空は青いけど…―――
深い森の中…――
「優貴ー! どこだよぉー!!」
怖い…。
優貴、どこ?
「修兵…大丈夫?」
泥だらけの顔をした女の子、優貴。
何もない貧しい世界で出会った少女。
手にはいっぱいの木の実。
「私から離れるなって、言っただろ?」
「だって…優貴ぃ…速っい…グスン」
僕は……泣き虫だ。
まるで、僕が女の子みたいだった。
いつも優貴は、僕を守ってくれる。そばにいてくれる。
それが、当たり前だった。
「泣くな…男だろ?」
頭に手を置いて、なでてくれるのが嬉しい。
身長は、やや僕のほうが低い。
でも、そっちのほうがいい…。
そっちのほうが、落ち着く――――
「…うわぁー!!」
バシャーンッ!―――
「ったく…修平のばか。魚が逃げただろう?」
優貴の言葉が悔しくて、また泣く僕。
「うっぅ…うぅ…」
「……ふぅ…ほら、」
白い細い手がゆっくり差し伸べられる。
いつも、僕はこの手につかまってる。
「修平、泣くなって」
「…うぅ…っん…」
空は暗くなって―――
二人で採った木の実や魚を、たき火を囲み食べる。
「…なぁ、修平」
たき火の煙で、優貴の顔はよく見えない。
「……んー??」
魚を食べながら、ふと返事をする僕。
おいしいなぁ。
今日はごちそうだね。
「……私は多分…死神に連れていかれる」
手が…止まった。
いま…なんて言ったの?
「……え」
「修平…私の力……分かるだろう?」
私の力
時々優貴は…急にうなり始めて、苦しそうになる。体から黒いオーラみたいなのが出てきて、それを優貴の体を覆いつくす。
一瞬、何かの動物みたいな声がする。
僕は…何度か、襲われた。
「死神は…私が危険な存在だと、私を捕まえに来る…。それに、これ以上修平を傷つけるわけにはいかない」
僕はちらっと、自分の腕を見た。
何ヶ所か消えない傷が…まだある。
これは、優貴に……。
「…そんな!! 優貴がいなくなったら僕は……」
涙がポロポロとまた流れ出す。
やだよ…。ずっと、ずっと一緒だったんだ。
なのに…?
「私も…嫌だよ。でも……」
自分の胸を抑え、一つ涙を流した。
初めて見た…。優貴が泣いてるところなんて…。
「じゃ…じゃあ! 逃げよう!!」
「…え…」
「僕と一緒に逃げよう!! 死神が来る前に」
涙を拭って、優貴の腕を掴んだ。
今、気づいたんだけど…。
僕はいつも掴まれてばっかりで分かんなかった。
優貴の腕は…こんなにも細いってことを。
「…修平」
「僕が優貴を守る! だから逃げよう!」
「……だめなんだ…。死神の気配を感じる…」
目を閉じて、耳をすませる。
「近づいてきてるんだ…」
風か、小動物か…
草が少し動くだけで怖くなる…。
「でも!! 頑張って走れば大丈夫……」
赤い瞳…その瞳の中に僕は写っていて…。
少しぼやけて写ってる…。
それは……優貴の目から、涙が流れてるから…。
「…修平…お前は逃げろ。私と一緒にいたら、お前も危険な存在だと………う″ぅっ!」
また……この悪い感じ……。
優貴の体から、黒いオーラが流れ出る。
「…にげ…ろっ!!!」
苦しそうに言う優貴。
あたりに優貴のうめき声が響く。
それは…まるで怪物のようだった。
「ゆぅ…き……!!」
「あ″ぁぁぁぁぁ!!!!」
怖い……
怖い……
また……
優貴に襲われた記憶が蘇る……。
『やめてー!!!』
怖い……
「いたぞ! ここだ!!!」
声が聞こえたと思うと、黒い服を着た人達が、一斉に出てきた。
刀を抜いて、僕たちを囲む。
「あ…あぁ…ああ……」
頭が真っ白になった。
もしかして、この人達が……死神?
「そこの子供! いますぐそいつから離れろ!」
そいつって…優貴の……こと?
「い……嫌だ!!!」
声が震える…。
この人達は…なんなんだ……。
「そいつをよく見てみろ!! そいつは……化け物だ!!」
化け物
ゆっくり…隣にいる優貴を見た……。
黒い大きな塊……。
ゆっくりと…動く……。
「…ゆ………」
言葉が失った…。
大きな黒い……虎…?
牙が長く…黒い雲をまとっている……。
黒い…電気?
すべてが黒に染まった……化け物…。
「…ひぃっ…!…逃げろガキ!!」
腰が抜けたって言うのかな……。
怖い……。
これは、優貴じゃない…。
化け物だ…
足が…動かない……。
すると……―――
「……うぅぅぅぅ」
低い声…大きな口と牙が僕に迫ってくる…。
恐怖で声も出ない…。
「やめろ!!!」
死神が一斉に…襲い掛かってくる。
体が…浮いた。
服を掴み、僕を大きく投げ飛ばす。
そのとき…少し聞こえたんだ。
さようなら
って――――
死神の刀が、形を変えて…化け物に襲い掛かる。
血が噴出した。その血は…化け物の……。
いや、優貴……でしょ?
「ウァァァァァァアアァァアァァァ!!」
奇妙な悲鳴をあげ…化け物は倒れた。
一切…化け物は反撃しなかった。
ずっと……僕を見ていた。
それから…優貴は死神に連れて行かれた……。
最後に見たのは…光の綱で運ばれていくところだけ…。
あれは確か、「鬼道」だと優貴は言っていた…。
「……ゆ………き」
あれから…その後僕はどうしたんだろう……。
泣きつかれて……寝てしまった……。
優貴がいない…初めての夜だった……。