[271] 沈む青い鳥 |
- マロン - 2006年08月04日 (金) 10時48分
沈んでく・・・。 暗く深い深海に私はいた。 底が真っ黒で、何も見えない。私の存在がだんだん稚拙に思えてくる。 息ができない。手足も動かない。 コポコポ、と、唯一聞こえる音が、数個の泡となって目の前を登っていく。 暗い。あの中へ私は沈んでいくのだろうか。 いやだ。いやだ。沈まないで。まだ死なないで。私。
ユミは目を覚ました。 冷や汗が体中を走っていた。
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ユミの夢はいつも同じ。 深い、暗い海に沈んでいく。 こう何回も同じ夢を見ると、夢とわかっていても気味が悪い。 体の中に悪いものが入り込んだ気分になって、外へ飛び出した。
海が見える。ユミは海が好きだった。 どこまでも続く青い一面の絨毯が、太陽の光を受けて様々に光っている。 白波が、この世のどんなものよりも美しく思えた。 いつか、いつかきっと、向こう側。海の終わるところまで行ってみたいと思っていた。 近くでカモメが鳴いている。船も何隻か止まっている。 この平凡な日々が、世界があることが、ユミにとっての最高の幸福だった。 海の風を感じた。潮の香りが鼻をついた。心地よかった。
刹那、ユミは背中に物凄い衝撃を受けた。 体の軋む音が耳に響いた。命が消える音だった。 海へ真っ逆さまに落ちた。ジャボン、という波の音がした。
沈んでいく中で、ユミは海面をのぞく2人の子供が見えた。 ユミに意識があれば、子供たちの会話が聞こえたことだろう。
「あーあ、かわいそう」
「しょうがないじゃんか、あたっちゃったんだから」
「でも…ヒロ君がエアガンなんか打たなきゃ…」
「青色の鳥なんて珍しいと思ったんだよ。おどかすだけのつもりだったんだ」
子供たちは沈んでいく青い鳥を見ながら、それが見えなくなっても半泣きの状態で手を合わせた。 子供たちはちいさな命が消える瞬間を、この時一番身近に感じた。
end
あとがき 短編書きたかった・・・( これからもたまに書いていこうと思います。
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