タイトル:コードギアス 追憶のエミリオ intermission 均衡 |
SF |
旧神聖ブリタニア帝国皇族共同領エカテリンブルグ。
オデッセウス大宮殿。
会議用小広間。
長方形のテーブルを囲んで座る五人の男女。
向かい合わせの四人は、それぞれ男女が二人ずつ。
男側は青年貴族と壮年執事。
女側は文官と騎士。
そしてその間の上座に座る一人の少年。
質問を発する女文官。
「では。やはり。今回のウスリーの争乱を機に、ポーランド方面からの侵攻が行われると」
答える青年。
「はい。現在の世界における抑止機能は表のグリンダ騎士団と裏のノース・フェイス。この二つに打撃が加えられたとなれば、好機としてベラルーシとウクライナの二方面からこちらに侵攻してくるでしょう。あの辺りは旧スマイラス派の勢力も大きいですし」
「超合集国ならびに黒の騎士団がポーランドと共に、こちらへの侵攻に加わる事は?」
「もしこちらが急速に崩壊すればその可能性は大きいでしょう。ただしこちらが頑強な抵抗と迅速な反撃を行えば、その可能性はむしろ低くなります」
「その根拠は?」
「彼らの最大の焦点は我々よりもブリタニア本国です。もし本国を抜きにして大打撃を被れば、それこそ本国を優位にします。また本国を組み入れて侵攻すれば、成功しても本国の威信を再び高めてしまうからです。またもう一つの懸念は…」
そこで口を挟む女騎士。
「我々と組まれてしまう可能性ですか?」
「御明察です。ゴッドバルト卿。とにかく彼らとしては旧ブリタニア帝国勢力同士の接触をとにかく避けたいというのが本音の本能でしょう」
それに対しジロリと一瞥を投げて質問を続ける女文官。
「で。それからの展開は?」
「現在の世界はブリタニア本国も加盟の超合集国連合による一元化が建前ですが、その内実は複雑で安定に欠けています。我々としてはこれを新たな『三極』に大別して、現実的な勢力均衡による安定を実現します。それによって他の勢力は口では何と言っても実際に我々を積極的に倒そうとはしなくなるでしょう」
いささか探るような口調の女文官。
「『新三極』。そういえばかつてのユーロブリタニアでもそのような不遜な事を唱えていた連中がいたとか言いますわね?」
それに構わず発言の青年。
「あれとは意味が違いますよ。私が言ってるのは、未だに旧体制に未練を持つ他国勢力。そこからの亡命者を受け入れて超民族体制に再編中のブリタニア本国。そして更にその本国から離脱の保守勢力を迎え入れた我々の新国家による鼎立状態の確立です。これならば勢力的にほぼ均衡した状況が生まれるはずです」
顔をしかめる女文官。
「念を入れておきますがね。ハイランド伯爵。このエカテリンブルグの者たちの最終的な目的は、あくまでブリタニア本国への帰還と帝政復活。それをお忘れなきよう」
「分かっておりますよ。エイゼンシュタイン子爵。しかし今はとにかく現状における立場の安定と確立が最優先です。それもお忘れなきよう」
むしろ嗜めるかのような口調の相手に、カチンとばかりに何か言い返そうとする女文官。
その時。
「じゃあ。そのように取り計らってよ。ヴェランス大公」
初めて声を発する上座の少年。
まだ十歳くらいだが、独特の有無を言わさぬ雰囲気を発している。
その口調と内容に驚くが、何も言い返せない女文官。
それを見て苦笑を浮かべる女騎士。
最後までしゃべらない壮年執事。
そして得たりとばかりの表情を浮かべる青年。
自分の席から立ち上がり、少年に向かって最敬礼。
「イエス。ユア・マジェスティ」
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JIN 2019年08月22日 (木) 21時57分(92) |
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