[336] Wing of Heart 〜Days in the Bloom〜 |
- ゼクティム - 2008年03月28日 (金) 03時19分
〜プロローグ〜
「ああああぁぁぁぁああああぁぁあああああぁっっ!」
俺はあの日、何もできなかった。 いじめられていた少女を救ったはずだったのに。 俺は偽善者の烙印を押され、逆に彼女を傷つけてしまって。 結局、彼女を守ることができなかった―。
俺はそのとき知った。 「正義を貫いても人一人ですらも救えない」 そんな不条理こそが世界の真理だと―。
俺はあの日、心に誓った。 こんな悲劇はもう二度と起こさせないと。 「正義を貫いても人一人ですらも救えない」という不条理を この手でぶっ壊すと―。
―あれから2年という時が過ぎ去ろうとしていた。
「おーい、どうしてくれるんだ? 姉ちゃんのせいで俺の一張羅が台無しだぜ? どう責任とってくれるんだ?」 私は何故か今、男の人4人に囲まれているというデンジャーな状況に立たされていました。 私が街角を歩いていたところにあっちから私にぶつかってきて、ぶつかってきた男の人が持っていた缶コーヒーを溢し、服が汚れたからクリーニング代20万円払えと言いがかりをつけてきたのです。そんな大金、私に出せるはずがありません。何せ、私はまだ今年3年になる女子高生だというのに。 「おい姉ちゃん、黙ってねぇで何か言えや!」 それは無理な話でした。私はこの状況に力なく座り込んでしまっていて、ましてや声なんて恐怖で出るはずもありませんでしたから。 「クリーニング代払えねぇなら……あんたの身体で払ってもらおうか!」 え…か、身体で払うといいますとこの人たちに強姦とかされたりして、その後一生、この人たちの下で奴隷として働かされるとかですか!? そんな…。 「い、嫌ぁ…。」 ああ……私がそんな想像(妄想)しただけで涙が…。そのときでした、男の人たちの間を割って彼が現れたのは。彼は微笑みながら私に手を差し伸べ、たった一言こう言いました。 「大丈夫ですか?」 「は……はい……。」 私と同じくらいの歳の彼の外見は、割と何処にでもいそうな体育会系の男の子でしたが、私にとっては白馬の王子様に見えました。 「何だ、てめぇは? 邪魔だからとっとと失せろや。」 「それはできない相談だな。」 彼は余裕を見せながら淡々と喋っています。そんなことを言えば男の人たちも黙ってはいないでしょうに…。彼はそのことを考えていないのでしょうか? それとも…。 「どうやらてめぇ、俺たちの邪魔したいらしいな……。」 「女の子一人に寄って集って恐喝する、お前らの言えた台詞ではないだろ? 正義の味方気取ってるわけじゃないが俺は昔からこういう状況を見過ごせない性質(タチ)なんでな。」 「あー、もういい。コイツ処刑だ。」 ええっ?何故そんな方向に話が流れるんですか!? そんな私の突っ込みをお構いなしに男の人たち4人は彼に殴りかかりました。が、彼は華麗なステップで男の人たちの拳撃をものともせず躱していきます。男の人たちは構えからして何か格闘技をしているようで動きに無駄はありません。男の人たちのその猛攻を一度でも喰らえば、骨にヒビが入ることは間違いないでしょう。 そんな猛攻に対し、両手をポケットに入れたまま、1分以上も男の人たちの猛攻をかすりもさせず、華麗に回避し続けている彼はただ者ではありません。 「もう、終わりか?」 片や、余裕綽々の高校生。片や、疲れを見せている男の人たち4人。 1対4であるにも関わらず、敵に全く攻撃をかすらせることができない男の人たち4人は、いよいよポケットからナイフやらスタンガンやら凶器を取り出して、本気で彼を殺しに掛かってきます。 彼はようやくポケットから両手を出すと、さっきまでとは打って変わって風のように素早い動きで男の人たちとの間合いを一瞬にして詰め、その中の一人のみぞおちにヒジ打ちを入れました。あまりにも一瞬の出来事に彼のヒジ打ちを喰らった男の人も何が起きたのか、理解できていませんでした。そしてその男の人が自分がヒジ打ちを喰らったことを悟った頃には、男の人は気を失って横たわっていました。 そのとき他の3人も悟ってしまったのでしょう、 ―やべぇ…確実に殺られる…と。男の人たちの表情からそんな恐怖めいたものが私にも伝わってきます。
それからわずか数十秒後、彼による地獄絵図が出来上がっていました。男の人たちは地面に倒れて気絶しています。それも彼が放った拳一発で。 「ありがとうございました、助けていただいて。」 「…いいんですよ、礼なんて。」 彼の着ている制服を見ると彼は私と同じ高校、それも1つ下の学年のようです。私は何度も彼にお礼を言いました。 「俺は男としてなすべきことをしただけですから…。」 そのとき私はあることに気づきました…。 彼の顔に大きな刀傷があることに。そして彼が何者かということに。 「あなた…もしかして…。」 彼は私が何を言おうとしたのか分かっていたのか、私の彼に尋ねようとする言葉を遮って答えました。そんな彼の顔はどこか…寂しそうに思えました。 「ええ…その名で通っています。俺は自分の信じる道にしたがって生きている男。そんな俺を皆はこう呼んでいます―。」
―そう、俺はこの世界の不条理を知り、不条理をぶっ壊すため、自ら不条理な存在となった。俺の名は御薙 勇斗(みなぎ ゆうと)。不条理をぶっ壊すための存在、「喧嘩番長」の異名を持つ男だ。 これは、そんな俺と信頼できる仲間達が織り成す青春の日々を綴った物語である―。
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