その暗く陰鬱な空間に一人の少女が佇んでいた。 ただ一切の権利を拒絶し剥奪された小さい社会の骸は鉄格子から漏れる朝日を眩しいと感じた。 冷たく無機質な、 かれこれ400 年以上の付き合いとなる自分の分身とも言える鎖に自身を委ね、恒久的に流れゆく時を感じる他、いかなる行動もとろうとしない少女には最近疑問に思う事ができた。 「生きるってどういう事だろう?」
自由を放棄することは、人間としての資格を放棄することである。 人間としての権利を放棄することである。 すべてを放棄する人にとっては、いかなる補償もありえない。 という崇高な名言にもある通り、自由を放棄している彼女にとって「生きる」事を考える事は矛盾を孕んでいるかもしれない。 しかしそれでもこの少女、フランドール・スカーレットは自分の行う唯一のアクションである生きる事を根本から見つめ直しつつある。 彼女には姉がいる。 それがフランに生きる事を放棄させ、社会的に抹殺した原因である。 しかしフランは彼女を愛している。 何故か、それを問われても明確な答えはでない。 しかし、何故この状況の元凶たる彼女を愛するのか。 この答えがフランの持つ疑問の答えとなりうることは明確である。 そしてもう一人、フランの周りには、この館を取り仕切る十六夜咲夜という人間がいる。 本来、人間とは自分達吸血鬼の食糧となるモノである。 しかし凛々しく美しく、吸血鬼の鑑ともなるべき姉のレミリア・スカーレットはその「モノ」と大変仲良くしている。 「何故だろう」 フランには食糧と仲良くし、それを愛す姉を理解できなかった。 それと同時に少女は嫉妬した。 本当ならば捕食され死んでいるべき筈の「モノ」である人間が生きている。 そしてここには四世紀以上も監禁されている、ただの「モノ」に過ぎぬ自分が生きている。 彼女はとても可笑しかった。 憎かった。
その刹那、彼女の脳に電流が走る。
十六夜咲夜は誰からも頼られ、信頼され、皆から必要とされている。 だから生きているのだ。 もし必要の無いものならば食べられているはず。 自分が生きているのは必要とされているから? それ以外に答えは思い浮かばない。 お姉様に必要とされている。 お姉様は私を大切に思って下さっている。 お姉様は私を愛している。 お姉様は本当は私だけを愛して下さっている。お姉様はお姉様はお姉様は。 だって咲夜は縛られていない。縛られているのは私だけ。 私が一番大切に思われているんだ。 姉に対する猛烈な愛情と独占欲、そして従者に対する優越感のなか少女はこう結論付ける。「生きる事は必要とされることである。」
レミリア・スカーレットは憂鬱であった。 自分が犯した過ちを認識する事が。 実の妹を監禁するという愚行を。 週に一度、彼女は妹に会いにいく。 鎖で繋がれている妹の姿はとても痛々しく弱々しかった。 気が触れている妹、生命に対する脅威ともなりかねない彼女を野放しにするわけにはいかなかった。 しかし早々とこの歴史に終止符を打たねばならぬ。 という思いが彼女の中で日に日に増している。 妹を開放し、自分がフランを包んで、守ってあげないと・・・。 色々な思考が交錯するなか彼女は暗い地下室へ向かう。 案の定、妹は抜殻の様に動かずぐったりとしている。 「フラン・・・」 レミリアの声を遮りフランは言った
「ワタシヲステナイデ」
必要とされていたいから まだ生きていたいから。
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