アニメ投稿小説掲示板
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前回のSTORY37は、ポケモンヒューマンの中止に伴い中止にしたので、新しくSTORY37を書き直します。 今回からヒカストは『ヒカリのIF』をテーマに、アニメとは異なる展開を描いていきます。 第1回の今回は、題名通りポッチャマの進化がテーマ!ルビー イメージCV:小宮和枝 赤い瞳が特徴的な、ポケモンコーディネーターの女性。 アヤコとは旧知の仲で、彼女を「アヤちゃん」と呼ぶ。また、ヒカリともヒカリが生まれたばかりの時に会っている。 年齢はアヤコと同じだが、アヤコ曰く「私以上にコンテストに夢中」らしく、現在でも第一線で活動を続けている大ベテランで、グランドフェスティバルでも常連で幾度かの優勝経験がある、トップクラスの実力の持ち主。そのため結婚はしておらず、現在も旅を続けている。 容姿端麗で、落ち着いた印象を持つ女性だが、ポケモンコンテストでは意外にもポケモンの力強さを活かした、かっこよさとたくましさを追求したパフォーマンスをする。手持ちポケモンのカイロスで、“ハサミギロチン”の一撃で一瞬の内に優勝を決めたエピソードはあまりにも有名で、『一撃必殺の鬼』とも呼ばれている。しかしそれでも向上心を忘れず、グランドフェスティバル出場の度にリボンを集め直しており、コーディネーターとの交友関係も広い。謎の人物 イメージCV:門脇舞以 マッハポケモン・ガブリアスを操り、ヒカリの命を狙う。テレパシーのような力を使い、姿を見せない。少女のような声だが、その正体は……?
あたし、ヒカリ! 出身はフタバタウン。夢は、ママみたいな立派なトップコーディネーターになる事! パートナーはポッチャマ。プライドが高くて意地っ張りだけど、それだからとてもがんばりやさんのポケモンなの。そして、シンオウリーグ出場を目指すサトシと、ポケモンブリーダーを目指すタケシと一緒に、今日もあたし達の旅は続く。 これは、そんなあたしが旅の途中に経験した、ある日のお話……SECTION01 強くなるなら進化するべき? ついこの間まで、いろいろな事があった。ギンガ団が『新世界を作る』という目的のために動き出して、『赤い鎖』というアイテムでディアルガとパルキアを強引に操って新しい宇宙を創り出そうとしたの。ユクシー、エムリット、アグノムに呼ばれて駆け付けたあたし達は、これを何とか止める事ができて、事件は一件落着。ギンガ団も崩壊した。 そしてあたし達は、これまでと同じように旅を続けている。途中でサトシのグライオンがエアバトルを極めるために預けられたり、サトシが新しくフカマルをゲットしたり。あたしも、次のコンテストの目標をダブルパフォーマンスがあるアサツキ大会に決めた。あとリボンが1つでグランドフェスティバルだけど、それを賭けて出た2回のコンテストじゃ、優勝できなかった。ましてや次は、ヨスガ大会で一度失敗しているダブルパフォーマンス。だけど、前みたいに挫けはしない。優勝できなかった2回のコンテストには反省する所がいっぱいあったし、それを教訓にしてまた努力し続けるだけ。こうしてあたし達は、今に至る。 今日もいつもと同じように、あたし達は旅を続けている。あたしの隣にはもちろんサトシと、タケシがいる。あたしが並びの一番左端にいて、そこから順にサトシ、タケシと横に並んでいる。サトシの隣にいるあたしは、タケシに気付かれないようにさりげなく、サトシと手を繋いでいた。「お、町が見えてきた!」 ふと、サトシが声を上げた。正面を見ると、目の前にある森の中の開けた場所から、町並みが見えている。予定通り、町に着けたみたい。町が見えてくると安心するし、いつも気分が踊る。森の中とか歩いている間にはできなかった事が、いっぱいできるからね。それはきっと、サトシやタケシも同じはず。「ねえサトシ、早く行きましょ! あたし、やりたい事がいっぱいあるの!」「ああ、俺もそう思ってたんだ! ピカチュウもそうだろ?」 サトシが足元にいるピカチュウにも顔を向けると、ピカチュウもはっきりとうなずいた。「よし! じゃ、しゅっぱーつ!」 テンションが上がったあたしは、サトシの手を握ったまま、一気に走り出した。手を引っ張られる形になったサトシは最初こそ驚いて足がもつれそうになったけど、すぐにあたしと一緒に走り出した。ピカチュウやポッチャマも、楽しそうに後を追いかけてくる。「おいおい、あまりはしゃぎすぎるなよー」 後ろからタケシの声が聞こえてきたけど、そんな事はお構いなし。とにかく、サトシと一緒に早く町に行きたかった。テンションが上がりっぱなしのまま、あたし達は走り続ける。 だけどその時、目の前に不意に誰の影が出てきた。あたしがそれに気付いた時には、ドンと体に強い衝撃が走っていた。「きゃっ!」「おわっ!」 そのまま倒れるあたし。隣にいたサトシも、あたしが巻き込む形で一緒に倒れる事になっちゃった。気が付けば、あたしがサトシに覆い被さるような形で、倒れていた。あたしの目の前にあるのは、サトシの顔。それはまるで、仰向けで寝ているサトシに、あたしが抱き付いているようにも見える。「あ……サトシ、ダイジョウブ?」 サトシを下敷きにしちゃっている事に気付いたあたしは、すぐにサトシに呼びかけた。するとサトシがすぐに目を開けて答えた。「あ、ああ……そういうヒカリも、大丈夫か?」「うん、ダイジョウブ」「でも、ヒカリってそういう時ばかり大丈夫じゃないから……」「ちょ、ちょっと!」 サトシの言葉にあたしはちょっと苛立ったけど、あたしの頬に伸びてきたサトシの手を見て、その言葉がサトシの心配を表していた事に気付いた。「でも、よかった。今は本当に大丈夫みたいだな」 サトシの手があたしの頬に触れた瞬間、サトシが笑みを浮かべた。グローブ越しだけど、手からはサトシの暖かさが感じ取れた。「もう! サトシったら心配性なんだから!」 あたしは嬉しくなって、サトシの鼻を人差し指で1回つついてやった。そして、あたしとサトシは自然と笑っていた。やっぱりサトシといると、あたしは楽しい。サトシを好きになれて、よかった……「ねえ、何してるの2人で……?」 その時、別の誰かの声が耳に入って、あたしは現実に引き戻された。柔らかい印象を持つ女の人の声。多分、声の主はぶつかった人。こんな事してる場合じゃない。途端に気まずくなって、あたしは慌てて立ち上がった。「あ、ごめんなさい! あたしの不注意でぶつかってしまって……」 目の前に立つ人にそう言って顔を向けた瞬間。あたしはその顔立ちに驚いた。白いロングヘアーに赤い瞳が特徴的な、きれいで落ち着いた印象の顔の大人の女の人。服装はワインレッドのブラウスに、青のズボン。その顔には見覚えがある。「ルビーさん!?」 あたしは驚いて、その人の名前を叫んだ。 ポケモンコーディネーターのルビーさん。ママの昔からの友達で、あたしともあたしが赤ちゃんの時に会った事がある。れっきとしたトップコーディネーターで、その実力は一流。これまでグランドフェスティバルに何度も出場しているベテランなの。そんなルビーさんにぶつかっちゃったんだったら、尚更気まずさが増した。「ご、ごめんなさいルビーさん! あたしの不注意でこんな事になってしまって……!」 あたしはすぐにルビーさんの前で何度も頭を下げた。「あ、いいのよそこまで謝らなくても。私は怪我していないから……」 ルビーさんが言葉を返した時、ルビーさんの前にいきなり誰かの影が現れた。まさかとは思ったけど、それはやっぱりタケシだった。「お久しぶりです、ルビーさん! 今日のあなたもルビーの宝石のように美しい! その美しさで、自分の心も宝石のように透き通ってしまいそうです……!」 タケシはいつものようにルビーさんの手を取って、目を輝かせながら言った。あーあ、また始まっちゃった。「相変わらず冗談がうまいのね、タケシ君は」 でもルビーさんは驚く様子もなく、クスリと笑うとすぐにそう切り返す。タケシのアピールを簡単に切り返せるって事は、凄いと思う。「え?」 タケシが声を裏返した瞬間、タケシの顔が一瞬で青ざめたと思うと、タケシの体が崩れ落ちた。「シ……ビレ………ビレェ…………」 倒れたタケシの背後には、やっぱりグレッグルの姿があった。グレッグルは頬の毒袋を風船ガムのように何度も膨らませながら、“どくづき”で倒れたタケシを不敵な笑みを浮かべながら引っ張っていった。一瞬、気まずい空気が辺りに漂う。「ヒカリちゃん達も、この町に寄っていくつもりだったの?」 ルビーさんが気まずい空気を切るように、あたしに聞いた。「あ、はい。そうなんです」 あたしはうなずいた。「そうだったの。ちょうど私も、この町に寄っていくつもりだったの。久しぶりに会ったんだから、いろいろ話を聞かせてくれない?」「もちろんです! そうだ、あたしもルビーさんに話したい事があるんです」 あたしは、せっかくルビーさんと話せる機会ができたんだから、ダブルパフォーマンスの事もいろいろ教えてもらいたいって思った。ノゾミのアドバイスも受けたけど、やっぱりベテランのアドバイスもあれば、もっと演技の完成度を高められるはず。 * * * ポケモンセンターについたあたしは、すぐに次のコンテストの事について話した。次に出るコンテスト・アサツキ大会は、ダブルパフォーマンスで行われる事を。そして、前にあたしは、それで失敗している事を。「……そうだったの。ダブルパフォーマンスはグランドフェスティバルでのルールでもあるわ。今の内にコツを掴んでおけば、グランドフェスティバル本番になった時に困らなくて済むわ」 話を聞いたルビーさんは、つぶやいた。「ヒカリは、次のコンテストで優勝すれば、グランドフェスティバル出場が決まるんです」 隣にいるサトシが、ルビーさんに言った。その言葉に続ける形で、あたしはルビーさんにお願いした。「ですから、ルビーさんにダブルパフォーマンスをレクチャーしてもらいたいんですけど、いいですか?」「そうね、いいわ。私もちょうど時間が空いていたの。ヒカリちゃんにどんな事を教えてあげられるかはわからないけどね」 ルビーさんは、すぐにOKしてくれた。「ありがとうございます!」 あたしはすぐに、頭を下げてお礼を言った。「よーし、俺も負けてられないぜ! 次にジム戦に向けて俺達も特訓だ、ピカチュウ!」 サトシも肩の上にいるピカチュウに呼びかける。するとピカチュウも、気合充分に答えた。 ポケモンセンターの近くにあるポケモンバトル場で、あたしはルビーさんのレクチャーを受ける事になった。あたしの後ろには、あたしのポケモン達が全員スタンバイしている。だけど、練習するのはあたしだけじゃない。「よーし、出てこいフカマル!」 あたしの邪魔にならないように離れた場所にいるサトシが、1個のモンスターボールを投げた。その中から出てきたのは、小柄の体に大きな口を持つポケモン。りくザメポケモン・フカマル。預けられたグライオンと入れ替わる形で、サトシが新しくゲットしたポケモン。「よしフカマル、ジム戦にむけてバトルの特訓だ!」 サトシが言うと、フカマルはうなずいた。向こうも熱が入っているみたいね。おっと、サトシの特訓を見ている場合じゃない。あたしはあたしの練習をしないと。「じゃあまず、ヒカリちゃんが作ってみたコンビネーションを見せてみて」「はい! ポッチャマ、パチリス!」 あたしはルビーさんの言葉に答えて、ポッチャマとパチリスを呼ぶ。ダブルパフォーマンスの決め手としてあたしは、マンムーとヒノアラシによる炎と氷のコンビネーション『フレイムアイス』を考えていて、それを完成させてアサツキ大会に挑もうと思っていた。だけど、他のポケモン達でもいいコンビネーションができないかな、とも思っていた。マンムーもヒノアラシも、まだコンテストの経験は少ない。万が一って事もあり得る。だから、いざという時のために選択肢が多い事に越した事はないって思って、他のポケモン達でもいろいろやってみている。「あたしは今、ダブルバトルで決め技になるコンビネーションを考えているんです」「ダブルバトル……」 あたしが説明すると、ルビーさんはそうつぶやいた。その言葉に、何か引っかかる言葉があるように。「じゃ、これから……」「待って」 あたしは早速演技を披露する事にしたけど、ルビーさんがいきなりストップをかけた。まだあたしは何も始めていないにも関わらず。「え、何ですか? まだあたし、何も……」「1つ聞くけど、ヒカリちゃんのポッチャマは、どうして進化していないの?」 ルビーさんはいきなり、そんな事をあたしに聞いた。進化。その言葉に、ポッチャマが反応した。なんでいきなり、ルビーさんはそんな事を聞くの?「え、どうしてそんな事聞くんですか?」「確かポッチャマは、ヒカリちゃんの最初にもらったポケモンだったはずよね? それなら、普通ならもうエンペルトくらいになっててもおかしくないと思うんだけど……?」 ルビーさんは、そんな疑問をあたしに投げかけた。よくわからないけど、ルビーさんはポッチャマがポッチャマのままでいる事が不自然に見えたみたい。あたしは事情を説明する事にした。「ポッチャマが進化しないって決めているからなんです」「進化しないって……?」 ルビーさんは、その言葉に驚いた様子を見せた。 あたしはルビーさんに、ポッチャマが進化しない理由を説明した。 あたしがその事を知ったのは、タツナミタウンに来た時だった。ポッチャマはあたしが気付かない内に進化時期に入っていて、あたしの見えない所で進化しようとする体を“がまん”で無理やり抑え込んで進化を止めていた。何度もこれをやっていたポッチャマは、それで体力を消耗して倒れて、あたしは進化を嫌がっている事を知った。 ポッチャマが進化を嫌がる訳。それは、ポッチャマが初めてあたしと会った時にアリアドスの攻撃からあたしを守れたこのままの姿で、あたしを守っていきたいというものだった。ポッチャマは、あたしとの思い出を大切にしているから、ポッチャマのままでいたかった。だからあたしは、その思いを受け入れて、ポッチャマには進化を抑制する石『変わらずの石』を持たせている。「そんな事があったの……」 話を聞いたルビーさんは、そうつぶやいた。「だからポッチャマは、ポッチャマのままで強くなりたいって思っているんです。ね?」 あたしがポッチャマに聞くと、ポッチャマはいつものように堂々と胸を張って見せた。だけどルビーさんは、なぜか納得していないように目付きを少しだけ鋭くした。「……ヒカリちゃん、いや、ポッチャマ。それが矛盾している事だってわかっているの?」 するとルビーさんは、そんな事を言った。強くなりたいのに、進化しない。それが『矛盾』という言葉が意味している事だって、あたしにはすぐにわかった。「え、それは……」「確かに、コンテストはポケモンの華麗な演技を競い合う競技。進化させて強くする事が、ポケモンを魅せる方法の全てじゃないわ。だけど、コンテストバトルっていうなら話は別よ。コンテストバトルには、どうしても『強さ』は必要になってくるわ。相手に対して有利に立ち回る事が必要なのは、普通のポケモンバトルと何も変わらない。進化しないままだと、どうしてもその強さには限界が出てくるわ」「ポチャ……」 ルビーさんの言葉に、あたしは何も言葉を返す事ができなかった。ポッチャマもぽつりとつぶやくように鳴いた。ポッチャマのままだと強さに限界がある、という言葉は否定できない。進化したポケモンが進化前より強い、というのは常識だからね。だけどそんな事は、進化したくないと知ってからポッチャマの事で考えた事がなかった。コンテストバトルは単純な力押しじゃないから、ポッチャマでも充分通用するって思っていたから。「1次審査ならまだわかない事はないけど、コンテストバトルに出す事を考えているなら、進化させる事が最善だと私は思うわ」「ポチャーッ!!」 ルビーさんが言うと、ポッチャマは強く首を振った。そして羽をばたつかせながら、ルビーさんに何か主張し始める。自分は進化したくない、って思いをルビーさんに伝えようとしているのかもしれない。「危ないぞーっ!!」 その時、いきなりサトシの叫ぶ声が耳に入った。いきなり何、って思った時、上から何かが落ちてくる音が聞こえた。見上げるとそこには、赤く光るボールが。それはまっすぐ、ポッチャマに向けて落ちてくる。ポッチャマはルビーさんへの主張に夢中になっているせいか、気付いていない。「ポッチャマ、逃げて!!」 あたしは慌てて叫んだ。その声を聞いて、ポッチャマはようやく気が付いたけど、もう時既に遅し。赤く光るボールは、そのままポッチャマに直撃して爆発した。「ポッチャマ!!」「大丈夫かーっ!?」 サトシがすぐに、あたしの所に駆け付けた。その足元には、フカマルがいる。フカマルは“りゅうせいぐん”の特訓をしていた事に、あたしはすぐに気付いた。フカマルは、“りゅうせいぐん”をうまく撃つ事ができない。放って失敗する度に、不完全な“りゅうせいぐん”、すなわち『ただの“りゅうせい”』はなぜか毎回ポッチャマの所に飛んで行くんだけど…… 顔を戻すと、そこには案の定、黒焦げになって倒れているポッチャマの姿があった。 * * * とりあえず、ルビーさんにあたしが作ったコンビネーション『フレイムアイス』を見てもらって何回か練習した後、あたし達は休憩を取った。ルビーさんはあたし達におやつを買ってあげるって言って、今出かけている。 ルビーさんに『フレイムアイス』の事でアドバイスをもらえたのはよかったけど、一番気になるのはやっぱりポッチャマの事。ポッチャマはあたしとの思い出を大切にしているから進化したくないって思っている。だけど、そんな事をしていたらどうしてもその強さには限界が出てくる、ってルビーさんは言った。「サトシ、あたしどうしたらいいのかな……?」 あたしは隣に座っているサトシに聞いた。「う〜ん、進化させるべきか、か……俺はポッチャマでも充分やっていけると思うんだけどなあ……」 サトシは腕を組んでから、答えた。「ポチャッ!! ポチャマッ!!」 すると、ポッチャマがあたしの前で叫んだ。あたしに何か主張したいみたい。するとポッチャマは、いきなり“うずしお”を作り出した。作り出された水の渦は、ポッチャマの力を表しているかのように、大きく膨らんでいく。そしてポッチャマは水の渦を投げ付ける。投げられた水の渦は、空中で止まったと思うと、そのまま炸裂して水の粒となって周りに降り注いだ。「凄いじゃないかポッチャマ、あの“うずしお”、結構威力がありそうじゃないか!」 サトシが言うと、ポッチャマは見たか、と言わんばかりに胸を張った。そうか、ポッチャマは自分の力を見せて、進化しなくてもダイジョウブ! って言いたかったんじゃないかな。あれだけパワーのある“うずしお”が使えるなら、進化しなくてもバトルで充分通用するかもしれない。ルビーさんの言葉は正しいのかもしれないけど、ポッチャマの事を考えても、やっぱり進化させるのはやめた方がいいのかもしれない。 その時。 どこからか、ポケモンの吠える声が聞こえてきた。あたし達の持っているポケモンとは、明らかに違う鳴き声。声がした方を見てみると、そこには風を巻いて飛んでくる、大きなポケモンの姿があった。そのポケモンは速度を緩めないまま、こっちにまっすぐ向かってきている!「わあああああっ!!」 あたしとサトシは、反射的にその場に伏せた。飛んできたポケモンはあたしの真上を一瞬で通り過ぎた。通り過ぎたのを確かめて、あたしは顔を上げた。「い、いきなり何なの……?」 あたしがつぶやいた時、飛んできたポケモンが、あたし達の前に着地して力強く吠えた。そのポケモンは、腕や背中に魚のようなヒレを生やしている、青いスマートな体を持っている。その姿には、見覚えがある。「あれは、ガブリアス!」 サトシが叫んだ。マッハポケモン・ガブリアス。フカマルの最終進化系のドラゴンポケモン。その能力は高くて、シンオウリーグチャンピオンのシロナさんも切り札として使っている。あのガブリアスは、野生のポケモン? でも、首には何やらきれいに輝いている板のようなものを下げている。 ガブリアスはあたしをその鋭い目でにらみつけると、右手のツメにパワーを込めて、また向かってきた! こいつ、あたし達を襲うつもりなの!?「ポチャーッ!!」 すると、ポッチャマがすかさずあたしの前に飛び出して、“バブルこうせん”を発射して応戦! だけどガブリアスはすぐに“バブルこうせん”に気付いて、身軽にかわしてみせた。そしてポッチャマの姿を確かめると、ポッチャマに目標変更して向かっていった、ポッチャマは驚いている間に、ガブリアスはあっという間に間合いを詰めて、爪の一撃! その一撃で、ポッチャマは簡単に弾き飛ばされちゃった。凄い威力。あれは“ドラゴンクロー”?「おい! 何だあのガブリアスは!?」「わからないけど、いきなり俺達に襲いかかってきたんだ!」 そこに、タケシが駆け付けてきた。サトシはすぐに、事情を説明する。 そんな時、ポッチャマに一撃を与えたガブリアスが、またあたしに顔を向けた。そして、またあたしに向かってくる! まさか、ガブリアスの狙いはあたし!?「ヒカリ危ない!!」 一瞬動くのが遅れて動けなかったあたしだけど、サトシがあたしを引っ張ってくれた。ポッチャマに強烈な一撃を与えた爪が、あたしのすぐ後ろを通り過ぎた。サトシが助けてくれなかったら、今頃あたしは……「あ、ありがとう、サトシ」 あたしが言うと、サトシはうなずいた。そしてすぐに、ガブリアスに顔を向ける。ガブリアスはまだ、こっちを狙っている様子だった。ピカチュウがすぐにガブリアスの前に出ようとした。だけど、サトシはそんなピカチュウを止めた。「待てピカチュウ、じめんタイプのガブリアス相手じゃ不利だ! フカマル、お前が行け!!」 サトシの言葉で、ピカチュウはすぐに下がり、代わってフカマルが前に出た。ドラゴンに対抗できるのは、ドラゴンそのもの。サトシの考えは理に適っていた。フカマルはガブリアスの前で身構えて、いつでも攻撃できる態勢を取る。「フカマル、“りゅうのはどう”だ!!」 サトシの指示で、フカマルはその大きな口から“りゅうのはどう”をガブリアスに向けて発射! でもガブリアスは、それをあっさりとかわしてしまった。そして、また“ドラゴンクロー”を使ってフカマルに襲いかかった! かわせ、とサトシが叫んだけど、それよりも早くガブリアスはフカマルに一撃を加えた! 効果は抜群! フカマルは簡単に弾き飛ばされて、サトシの前に倒れた。もう戦闘不能になっている。やっぱり凄い威力……『邪魔しないでくれる? 用があるのは、そこの女だけなんだから!』 その時、いきなり聞き慣れない小さな女の子のような声が聞こえてきた。だけど、実際に耳で聞こえるって感じじゃない不思議な声。まさか、ガブリアスのトレーナー!?「誰!? 誰なの!?」 あたしはすぐに辺りを見回す。だけど、あたし達以外に人影はどこにも見当たらない。もしガブリアスのトレーナーがいるなら、近くにいるはずなのに。『さあ、誰でしょうね。少なくともあたしは、そこの女を殺しに来たの。嫌なら足掻いてみせる事ね。さあガブリアス! そこの女をぶっ殺しちゃえ!!』 無邪気だけど冷酷な謎の声に答えるように、ガブリアスはまた、こっちをにらんで向かってくる。このガブリアスのトレーナーは、あたしの事を知っている。でも、あたしに一体何の恨みがあるの? どうしてあたしを殺そうとしているの? その時、ガブリアスに大きな影がぶつかった。思わぬ不意打ちだったのか、ガブリアスは弾き飛ばされて地面に倒れる。ガブリアスを弾き飛ばしたのは、マンムーの“とっしん”だった。「マンムー!!」 あたしが叫ぶと、マンムーはガブリアスを鋭くにらむ。前足で地面を何度もひっかいている様子から、相当怒っているのがわかる。その隣には、ミミロルとパチリス、ヒノアラシもいる。あたしを助けに来てくれたんだ。「ヒカリ! こおりタイプのわざなら、ガブリアスには有効だぞ!」 タケシの声が耳に入った。そうか、それならマンムーでガブリアスに勝てるかもしれない。あたしはすぐに指示を出した。「マンムー、“こおりのつぶて”!!」 すぐにマンムーは、ガブリアスに向けて“こおりのつぶて”を発射! だけど、ガブリアスはジャンプしてかわした。そしてその口を開けると、中で炎が燃えているのが見えた。まずい、と思った時にはもう、ガブリアスは口から炎を放っていた。炎がマンムーに命中した瞬間、炎は大きく『大』の字を描いた。“だいもんじ”! 効果抜群の攻撃を受けたマンムーは、しばらくのた打ち回った後、倒れちゃった! 戦闘不能!? だけど、驚いてなんかいられない。こうなったら全力攻撃で……!「ミミロル、“れいとうビーム”!! パチリス、“いかりのまえば”!! ヒノアラシ、“かえんぐるま”!!」 すぐにミミロルとパチリス、ヒノアラシが動いた。ミミロルが“れいとうビーム”を発射した後に、パチリスが“いかりのまえば”で、ヒノアラシが“かえんぐるま”で続く。だけどガブリアスは“れいとうビーム”を簡単にかわして、向かってきたパチリスとヒノアラシを、“ドラゴンクロー”の一撃で簡単に弾き飛ばしちゃった! 地面に落ちたパチリスとヒノアラシを尻目に、ガブリアスは残ったミミロルに爪を振り上げて向かっていった。あたしがすぐに指示しようとしたけど、それよりも前に、ガブリアスは“ドラゴンクロー”の一撃をミミロルに加えた。簡単に弾き飛ばされて、倒れるミミロル。「みんな!!」 あたしはすぐに叫んだけど、誰も答えてくれない。みんな戦闘不能!? そんな、こんな簡単に……!?『どうしたの? そんなザコみたいなポケモンしか持ってないの? それでおしまいなら殺しちゃうよ?』 謎の声が挑発するようにあたしに言った。ザコと言われた事に少しイラッと来たけど、こんな負け方じゃ言い訳もできない。もうあたしには、戦えるポケモンはいない。なら、もう……「ポチャッ!!」 すると、ポッチャマの声が耳に入ってきた。見ると、ポッチャマが体をよろめかせながらも、ガブリアスの前に出てきている。「ポッチャマ……!」 ポッチャマはまだ戦闘不能になっていなかった。あたしの心の中に、希望の炎が燃え上がった。まだあたしは戦える。こんなよくわからない奴のポケモンに、殺されてたまるもんですか!TO BE CONTINUED……
「みんな!!」 マンムー、ミミロル、パチリス、ヒノアラシがあっという間にガブリアスに退けられちゃった。あたしはすぐに叫んだけど、誰も答えてくれない。みんな戦闘不能!? そんな、こんな簡単に……!?『どうしたの? そんなザコみたいなポケモンしか持ってないの? それでおしまいなら殺しちゃうよ?』 謎の声が挑発するようにあたしに言った。ザコと言われた事に少しイラッと来たけど、こんな負け方じゃ言い訳もできない。もうあたしには、戦えるポケモンはいない。なら、もう……「ポチャッ!!」 すると、ポッチャマの声が耳に入ってきた。見ると、ポッチャマが体をよろめかせながらも、ガブリアスの前に出てきている。「ポッチャマ……!」 ポッチャマはまだ戦闘不能になっていなかった。あたしの心の中に、希望の炎が燃え上がった。まだあたしは戦える。こんなよくわからない奴のポケモンに、殺されてたまるもんですか!『へえ、まだやられてなかったんだ、そのポッチャマ。でもそんなポケモンだって、ガブリアスにはザコに過ぎないわ』 またあの声があたし達を挑発するように聞こえてきた。「そんな事、やってみなきゃわからないでしょ!!」「ポチャッ!!」 あたしが言い返すと、ポッチャマもそれに合わせるようにガブリアスに言い放った。進化していないからって、必ず負けが決まる訳じゃない。そう、今までだって、ポッチャマはあたしのために活躍してくれたし、進化したポケモンを相手に戦った事もあった。だからあたしは、ポッチャマが勝てると信じる!『ふうん、そうなんだ……じゃ、負けて後悔しても文句なしね! ガブリアス! そんなザコ、さっさとやっつけちゃって!』 それでも謎の声は余裕そうだった。ポッチャマの前で、ガブリアスが威嚇するように吠えた。だけどあたし達は、それにも怯まなかった。「お願い、ポッチャマ!!」「ポチャマッ!!」 あたしが叫ぶと、ポッチャマは力強くガブリアスに向かっていった。SECTION02 ヒカリ敗れる!? 傷心のポッチャマ!「“バブルこうせん”!!」 あたしが指示すると、ポッチャマがあたしの言葉に答えるように、ガブリアスに向けて“バブルこうせん”を発射! だけどガブリアスは、身軽にジャンプしてかわした。早い! すぐにガブリアスは爪を振りかざしてポッチャマに向かってくる! だけど、慌てちゃいけない。ギリギリまで引き付けてから……! ――――!!「ポッチャマ!!」 ガブリアスの爪が振り下ろされた瞬間、あたしは叫んだ。するとポッチャマは、体をその場で1回転させる。ガブリアスの爪は、紙一重でポッチャマの横を通り過ぎた。決まった、『回転』! ポッチャマがこの技を覚えていてよかった。「今よ!! “バブルこうせん”!!」 すかさずあたしは指示した。ポッチャマは『回転』の勢いを止めないまま、“バブルこうせん”を発射! ちょうど“ドラゴンクロー”を空振りして足が止まっていたガブリアスは、飛んできた“バブルこうせん”をかわす事ができなかった。顔面に“バブルこうせん”が命中して、怯むガブリアス。この隙に!「続けて“うずしお”!!」 あたしが指示すると、ポッチャマはすぐに、“うずしお”を作り出して、動きを止めたガブリアスに投げ付けた! ガブリアスはたちまち、水の渦に飲み込まれて見えなくなる。決まった!「やったあ!!」 あたしは思わず声を上げた。ポッチャマも“うずしお”が決まって、喜んでいる。これでガブリアスも思い知ったでしょう、ポッチャマだからって、なめてかかると痛い目に遭うって事を…… と、思った時だった。「いや、まだだ!!」 タケシが声を上げた。すると、ガブリアスを飲み込んでいた水の渦が、いきなり激しく割れた。辺りに飛ぶ水しぶきの中から、ガブリアスが涼しい顔を見せて立っている。全然ダメージを受けている様子はない。まさか、自力で“うずしお”を打ち破ったって言うの!?「そ、そんな……!?」 あたしが驚いて声を上げた時、ガブリアスはもうポッチャマに向けて飛び出していた。一瞬でポッチャマとの間合いが詰まる。すぐに指示しようとしたけど、その前にガブリアスは“ドラゴンクロー”の一撃をポッチャマに浴びせた! 直撃!「ポチャアアアアッ!!」 ポッチャマの今までにない悲鳴が響いた。ミミロルとパチリス、ヒノアラシを一瞬で倒した“ドラゴンクロー”。そんな攻撃を受けたんだから、ポッチャマのダメージも尋常じゃないはず。「ポッチャマッ!!」 目の前で倒れるポッチャマを見たあたしは、思わず叫んだ。「なんてスピードとパワーなんだ、あのガブリアス!」「ヒカリ!! 正面から挑んでも勝てないぞ!! 落ち着け!!」 サトシとタケシの声が聞こえてくる。だけどそんな声なんて、あたしの耳をすり抜けていた。そんな事よりもあたしは、ポッチャマの事でいっぱいだったから。あの1発で、負けが決まっちゃったんじゃないかって本気で思った。負ければ、ガブリアスはあたしを殺す。そんな事は、そんな事は……っ!「ポッチャマ、しっかりしてっ!! ポッチャマッ!!」 あたしは必死で呼びかけ続けた。するとポッチャマの体が、僅かに動いた。そしてポッチャマは、よろよろとだけど立ち上がった。その顔に、絶対に負けないって強い意志が見える。「ポッチャマ……!」 あたしは嬉しくなった。ポッチャマはまだ戦える。ポッチャマ自身も、まだ諦めてなんかいない。嬉しさであたしは、泣きそうにもなった。ポッチャマは強く身構えると、体から青いオーラが燃え上がる炎のように浮かび上がった。特性『げきりゅう』が発動したんだ!『へえ、少しは粘り気があるみたいね。でもそれも、いつまで持つかしら?』「まだよ……!! まだ勝負は決まってない!!」「ポチャッ!!」 余裕そうな謎の声に、あたしとポッチャマは強く言い返した。そしてあたしは、ポッチャマに指示を出す。「ポッチャマ、最大パワーで“バブルこうせん”!!」「ポッチャマアアアアアアアアッ!!」 あたしの声をそのまま表したように、ポッチャマは“バブルこうせん”を発射! さっきまでよりも強く、嵐のように飛んでいく“バブルこうせん”は、たちまちガブリアスを飲み込んだ! ガブリアスは両手をクロスさせて、こらえようとしている。ポッチャマも負けじと、“バブルこうせん”を浴びせ続ける。まさに正念場。「いっけえええええっ!!」 あたしはポッチャマに気持ちが伝わるように、思いっきり叫んだ。ポッチャマはその言葉に答えるように、更に“バブルこうせん”の力を加えていく。ガブリアスは、防御の姿勢を取ったまま動かない。これは、間違いなく効いている! 絶対に、ガブリアスを倒せる! そう信じながら、あたしは見守り続けた。 そんな時、“バブルこうせん”の勢いが急に弱まってきた。見ると、ポッチャマの体から出るオーラが弱くなっていて、ポッチャマは苦しそうな表情を見せている。そして遂には、“バブルこうせん”を止めちゃって、そのままポッチャマは両手を付いた。スタミナ切れだった。するとガブリアスが、それを待っていたかのように構えを解いて、攻撃を受け続けていた事がウソみたいに、強く吠えた。「そ、そんな……効いてない!?」 あたしの希望の炎が、一瞬にして消えた瞬間だった。『げきりゅう』をプラスしたこれだけの攻撃を浴びせても平気な顔をしているなんて、あのガブリアス、一体何者なの!?『アハ、アハハハハハ!! だから言ったでしょ、ガブリアスにはザコに過ぎないって!!』 謎の声が勝ち誇るように響いた。するとガブリアスは、またポッチャマに向かっていった! そのスピードは全く衰えてなくて、あれだけの攻撃を受け続けていたとはとても思えない。そして一瞬の内に間合いを詰めると、ガブリアスはポッチャマに“ドラゴンクロー”を浴びせた!「ポチャアアアアアアッ!!」 ポッチャマの悲鳴が響いた。ポッチャマの体が一瞬宙を舞って、そのまま地面に叩き付けられた。「ポッチャマ!? ポッチャマッ!!」 あたしはポッチャマに呼びかけた。でも、返事はない。体もピクリとも動かない。今度こそ、完全に戦闘不能になっていた。その時、あたしは目の前に何かの影が現れたのを感じた。顔を上げるとそこには、いつの間にかあのガブリアスがいた。その瞬間、ガブリアスはあたしの二の腕に強く噛み付いた。「ああああああっ!!」 二の腕に耐え難い強い痛みが走って、あたしは思わず声を上げた。「ヒカリッ!!」 サトシの声が聞こえた。だけどその瞬間、あたしの体が宙を舞ったのがわかった。そして次の瞬間には、あたしの体は近くにあった木に思い切り叩き付けられた。激しい痛みが走って、あたしの体は力なく地面に落ちた。「ヒカリ、逃げろ!!」 サトシの声がまた聞こえた。力を振り絞って立ち上がろうとした、その時だった。ガブリアスはもう、あたしの前にいて、あたしに向けて“ドラゴンクロー”を突き出していた。 その瞬間、あたしの体に爪が突き刺さった。 あたしの体の力は、その時の何にも例えられない痛みで、一瞬で奪われた。 爪が抜かれた瞬間、あたしの体は何にも遮られずに崩れ落ちた。「ヒカリイイイイイッ!!」 最後に聞こえたのは、そんなサトシの声だけだった…… * * * ポッチャマは、その光景を見てしまった。 自分を倒したガブリアスが、ヒカリの体に“ドラゴンクロー”を突き立てたのを。ガブリアスが離れた瞬間、ヒカリの体は力なく崩れ落ちた。それを確かめたガブリアスは、勝ち誇るように勝利の雄叫びを上げた。「ポ……ポチャチャ……!?」 ポッチャマは動揺を隠せなかった。謎の声が宣言した通りに、ガブリアスがヒカリを手にかけてしまった事に。そして自分の力が及ばず、ヒカリを守りきれなかった事にも。「お前……よくもヒカリをっ!!」「待てサトシ!! あんなポケモンに正面から挑んでも勝てないぞ!!」 サトシが怒りの表情を露にし、ガブリアスに向かっていこうとしたが、タケシがそれを止めた。だけど、とサトシが食い下がるが、タケシはサトシを離さなかった。 そんな時、ガブリアスの元に、1つの影が飛びかかってきた。気配に気付いたガブリアスは、素早く飛び上がって影をかわす。ガブリアスに飛びかかったのは、くわがたポケモン・カイロスだった。「サトシ君!! タケシ君!!」 そこに走って駆け付けたのは、ルビーだった。買い物から戻ってきた所だったようだ。だがその手には当然、買い物袋など握られていなかった。「ルビーさん!」「一体何の騒ぎなの!?」「大変なんです!! ヒカリがガブリアスに襲われて……」「何ですって!?」 タケシが事情を説明すると、ルビーは驚いてガブリアスに目を向けた。だがその瞬間、ガブリアスの体が赤い光に包まれ、そのまま赤い光の線となって、どこかへと消えていく。「消えた!?」「まさか、モンスターボール!?」 サトシ達は、光の線が消えていく先を見つめる。ガブリアスを包んだ光は、間違いなくモンスターボールに吸い込まれる時の光だった。光が消えていく先は、公園の隣にある森の中。その中に、モンスターボールを構えている何者かの影がかすかに見えた。ヒカリを挑発していた、謎の声の主だろうか。「待てっ!!」 サトシがすぐにその影に気付き、森の中へ駆け出した。だが何者かの影は、森の中へ素早く消えていった。サトシが森の中に入った時には既に姿を消したのか、サトシは森の中を見回した後、悔しそうにくそっ、と一言吐き捨てた。「ヒカリちゃん!! しっかりして!! ヒカリちゃん!!」 ルビーの言葉を聞いたポッチャマは、すぐにヒカリが倒れていた所に顔を戻す。そこでは、ルビーが倒れているヒカリに、強く呼びかけている。だが、ヒカリは全く動いていない。返事すらしない。その瞳は、完全に閉ざされている。「ポチャチャ……!?」 ポッチャマは立ち上がろうとしたが、体の痛みがそれを許さず、ポッチャマの体はすぐに崩れ落ちてしまう。目の前で何度もルビーに呼びかけられながらも、返事1つ返さないヒカリの姿を、その場で見つめるしかなかった。 やるせなさが、ポッチャマの心に込み上げてくる。自分はヒカリを守りきれなかった。進化系のポケモンという格上の相手でも、自分は勝てると思っていた。だがそれは、空しく打ち砕かれてしまった。自分は全身全霊を出したにも関わらず、ガブリアス相手に手も足も出なかったのだ。 ――だから言ったでしょ、ガブリアスにはザコに過ぎないって!! 挙句の果てには、そのような言葉まで言われてしまった。この姿のままでも、ヒカリを守れる強さがある、そして強くなり続ける事ができると、少なくともポッチャマ自身は思っていた。そしてそれを、ヒカリも受け入れてくれた。だがそれでも、ガブリアスにとっては『ザコ』に過ぎなかったのだ。ポッチャマにとって、これほど屈辱な事は今までなかった。目に溜まった涙をこらえる事ができずに、頬を流れていく。「ポチャチャアアアアアッ!!」 やりきれない思いを、ポッチャマはもはや叫びにして表すしかなかった。その叫びは、空しく空に響くだけだった。 * * * ヒカリはすぐに、病院へと運び込まれた。もちろんポッチャマらヒカリのポケモン達も、ポケモンセンターで治療を受ける事になった。だがポッチャマはヒカリの事が気になって仕方なく、治療をそっちのけにしてでも病院に行こうとしていた。その様子に気付いたタケシは、治療を終えたポッチャマをヒカリが運び込まれた病院へと連れて行ってくれた。 病室に入った瞬間、ポッチャマは絶句した。ベッドに寝ているヒカリの口には酸素マスクが付けられており、未だに目を閉ざしたままだった。話によれば、ヒカリは未だに容体が不安定なままであり、一向に目を覚ます気配がないのだという。まさに生死の境をさまよっている状態だ。ベッドの隅に下ろされたポッチャマは、目を覚まさないヒカリの顔を見つめる事しかできなかった。そして尚更、自分の無力さに胸を締め付けられる。「くっ……俺がもっとしっかりしていれば、ヒカリは……」 ベッドの傍らにいるサトシが、悔しそうにつぶやいた。その言葉は、ポッチャマも言いたかった言葉だった。「サトシ君が責任を背負う事はないわ。これは、あなた達にしっかりと目を配れなかった、大人の私が背負うものよ……」 そんなサトシに、ルビーはそっと声をかけた。サトシはだけど、と言葉を続けたが、それ以上言葉は出なかった。するとルビーは、ベッドにいるポッチャマの姿に気付いた。「……あら? ヒカリちゃんのポッチャマ、どうしてここに? ポケモンセンターで手当てを受けてたんじゃ……?」「ポッチャマも、ヒカリの事が心配なんですよ。だから連れて来たんです」 ルビーの疑問に、タケシが答えた。しかしポッチャマはルビーに挨拶する事はなく、ただ目を覚まさないヒカリの表情を見つめていた。 ポッチャマはただ1匹で、病院の待合室にある椅子に座っていた。その手に持っているのは、灰色の細長い石。『雷の石』や『炎の石』などの進化の石と比べると、それは透き通っている訳でもなく、どこにでも落ちていそうな普通の石と何ら変わらないようにも見える。これが、持たせたポケモンの進化を抑制する効果を持つ石、『変わらずの石』である。ポッチャマはこの『変わらずの石』をただじっと見つめていた。 ――ポッチャマ。それが矛盾している事だってわかっているの? ルビーの言葉を思い出す。ポッチャマは、この姿のままでもヒカリを守れると信じていた。最初に会った時も、この姿のままでアリアドスを追い払う事ができた。そしてヒカリと旅を始めてからも、進化系のポッタイシを始め、いろいろ格上の相手とも戦い抜く事ができた。そんなポッチャマにとって、進化は『不要なもの』だった。だから進化の時期が迫っている事を知った時、ポッチャマは慌てた。そして“がまん”を使う事で、無理やり押さえ込んでまで止めようした。 だがその考えは、先程のガブリアスに完膚なきまでに打ち砕かれた。ガブリアスはまさに、圧倒的な強さを持っていた。仲間達が次々と倒される中、ヒカリに残されたただ1匹のポケモンになってしまったポッチャマは、絶対にヒカリを守り抜こうと持てる力の全てを出した。だがその思いは届かず、結局ポッチャマも他の仲間達と同じ運命を辿る事になってしまった。挙句の果てにはヒカリはガブリアスによって重傷を負い、謎の声に『ザコ』呼ばわりされてしまった。 あの時のルビーの言葉が、現実のものになってしまうとは。自分の実力が、ここまでしか通用しなかったとは思わなかった。やはり進化しないと決めたのは、間違いだったのだろうか。そんな事を考えずにはいられない。「ポッチャマ、そこにいたのか」 不意に、誰かの声が耳に入る。顔を上げるとそこには、サトシとその肩の上にいるピカチュウの姿があった。「元気出せよポッチャマ。ヒカリは元気になるって」 そう言って、サトシはポッチャマの隣に座る。だがそんな事を言われた所で、ポッチャマの気分はよくならない。今ポッチャマが悩んでいるのは、そういう事ではないのだ。ピカチュウがそんなポッチャマの様子に気付き、顔を覗きこむ。「……もしかして、悔しいのか? ガブリアスに負けた事が……?」 サトシが聞いた。ポッチャマは何も答えずに、ただゆっくりとうなずいた。「そうだよな……俺だって悔しいよ。あんな奴に、手も足も出ないでヒカリをあんな目に遭わせちゃった事が」 サトシがつぶやいた。ポッチャマは、サトシがヒカリの『恋人』となった事を、もちろん知っている。それならば、自分と同じようにヒカリを守れなかったのを悔しがるのも納得できる。「……そうだ! だったら一緒に特訓しないか、これから」 サトシの言葉に、ポッチャマは少し驚いた。まさかこんな時に、サトシが特訓しようと言い出すとは思っていなかったのだ。そしてポッチャマ自身、サトシに一緒に特訓しようと提案されたのは初めてだった。「あのガブリアスに勝つための特訓さ! またヒカリがあいつに襲われても、今度は勝てるようになればいいだろ?」 サトシの考えは合理的だった。最初戦った時は負けても、次の戦いでは勝てるようにすればいい。サトシはそうやって、いろいろなポケモンバトルを勝ち抜いてきているのだ。そう、進化をする必要はない。特訓という選択肢もあった。現にピカチュウは進化していないにも関わらず、サトシの主力としてその実力を振るっている。ピカチュウでできるならば、自分にもできないはずはない。ポッチャマはその提案を呑もうとした時。「やめなさい」 また別の声が割って入った。見るとそこには、ルビーの姿があった。「ルビーさん。どうして……」「サトシ君。その気持ちはわかるけど、ポッチャマは治療を受けたばかりなんでしょう? それなのに特訓をしたら、体をおかしくするだけよ」 ルビーさんの言葉を聞いたサトシは、はっとしてそうだった、ごめん、とポッチャマに謝った。だが、当のポッチャマ本人はやる気充分だった。体も、もう動かしても問題はない。ルビーに特訓を否定された事に少し苛立ちを覚え、ルビーに反論した。「ポッチャマ、今は体を大事にするべきよ。まだ体は完全に治っていないでしょう?」 ルビーは言葉を返すが、それでもポッチャマは主張し続ける。自分はあのガブリアスを倒せるまでに、強くなりたいと。「……ポッチャマは、そんなに強くなりたいの?」 するとルビーは、そんな疑問をポッチャマに投げかけた。ポッチャマははっきりとうなずいた。「それなら、その『変わらずの石』を手放して、進化するのが最善じゃないかしら?」 ルビーにそう返されたポッチャマは、進化という言葉によって一瞬動揺してしまった。「待ってください、ルビーさん! ポッチャマには進化したくない理由が……」「それはヒカリちゃんから聞いているわ。でもねサトシ君。ポッチャマは、本当は『自分は進化しなくても強い』と思い込んでいるんじゃないの?」 サトシが説明するが、説明する前にルビーはそんな疑問をサトシに投げかけた。その疑問に、サトシもポッチャマも驚いた。「ど、どういう事ですか? 進化しなくても強いって思ってるなら……」「いい、サトシ君。『自分に自信を持つ事』と『自分に溺れる事』は違うわ。ポッチャマは、自分の実力を過大評価しているって事よ」 ルビーの言葉を聞いたサトシは、それに反論する事がなかった。ルビーは、ポッチャマに顔を向ける。「ポッチャマは、ヒカリちゃんとの思い出を大事にしているから、進化したくないって言ってたわよね。もしヒカリちゃんが言っていたように、ヒカリちゃんを守れた事が理由だって言うなら、自分の力に自信を持ったからって事以外に考えられないじゃない。なぜ思い出を大切にしたいからって理由で、進化しないなんて言うの?」 ルビーにそう問われたポッチャマは、すぐに首を横に振った。「……ポッチャマはそのプライドの高さで、自分の力に驕っているだけよ。それは、本当の強さじゃないわ」 続けられたルビーの言葉で、ポッチャマはとうとう何も言い返す事ができなくなった。やはり自分の考えていた事は、間違いだったと言うのか。『変わらずの石』を持つ手が、震え始める。「ルビーさん、それは……」「サトシ君にも言っておくけど、理想を振りかざすだけじゃ、本当に強くはなれないわ。自分で考えている全ての理想が、叶えられる訳じゃないの。現実を見る事も大事よ。理想の現実のギャップってよく言うけれど、限られた現実の中でどの理想を割り切って、満足できる結果を出せるか考えるのが、大人なのよ。悲しいけどね」「ルビーさん……」 ルビーの言葉を聞いたサトシが、言葉を漏らした。「本当に強くなりたいのなら、自分と正面から向き合いなさい。そうすれば、自分の悪い所が何か、それを解決するために何をするべきかが見えてくるはずよ。それは辛い事になるでしょうけど、それを乗り越えれば、絶対後悔しない結果が得られるわ。ヒカリちゃんだってそうやって、強くなったんだから」 ポッチャマはその言葉を聞いて、はっとした。確かにヒカリは自信満々でありながら、コンテストでスランプに陥ってひどく落ち込んでしまった事があった。長い充電期間の中で、ヒカリは次第にそれまでの自分を取り戻し、最後には無事にリボンをゲットする事ができ、今に至る。それもやはり、ヒカリ自身が他の人からいろいろ助言をもらう中で、自分自身を見つめた結果である事は、容易に想像できた。ポッチャマもその言葉には、何も反論する事はなかった。「それにポッチャマ、もし本当に思い出が大事で進化したくないって言うなら、その考えは捨てなさい。それは杞憂だから」 ルビーが言葉を付け足した。その言葉に、ポッチャマは驚いた。ルビーが言葉を続けた。「本当にヒカリちゃんがあなたの事を大切に思っているのなら、進化して姿形がガラリと変わったとしても、今までと変わらない愛情で接してくれるから。ヒカリちゃんとの絆が本物なら、姿形が変わったくらいで途切れるものじゃない。そうでしょう?」 ルビーは初めて笑みを見せた。ポッチャマはその言葉を聞いて、心の重荷が取れたような気がした。ヒカリは今までも、自分の事を大切に思ってくれていた。旅の中でモンスターボールから出して置くようになったのも、その表れだろう。考えてみれば、ヒカリは自分が進化の時期に入ると知った時、進化には前向きな姿勢を見せていた。本当に進化したとしても、ヒカリが悲しむような事はないだろう。「……私が言いたいのは、こんな感じよ。後はポッチャマ次第。すぐに答えを出せとは言わないから、ゆっくり考えて、自分のやるべき事を決めなさい」 ルビーはそう言うと、ポッチャマの前からゆっくりと去っていった。ポッチャマはしばらくの間、ルビーの背中を無言で見送っていた。やはりルビーはベテランのコーディネーターである前に、1人の大人なんだと、感じ取れた。ヒカリが尊敬するのもわかる気がした。「……どうするんだ、ポッチャマ?」 サトシがふと、ポッチャマに尋ねる。ポッチャマは改めて、手に持っている『変わらずの石』に目を向けた。 この石をどうするかだ。持ち続けるか、手放すか。 進化する事を選ぶか、それとも今まで通り進化しない事を選ぶか。 どちらを選べば、自分にとって後悔しない結果が得られるか。 ポッチャマは考えた。ピカチュウが心配そうに顔を覗き込むが、そんな事は気にしない。「ポチャッ!」 ポッチャマは結論を出した。そして、椅子から立ち上がる。「決まったのか?」 サトシが尋ねると、ポッチャマは今ここにいないヒカリの代わりに、サトシに対して自分が出した結論を示した。「……そうか、そうするんだな?」 サトシの言葉に、ポッチャマは強い決心を胸に、はっきりとうなずいた。「わかった。俺も協力するよ!」 サトシは笑みを見せた。ポッチャマはそんなサトシが嬉しくなり、ヒカリが倒れてから初めて笑みを見せた。NEXT:FINAL SECTION
目を覚ますとあたしの目の前に、白い天井が映った。 ここはどこだろう。体を起こしてみるけど、体が重い。ゆっくりとしか起こす事ができなかった。でも体を起こした事で、あたしの体に毛布がかかっている事に気付いて、あたしはベッドの上にいる事がわかった。「ヒカリちゃん!」 その時、横から誰かの嬉しそうな声が聞こえた。顔を向けるとそこには、ベッドの隣に座っているルビーさんだった。「よかったわ、目を覚ましてくれて……このまま目を覚まさなかったら、アヤちゃんに何て言えばいいのかって思ってたわ……!」「ルビーさん……」 ルビーさんの目からは、少しだけ涙が流れていた。あたしは、起きる前は何をしていたのかと思い返してみる。そうだ、あの時あたしのポケモンがガブリアスに手も足も出ないままやられちゃって、そしてあたしも、ガブリアスにやられちゃって……そうか、ここは病院。あの後あたしは、病院に運ばれたんだ。だけど、あたしのベッドの前にいるのはルビーさんだけで、サトシもタケシも、ポッチャマもいない。「サトシや、タケシは……? それにポッチャマは……?」「タケシ君は、ポケモンセンターでヒカリちゃんのポケモンの手当てをしているわ。サトシ君は病院の外で、ポッチャマと一緒に特訓しているの」 あたしが聞くと、ルビーさんは流れた涙を指で拭きながら、答えた。「特訓……?」 あたしは、その言葉が気になった。なんでサトシがこんな時に、ポッチャマと一緒に特訓なんてしてるの?「そうそう、サトシ君からヒカリちゃんに渡してって頼まれたものがあるの」 するとルビーさんは、懐から何かを取り出して、あたしに見せた。見るとそれは、ポッチャマにも持たせている『変わらずの石』だった。「『変わらずの石』……?」「ポッチャマはもういらないって言ったそうだから、返すそうよ」 その言葉を聞いて、あたしは驚いた。ポッチャマが『変わらずの石』を返すなんて言ったという事は、すなわちポッチャマは進化する事を決意したって事!? 進化したくないって言ってたポッチャマが、どうしてそんな事……!?「ど、どういう事ですか、ルビーさん!? ポッチャマは進化しないのをやめたって事ですか!?」「それはね……」 あたしの質問に、ルビーさんが答えようとしたその時。 いきなり、どこかでドン、と何かが激しく壊れた音が聞こえてきた。普通の音じゃない。建物が何かの衝撃で、思いっきり壊されたような音。こういう音は、聞き慣れているからわかる。まさか、ロケット団でもやってきたの!?「な、何!?」「ちょっと見てくるわ。ヒカリちゃんはここを動かないで!」 ルビーさんがすぐに反応して、あたしに一言言うと、すぐに病室を飛び出した。その直後、病院の廊下から、聞き覚えのあるポケモンの吠える声が聞こえてきた。この声は、ガブリアス!? あのガブリアスがまさか、またあたしを襲いに……!?FINAL SECTION ポッチャマの決意! 病院の外で特訓していたサトシとポッチャマも、すぐに病院に起きた異変に気付いた。病院の近くに、いきなりガブリアスが姿を現すと、病院の壁を強引に破って侵入したのだ。首から下げている板で、あの時ヒカリを襲ったガブリアスだとすぐにわかった。ガブリアスのトレーナーも、ヒカリが殺されていない事に気付いたらしい。再びヒカリが襲われると悟ったサトシとポッチャマは、すぐに病院へ引き返した。 まさかこんなすぐにやってくるとは、ポッチャマも思っていなかった。特訓の成果は、完全には出せない。だが、以前まであった迷いはない。今度こそ、ヒカリを守ってみせる。ポッチャマには強い決意が宿っていた。ポッチャマはサトシと共に、迷わず病院の中に飛び込んだ。中には、突然の騒動で慌てふためき、逃げ惑う人々。その流れに押し戻されそうにもなったが、1人と1匹はそれでもヒカリのいる病室に進み続けた。 そしてヒカリがいる病室がある階に階段を昇ってたどり着いた時、1人と1匹は遂にその姿を見た。ヒカリがいる病室の前に立つ、ガブリアスの姿。そしてその正面には、ルビーとそのカイロスが立ちはだかっている。2匹は互いにその力をぶつけ合い、永遠に続くだろうと思われるほどのバトルを繰り広げている。その後ろでは、固唾を呑んでバトルの行方を見守る、ヒカリの姿が。「ガブリアス……!」 サトシがつぶやいた。そしてサトシは、ポッチャマに顔を向ける。「ポッチャマ、今度こそヒカリを守ってみせるんだ! 特訓は少ししかしてないけど、絶対に負けるなよ!」「ポチャッ!!」 サトシの言葉に、ポッチャマははっきりとうなずいた。「よし! 行け、ポッチャマ!!」 サトシの言葉に合わせ、ポッチャマはガブリアスに向けて飛び出した。ガブリアスはまだ、こちらに気付いてはいない。そんなガブリアスに、ポッチャマは迷う事なく“バブルこうせん”を放った。“バブルこうせん”はガブリアスの背中に命中した。思わぬ方向からの攻撃に驚くガブリアス。だが、ダメージには至らない。ガブリアスはすぐに、ポッチャマの姿に気付き、ポッチャマに体を向き直した。「サトシ君!?」「ポッチャマ!?」 ルビーとヒカリも、サトシとポッチャマに気付き、驚きの声を上げた。『あら、また来たのね。性懲りもないわねえ、ポッチャマ風情でガブリアスに勝てる訳ないのに……』 謎の声がまた聞こえてくる。それでもポッチャマは怯まなかった。ポッチャマはガブリアスの前で、力強く身構えた。『まあいいわ。ガブリアス、力の差ってものを見せてやりなさい!』 謎の声の指示によって、ガブリアスは真っ直ぐポッチャマに向かってきた。ポッチャマはすぐに“バブルこうせん”を放って迎え撃つ。だが、ガブリアスは“バブルこうせん”を受けても突進を止めず、あっという間にポッチャマとの距離を詰めると、“ドラゴンクロー”の一撃を浴びせた。一瞬でポッチャマの体は宙を舞い、床に叩き付けられてしまった。「ポッチャマ!!」 ヒカリの声が聞こえてきた。仲間達を一撃で倒した攻撃を受けてしまっただけあり、体のダメージはかなり大きく、なかなか立ち上がる事ができない。だがポッチャマは、倒れる訳には行かなかった。 ――本当に強くなりたいのなら、自分と正面から向き合いなさい。そうすれば、自分の悪い所が何か、それを解決するために何をするべきかが見えてくるはずよ。 ルビーの言葉が、脳裏に蘇る。ポッチャマはあの事をルビーに言われてから、これからどうするべきかを自分と向き合った上で考えた。そしてその結論を出した上で、今ここに立っているのだ。今度こそ本当に強くなり、ヒカリを守りぬくために。 ――本当にヒカリちゃんがあなたの事を大切に思っているのなら、進化して姿形がガラリと変わったとしても、今までと変わらない愛情で接してくれるから。 自分の力に驕っていた自分とは、これでさよならだ。仮にこの姿が変わろうとも、ヒカリを守れるなら悔いはない。だから自分は―― ポッチャマはゆっくりと立ち上がる。すると体の奥底から、何かの力がみなぎっているのを感じ取った。今までは、“がまん”してまで拒絶していたその力。だが今は、その力を躊躇う理由はない。ポッチャマはみなぎるその力を、迷わずに開放した。すると、力が全身に広がっていくのを感じ取れた。全身が光に包まれていき、体の変化が始まった。 顔には目立つ鶏冠が現れ、羽が長く伸びていき、背も高く伸びていき……「ポッタアアアアアッ!!」 光が消えた瞬間、その姿はポッチャマから完全にポッタイシへと変化した。ポッタイシはみなぎるその力を表わすように、高らかに鳴き声を上げた。「進化、した……」 その光景を目の当たりにしたあたしは、そうとだけしか言葉が出なかった。『変わらずの石』を返したって事は、まさかって思ったけど、その予想は的中した。でもポッチャマは進化しないって決めていたはずなのに、どうして……?「……遂に決心したのね」 そうつぶやくルビーさんは、なぜか笑みを浮かべていた。ルビーさんは、ポッチャマが進化しようって決めた理由を知っている?「どういう事なんですか?」「ポッチャマは『進化しなくても強い』って驕っていた自分を捨てて、本当に強くなろうと決めたのよ。ヒカリちゃんのためにね」 ルビーさんはあたしに肩越しの視線を送って、あたしの質問に答えた。あたしのためって事は、もしかしてポッチャマは、あたしを守りたいって思ったから、進化するって決めたの……? ポッチャマのままじゃ、ガブリアスからあたしを守れないって知ったから……? そう思うと、そんなポッチャマの気持ちが嬉しくなって、自然と涙が目に溜まってきた。 ポッタイシはそんなあたしを前にして、口を開けて息を思い切り吸うと、“バブルこうせん”を発射! それは、『げきりゅう』を発動していないにも関わらず、その時とほとんど変わらないほどの激しいものだった。ガブリアスはとっさに、両手をクロスさせて飛んできた“バブルこうせん”を受け止めた。だけど、“バブルこうせん”の勢いは、こらえようとするガブリアスを押し出そうとするほどのものだった。ポッタイシは更に“バブルこうせん”の力を加えていく。耐え続けるガブリアス。間違いなく効いてる! これなら、今度こそガブリアスを倒せるかもしれない! あたしは思った。 だけどそんな時、“バブルこうせん”の勢いが急に弱まってきた。見ると、ポッタイシは苦しそうな表情を見せている。そして遂には、“バブルこうせん”を止めちゃって、そのままポッタイシは膝を付いた。スタミナ切れ。するとガブリアスが、それを待っていたかのように構えを解いて、攻撃を受け続けていた事がウソみたいに、強く吠えた。「そんな……これでも効かないの!?」 またしても耐え切られた。あの時と全く同じ展開になっちゃった。ポッタイシになってパワーアップした“バブルこうせん”でもダメだって言うの!?『アハハハハハ!! ポッタイシに進化したって無駄よ!! それでもガブリアスには遠く及ばないんだから!! ガブリアス、さっさとやっちゃって!!』 勝ち誇ったような謎の声の指示を受けたガブリアスは、またポッタイシに風を撒いて向かって行って、“ドラゴンクロー”を振りかざした! ポッタイシはとっさに両手をクロスさせて、“がまん”で“ドラゴンクロー”を受け止めた。だけど、やっぱりガブリアスのパワーは強い。ポッタイシはどんどん押されていく。ポッタイシは踏み止まろうとするけど、苦しい表情を浮かべている。少しでも力を緩めてしまったら、簡単に弾き飛ばされてしまいそう。 またガブリアスに負けちゃうの……? そんなのは嫌。進化してまであたしを守ろうとしてくれてるんだから、今度こそ勝って欲しい、絶対に……!「がんばって! ポッタイシッ!!」 あたしは自分の思いがポッタイシに届くように、精一杯の声で叫んだ。 するとその時、あたしの思いが届いたように、押し込まれていたポッタイシが踏み止まった。すると、その体がまた光り出した。え!? もしかして、また進化!? 光に包まれたポッタイシの姿は、どんどん変わっていく。 頭には王冠のような角が伸びていき、羽は更に大きくなっていき、体は更に大きくなっていき、足も体に合わせ伸びていき…… 今まで押し込んでいたガブリアスが、大きくなった羽で強く弾き飛ばされた。ガブリアスはたちまち、床に倒れる。そんなガブリアスの前で、光っていた体が消えて、進化したポッタイシの体が姿を現した。「エンペルッ!!」 その姿は、まさしくこうていポケモン・エンペルトそのものだった。ジェットスキーに匹敵する速度で泳ぐ事ができて、刃のようなその翼で流氷をも切断できるっていわれているポケモン。その姿に、誰もが目を奪われた。「す、凄い……」「2段階連続進化なんて……!?」 サトシとルビーさんが驚いて声を上げた。ルビーさんが驚くのも無理はない。短い間に2段階連続でポケモンが進化するなんて、あたしも聞いた事がない。だけどそれ以上に、あたしのがんばって、って気持ちに答えてくれた事が、嬉しかった。これなら、今度こそガブリアスに勝てる。あたしは不思議と負ける気がしなくなった。『くっ、こんな所で2段進化した所で……っ! ガブリアス、やっちゃいなさい!!』 謎の声が、今までと違って動揺している。その指示を受けたガブリアスは、体勢を立て直してエンペルトに“ドラゴンクロー”で襲いかかる。もちろん、エンペルトも黙っていない。両羽を横に広げると、その先にある刃が光り始める。そして―― ガブリアスが、爪を振り下ろす。だけどそれは、羽の一振りで簡単に弾かれた。ガブリアスは一度、仕切り直してエンペルトから離れる。見ると、エンペルトの両羽からは、光る刃が伸びている。それはまるで、2本の剣を持っているようにも見えた。あんなわざは、見た事がない。「何、あれ……!?」 あたしの口から、そんな言葉がこぼれた。「まさか、“はがねのつばさ”……? なら、どうしてあんな事が……?」 ルビーさんも、驚きを隠せない様子。ルビーさんの言う通り“はがねのつばさ”だとしたら、あんな剣みたいに見せる事はできないはず……はっ! あたしは思い出した。ポッチャマに初めてのコンテストで披露したあの演技を。“つつく”を使う時にエネルギーを集中させて、クチバシを長く見せると同時に、威力を高める演技。あの時使って以来、ポッチャマはバトルで“つつく”を使う時には必ず、この方法を使うようになった。まさか、それを応用して“はがねのつばさ”を剣みたいにしてるって事……? エンペルトは反撃に出る。ガブリアスに向かっていくと、“はがねのつばさ”で作り出した剣で攻撃を仕掛ける。ガブリアスも、“ドラゴンクロー”で応戦する。たちまち、激しい打ち合いが始まった。それはまさに、侍同士のチャンバラ。爪しか使っていないガブリアスに対して、エンペルトは有利に剣を振り回している。そして遂には、ガブリアスはエンペルトの剣撃を浴びて弾き飛ばされた。「凄い……凄いじゃないエンペルト!! まさに翼の剣……『ウイングセイバー』じゃない!!」 あたしは思わず叫んだ。ついでに、とっさに思いついた技名も叫んじゃった。 エンペルトは、倒れたガブリアスにすかさず追い打ちをかけようとして、“はがねのつばさ”を解除した。すると、エンペルトの体が水に包まれて、エンペルトは真っ直ぐ弾丸のようにガブリアスに向かっていった!「今度は“アクアジェット”!」 サトシが声を上げた。体を起こしている途中だったガブリアスは、“アクアジェット”をかわす事はできなかった。直撃! たちまち弾き飛ばされるガブリアス。たちまちガブリアスは、廊下の一番隅の壁に叩き付けられた。そこはもう行き止まり。ガブリアスにはどこにも逃げ場はない。今がチャンス!「今よ、エンペルト!!」 あたしはすぐに叫んだ。エンペルトはうなずくと、口を大きく開けて、息を思い切り吸い込む。“バブルこうせん”を撃つのかと思ったけど、エンペルトが放ったのは、雪が入った凄まじい冷気だった! あれは“ふぶき”! グロッキー状態のガブリアスは、“ふぶき”に容赦なく飲み込まれた! 効果は抜群! ガブリアスの体は、みるみる内に凍り付いていく。とうとう完全に氷漬けになったガブリアスは、そのままゆっくりと倒れた。戦闘不能……!「やった……勝った……勝ったんだ……!!」 あたしは嬉しくなって、体が重い事も忘れて思わずエンペルトに駆け寄った。そして、こっちを向いて驚いた表情を見せたエンペルトに、あたしは思い切り抱きついた。「ありがとう……ありがとう、エンペルト!! あたしのために、進化してこんなに強くなるなんて……!!」 あたしはエンペルトの胸の中で、叫んだ。気が付くと、あたしは泣いていた。嬉しくて。エンペルトも、そんなあたしを優しく抱き返してくれた。「お見事だったわね」 その時、あの謎の声が耳に入って、あたしは現実に引き戻された。さっきまでと違って、ちゃんと耳で聞こえる声になっていた。見ると、氷漬けになったガブリアスの隣に、1人の女の子が立っていた。その女の子は、黒い髪に赤い瞳を持っている、顔はごく普通の女の子。白に黄色のアクセントが入った、法衣のような服を着ていた。それはまるで、教会にいるシスターのような格好だった。その声は、紛れもなくあの謎の声と同じ。じゃあ、この女の子がガブリアスのトレーナー……!?「まさか2回連続で進化して、ガブリアスを倒すなんて……あたし、感心しちゃった」 女の子はそう言って笑みを見せる。だけど、騙されちゃいけない。だってこいつは、あたしの命を狙った張本人。笑っている裏では、何か企んでいるのかもしれない。あたしは身構えた。「あんたがガブリアスのトレーナーね!」 あたしが強く叫ぶと、エンペルトもあたしの前に出て身構えた。「どうしてヒカリを殺そうとしたんだ!」 サトシが叫ぶと、ピカチュウも前に出て身構える。「待って待って! あたしはもうそんなつもりはないよ、サトシ!」 すると女の子は、両手を前に出しながらそう言った。「サトシ……?」 サトシが、自分の名前を言われた事に驚いてつぶやいた。あの女の子、サトシの事を知っている? 尚更怪しくなってくる。「あたしはただ、エムリットに選ばれたヒカリが、ふさわしい実力を持っているか調べるために、わざと悪者になっていただけなの!」 女の子の言葉に、あたしは驚いた。あたしの名前や、あたしがエムリットに選ばれたって事も知っている? それに、わざと悪者を演じていたって、どういう事?「ど、どういう事よ! あんた一体何者なの?」「あ、そうそう。自己紹介まだだったね。あたしはイザナミ」 あたしが聞くと、女の子は丁寧に頭を下げて自己紹介した。「あなた達人間が『創造の神』って呼んでいるポケモン、アルセウスの化身って言えばわかるかしら?」「アルセウスの化身!?」 あたしとサトシはその言葉に驚いて、声を揃えて叫んじゃった。アルセウスといえば、1000本の腕で世界を作ったって言われているポケモン。あたし達も一度、ある事件でその姿を見ている。イザナミがアルセウスの化身って名乗った事は、イザナミの正体はアルセウスって事!?「こうやって会うのはミチーナ以来ね、サトシ」 イザナミはそう言ってほほ笑んだ。サトシはその言葉を聞いて、はっとした表情を見せた。その言葉は、演技のようには見えない。やっぱりイザナミはアルセウスの分身なんだ……でも、なんであたしを殺そうなんて事を……?「ちょっと待って! アルセウスの化身だなんて、さっきから何を訳のわからない事を言っているの!?」 するとルビーが、首を突っ込んだ。ルビーさんは当然、アルセウスを実際に見ている訳じゃない。だから、疑うのも自然だと思う。「信じられないなら、証拠を見せてあげる」 イザナミは、そう言って指をパチンと器用に鳴らした。すると、イザナミの横に倒れていた氷漬けのガブリアスが、一瞬にして消えちゃった。ポケモンが一瞬で消えちゃうなんて、あたし達は驚いた。後に残ったのは、首にかかっていたきれいな板だけが残った。イザナミはそれを拾う。「ガブリアスは、あたしがヒカリの実力を試すために作った幻影なの。そしてこれは、あたしの命の源の1つ。これで、ガブリアスの竜の力を高めていたの」 なるほど、イザナミの言う通りなら、ガブリアスの“ドラゴンクロー”が凄まじい威力だったのもわかる。だけど、どうしてあたしを殺そうとなんて……「じゃあ、なんでヒカリを殺そうとなんて……」「だって、本当に殺されそうにならなきゃ、本気を出してくれないでしょ? 本当に殺す気はなかったんだけど、こっちも少しやりすぎちゃったから、お詫びするわ」 イザナミはそう言うと、あたしに手の平を向けた。すると、その手から柔らかい光が出て、あたしの体を包んだ。すると、今まで重かった体が急に軽くなっていった。まさかと思って腕に巻かれている包帯を解くと、ガブリアスに噛み付かれてできた傷が、跡形もなく消えていた。イザナミが、あたしの体を治してくれたんだ。やっぱりイザナミは、悪気があってあたしを狙った訳じゃないんだ。あたしは安心した。「さっきの戦いで、ヒカリはエムリットに選ばれた人間にふさわしい実力と心を持っていた事がわかったわ。だから『合格』よ」 イザナミはそう言って、笑みを見せた。だけど、なんであたしの実力を調べようとなんてしたんだろう。あたしは素直に聞いてみた。「でも、なんであたしの実力を調べようとなんて思ったの?」「調べてみれば、アグノムに選ばれたサトシは各地のリーグで好成績を収めている優秀なトレーナー。そしてユクシーが選んだタケシは、元ジムリーダー。だけどあなたはコーディネーター。ポケモンを戦わせて勝つ職業じゃないから、実力が未知数だった。だから調べようと思ったの」 イザナミは説明した。そして更に、言葉を続ける。「でもその実力も、ふさわしいものだってわかった。だから、お願いがあるの」「お願い?」 あたしもサトシも、その言葉に首を傾げた。「ギンガ団って奴らが起こした騒動で、ディアルガとパルキアは大打撃を受けて動けなくなって、この世界は大きく混乱したの。まさか人間に、世界を創り変えようなんて目論んでいた存在がいたとは思わなかった。だからあたしは人間の姿を借りて、この世界の事を調べたの。そしてわかったの。ギンガ団が、まだ生きている事を」「ええっ!?」「ギンガ団が!?」 あたしは驚いた。ギンガ団は『鑓の柱』の事件が解決してから崩壊したも同然の状態になったって言われていたはず。それがまだ、活動しているって事!?「だから、ユクシー、エムリット、アグノムの3人に選ばれたサトシとヒカリ、そしてここにはいないタケシにもお願いしたいの。ギンガ団の生き残りを倒して。あんな事が、二度と起きないように」 イザナミは、あたし達に強く願うように真っ直ぐな視線を送っている。「……わかった! 俺達の力でやろうぜ!」 サトシが真っ先に声を上げた。「そうね……あんな事を、二度と起こさせないために……!」 あたしもサトシに相槌を打った。この世界が不完全だから、とか言っていたけど、どんな理由でも世界を創り変えようとするなんて、間違っている。それをまたやろうとするのなら、あたし達で止めないと! あたし達は一度、あいつらを止められたんだから!「ありがとう、2人共。さすがはあたしを助けようとしてくれた人間ね。じゃ、あたしは行くね」 イザナミはそう言うと、あたし達に背中を向けて、どこかへ行こうとする。すると、その体は一瞬で消えちゃった。まるでマジックのように。 * * * その後、あたし達はタケシがいるポケモンセンターに戻った。そして、事件が解決した事と、イザナミ=アルセウスからギンガ団の生き残りを倒してって言われた事をタケシに伝えた。進化したエンペルトは、他のあたしのポケモン達の前で、見たか、と言わんばかりに胸を張っている。サトシはと言うと、早速いつギンガ団との戦いになってもいいように、ポケモン達と特訓を始めていた。「そうか、わかった。俺もユクシーに選ばれた人間として、そんな事は放っておけないからな」「ありがとう、タケシ」 タケシはOKしてくれた事に、あたしは安心して笑みを見せた。「でも、大丈夫なのヒカリちゃん? そんな事、あなた達には荷が重すぎるんじゃないの?」 ルビーさんが不安そうに、あたしに聞いた。「ダイジョウブです! あたし達は『鑓の柱』でもギンガ団を止める事ができたんですから!」 あたしは自信満々に、ルビーさんに言った。「……そうね。アルセウスもきっと、その勇気を認めてあなた達を選んだのかもしれないわね」 ルビーさんは、笑みを見せてつぶやいた。そんな時だった。「危ないぞーっ!!」 いきなりサトシの叫ぶ声が耳に入った。いきなり何、って思った時、上から何かが落ちてくる音が聞こえた。見上げるとそこには、赤く光るボールが。あれってもしかして、またフカマルの不完全な“りゅうせいぐん”!? 見ると、その先にはエンペルトが。このままじゃ、エンペルトに当たっちゃう! と、思った時。エンペルトは飛んでくる“りゅうせいぐん”に気付くと、それを『ウイングセイバー』、もとい“はがねのつばさ”で一刀両断! たちまち爆発が起きるけど、エンペルトには傷1つ付いていなかった。「凄い、凄いじゃないエンペルト!」「エンペルッ!」 今まで飛んでくる“りゅうせいぐん”に当たりっぱなしだったエンペルトが、それを防ぐ事ができるようになったなんて! 当のエンペルトは、どうだ、と言わんばかりに、あたしの前で胸を張っている。プライドの高さは相変わらずみたいね。「エンペルトも進化して、随分とたくましくなったみたいだな」 タケシも、感心してつぶやいた。 その言葉通り、エンペルトは進化してたくましくなっている。進化した事で、心も成長したんだ。こんなエンペルトが一緒なら、あたしも絶対ダイジョウブ! これからも一緒にがんばっていこうね、エンペルト! こうしてあたし達の旅は、まだまだ続く。続くったら、続く……STORY37:THE END