吸い込まれ始めた。「うわああああああっ!!」 そんなロケット団の悲鳴が聞こえた直後、ドドーンと地響きを立てて、気球は墜落した。土煙が舞い上がる。それが晴れると、気球の残骸のそばで、衝撃で外に転がったシェイミの檻が見えた。シナはすぐにピンク色のモンスターボールを取り出す。ゲットしたポケモンを回復させる事ができる優しいモンスターボール、ヒールボールを。「ゲンガー、“シャドークロー”でシェイミを助けて!!」 シナはヒールボールを素早く投げ付ける。中から出てきたのは、シャドーポケモン・ゲンガー。ゲンガーは右手を引くと、右手から黒いツメが伸びてきた。そして檻に向かって勢いよく降った瞬間、檻の鉄格子はたちまちバラバラに砕け散った。シェイミはさっと檻から飛び出す。これでシェイミは自由になった!「あっ!! シェイミに逃げられたのニャ!!」 気球の残骸の中から這い出てきたニャースがその事に気付いたけど、もう手遅れだった。「ええい、こうなったらポケモンバトルで取り返すわよ!! 行くのよハブネーク!!」「マスキッパ、お前もだっ!!」 一緒に這い出てきたムサシとコジロウは、すぐにモンスターボールを投げてきた。中から飛び出すハブネークとマスキッパ。でも、マスキッパはすぐに反転。「いて〜っ!! だから俺じゃないってば〜っ!!」 そしていつものようにコジロウの頭に喰らい付いた。相変わらずもがき苦しむ(?)コジロウ。「シナ!!」「うん!!」 あたしはシナに声をかけると、シナはうなずいた。「ハブネーク、“ポイズンテール”!!」 先に仕掛けてきたのはハブネークだった。ハブネークは尻尾を構えると、尻尾が紫に光った。「ゲンガー、上に“シャドークロー”!!」 シナがまだハブネークが攻撃を始めてない時に指示を出した。波導で動きを読んだんだ。ゲンガーはシナの指示通りに、指を揃えて1本に束ねた“シャドークロー”を上に向けて振る。同時にハブネークは、尻尾をゲンガーの上から振り下ろそうとしていた。その瞬間、ハブネークの尻尾が、がっちりと“シャドークロー”に受け止められた。こうするために、シナは上に“シャドークロー”を振るように指示したんだ。ムサシもハブネークも驚いたに違いない。その隙に、ゲンガーは左手で“シャドークロー”を作り出して、無防備な左側から叩き込んだ! よけられるはずがない。“シャドークロー”の一突きを受けたハブネークは、たちまち跳ね飛ばされる。「マスキッパ、“つるのムチ”だ!!」 マスキッパがポッチャマに狙いを定めて、口から2本のツルを伸ばしてきた! ツルのひと振りを、ポッチャマは紙一重でかわす。でも、ツルを連続で振り回してくるせいで、近づく事ができない。マスキッパに効果抜群のわざ“つつく”を当てるには、まず近づかなきゃならないっていうのに。そこでとっさに思いついた戦法を、あたしは指示した。「ポッチャマ、口に向かって“バブルこうせん”!!」「ポッチャマアアアアッ!!」 ポッチャマはその指示通りに、“つるのムチ”を口から出しているために半開きになっているマスキッパの口に向けて“バブルこうせん”を発射! 命中! 口の中を攻撃されたもんだから、マスキッパは怯んで“つるのムチ”を一瞬止めた。今がチャンス!「今よ! “つつく”攻撃!!」「ポチャマアアアアッ!!」 迷わずポッチャマはマスキッパに突撃する。力を込めた光るクチバシが、グイッと伸びる。コンテストでアピールわざとして考えたものだけど、これで攻撃力のアップも望める! そのままポッチャマは、突撃した勢いに任せて、クチバシをマスキッパに突き立てた! 直撃! 効果は抜群! たちまちマスキッパもハブネークと同じように跳ね飛ばされた。「今だピカチュウ、“10まんボルト”だ!!」「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」 最後の仕上げ。いつものようにピカチュウが自慢の電撃をお見舞いした! 電撃が、ロケット団を容赦なく飲み込んだ。そして爆発! そしていつものように、ロケット団は空の彼方へと流れ星のように飛んで行っていた。「やな感じ〜っ!!」 そんなロケット団の叫び声が、空にこだました。「ふう、相変わらず懲りない奴らねえ……ねえポッチャマ」 ポッチャマに顔を向けると、ポッチャマもその通りだね、と言うようにうなずいた。「シェイミ!!」(シナ!!) シナが、真っ先にシェイミに向かっていく。シェイミもそれに気付いて、シナに真っ直ぐ走っていく。そしてそのまま2人はひしっと抱き合う…… 事はなかった。 シナがいきなり、何かに気付いたように足を止めた。シェイミがそんなシナの様子に気付いて足を止めた瞬間、空から甲高い書き声が聞こえてきた。そして、空から何か鳥のような影が2人に向かって降りてくる。「危ない!!」 シナはとっさにシェイミをかばおうと飛び出した。でも、影のスピードはかなり速くて、影が目の前を通り過ぎた途端、シェイミの姿はなくなっていた。結果、シナは何もない地面にただ転ぶだけの形になった。「ミィィィィィィッ!!」 シェイミの悲鳴が響いた。見ると、シェイミは影に捕まえられて、そのまま運び去られようとしている!「何だ!?」「またシェイミが!!」 あの影は間違いなくシェイミを連れ去ろうとしていた。ロケット団を追い払った直後の、こんな時に新手なんて、まさに一難去ってまた一難。 影の正体は、おおボスポケモン・ドンカラス。すぐに後を追いかけようとしたけど、ドンカラスは急に地面に降り始めた。その先には、1つの人影がある。 男の人だった。黒くウェーブがかかった背中まで伸びている髪の毛。瞳の色は右が灰色で左が淡い茶色。黒いジャンパーに茶色のシャツに黒いジーパン。顔付きも悪くて、いかにも悪い人って感じだった。「あの人……何か違う……」 その姿を見たシナが、少し震えた声でそんな事をつぶやいた。「違うって、何が?」「何だか……あの人の波導……凄く邪悪なものに感じる……」 シナの表情は、言い方が表わしているように、少し怯えた様子だった。邪悪な波導を感じたって事は、やっぱりあいつはシェイミを……!「これがシェイミか……面白いポケモンじゃねぇか」 その男の人は、ドンカラスから受け取ったシェイミを背中から乱暴に鷲掴みにして、顔の前で舐めるように眺めると、満足げにつぶやいた。その口調も、あきらかにワルっぽい。「シェイミを返しなさい!!」 あたしは真っ先にその男の人に叫んだ。すると、その男の人の鋭い視線がこっちを向いた。「返す……? せっかくこんな珍しいポケモンを盗めるんだ。黙って返す訳ねぇだろ?」 男の人は余裕を見せるように、鷲掴みにしたシェイミを前に突き出してみせる。「それに、力ずくで返そうったってムダだぜ。オレには力があるからな! 見ろ!!」 そう言うと、男の人はシェイミを掴んでいる手とは逆の、左手を広げて、目の前に突き出した。すると、その手の平に、青く光るボールが作られ始めた! 人がそんな事をする事自体が信じられないけど、それよりも大事なのはその見た目。「あ、あれは……“はどうだん”!?」 タケシが声を上げた。そう、何をどう見てもポケモンのわざ“はどうだん”にしか見えない。“はどうだん”が使えるって事は……「そう! このオレ、ワトは『波導使い』なのさ!!」 男の人はその言葉を待っていたかのように、堂々と叫んだ。TO BE CONTINUED……
「そう! このオレ、ワトは『波導使い』なのさ!!」 男の人は堂々と叫んだ。そして、その鋭い視線をシナに向けた。「あんたと同じでなぁ、女!!」「!!」 それを聞いたシナは一瞬、体を震わせた。「言われなくてもわかるさ、俺とお前は同類なんだからさぁ!!」 シナは動揺を隠せない。最初に会った時、シナはサトシが波導使いの素質がある事に気付いていた事があったけど、ワトもシナが波導使いである事に気付いていたんだ。どう違って見えるのかはわからないけど、やっぱり波導使いには、見ている人が波導使いかどうかも見抜けるんだ。 ワトは手の平に作り出していたままにしていた“はどうだん”をいきなり発射した! その狙った先は、ポケモン達でもなければあたし達でもない。“はどうだん”が飛んで行った先にいるのは、シナ!「きゃあっ!!」 直撃だった。シナが悲鳴を上げて、後ろに飛ばされた。「シナ!!」 慌ててあたしはシナの所に行く。一緒に来たタケシと一緒に、倒れているシナの体を、そっと起こす。何とかダイジョウブみたい。「……どうした? そんなものなのか? オレはお前の力が凄まじいものに感じるぜ。出し惜しみなんてしなくていいんだぜ?」 するとワトはシナを挑発するように、シナに呼びかける。それでもシナは、怯えた表情を変えないまま、答える事はなかった。 シナの力が凄まじい? まるでシナとの一騎打ちを望んでいるような言葉。こいつ一体、何がしたいの?SECTION02 闇の波導使いの力!「シナ、俺達がこいつの相手をする! 必ずシェイミは取り返すからな!」 サトシが、真っ先に前に飛び出した。ピカチュウもサトシの前に飛び出して、その闘志を表すかのように、ほっぺたの電気袋から火花を出して身構える。「ほう、このオレに対してやる気か、ガキ? オレには力があるんだぜ?」「うるさい!! シェイミは絶対に返してもらうぞ!!」 ワトは相変わらず挑発的な態度だけど、それでもサトシはこのような事で怯むような人じゃない。強気でワトに言い返した。 あたしだってやらなくちゃ! あたしはシナの事をタケシに任せて、サトシに加勢する事にした。「あたしだって!!」 ポッチャマと一緒に、あたしはサトシ達の横に並ぶ形で前に出た。そして正面に立つワトの姿を見据える。余裕を見せるような、こっちを威嚇するようなその鋭い視線からは、改めて邪悪さというものを感じ取れた。「ダメ……! あの波導は、強いよ……!」 するとシナが、震えた声であたし達にそう呼びかけた。振り向くと、シナはダメージを受けた体を震わせながら、こっちに手を伸ばしている。止めようとしているんだ。「心配するな。波導が使えるから勝てない、なんて事はないさ!! 俺達を信じろ!!」 それでもサトシは強気の姿勢を崩さなかった。その思いは、あたしも同じだった。いくら相手が波導使いだからといって、こっちに勝ち目はないなんて事はないはず!「行くぞヒカリ!!」「ええ!!」 あたしとサトシは顔を合わせて、互いの気持ちを合わせる。そして、改めて正面のワトをにらむ。「それでもやるか。ま、オレは楽しめればそれでいいんだけどな。じゃ、こっちも遠慮なく行くぜ!! ハリーセン!!」 ワトは笑みを見せた後、モンスターボールを1つ取り出して、勢いよく投げつけた。中から飛び出してきたのは、丸い体にたくさんのトゲを生やして、それに直接ヒレをくっつけたような、変わった姿の魚ポケモンだった。あたしはポケモン図鑑を取り出した。「ハリーセン、ふうせんポケモン。全身の毒針を四方八方に撃ち出す。丸い体は泳ぎが苦手」 図鑑の音声が流れた。魚ポケモンなのに泳ぎが苦手なんて、変なポケモンね。おっと、こんな事考えてる場合じゃない。改めて視線をポケモン図鑑からハリーセンに向ける。その隣には、さっきシェイミを連れ去ったドンカラスの姿もある。2対2の状態。「ピカチュウ、“10まんボルト”!!」「ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」「ピィィィィカ、チュウウウウウッ!!」「ポッチャマアアアアッ!!」 ピカチュウとポッチャマが、あたし達の指示で一斉に攻撃開始! ドンカラスとハリーセンは、すぐに左右に分かれてかわした。それから真っ直ぐこっちに向かってくる!「ドンカラス、“エアカッター”!!」 次はドンカラスが攻撃してきた。羽を勢いよく振って、空気の刃をピカチュウに向けて飛ばした!「“でんこうせっか”でかわせ!!」「後ろだ!!」 サトシとワトの指示が重なった。サトシの指示で、ピカチュウは一気にダッシュして“エアカッター”をかわした。そして、ピカチュウは“でんこうせっか”のスピードを活かして、ドンカラスの後ろに回り込もうとしていた。このスピードなら向こうが気付く前に攻撃をかけられる……と思った瞬間、ドンカラスは素早く振り向いた。目が合った瞬間、ピカチュウも驚きを隠せなかった。そこに、ドンカラスは“あくのはどう”を叩き込んだ!「ピカアアアアッ!!」「ピカチュウ!!」 直撃! サトシの叫び声も空しく、ピカチュウは攻撃する隙もなく跳ね飛ばされた。ドンカラスはさらに追い打ちをかけようとしている。それをやらせる訳にはいかない! あたしはすぐに指示を出した。「ポッチャマ、ドンカラスに“つつく”よ!!」「後ろだ!! 受け止めろ!!」 あたしとワトの指示が重なった。「ポチャマアアアアッ!!」 ポッチャマは背中を向けているドンカラスに対して、真っ直ぐ向かっていった。向こうは気付いていない。そのままポッチャマが無防備な背中にクチバシを突き立てる……と思ったら、ドンカラスはまた素早く振り向いて、ポッチャマのクチバシを羽で受け止めた。「そんな!?」 あたしは思わず声を出しちゃった。確実に不意をつけると思ったのに……!?「今だハリーセン、“どくづき”!!」 そのワトの指示を聞いて、あたしは初めて自分がハメられた事に気付いた。さっきまでハリーセンの事を少しだけ忘れていた。ポッチャマの攻撃が受け止められた以上、ハリーセンには隙を見せる事になっちゃう……! そう気付いた時にはもう手遅れだった。ハリーセンは風船のような体の弾力を活かして勢いよく飛び跳ねると、その体のトゲを使って、無防備なポッチャマにタックルをお見舞いした!「ポチャアアアアッ!!」 直撃! ポッチャマはたちまち地面に突き落とされた。「ポッチャマ!!」 あたしが叫ぶと、ポッチャマはよろりとだけど立ち上がった。でも、すぐにまた体が崩れ落ちた。痛みじゃない何かが、ポッチャマを苦しめている。まさか、『どく』をもらっちゃったの!? 立つ事ができないポッチャマを心配して、ピカチュウがポッチャマの所に駆けつける。「今度はこっちの番だ!! ドンカラス、“ねっぷう”だ!!」 ドンカラスの羽が、一瞬熱を持ったように赤く光った。そしてそのまま羽を羽ばたかせると、たちまち熱を持った風が放たれた! 風が2匹に襲いかかったのは、ちょうどピカチュウがポッチャマと合流した瞬間だった。「ピカアアアアッ!!」「ポチャアアアアッ!!」 たちまち2匹は“ねっぷう”に飲み込まれた。みずタイプのポッチャマには効果は今ひとつだけど、『どく』をもらっている今じゃ、かなりこたえるものになっているはず。“ねっぷう”に飲み込まれた2匹は、そのまま身動きが取れない。「ハリーセン、“ミサイルばり”!!」 そこに、さらにハリーセンの“ミサイルばり”が飛んできた! 身動きが取れない2匹が、よけられるはずなんてない。「ピカアアアアッ!!」「ポチャアアアアッ!!」 たちまち2匹は、いくつも起きた爆発に容赦なく飲み込まれる事になった。反撃しようにも反撃できない。反撃する隙がない。これじゃ完全に袋のネズミ状態じゃない!「最後はこいつをくらえっ!!」 そして挙句の果てには、ワトが両手で“はどうだん”を2個作り出した。それをそのまま2匹に向けて発射!「ピカアアアアアアッ!!」「ポチャアアアアアアッ!!」 容赦なく“はどうだん”は2匹に命中した! 爆発。ドンカラスとハリーセンの攻撃が止んだ時、爆風で弾き飛ばされたピカチュウとポッチャマの姿が見えた。2匹はもう、バトルを続けられそうな体力は残っていなかった。その場に倒れたまま立ち上がれない。「ちょっと!! 卑怯じゃないの!! あんたまで攻撃するなんて!!」「ハハハハハ!! これでわかっただろう、オレには力があるってなぁ!!」 あたしの言葉も丸っきり無視して、ワトは高笑いをして堂々と叫んだ。「だってオレにはわかるんだからなあ、お前らの考えている事が全部!!」 やっぱり読まれていたんだ。あたしは確信した。 波導使いは、人の考えている事を読む事ができる。実際シナだって、それを使ってバトルを有利に運んでいた。改めてそれをやっているとワトに言われると、読まれていた事が気持ち悪く思えてくる。 考えている事が筒抜けの状態じゃ、当然バトルには不利になる。でも、考えている事を読まれないようにする事なんて、できるはずがない。かといって、何も考えずに心を無にするなんて、お坊さんのような事はできる訳ない。だから、これに対する対策ははっきり言って、ない。「これが、波導使いの力……」 あたしの口から自然と、そんな言葉がこぼれた。「どうだ、並の人間がオレに歯向かおうなんて10年早えんだよ!!」 ワトはそう言って、片手を目の前に突き出した。また“はどうだん”を撃つのかと思ったら、そのまま何もしない。「う……」 でもそれを見た途端、あたしの意識が急に遠くなっていった。まるで麻酔でもかけられたように。体の力が抜けて、体が崩れ落ちる。「あばよ!!」「シェイミーッ!!」 そんな声を最後に聞いて、あたしの目の前が真っ暗になった…… * * * もう着るのが恥ずかしかった新しい服の事は、どうでもよくなっていた。 結局私は、倒れたヒカリとサトシを目の当たりにして何もできないまま、ワトに逃げられちゃった。 ワトの波導は、私が今まで感じた事もないほど、邪悪なものだった。そして強いものだった。それが怖くて、私は何もできなかった。戦おうという気も起きなかった。私は2人を止めようとしたけど、サトシの「信じろ」って言葉には何も言い返せなくて、ただ2人のバトルを見守る事しかできなかった。 その結果起きた、この結末。 私がちゃんと冷静に考えて何か行動していれば、2人を助けられたかもしれない。シェイミを取り戻せたかもしれない。でも私は、何もできなかった。そんな後悔だけが、私の心に残った。 私はタケシと一緒に、ヒカリ達をポケモンセンターに運んだ。ピカチュウとポッチャマを治してもらって、2人をベッドに寝かせる。 2人はただ、気を失っていただけで、命に別状はなかった。波導の力で、ワトが2人の意識を引き剥がしたんだ。ただ攻撃するだけじゃなくて、そんな使い方もできるワト。サトシ達は私を波導使いと言うけれど、あれを見せられたら、私は波導使いなんかじゃないって思えてくる。あんな事は、私にはできないから。「心配するな。シナは何も悪くはないさ」 私の顔を見たタケシは、そう私に言ってくれた。でも私にとっては、励ましにもならなかった。 私はただベッドの横で、2人が目を覚ますのを待つ事しかできなかった。「う、う〜ん……」 しばらくして、2人が声を出したのが聞こえた。見ると、ヒカリとサトシがゆっくりと目を開けている。そして、ゆっくりと体を起こした。「気がついたか?」 タケシが2人に声をかける。「あれ……? あたし達、一体……?」「気を失っていたんだ。あいつの波導の力で」 タケシがそう言い終わった時、私は2人の前に出ていた。「ごめん!! 私が、何もできなかったせいで、こんな事に……!!」 私は体を深く傾けて、大きな声を出して2人に謝った。2人が起きたら、どうしても言いたかった事だった。「シナ……」「気にすんなって。シナは何も悪くないさ」 サトシが優しくそう答えてくれた。「でも……私は……!!」 でも、私はもう泣きそうだった。私のした事が、こんな事に繋がっちゃったと思うと、もう謝らずにはいられなかった。 その時、誰かの手が私の肩に触れた。「ダイジョウブ」 顔を上げると、そこにはヒカリの顔があった。「あたしはシナのせいだなんて、思ってないから。そこまで謝らなくていいよ」 ヒカリが私の前でほほ笑む。でもそんな優しさを見せられると、逆にこっちが悪く思えてくる。「でも、私は……あの『闇の波導使い』に、何もできなかった……」「『闇の波導使い』?」 ヒカリとサトシが首を傾げた。その言葉を使うのは、2人の前では初めてだったけど、私には説明する余裕はなかった。「要は、波導の力を悪事に使う波導使いの事さ」 私の代わりに、タケシが説明してくれた。 闇の波導使い。それは、私がさっきまで読んでいた本で知った事。波導使いは、周りから尊敬されているって印象があるけど、実際はそんな波導使いしかいなかった訳じゃない。波導の力を、悪事に使っている波導使いもいた。そんな波導使いを、昔『闇の波導使い』と呼んでいた。「私……あの力が怖くて……何もできなかった……だから、本当に……」「シナ、そんなに自分を責めないでよ」 私が言い終わる前に、ヒカリが私にそう言った。「確かに、あいつは強かった。でもだからってこっちも負けてなんかいられないさ。シェイミが待ってるじゃないか」 シェイミ……私と一番最初に友達になってくれたシェイミ……私はそんなシェイミを、助けられなかった……「だから心配しないで。シェイミは必ず助けるから」 本当にそれができるのかな……? あんな強い力を、2人が打ち破る事が。「本当に、できるの……?」 本音が、自然と口に出た。「シェイミは、シナの大切な友達なんだろ? そんなシェイミを、このまま放っておけないじゃないか!」「シナだって、そう思うでしょ?」 それを聞いて、私ははっとした。シェイミは、私の大切な友達。そんなシェイミをこのまま黙って連れ去られたくないのはわかる。でも私は、ワトを止める自信がない。「怖く、ないの……? あいつが……」 自然とそんな疑問が口から出る。「ダイジョウブ。あたし達には、ポケモン達がいるもん!」「そうさ、ポケモン達が一緒なんだ。怖いものなんて、何もないさ! シナだって同じだよ」「……!!」 サトシの言葉を聞いて、私の心に光が灯った。「そうよ、シナだって1人じゃないよ。ゲンガーだっているし、あたし達だっているんだから!」「みんなで力を合わせれば、絶対あいつに勝って、シェイミを取り返せるさ!」「ヒカリ……サトシ……!」 2人の波導から、強い力が湧き出ているのを感じる。ワトの力も恐れない、強い勇気。その力は、私にも伝わってくる。(シナ……) すると私の頭に、聞き慣れた声が聞こえてきた。シェイミだ。間違いなくシェイミのテレパシー。「シェイミ……!?」 テレパシーは聞こえるけれど、シェイミの姿はどこにも見えない。私の視線が泳ぐ。(ボク、信じてるよ……あの時みたいに、シナは助けてくれるって……) その言葉を聞いて、私の心が動いた。 シェイミは私を信じている。私が助けに来てくれるって事を。(待ってるよ、シナ……ボク、信じてるから……) どこにいるのかわからないシェイミとは、直接口で話す事はここではできない。結局シェイミのテレパシーは、そこでもう聞こえなくなった。 それでも、私の心に、強い決意が生まれた。 助けに行こう。いや、行かなきゃならない。シェイミを助けに。みんなが、私を助けてくれる。だから、怖がる必要なんてない。シェイミは、私を信じて待ってくれているから……!「どうしたんだ、シナ?」「シェイミのテレパシーが聞こえたの。私を信じてるって……」 一旦そこで言葉を区切った後、私はみんなに顔を向けて、はっきりと、自分の決意を言葉にして伝えた。「……私、行く。シェイミを助けに……!」 そう言った瞬間、みんなの顔に笑みが浮かんだ。 * * * 早速あたし達は、シェイミを探し始めた。 まずサトシが、ムクホークとグライオンを出して、2匹に空から探させる。これはいつもの手段。こういう時には、やっぱり空から探せるポケモンが役に立つ。 もちろん、ひこうポケモンを持っていないあたしだって、黙ってられない。あたしはひこうポケモンの代わりに鼻が利くポケモン、マンムーを出して、シナと一緒に背中に乗って町を探す。 ついこの前だったら、マンムーは言う事を聞いてくれないから、こんな事はできなかった。でも、この前の野生のボスゴドラに襲われた騒ぎの中で、マンムーはあたしの言う事を聞いてくれるようになった。だから今は、マンムーを信じる事ができる。 遠くにある食べ物の匂いを、あっという間にかぎ分ける事ができるほどのマンムーの鼻を信じて、あたしはシナと一緒にマンムーの背中の上で揺られていた。「こんな大きなポケモン、ヒカリが持ってたなんて……」 シナがマンムーの大きな背中を見てつぶやいた。「ウリムーが進化したのよ。でも、進化してからしばらく言う事聞いてくれなかったの」「え?」「イノムーになってから急にそうなっちゃって、マンムーになっても直らなくて……途方に暮れちゃった。ポフィンがないと全然言う事聞かない食いしん坊さんになっちゃんたんだもの」 マンムーが言う事を聞くようになった後、タケシはこんな話をあたしにしたのを思い出した。 ウリムーがヒカリについて行ったのは、単に「おいしい食べ物が食べられるから」って考えていたからで、ヒカリ自身の事はあまり意識してなかったんじゃないか。だからイノムーに進化してからそれが顕著に表れ始めて、言う事を聞かなくなったんじゃないか、って。 タケシの言葉にあたしは納得した。思えば、あの時マンムーの応急手当てをしてあげた事は、ゲットしてから初めてまともにマンムーと真正面から向き合った時だったのかもしれない。だから、今までウリムーの考えている事に気付かなかったのかもしれない。その結果としてあんな事になっちゃったけど、自分の気持ちを真っ直ぐに伝えれば、ポケモンも必ずその気持ちをわかってくれる。それをあの時の経験で教わった。「でも今はこうやって、あたしの言う事を聞いてくれるようになった。きっとあたしの友情パワーが、マンムーに伝わったのよ。ね、マンムー」「ンムー」 あたしが最後にマンムーに話しかけると、マンムーは返事をしてくれた。前だったら、返事なんてしてくれなかったのに。「友情パワー、か……」 シナが感心したようにそうつぶやいた時、マンムーが急に足を止めた。見ると、しきりに地面の匂いを嗅いでいる。「マンムー、シェイミの匂いを見つけたのね!」 あたしが聞くと、マンムーはコクンとうなずく。すると、シナの表情が変わった。「……私も感じる。あの『闇の波導使い』の波導を。近くにいる!」 シナは体中で波導を感じ取っているように、目を閉じてそう言った。目を開けたその表情は、もうあの時の怖がる表情じゃなかった。その目から、シェイミを助けたいって強い意志をあたしは感じた。「じゃ、行きましょ! マンムー、匂いをたどっていって!」「ンムッ」 マンムーはまた足を1歩踏み出した。地面の匂いを嗅ぎながら、ゆっくりと進んでいく。シェイミが待っている、あいつの許へと。 * * * マンムーが匂いをたどって進んでいくと、町からは次第に離れていく。町の外の森の中へとマンムーは入って行った。 途中で、サトシ達とムクホーク、グライオンも合流。2匹共ワトの居場所を見つけたみたい。あたし達は、ほとんど同じタイミングでワトを見つけていたみたい。「近い……!」 進んでいく中で、目を閉じたままシナがつぶやく。「感じるのか?」「うん。もう、すぐそこまで……!」 サトシの質問に答えたシナは、目を開けて顔を上げる。まだワトらしき姿は見えない。でも、シナの波導が確実にワトの姿を捉えているかのように、あたし達が進む先を鋭い眼差しで真っ直ぐ見つめていた。絶対にシェイミを助けるんだ。そんな気持ちが、見ているだけで伝わってくる。 その時、急にシナの目が見開かれた。「みんな、危ない!! 伏せて!!」「え!?」 いきなりシナにそんな事を言われたもんだから、あたし達の声が一緒に裏返った。でもシナの言葉が正しかった事は、すぐに証明された。 森の奥から、急に風の渦が飛んできた。それも凄まじいものが。それは間違いなく、ポケモンのわざ“ねっぷう”だった! あたし達は反射的にシナの言う通りに地面に伏せた。風の渦があたし達の真上を通り過ぎる。真下にいても、“ねっぷう”の熱さを肌で感じ取った。 風の渦が通り過ぎて、あたしは顔を上げた。遠くにポケモンがいる。黒い鳥ポケモン。間違いなくドンカラスだった。“ねっぷう”を使うドンカラスといえば……「ハハハハハ、待っていたぜ、お前ら!!」 その後ろから姿を現したのは、紛れもなくワトだった。その手には、小さな檻を持っている。シェイミが入っているものだとわかるのに、そう時間はかからなかった。「こいつを取り返しに来たんだろ? だからオレからお出迎えしてやったぜ」 その檻を堂々と突き出して、余裕の表情を見せるワト。シェイミはテレパシーで、シナ、と声を上げた。「そうよ。私はシェイミを取り返しに来たの!! 私の大切なシェイミを返して!!」 シナは堂々とそう言って自分から前に出ると、右手でヒールボールを構えて、勢いよく投げ付けた。中からゲンガーが飛び出してくる。すると、それを見たワトはそれを待っていたかのように、笑みを浮かべた。「へっ、ようやくその気になったようだな。なら相手になってやるぜ! ドンカラス!!」 ワトの指示で、ドンカラスも前に出て、ゲンガーと正面からにらみ合う。でも、ゴーストタイプのゲンガーは、あくタイプのドンカラスとはタイプ的に相性が悪い。「シナ、あたしも……!」 だから、あたしもシナに加勢しようとした。でも、シナはあたしの前に右手を出して止めた。「ここは私がやるから。私の力で、シェイミを取り返すから!」 シナは、自分1人の力でシェイミを取り戻そうとしている。闇の波導使いの力を恐れずに立ち向かおうとしているからかもしれない。それがわかったあたしは、自然と身を引いていた。 その瞬間、シナの目付きに、力が宿ったのが見えた。「ゲンガー、“ヘドロばくだん”!!」 シナの指示で、ゲンガーが先手を取る。ゲンガーは口からたくさんのヘドロの塊をドンカラスに向けて発射! でも、ドンカラスはさっとかわしてみせる。「“エアカッター”!!」 ドンカラスも反撃する。羽を羽ばたかせて発射した“エアカッター”が、ゲンガーに襲いかかった。でもゲンガーもそれをよけてみせる。 2匹共攻撃をかわした。いや、違う。牽制して、様子をうかがっているんだ。これで相手の動きを見てから、本命の攻撃を繰り出す。ポケモンバトルじゃ、ポピュラーな戦法。「ゲンガー!!」 それを見極めたかのように、シナの指示が響く。ゲンガーが一気に飛び出した、『ふゆう』の力を活かして、あっという間にドンカラスの目の前に躍り出た。「“シャドークロー”!!」「受け止めろ!!」 シナとワトの指示が重なった。ゲンガーの振り下ろした“シャドークロー”を、羽で受け止めるドンカラス。でも、その衝撃はかなりあったみたい。ゲンガーが羽を振り払うと、その反動でドンカラスは体勢を崩して地面に墜落した。今がチャンス!「今よ!! “さいみんじゅつ”!!」 すかさずシナは指示を出した。ゲンガーは右手を突き出してドンカラスをにらんで、そして念じ始める。これが決まれば、相手を眠らせられる。相手は何もできない訳だから、当然有利になる。サトシだって、このわざを駆使するヨスガジムリーダー・メリッサさんには大苦戦したんだから。 ゲンガーの“さいみんじゅつ”は確実に当たっている。これなら確実に眠らせられる……「ところがそうはいかねぇ!!」 すると、いきなりワトがそれを待っていたかのように叫んだ。すると、ドンカラスの目がカッと見開いたかと思うと、また勢いよく空へと飛び上がった!「眠ってない!?」「“あくのはどう”だ!!」 シナとゲンガーが動揺した隙に、ドンカラスは“あくのはどう”を発射! 直撃! 効果は抜群! ゲンガーはたちまち地面に真っ逆さまに落ちた。「どうして!? “さいみんじゅつ”は確実に当たっていたはずなのに……!?」「あのドンカラスの特性は『ふみん』なんだ! 眠らせるわざは通用しない!」 タケシが声を上げた。眠らせるわざが効かない特性なんてあったの!?「その通りさ!! このドンカラスを眠らせようったって無駄だぜ!!」「そんな……!?」 もう勝ち誇ったかのように叫ぶワトを前にして、シナの表情は動揺していた。「さあ、次はこっちから行くぜ!! ドンカラス!!」 ワトが叫ぶと、ドンカラスは地面に落ちたゲンガーに向かって、一直線に急降下していった!NEXT:FINAL SECTION
「さあ、次はこっちから行くぜ!! ドンカラス!!」 ワトが叫ぶと、ドンカラスは地面に落ちたゲンガーに向かって、一直線に急降下していった。私はすぐにゲンガーを呼んだけど、ゲンガーのダメージは大きい。その場から動けそうにない。さっきの“あくのはどう”で、かなりのダメージを受けたのは明らか。 お前の体力はなさすぎる。ゲンガーの能力を見極めていた、シンジの言葉が頭に浮かぶ。1回でも攻撃を受ければ、ゲンガーには致命傷になる。それに気付いた時には、もう手遅れだった。「“あくのはどう”!!」 ドンカラスはゲンガーの真上から“あくのはどう”を発射する。それは、動けないゲンガーに容赦なく襲いかかった。 直撃だった。ゲンガーが爆発に包まれる。その上を、ドンカラスは悠々と上昇していった。「ゲンガーッ!!」 私は思わず声を上げた。でも、返事はない。そして、ゲンガーの波導が弱くなっているのを感じ取った。爆発が治まった時、そこには力なく伸びたゲンガーの姿が見えた。 私の負けは、一瞬で決まった。私は言葉が出なかった。たった1匹戦えるポケモンだったゲンガーが、こんな簡単にやられちゃったなんて……「何だ……!? それがお前の本気なのか……!? 面白くねぇぞ、女ぁ!!」 すると、ワトの鋭い視線が私に向けられた。あっさりと勝った事に喜ぶ所か、逆に不満を持っている。それをぶつけようとしている。私の背筋に寒気が走ったのを感じた。 ワトが両手を引く。すると、両手の間に“はどうだん”が作られ始める。私が気付いた頃には、もうそれは私に向かって真っ直ぐ飛んで来ていた。「きゃあっ!!」 私の体に、“はどうだん”が直撃した。そして、視界に青い空が入ったと思うと、背中に強い衝撃が走ったのを感じた。「シナ!!」 すぐにサトシが駆け付けてくれた。仰向けに倒れた私の体をそっと起こす。「ごめん……私の力じゃ……勝てなかった……」 私は力なく両手をグッと握った。「お前の力はそんなもんじゃねえだろ……! なぜ本気を出さねぇんだ!?」 ワトがそんな質問を浴びせた。でも、私は答えられなかった。ワトはなぜか私の力を強いものだって言ってるけれど、そんなはずない。私の力で、シェイミは助けられなかった……それも、思いがシェイミにすら届かないまま、あっけなく退けられて負けた。その無力さが、悔しくて仕方がなかった。「シナ、あたしが代わりにやる!! シナの気持ちは、無駄にはしないから!!」 その時、ヒカリが前に出た。その目付きには、強い力が宿っている。 ヒカリはモンスターボールを1つ取り出すと、ミミロル、と叫んで力強く投げ付けた。中からうさぎポケモン、ミミロルが飛び出す。そのミミロルは、茶色のポケモン用の服を着ていた。 でも、ヒカリは一度ワトに負けている。ヒカリから勇気をもらってここまで来た私だけど、あの力に本当に打ち勝つ事ができるのか、私は不安だった。FINAL SECTION シナ、目覚める!「ちっ、代わりにお前がやるのか……少しは楽しませてくれるんだろうなぁ?」 シナにあっさり勝った事が不満で仕方がない反動なのか、ワトはあたしに不満そうな目を向けた。まるで、一度追い払われたあたしじゃ、相手にならないって考えているようにも見える。 それでも、あたしは下がる気なんてなかった。シェイミを助けようって決めたシナが負けたんだから、その気持ちを無駄にはしたくない。勝てなかったシナの代わりに、必ずシェイミを取り返す! あたしは、ワトを強くにらみ返した。「ミミロル、“れいとうビーム”!!」「ミィィィィミ、ロォォォォッ!!」 あたしの思いを乗せて、ミミロルが“れいとうビーム”を発射! 真っ直ぐドンカラスに伸びていく白い光線。当たれば効果抜群の攻撃を、ドンカラスもさすがにかわさない訳にはいかない。サッと“れいとうビーム”をかわすと、一直線にミミロルに向かってくる!「“ばかぢから”だ!!」 ドンカラスが加速する。“ばかぢから”といえば、かくとうタイプのわざ。しかも威力も高い。ノーマルタイプのミミロルが受けたらただじゃ済まない。これは当然、よけておきたい。ドンカラスは、なおもスピードを上げてミミロルに突っ込んでくる。でも、まだ。焦らないで、慌てないで、ギリギリまで近づけて……!「ミミロル、回って!!」「止まれ!!」 あたしとワトの指示が重なった。ミミロルは足を踏みしめて、ジャンプ。そして、そのままドンカラスの突進をよける……つもりが、ドンカラスはミミロルの目の前で急停止。ミミロルの『回転』は動きこそ成功したけれど、ドンカラスが目の前で動きを止めたせいで、ミミロルの『回転』は空振りになっちゃった!「今だ!! “あくのはどう”!!」 ミミロルの『回転』が空振りした隙を突いて、ドンカラスは体を反転させて、ミミロルが着地した隙を狙って“あくのはどう”を発射! 至近距離だった。「ミミィィィィッ!!」 よけられるはずなんてない。たちまちミミロルは弾き飛ばされる。 読まれた。あたしはミミロルに『回転』の指示をする事を、ワトは波導で見抜いていたんだ。だから目の前でドンカラスを急停止させて、『回転』を空振りさせて、その隙を狙って攻撃させたんだ。「変な動き使ってかわそうとしても無駄だぜ!! 全ての動きはお見通しなんだからなあ!! “ねっぷう”!!」 余裕を見せるワトの指示で、ドンカラスは“ねっぷう”を発射!「“とびはねる”でかわして!!」 とっさにあたしはそう指示した。ミミロルは“ねっぷう”を自慢のジャンプ力を活かしてかわした。これで、ドンカラスの上を取る。「“ピヨピヨパンチ”!!」「ミミィィィィッ!!」 そしてそこから落ちる速度に任せて、ミミロルは耳の拳を突き立てて急降下!「読めるんだよ!!」 ワトは右手を突き出して、いつの間にか作り出していた“はどうだん”を発射した! 当然、ミミロルは相手のトレーナーが攻撃するなんて思ってもいなかっただろうから、突然の事でよける動きができなかった。「ミミィィィィッ!!」 直撃! 効果は抜群! ミミロルは体勢を崩して、そのまま地面に吸い込まれていく。「“あくのはどう”!!」 そして、落ちて行く所へ追い打ちをかけるように、ドンカラスは“あくのはどう”を発射! 直撃! ミミロルの落ちる速度が更に加速して、ミミロルは地面に落ちた。ほとんど叩き付けられたって感じだった。地面に倒れたまま動かないミミロル。完全に戦闘不能。「ミミロル!!」「いい加減わかれよ、オレみたいな波導使いに普通の人間が戦っても勝てねえってな!!」 もう勝ちを確信したかのように、ワトは胸を張った。「まだよ……!! まだあたしの手持ちは残ってる……バトルは終わってない!!」 それでもあたしは逃げる気なんてない。まだ負けは決まっていない。手持ちが残っている限り、あたしは絶対にあきらめるもんですか! あたしはもう1個のモンスターボールを取り出して、パチリスを繰り出した。そして、あたしは指示を出した。「“いかりのまえば”!!」「チュパアアアアッ!!」 パチリスの前歯が伸びて、パチリスは自慢の足を使ってドンカラスに躍りかかった! * * * ヒカリの波導は、ワトに対する恐れを知らなかった。 でも実際のバトルは、ヒカリは押されっぱなしだった。攻撃はことごとく見切られて、隙ができた所に攻撃を叩き込む。だからヒカリは、ドンカラスに対して決定的な攻撃を当てる事ができない。結局足の速いパチリスもドンカラスにろくな攻撃を当てる事ができないまま、ノックアウトされた。強気だったヒカリの表情に、焦りが見え始める。 次にヒカリはポッチャマを出した。回りながら撃つ“バブルこうせん”を使ってドンカラスの動きを抑えようとしたけど、それもやっぱり読まれる。遂にポッチャマも隙を突かれて大きなダメージを受けた。 そんなヒカリのバトルを見ていると、自分が何もできない事の悔しさが込み上げてくる。 私は、私自身の波導の力を人に役立てたいって思って、旅に出た。それを決心させたのは、まぎれもなくヒカリだった。でも、私は何もできなかった。ワトに正面から立ち向かっても、何もできなかった。シェイミを助けられなかった……そして、私の代わりにかんばっているヒカリも……「がんばってポッチャマ!! 立って!!」「ポ……チャ……!」 見れば、もうポッチャマのダメージは限界に来ている。もう立つ事もままならない状態。「これで終わりだ!! “エアカッター”!!」「ポッチャマ、“がまん”!!」 ドンカラスが“エアカッター”を放つのと同時に、ポッチャマは何とか攻撃をこらえようと身構えた。ポッチャマの体を容赦なく襲う“エアカッター”。最初は絶えているように見えたけれど、ポッチャマの波導はもう限界に来ている。いつ耐えられなくなってもおかしくない。そして……「ポチャアアアアアアッ!!」 遂にポッチャマは耐え切れなくなって、空気の刃に跳ね飛ばされた。ヒカリの目の前で倒れるポッチャマ。「ポッチャマ!!」 ヒカリが呼んでも、ポッチャマは返事をしない。完全に戦闘不能。そんな、とつぶやくヒカリの表情に焦りが見える。「ちぇっ、面白くない奴だな……」 ワトはそう吐き捨てる。ヒカリとのバトルはワトにとって全然面白くなかったみたい。すると、ワトはまた右手で“はどうだん”を作り出して、今度はそれをヒカリに狙いを定めて発射した!「きゃあっ!!」 今まさにモンスターボールを取り出そうとしていたヒカリは、“はどうだん”の直撃を受けて跳ね飛ばされた。ヒカリが投げようとしていたモンスターボールは、森の茂みの中に飛んで行っちゃった。そのまま木に叩きつけられるヒカリ。「ヒカリ!!」 すぐにサトシとタケシが駆け付ける。でもワトは、その2人にも狙いを定めていた。「お前らはつまらなさすぎだ。だからとっとと片付けさせもらうぜ!!」 ワトは両手を突き出した。すると、両手からたくさんの青い針のような光弾が3人に降り注いだ! 3人の悲鳴が響く。私は思わず、目を逸らしちゃった。 私が力がなかったから、みんなが……もう私の心には、いじめられるのが嫌で死にたいと思ってた時と同じ、絶望感しかなかった。(シナ!!) すると、頭の中でシェイミのテレパシーが聞こえた。それを聞いて、私は目覚まし時計のベルを聞いた時のようにはっとした。(負けないでよ!! 波導の力で人を、助けたいんじゃなかったの!!) シェイミの声は、なぜか泣いているように聞こえた。ワトが持っている檻に目を向けると、シェイミは確かに、こっちを見て泣いていた。(それに、ボクは……こんな事でシナと別れるなんて嫌なんだ!!) そのシェイミのテレパシーを聞いて、私の頭に、あの時の言葉がよみがえった。 ――シェイミは、シナの大切な友達なんだろ? そんなシェイミを、このまま放っておけないじゃないか! ――シナだって、そう思うでしょ? そうだ、私は、シェイミを助けに来たんだ。このまま悪者に連れ去られたら、もう二度と、シェイミに会う事なんてできなくなる。 ――シナって、優しいんだね。 そう言って、私と友達になってくれたシェイミ。そんなシェイミと、もう二度と会えなくなるなんて…… それに、私に勇気をくれて、旅に出る決心を決めさせてくれたみんな。私のためにがんばっているみんなが、こんなになっているのに…… 私は…… 私は……… 私は…………っ!!(だからシナ、負けないでっ!!) そんなシェイミの叫び声に背中を押されたように、私はみんなの所に駆け出していた。 * * * 突然、あたし達に襲いかかっていた青い光弾が止んだ。「……?」 目を開けて見てみると、そこには1人の人が立っていた。右手を前に突き出していて、その目の前には、透明な青い壁が立ちはだかって、光弾を受け止めていた。「シナ……!?」 そう気付くのには、長く時間はかからなかった。シナが、光弾を受け止めている……!? それもバリアで……!? 波導でバリアを張るっていうのは、鋼鉄島で出会った同じ波導使いのゲンさんも使っていた。でもシナは、今までそんな事をした事なんてなかった。だからあたしは、こうやって驚いている。「何だと……!?」 さすがのワトも、これには驚きを隠せない。「助ける……!」 シナが右手を突き出したポーズのまま、つぶやいた。風も吹いていないのに、緑色の髪は後ろになびいている。その後ろ姿は、どこか底知れない力に溢れているように見えた。すると、正面に立っていたバリアが縮んで、シナの右手の平でボールのような形になった。「みんなを助ける……!! 私の……私自身の力でっ!!」 そう力強く叫ぶと、シナは目をカッと見開いた。手で作り出したボールは凄まじい衝撃を放ちながら、真っ直ぐワトに向かって飛んで行った! あれって、ワトがやっていたのと同じ“はどうだん”!?「ぐわっ!!」 シナが放った“はどうだん”は、ワトの左手に直撃した。いや、違う。シェイミが入った檻に、大きな穴が開いている。檻を狙ったんだ! 檻に開いた穴から、すかさずシェイミが飛び出した。ワトがしまった、と叫んだ時にはもう、シェイミはシナの所まで駆け出していた。「シェイミ!!」(シナ!!) シェイミとシナは、互いに引き合うように駆け出した。そしてシナは、胸に飛び込んできたシェイミを、しっかりと受け止めた。「シナ……凄い……!」 あたしはもう、その言葉しか出なかった。シナは今まで、波導が見えるだけだったのに、このような使い方ができたなんて、もう凄いとしか言いようがない。「凄いじゃないかシナ! あそこまで波導を使えるなんて!」「まさに正真正銘の波導使いだ……」 それは、サトシやタケシも同じだったみたい。「くっ……やっと本気を出しやがったか……」 正面には、唇を噛むワト。それを見たシナは、シェイミと顔を合わせてうなずいた。そして、シェイミがシナの腕から飛び出す。(さて、捕まったお礼はきっちりさせてもらうよ!!)「私は、ワトのような闇の波導使いは許せない……!!」 シェイミとシナの鋭い視線が真っ直ぐワトに突き刺さる。そしてシナは、髪に刺しているグラシデアの花を引き抜いた。それをシェイミの側に持っていくと、シナから力を受け取るかのように、シェイミの姿が眩い光を出しながら変わり始めた。今までの姿――ランドフォルムから打って変わったスマートな体と、凛々しい顔を持ったシェイミのもう1つの姿、スカイフォルムへと。 スカイフォルムへと姿を変えたシェイミは、サッとジャンプして空に浮かび上がった。その姿を見て、さっきまで戦っていたあたしも、負けてられないって気持ちになった。「あたしだって!! マンムー、お願いっ!!」 あたしは後ろにいたマンムーに呼びかける。マンムーは、重い足音を踏み鳴らしながら、あたしの前に出た。「ヒカリ!?」 その様子を見たシナが、目を丸くした。「一緒に戦おう、シナ! 一緒なら、ダイジョウブ!」「……うん!!」 あたしが言うと、シナは安心した表情を見せて、はっきりとうなずいた。そしてあたし達は、改めてワトをにらみつける。「2対1か……ならこっちも、ハリーセンを出させてもらうぜ!!」 ワトも負けじと別のモンスターボールを取り出して、場に投げ付ける。その中からハリーセンが現れた。2対2のダブルバトル。不思議とあたしは、負ける気はしなかった。「2匹まとめてぶっとばしてやる!! ドンカラス、“ねっぷう”だ!!」 先に仕掛けたのはワトだった。ドンカラスが羽を羽ばたかせて、“ねっぷう”を放った! シェイミもマンムーも、炎攻撃には弱い。2匹一緒に食らったら、大変な事になる。「マンムー、シェイミの前に出て!!」 とっさにあたしは声を出した。マンムーは指示通りに、シェイミの前に出て壁になる。そこに、“ねっぷう”が直撃! マンムーの体が、壁のように“ねっぷう”を阻んでシェイミへのダメージを防いでいる。作戦は成功!「ハハハハハ!! 味方をかばうのはいいが、そのデカブツだってただじゃ済まないんじゃないのかぁ?」 余裕を見せるように笑うワト。「ヒカリ、これじゃマンムーが……」「ダイジョウブ。マンムーだからこそやれるのよ」 不安な表情を浮かべるシナに、あたしは自信を持って答えた。そしてあたしは、次の指示を出した。「マンムー、そのまま“とっしん”よ!!」「ンムウウウウウウッ!!」 マンムーはそのまま“ねっぷう”を押し退けながら、足を踏みしめてどんどん加速し始める。“ねっぷう”のダメージを、ものとのせずに。「“ねっぷう”が効いてないのか!?」 ワトが初めて動揺した声を出した。 マンムーが進化したばかりの時、暴走を止めようとしたポッチャマの“バブルこうせん”や“うずしお”にもビクともしなかった事を、あたしは忘れてなんかいない。だからあたしは、そんなマンムーなら“ねっぷう”にもビクともしないはずって信じて、この指示を出せた。そしてマンムーは、それに見事に応えてくれた。 ただ、ひたすら相手にこちらの力をぶつけていくだけ。前にルビーさんが言っていた言葉が、あたしの頭にあった。余計な事は考えない。あたしはマンムーのこのパワーを、ワトのポケモンにぶつけていくだけ!「ええい!! ハリーセン、“しおみず”だ!!」 ワトの指示に焦りが見え始める。ハリーセンがドンカラスの横に並んで、マンムーに向けて水流を発射した! 命中! “ねっぷう”と合わせてマンムーを止めようとするけど、それでもマンムーのスピードは緩まない。そもそも“しおみず”は、相手の体力がかなり減っていないと効果は発揮されないわざ。マンムーを相手にするには、パワー不足なのは歴然。「いっけえええええっ!!」「ンムウウウウウウッ!!」 あたしの叫び声に応えるように、マンムーが加速した。そして、あっという間に2匹の目の前にまでマンムーの巨体が迫った。2匹が無理だと気付いた時にはもう手遅れ。2匹はたちまち、マンムーの巨体に思い切り跳ね飛ばされた。マンムーの巨体に比べてずっと体が小さい2匹がマンムーの“とっしん”なんてくらったら、ただじゃ済まないはず!「バカな!?」 ワトが驚いた隙に、マンムーの後ろからシェイミが飛び出した。「動けない隙に“エアスラッシュ”!!」「しまった!!」 シナとワトの声が重なった。でも、ワトの声は今までのような指示じゃなくて、驚きと焦りが混じった声だった。(任せて!!) シェイミは倒れて動けない隙を突いて、頭に付いた羽から、空気の刃を発射! ハリーセンが気付いた時にはもう手遅れだった。クリーンヒット!「続けてマンムー!! “げんしのちから”!!」「デカブツが来るぞ!! 応戦しろ!!」 あたしとワトの指示が重なった。ワトに読まれちゃった! これじゃ、何か対処される……!「ンムウウウウウウッ!!」 マンムーは体のパワーを1つに集めて、光るボールを作り出す。でも、それを目の前にしても、ハリーセンは微動だにしない。「おい!! 何をしてるんだ!!」 ワトが焦りを見せて呼びかけても、ハリーセンは動かない。そこに、マンムーの“げんしのちから”が飛んできた! 直撃! たちまちボールのように跳ね飛ばされたハリーセンは、そのまま完全にノックアウト。「読まれていたのに、動かなかったぞ!?」「……そうか!! “エアスラッシュ”の追加効果で、ハリーセンは怯んで動けなかったんだ!!」 サトシとタケシのそんな声が聞こえた。それを耳にしたあたしは納得した。だから指示を聞いてもハリーセンは動けなかったんだ。 とにかく、これで2対1。流れがこっちに来てる!「くそうっ!! ドンカラス、デカブツに“ばかちから”だ!!」 完全に怒ったような声で指示を出すワト。ドンカラスはマンムーに向かって、真っ直ぐ突撃していった! でもマンムーなら……!「“こおりのつぶて”!!」「ンムウウウウウウッ!!」 すぐにあたしはそう指示した。マンムーは氷の塊を素早く作り出して、ドンカラスが目の前に来る前に発射!「しまった!! “こおりのつぶて”は先制わざ……!!」 ワトがそう気付いた時には、もう“こおりのつぶて”はドンカラスに直撃していた。効果は抜群! ドンカラスは力なく地面に墜落した。そのまま動く気配がない。戦闘不能!「くそっ、なめやがって貴様ぁ!!」「“でんこうせっか”!!」 ワトが完全にキレて、右手を突き出して“はどうだん”を作ろうとした時、シナの指示が聞こえた。(くらえええええっ!!) テレパシーで叫び声を上げながら、シェイミはワトに飛び込んだ! シェイミがタックルを浴びせた瞬間、ワトは跳ね飛ばされた。そのまま地面に倒れる。急所に当たったのか、ワトはうずくまったまま、なかなか立つ事ができないでいる。そんなワトの前に、シナがシェイミと一緒に出た。「私達の勝ちよ。観念して!!」 2人の鋭い視線を目の当たりにしたワトは、何も抵抗しようとはしなかった。 * * * こうして、事件は無事に解決した。 ワトはそのまま一切抵抗する事なく、警察に御用となった。ワトが抵抗しなかったのは、本人曰く、「あの女の力は予想以上だった……まともにやりあってたらオレは死んじまうぜ」だって。シナの予想外の力に、恐れをなしたみたい。 それにしても、シナの力は本当に凄かった。今までシナが見せた事もない力を、シナは普通に使って見せた。これはまさしく、覚醒ってものなのかもしれない。 シナは少しの間、疲れた様子を見せていた。波導の使う事は、体にも大きな負担をかけるから、あまりやりすぎると命に関わる事もあるって、タケシは言っていた。波導を使う事は、結構体力もいる事なんだね。「シェイミ、ありがとう。私、あの時シェイミが話しかけてくれなかったら、シェイミを助けられなかった……」(へへ、どういたしまして。でもよかったね、あんな力が使えるようになって)「え?」(あの力があれば、もういじめっ子にいじめられてもやり返せるじゃない)「シェ、シェイミ!」(冗談だよ) ベンチに座るシナの近くで浮いているシェイミの、気の利いた冗談を聞いて、シナは顔を赤くした。シェイミって冗談も言うんだ。そう思ったあたし達も、思わず笑っちゃった。「シナ、これならもう、その力をいっぱい人に役に立ててあげる事ができるじゃない」「うん。でもあの時、もう夢中でやってたから、どうやってあんな事ができたのか、全然覚えてない……」 あたしがそう言うと、シナは困ったような表情を見せて苦笑いした。「なら、特訓すればいいさ!」 すぐにサトシがそう答える。さすがサトシらしい答え方。でも、タケシが特訓って言っても難しいだろ、と言って、シナに話した。「俺達は前、ゲンさんっていう、波導使いのポケモントレーナーに会った事があるんだ」「波導使いのポケモントレーナー……?」 興味を持ったのか、シナが目を見開いた。 ゲンさんは、鋼鉄島に行った時に出会った波導使いのポケモントレーナー。その時起きていたはがねポケモンの暴走事件を解決しようとしていて、あたし達もそれを手伝った。その犯人のギンガ団が、最後に爆弾を使って島を爆破しようとしたけれど、ゲンさんはそれも波導の力で手持ちのルカリオと一緒に食い止めた凄い人。「多分、今も鋼鉄島にいると思うんだが、そのゲンさんに会えば、何か教えてくれると思うぞ」「鋼鉄島……行ってみる、シェイミ?」(ボクはついて行くよ。あの力でボクを助けてくれたシナのためなら、どこにだって!)「え……?」 突然そんな事をシェイミに言われて、シナは頬を赤くした。そして、シェイミはシナの顔の横に回ると、シナの頬にすり寄ってきた。(ボクはシナが、大好きだから)「……!!」 そんな予想外の言葉を聞いて、シナは顔を真っ赤にした。当然、あたし達もびっくりした。人にすり寄るポケモンは普通だけど、そんな時にこんな事を口で言われたらマジで驚く。これじゃ、完全に愛の告白みたい……でも、ポケモンと人との関係って、こんなものなのかなあ? * * * そんなこんなで、シナは早速、鋼鉄島に向かう事になった。 沈む夕焼けをバックにして、あたし達はシナと挨拶を交わしていた。「ゲンさんに会ったら、よろしく伝えておいてくれよな」「うん。じゃ、行こう、シェイミ」(うん) シナはシェイミと一緒に、あたし達に背中を向けた。そしてシェイミと一緒に、あたし達に手を振る。「じゃあね、みんな!」「シナも元気でな〜っ!」「気をつけてね〜っ!」 あたしは遠くなっていくシナの後ろ姿を、手を振って見送った。そしてシナの姿が小さくなったのを確かめて、あたし達も出発した。 次のジムがある、キッサキシティに向けて。 * * *「ねえ、シェイミ」(何?) あたし達が出発した時、シナがそう言ってシェイミをそっと抱き締めて、こんな事を言っていた事には、あたし達は気付いていなかったけど。「私も大好き。シェイミの事」 * * * こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……STORY29:THE END
ポケットモンスター。縮めてポケモン。 それは、この世界に生きる不思議な生き物。 世界のあらゆる所に住み、400種類以上も発見され、長い間人間と共に暮らしている生き物ですが、その生態は未だにわからない事が多い生き物です。 そう。ポケモンの事に限らず、この世界には知らない事が、たくさんあります。 旅をしていると、本を読むだけではわからない事が、いっぱい体験できます。世界はやはり、本を読むだけではわからないほど広いのです。私は旅の中で、それを実感しました。 私の名前は、プラチナ・ベルリッツ。学者の家系ベルリッツ家出身の学究の徒です。 NEXT STORY: 30作達成記念3部作 第1部:もう1人のヒカリ COMING SOON……