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[79] 遠い幻 myura - 2005/06/12(日) 21:58 - MAIL

【遠い幻】


 ―――――ちょう・・・隊長、駄目です・・・!我々では・・・とても抑えきれません!」

 雲一つない空・・・途切れなく差し続ける強い日差し・・・四方八方を地平線に囲まれた赤い砂漠の一角で、戦闘は繰り広げられていた。

「予想以上だな・・・よし、俺に任せろ!」

 苦戦しつつも確実に敵機を墜としていた一人の男がそう叫び、敵編隊の中でも一目を置く緑色の機体を一瞥すると、操縦桿を強く引いて愛機である黒いレイノスを大きく反転させた。狙うは先程からまるでゴミ掃除でもするように次々と部下達を叩き落としている緑色のレドラー。その色はどこか雄大な草原を思わせるような明るい色ではあったが、それとは裏腹に、機首にはまがまがしさすら感じさせる紅いサソリのエンブレムが施されていた。ここ最近名を上げた、凄腕の傭兵だと言う。

「この俺を・・・なめるなよ!」

 ヘリック共和国とガイロス帝国、両陣営の戦いがその場所では繰り広げられていた。共和国側は、レイノス数十機で構成された中隊規模の部隊。一方、帝国側はレドラー十数機で構成された小隊程の傭兵部隊であった。

 普通に考えれば、明らかに数で勝っている共和国側が負けるはずはない。だが、それとは裏腹に押しているのは常に帝国軍。帝国側がその数の差からくる戦力差を埋め、尚且つ互角以上に戦うことができているその一番の要因は、何を隠そうあの『紅いサソリ』が敵部隊にいることだった。黒いレイノスを駆る男、アルバート・フォーケンスは、愛機の機首を『紅いサソリ』へと向けると、その倒すべき敵の後ろを取ろうと一気に機体を加速させた。彼が敵の元へと辿り着く僅かな間にも、数機の部下が次々と叩き落とされていく。レドラーのレーザーブレードが閃く度に通信機から飛び込んでくる部下の断末魔の叫び声。ジャック、ルーベン、エリック・・・・・・気が付けば、自分の回りに生き残っている味方は、数えるほどにまで減っていた。その生き残った味方さえも、もはや息絶え絶えの状態だ。皆、今まで苦楽を共にし、時には酒場で酔いつぶれ、共に馬鹿をやった仲間達だ。戦場では覚悟しなければならないこととは言え、そう易々と許せるものでは決してなかった。

「この・・・!」

 アルバートはビームバルカンを放ちながら、『紅いサソリ』の後ろへと愛機をつけた。絶え間なくバルカン砲を撃ち続ける。一発一発、大切な部下を葬り去った、憎むべき敵への恨みを込めて。だが、敵は機軸を軽く変化させ、また時には大きくバレルロールを披露し、続け様に放たれる攻撃全てをかわし続ける。

 ―――くそ・・・何でだ・・・何故当たらないっ!

 痺れを切らしたアルバートはビームバルカンを撃ち続けながら敵の行く手を阻みつつ、一気に機体を加速させてクローを日光に光らせ、一気に突進をかけた。敵は気付いていない。既に射程距離だ。アルバートはそこで、勝利を確信した。そうだ、どこの馬の骨ともわからない傭兵ごときが、エースパイロットの肩書きを誇るこの俺に適うはずはない。絶対に・・・!

 だがその刹那、敵はあと数メートルというところで突如機体を傾け、バルカン砲の雨を軽やかにかわしつつ勢いよく機体を一回転させると、凄まじいスピードで急上昇、彼の視界から一瞬にして消え去ってしまった。

「な・・・・・・」

 一瞬の動揺は隠せないが、彼は咄嗟にレーダーで敵の位置を確認すると、再び敵の後ろを取るべく、機首を素早く敵の方向へと向けた・・・つもりだった。だが、既にその方向に敵の姿はなく、同時に先ほどとは全く逆の方向をレーダーが指し示した。咄嗟にその方向を見ると、またそれとは逆の方向をレーダーが指し示す。『紅いサソリ』は、アルバートの腕と彼の愛機の持つポテンシャルを遥かに越えた動きを見せていたのだ。レドラーとは思えない、信じられないスピードと旋回性能。こいつは・・・何なんだ・・・?額に冷や汗がどっと吹き出る。だがその刹那、一筋の光が彼の目の前を通り過ぎたかと思ったその瞬間、アルバートの目は直に空を見ていた。やがてコックピットを真っ二つに切り裂かれたレイノスは糸の切れた操り人形のようにバランスを崩し、降下していく。彼の意識が続いたのは、そこまでだった。

 アルバートが墜ちたその時、その空にレイノスの機影は一つとして残っていなかった―――――



 ―――――それで・・・俺達にお株が廻ってきたわけかい」

 そう言って俺、アラン・エルフォードはパイプ椅子に踏ん反り返ったまま、後ろに座っている戦友に言葉を返した。

「そういうことだ。何でも、軍の腕利きが次々やられてるらしいぜ?この間は、あの精鋭エルナト隊が傷一つ付けることもできずに壊滅させられたとか・・・・・・そこの部隊長ってのは、確かお前と同期の奴じゃなかったか?」

 そしてその両目を覆い隠してしまう程に長い栗色の前髪を軽く振り上げつつ、後席に座っていたグリン・ランバード大尉は俺の耳元に小声で問い掛けた。このやたらと長い前髪がトレードマークとしているらしいグリンと俺は、この空軍基地で同じようにエースの肩書きを持つパイロットだった。

「あぁ・・・・・・」

 俺は報告書に書かれている戦死者の名を冷ややかに見据えながら、空気が擦れるかのような小さな返事を返した。戦死者リストの一番上に位置している名、アルバート・フォーケンス・・・彼は、士官学校以来の悪友だった。毎日のように酒を酌み交わし、その度に悪酔いをして教官に殴られるなど、よく二人して馬鹿をやっていたものだ。まだヒヨッコだったその頃の記憶がまざまざと蘇ってくる。俺は思わず片手に持っている報告書を握り潰した。

「そして次は、ついに『シルバーブレッド』の出番ってことだ。聞けば、『紅いサソリ』もお前と同じロールを使ったドッグファイトを披露すると言うじゃないか」

 そう、俺には、『銀の弾丸=シルバーブレッド』と言う異名が付いている。誰が初めにこんな名を呼び始めたのかは知らないが、俺はどう呼ばれようと気にはならなかった。そしてグリンの言うように、俺は旋回時に中心を軸に機体を大きく回転させるロールを駆使して、旋回性能をその機体の本来の性能以上に引き出す、という独特の戦法で戦っている。しかしそれは、無茶な動きをする分、機体に通常よりも大きな負担をかけてしまうものだ。俺以外にそんな戦い方をする、と言うよりも出来る奴がいるとは、正直なところ意外だった。

「ほう・・・どんなやつだか、是非とも顔を拝んでみたいもんだな」

 そこで少々、強がって見せる。だが実際には、俺も今まで以上にやる気になっていた。そいつはアルバートを墜とした。今度は俺がそいつをこの砂漠に叩き落してやる。だが、このような戦場では常に、且つ、当たり前のようにこのような感情が飛び交っているものだ。やられた、だからやり返せ、敵討ちだ・・・・・・と。頭ではそんなことはわかっていたが、俺はそれを我慢できない自身が、最も腹立たしかった。するとグリンは、そんな俺に少し引け目を感じたのか、苦笑いをして見せる。

と、その時。

「おい!!そこ!ちゃんと話を聞いているのか!?」

 ふと、今回の作戦の説明をしていた中隊長が俺に向かって怒鳴り声を飛ばしてきた。手に持っている棒を、今にも殴りかからんばかりの剣幕で俺のほうに向かって振り回している。ちら、と流し目で後ろの席を見ると、グリンは先ほどとは打って変わって、既に真面目な顔を中隊長に向けていた。俺が睨んでいることに気付くと、ニタニタとこちらに向かって笑って見せる。「このヤロウ・・・」と、その場で張り倒してやりたくもなったが、そこは素直に向き直り、中隊長にぎこちなく弁解をして何とかその場を凌いだ。

 俺達は今、ブリーフィングルームにいる。広い部屋の中に基地のパイロット達全員が集められ、今回の敵を迎え撃つ位置、方法などが、前面のホワイトボードの脇に立って話し続けている中隊長によって隈なく説明されている。今回はあの腕利きの傭兵部隊が相手になるせいか、中隊長の説明もいつもと比べてどこか力が篭っているような気がした。最近になって頭角を現してきた傭兵部隊。その肝心な部分である紅いサソリのエンブレムが施された奴への対応は、どうせ俺達エースに役が回ってくることになっているのだろう。詳しく聞いても仕方がないとその時は思っていたが、またどやされてはたまらないと、その場は最後まで静かに聞き続けた。

そして作戦会議が終わり、俺はいつ表れるかもしれない敵の為に少しでも早く寝ようとすぐに自分の部屋へと戻った。軍の一兵士の小部屋というものは貧相なもので、寝る為だけにある部屋と言っても過言ではない。私物と言えば、個々の着替えと家族や恋人の写真、そして仲間と軽い暇つぶしをする為のカードがいいところだ。俺はその中で唯一目を引くパイプ組みのベッドに横たわった。腕時計が指す自国は午後7時。寝ようとはしてみるものの、普段の生活から考えてやはりこの時間では夢現にすらなれるものではない。数秒間、ぼけっと天井を見上げていたところで、俺はふと、閃くように思い出した。先程、ブリーフィングルームで中隊長が口を酸っぱくして話していた、傭兵のこと・・・明るい緑色のレドラー。そしてそれには紅いサソリのエンブレムが施されていると言っていた。しかも、更にそいつは俺と同じようにロールを駆使した戦い方をするのだと言う。可能性は限りなく低いものではあったが、俺にはすっかり忘れていた過去に一つ、心当たりがあった。



 ―――――今から、7年前のこと・・・。

 いつもと変わらぬ、赤い砂漠での戦闘。こちらはレイノス数十機で構成された部隊。だが敵もまた、レイノスだった。共和国軍のレイノスに施されている薄緑色のカラーリングとは違い、全ての機体が白で統一され、それぞれの主翼にはでかでかと『Holy Judgment』と描かれている。『神の裁き』だと?何様のつもりだ。そう、これは所謂反政府勢力、現在のヘリック共和国の政策にケチをつける過激派というやつだった。いつの時代にもこういう輩は少なからずいるものだ。そんなことを考えながら、俺は弾丸の嵐の中を飛び続けていた。

 敵の数は確実に減ってきている。元々軍人ではない、盗賊のような奴らが集まっているようなものに過ぎないし、規模もそう大きなものじゃない。この戦いは勝てる。俺はそう確信していた。それから更にしばらくの時間が経ち、敵の残存数が残り2、3機となったところで、ふと目を引いたその中の一機に視線を向けた。その後ろには、部下がついている。射程距離だ、問題ない。そのまま部下に任せて他に当たろうかと思い、操縦桿を引こうとしたその時、俺はあることに気が付いた。どれだけその2機を覗っていても、一向にその部下が攻撃をしかけようとする気配がないのだ。敵は必死に振り切ろうと右へ左へ旋回を続けるが、それでも撃つ気配はない。それを俺も追い掛けながらもう一度流し見るが、確実に射程距離ことは間違いない。にもかかわらず、撃たない。ただ追いかけているだけなのだ。

「おい、お前!・・・オーウェン!・・・何をしてる!早く撃て!」

 瞬時にその部下の機体ナンバーを一瞥すると、通信機のチューニングを合わせ、それに向かって大声をぶつけた。オーウェン・クライスター。つい数週間前に配属された新人だった。確かあいつにとっては、この戦闘は初陣だった筈だ。

「し・・・しかし・・・あれには・・・・・・人が・・・」

 初めての戦闘であるせいか、オーウェンは息が荒い。

「そうだ!人が乗ってるんだ!敵のパイロットがな!このまま撃たなきゃ・・・死ぬのはお前だぞ!」

 そう叫ぶ間にも、敵機は追撃を振り切ろうと大きく旋回を始める。敵も死ぬか生きるかの瀬戸際だ。死ぬまいと必死でのことだろう。

「生き残りたいなら・・・死にたくないなら、撃て!!」

そんな敵に一歩後ろから攻撃を加えて牽制しながら、俺は通信機越しに思い切り怒鳴りつけた。

「う・・・・・・うわああああああ!!」

 するとオーウェンは叫びながら、振り切られるギリギリのところでビームバルカンを放った。放たれた弾丸は敵機の主翼の付け根に吸い寄せられるように命中し、白い閃光と共に右翼が吹き飛ぶ。主翼の片方を失った敵機は、そのまま錐揉み状態で落下していった。ようやく一息ついた俺はもう同じ空に敵が残っていないことを確認すると、部隊を帰路につけた。

俺は通信機をオーウェンと繋いだままにしていたが、そこから聞こえる彼の息は荒く、また不規則で、彼がどのような状態に陥っているのかは、俺にはまるで彼の表情を目の前で見ているように詳細に感じられた。分かっている・・・初陣、それは初めて人を殺めることに繋がる。生きている人間を、今まで汚れ一つなかった筈の、この自分の手で殺めるのだ。自分に対する恐ろしさ、罪悪感からくる震えが止まらない・・・俺も初陣で初めて敵を落としたときは、それにほど近い状態に陥った。今まで訓練の一巻としてやってきたシミュレーションとは違い、簡単に済ませることのできるものではない。しかし、それも慣れてしまえば恐ろしいほどに気になることはなくなる。人とは恐ろしいもので、何もかも、慣れてしまえばどうということもなく物事をこなす事ができるのだ。

「オーウェン、落ち着け・・・お前はよくやった。気にすることはねえ。ここで生きて明日を迎える為には慣れるんだ・・・俺たちは常に、毒を持ったサソリにならなきゃならないんだよ・・・・・・」


 それから俺たちは、盗賊の始末や反乱因子の鎮圧と、幾度も砂漠での戦闘に参加した。その間にも、幾人もの戦友や仲間が墜とされた。数週間が経ち、数ヶ月が経った。だが、オーウェンは変わらなかった。敵の後ろにつくことまではできても、自分からは決して撃とうとはしない。その度に、俺はオーウェンに罵声を飛ばした。彼はその時いつも言った。「あれには人が乗っています」と・・・。

 そして、いつものように戦闘を終え、帰路についた時のこと。オーウェンが唐突に通信を開き、俺に語り掛けてきた。

「大尉・・・私は・・・軍人には、向いていませんよね・・・?」

 突然俺に投げかけてきた言葉。その時の彼のそれには、何か思い詰めたものが感じられた。

「どうした?・・・急に」

 一応聞き返してはみたが、確かにオーウェンには、軍人らしからぬ面があった。全てのものに人一倍、優しいということ。そのせいもあって、仲間内では人気者であったが、その為に敵を撃つことにもためらってしまうということは、軍人にとって致命的なことだ。

「実は・・・前々から考えていたことなのですが・・・故郷に帰ろうかと思ってるんです。実家の農業の経営が厳しいのを少しでも助けようかと、軍に入ったのですが・・・」

 成る程、確かにそれは、オーウェンらしい動機だった。だが。

「馬鹿、軍に入るなんてのは・・・親孝行でも何でもねえよ。お前に帰る場所があるのなら、お前を待つ家族がいるのなら・・・ここにいるのは、おかしいだろ?」

 そこで一つ鼻で笑い、通信機越しにすかして見せる。

「え・・・じゃあ、大尉は・・・」

「俺は、親なしさ。ガキ頃に起きた紛争でな・・・それからさ、俺がサソリになったのは」

 しばらくの間、エンジン音のみが響く、沈黙の時間が流れた。確かに、少なくとも基地にいる奴らのほとんどが、何らかの理由で肉親を失った奴ばかりだ。むしろ親がいるにもかかわらず軍に居続ける奴は、よっぽどの理由があるか、よっぽどの変わり者くらいなのだ。

「すみません・・・」

 その沈黙を最初に破ったのは、オーウェンだった。どうやら先程よりも余計に考え込んでしまったらしい。俺も口が上手いほうでは決してなかったが、さすがにこれには罪悪を感じずにはいられない。

「・・・・・・気にすんな。俺だってそんな昔のことなんか、もう忘れちまったさ。それより、お前の故郷ってのはどんな所なんだ?」

 俺は昔の光景をちらと思い返しながらも、それを妨げるかのように話をそらした。

「え・・・、はい、私の実家はトウモロコシ畑をやってまして・・・すごく綺麗なところなんですよ、大きく広がる雄大な草原の真ん中にあるんです。それも収穫時には私の背丈より高くなるんですよ。畑のトウモロコシが風になびくと、まるで緑色の海を見ているようで。・・・それから秋には―――――


 あいつは、俺が少し故郷の話を持ちかけただけで、延々と話し続けていたものだ。満面の笑顔で、それは誇らしげに・・・・・・。

 だが、あいつはもう、確かに帰ったんだ。こんなところに居る筈はない。今頃はきっと、汗水流して畑の収穫に勤しんでいるはずなんだ。こんな地獄に戻ってくる理由なんか無い筈だ・・・。俺は段々と眠りの世界へ引き込まれて薄れ行く意識の中で、その言葉を何度も何度も繰り返していた。



 そして、数日後。

 基地中に突然警報ベルが鳴り響き、続いて緊急召集の放送が流れた。全体が一瞬にして騒然となり、パイロット達が次々と廊下へ飛び出していく。その時グリンと食堂で軽く飲んでいた俺も、その放送を聞いてすぐさま駆け足で格納庫へと向かった。

 スクランブルの警報が続け様に鳴り響く中を、格納庫へと駆け込んだパイロット達は次々と自分の愛機のコックピットへと滑り込んでいく。

「ったく、この昼時に・・・・・・」

 愛機である銀色のレイノスのコックピットへ乗り込み、エンジンに火を入れながら、食事を中断された俺はブツブツと愚痴を漏らす。

『アラン、お前いつもスクランブルがかかる度に愚痴ばっかだな。毎回そんなんじゃ、相棒も迷惑がってんじゃないのか?』

 そこで、通信機越しに俺の愚痴を聞いていたらしいグリンが、冷やかし口を浴びせかけてきた。同時に、愛機であるレイノスがそうだとでも言うかのように大きく一声あげる。

「余計なお世話だ・・・ほら、行くぞ」

 俺はそう言ってディスプレイに軽く苦笑いを返しながら、愛機を空へ持ち上げた。だが俺は、確かにいつも以上にしつこく愚痴を溢していた。実際のところ、まだ頭の中の整理ができていなかったのかもしれない。『赤いサソリ』、アルバートを墜としたのは奴だ。墜とさなければならない敵でもある。だがもしも、そのパイロットがあいつだとしたら・・・・・・普段から「敵味方をはっきり割り切れ!」と部下に叱咤している俺ではあったが、果たしてそいつを撃つことができるだろうか。無責任にも、俺にはそれがわからなかった。

 吹き抜ける風に乗るかのように、次々とレイノスが飛び立っていく。今までも俺も何十回とこの基地をこうして飛び立ったものだが、この瞬間が俺にとっては最も耐え難い瞬間だった。オレンジ色キャノピー越しに見える幾多もの戦友の機体。この中の一体何機が、無事この場所へ戻ってくることができるのだろうか。

 やがて、十数機のレイノスは5機ずつ、3つに分かれて編隊を組んだ。

『会敵まで2分』

 無機質で機械のような通信士の声が狭いコックピット内に響く。気が付くと、操縦桿を握る手が僅かに震えていた。この俺が震えている・・・馬鹿な。武者震いだ、そうに違いない・・・・・・そう思いたい。そしてついに長かった2分が経ち、視認可能圏内へと突入する。するとレーダー上の輝点にしか見えなかった敵機の姿が、徐々に鮮明に見えてきた。中にはやはり、あの『赤いサソリ』の姿があった。だが、不思議と先程の震えも消え、俺には逆に、何かしら奥底から自信のようなものさえ湧き出てくるような感覚を覚えていた。そうだ、俺はいつでも、どんな死線をも乗り越えてきたのだ。今度も必ず、生き残ることが出来る。

『全機、解散!各個迎撃!』

 部隊長の声がパイロット達の意識を覚醒させ、それに応じて、綺麗に編隊を組んでいたレイノス達は弾けるように散開する。つい先程まで点のように見えていた敵編隊はあっという間に眼前へと迫り、部隊同士は交差し合い、戦闘へ突入した。

 俺は飛び交う敵機の間を右へ左へと機体を回転させながら交わし続け、兼ねてから狙いを定めていた緑色の、機首に紅いサソリのエンブレムが施されたレドラーへと照準を定めた。ビームの出力を上げ、一気にビーム砲を浴びせかける。すると『紅いサソリ』は、機体をぐるんと回転させて軽々とそれをかわしてみせると、まるで待っていたかのようにこちらへ機首を向けて同時にブレードを展開し、正面から体当たりをかけてきた。音速で飛行する鉄の塊同士がぶつかり合う。刹那、激しい金属音が弾けた。コックピットにも激しい衝撃が加わる。即座にレイノスのコンピュータが被害箇所を弾き出した。と、そこで、俺は目を丸くした。ぶつけ合った部分である左前足をいともあっさり根元から持っていかれていたのだ。

「へっ、やるじゃねえか・・・・・・」

 予想外の結果に俺は眉間にしわを寄せながらも強引に笑みを浮かべると、再び鋭い視線を『紅いサソリ』へと返した。一気に最高速度近くまで加速し、追撃を掛ける。すると相手も負けじと加速し、両機はからみあい、急降下していく。地表まで数百メートルというところで俺は愛機を一気に急上昇させると、得意のロール戦法にでた。敵が後ろに付いて来ていることを流し目で確認すると、勢いよく機体を2、3回転させ、一気に急カーブを掛けた。急速にロールを掛けることにより通常よりも遥かに入る角度を短縮できる上に、非常に予想し辛い方向へ転換することが出来る。それを連続して行うことにより、本来機体が持っているポテンシャル以上に旋回性能を引き出すことが出来るのだ。そしてそのまま敵の後ろに回りこもうとした・・・その時だった。

 ―――ガァン!

 再び鋭い衝撃レイノスを襲った。一瞬、意識が飛ぶ。正面のディスプレイにヒビが入り、バチバチと火花が散った。それと同時に、ヒビの入ったキャノピー越しに凄まじいスピードでレイノスを追い越していくレドラーの姿が見えた。・・・油断した。完全に振り切ったつもりだった。だが、『紅いサソリ』はぴったりと後ろに付いて来ていたのだ。ディスプレイの右端で、コンピュータが粗い画面で『WARNING』の7文字を点滅させている。

「くっ・・・・・・」

 と、その時だった。

『大・・・・・・アラ・・・アラン・エルフォード大尉・・・・・・』

「・・・・・・何!?」

 突如、雑音を交えながらの通信が俺の耳に飛び込んできたのだ。味方の通信ではない。だが、聞き覚えのあるこの声。

「まさか・・・・・・まさか、オーウェン・・・・・・か?」

 体勢を崩しつつあった機体を何とか支えようと必死になりながらも、奥底から湧き上がる何かを抑え切れない。無意識に操縦桿を握り締める両手に力が入った。

『お久しぶりです、エルフォード大尉・・・・・・覚えていて頂けたんですね・・・』

 雑音交じりの通信で突如語り掛けてきたその声の主は、間違いなく、あのオーウェンであった。しかし、何故、奴が。あんなに戦うことを嫌っていたあいつが。俺の頭の中はそれだけで平静を保てなくなりつつあった。そんな間にも目の前のコンソールは時おり火花をあげている。が、それすらも今は意識することは無かった。

「・・・・・・お前なのか・・・オーウェン・・・・・・」

 それ以上、言葉が出てこなかった。周り中で爆音の響く中で、数分間、沈黙が続く。

『・・・どうして私がこんなところにいるか、知りたいですか・・・?』

「・・・・・・」

 何一つとして、返す言葉が見つからない。周りで激しい戦闘が行われているその最中にも、俺は通信機にのみ神経を集中させていた。

『私は・・・あの時、人生をやり直すつもりで田舎に帰りました・・・・・・畑を手伝い、慎ましく暮らしていければ良いと・・・・・・しかし、私の目の前に現われた現実は、残酷なものでした』

 そこで数秒間、通信が中断される。

『・・・どれだけ見ていても飽きないほどに美しく靡くトウモロコシ畑も、その真ん中に謙虚に建っていた両親の家も・・・・・・私が辿り着いたその時には、そこにはありませんでした。遥かに広がっていたその光景の中にあったものは、煤けた廃屋と一面焼け野原となったトウモロコシ畑だけでした・・・・・・大尉、この意味があなたに解りますか?』

「・・・・・・西方大陸戦争か」

『そうです・・・私たちが自ら進めていた戦争です。その時の私の気持ちが、あなたに解りますか!?・・・・・・私の居場所は、どこにもなかったんですよ』

「しかし・・・何故、お前が帝国軍に、俺たちの敵なんだ!?・・・・・・お前なら、もうこの地獄を見ることなく静かに暮らしていけるんじゃないのか!」

 と、そう叫んだその時、急にガクンと機体が傾き、一瞬、体が僅かに宙に浮いた。急ぎ体勢を立て直すが、その揺れはなかなか止まらない。深くはなさそうだが機関部にも損傷があったのか、レイノスは少しずつ降下し始めているようだった。

『私は・・・・・・あなたをずっと探していました、大尉・・・・・・』

 そこでオーウェンはそう一言呟くと、機体を一回転、ぐるんと回転させると、まるで太陽に吸い込まれるかのように勢いよく急上昇していった。続けて体勢を変えたと思うと、太陽を背にしたままレイノスに向かって一直線に、ストライククローを輝かせながら急降下を始める。

「くっ!」

 全く予想外の事態だった。俺はしっかりとバランスを保てない愛機の操縦桿を力いっぱい引くと、力任せに空へと持ち上げ、再び『紅いサソリ』を厳しい目で睨み返す。再び大空に、金属の弾ける音が響き渡った・・・・・・。

―――ビーッビーッビーッ

 コックピット内に今までになく強い警告音が鳴り響いている。俺は、虚ろな目をゆっくりと見開いた。ガクガクと機体が揺れている。が、それは先程と変わらない。今の攻撃で加えられた傷は、全く無いようだった。しかしそこで、ハッと気が付いたように俺は『紅いサソリ』のほうを振り返った。すると真っ先に目に飛び込んできたその光景は、黒い煙を機体からもくもくと吐きながら、徐々に赤い砂漠へと降下していく緑色のレドラーの姿だった。

「まさかあいつ、わざと・・・!」

 傷ついた機体を何とかオーウェンのほうへと向き直らせようとする。だがそれを遮るように、再び通信が入った。

『大尉・・・・・・』

 そこから聞こえてきたのは、傷でも負ったのだろうか、先程とは打って変わって弱々しくなったオーウェンの声だった。

「オーウェン!お前・・・・・・!」

『これで・・・これで良かったんです・・・気にしないで・・・下さい・・・・・・』

 レドラーは段々と高度を下げ、通信機から聞こえてくる声も段々と荒いものとなってくる。

『追いかけても、追いかけても・・・どれだけ追い求めても、求めるものは遠ざかっていく・・・・・・ただ・・・ただ、帰りたいだけなのに・・・・・・結局、私の居場所は何処にもなかったんです・・・・・・ただ、遠いだけの幻だったんです・・・・・・だけど、これでやっと・・・・・・・・・・・・感謝します・・・グッバイ、大尉・・・・・・』

 ―――ドオン・・・・・・

 そこまで聞こえたところで、一つの小さな爆音が赤い砂漠に響き渡った。何故か俺は感慨深くさえならず、ただ虚ろに前を見据えていた。ふと空を見上げると、残った敵機の影は遥か遠くへと遠ざかっていた。部隊の要であった『赤いサソリ』が墜とされたのを見て、尻尾を巻いて逃げていったのだろう。意識が朦朧とし、操縦桿を握る力さえもやがて薄れていく。

 ―――ピーッピーッ

 ふと、まるで眠っていたところ呼び覚ますかのように通信機の電子音が鳴ったと思うと、すぐに俺の意識は現実へと呼び戻された。

『おうい、アラン、大丈夫か・・・?随分と派手にやられたもんだな・・・・・・だが安心しな、俺がウチまで無事にエスコートしてやるからな』

 それは、いつもと同じグリンの軽い冷やかし口だった。先程までそのまま何もかも諦めてしまおうとしていたことが馬鹿馬鹿しく感じられ、思わず笑みがこぼれてしまう。

「へいへい・・・・・・じゃ、ひとつお願いしましょうかね」

 バカな受け答えをしながらも、俺は既に満身創痍の愛機を何とか更に上空へと持ち上げると、グリンの後に付ける。

「幻・・・か・・・俺は考えたこともなかったな・・・・・・もしかすると、今の俺たちも無意識に似たようなモンを追いかけているのかもしれないな。っと、悪いな・・・お前にゃかなり無理させちまった。帰ったらすぐに綺麗にしてやるから、勘弁な」

 そこで思い出したように、先程まで道連れにしようとしてしまっていた愛機に申し訳なさそうに謝罪をした。するとレイノスはその傷ついた体であることも気にならないかのように、空高く大きな声をあげる。そのまま何となく笑いながらふと見上げた空は、蒼から橙へと変わり始めているところだった。そんな空を見て、ふと、思い出す。

「そう言えば、アイツも昔、あの後、こんな景色の中で・・・・・・言ってたっけな―――――

 ―――――大尉・・・私はやっぱり、サソリよりトウモロコシのほうが好きですよ。猛毒なんて持っていても、腹が膨れるわけではありませんからね―――――

[80] お久しぶりです。 myura - 2005/06/12(日) 22:00 - MAIL

ご無沙汰しております。
もしかすると既に他所で読んでいただいたかもしれませんが、
最近書き上げました短編を一つ投稿させていただきます。

それでは今後ともお邪魔させていただくかと思いますので
よろしくお願い致しますね。

[81] ありがとうございます ヒカル(管理人) - 2005/06/13(月) 20:01 - HOME

ご投稿ありがとうございます。いや〜それにしても短編っていうのもいいですね。とても読みごたえがあってとても楽しませてもらいました。これからもご投稿よろしくお願いします。それと私が書いていますオリジナル小説のほうも読んでいただければさいわいです。一応自信作なんで。

[91] 感想をありがとうございます myura - 2005/06/21(火) 01:00 - MAIL

お返事が遅れてしまいまして申し訳ありません;

今回の作品は文体等に少々噛み合わないところが多いかな、とも感じていたのですがストーリー自体を楽しんで頂けたのであれば嬉しいです(^^

それと管理人さんの『戦果のエウロペ』ですが丁度先日より読ませて頂いておりますよ(^^
しかし何分時間がないもので読み終わるまでは多少時間が掛かってしまうかとは思いますが・・・;
読み終わり次第感想掲示板にて書かせていただきますね。



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