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[341] 南風の吹く空
のんびり - 2008年07月19日 (土) 16時54分

こんにちわ。のんびりです。
小説書くのは初めてだけど、がんばります。
よろしくおねがいします。

[342] プロローグ
のんびり - 2008年07月19日 (土) 17時16分

「どうせ出たってぜんぶわかるしなぁ」
茶色っぽい髪に琥珀色の目をした、神崎桜は
天草学園の屋上にある小さな時計台の屋根の上で、
つぶやいていた。
天草学園、小中高一貫のこの学校は、
武器化種族と呼ばれる人間と共に危険な仕事、つまり
魔獣や危険人物の排除、誰かのの護衛など。
そういった事を中心になんでもやる人を育成する学校だ。
桜は天草学園の高1。彼はボーッとしながら
時間をつぶしていた。そんな時、
「神崎君、神崎桜君。至急、職員室に来てください」
それを聞いた時、大きなため息をついた。
「また呼び出しか・・・しつこいな・・・」
そうつぶやいた後、天窓から時計台の中に戻り屋上に出て、
職員室に向かった。








[343] 第1話「それはまた物語の始まり・前編」
のんびり - 2008年07月19日 (土) 19時49分

桜は筋肉が凄い角刈りの教師に怒鳴られていた。
「何でお前は毎回毎回毎回毎回毎回毎回!!!!何で授業に出ないんだ!!!?
せめて出ろ!!!!寝ようと遊ぼうとなんだろうといいから!!!!」
この教師は五月蝿異境(うるさ・いきょう)その名のとうり、
うるさい教師だ。
「全部わかんのに、出たって暇なだけじゃん。」
異境は自分のデスクを職員室中に響く力で、殴った。
「何言っとんじゃ!このボケ!!!暇なんだったら授業受ければいいだろうが!!!
そんなことも分からんのかおまえは!!!」
「ごめん。わかんない。すいませんねぇ。ていうか、わかりたくない」
桜は笑いながら言った。
「まじ、しばくぞ・・・まあいい。今日から絶対出ろよ!出なかったら留年だ!」
頬に汗が流れた。
「えっ!まじ!?」
当然だろうが!!!!と叫ばれた後、仕方なく桜は教室に入った。
そこに黒髪で後ろの髪を結んだ少年と赤い髪にツインテールの少女がやってきた。
「あ?神崎。今日は出んのかよ?」
「あ、本当だ。」
2人にきずくと、
「よう夏奈久しぶり。」
「久しぶりって、この前あったじゃん」
「そうだっけ?」
桜がもう一人の少年、桜井優人を無視してると怒った顔で
「俺を無視すんな!!お前わざとやってるだろ!!」
それでも無視しながら夏奈と話している。
優人はだんだん腹が立ってきた。そしてついに・・・キレた。
「いい加減にしろよ〜〜〜!!!!無視すんなって言ってんだろうが!!!この授業サボリの間抜けが〜!ほんとは分かんないんじゃないのか!?」
その言葉はさすがに無視できなかった。分からないんじゃなくて、分かるから出てないのだ。しかも間抜けとまで言われた。これは桜にとって怒らない訳には
いかない。
「なんだと!まぬけだ〜!?お前だけには言われたくないんだけど!だいたい今時そんな髪長いやついないんだよ!なんだ?侍気取りか?悲しいやつだな!」
「ぐっ!パ・・・パートナーもいないやつに言われたくないんだよ!」
「んだと!」
周りがまた始まったとあきれだす。仕方ないので夏奈が仲裁に入る。
「あのさ!別の所でやってくれない?みんなの迷惑なんだけど!」
一瞬2人は夏奈を見た。そしてまたにらみ合って、
「しかたない・・・外行くぞ!」
優人が言うと、桜が、
「上等だよ!その黒か・・・」
突然2人は思いっきり殴られた。異境だ。とんでもない飛距離をだした。軽く8Mはとんだ。無論2人は気絶、教室の生徒は全員彼に恐怖を覚えた。
「全然上等じゃねえんだよ!!!もう授業始まってんだよ!!!さっさと座れ馬鹿!!!」
2人は気絶しながら座らさせられ、異境は授業を始めた。

[344] 第2話「それはまた物語の始まり後編」
のんびり - 2008年07月20日 (日) 01時26分

桜はうっすら意識が戻ってきていた。
「なんども言うようだがな、武器化種族は人間だ。体内にソウルエレメントと呼ばれる物を細胞の2分の1を持つ、たったそれだけだ。だが、馬鹿な連中は武器化種族をただの道具とかしか思ってない。そういう奴らには絶対なるなよ」
異境はそう言うと、一つの紙を取り出した。
「あと、戦闘テストが明日ある。急だとは思うが、各自がんばってくれ。チーム編成は後ほど教える」
戦闘テストとは、実戦に出るかなり危険なテストだ。たいていテロリストや、魔獣の群れの討伐などが、テスト対象となる。
戦闘テストについて考えていると、異境がやってきた。
「神崎、お前はパートナーがいないから普通の武器しかつかえん。まあお前の腕なら大丈夫だと思うが・・・とりあえず気をつけろ。あと早く良いパートナー見つけろよな。じゃないとガードナーになれないぞ」
異境先生もたまには、心配してくれるんだ。と思いながら、男子寮に戻り自分の刀を手入れすることにした。
      *           *               *
翌日
チーム編成発表された。桜は不機嫌だった。なぜなら、桜のチームは、
鎌のアグリアス、アグリアスのパートナーヘンリル、槍の暁、暁のパートナー佐百合に銃の夏奈そして・・・優人だった。
「ちっ!何でお前がいんだよ・・・」
「あ?なんか言ったか?」
「何も」
今回はすぐ治まった。なぜならここの担当教師が異境だからだ。
また殴られるのが怖いらしい。
7人は、移動用の飛行船に乗り、プリーフィングルームへ向かった。
異境が作戦を説明する。
「今回のテスト・・・ていうより作戦か。今回の作戦はテロリストの排除、そして、奴らが狙っている何かの回収だ」
紺色の髪に眠たげな眼差しをした少年、暁が訪ねた。
「何かって何ですか?」
「それは分からん。分かっているのは強大な力を持った何かという事だけだ。
何の情報もねえんだ、無理もない」
その言葉に優人が反応した。
「何の情報もない?どういうことだ?」
「情報を得るためボランティアのガードナーを送ったんだが、シグナルロストしてしまって、情報が入ってきてねえんだ」
その情報は全員が驚いた。仮にもプロのガードナーがテロリストごときにやられるなんて、驚かないはずがない。
「そ・・・それは本当か!?じゃあとんでもない組織って事じゃねえか!?」
銀髪のヘンリルがそう叫ぶ。
「落ち着けヘンリル。確かにそうかもしれないが、単に油断してけがしただけっつう可能性もある。だから落ち着け」
ヘンリルはそういわれると、深呼吸をして席に座った。
「つまり、ただの雑魚かもしれないし、激強かもしれないから油断するなって事だろ。先生」
異境は頷く。
(まもなく到着します。)
異境は大きなこえで言った。
よし!お前ら!ただでさえ得体の知れねえ奴らだ。絶対油断すんな!!そして生きて帰ってこい!!!」
「おう!!!!!!!!!!」
7人は全員で叫んだ。














[345] 第三話「グッド・マイ・フレンド・チーム前編」
のんびり - 2008年07月20日 (日) 12時58分

天草学園の一行を乗せた飛行船はテロリストがいる都市「カーマイン」よりちょっと離れた、山に着陸した。生徒達は武器化種族を武器化し、カーマインへ乗り込む準備をしている。桜たちは4人は多いとの事で、
探索班、討伐班に別れる事にした。桜と優人が決めると、
2人が喧嘩しそうなので、佐百合が決める事にした。
「じゃあ、優人と桜は別の班にするね。私と桜は探索、優人とヘンリルは、
討伐班ね」
全員反対はなかった。
    *             *              *
「はあ。見張っとけっつてもなあ、誰も来ねえじゃん。」
「だな。まあ命令だし、どうせ来ないから適当に突っ立てりゃ良いだろ」
「そうだな」
テロリスト兵が笑いながら話していると、「コツン」と、
音がした。
「ん?なんだ?」
「誰かいるのか!出てこい!」
「お・・・おい逃げねえとヤバいんじゃ・・・」
「はあ?何で・・・」
そう言いかけて兵は気づいた。足下に。
「ば!爆弾!?」
気づくのが遅かった。2人の兵は爆発の直撃を受けた。
気づいた時にはもう血まみれだった。
「そ・・・その制・・・服は天草・・・」
兵が倒れると生徒たちが入ってきた。
「各自自分のチームでたてた作戦やら何やらでがんばれ!」
    *             *              *
「ん?始まったか。いくぞ佐百合」
「うん」
桜と佐百合は都市の裏側の外壁の下にいた。桜が外壁を刀で切り倒し都市内部に、
侵入する。
「まずは、あの時計塔に行くぞ」
「えっ?なんで?」
桜が地面を指差すと、そこにはうっすらではあるが時計台に行く門を通り抜けた足跡が、残っていた。
「なるほど」
2人は門をくぐり、時計台へ向かった。なぜか、
ちょっと遠い所にあるのだが・・・
  *              *              *
優人はあきれていた。
「ここは蟻の巣か?何人倒しても出てくるぞ。」
銃の状態の夏奈を撃ちながらそう言った。もう34人は倒したのにまだ出てくる。
大量に。
「こっちも、体力ってもんがあるんだけどな。どこまで出てくんだ?」
「何やってんだ?あの2人は?いつまでかかってんだよ?」
そのとき優人の真後ろに兵が剣をもって切り掛かろうとしていた。
(しまった!)
そう思った瞬間その兵はまっぷたつなって吹っ飛んだ。
「ぐあっ!!」
ヘンリルがアグリアスで斬ったらしい。
「(後ろ開いてんぞ)」
「そうそう後ろがら空き!」
だが、助けてもらったのに関わらず優人は夏奈をヘンリルに向けた。
「(ちょっ!?何やってんの!?)」
「お・・・落ち着け。ごめん言い過ぎた。だから許してください!」
そんな台詞も気にせずトリガーをひいた。
「おわっ!」 
ギリギリよけたが、何かにあたった音がした。
優人はヘンリルの後ろの兵を狙っていたらしい。
「これで・・・かりは返したぞ」
「あ・・・あははははは・・・サ・・・サンキュー・・・」
    *          *            *
桜と佐百合は、飛び出てくる兵と魔獣を倒しながら、
時計台に向かっていた。長い階段上りながら。
「はあ・・はあ・・はあ・・な・・・何でこんなに敵が出てくる訳!?体力が続かないから!」
「道があってるって証拠じゃねえの?」
桜は涼しい顔をしてそう言った。
「さ・・・桜は余裕だね?」
「(お前が疲れ過ぎなだけだ)」
暁が言った。続いて桜も、
「体力作った方が良いぞ。持久戦に持ち込まれたら、きついから」
「そうだけど・・・あっ!時計台だ!」
階段を上りきり、ちょっとした下り坂をおりたところにあった。
2人は時計台がよく見える茂みに隠れた。
「ビンゴだな。テロリストが見張ってる」
「うん。でもどうする?多分中にもいっぱいいるよ?」
「優人とヘンリルを呼んで、2人と佐百合で奴らを外におびき出せ。俺は裏から回って壁斬って中に入る。出来るだけおびき出せよ」
そう言うと、桜は時計台の裏へ回った。
佐百合はインカムを耳につけ、優人たちに連絡を取った。
「あっ、ヘンリル?うん。見つけた。今から来て。場所は・・・」

注意「(〜)」は武器化状態のキャラの台詞です。

[346] 第4話「グッド・マイ・フレンド・チーム後編」
のんびり - 2008年07月20日 (日) 16時47分

「もうすぐ終わるらしいぜ」
「まじ?やった!もう疲れちまったよ」
「じゃあもっと疲れさせてやろうか?」
桜の提案した作戦が始まった。珍しく桜の言う事を聞く優人は、
どうやら佐百合が桜が考えたとは言ってないらしい。
「遅いっ!」
優人が兵の体制を崩し、佐百合とヘンリルで、
2人を倒した。
「なんだ!」「どうした!?」敵兵のこえが近づいてくる。
「来た来た♪馬鹿だなあ」
「面倒くせえけどやるしかないらしいな」
「そう言う事だね」
「行くぞ!」
     *             *            *
銃声、剣と剣がぶつかるような音が響く。
「うっひゃ〜。ドンパチやってんなあ」
桜は今まで崖を上っていたらしい。時計台の裏側は崖だからだろうが、
時間をかけすぎている。そんなに高くないのに30分かかっている。
体力作れと行ったのは誰だ。
「さて俺も始めるか」
結構分厚い壁を斬り中に入る。が、突然足下に違和感を感じた。
「ん?」
下に穴が突然開いた。違和感はこれらしい。
「なっ!落とし穴あああああああああああああああああ!」
     *           *             *
5、6分くらいだろうか。桜は気絶していた。
「痛っ!何で落とし穴があんだよ!?まさか敵が?」
そんなことをブツブツ言いながら立ち上がり、手に刀がない事に気づくと、
周りを見回し刀の柄が見えたのだが、
「げっ!折れてる・・・」
運が悪い事に元の長さの3分の1になっていた。
「これだけでも持ってた方が良いかな」
一応これから敵のボスを倒しにいくのに丸腰はきつい。拾おうとした時、
刀身に箱のような物が写った。
「ん?なんだあれ?」
桜はその箱に近づいた。こういう時って開けちゃいけないような気がするのだが、
桜は躊躇せずに開けた。
「は・・・はあ?何でこんな物が・・・」
驚くのも無理はない。普通入ってないからだ。
「お・・・女の子!?」
何でこんな箱に女の子が?いつから入ってんだ?死んでんのか?それとも生きてんのか?いろんな疑問が浮かぶ。混乱している中、その女の子の目が覚めた。
「ん・・・あれ?私なんでこんな所に?」
「うひゃああああああああ!!!!!!!??????
突然起きたので甲高い声で叫んでしまった。そのまま岩に引っ掻かて、
また頭を打った。今日は災難だ。
「大丈夫?」
桜よりは薄い茶色の髪に、整った顔おそらくかわいいの部類に入るだろう。
少なくとも桜的には・・・
(かっ!かわいい!!)
つい見とれてしまった。
「あ、あの・・・大丈夫ですか・・・」
「あっ!だ・・・大丈夫」
どうやらその前のは聞かずに見とれてしまっていたらしい。
「あっ、ありがとう・・・えっと・・・」
「千秋です。立てますか?」
桜は首を縦に振り、自力で立った。
「あの・・・なんでこんな所に?」
千秋は難しそうな顔をした。
「分かりません。気づいたらここに入っていて・・・」
「そっか・・・じゃあここの出口分かんないよな・・・」
う〜んと考えていると、
「折れちゃったんですか?刀」
「えっ?ああ、うん」
女の子といる事に、緊張しているらしい。という事は夏奈や佐百合は女の子では、
ないというのか。
「あなたは・・・なんでこんな所に刀を持って来ているですか?」
「あっ!ごめん。俺神崎桜。ここにテロリストが来てて、裏から回り込んだら、
穴に落ちて、それで千秋に会ったていうわけで」
「テロリストと戦うのに折れた刀を持って来たんですか?」
桜的に痛い所をつかれたらしい。折れた刀を持ってるとかっこわるいとでも思ってるらしい。
「あっ!いや!その・・・お、落ちた時に折れたらしくて・・・」
「じゃあ私がなってあげましょうか?あなたの武器に」
桜は何言ってんのこの子的な顔をしている。
「私、武器化種族なんです」

























[347] 第4話「グッド・マイ・フレンド・チーム後編」
のんびり - 2008年07月20日 (日) 16時48分

「もうすぐ終わるらしいぜ」
「まじ?やった!もう疲れちまったよ」
「じゃあもっと疲れさせてやろうか?」
桜の提案した作戦が始まった。珍しく桜の言う事を聞く優人は、
どうやら佐百合が桜が考えたとは言ってないらしい。
「遅いっ!」
優人が兵の体制を崩し、佐百合とヘンリルで、
2人を倒した。
「なんだ!」「どうした!?」敵兵のこえが近づいてくる。
「来た来た♪馬鹿だなあ」
「面倒くせえけどやるしかないらしいな」
「そう言う事だね」
「行くぞ!」
     *             *            *
銃声、剣と剣がぶつかるような音が響く。
「うっひゃ〜。ドンパチやってんなあ」
桜は今まで崖を上っていたらしい。時計台の裏側は崖だからだろうが、
時間をかけすぎている。そんなに高くないのに30分かかっている。
体力作れと行ったのは誰だ。
「さて俺も始めるか」
結構分厚い壁を斬り中に入る。が、突然足下に違和感を感じた。
「ん?」
下に穴が突然開いた。違和感はこれらしい。
「なっ!落とし穴あああああああああああああああああ!」
     *           *             *
5、6分くらいだろうか。桜は気絶していた。
「痛っ!何で落とし穴があんだよ!?まさか敵が?」
そんなことをブツブツ言いながら立ち上がり、手に刀がない事に気づくと、
周りを見回し刀の柄が見えたのだが、
「げっ!折れてる・・・」
運が悪い事に元の長さの3分の1になっていた。
「これだけでも持ってた方が良いかな」
一応これから敵のボスを倒しにいくのに丸腰はきつい。拾おうとした時、
刀身に箱のような物が写った。
「ん?なんだあれ?」
桜はその箱に近づいた。こういう時って開けちゃいけないような気がするのだが、
桜は躊躇せずに開けた。
「は・・・はあ?何でこんな物が・・・」
驚くのも無理はない。普通入ってないからだ。
「お・・・女の子!?」
何でこんな箱に女の子が?いつから入ってんだ?死んでんのか?それとも生きてんのか?いろんな疑問が浮かぶ。混乱している中、その女の子の目が覚めた。
「ん・・・あれ?私なんでこんな所に?」
「うひゃああああああああ!!!!!!!??????
突然起きたので甲高い声で叫んでしまった。そのまま岩に引っ掻かて、
また頭を打った。今日は災難だ。
「大丈夫?」
桜よりは薄い茶色の髪に、整った顔おそらくかわいいの部類に入るだろう。
少なくとも桜的には・・・
(かっ!かわいい!!)
つい見とれてしまった。
「あ、あの・・・大丈夫ですか・・・」
「あっ!だ・・・大丈夫」
どうやらその前のは聞かずに見とれてしまっていたらしい。
「あっ、ありがとう・・・えっと・・・」
「千秋です。立てますか?」
桜は首を縦に振り、自力で立った。
「あの・・・なんでこんな所に?」
千秋は難しそうな顔をした。
「分かりません。気づいたらここに入っていて・・・」
「そっか・・・じゃあここの出口分かんないよな・・・」
う〜んと考えていると、
「折れちゃったんですか?刀」
「えっ?ああ、うん」
女の子といる事に、緊張しているらしい。という事は夏奈や佐百合は女の子では、
ないというのか。
「あなたは・・・なんでこんな所に刀を持って来ているですか?」
「あっ!ごめん。俺神崎桜。ここにテロリストが来てて、裏から回り込んだら、
穴に落ちて、それで千秋に会ったていうわけで」
「テロリストと戦うのに折れた刀を持って来たんですか?」
桜的に痛い所をつかれたらしい。折れた刀を持ってるとかっこわるいとでも思ってるらしい。
「あっ!いや!その・・・お、落ちた時に折れたらしくて・・・」
「じゃあ私がなってあげましょうか?あなたの武器に」
桜は何言ってんのこの子的な顔をしている。
「私、武器化種族なんです・・・」


[348] 間違い
のんびり - 2008年07月20日 (日) 16時50分

すいません。同じ話が(4話)2つあります。本当にすいません

[349] 第5話「そんな事を知ってか知らずか」
のんびり - 2008年07月20日 (日) 22時34分

「私は武器化種族なんです」
そんな事を言われ、桜はさっきより混乱していた。
一瞬言っている意味が分からなかったが、ようやく理解した。
ボーッとしていると、
「テロリストを倒すためにここへ来たのなら、私に力を貸させてください。そんな折れた刀じゃ危ないです」
千秋が桜の手を取りそう言った。彼女の言っている事にも驚いたが、
千秋のやらかい手にも驚いていた。むしろそっちの方が、
驚いているだろう。
「あ、あのさ、敬語使わなくていいよ。堅苦しいから」
「そうですか?でも・・・」
「人間みんな平等じゃなきゃだめでしょ」
しゃべり方が変わって来ている、のはおいといて、
「わかった。じゃあ改めて、力を貸させてくれる?」
「んん・・・分かった・・・俺でよければ」
千秋はにこりと笑うと、契約の詠唱を唱え始めた。
少しすると周りに風の渦のような物がでてきて、次第に強くなってくる。
(うわっ・・・)
なんとなく懐かしさを感じるが、あまり気にならなかった。
そして千秋の形がだんだん変わっていく。
「これは刀?」
そこには、一本の白い線が通る、青い柄、水晶のような、
石が埋め込まれた鍔そして長い刀身の、刀だった。
   *             *               *
「つ、疲れた〜・・・」
時計台の外に敵をおびき出し、倒していた優人、佐百合、ヘンリルは、
なんとか全員倒したのだった。確実に桜が落とし穴にはまって、
進んで無い制だ。
「まじ疲れた〜ちょっと休もうぜ・・・」
「いや、このまま中に入る」
ヘンリルが飲んでいた携帯飲料を思いっきり吹き出した。
汚い・・・
「はあ!?ちょっとくらい休ませろって!」
「そんな大声出せる元気があるだろ」
しまった!という顔した後、しぶしぶヘンリルは立って荷物を持つ。
そして3人は、時計台に入っていった。
     *              *                *
そのころ桜は脱出方法を考えていた。
「ん〜やっぱこれしかねえか。千秋は風属性?」
武器化種族には属性がある。細かく言うとソウルエレメントに属性がある。
それぞれ色がついていて、赤は火、青は水、黄緑は風、黄色は月、オレンジは太陽、黒は闇という風に別れている。
「(うん一応・・・)」
「よし、だったら・・・」
桜は千秋を一振りする。すると周りに風の渦が出て来て、
桜を押し上げていく。
「(桜、武器化種族のパートナーっているの?)」
「えっ?いないけど」
「(そっか・・・)」
「どうかした?」
「(いやなんか慣れてるなあ、って思って・・・)」
   *             *                 *
優人一行は時計台の作業用のエレベーターに乗り、
下の方まで行って、どんどん進んでいった所に、大きいロボットと、
一人の仮面をつけた男がいた・・・


[350] 第6話「星の一部は自分」
のんびり - 2008年07月21日 (月) 17時17分

「やあ。遅かったじゃないか」
その仮面の男は黒いマント、黒いブーツ、黒いジャケット。
黒いものずくしだ。優人、佐百合、ヘンリルは一斉に
「その服装ふざけてるのか?」
「え?いや〜、こういう服装の方が悪役っぽいかな〜と思って」
彼にとって悪役ってどんなイメージなんだろうか。
「まあいいや。君たちがこの時計台を見つけて、中に入るまで、何分かかってると思ってるんだい?1時間だよ?さすがに遅いじゃないか」
「俺たちが中に入るのを予測してたのか?」
「誰かが言ってたろ?2手3手先を読めって。という訳で、1時間かかった君たちに罰ゲームだ♪楽しんでくれ。僕は帰るから、欲しい物は手に入ったしね」
そう言うと、横にいた大きいロボットが動きだし、立つと、
座っていては分からなかったが4足歩行らしい。
「ZRS-356,僕のちょっとした失敗作だよ。性能は低いから安心して。
まあ、君たちで勝てるかは知らないよ」
そういうと姿がかすれていき、消えた。どうやら姿を映し出されていたらしい。
「ちょっ!展開が早くない!?」
「そんな事言ってる場合か!先にこいつを黙らせる!」
ZRSがこちらに向かってくる。失敗作のくせに結構はやい。
するとZRSの胴体からクローのついた腕とバルカンのついた腕が出て来た。
優人は後ろに回り込み、胴体にのった。
「動力はどこだ?分かるか?夏奈」
「(ちょっとまって今調べ・・・優人!横!」
優人にクロー」が迫っていた。
「ぐっ!こいつ!」
かすったが、ひるまずに撃ち込む。だが全部右腕のクローで跳ね返されてしまった。
「何!?跳ね返した!?」
右腕の装甲がかなり固いらしい。
「まず腕を壊さなきゃだめか。ヘンリル!佐百合!おれがZRSの体制を崩す!そのすきに腕を壊せ!」
「はい!」
「りょ〜かい。」
優人は足下を狙い、撃つ。地面が砕け、ZRSの体制が崩れる。
その隙にヘンリルと佐百合が突入し腕を切り落とそうとするが、
「なっ!」
「き・・・切れねえ・・・」
するとバルカンとクローが動きだし、2人に狙いがつけられる。
(えっ)
(やばっ)
「2人とも逃げろ!!」
バルカンが回り始め、クローが迫ってくる。
全員眼をつぶった時だった。「ズドン!、ズガン!」と音がした。
優人は2人がやられたと思った。
「ふう〜。わり!遅れた」
眼を開けると、ZRSの腕が落ちていた。
「(桜、しっぽ)」
「おっと!」
しっぽで攻撃して来たが難なくよけた。
「これで・・・終わりだ・・・」
しっぽを落とし、足を壊し、胴体に一突き。ZRSは完全に、
おとなしくなった。
「テスト終了!って異境先生が言い回ってんのに帰らないっという事で来たんだけど、危なかったな」
優人たちは、とりあえず桜を怒るのは後回しにして飛行船まで戻る事にした・・・


[351] 第7話「ちょっとした休日」
のんびり - 2008年07月22日 (火) 22時18分

桜はミイラのように包帯を巻いていた。
昨日優人と、ヘンリルにボコボコにされたあと、異境が、
「パートナー見つかってよかったな〜」と泣きながら言われたあげく、
とてつもない力で抱きしめられたからだ。
「大丈夫?」
千秋が心配そうに聞いてくる。
「まあ一応・・・」
全身痛いが、まだ大丈夫の範囲なので、そう答える。
千秋は今後も一緒に戦ってくれるらしく、こうして天草学園の生徒になった。
桜と同じクラスで頭もよく、隠れファンが結構多かったりする。
本人は全く気づいていないのだが。
桜と千秋は、食堂へ行き朝食を食べる事にした。
桜はのんびり定食という何の特徴もない、みそ汁、ご飯、漬け物、焼き魚の普通の、定食。一方千秋は、食堂のおばちゃんにどんなのがあるか聞き、
古代の定食といういかがわしい名前だが、中身はのんびり定食とまったく同じ。
違うのは、お皿がスフィンクスやピラミッドの形をしている事と、
焼き魚が焼き肉になっていることだ。一応人気があるらしい。
「う〜・・・食べにくい・・・」
包帯が邪魔で、口に入れにくい。仕方ないので、
顔の包帯をとる。
「そういえば、今日休みかぁ。何かしたい事ある?」
「学校探検がしたい・・・まだちょっと迷いそうだから・・・」
というわけで学校探検をする事に。
職員室、保健室、射撃訓練室などいろいろまわっていった。
この学校はかなり広い。全生徒数1256人いるが、
あと1000人は入るだろう。ガードナーを目指す子供が、
結構いるそうで、広くしたらしい。
そして、なぜかミニ・ズ〜という部屋があった。
学校内に動物園なんて聞いた事がない。中には、
コアラや、ラッコなど小動物だけいる。
    *              *               *
10時間かけ、校内全部まわりきった。
「はあ・・・はあ・・・こ・・・これで・・・全部・・・おわ・・・り・・・」
時間的にやばかったのか、急いだようだ。
「そっか。・・・ありがと桜。探検につきあってくれて・・・」
「あ、ああ。このくらい・・・ど・・・どってこと・・・ないっす・・・」
千秋は余裕だが桜はかなりばてている。
「じゃあ、俺部屋戻るから。気をつけて戻れよ・・・」
「私桜と同じ部屋・・・」
そう。この学校ではパートナーは同じ部屋なのだ。だから、
部屋は多少広く、部屋を2つに区切ることができる。
「あ・・・そうだった・・・じゃあいくか・・・」
「うん・・・・」
2人は部屋へ戻り、2つに部屋を区切って、
消灯時間まで、しゃべったりして時間をつぶし、桜はかなり疲れていたのか、
すぐに、意識が遠くなっていった・・・



[352] 第8話「ちょっとした事から」
のんびり - 2008年07月28日 (月) 05時32分

テストに合格した生徒は簡単な任務を与えられる事になっている。
一応テスト時のチームで行う事になっている。
当然テストに合格した桜たちにも、与えられた。
技術都市「ファンスティ」で魔獣の退治するっていう任務だ。
桜と千秋一行は、学園特性の車で異境が運転しファンスティに向かっていた。
そんな中、千秋以外の7人のおなかは、悲鳴をあげていた。
全員で「おなかすいた〜・・・・」と嘆いていた。
「てめえらが起きんの遅いからだろうが!!!!!出発10時つったろうが!!!!!!」
「何で千秋は余裕なんだ?おなかすかないの?」
「ばかか!!!!!!!!千秋は7時に起きて朝食とっとたわ!!!!!!」
桜はあっそうか。と言わんばかりに手のひらをたたいて、
「だから朝いなかったのか!」
異境は桜の頭をたたいた。
「そろそろつくぞ。準備しろ」
      *             *              *
千秋と異境以外はおにぎりを買って食べていった。
「ふう〜。まあ軽く腹ごしらえできたな」
「俺はまだもの足りん・・・」
桜はおなかを押さえながら言った。また異境は頭をたたいた。
「ふ・・・ふざけんな!!!!!お前20個も食っといてまだ俺の財布すり減らす気か!!!!???もうお前だけで4000P(パム)使ってんだよ!!!!!」
「あっそう」
さらに頭を殴った。2人が喧嘩しだした時、
「うわ〜!また来た〜!!」
一人の男がこっちに走ってくる。後ろに10匹程度のオオカミににた、
魔獣を引き連れて・・・
「ま・・・まじ?・・・あれって凶暴なガジェットサイガーじゃん!」
「さっさと武器化しろ!」
4人は武器化したパートナーを持って、構えた。 
優人は3匹弾き飛ばし、ヘンリルがそれを斬り、またヘンリルが、
2匹きって、佐百合が2匹、桜が3匹斬って終了。
「ふう〜なんとかなったな〜」
「うん」
全員一息ついていた時、
(ははははははは!まだまだ弱いなあ!)
「あ?どっから聞こえて・・・」
一瞬黒い影が見えた。それが何かはそのときは気付かなかった。周りを見ると、
血まみれになった仲間たち・・・
「ゆ・・・優人・・・佐百合・・・ヘンリル?」
目の前には、全部黒い服を着た仮面の男が居た・・・


[353] 第9話「記憶の狭間」
のんびり - 2008年07月29日 (火) 02時38分

「な・・・何だお前・・・・何しやがった!?」
桜はその仮面の男に斬り掛かった。だが、その男は攻撃を、
素手で受け流し、持っていた3本小型ナイフを投げつけた。
着地した桜は、2本はじき飛ばしたが1本頬をかすめた。
「おお!君は多少は出来る子みたいだ。でもまだまだだなあ」
そう言うと、眼に見えないほどの早さで桜の後ろにまわり、
マントからそうとう大きい大剣で桜を切り飛ばす。ぎりぎりで斬激は防いだが、
思いっきり壁にあたった。
「くっ!」
「君にはまだまだ足りない物がある。だが、僕にここまでついてこられたのは君が初めてだ。そんな君にご褒美をあげよう」
「はあ?何言って・・・」
仮面の男は桜の頭をつかみ、持ち上げた。
「神崎優作が記憶を封じたらしいけど・・・まあなんとかなるだろ」
すると桜の頭に電気のような物を撃ち込みだした。
「ぐあああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「あはははははっはははははっはははは!!!!!!!!!!!!!!!!!」
狂ったような笑い方をしている。
「(桜!桜!)」
千秋は武器化状態の時にある、柄の所についている飾り布で仮面の男を、
攻撃しようとした。だが左手でそれをつかみ、
「じゃましないでよね・・・・」
そう言うと、頭をはなした。
「君の最初のパートナーの事は思い出したかな?友美ちゃんの事をさ」
桜は開いていた手をとじた。
「ゆう・・・た・・・裕・・・太・・・裕太・・」
「思い出したみたいだね。そう・・・友美ちゃんを殺した裕太が僕だ!!!!」
「裕太ああああああああああ!!!!!」
そのときの桜の眼は琥珀色ではなかった。血のように真っ赤な眼をしていた。
桜はさっきまでとは違う、おおざっぱな動きだった。
「その眼ええええ!!!!その眼だよ!!!!!怒りと憎しみに満ちたその眼が
見たかったんだよおおおおお!!!!!!君にあげた死の眼をね!!!」
「(死の眼?)」
「死神が持つ眼だよ!!それは人が持つ事により、内に眠る怒りや憎しみを吸収し、
それを力に変える事が出来るんだよ!!死の眼を持つ人間はまさに死神の分身とも言える!!!!」
「うあああああああああああ!!!!!!!!!」
確かに桜は尋常じゃない動きをして、かなり大きな一撃を与えている。
「(桜落ち着いて!桜・・・うっ!!)」
「どうやら武器化種族には耐えられないみたいだね」
「(桜・・・お・・落ち着いて・・・)」
「うっ!」
桜は膝をついた。
「あ。初めての発動だから体が慣れなかったか」
「(桜!)」
裕太は大剣で2回斬りつけた。
「ぐっ!!!!!!」
かなりの出血だ。少し危ないかもしれない。
だが桜は余裕で立った。その時には怪我をは治っていた。
「仕掛けた本人が忘れる分けねえよな。死の眼の治癒力を」
「ああ。一時的な物ってこともな。まあ普通の人に比べたら10倍くらい高いけどな」
すると、裕太は踵を返し、去っていった。
「今日はこれで終わってやるよ。眼も目覚めたしな」
裕太の姿は次第に見えなくなっていった。すると、桜は倒れた。
傷がもどったのか、そこには血の海が出来ていた・・・
      *               *              *
「8人の状態は?」
天草学園の治療室だ。ここは大きなけがをしたときの部屋だ。小さなけがは、
言うまでもなく保健室だ。
「う〜ん。そうですね、千秋ちゃんは無傷なんですけど、武器化種族の夏奈ちゃんや暁くんまで怪我してるんです。けが的には6人ともたいした事ないんですけど・・・・」
「6人?もう一人は?」
「桜君が一番きずが深くて出血量も多い。一番危ない子なんですよ・・・」
「そうか・・・」
   *             *             *
千秋は桜が眠っているベッドの横で座っていた。
(桜・・・・)
「うっ!」
桜が眼を覚ましたようだ。そのまま起き上がりベッドからおりた。
「さ、桜!ま、まだ寝てなくちゃ!桜が一番けがが酷いんだから!」
「もう治ったよ」
「え?」
桜が包帯をとると、あったはずのけがが、なくなっていた。
それを見ていた治療室の先生がびっくりしながらも、異境に連絡していた。
    *           *              *
桜は異境に話を聞かれていた。
「さあ!その場に居たお前だけがたよりだ!さあ話せ!」
事情聴取をしている刑事気取りだろうか。
「そうっすね〜・・・千秋、部屋出てくれるか?」
「え?わ、わかった・・・」
千秋は部屋を出て行き、桜は話し始めた。
「この話をする前に、昔話につきあってもらいましょうか」


[354] 第10話「それは終わりであり、始まりであった  前編」
のんびり - 2008年07月30日 (水) 14時55分

5年前・・・
当時10歳の桜は、森に囲まれた村「武野子」のちょっと離れた所にある、
木造建築の家に住んでいた。
いつも朝早く起きては木刀で素振り100回、朝食を食べ、兄と、父、
村に住んでいるパートナー友美との特訓に励む毎日。
兄、神崎裕太と父、神崎優作は多少有名なガードナーだ。
裕太のパートナー大剣の結衣、桜にとって姉のような存在だ。
優作のパートナーは妻、二刀流の刀の雪。
優作は最近仕事は裕太にまかせ、桜と友美の特訓につきあっていた。
裕太も暇が出来たときは、それにつきあっていた。
退屈しない毎日であり、桜と友美は、ガードナーになれる日を楽しみにしていた。
正確には天草学園に入れる日を待っていた。
天草学園は10歳から入れるから、桜と友美は4月に入れる。
そうしてのんびり過ごしていた。
ある日。カラストロ帝国が桜達が居る国、ライズ国に戦争を仕掛けて来たらしい。最初に襲われた村は武野子の近くで、すぐ帝国軍に襲われた。
なんとか村に居たガードナーによってしのいでいた。
そんな時の事件だった。
桜は夜に裕太がどこかへ行くのに気づいた。
(どこ行くんだ?・・・)
桜は後をつける事にした。裕太は森の中に入っていった。
少し進むと、広い所に出た。そこには、
魔術師みたいな格好した男がいた。見た目的には謎が多い姿だ。
「来たか。準備はできたか?」
「ああ。さっさとすましてくれ」
すると魔術師は呪文みたいな物を唱え始める。
次第に裕太の足下に陣が出て来た。それは裕太を包み、出て来た時には、
雰囲気が変わっていた。
「ようこそ。帝国牙隊へ」
(帝国!?)
魔術師は去った。桜は家に戻り優作にこの事を伝えようとした。だがそこに、
「どうしたの?」
友美だった。当然裕太にはばれ、こちらに近づいてくる。
「何だ。桜と友美ちゃんか」
「兄貴・・・何で帝国なんかに!」
「帝国?嘘・・・」
2人は少しずつ下がっていき、走り去っていった。
「友美。この事を父さんに伝えて来てくれ。裕太ならすぐに追いついてくる。いいな?」
「わかった」
桜は友美を行かせると、収納カードを出し、そこから刀を出し、
構えた。
     *              *             *
「それは本当か!?雪!急がなくては!」
「はい!」
「友美ちゃんを行かせたくないが仕方ない。案内してくれ」
「あっ、はい!」
友美は2人をさっきの森に案内しした。そこには・・・
「くあぁ・・・・・」
頭を持ち上げられた桜が居た。おろされると、眼から血が流れていた。


[356] 第11話「それは終わりであり、始まりであった  後編」
のんびり - 2008年07月31日 (木) 04時44分

桜から流れていた眼からの血はなぜかす〜っと消えていった。
「桜!」
友美は桜に駆け寄る。
「裕太!これはどういう事だ!?帝国と契約したって本当か!?」
「本当だよ。帝国軍で一番の兵力を持ち、もはや国のトップと化した部隊。
牙隊とね」
「牙隊だと!?お前!」
「うるさいなあ。あんたに口出しされる筋合いはないよ。邪魔するんだったら、斬るよ」
裕太は結衣を構える。優作は雪を武器化し、構える。
葉が一枚落ちた瞬間、2人の刃がキンっと音を立てる。
2人とも早い、眼に見えないくらいの早さだ。だが、
強化された裕太は優作の早さを上回っていた。致命傷ではなくとも、
確実に斬りつけてくる。
「ちっ!早い!俺も歳かな・・・」
「(バカ言ってないで集中してよ!)」
すると裕太は優作から少し離れる。そして結衣の刀身をひとなでした。
刀身が赤くなりとてつもない殺気を感じさせる。
「な・・・何だ?」
「母さんごと壊してあげるよ」
裕太が走ってくる。裕太の攻撃を防ぐため、雪を構えるが、
「まさか!」
優作は受け止めず、よけた。外れた一撃は地面にあたり、地面が消滅した。
「(何?地面が消滅した!?)」
「武器化種族の体内にあるソウルエレメントを全て破壊できるほどの
強化魔力を結衣に流し込み、それを斬る時に一気に放出する。それによりソウルエレメント破壊する。とんでもない芸当見せやがって」
     *           *              *
「うっ・・・」
桜は眼を覚ました。起き上がって周りを見る。そこにはボロボロの優作が居た。
「桜!気がついた!」
友美が抱きついて桜は倒れ、頭を思いっきり打った。一瞬意識が飛びかけた。
「ちょ!そそそんな事やってる場合か!早く武器化してくれ!父さんと母さんが危ない!」
「あっごめん。」
友美は武器化し、日本刀なった。桜は裕太に真空波をうった。
裕太はすぐよける。そして刀身を赤くし、斬り掛かってくる。
「桜!!!よけろ!!!!」
「えっ?」
避けようとはした。それでも避けきれなかった。だから防御しようと
友美を構えた。構えてしまった。
   *                *              *
雨が降っていた・・・どしゃ降りで降っていた・・・
雨の日は好きじゃない・・・なんとなく・・・嫌な感覚がするから・・・
でもその雨は赤かった・・・それに雲もない・・・
周りに降っていない・・・冷たくない・・・
気づくと前には血を噴き出した友美が居た・・・
友美が倒れる・・・裕太が笑っている・・・現実感がないから夢だと思った・・・
思いたかった・・・でも・・・やっぱり・・・夢じゃ・・・
信じたくない・・・俺が構えたから?・・・でも現実かもしれない・・・
俺が避けきれなかったから?・・・夢にしては感覚がある・・・
俺が原因?・・・俺が・・・
「ゆ・・・友美?・・・おい・・・友美?・・・冗談だろ・・・冗談って言ってくれよ!頼むから・・・・」
その時にはもう・・・友美はこの世には居なかった・・・・・・
その時かもしれない・・・「眼」が目覚めたのは・・・
桜から赤いオーラのような物が出ていた。それはオーラではなく、
「眼」によって桜の殺気が具現化した物だった。
「殺す・・・裕太・・・殺す・・・裕太・・・殺す・・・裕太・・・お前だけは・・・殺す!!!!」
殺気の一部が刀になった。ゆっくりと裕太に近づいていく。
「こんなに早く目覚めるとは思わなかったけど、まだ俺には勝てないよ桜・・・」
それはただの勘違いだった。その時にはもう後ろに居た。
「なっ!早い!?」
指、手のひら、腕、膝、もも、両手足を切り落とす。
強化された裕太でさえ追いつけない早さで・・・
「ぐあああああああああああああ!!!!!!!!!!」
「苦痛に苦しみ絶望に溺れて死んでいけ・・・」
「それは困るんだよね〜」
さっきの魔術師だった。
「禁術師スレーブ・カルバイト!牙隊の隊長か!桜!逃げるんだ!桜!」
「(だめ、聞こえてないよ・・・)」
「どうやら具現化した殺気が裕太君の悲鳴と痛がる姿と、もがく姿しか眼や耳に入らなくしているみたいだね。それだけ殺気が強いって事だね。まあ大事なパートナーであり初恋の相手が殺されたんじゃ仕方ないかな」
「初恋!!!!!!!!!!????????」
「(そこに反応してる場合じゃないでしょ!)」
優作は今日雪に怒られてばっかだ。
「まあ良いや。さっさとつれてかせてもらうよ」
スレープは裕太を魔術で空間移動させた。
「何!!!!どこだ!!!!!!!?????裕太!!!!!!!」
「落ち着きなよ」
桜の足下に陣を描き、黒い煙を出した。桜はバタっと音を立て倒れた。
眠っているらしい。
「睡眠薬入りの煙だよ。副作用とかそういうのはないから大丈夫だよ。
じゃあ僕は帰るから。じゃね」
そう言うと去っていった。
     *             *              *
「これで良いだろう」
桜から友美と裕太の記憶を消す準備をしていた。
優作は多少魔術が使える。その中の一つを使い消すのだ。
「消さなきゃいけないの?」
「消しておかなきゃまたいつああ成るか分からん。可愛そうだが・・・
仕方ない」
そうして、今回の事件まで記憶を消され、裕太によりその魔術を解いたという訳だ。
      *             *              *
「この時目覚めた死の眼は不完全な物でした。裕太はそれを完全に目覚めさせ、発動させるために今回の事件を起こしたんです」
異境は呆然としていた。話を聞くと、桜がこの事件の元凶だ。
彼はそれを信じきれなかったのだろう。その後桜はそのときの状況を説明した。
「そ・・・そうか・・・だいたいの状況はつかめた。もうもどっごぺひひご」
「先生、そこでかまないでください。じゃあ戻ります。それじゃ」
桜は退室した。
「大丈夫?桜・・・なんか・・・疲れた顔してる・・・」
「ん?ああ、ちょっと話が長かったからな。大丈夫だよ」
「そう?なら良いけど・・・」
「おなか減った・・・食堂いくか?」
「うん・・・」
2人は食堂へ向かっていった
(左腕がぴりぴりすんな・・・もう浸食がここまで・・・)


[358] 第12話「人生なんて人それぞれ」
のんびり - 2008年08月11日 (月) 18時40分

「あそこだ・・・ガードナー育成学校天草学園」
学園から数百mはなれた丘の上に、黒い服を着、マスクをして銃を持った男達が
いた。人数はいっぱい居て、だいたい4、50人ぐらいだろうか。
そんな怪しい集団が双眼鏡で学園を見ながら相談をしていた。
「じゃあ、作戦どうりに・・・」
集団はヘリとごつい武装した車、というより戦車に別れて乗り、学園にむかっていった。
      *               *              *
桜は、千秋と歩いていた。
(左腕の痛みが退いていく・・・こっちは終わったって事か・・・)
「どうしたの?・・・」
桜はボーッとしていて反応がない。
千秋は桜の服の裾をつかみ、
「ねえ?・・・どうしたの?」
「うひゃあ!!?あっ、千秋か。どうした?」
「びっくりさせないでよ・・・ボーッとしてるからどうしたのかなって思って聞いてたんだけど・・・」
「あっいや、ちょっと考え事してただけ」
「何考えてたの?・・・」
「え?えっと・・・ち、地球の環境問題の解決について?」
なぜか質問口調で言う。普通は納得しない人の方が多いと思うが、
やっぱり千秋は納得する。それだけ信頼しているのか、それともただちょっと
抜けているのだろうか。
「そう・・・真面目だね・・・」
桜的には疑われているのか疑われていないのか、よくわからなかった。
まあ性格が性格だからだろう。
ちょっと緊張しながら歩いていると人ごみが出来ていた。
「どうした?優人が血まみれ無様にで死んでくれたか?」
「んな訳ねえだろ・・・**・・・」
優人も居たようだ。
「チッ・・・で、どうした?異境先生が飛び降り自殺でもしてくれたか?」
意識が飛びかけるような強さで頭を殴られた。
「てめえ・・・そんな事しか言えねえのか・・・」
「いってええ!!!!一瞬花畑と川が見えたぞ・・・居たのかよ・・・」
「居たわ!!まったく・・・で、何集まってやがる。喧嘩か何かか?」
生徒Aが答える。それにしてもベタと言うか地味と言うか、
よくある名前だ。何か他に無いのだろうか。
「いや、それも違います。あれですよ、あれ」
生徒Aが指差す先には、戦車が三台ヘリが一台こちらに向かっていた。
「な、何だあれは!?帝国軍の戦車じゃねえか!?」
異境は走って学園長室へ向かって行った。
(帝国・・・裕太の差し金か?)
ヘリが通り過ぎていくと、どすんと音がした。
すると千秋がふらっと倒れて桜によりかかった。
「ちょっ!?ど、どどどどうした!?」
顔を赤くして焦っている。しかし千秋だけじゃなく、夏奈やアグリアス、
暁など、武器化種族はみんな倒れている。
「な、なんだ?どうしたんだ?」
「さっきのヘリのせいか?」
「ウエストプル(WP)波動機か・・・」
桜は小さい声で何かの機械のような名前を言った。
「何だそれ?」
「ソウルエレメントの能力を落とす波動を放つ機械。これを使われると武器化出来なくなるんだよ」
「そんなのがあるのかよ・・・」
「おい、何か、心無しか戦車の砲口がこっちに向いてるような・・・」
戦車の砲口が光る・・・どかん!と音が鳴る。天草学園の門が木端微塵
に吹き飛ばす。
「ちょっ!何あれ!?門壊した!?」
戦車から人がさっき丘に居た人がぞろぞろと出て来て、
学園の敷地内に入ってくる。外に居る生徒は次々撃たれ殺されていく。
校内に居る生徒は大騒ぎだ。
そんな中桜は、千秋をおんぶ1人歩いていく。
優人がそれに気づいた。
「おい!どこ行くんだよ?」
「千秋を保健室につれてってから屋上に行く。多分WPは屋上だ」
    *              *              *
保健室に、桜は千秋をつれて来た。
「大丈夫か?」
「う・・・うん・・・」
少し顔色が悪い。心配かけないように無理しているのだろう。
「あんまり無理すんなよ。すぐWP壊してくるから、ちょっとだけ我慢してて。
体の調子が戻ったら、ここで待っててくれ。すぐ来るから」
桜は、保健室を出て、能力カードでドアが見えないよう幻を張る。
「行くか」
   *                *                *
屋上についた桜は、すぐWPを探す。
「あった」
桜は持って来た刀を抜く。WPに近づくと、
「おっと、そうはさせねえ」
異境ににて筋肉が凄い人が大きい斧を振り落として来た。
桜は一歩下がって避けた。
「おっと。誰?おっさん」
「てめえみてえなガキに名乗る名は無いぜ」
「じゃあ男Aでいい?」
「え?それは嫌だな・・・仕方ねえ、斧田振像(おのだふるぞう)だ。」
桜はため息をついた。
「何だ?そのため息は」
「いやうちの教師と言い変な名前が多いなと思ってな」
「変な名前だと〜!!?このガキ〜!!砕け散れ!!」
斧を振り落としてくる。桜は素手の左腕で受け止めた。
「ば、馬鹿な!!この斧を素手で!?」
「浸食が左腕終わったみたいでな。ちょっと時間無いんでさっさと終わらせるよ」
すると桜の左腕が形を電気のような物を出しながら変えていく。
その腕はもはや人間の物とは思えない形で、大きい手、鱗のようにとがっている
腕、怪物のようなその腕は、斧を砕いた。
「な・・・なんだよその腕は!!!??」
「死の眼の浸食によって変化した腕だよ。結構痛いんだよね、浸食のときって」
そのままその腕は、斧田をつらぬいた。
「がっ!あ・・・・この・・・ば・・・け・・・ものが・・・」
「言われなれてるよ、そんなの」
そのまま引き抜いて、WPを壊しに向かった・・・


[360] 特別話「夏の修学旅行 その1」
のんびり - 2008年08月14日 (木) 13時20分

(本編から1年前・・・千秋は出ません)
8月、夏休みの中、中3は教室に呼び出された。ちなみにこのクラスの先生は、
春日(かすが)真由美、ショートヘアーにちょっと天然だったりする。
それなりに人気のある教師なので、夏休みに呼び出された事は気にしてないようだ。
そんな中、神崎桜は桜井優人とまた喧嘩していた。
「俺の消しゴムとったのお前だろ!?とっとと白状しやがれ!!」
原因は優人の消しゴムがどっかへ行っちゃた事だった。
あちこち探しまわった結果、桜を疑い始めたのである。
「だ〜か〜ら!どうやって10席はなれた所から取れんだよ!?不可能だろうが!!
お前より先に教室に入った後ずっと寝てたんだから!!」
桜は今日教室に8時集合で、6時に来てちょうど7時58分に起きた所だった。
優人が来たのは7時52分。消しゴムがなくなったのに気づいたのは、
7時53分で探し終わったのは58分。ちょうど起きた所を、疑い始めたのだ。
桜は席が10も離れているから無理、と言ったのだが、
「何か不思議な力を使ったろう!?」
現実的じゃ無い事を言い出した。まあこの世界自体現実的じゃないが・・・
「ねえ。優人君」
生徒Aが優人に話しかけて来た。(ちなみに本編で出た生徒とは違う人物)
「なんだよ?」
「それ・・・君の消しゴムじゃない?」
優人の鞄の横のポケットに消しゴムがあった。
「本当だ。これ優人のじゃん」
ちょうど付近に居た夏奈が言った。
筆箱に入れ忘れたのでそこに入れたのだろう。
「なっ!?」
優人は鞄の元へ行くと「あっ本当だ」と言って、席に座る。
「おい・・・人を疑っておいて何も言わないのか!?」
「誰にでも間違いはある」
また新たな火種が生まれ、喧嘩が始まる。そこでちょうど真由美が来たのだった。
「ごめ〜ん!ちょっと会議が長引いちゃってえええええ!!」
転んだ。ついでに教卓に頭をぶつけた。
「いったぁ〜い・・・ううう〜」
「大丈夫?」
生徒Bが心配して、袋に入った氷を持ってくる。何故持っているのだろうか・・・
「あっ・・・ありがと〜。あははは・・・冷たいなあ」
「で、何か用?」
「ふえ?ああごめん。あまりの痛さにその事忘れてたよ。えっとね〜明後日から
修学旅行に行きますよ〜」
         *           *            *









[361] 特別話2「夏の修学旅行 その2」
のんびり - 2008年08月17日 (日) 17時03分

修学旅行当日、天草学園中3の生徒達は、学園特性飛行船に乗って、
リゾート地「ソル・ルナ」に向かっていた。
「海か〜。久しぶりだな。2年くらいぶりかな?」
桜は飛行船内のベッドに寝ながらぼやいていた。
「後どのくらいで着くのかな?」
「もうすぐじゃない?もう2時間くらい飛んでるんだし」
(ピンポンパンポーン。あと5分でソル・ルナに到着します。各自、おりる準備を
してください)
「だとよ」
「ほら、鞄を持ってよ」
   *                *                *
皆は荷物を部屋に置いて、とりあえず海に向かった。
「お〜お〜。あの2人はいつも元気ですな〜」
桜と優人は海で泳いだりして、また競っていた。
「が〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!」
「だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!」
「声でけ−なー。あの2人」
「だね〜」
「ていうかあいつら速いな〜。俺でもあそこまではできねえな」
1分でも100m十週している。普通不可能な記録だ。
周りの生徒は、優人組と桜組に別れ、応援している。今の所10週中全部同時に、
ゴールしている。
「あいつらって体力どんだけあんだろうな〜?」
「私たちには量れない量だよ」
「そっか〜」
楽しい海での時間はちょっと長く感じていた桜と優人だった。








[362] 特別話「夏の修学旅行 その3(特別話終)」
のんびり - 2008年08月24日 (日) 01時56分

桜達が泊まる宿、「大天使の宿」。ご飯は和食中心、中は広く、
部屋は1部屋7畳、露天風呂などの設備がある。
「しつこいようだが、驚くほど元気だな」
「この刺身は俺のだ」
桜は刺身を取り合っていた。いつも道理優人と。
「い〜やっ!先に俺がとった」
真由美は刺身をつかめずに苦戦しながら、
「くっ!つかめない・・・じっとしてなさい!!」
「先生刺身動いてないよ」
「あっ。ご飯終わったらお風呂入ってね〜」
   *                 *              *
食後、中3一行は露天風呂に入った。
「はあ〜。和む〜」
「だな〜」
普通に和む桜とヘンリルと優人、他の生徒はもう出たというのにまだ入っている。
もちろん女子の方も、真由美と佐百合、それから夏奈が長々入りながら、
真由美のペット、ぷにぷにちゃんと言う式神の話題で盛り上がっていた。
「何か女子の方盛り上がってるな〜」
「まあ、声からして先生と佐百合と夏奈だからだろ〜」
「真由美ちゃ〜んやらか〜い!」
「すべすべだしね〜」
「でしょ〜」
バッシャ〜ン!!という水の音が鳴り響く。
「ちょっとお〜!うるさいわよ〜!」
「うあ・・・すまん」
優人は赤くなりながら謝る。
「それにしても、おっきいね〜」
まあ、ぷにぷにちゃんとやらは30CMだからそれなりに大きい。
ちなみにこいつはまだ成長するらしい。
「桜ぁ・・・お前余裕だな」
「ああ、別に興味ないし」
そう言うと、桜はさっさと出て行ってしまった。それにしても昔の桜は結構無愛想だ。
「そろそろ出るか・・・」
「ああ・・・」
この特別話も短くなってしまうようだが、まあ言い訳だがネタが無い。
そんな中の気分転換という事で書かれた話だ。まあそれは置いといて、
寝る前ですら喧嘩する元気のある、あの2人はなんなんだろうか・・・


[375] 第13話「喧嘩するほど仲がいい?」
のんびり - 2008年08月26日 (火) 02時21分

帝国の兵隊による襲撃から1週間、やっと学園の門も治り、校内はそこまで壊れてなかったので結構早く修理できた。
武器化種族は、とりあえずソウルエレメントの力も戻ってみんな元気になった。
授業もいつも道理行われるようになり、捕まえた帝国の兵士は尋問して情報を引き出しているらしい。尋問は異境専門。ということで、特別話にも出た真由美が、
一時的な担任を担当する事になった。いつも通り天然だ。
今日も教室に来るまでに3回、教室で2回転んだ。天然って言うよりドジなだけかもしれない。でも生徒達はそんな事は考えもしなかった。
そして今日も桜と優人の大声で始まっていた。
「はあ!?ふざけんじゃねえ!!俺の方が先に取った!!!」
食堂でオムライスで争ってるらしい。いつもくだらない理由だ。
どうやらほぼ同時に取ったようで喧嘩しているようだ。これでもう30分喧嘩している。他のオムライス取れば良いのだがまあそういう2人だから仕様がない。
「じゃあじゃんけんで決めれば?」
夏奈が聞く。
「だめだ!!あれは決まらない!!」
何百回やってもあいこなのだ。決まるはずが無い。
「じゃあどうするの〜?」
すると、千秋が桜の手を別のオムライスを持たせた。
「これで解決・・・」
皆はやばいっと思って止めようとしたが、
「そうだな!」
「まあ良いだろ」
あっさり解決した。この時ほど千秋を凄いと思う時はないだろう。
この天草学園でただ一人この2人の喧嘩を止められる人物だ。
食後、教室では真由美が頭を氷で冷やしていた。
話によると、教室に入り教科書やら何やらいろいろ入ったかごにつまづき、
教卓におでこをぶつけ、後ろに下がった所にかごにぶつかり転んで頭を打ったそうだ。かごにぶつかって転ぶだろうか。
「えっと〜、明日、大会があります。みんな今日は早く寝て体を休めてね〜」
大会、この学園にはいろんな大会があるが、今回は一対一で戦う大会だ。
「怪我とかそういうのは試合が終わってから保健室にでもいけ!!」
だそうだ。学年別。勝利条件は、場外にするか気絶させる。怪我は死なない程度ならOK。結構怪我人が多いので、保健室は大変だ。なので、治療室の先生が一部手伝いに来る。治療室は、危ない怪我の時ちゃんと動けるよう待機しているようだ。
ちなみに、辞退する事は出来る。ほとんど居ないけど。
「大会か〜。頑張ろうぜ千秋」
「うん・・・」
桜と千秋はやる気あり。
「めんどくさいけど暇だから出るか」
「私が辞退させないもん」
放課後、明日に備えて特訓する人、寝る人等、様々だ。
こうして、大会前日の夜が更けていった。


今頃だけど、人物を紹介。単なるスペースを埋めるためだね。
「神崎桜(かんざき・さくら)
凄い優等生。学園でやる授業内容は全部頭に入っていて、授業は留年と異境に言われたため。性格的には冷静だったり元気だったり、一日に優人と喧嘩しない日は無いらしい。パートナーは千秋」イメージ声優とか考えると鈴村 健一(Dグレのラビ、ガンダムSEEDDESTINYのシンなど。)
「千秋(ちあき)
桜と優人の喧嘩を止められる唯一の人物。頭はよく、何事も真面目。桜をうまく支えている。性格は、おとなしく、クラスからは結構人気がある。
桜に対しての武器化は日本刀。」イメージ声優を考えると高橋美佳子(エレメンタルジェレイドのレンなど)
「桜井優人(さくらい・ゆうと)
桜とよく喧嘩している。結んだ後ろ髪は下半身まであって、性格的にはクール?多少抜けている所もあったりする。特別話の消しゴムの喧嘩が良い例だ。
パートナーは夏奈」イメージ声優は緑川ひかる(ガンダムW(ウイング)のヒイロ、空の軌跡のレーヴェ)
「夏奈(かな)
今まで桜と優人の件か仲裁役?だったが、千秋が来てから「楽になった」と思っているらしい。性格は結構明るく、皆からも慕われている。
優人の対しての武器化はハンドガン」イメージ声優は水樹奈々(エレメンタルジェレイドのシスカなど)
「ヘンリル・カーマイン
結構元気なヘンリル。突然優人に八つ当たりされたりするのだが、まったく気にしていないらしい。ちょっとネガティブな所もあったりして。
パートナーはアグリアス」イメージ声優は石田彰(銀魂の桂、ガンダムSEEDのアスランなど)
「アグリアス・カレン
無口、あまりしゃべらないけど、ヘンリルに対してはよくしゃべる。読書好きで、
特に推理小説が好きらしい。何故か夏奈が嫌い。
ヘンリルに対しての武器化は大鎌。」イメージ声優は近藤 隆(ブラックキャットのトレインなど)
「天苗佐百合(あまなえ・さゆり)
おとなしいけど少し明るい性格の佐百合。桜と肩を並べるくらいの優等生で、いつもテストの順位は2位。よく他の人に勉強を教えている。
パートナーは暁」イメージ声優は坂本真綾(ガンダムSEEDDESTINYのルナマリア)
暁(さとる)
冷静な暁は料理がうまかったりする。食堂の先生達は暁に料理を教えてもらったと言う噂があったりする。結構料理を教えてもらおうと来る人が多いらしい。
佐百合に対しての武器化はランス」イメージ声優は保志総一郎(ガンダムSEEDのキラ、ひぐらしの圭一)
「神崎裕太(かんざき・ゆうた)
桜の兄、帝国の牙隊と手を結び国を裏切って暴走した桜に殺されかけた男。いろんな意味で狂った男で、周りの人間は自分の実験材料としか思ってないようだ。父の優作ですら勝てなかった。今では牙隊最凶で最狂で最強の男である。
パートナーの結衣はどうやら意識が無いらしい。」イメージ声優は三木眞一郎(ブラックキャットのクリード、ガンダム00のロックオンなど)

とりあえず主な登場人物がこれです。ちょっと疲れた・・・
次回は先生やその他の人々を紹介します。


[376] 人物紹介続き
のんびり - 2008年08月26日 (火) 03時41分

はい、人物紹介に続きです。

「神崎優作(かんざき・ゆうさく)
桜、裕太の父親。ガードナーの中では結構有名だ。ダンディ?なおじさんで、双剣の達人。パートナーは雪」イメージ声優は岸野幸正(空の軌跡のカシウスなど)

雪(ゆき)
「優作のパートナー。かなりの美人で、優作にはもったいないと言われたくらいだ。
性格はおとなしいけど明るい。
優作に対しての武器化は双剣。」イメージ声優は國府田マリ子(まもって守護月天のシャオなど)

「五月蝿異境(うるさ・いきょう)
超うるさい。かなりうるさい。凄いうるさい。かなりの熱血先生だ。桜をよく怒る事で有名。まだ出ていないがパートナーはカノン」イメージ声優は藤原啓治(ブラックキャットのスヴェン、エウレカセブンのホランドなど)

「春日真由美(かすが・まゆみ)
真面目な教師なのだが天然(というかドジ?)だ。真由美的にはそう思いたくないらしく、転ばないように足下に細心の注意を配っているようだがやっぱりつまづいたり転んだりしてしまう。」イメージ声優は神田朱未(空の軌跡のエステルなど)

とりあえずこれで全員?かな。また出て来たら書いてみます。


[431] 第14話「天草ファイト!レディーゴー!!」
のんびり - 2008年09月21日 (日) 11時46分

「サブタイトルはパクリです」
「こら!そういう事言うな!」
どうでも良い話から入ったが、大会は結果から言うと優勝者は無し。
途中で中断されたのだ。何故かは今から説明しよう。
  *              *              * 
大会の名前はいつも特にないが、今回は何故か名前がつけられた。
「天草ファイト」だそうだ。
「これもパクリです。ガン・・・・・トの」
「だからそういう事言うな!!」
ヘンリルは異境に殴られ、うずくまる。やはり相当痛いらしい。
観客は生徒以外にも両親や近くの町の住民などが来ている。
結構人気なイベントらしい。
AグループとBグループで別れて戦い、決勝戦でAとBの残った物同士戦う。
偶然か仕掛けられたか桜と優人は別のグループ。2人はかなりやる気だ。
「ん?どした?スウェイト」
「ヘンリーと先生!もうすぐ私たちの番なのにハサウェイがいないんです〜」
ヘンリルはこの子にヘンリーと呼ばれているらしい。というのは置いといて、
スウェイトは桜や千秋、ヘンリル達と一緒のクラスだ。特別話の生徒Bは、
スウェイトだったりする。
「あいついつもギリギリで来るからな〜」
「あいつなら試合直前で出てくるだろ」
「だと良いですけど・・・」
ハサウェイは何があろうとギリギリまで寝てたりご飯食べてたりしている。
そのおかげでそれに付き合っているスウェイトもギリギリになってしまう。
十分くらい経ち、次はスウェイトの番って言う時にやっとハサウェイが来た。
「ごめん。朝ご飯を食べてて遅くなった」
「朝ご飯ってお前、もう1時だぞ?昼ご飯じゃないのか?」
「8時から食べてたんで」
「5時間もかけて食べてたのかよ・・・」
「ハサウェイ!もう良いから早く行かないと!」
2人は走ってステージに走る。
「なあ、ヘンリル。お前、試合無いのか?」
「1回戦んで負けた」
突然桜と当たり、優人をボコボコにしたい桜にヘンリルはかなわなかったという訳で、一撃で場外にされたという負け方。
「あそこまで優人ボコボコにしたいとは思わなかったよ」
「優人もだな」
数々の試合は終わっていき決勝戦。
まあ残ったのはやっぱり桜と優人だ。2人とも笑いながら黒いオーラを出している。
「はい!決勝戦開始っ!」


[447] 第15話「好敵手と書いて友」
のんびり - 2008年09月28日 (日) 03時59分

今回の任務はベサリウスと言う魔獣の討伐。
ん?大会はどうなったか?優勝者は居ないと言ったろう?
結局2人が暴れすぎて会場は崩壊して中止となった。
で、任務についてだが、ベサリウスとはあえて言うなら熊だろうか。
大きな牙に赤茶色の毛。大きな腕に凶暴な性格。新米ガードナーは恐れる強さだ。
なので、今回は危険な状態の時は教師の介入が認められている。
と、言う事を学園特別車ミネルバの車内で異境が説明していた。
車内には赤い髪にスーツを着た異境のパートナー神流がいる。
彼女は小学部の教師だ。

「と、言う訳で今回は危険な状態と俺がみなした時に介入する事が許可されてるから、くれぐれも俺の出番が来ないように頑張れ」
優人はため息をつくと、
「面倒くさそうに言うな。危ない時はちゃんと助けてくれよ?」
「分かってるって。だいたい、お前ら死なせたら俺クビだからな。絶対死ぬなよ?」
「それは俺らと先生次第」
桜が楽しそうに言う。異境は不機嫌そうな顔をして何か言おうとしたが、
止めた。
ベサリウス討伐に向かっている場所は一年中雪が降っていて、
いつでも景色は真っ白だ。
ちなみに、天草学園の制服は暑い所でも寒い所でも、快適と言える温度が保たれている。どんな温度の場所で戦闘が行われても大丈夫なようにと作られたらしい。
耐久性は普通の服よりはある。何の素材が使われているかは一部の教師しか知らない。まあ私服の説明はここら辺にして、
「うっわ〜凄いな。全部真っ白。危ない場所じゃなかったら観光地にでもなってるかもな」
ヘンリルはかなりはしゃいでいる。すると千秋が指差す。
「あれ・・・・何?」
「あれは・・・・何だ?」
赤い人のような物が猛スピードで走ってくる。異境が突然叫ぶ。
「ベサリウスだ!!」
急いでミネルバを走らせ、ベサリウスの突進を避ける。
桜達は千秋達を武器化させ、戦闘態勢に入る。
佐百合は苦笑いしながら、
「お、おっきい〜・・・」
軽く2mを超えている。ベサリウスが殴り掛かってくる。
四人は避けるが、雪の波に飲まれる。
「おわぁ!!!」
なんとか抜け出すが、足場が雪で不安定なため、ベサリウスの攻撃を避けるので精一杯だ。
「こ、これじゃ攻撃できないぞ!」
「優人は遠距離から攻撃してくれ!そうすればなんとか攻撃の暇くらいは出来るはずだ!!」
優人は桜から言われて不機嫌そうだったが、そうも言ってられない状況だったので従う。優人はなんとかベサリウスの攻撃範囲から逃れ、射撃で隙を作ろうとする。
ベサリウスは軽くよろめき、近距離の3人は斬り掛かる。ベサリウスは素早く体制を直し、桜と佐百合の斬激を避けるが、ヘンリルの攻撃は腹部に命中する。
だが、まだ余裕らしくヘンリルを殴り飛ばす。
「がっ!!」
「ヘンリル!!!」
「(ヘンリル!!)」
殴り飛ばされ地面に叩き付けられた彼は気絶した。
「くっ!」
桜は千秋を構え、
「神崎流剣技、八華咲!!」
桜はベサリウスの懐に入り素早く八回斬りつける。
さすがにベサリウスも動きは鈍くなるが、まだ動けるようで、
桜をつかみ握りつぶそうとする。
「う!うあぁぁ・・・」
「(桜!!)」
「はあ・・・結局俺が手を出す事になる訳か・・・」
突然ベサリウスの動きが止まったかと思うと桜を放し倒れる。
異境がやったらしい。その手には巨大なアーム状のハサミを装着している。
どうやらこれが神流の武器化状態のようだ。
「まあ、よくやった方かな?」


[451] 第16話「希望と絶望」
のんびり - 2008年09月30日 (火) 22時20分

ベサリウスを倒し、学園に帰る前にヘンリルが眼を覚ますのを待っていた。
あまり刺激を与えないようにミネルバは移動させずにいた。
その間、異境による授業が行われていた。
「何で任務中なのに授業受けなきゃいけなきゃんだ?」
桜は不機嫌な顔をして言う。それに対し、
「時間つぶし。え〜と、武器化にはレベルがあるのは知ってるか?」
「レベルぅ?そんなのあるの?」
夏奈が聞く。一応授業中なのにお菓子を食べている事は無視した。
「あるぞ〜。一応3段階だ。小さい方から言うとアインス、ツヴァイ、ゼロって感じだな。それぞれ武器化状態の形が異なるし、属性が追加されたり力の制御が難しくなったりといろいろある。お前らがアインスからツヴァイに上がるには、パートナーどうしのシンクロ率が重要だ。まあ、そのうち出来るようになるさ」
千秋はあくびする。外が寒いため車内は多少暖かくなっているからだろうか。
すると異境が桜を殴る。
「うがっ!!」
「あくびするな!!」
「俺してないし!!」
「千秋がしたろう!!」
「だからって何で俺を殴るんだよ!!?」
「女の子殴る訳にはいかんからに決まっとるだろう!!」
「じゃあ口で言えば良いだろ!?」
「お前を殴った方が早い!!」
「はあ!?何言って!!」
突然ミネルバが大きく揺れ立っていた桜と異境はよろめき、座っていた千秋や優人も動揺している。異境は運転室に向かい運転士に怒鳴る。
「何だ!!?何が起こった!!?」
「どこからか攻撃を受けているようです!」
「攻撃!?くっ!攻撃位置特定を特定しろ!ミネルバだって多少の武装はしている、魔獣だったら強行突破する!」
運転士はキーボードを叩きながら策敵を始め、3分程度で、
「見つけました!これは・・・起動兵器です、数10!新型のようです!」
「距離は!?」
「約15mです」
異境は車内放送で、
「戦闘準備!起動兵器の攻撃を受けている!ミネルバは絶対安静の怪我人が居るため動く事が出来ない!距離は近い。ミネルバを守れ!」
    *             *                *
「状況はどうですか?」
黒髪に男物のスーツを着て、スタイルも悪くはなく、おそらく美人の部類に入るだろうか。そんな女性が帝国軍牙隊の軍服を着た男と話している。
「ただいまMG−32がミネルバを攻撃中。まだ反撃はされていないようです」
「・・・・では、私が行って来て早々にミネルバを墜としましょう」
「クラン様直々にですか?」
「はい。学園の戦力は一刻も早くつぶしたい。策を練られてからでは遅いですから、
早く事を進めなければなりません。この前の奇襲にも失敗しましたし、それに裕太はなるべく早くと言っていました。MG−32ではいつになるか分からない。なので私が行った方が早いです」
クランは魔力実体化グローブというのを手に着け、スノーモービルでミネルバへ向かった。
      *             *             *
桜達はGM−32の砲撃を避けながら、一機一機倒していく。
「くっ!何なんだよ!?こいつらは!」
「俺が知るか!!」
残り3機、遠距離からミサイルで攻撃してくる。爆発にも気をつけなが雪の中を走り、倒していく。するとミネルバから見て東、桜達が居る方向から増援が来る。
「まだ居るみたいだね・・・」
佐百合は少しあきれたような顔をしている。
「こいつら今までの起動兵器と違って動きが速い、ちょっと気をつけなきゃいけないな」
車内ではレーダーを見ていた運転士が不思議そうな顔をしている。
「ん?どうした?」
「いえ、新型ではない反応がこっちに向かってくるんですよ。これは・・・スノーモービルです。しかも帝国製です!!」
「じゃあこの攻撃は帝国軍か・・・!」
援軍の中にクランが居た。
「ん?あれ誰だ?」
優人は遠くに見える彼女をにらみながら言う。
クランは笑い、スノーモービルを降り、
「さあ、早く終わらせましょう。こんなくだらない戦闘は」



[467] 17話「悲しき人生に光」
のんびり - 2008年10月13日 (月) 00時30分

「ん・・・護衛はいらないと言ったのですが」
クランはMG−32を見ながら不満そうに言う。優人以外MG−32との戦闘でまだクランには気づかないようだ。
優人はクランに発砲。しかしクランはよそ見しながら避ける。
「どうやら私に気がついた者も居るようですね。まずはそちらから」
クランは雪の上をかなりの速さで走り、優人に近づく。
優人は近づくクランに連射。だが一発も当たらない。目の前にまで来られそうになった優人は間合いを取ろうとして後ろに下がり、下がりながらも連射する。
(この人、的確に私を狙って来てる。それだけ修行をしたという事ですか・・・危険ですね・・・!)
間合いを取る優人に追いつき、グローブに薄い赤色のエネルギーを灯しながら、優人の顔面を殴る。優人はなんとか夏奈で防ぐがそれでも、
彼にダメージは来ているようだ。優人が軽くよろめいている瞬間に懐に入り、アッパー。すかさず腹を何発も殴り、蹴り跳ばす。
(や、やばっ・・・!意識が飛びそうだ・・・!!)
「これで・・・終わりです!!金剛魔拳!!」
薄い赤のエネルギーを一点に集中し、優人を殴るとともに一気に解放する。
優人は最初の一撃で既に気を失っていた。優人を殴り飛ばすと、クランの携帯が鳴る。
「はい、こちらクラン。・・・・・・・了解です」
クランは優人の方に振り向き、
「運が良いですね。気を失っただけとは・・・それでも重傷でしょうが。次にはしとめますから」
クランは赤いエネルギーを体の周りに渦巻かせ、どこかへ消えていった。
    *             *               *
なんとかMG−32の襲撃を耐えしのいだ桜達は、急いで学園に戻る事にした。
怪我人が2人になったので、さらに慎重に運転しなければならない。
車内では、桜達がくたくたに疲れて席に座っていた。ヘンリルがため息をつき、
「はぁぁ〜〜・・・・つっかれた〜」
「全員な。ていうかお前、大丈夫なのか?起きてて。寝てた方が良いんじゃ・・・」
「ああ、大丈夫。あまり激しく動かなければ大丈夫って、神流先生が言ってた」
神流は多少医術を学んでいるので保健室の先生代理になる事もある、出張時に。
「少し寝ていると良い。学園に着いたら起こしてやる」
言い終わった頃には全員寝ていた。相当疲れていたようだ。
異境は苦笑いをし、運転室の席に座る事にした。
    *               *                *
学園の5階にある学園長室で仮面をつけ、黒いスーツを着てなかなか背が高い。
仮面の奥にある未知の顔が気になる所ではある。
そんな男が椅子に座り机の上で資料の整理をしていた。
「あああぁぁぁぁ!!!!!!ぜんっぜん終わらない!!いつまでこうやってれば良いんだぁ〜!!」
隣に居た秘書が言う。
「整理が終わるまでです」
「秘書なのに捨てキャラって言うお前は黙ってろ!!」
秘書は仮面の男の後頭部を窓に叩き付ける。
「仮にも学園長なんですからもうちょっとしっかりしてください」
「す、すいません・・・」


[469] 第18話「遠い天使の加護」
のんびり - 2008年10月13日 (月) 21時11分

「へ〜。君ほどの人が一人も始末できないなんて、どうしたんだい?」
どこかの建物の中で、一人の男と女。周りに兵士らしき人達がいた。
何か報告しているようだ。
「すいません。私とした事が予想以上に強かった物で、危険な存在は早々に消した方が良いと焦ってしまい、確実性を失いました」
「いや、良いよ。そこまで急ぎの用ではないし、僕に付いてくれているすばらしい部下達の多少の失敗など気にしないよ。どんな有能な存在でも失敗はするからね」
その男は笑顔でそう言う。暗くて全体の顔は見えないのだが、黒い服ばかり来ているようだ。前にもこんな人居なかったか?
もう一人の女性はクラン。周りの兵は帝国兵の牙隊の紋章をつけている。
どうやらここは牙隊の基地か何からしい。
「ところで、MGー32のできはどうだった?」
攻撃力、防御力はなかなかの物ですが、機動性が少し低いかと」
「そっか。じゃあ改良をバニング君に頼んどくから、性能テストをまた頼むよ」
「了解です」
クランは了承すると、一度頭を下げ踵を返した。
それに10人くらいの兵が続く。男は手元にあった電話を取り、
「あ、バニング君?MG−32の改良を頼めるかな?・・・・うん。攻撃と防御はなかなかの物みたいだから機動性を中心に頼むよ。まあ君の好きなようにやっていいけどさ。・・・・うん、ありがとう。いつもすまないね。じゃあ頼むね」
男は電話を置き、立ち上がってどこかへ行った。
   *               *                *
ミネルバは学園に着き、気絶した優人と怪我したヘンリルを治療室へ運び、他は報告してから保健室で診てもらい、部屋に戻った。
桜はベッドに横になりながら夜を過ごしていた。
「あ〜・・・・・疲れた〜」
「そうだね・・・」
千秋は桜のベッドに座りながら言う。この前の襲撃で千秋のベッドが壊れているので桜のベッドで寝ている。桜は下に布団を敷いて寝ている。一緒に寝るの恥ずかしいとか、いろんな意味で寝れないとか。
翌日。桜は洗濯した布団を干してから、食堂に向かい朝食を食べて
いつも道理優人と喧嘩したのだが、この喧嘩が戦闘になってしまった。
どんな喧嘩だ。
パートナーは武器化せず、木刀とエアガンでやる事にした。
ここでハプニングが。エアガンで鉛玉を撃って木刀ではじいていたのだが、
それがあちこちに飛んで干していた布団に命中。何故かその程度で布団が飛び、
焼却炉の中に入ってしまう。
「ああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
飛んでいった布団を追いかけていた桜が気がつき叫ぶ。
この学園にもう予備の布団はない。床で寝ると風邪引くし、自分の布団に寝るしかない。千秋と一緒に。
     *              *              *
(どうしようどうしようどうしようどうしよう・・・・どうすればいいんだぁ〜!!!)
心の中でものすごい葛藤をしていた。
(ふ、普通に床で寝ようか・・・・いや風邪引くかも。毛布とかないし〜・・・・・
別の部屋で寝るとかは?いや千秋を一人にしたら危ないかも・・・・・・)
いろんな案が出されては却下されていく。他の部屋から布団借りれば良いのだが、
そういう考えは浮かばないらしい。そうとう焦っている。
刻々と消灯時間が迫る。消灯時間に寝ていないと、学校100週しなければならない。ここはそうとう広いから皆途中で倒れてしまい、治療室行き。保健室どころではないらしい。
(消灯時間まであと10分。ど、どうすれば良いんだ〜・・・・一緒に寝るしかないのか?いや、別の方法を見つけなきゃいろんな意味でやばい・・・・)
学園の温泉から戻って来た千秋は寝間着で髪を拭きながら自分の部屋のに入る。
ベッドはまだ治ってない。
あと5分で消灯時間。さらに焦る桜は結果、床で寝る事を決意。上着でも掛ければ大丈夫。とか思っているらしい。が、
(予想以上に寒い!!!!)
千秋もベッドで寝た方が良いと行ったのだが断って床で寝ると、そうとう寒い。
本当に風邪を引いてしまうかもしれない。いや、風邪で済むかどうかも怪しい。
翌日。桜は死んでいました。デッドエンド〜♪
「って勝手に殺すな〜!!!!ていうか「♪」つけるな!!」
怒られた。
気を取り直して。桜は誰かに手を引っ張られた。千秋だ。
「やっぱベットで寝た方が良いよ・・・」
「え?い、いいよ。大丈夫」
「いいから・・・」
無理矢理ベッドに引きづり込まれ、布団に入る。凄い暖かい。
(暖かいな〜やっぱベッドは・・・・・・・・・って)
横には千秋が居る。その事に今頃気づいた桜は声にならない声を出した。
千秋が引っ張ったのだから横に居るのは当然なのだが。
(気にするな気にするな気にするな気にするな気にするな気にするな!)
こうして緊張感あふれる夜は終わった。



[542] 第19話「冬の雨音」
のんびり - 2008年11月13日 (木) 20時30分

人でいる事は許されていない。許されようとも思わない。それが自らが犯した罪の償いだから・・・でも、少しだけわがままを言うなら・・・・・・1つだけわがままが許されるなら・・・・・・もう少しだけ人でありたい・・・・・・・
   *                *                *
最近、あの時の夢ばかり見る。5年前のあの日の夢を・・・俺は友美が殺される瞬間に飛び起きる。いままでこんな夢を見る事はなかった。だから知ってしまった、死神がやってくるときは近いのだと。俺にもう時間がないのだと。
ぼーっと考え事をしていると、誰かから頬をつねられた。
「痛ってぇぇ!!!」
突然の事で、あまりにもおおげさな反応をしてしまった。その事に気づくと、千秋が横から顔を覗いてくる。
「桜・・・聞いてる?」
はっきり言って聞いてなかった・・・ような気がする。何の話をしていたのだろうか。左腕の浸食が終わったのか、今度は左腕ではなく、左頬がピリピリして痛い。
するとまた千秋につねられた。またおおげさな反応をしてしまう。
「桜、どうかしたの?」
「いや、何でもない。ちょっとボーッとしてた。えーっと何の話だっけ?」
今度は目の前からチョークが飛んで来た。間一髪で避ける。が、避けた瞬間黒板消しが飛んできて額に角が当たり、かなり痛い。黒板消しがここまで痛いとは知らなかった。
「うぎゃ!!」
「話は聞け!!次の仕事についてだ!」
そんな話をしていた気もするけど、あまり覚えてない。どんな話か覚えてないのを察したのか、千秋が横から説明してくれる。
「最近の鉱石状ソウルエレメントの強奪事件・・・知ってる?」
「ああ、最近よく起きてる奴だろ?トラックのコンテナごと持ち去られて、そのトラックに乗ってた人が消えるって言う」
千秋が頷く。
「うん・・・で、今回その犯人を捕まえようっていう任務なんだよ。それで・・・あちこちで起きているから担当を決めている所・・・」
「へ〜・・・俺等の担当は・・・武野子!?」
武野子とは変な名前だが、桜の故郷だ。「武士道を持った、野原を走る、子供達の村」略して武野子。由来すら変だ。
まあ村でも起きるような事件だから、この村の名前が出て来てもおかしくはない。
生活にはソウルエレメントが必要なときもあるからだ。
叫んだ瞬間教卓が飛んで来てみぞおちに命中する。
「うるせぇ!!人が話してる時くらい黙ってろ!!!」
桜は教卓の下でとてつもない痛みに苦しんでいた。みぞおちに教卓の角の部分が完全にくい込んで来たらとてつもなく痛いだろう。
「はい、説明終了。まあ明日は頑張れや」
教卓の下の桜と、その横にいる千秋以外は教室から退室した。
    *              *                *
桜はベッドで寝転がりながらソウルエレメント強奪事件の資料を読んでいた。
読み終えると、桜は眼をつむり少し考える。
(行動の素早さ、護衛の排除の手早さ、合計行動時間約5分か・・・こんな事できるのはやっぱり・・・・・・)
裕太率いる牙隊。あらゆる精鋭を集めた今ある部隊の中で最強と言われる奴等だ。
裕太は出てこないだろうけど、指揮してる奴は来るだろう。
ちなみに、作戦内容はトラックの護衛について来たら捕まえるというシンプルな物だ。予想されるのは、機動兵器の出現。十分に気をつけなければならない。
首の辺りが痛い。もうすぐタイムリミットなのかと不安になる。だがそんな物はすぐに消える。不安になってもいつかその時が来るのは変えられないからだ。
明日の仕事に備えて、桜は寝る事にした。時間も遅かったからか、すぐに深い眠りについた。



[545] 第20話「宇宙の涙は流星」
のんびり - 2008年11月14日 (金) 19時25分

各地で起きているソウルエレメント強奪事件の現場の1つ、桜の故郷武野子に向かういつもの8人。
武野子への道は結構長い。がたがたの橋を渡り、雪道を通り、山を登っておりて、
谷を抜け、軍備施設を抜けて森を抜けると、武野子に到着する。
村の入り口には村人と思われる人々が大勢立っていた。何故か皆武器を持っている。
ミネルバを停め、様子を見る事にする。
すると、桜が扉を開け、飛び出していく。
「お、おい!何やってんだよ?危ないぞ!」
そんな言葉にも耳を貸さず、入り口の村人に走っていく。村人達は銃を持った者は後ろから射撃し、剣やグローブをつけた者は突撃してくる。
そんなのもおかまいなしに桜は持っていた刀で銃弾をはじきつつ走る。
そのまま立ち向かう村人を全員斬り飛ばしていく。
「な、何やってんだ?」
「自分の村の人達を・・・」
銃を撃っていた村人も一瞬で斬り飛ばす。すると、どこにいたのか他の村人達が出て来て拍手しだす。桜の周りに集まり、がやがやと騒いでいる。
「・・・・・・・・・・え?」
「村人を斬り飛ばした奴をほめてる?何故?」
   *                  *              *
武野子の風習。ガードナーの修行から帰ってきた者を村人ロボを使い、その人を試す、というものだからほめられたりしたらしい。
ちなみに、使われる武器はその時の村人の気分で決まる。前には地雷、ミサイルランチャー、巨大ロボ、核ミサイルなどが使われたとか。
核ミサイルが爆発しても、武野子の周りに物理的、属性的な物を防ぐ結界があるので大丈夫だそうだ、・・・・・・・・・それ以外は大被害だ。
ちなみに、こういうのをこの村が起こしたというのは、全部もみ消されている。
裏事情が多くありそうな村だ。まあ、とりあえず物語に戻ろう。
武野子の村長のガン婆の家で、事件についての話をしている。
「・・・・・と、いう訳だ。トラックの周りを常に見張り、犯人達が来たら捕まえる、と」
前話で出た作戦はどうなったのか。
「シンプル過ぎるって却下されたよ」
「じゃあ出すなよそんな作戦」
異境が気にするなと言わんばかりに笑顔を送ってくる。微妙に恐ろしい笑顔だった。
「あれ?桜と千秋は?」
「桜の家。久しぶりに親に会いにいってくるんだってよ」
「作戦内容は?」
「伝えてある」
千秋の名前を聞くと、ガン婆が突然ため息をつく。
「あの子もいい加減、忘れないのかねぇ・・・」
いつの間にいたのか、横におじいさんがいた。ガン爺という名前らしいが、これは本名ではなくただ皆から呼ばれているだけだそうだ。
「むりじゃよ。あの子にとっては大きすぎた。それをたった5年で忘れろと言う方が無理じゃろて」
「そうなのかねぇ・・・」
話についていけない優人達。誰も聞かないので、佐百合が聞く。
「あの・・・何の話ですか?」
2人は険しい顔をする。しばらくの沈黙が妙に心地悪かった。
しばらく経つと、ガン爺が口を開く。
「君等にも今回の事件にも関係のない事じゃ。気にせんでくれ」
あまり納得できないようだったが、2人の触れんでくれというような眼差しに誰も追求はしなかった。
   *             *                 *
そのころ、神崎家の家ではダンディーと言われているのにあまりダンディーではない父、優作と、歳の割に若く見える母、雪と桜、千秋で意外にも盛り上がっていた。
「へ〜。そんな事があったんだ〜」
「適当だな、父さん。もうちょっとくらい真面目になってくれてもいいんじゃないか?」
「優作さんにそんな事言うだけ無駄よ?桜」
「・・・・・・・そっか。あはははは!」
「うふふふふふ!」
「おい!2人して俺を馬鹿にするな!!千秋ちゃんも何か言ってやってくれ!」
めずらしく千秋は笑っていた。桜は初めて見る千秋の笑顔に見とれている。
そんな桜を見逃さないのが優作だった。
「おい桜ぁ〜何見とれてるんだぁ〜?」
「ばっ!み、見とれてなんて!!」
「い〜や、完全に見とれてた」
「くっ!いきなりオヤジモードに変わりやがって・・・!」
言い争っている2人を雪が黙らせ、話題を切り替える。
「それにしても随分似てるわね〜。あの時を思い出すわ」
「そうだな・・・っと、そろそろ時間だぞ?作戦が終わったら少しだけ時間があるだろ?その時にまた話せばいい」
「そうだな。よし、千秋、行こうぜ」
「うん」
千秋の顔にはまだ笑顔が残っていた。



[550] 第21話「死神が通る道」
のんびり - 2008年11月16日 (日) 12時37分

桜達は、2人1組に別れ、4箇所に別れてソウルエレメントを積んだトラックを見張る。10分くらいすると、トラックが遠くに見える。
まだ襲われている様子はない。今回は量が多いのか、少し速度が遅い。見張り場を通り過ぎるまでは3〜4分かかるかもしれない。
いつもなら3〜4分くらい短いと感じていたが、今の3〜4分はかなり長く感じられた。順調に通り過ぎるかと思ったが、さすがにそこまで甘くなかった。
トラックの右と左から不振な車が走って来ている。民間人の車にしてはかなり大きい。まさに盗みに来たと言わんばかりの大きさだ。
「変な車が来てる」
「随分でかいな。少なくとも民間寺院じゃないだろ」
「じゃあ・・・・・・・」
「ああ、ターゲットだ・・・!!」
トラックの中には異境が乗っている。作戦の説明が終わった後に待ちへ向かい乗ったらしい。無線で左右から不振な車がトラックに向かっている事を伝える。
「了解。お前等は戦闘準備してろ」
『了解』
車がトラックの横につくと窓を開け、タイヤを銃で撃つ。タイヤがパンクしたトラックはスリップして転倒する。すると2台の車から3人出て来て、トラックのコンテナに向かう。
「これですね?」
「ああ、今回は結構な大物だ。さっさと済ますぞ」
「面倒くせえなあ・・・」
全員スーツを着ている。一人は腕が無駄に太く、背は高く、顔が少し四角い男。
一人は背は低い男。一人は何か見覚えのある女だった。
3人は、コンテナをワイヤーで縛り始める。
「動くな・・・」
後ろから優人達がその3人に加奈達を突きつける。それに気づいた3人は動きを止める。そのままコンテナから降り、後ろを向きながら手を挙げる。
「さすがに学園は仕事が速いですね。少し侮っていましたが、見方を改めた方が良いようです」
「だな、やっとあいつが学園を潰せって言った理由が分かったぜ」
「でも・・・・・・」
3人ともこちらに振り返る。
「まだまだ弱いですね」
「お前この前の!!」
3人の中の一人はクランだった。クランは一礼し、
「久しぶりですね、優人君。この前は名乗りませんでしたが私はクラン、クラン・ストレイスと言います。まあこれは偽名ですが、いわゆるコードネームという奴です」
「俺は・・・」
桜が後ろから現れ、千秋を振り下ろす。クランがグローブをつけた手で受け止める。
「何ですか?突然」
「戯れ言はいい。裕太は何処に居る」
「ん?焦ってんのか?時間がないからって。あと・・・23分くらいか。村に帰る事すら出来そうもないな」
「彼の場所を聞いてどうするのですか?聞こうと聞くまいと行けやしないでしょう?」
4人のやり取りを意味が分からず聞いている優人が、
「おい、何の話をしてやがる」
ヘンリルは頷く。
「あなた達にはまだ関係のない事です。気にしないでください」
ガン爺といいガンバ後いい、クランといい皆何を隠しているのだろうか。誰もが優人達には話そうとしない。いったい何があるのだろうか。
「あと17分。さっさとコンテナもらってこうぜ。ここでのんびり過ごしてても時間の無駄だよ」
「そうだそうだ」
2人の男はもう帰ろうとしている。
「まて!待たないと・・・」
優人の体はふわっと浮く。いや、飛ばされたのだ。腹に感じる激痛、途切れそうになる意識。眼を開けた時には他の奴等も倒れていた。
「弱!!何だこいつ等。一発で倒れちまった」
「まだですよ、一人残っています」
桜はまだしぶとく立っている。よろめきながらだが、少し余裕はあるようだ。
「さすがにこいつは一発じゃやれねえよな」
大きい方の男が時計を見る。すると車の方に走っていく、コンテナが浮いたかと思うと一瞬でコンテナが消える。
「あのワイヤー・・・ワープカードと同じ原理か・・・」
「そうです。あれは結構便利ですよ。巻き付けてスイッチを押すだけでどんな大きさの物でも運べる。お城でもまあ頑張れば町でも」
「あと5分。あ、小説的にもあれなんで自己紹介ぐらいしていくぜ。さっき走っていったデカ物はバレット・グレイ。あいつの腕って多武装変型アームって言ってな。バルカンとかレーザーとか剣とか槍とか、まあだいたい5〜6個?くらいの武器に変わる訳だよ。で、俺はウドガルド・ロキ。邪神様と同じ名前だな」
クランは笑顔で言う。
「大丈夫ですか?顔色が悪いようですが」
桜は答えない。そのまま膝をつき、左手を押さえる。
「あと1分。じゃあ、また会いましょう。今日中にまた会えるかもしれませんよ」
3人は車に乗り、去って行く。倒れてた優人達も、なんとか体を起こす。
異境はどうやらトラックで気絶していたようだ。トラックから出て来た。
桜の中で正確な時計が秒数をとなえる。5、4、3、2、1、0。
何かがはじけるような音がした。優人達は周りを見渡す。何もない。もう一回はじけるような音が鳴る。やはり何もない。
武器化解除した千秋が焦ったような声で言う。
「桜?どうしたの?桜?」
声が聞こえる方向を見ると、桜が声にならない声を出しながら空を見上げていた。
次第に声が出てくる。
「ぁ、ぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
苦しむような声を出す桜、突然立ち上がりよろめきながら歩いていく。
それを千秋は追いながら、
「どうしたの?桜。ねぇどうしたの?」
「く、来るなぁ!!!」
桜は今までにないほど大声で言う。そしてポケットからワープカードを取り出し、地面に叩き付ける。桜の足下に魔法陣が現れる、そして桜はどこかへ消えていった。




[571] 第22話「助けたい者は遠く」
のんびり - 2008年11月29日 (土) 17時00分

何もなく、動物達が自由に走り回っているほど平和な草原には、鏡のように透き通った湖、まるで川の流れのような風に身を任せ揺れ動く木々。静かに時が進むこの時がずっと続けばいいと誰もが思うような静かで平和なこの草原にそびえ立つ岩の壁。
そこにまるで獲物に食らいつく獣の口のように大きな穴があいていた。
その中で岩の壁によりかかり、生気を失った琥珀色の瞳を待つ少年の瞳は、徐々にではあるが琥珀色から赤に変わっていき、その整った容姿さえも人間離れしたものに変わっていく。腕は多少長く、指は太く長く、銀色に光り尖って、まるで鋭利な刃物のような物になっている。足も同じような物になり、顔は少しずつ赤く固い鎧のような物が覆いかぶさって行く。
そんな人ではなくなってゆく彼の前に一人の青年が立っている。白いワイシャツに黒いジャケットを着、銀髪で、背には大きな大剣を背負っている。
彼の名は「神崎裕太」。帝国軍第13部、牙隊のリーダーだ。彼はまるで観察でもするかのように変わりゆく少年を見つめる。そして哀れみの眼を向け、口を開く。
「まったく、哀れな姿になった物だな」苦笑いをし、「僕を半殺し状態にした男とは思えないよ。まあ、いい気味だけどね。そんな化け物になり、死神の化身だったお前が本当の死神になる訳だ」
生気を失い、変わりゆく少年の名は「神崎桜」。その身に死神の呪いを宿し、その呪いに飲み込まれ、精神は壊れ、ただの無差別殺人、いや、無差別破壊兵器となり、視界に入る全ての万物を破壊し尽くし死んで行く。そんな世界の脅威となりかねない物に変化していく彼に、黒いロングコートを着せ、手を差し伸べる。
「僕と共に来るといい。ただの破壊兵器みたいな存在になどなりたくないだろ?」
反応はない。
「そんな状態じゃ頷く事も、腕を動かす事も出来ないか。まあお前の事だから俺の誘いなんて断るだろうけど、これで僕の言うがままだ」
裕太はポケットから何か小さな物を取り出すと、桜の首筋につけた。すると、桜はゆっくりと立ち上がり、裕太についていく。
    *             *              * 
桜が失踪してから1時間が経った。異境にいろいろ説明しなければならないのだが、頭を強く打ったのか気分が悪いと、ベッドに寝てしまっていた。そういう意味でも1時間が経った。
ようやく起きて来た異境は、7人から話を聞く。皆何かを隠している事、あのコンテナを狙って来た3人の事、突然苦しみだしどこかへ去ってしまった桜の事など、さっきまでに起こった事を全部話した。
何故か居る村人達は桜の話を聞くと騒ぎだした。優作と雪も少し動揺しているようだった。異境は少し考えると、
「優作さん、どう思います?これは・・・やはり?」
優作は渋い顔をしながら、
「ええ、時が・・・来たみたいです」
皆、準備だ!というかけ声とともに村中のガードナー達とそのパートナー達が優作の周りに集まる。
「じゃあ、行くぞ」
優作の言葉を泣きそうな顔で聞いている雪が、
「優作・・・他に方法はないの?」
「お前だって分かってるだろ?こうなってはもう仕様がない」
話の流れが理解できない7人のを見た異境は、優作の許可を取り今彼らが行おうとしている事を説明し始める。
「彼らは今から、『桜』を殺しにいくんだ・・・」
千秋は今異境が言った意味が一瞬分からなかった。そんなことをすらっと言ってしまう異境はさらに続ける。
「今のあいつはこの世界を壊す破壊神になりかねない存在なんだ。そうなる前に殺そう、という訳だ」
「な、何で・・・・・・?」今まで見せた事のない愕然とした顔で「何で、そんな・・・事に、なるん・・・ですか?」
着々と準備を進めていく村人の中から優作と雪が出てくる。2人の顔は少し険しい顔をしていた。
「これは、仕方のない事なんだよ。あいつの中にはあいつの兄が仕掛けた爆弾が仕掛けられている、あいつの眼に」
千秋は初の魔獣退治の任務に言った時に現れた男が言っていた
『死神が持つ眼だよ!!それは人が持つ事により、内に眠る怒りや憎しみを吸収し、それを力に変える事が出来るんだよ!!死の眼を持つ人間はまさに死神の分身とも言える!!!!』
「死の眼」、これが桜が殺されなければならない理由。千秋は思い出す。桜が最近左腕を押さえていた事に、痛みにこらえるような顔をしていた事に。気にしなかっただけで桜の異変には気づいていた。それでもいつもと同じ振る舞いをしていた桜はいつも道理で、何もないと思っていたから。そんな自分が腹立たしく感じてくる。
「他に方法は無いいんですか・・・?」
沈黙。限りなく沈黙。千秋は泣き出しそうな顔をになる。
「ある事はあるよ?千秋ちゃん」
優作でも異境でも、他の村人でも優人達でもなく、何処からか声がした。
千秋が声がした方を向くと、仮面を付け、藍色の髪に白いスーツを着て、横には秘書ぽい人がいる。
「ある事にはあるよ。千秋ちゃん。成功率は限りなく0に近いけどね」
またもや沈黙。限りなく沈黙。彼の言った言葉が奇跡的とかそういう意味ではなく、
「「「誰?」」」
ガーン!!と言いながら膝をつく。
「やっぱり誰も僕の事知らないんだ〜!!!!!!」
ふっ、と苦笑いをしながら哀れみの眼を向ける秘書が、
「仕方がないでしょう?朝会にも集会にも、会議にもなんだろうと生徒の前になど出た事なんて全くないんですから・・・・・・ふふふ」
嫌みな笑いをしながら哀れみの眼を向け続ける、嫌な秘書だ。とてつもなく嫌な秘書だ。何故クビにならないのか不思議に思う村人達と千秋達だった。
異境は咳払いをし、
「あ・・・えーっとこの人は、アイリ・ストレイトス学園長だ。え〜っと・・・俺等の天草学園の・・・な」
「「「え〜!!!!!!」」」
またガーン、と頭をおろす学園長。
「そ、そんなに驚かなくても・・・・・・」
「こ、こ、この気が弱そうで変な仮面をつけてて秘書にいじめられてる情けないこの人が私たちの学園の学園長!!?」
「し、信じられねぇ・・・・・・」
凄い言われ様だ。自分の情けなさと言うか、惨めさと言うか。悲しい自分に血を吐き倒れる。なんてもろい体だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。えっと、他に方法があるって、本当ですか?」
学園長はよろよろ起き上がり、頷く。
「い、一応ね。物にはたいてい対となる物があるだろう?」
火には水、朝と夜、男と女、天使と悪魔。だいたいの万物には対となる物がある。
「彼の死の眼にも対となる物があってね、月の加護って言うんだけど。これには死の眼みたいにその人を化け物にしたりって言う事はないんだ。まあ死の眼ほどの能力向上効果はないんだけどね。それにまだ月の加護には明らかにされてない事が結構あるし、副作用みたいな物が あるかどうかも分からないけど、とりあえず彼を助ける事は出来る」
「どうすればいいんですか!?」
最後の希望を見つけた千秋はそれにすがるしかない。彼女は初めて大きな声をだす。
「そうだね〜・・・多分君の声が彼に届けば成功するんだけど。彼の中の死の、ていうか闇のソウルエレメントの中にほんの少し月のソウルエレメントがあるみたいでね。何でかは知らないけど。まあその月のソウルエレメントが君の声が届けば活性化し、死のソウルエレメントを取り込み、彼の眼が月の加護になる。と、思うんだけど」
完全に精神が壊れてしまっていては声は届かない。つまりは桜の精神力に頼る所が多い、ということだ。
「で、どうだい?やるかい?君にもかなりの危険がかかるけど」
今の桜は千秋だろうと壊しにかかってくる。そんな状態で千秋が助けに行くという事は、失敗すれば死ぬ、という事だ。でも千秋は迷わず、
「やります。それしかないんだったら・・・」
そっか、といって村人の方に歩いていき、時間をくれるように説得しにいった。



[584] 第23話「届かざる声」
のんびり - 2008年12月13日 (土) 09時51分

桜を助ける制限時間は2時間。それ以上だと放っておけないので討伐作戦に変わる。
桜達の上着には発信器がついている。それをたどり、居場所をつきとめる。
場所は武野子の近くの草原にある洞窟。昔の遺跡がある所だそうだ。1年近く経っているのにまだまだ丈夫でまだ調査が続けられているとか。しかし何も見つからないのだが、まだ続けるつもりのようだ。単なる税金の無駄使いだ。
天草学園に入る前に桜などの子供達が遊びに入っていた場所で、何故か魔獣は入り込まないので安全で、滑り台みたいな斜面や綺麗な透き通った泳げる池とかいろいろ遊べる物が結構ある場所らしい。
そんな洞窟の奥にある大広間のように広い場所に桜は居る。そこに向かうメンバーは、千秋に、優人達6人。学園長に、優作と雪。ついでに異境先生。
「おい、何でついでなんだ?」
不満な顔をした異境にヘンリルが、
「それは・・・・・」笑顔で「出番の少ないキャラに無理矢理出番を作ったからついでなんだよ」
残酷な裏情報に愕然とする異境をほっときながらミネルバに乗っていく。助手席の窓から学園長が顔を出して、
「異境先生、早く乗らないと置いていきますよ?」
それを聞くと、のろのろとミネルバに乗っていく。全員が乗った所で、優作が運転席に座り、ミネルバを発進させる。
    *               *               * 
桜が居る洞窟内では、完全に悪魔のような姿になってしまった彼以外に、裕太とクラン、ロキにバレットが居た。彼らは千秋達が来るのを分かっているのか、戦闘準備を進めていた。準備が終わったのか、クランが立ち上がり、
「来ますかね・・・あちらだってここの場所はつかんでるでしょうし、ここにくれば何らかの被害を被るのは分かっているはず。それでも本当に来るのでしょうか」
そんな質問に、裕太は桜をじっと見ながら、
「来る来る。父さんが居るし、学園長も来たみたいだ。ガキどもを含めて、一緒にくんだろ〜。そうだな、もう来るんじゃねぇの?」
遠くでガクンと音がした車が入って来たような音が。
クラン。と裕太に呼ばれるとすぐさま音がした場所へ向かう。

ミネルバは洞窟内に入っていた。慎重に走っていては間に合わない、ミネルバをあちこちにぶつけながら走り続ける。洞窟内は意外と広いが岩の柱がいっぱいあり、いっぱい別の道への穴が空いている。アグリアスが珍しく口を開く。
「あと1時間12分。時間がないぞ」
焦っているのか優作が大きな声で、
「分かってる!もうちょっとのはずっ・・・・!?」
目の前に人影が見えた。桜かと思ったが、人の形をしすぎている。次第に姿が見えてくると・・・・・・・それはクランだった。左手を開き前に出し、右手は拳を握り、後ろで構えていて、魔力をそこに集中させているのかそこだけ赤い光がともっている。優人はそれを見ると、
「皆出ろ!!ミネルバ(こいつ)ごと吹っ飛ばされるぞ!!!」
だが遅かった。クランは一直線に走って来るミネルバを、正面から拳1つでプレスしたように平らになりながら後転するように飛ばされる。ミネルバは炎上し、煙を大量に出している。その中から黒く光るエネルギーの弾丸が飛んでくるが、クランは当然のようにはじき返す。
「本当にあなたという方は、どこまでもしぶといですね」
煙の中から優人が出て来て、
「俺はまだ死にたかないんでね」笑いながら「お前もしつこい奴だなぁ、クランだっけ?しつこい女は嫌われるぜ?」
「それはお互い様でしょう。しぶとい男は嫌われます」
煙の中から他の9人が出て来て走り去っていく。
「他の人達も健在、ですか」眼をつむり「全員そろってしぶといようです。あなた達はあの黒い虫の生まれ変わりか何かですか?」
「んな訳あるか。れっきとした人間だ。お前こそ化け物なんじゃねぇの?」
「私は普通の兵よりも特訓を重ねていますから。ただ努力が報われただけの話です。
さて、くだらない世間話はやめにしましょうか。今度こそ立てなくしてあげますよ」

走ってく千秋達に、ナイフが飛んでくる。それを佐百合が暁ではじき返すが、手のひらが何故かしびれる。
「よっ。やっと来たかぁ〜。待ちくたびれちまったぜ」ロキは暗闇から出てくると「じゃあ相手は俺が決めるぜ。じゃあ・・・・・・・そこの槍の子で」
「え?私!?何を勝手に・・・!」
「じゃあ頼んだ〜」
誰も何も言わずに先に進んでいく。佐百合は裏切られたという顔をしながら立ち尽くしている。
「・・・・・・・・・まあ、気にせずに行こうぜ。いい物見せてやるから元気出せ」
「いいもの?」
佐百合は顔を上げる。ロキは手を出すと、
「行くぜ。魔性練金を見せてやるよ」
何やらぶつぶつ言ったあとに手を上に突き出すと、そこからバチバチと電気が走り、次第に直径約10mくらいだろうか、赤い巨大な槍がものすごい早さで創られていく。完成すると、それを佐百合の真横に投げ飛ばす。
ぐちゃっ、とトマトをたたきつぶすような音が鳴った。その方向に恐る恐る振り返る。首を1mmずらすだけで激痛のような感覚が全身に走る。
赤い液体が流れていた。それは川のように流れて行き、ちょうどあった隙間に流れていく。その奥には人の腕があったが、その先には何もなかった。ただ腕のひじまでがあるだけ、さらに奥を見ると、
そこには人としての原形をとどめては居ない人の死体があった。残っている服装から見て武野子の村人だろう。
「っっ_____!!!!」
思わず吐きそうになる。
「ありゃ〜・・・人が居たか。南無阿弥陀仏。成仏しろよ〜」

ヘンリルはバレットと立ち尽くしていた。展開は前の2人と一緒。対してやる気がないらしい。

千秋達は最後の大広間のような場所にたどり着く。そこには裕太と、完全に死の眼に浸食された桜が居た。



[602] 第24話「悲しく光る星空」
のんびり - 2008年12月28日 (日) 15時55分

遺跡のある洞窟は意外と広く、サッカーくらい出来そうな場所だった。障害物はあると言っても、岩の柱や少しだけ大きな岩がちょっとあるくらいで、光が入っているので上を見ると大きな穴があいていた。
そんな中、桜井優人とクラン・ストレイトスは、身構えながら立っていた。
優人は前にクランと戦ったときの事を思い出していた。何の抵抗も出来ずにただ殴られているだけだった。それが悔しく、ひっそりと特訓して来た。ただ撃つだけでは勝てないと、異境に接近戦の指導をしてもらい基礎だけ覚えている。これをどう応用するかは優人次第だが。
「前はボコボコにされたけど、今日はそうはいかねぇぜ。一撃はくらわせてやる」
クランは表情を変えずに、
「いつの間にかに宿敵視されているようですが、それも悪くありませんね。今まで私と対等に接してくれる人は居ませんでしたからね、貴方とは友人として出会いたかったです」
「恨むなら神様か、運命を恨んでくれ・・・」足を後ろにひき、「・・・よっ!!」
瞬間、凄まじい勢いでクランに向かって走っていく。彼女との距離は15mくらい。全速力なら1秒程度でいけるだろう。走りつつ、自らの魔力が込められたエネルギーの黒く光る弾丸を撃ちだすが、クランはグローブに少しだけ魔力を注ぎ実体化させる。そして後ろに構えた左腕の拳を前に突き出し、当然のように魔力の弾丸をはじき返す。その間に、優人はクランの懐に入り手に持った夏奈をクランに向け、殴るように前に思いっきり突き出すが残った右手でそれを受け止める。
だが優人の攻撃はまだ続く。優人の後ろから黒く光った魔力の弾丸が飛んでくる。優人は夏奈をクランの右手で押さえられているため撃ってはいないはずなのだが、確かに優人が撃った者と同じ物が飛んで来ている。
(時間差攻撃・・・!いや、これは最初に撃って来た魔弾!)
ミネルバを破壊され脱出後に撃ち弾かれた弾丸は、消滅せずに残り今飛んで来たようだ。
このような事は一応可能だ。込めた魔力の塊の周りに隙間を空け魔力の壁を作ると言うシンプルな物だが、これが意外と難しい。隙間を空けて魔力の壁を作るのは魔力の制御、コントロールが出来ないと不可能。魔力が多過ぎると壁が厚くなり中の塊にくっついてしまい、ただの魔弾になってしまう。逆に少な過ぎると耐久性が悪く、壊れやすいので相手に違和感を与えてしまいばれる事がある。このように魔力の込め方を帰る事で魔弾はいろいろ変わる。拡散したり強度が強くなったりといろいろあるが全て難しい事だ。だが優人は魔力を弾丸とする銃が武器化状態の夏奈とパートナーだ、日頃から魔力の制御やコントロールをしているため多少簡単にできる。だからと言って、優人のように魔弾を射出できる武器化状態になれるパートナーで日頃から制御やコントロールをしているからといって絶対簡単とは限らない。それなりの特訓が必要だ。優人はそれを下からで来ただけの事。スポーツや勉強や絵などと同じで、練習すれば出来るようになる。それを彼はよく知っている。
だから勝てる訳ではないと彼は思っていた。強い技が出来るからといってそれをどう応用し、相手にぶつけて行くかが問題となる。さらにその場の状況に応じて手早く行動をしなくてはならない。
時間差で飛んで来た魔弾に少し驚くが、
「ですがこのくらいでは・・・!」
またも簡単に弾こうとするが、武器化した夏奈を押さえていた右手がまるで後ろから突然引っ張られたように後ろにひかれる。優人が飛んでくる魔弾にクランが視線を向けている間に右手に魔弾を撃ち込んだのだ。
ゼロ距離から放たれた魔弾はかなり痛く、魔力を実体化させたグローブをしていなければどうなっていたか分からない。思いっきりバランスを崩したクランにさらに飛んで来ていた魔弾が直撃する。
「あっ・・・!ぐっ!!」
クランは体中に走る激痛よりも、ここまで強くなっていた優人に驚いていた。前の圧倒的に優人が負けていた彼との戦いから一ヶ月程度しか経っていないというのにここまで成長するとは思ってはいなかった。
クランは優人から10mほど離れた所に手足を投げ出して仰向けに倒れていた。
「初めて当たった。それなりに痛いだろ?俺の魔弾は」
彼女は一瞬ふらついたがすぐに体制を直し立ち上がる。
「ええ。そうとう痛かったですよ。負け惜しみに聞こえるかもしれませんが油断していたようです。この短期間にここまで成長しているとは思わなかった。相当な鍛錬を積んだようですね?それにいい教官も持ったようだ。独学ではこの短期間でここまでの成長を遂げる事は不可能でしょうから」
優人は正面を向き、
「ああ。あのマッチョの最近角刈りから卒業しだした異境先生に頼んでな。きつかったけどいい教官だよ、あの人は」
仮にも教師だから当たり前だ、とでも異境が言いそうなことを言っている。それを、
「あの方は仮にも教師でしょう?当然だと思いますが」
優人は確かに、と頷くが夏奈が今の台詞に違和感を覚えた。
「(何で知ってるの?異境先生が教師だって)」
確かに異境は教師だが、クランにはそんな事一言も言ってないはずだ。もしかしたら長身でマッチョの生徒かもしれないし、プロのガードナーかもしれない。だがクランは、はっきりと教師と言った。
「ああ、それは私の父親が天草学園の学園長だからですよ。私のコードネームにもストレイトスと入っているでしょう?ですがあの人は私たちの内通者ではありません。敵の私から言われても説得力はないでしょうけど」
だがそんな説明はどうでも良かった。もしクランが学園長アイリ・ストレイトスの娘だとしたら、あの人は『結婚』している事になる。あんな仮面男で秘書にいじめられているような男に妻がいる事になるのだ。
(あの人に奥さんがいるの?信じられないよ?)
(あんな仮面男を気に入るような女がいるなんてな・・・センスを疑わせてもらうぜ)
戦いの最中だというのにどうでもいい事を考えている2人だった。
    *                *              *
人を殺しておいてただ成仏しろよと一言。佐百合にはそれは許せない事だった。せめて謝罪くらいはあってもいいと思うし、罪の意識もない。この人だけは許せない。
「・・・で・・・・・・何で・・・?」ロキが、ん?と言うと「何で人を殺しておいてそんなに平然としていられるの!!?」
彼女が出すとは思えない大声だった。全身に走る痛みのような感覚と、計り知れないほどの怒り。それを吐き出すように言葉を吐き出していく。
「こんな・・・こんな風に人を殺してしまっているのに、何でそんなに謝罪も罪の意識もないの!!?」
「そりゃ、それが俺の日常だから」
即答だった。これが自分の日常だと。それに対して佐百合と暁は言葉が詰まった、それに追い討ちをかけるように、
「俺たちは仮にも軍人ってことになってるんだぜ?軍の人間にとって人を殺す事は仕方がない、何故ならそいつは敵だ。殺らなきゃこっちが殺られる。だから殺す、そいつのくっついてる方の手を見ろ、銃を持ってる。ついでに弾は対人用の拡散弾みたいだな、俺か君たちを狙ってたんだろう」今までの気迫がなくなっている佐百合をみて、「まあ、これは間違ってるのかもだけど俺たちにとっては人殺しは日常だ。殺して何故平常心でいられるのかと聞かれたらこう答えるしかないな」
軍人にとってはそれが普通。殺人、戦争とかが普通だなんて佐百合には理解できなかった。だから何か言おうと思ったが何も思いつかない。そんな彼女を察したのか暁が、
「確かに軍人にとってはそれが普通かもしれない」眼を細め「だからって敵かも分からない人を殺すなんてのはおかしいんじゃないの?銃を持ってて対人弾だからって俺たちを狙ってたかは分からないし、もしかしたら狩り用の弾がなくて代わりに持って来ただけかもしれないだろ?ここは食べると美味い動物がいるしな」
この洞窟は何故か高級食材に入るほどの動物などがよく集まる。原因は不明で、調査中だ。
そんな説明の中、ロキは、
「ん〜・・・そういわれるとちょっと弱いかな。君の言う事も正論だしね、いいパートナーと出会ったね。いいフォローしてくれるじゃん」でも、と言って「ここにいる動物は小型じゃなく大型だ、対人弾じゃ狩るのは難しい。それは猟師だったら誰もが知ってるはずだ、だから狩り用の弾はなくなりそうになると絶対に用意するはずだ。対人弾で狩りってのは薄いな。まあだからって俺たちを狙っていたと絶対言い切れる物ではないから別に殺す必要はなかったって説だろ?まあ正しいんだろうけどさぁ。でも確認してからじゃ遅いぜ?その時はもう殺られてるよ、ついでに言うならそこに人がいるなんて俺は知らなかったし故意に行われた物ではないよ?まあこれは言い訳にしか聞こえないか」
確かにその人が敵で自分を狙っているのなら確認している間に殺される、なら先にこちらが倒した方がいい、と言う訳だろう。それは自分を守る上で一番手っ取り早い行動だろう。だが・・・だからと言って・・・佐百合は重く感じる口をようやく開ける事が出来た。ただ自分の気持ちを吐き出すために。
「確かに・・・そうかもしれませんけど・・・」自分の伝えたい事を言葉にまとめ、「でも、人を殺すだけじゃ何も解決されないよ!その人を倒してもまた殺しにやってくる。もしかしたらその人は殺された人に親しかった人で恨みを持っている人かもしれない、そういう連鎖を止めなくちゃ何も解決されないんだよ!?貴方は戦争を引き起こす人だ。私は貴方を倒す、戦争の種はつぶさなくちゃ」
暁を武器化し構える。自分の言葉を証明するために。殺しはしない、戦えなくするだけ。腕を一本落として足を一本飛ばしてでもこの人を止める。そしてもう殺しはしないって説得する。それが彼女の描いた理想。それを証明するために戦う。
   *               *                  *
ヘンリルとアグリアス、バレットはサンドイッチを食べながら世間話をしていた。敵同士だと言うのに相手を倒そうとする動きすら見えないし、いったい何処からサンドイッチを持って来たのだろうか。サンドイッチの箱を見るとヘンリルとローマ字で書いてある、ヘンリルが持って来たようだ。戦場に。
「あっちの方から爆発音が聞こえるけどここは平和だな〜?おっさん」
「そうだな。ところで俺たちは戦わなくて良いのか?サンドイッチ食ってて」
ヘンリルは人差し指を立てて、
「良いんだよ、腹が減っては戦はできぬって言うだろ?ていうかこれ食べきらないと食堂のおばちゃんに半殺しにされちまうから一緒に食ってくれよ」
「別に良いけどよ、美味いし」
しばらく続いた沈黙から脱するようにバレットの腕の義手を見て、
「ところでおっさんのその腕、何で義手なんだ?病気かなんかで落とさなきゃいけないとかだったのか?」
「・・・・・・いや。俺がドジだったんだよ」自分の義手を見て「昔俺の村が軍に攻撃されたんだ。まぁ、あの時は戦争中だったから当然かもしれないけどな。それでいろいろあったんだよ」
ただただ静かに時間は過ぎていった。
     *             *                *
ただただまっすぐ走り続けていた。もう息は切れかけている、でも、ただ走り続けた。彼の元へ、彼を助けるためだけに。
目の前が明るく開けた、どうやら洞窟を抜けたようだ。そこは大きなコロシアムのような会場が広がっていて、周りには青空と客席があり、会場の中心には液体の入った大きなポッドがあり中に何か入っている。シルエット的には人の形だ。
「何だろう・・・あれ」
優作が答える。
「あれは・・・・・・実験用のポッドだな。おそらく中は実験動物。と言う事は、
「桜君だよ?千秋ちゃん」
優作が言おうとした事を何処からか別の人が言った。学園長ではないらしい。だとすると、
「裕太か・・・・・・牙隊の隊長さんのご登場と言う訳だな」
突然ポッドの前の地面が開き、そこから裕太が背中に大剣を背負い笑いながら現れる。出てくると、桜が入っていると言うポッドを開けると、中から何か出てくる。
千秋はその姿を見て驚きを隠せなかった。人の姿をしていなかったからだ
腕と足は長くゆびは爪のように尖り、体中鱗のような物に包まれている。顔には角が4本あり、瞳は殺意に満ちている。彼の姿の何処を見ても前の面影は全くない。
「・・・・・・・・・・・・・」
言葉が出ない。名前を呼ぼうとしているのに声が出ない、足は震えて、立つのもやっとだ。桜が目の前にいるのに、嬉しいはずなのに、何故か悲しさと恐怖があふれてくる。そんな千秋に優作が、
「下がっていた方が良い。危ないよ」
雪が千秋を後ろに下がらせ、優作と手をつなぎ優作は雪を武器化する。その姿は、長い日本刀2本。学園長は秘書を武器化する。こちらは氷のレイピアだった。ていうか秘書は武器化種族だったのか。
「さあ・・・・・・行くぞ。桜は返してもらう・・・!」



[605] 第25話「救われるべき者達」
のんびり - 2008年12月29日 (月) 16時53分

千秋は裕太と優作、桜と学園長が戦う姿をただ見ていた。自分が一番何かしなくてはならないと、桜を救わなくてはと思っているのにただ見ているしか出来なかった。体が震えて動かない、無理に動かすと壊れてしまいそうな気がした。
それでも何かしなくてはと、思った。動かない体を無理に動かす。桜の元へ行かなくては何も始まらない。優作には下がっていろと言われたが、そんな事をしていたら桜を助けられない、そんなのは嫌だから、一歩、二歩、三歩と足を進めていく。さっきまで体中に満ちていた悲しみと恐怖は少しずつ消えていくのを何となく感じていた。
前に進む千秋を見た裕太は、
「ん?千秋ちゃんか・・・なるほど、死の眼を月の加護にしようとしてるんだな?」
舌打ちをしてから優作が、
「そうだよ、桜はまだ完全に浸食された訳じゃない。成功確率は低いが、やらないと桜が死んじまうからな」
うんうん、と頷く裕太。そしてにやりと笑いながらリモコンのような黒い機械を取り出す。まるで災厄を詰め込んだブラックボックスを取り出すかのようにゆっくりと。
「じゃあ、千秋ちゃんが死んじゃえば作戦失敗、って訳だ」取り出した機械についているスイッチを押しながら、「桜、千秋ちゃんを殺せ」
瞬間、桜の首筋に取り付けられた小型の受信機から電気が走り、強制的に桜の体を動かす、千秋を殺すために。
それに対し、学園長が立ちふさがり防ごうとするが、あっさり通り抜けられてしまった。
「(本当に使えませんね、学園長ともあろう御方なのに)」
「彼が速すぎるんだよ!死の眼の浸食でここまで強化されているとは!」
ただ呆然と迫る桜から逃げる事も出来ずに立ち尽くしていた千秋は、いつの間にか目の前にいた桜を見上げる。
「桜・・・・・・・・・」
彼は何も答えない。ただその手に持っている剣を上に構えるだけ。それでも千秋はまだ逃げずに、
「桜・・・・・・桜・・・・桜!!」
瞬間、その剣は振り下ろされた。
       *            *            *
剣が振り下ろされた瞬間閉じた眼をゆっくりと開けると、千秋の眼前でその刃は止まっていた。優作も学園長も止めにかかっていたが間に合わず、諦めて眼を閉じていたが、彼らもゆっくりと眼を開け、安堵していたようだった。
そして、桜の固い口は開かれる。
「・・・・・・・・あ・・・き・・・・・・・・ち・・・・・き・・・・・ちあ・・・・・き」
彼女の名前を呼びながらその手の剣を下ろす。その様子を見ていた裕太は詰まらなそうな顔をしたかと思うと、優作に斬り掛かる。なんとか早めに気づく事が出来た彼はギリギリで防ぐ事が出来たが、腹に膝蹴りをくらう、それにひるんだ優作は膝をつき、その瞬間を逃さず裕太が真上からその手の剣を振り落とす。間一髪横に転がり避けた優作は立ち上がり、
「成功確率が上がったな。こいつは予定外だったか?」
「だね。桜に取り付けた制御装置は完璧のはずだったから確実に千秋ちゃんを殺すと思ってたんだけど。まさかそこで止まるとは思わなかったよ」まだ立ち尽くしている桜を見ながら、「僕が殺しに行くにも、父さんを先に倒さなくちゃならないし、もしかしたら桜が止めに入ってくるかもしれないし。さて、どうした物か・・・」
千秋を殺さなかった桜は少し復活したかもしれないから止めるかも、っていう予想らしい。あり得るかどうかは分からないが。難しい顔をしながら優作の攻撃を防ぐ裕太は、突然何かひらめいた顔をしだした。
「そっか。あれがあったか〜!」通信機を取り出して、「・・・あ、もしもし?頼みたい事があってさ〜。受信機のリミッター解除してくれない?・・・・・・あ〜良いの良いの、この状況を打開できるならそれぐらい派手な方が良いでしょ?じゃ、頼むよ〜」
通信機をしまい、にっこり笑って優作に斬り掛かる、かと思いきや優作を通り越して桜の元へ行く。すぐに裕太を追うが突然豚が目の前に現れ一瞬止まってしまう。
ラッキー、と言いながら首筋の受信機をいじりだした。千秋がそれを払おうと手を伸ばし、
横腹から何か熱い物が走った。それがなんだか分からず、自分の横腹を見てみると、桜の持っていた剣が千秋を刺していた。赤い液体が流れる。それが何かを解除したように痛みに変わり、
「うぐっ・・・・・・・・・」体に力が入らず膝をつく、「・・・さ、くら?」
刺さっていた剣が抜け、水の入ったペットボトルを逆さまにし、キャップを取り中から水が出るように血が溢れ出る。突然の事で状況がまだ理解できていない千秋は桜の方を向くと、苦しむようにもがく姿があった。理解できていない千秋を察したのか裕太が、
「桜の首筋の受信機にはリミッターがかけられていてね。完成した時にネズミで試したんだよ、そしたらそいつの体、っていうか脳が、耐えられなくなっちまってさ。まあ強制的に脳に干渉して動かしてんだから当然かもだけど、これじゃ使い物にならないってんでリミッターをつけた訳。外せばその相手がやばくなる分確実に言う事を聞くし、桜なら少しは耐えられるだろうと思って外したら。これは機体道理の性能だね♪あはははははははははははははは!」
「あ、あなた・・・狂って・・・る・・・命を・・・・・・何だと思って、うぐっ・・・」
「実験動物(モルモット)かな?この世の全ては僕の実験対象だよ?ああ、それとあんまり喋らない方が良いよ?それだけ血が出るから」
それは分かってるけど、そしたら桜が助けられない。でもこの状況じゃどうすれば良いかなんて分からない。自分はどうしたら・・・桜を助けられるのか・・・

自分の思いをはっきりと、思いっきり伝えれば良いよ。

何処からか声が聞こえた。しかし周りを見ても何処にも裕太、桜、優作に学園長以外の人間はいない。じゃあ何処から?

桜に届くくらい大きな声で。自分の伝えたい事を思いっきり伝えてあげなさい。そうすれば貴女の願いはかなうよ。

また聞こえた。やはり何処にも千秋達の他に人は居ない。でも、この人が誰でも今はそんなことを言ってる場合じゃない。この人が言ってる事が本当ならば自分がする事はただ1つ。はっきり、思いっきり、桜に届くくらい大きな声で。
体に残る最後の力で桜に近づく。裕太は何故かそれをただ見ていた。眼で追おうともしない。だがそんな事は気にしていられない、ただ少しでも速く彼に言わなくてはならない事がある。さっきまで途切れ途切れでしか出なかった声が、今ははっきりと出る。
「桜、聞こえるかな・・・聞こえるならそれで良い。私たち、まだ何もしてないよ?戦ってばかりで楽しい事まだ何も。私はもっと桜と一緒にいて、楽しい事、面白い事、苦しみや悲しみ。いろんな事を感じていたい。でも、まだそれすら出来ていないんだよ!?こんな結末は私は嫌だ!もっともっともっっと!桜と一緒に居たいの!!だから、戻って来てよ!!!」
ありったけの思いを言葉にして吐き出した。もう喋る力も、動く力さえない。そのまま倒れ込んだ。なんだか暖かい感覚がして、とても心地よい場所だ。何もかも忘れてここに居たいと願う事の出来る場所。
「ば・・・馬鹿な・・・・・・そんな事が・・・死の眼を月の加護に変換するなんて彼女にしか、友美にしか出来ないはずだ!!」
その声で一瞬途切れかけた意識が戻って来た。ゆっくりと眼を開ける。その暖かさの本人を確かめるように。その期待を裏切らない結末を見るために。
そこにはちゃんと戻って来た桜が居た。自然と千秋の瞳から流れる雫をその手で拭く桜は、
「ったく、俺なんかのために無茶して。死んだらどうすんだよ。・・・・・・・でも、ありがとう。俺を連れ戻してくれて」
借りはいつか返さなくちゃな。と言いながらお姫様だっこで千秋を抱えながら立ち上がる桜。千秋は自分の傷口を見ると、塞がっていた。
「あんまり動くと傷口開くぞ?月の加護で塞いだとはいえ使い慣れてないから不安定だし」
「う、うん・・・・・・」
まだ驚いてる裕太は、
「・・・・・・くっ・・・退却だ!!退却!!!」
そういうと、裕太の足下に魔法陣が浮き上がってくる。
「今日はここまでにしてやらぁ!!と、どっかの負けた奴っぽい台詞を残して去るぜ」
       *           *            *
こうして、1つの事件は幕を下ろした。この話がどう繋がるかはこの2人次第だが。
ただ、まだこの物語は終わらずまだまだ続く。らしい。疲れるわ〜



[638] 第26話「迷惑な委員長」
のんびり - 2009年01月18日 (日) 00時54分

満身創痍、疲労困憊。どんな理由があったにせよ、勝手な単独行動を学園の生徒が任務中にしてはならない、という決まりが天草学園にはある。死の眼の影響により自分が保てなかったとはいえ勝手な行動は行動。神崎桜はその罰として書類の整理をさせられていた。
「うだ〜・・・・・・やっと終わった・・・・・・」
とりあえず第一声はこれだった。すぐさま桜は立ち上がり、資料を持って部屋を出る。しなければならない事があるからだ。部屋から出ると、目の前には何故かテーブルと椅子が6個置いてあった。皆で勉強や会話のために飲み物や食べ物を置けるように、という学園の気遣いらしい。桜の部屋の左右を見ると、2階へ行くための階段に、他の生徒の部屋。ちなみに部屋のドアは自動ドアだ。
寮から出て、廊下を歩いていき十字の廊下を右に曲がる。それから少し歩いた所に治療室がある。桜はそのドアをくぐる。中には、入り口から右に待ち人用の椅子。正面には、病人のベッドが置かれた病室が見える大きな窓。その横にはその部屋に入るドアがあり、その横にはオペ室があった。
桜は病室に入り、そこに寝ている茶髪に整った顔。軽くロングヘアーで、学園の制服、ブレザーとセーラーを女子は2着ずつ持っているが、彼女は今ブレザーの方を着ているようだ。
彼女は千秋。桜のパートナーだ。
彼女は、桜が来たのを察したかのように、その瞳を開ける。
「桜・・・・・・?」
「あ、ごめん。起こしたか?」
千秋は首を横に振りながら、
「ううん。大丈夫。で、どうしたの?」
いつの間にか持っていたメロンを出して、
「お見舞い。やっと資料の整理終わったからさ」
切り分けられていたメロンを1つ取り、食べ始める。桜はベッドの横の台にメロンを置き、
「いつ退院できるの?」
「今日」
昨日怪我、剣で刺されたのに今日退院。普通はあり得ないが、桜によって傷が塞がれていたので一日で治ったのだろう。
「あと2時間くらいかな。とりあえず無理しちゃだめだって」
      *             *              *
2時間後。千秋が退院し、桜と千秋は学園内を優人と、夏奈と共にぶらぶら歩いていた。優人達とは、2人で歩いている時に、
『あ!千秋退院できたんだ〜!』
『ふ〜ん。早かったな。もう大丈夫なのか?」
『うん』
『リハビリもかねて散歩?私たちも行くよ!』
というかんじでついて来た訳だ。何処までも勝手な夏奈だった。
やっぱり歩きながら喧嘩している桜と優人、それを見ながらあきれている2人の前に、一人の女性が現れた。見た目からして16、7才くらいだろうか。少し濃い青色の髪を小さく後ろでポニーテールにし、学園の制服のブレザーの方を着ている。眼鏡をかけ、それなりに整った顔の女性だった。
「見つけましたよ!桜君に優人君!!」
その手に持っている注射を2人の方に向けながら言う。ヤバい!、という顔をしながら一歩ずつ下がる2人。後ろの2人もそれに続く。
彼女は魅守舞香織(みすま・かおり)。皆からは委員長と呼ばれていて、こうして目の前に現れられる(現れなくても)と恐れられている存在だ。それは何故かと言うと・・・
「さあ!こちらへ!!私の発明した筋肉がパワーアップする薬をあなた達に授けようと言うのですから!!」
そういうと、何処からともなく謎のロボットが現れ、桜と優人を捕らえた。うでを1mmも動かせないほどに強くつかまれている。
「や、やめろ!!委員長!!」
必死に抵抗する2人だが、委員長は迫ってくる。そして次の瞬間。
ぶす、という音とともに2人の悲鳴が学園中に響く。そして突然ボン!という音とともに、2人から煙が出る。ロボットは煙から出て来て去っていった。
煙の中から声が聞こえる。やけに高い声が。
「いった〜!!委員長!普通そんな注射のうちかたしませんよ?」
「う〜。超痛かった・・・」
煙がなくなり、桜達が出てくる。・・・・・・・・・はずだった。
煙の中から出て来たのは、2人の少女だった。一人はショートヘアーに、男物の学園の制服を着ていて、かなりの美人だ。もう一人も結構な美人で、後ろで髪を結び、やはりこっちも男物の学園の制服を着ている。2人ともスタイルはそこそこ良い。
そして、なんだかさっきまでそこに居た神崎桜と、桜井優人に似ている事が一番の特徴だった。
「「「・・・・、」」」開いた口が閉じない3人。そこで夏奈が3人が思っているであろう事を口にした。「・・・えっと・・・・・・誰?」
髪を結んでいない方の少女は言う。
「え?何言ってるの?頭でも狂った?桜だよ。桜」
「私は優人」
開いた口がさらに閉じなくなった。
「?やけに体が軽いなぁ、ん?髪ちょっとのびてる。あれ?何でこんなに胸が膨らんで・・・・・・ん?・・・・・・!!!?」
「こ・・・これは・・・」
ようやく異変に気づいた2人。自分の体をあちこち触り、まさかが確信に変わった。
女性化してる、と。
    *             *             *
委員長の恐れられている原因は、いい加減な発明が毎回事件を起こすからだ。避難用シェルターが何故か核の二分の一くらいの威力の爆弾と化し、学園を半壊させたり。
育毛剤を作ってカツラの人にあげればその人が毛だるまになったり。巨大ロボを作れば、何故かロボットが勝手に宇宙へ旅立ち、衛生を3機破壊したりと、数々の事件を起こして来た人物だ。だが億が一の確率で成功する事もある。例えばミネルバがそうだったりする。
今までの事件を振り返れば今回はまだ良い方だろう。学校が半壊したときは、どれだけの人に迷惑をかけ、直すのにどれだけ金がかかったかしれない。
まさにトラブルメーカーなんて物では収まらない、例えるなら、いくらでも爆発し、爆発しない事があるのはたまにだけみたいな、無限爆弾だ。
そして桜と優人は桜の部屋で頭を抱えていた。桜が、
「何これ何これ何な訳?性別、体、喋り方まで全部っ変わっちゃってるんですけど・・・・・・ちゃんと治るんだよね?委員長」
無言。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無言。どうやら彼女にも分からないようだ。
一難やって来てまた一難、なんてことわざはないが、あったらまさにこの状況だろう。そうしてただただ時間が過ぎていく中。部屋の外がやけに騒がしくなった。気になって、寮から出てみると・・・・・・
謎の魔獣が学園を走り回っていた。
「何あれ!?あんな魔獣は見た事ないよ!?」
「新種?」
鎧のような物をまとっている四足歩行の魔獣はまっすぐこちらへ向かってくる。
5人はただ走った。戦えば良いのだろうが、武器化している暇はない。
走りつつ委員長が、
「あ、あれはGX504じゃないですか!!なんで外に!?」
「委員長、知ってるの?」
はい、と委員長は言い、
「あれは私が作った魔獣型ロボットです」
とんでもない事が発覚した。この女はまた事件を起こしたらしい。しかも魔獣型ロボットなんて作る意味などあるのだろうか。
「ありますよ!」
そう言い張る委員長に、4人は、
「「「「無い無い」」」」
とだけ言った。ありますあります!と言っている委員長の顔は真剣だ。
突然犬が走って来た。続いて、鳥、豚、ネズミ。よく見るとあちこちでいろんな動物が走り回っている。まるで動物園の動物が脱走したように。
「な、なんで犬が!?鳥が?豚にネズミが!?」
「誰が犬だ!!」
犬が喋った。ぺらぺらと。人間のように喋りだしたのだ。
「・・・・・・犬が喋った」
「犬じゃない!!ヘンリルだワン!ってまたワンって言っちまった!!」
「ちなみに鳥さんの私は佐百合です」
「豚はアグリアス」
「何故俺がネズミなんだ!!(暁)」
学園中に居る動物は、生徒が変化した物らしい。原因はすぐに思いついた。いや、思い付かないはずがないとすら思った。どう考えても委員長の仕業だ。全員委員長をにらむ。
「わ、私はただ、実験をしていただけであって悪気とかは・・・」
「うるさい!!いっつもいろんな事件を起こしてくれちゃって!たまには自分で処理しなさい!!」
委員長の肩をつかみ、後ろへ投げる。普通に尻餅をつき、そこに猛スピードで突進してくるGX504まっすぐと委員長にその角を突き立てて
「そんな汚ねぇ体で突進なんてしてくんな!!!」
ズドン!と言う音と共に、GX504の体が天井に激突し、爆発した。
けっ、と言いながら去っていく委員長の背中を見ながら、新たな恐怖を感じた、8人だった。




[648] 第27話「ジャスト・コミュニケーション」
のんびり - 2009年01月19日 (月) 20時22分

7月28日
女性化はとりあえず解決し、夏休みへと突入した。こっち(現実)はもう冬なのだが。
生徒には学園でのんびり過ごす人や、実家に帰ったり、友達と共に旅行へ行ったりといろんな生徒が居る。先生の中にもそういう人は居るが、生徒と違って先生には夏休みまでの生徒の任務情報の資料整理や自分にたまっている依頼を解決したり、他にもいろいろあり宿題が多い。生徒は戦闘以外の数学や理科などのプリントくらいだ。
桜と千秋は、早々に宿題を片付けてどっか行こうという計画が出来ていた。
結果、7月28日。夏休みが始まり、1週間で宿題を終わらせて何処へ行くか計画している所だった。
桜はとりあえず千秋の行きたい所を優先で良い、と言う事で話し合っていた。彼に取ってはどこに行ってもデート気分だ。だいたい彼には2人きりでどこかへ行くって言われても、何処が良いかなど思いつかない。なんせ友美ともどこかへ行ったりせず、村で特訓とかいえか外で遊んだりとかしかしていなかったし、第一あの頃の桜は少し弱気な所があったため、告白もしていない。そんな奴が行く場所を決めたら印象悪くなるかも・・・という桜の考えによった流れっだった。
少し考えた千秋は、顔を上げて、
「久しぶりに実家に帰りたいかも。5〜6年は帰ってないから」
実家。ただの里帰りだと言っても、千秋の里帰りだ。つまりは千秋の親に会う訳で、単なるお出かけだ、と思ってもやっぱり少しは意識してしまう物だった。
「あ、でも桜は来ない方が良いかも」
「え?何で?」
ちょっと下を向きながら、
「お父さん、男の人には凄い厳しいんだ。すぐに剣向けるし」
まるで家の父さんみたいだな・・・と思いながら大丈夫だよ、と言う桜だった。
    *             *                *
7月29日。
支度を終わらせて、外出届を出し、食堂に向かう桜と千秋。今回の献立は、桜はロッキイマウンテン定食。ボリュームがあるにもかかわらず、カロリーはかなり押さえられている。女生徒がダイエットの時によく頼まれる物だ。白米に、生姜焼き。キャベツやトマト等の入った特製ドレッシングサラダ。みそ汁に、オレンジジュース。
千秋は、黄金の魂定食。ネーミングは置いといて、まあ簡単に言えば、天ぷらセットのような物と思ってもらえれば良い。
「遠いのか?千秋の実家って」
「ここからだとちょっと遠いかも。電車で行っても2時間くらいはかかるかな」
千秋の実家は、アスタ・デル・バイという町と言うか村と言うか、微妙な所だ。町みたいに、それなりの設備はあるし、村みたいに緑は豊富。のんびり暮らすには絶好の場所と言えるだろう。
「で、厳しいお父さんって誰?」
「逢坂当麻(おうさか・とうま)。獲物は大剣だね。といっても凄い大きいって言うより、結構大きいくらいだけど」黄金定食を食べ終わり、「桜のお父さんに習った神崎流剣術と、お父さんのお父さんに習った逢坂流剣術の、融合って言ってた」
まさかここで自分の流派が出てくるとは思わなかったが、考えてみれば珍しい事でもない。神崎優作と言う男は、世界を旅して世界中の剣術道場に喧嘩を売って強くなった男だ。どこかの道場に所属しているなら知らない人はほぼ居ないだろう。有名なおかげで結構門下生は居たりする。
「逢坂流って大剣専門だったよな?それに対して刀とか細剣専門の神崎流を混ぜるのって無理なんじゃないの?」
神崎流は、スピードと威力を重視した剣術。逢坂流は大剣による一撃必殺の威力重視。つまりは重さで勝つ流派なのだが。
「お父さんの大剣は軽いんだよ。刀くらい。だから威力は最強。それにスピードもある。逢坂当麻と神崎優作。1位2位を争う剣豪とかって言われてるみたいだよ」
父さんに並ぶバカが居るとは・・・と思っていた桜だったが、それは千秋に失礼な気がしたのでそう考えるのをすぐにやめる。桜がロッキイマウンテン定食を食べ終わる。桜は食べるのが遅いときと、速いときがある。
「心の準備はしておいてね?」え、と言う桜に対し、「多分お父さんが勝負挑んでくるだろうから」
剣豪から喧嘩を売られるほどの恨みを買った覚えはないのだが。携帯型異次元カードに刀入れといてよかった、と思った桜だった。
「お父さんの空破・竜激旋には気をつけて。あれが当たって立てた人は誰もいないから」
技名からすると遠距離、中距離技だろうか。神崎流にも逢坂流にもない名前だった。本当に2つの流派を融合しているらしい。
こうして、緊張感あふれる夏休みの旅行が始まった。

逃れられぬ運命編開始・・・・・・



[650] 第28話「ヒット・イン・ザ・ワン」
のんびり - 2009年01月20日 (火) 19時22分

7月29日、11時32分。
暑い。アスタ・デル・バイは赤道に近いため、結構暑い。こういうときばっかりは学園を恨みたくなる。学園の制服は、夏服と冬服の区別がない。女子にだけセーラーとブレザーがあるため、こういうときは半袖バージョンのセーラーが人気になる。今回千秋も来ている。男子はいつでもブレザーなので、暑い。ちなみに、旅行にまで制服なのは学園の面倒くさい決まりのせいだ。
予定的には、千秋の家に行くのは明日。今日はとりあえずアスタ・デル・バイを見て回る。というか、まずここの人達へ挨拶をしようという魂胆だ。まず泊まる宿屋を捜す事にした。といってもここにはそこまで宿屋が多い訳ではないので,一番最初に目についた宿屋「紅」に泊まる事に。部屋は1つ。開閉可能の壁があり、食事用のテーブル、お茶用のちゃぶ台に、ベッド2つ壁のこちらと向こうに1つずつ。窓を開けると、広大な緑の世界が広がっていた。その緑の中に目立つ建物が建っていた。
「あれが私の実家だよ。大きいけど、家賃がやすいっていう理由で買った家みたい」
「あれで安いのか・・・?」
「うん。一ヶ月10000P。(勝手につけるけど、現実では5000円)」
普通あれほど大きければもっと高いはずだ。何故そこまで安いのだろうか。
「噂だけど、あれ売ってくれた人を脅して値切ったらしいよ」
脅した・・・まさかいえの値段を下げるために脅す人間が居るとは思いもしなかった。ちょっとだけ千秋の家に行くのが怖くなった桜だった。
7月30日午前2時16分。
ガサガサ・・・、何かが動く音で桜は目を覚ました。周りに人は居ない。ネズミでも居たんだろう、と再び眠りにつこうとする。
ガサガサ・・・また聞こえる。今回はとりあえず無視する事にした。ネズミなら対して気にする事もないだろうし、それに今何時だと思って
突然殺意を感じた。それは確実に桜に向けられている物で、はっと目を開ける。
そこには既にナイフを持って斬り掛かろうと飛びかかって来ている男が居た。
一瞬反応が遅れたが、とりあえず横に転がりベッドから落ちながらもその刃を避ける。
「ぅお!・・・・・・おわっ!!」
打った腰をさする時間すら与えずに、第二攻撃が襲いかかる。起き上がってる暇はないので、横に転がり避ける。すぐさま立ち上がり、またも遅い来る男を改めて見る。
男の姿はまさに銀行強盗でもしそうな姿だった。黒い頭ごと包むマスクに、黄土色のコート、普通のジーパン。身長的には170〜75くらい。手には装飾の施されたナイフを持っている。コートの胸には何か紋章のような物がついているが、何の物かは分からなかった。
男はまっすぐこちらに向かってくる。戦闘訓練でもされているのか、男には全く隙がなかった。男のナイフは、魔力でも込められているのか、青いオーラのような物が見える。
(隙が無いなら作る・・・!)
向かってくる男に対して、桜は避けもせずただ身構えているだけだった。そして男がナイフを降ろした瞬間、桜は男の懐に入り、腕をナイフを持った腕をつかみ、胸ぐらをつかんで背負い投げを炸裂させた。男は相当のダメージを負ったのか、立ち上がる速度が遅い。それを見逃すほど桜は甘くない。
立ち上がろうとする男に近寄り、後遺症の残らない程度の力で後頭部にひじで殴りつけた。
瞬間、男の体から力が抜け、バタリと気絶した。
    *             *              *
7月30日午前2時19分。
桜は男を持っていた手錠で男をベッドに縛り付けて、千秋の眠る壁の向こうに行く。
こちらだけに居るはずが無い、もしかしたらこっちは揺動で、本当に狙って来たのは千秋かもしれない。開けている時間はない。あとで直せば良いだろうと考えながら、走りつつ勢い良く壁をけり倒す。予想道理。千秋を抱えて立ち上がった男が居た。突然の事で驚いたのか、ビクッと体がはねていた。足を止めず、男の足を払う。
反応が遅れ、そのまま転んだ男は千秋を放り投げた。すぐさまそれを受け止めて、ベッドに寝かせる。
起き上がった男は、銃を取り出すが、そんな事をしている間にも桜は懐に入り込んでいた。そのまま腕をつかんで足を払い、倒れ込んだ所で、
「ちょっと酷いけど、我慢してくれよ?」
そのまま腕を逆方向に無理矢理曲げる。
バギっ!という音と共に、男の悲鳴が聞こえる。激痛が激しすぎたのか、そのまま気を失った。その男もとりあえず、自分の部屋のベッドに手錠で縛っておき、千秋のもとへ行く。悲鳴で目が覚めたのか、目をこすりながら、ベッドから起き上がっていた。
   *             *             *
7月30日午前2時26分。
一通り今起こった事を千秋に説明すると、そのまま男達のもとへ向かった。彼らはまだ気絶している。すくなくとも骨を折った方は、まだ目覚めないだろう。
千秋は、コートの胸についている紋章を見て驚いていた。
「この人達、お父さんの生徒さんだ・・・まだ下の方みたいだけど」
逢坂当麻の生徒?彼は逢坂流の先生をやっていたのか。
「ううん。お父さんは自分で編み出した、金剛剣術っていうのを教えてるの」
金剛剣術。神崎流と逢坂流を融合させたと言う剣術流派の名前らしい。
「・・・・・・で、何でその生徒さんがここに襲撃を?」
「多分桜が狙い」
「やっぱり?」
やはり桜は逢坂当麻。千秋の父親に命を狙われているらしい。桜は一応優作の息子だが、優作になんて勝てた事は一度も無い。しかも本気は出されていないのに。
優作と争うようなバカに勝てる勇気が無い、というのが桜の本音だった。
    *              *              *
7月30日午前9時10分。
もう朝だ。1時間も寝ていないと言うのにもう朝だ。
また寝ている間に襲撃されると厄介なので、対抗策を練っていた。一日中起きていれば安全、という桜の案は、千秋の体に悪いと言う理由により却下された。そしていろいろ話し合った結果。
(千秋を後ろから抱いたまま寝る・・・何だよなぁ・・・・・・)
結果。緊張のあまり寝れなかった、と言う事だ。一応一言で理由を説明すると、彼らは絶対に千秋は傷つけないから、千秋を立てにすれば安全。ついでに寝ていられる、という千秋の理屈。もちろん桜は反対したが却下された。今日の千秋はなんだかいつもより迫力がある。
この状態では、戦場の緊張感など吹っ飛んでしまう。性的緊張感、はおおげさだろうか。とにかく意識してしまう桜だった。とりあえず最初に考えて事は、
(千秋、いいにおいしてたな・・・・・・)
抱いていたのは鎖骨の部分だったが、ちょっと柔らかかったな・・・とか、髪がさらさら、とか考えてる中。千秋が目を覚ました。
    *            *             *
7月30日午前11時49分。
朝食をとり、山を登る。何故なら千秋の実家は森の中の豪邸だからだ。山を登るときの一歩は緊張感が増していくグラフのような錯覚を覚えていた。
さて、千秋の家に着いた訳だが。家の第一印象、とにかくでかくて凄い。
家、と言うよりかは屋敷といっても過言ではない。大きな門に、朱雀、青龍、白虎、玄武の4匹の石像が建てられていた。家のドアは木製で、横にはチャイムがついている。
桜からは緊張の荒い吐息が漏れていた。まさに自分にとっては死地の場所へと付き合おうと言うのだから仕方ないのかもしれない。
「大丈夫・・・・・・?」
「あ、ああ!だ、大丈夫・・・・・・」
完全に空元気だ。分かりやすい。
千秋がチャイムを押す。ピンポーン、という音ではなく学校のチャイムのように、キンコンカンコン鳴っている。中からドタドタドタ!と誰かが走ってくる音が聞こえる。瞬間、家の壁に思いっきり叩き付けられ、さらに勢い良くドアが桜を挟む。
ドガっ!!という音と共にドアによって肺の中の空気が無理矢理吐き出させられる。
「うぉ!・・・あがぁっ!!?」
膝をついたまま、去っていく扉の方を見ると、40代くらいの男と、千秋が抱き合っている。
何!!?という考えを捨て、会話を聞くと、
「よく帰って来た!千秋!!心配したぞ〜!!」
「ただいま、お父さん」
何!!?と言いながら思わず立ち上がる。声に反応して、千秋がお父さんと言った男がこちらを向く。ギギギ・・・と音を立てながら。
この男が逢坂当麻のようだ。外見、たくましそうなかっこいい親父に見える。髪の色は千秋と同じちょっと薄い茶色。髪で片目は隠れており、服装はYシャツ一枚と、スーツのようなズボン。当麻と桜の目が合った。彼の桜に対する初めてかけられる言葉は、
「けっ・・・また千秋に無駄な虫けらが憑きおったか・・・!」
その目は怒りに燃えていた。
      *           *            *
7月30日午前11時59分。もうすぐ12時。
「あえてはっきりと言わせてもらおう。大きな声で。なぁぜだぁっ!!!!!
どういう流れを通れば千秋の家に来て10分で剣豪とまで言われた男、逢坂当麻。つまりはアンタと戦わなければならないのかっ!?他の作品だってもうちょっと時間はかかるぞ!?」
「それは私が千秋の父だからだっ!無駄な虫けらは全て排除する!!」
さっきから虫けらとしか呼ばれていない。それが頭に来たのか、
「俺は虫けらじゃねぇ!!桜って名前があんだよっ!!!」
「私に勝てたら覚えておいてやろう虫けら!」
「あ!また言いやがったな!!」
千秋は母、逢坂千尋に肩を押さえられている。邪魔をしないため・・・なのだろう。
当麻の持つ大剣は確かに結構大きいくらいの物だった。刀身には竜の彫刻が掘られている。当たったらそうとう痛そうな剣だ。

こうして、意味が分からないまま、逢坂当麻との戦いに臨まねばならなくなってしまった桜だった。



[658] 第29話「戦う事の切なさを知る」
のんびり - 2009年01月21日 (水) 19時07分

寒い。アスタ・デル・バイは暑いのだがここは寒い。何故だろうか。まあ、暖房がつけられたからじきに暖かくなるだろう。
現状。緊張感で溺れそうだ。横には、千秋と千秋の母逢坂千尋。目の前には、神崎優作に並ぶほどの実力を持った剣豪、逢坂当麻。その手には竜野彫刻の入った大剣を持っている。桜も刀は持っている。が、桜には勝てる機が全くしなかった。優作に勝った事も無いのに優作と並ぶほどの男に勝てる訳が無いと考えているからだ。
が、桜には負けるわけにはいかない理由が出来てしまった。
「私に勝てなかったら、死を意味する。途中で降参して千秋を諦めるなら命は助けてやろう」
何の条件も無ければ何も考えずに降参しよう。だが、千秋を諦めろなどと言われたら、降参なんて出来るはずが無い。負けられない。ただ、負けない。負けない負けない負けない!
「降参なんかするか。死にたくもないね。絶対アンタに勝つッ!!」
当麻は軽く鼻で笑って、
「いいだろう。勝てる物なら・・・・・・なっ!!」
突然猛スピードでこちらに突っ込んでくる。目で追うのがやっとだ。気がついた時には既に目の前で大剣を振る途中だった。避けるのは不可能、ならば。
ガキン!と言う音が鳴ったのは、当麻と桜の剣がぶつかりあったときだった。カタカタと震えながらも刀身の付け根でギリギリ受け止めている。
(は・・・速っ・・・・・・!)
当麻は受け止められた剣を弾く。刀に引っ張られて腕も弾かれた方に持っていかれる。弾いて上に持っていた大剣をそのまま振り落とす。桜はそれを無謀にも足で止める。はいていた靴の靴底に深く切れ目をいれるがそこで止まる。
「セ・・・セ〜フ・・・・・・」
「ほう。私の斬激を2度も防ぐか。なるほど、今までのとは違うようだ」
「い、今まで?」
当麻は大剣を靴底から抜き、
「そう。私はいままで千秋に近づく虫けらどもを排除して来た。逃げた者や、死んだ者も居る」
いままで、千秋を求めて男どもは、当麻に勝負を挑んだ。が、全員敗北。その数15679人。それほどまでに、千秋はモテるのか。それとも。
「奴等は全員千秋の武器化種族としての力を求めて来た者達だった。力を利用するだけ利用し、最後には捨てられる苦しみを私は知っている」目を閉じて「私はかつ軍人として生きていた頃があった。大佐として国のために戦い、傷つき、時には諦めた時もあったがそれでも私は国に尽くした。この国を愛しているから」
自分にとってこの国が全てだった。だからこそ戦い続け、傷つき続けたと言うのに。
「軍は突然私を切り離した!散々私にやれ、戦えと言って来た国は!軍に私を殺せと命じて来た!!理由は分からない。ただただ逃げたよ。生きるために。ともに戦った仲間を殺し、逃げ続けて5年だ。優作先生と出会い、千尋と出会い、千秋が産まれたこの20年を、壊したくはないから家族を守るために、今度は国のためではなく自分のため、そして愛する者のために戦った!貴様のような虫けらに!私の娘はやらん!!」
瞬間、姿が消えた。周りを見ても何処にも居ない。だが、桜は気がついた。これは見えないのではなく、速すぎて見えないのだと。そして、聞こえるジジジという音がなんなのか理解した。
(神崎流剣技、竜の型、さかのぼる龍牙・・・!!やばい!早くここを離れないと!)
「だが遅い」
心読んだかのような返答に、返事も反応もする間もなくそれは襲いかかった。
ズシャっという肉を断ち切る音と共に、桜の体は宙高くに舞い上がった。真っ赤な血を流しながら。さらに桜の上に飛び上がり、バリバリ!と言う音を立てながら大剣をまわしている。
「神崎流剣技では鴻之舞(こうのまい)だが、私は神崎流の剣技は全く使わない。逢坂流剣技・改、振り落とされた鉄槌・・・!!」
次に見た物は真っ赤な雨だった。自分の血で作られた雨。体中から一瞬力が抜けたがすぐに戻ってくる。
当麻の決意は桜に取っては大きな物だった。ただ守りたい物のために戦う。それだけの思いが彼に力を与えているのだろう。だが。だが彼には間違った部分がある。
「所詮は千秋の力を求めた者。貴様では私は倒せん」
桜は千秋の力が強大だから千秋を求めているのではない。ならば最初から逃げている。彼はただ、彼女が好きだから。最初に見たときから、あの時は可愛いと思っていただけだった。だがこの数ヶ月。千秋の事を知るたびに自分の彼女への思いが増幅されていくのを感じた。時間が止まれば良いとすら思った。それほどの思いを寄せた女性だからこそ、桜は立つ。まだ体は立ってくれる。まだ!
「決めつけてんじゃ・・・ねぇ。俺はアンタが思ってるより単純なんでな。負けたくないときは意地でも立つ!もう一度だけ言うぞ。俺はアンタを倒すっ!!」
思いをぶつけて立ち上がる。剣を握りまっすぐ立つ。ただ自分のために。千秋をこの親バカから奪うために。立つ!そして当麻の方へまっすぐ走る。そして剣を振り落とす。残った力で出せるだけ思いっきり。
それでも彼はその剣を弾く。いや、受け流したというのが正しいだろう。そのまま桜の腹を蹴り跳ばす。着地は出来たが、足から力が抜けて膝をついてしまう。
「桜!!」
千秋の声が聞こえた気がした。だがそんな事が分からないくらい限界が来ている。
当麻はその大剣を腰元で構える。
「空破・竜激旋・・・・・・!?」
千秋が言った。鮮明に聞こえたその言葉に桜は思わず身構える。
「さあ、一度だけ問おう。千秋を諦めるか、このまま死ぬか。さあ、選べ!」
ゆっくりと立ち上がる。そして一言だけ告げた。
「どっちも嫌だね」
そうか・・・と一言返答を返し、目を閉じ、そして開けたその瞳にはとてつもない殺意が込められていた。そして一言だけ叫んだ。子を思う大きな一言だった。
「つらぬけ、空破!竜激旋!!!」
瞬間。桜の意識は途切れた。ただただゆっくりと。
       *           *            *
目を開けると全身痛かった。が、悲鳴は出ない。声が出ないほどやられているようだった。体中動かない。耳に聞こえる声を聞き取る。聞き覚えのある少女の声を。
「お父さんのバカ!!何で?何でいつもこんな事をするの!?私のため私のためって!私は望んでない事をいつも!私のため?そんなのお父さんの過去を私に押し付けてるだけじゃない!!!っ!」
パン!と音が鳴った。千尋は激怒した顔で千秋の顔をビンタする。その目には涙がうっすらと見える。
「お父さんに何て事を言うの!!謝りなさい!千秋!謝って!!」
桜は聞いているだけしか出来なかった。動かない体に動けと命じる。だが、足も、腕も、指も、首も頭も体のすべてが動かない。自分の体ではないように言う事を聞か無い。
「騙されるな千秋。所詮あの男もお前の力を欲しただけの、
「そんな訳無い!!」
当麻の声を遮るように叫ぶ。いつもの千秋が出すような声ではない事に驚いているのか、当麻の体は固まっている。
「桜はそんな事する人じゃないよ!なんで決めつけるの!?」
瞳から一滴の雫が流れた。それはただの一滴の涙だが、これは重過ぎる。他の誰かが軽いと言ってもこれは。彼に取っては重た過ぎる。体を無理矢理動かそうとする。動かない。それでも動かそうとする。立ち上がるために。彼女を泣かせぬために。自分勝手な、それでも大切な思いのために。桜は立ち上がる!
「・・・・・・!!」
千秋はその光景を見て驚きと歓喜が溢れ出した。涙はもう出ない。流れない。
「ば・・・・・・バカな・・・私の空破・流激旋をくらっておきながら。バカな!!」
当麻は飛び出した。そしてそのまま、空破・竜激旋を5発も連射した。桜の体は思いっきり壁に衝突する。
「ガハっ・・・・・・!!」
だが今度は倒れない。体中に貫通した穴があるのすら気にせずにその足を前に出し一歩、二歩三歩四歩五歩。体が動く限り前に進む。当麻は恐怖した。千秋の力が欲しいだけで立ち上がるような男なのかと。普通の人間なら死んでいるような状況でも求めるのかと。
「違ぇよ」
突然聞こえた声にハッと前を向いてみる。ギリギリと音を立てながら。
その顔は痛みも苦しみもない。ただ笑っていた。にやりと。歓喜にあふれた笑いをこちらに向けていた。
「俺が・・・・・・立つ理由なんて・・・・・・・・・・千秋の力が・・・・・欲しいからじゃない。・・・ただ、千秋に・・・・・・泣かれるのが・・・嫌。・・・・・・それだけだよ」
当麻は恐怖とともに何故か敗北感を感じた。それは、ただこう思ってしまったから。
こいつには勝てない、と。当麻すら超えるほどの思いを彼は目の当たりにして思ってしまった。負ける、と。
当麻は再び恐怖した。口から血を吐きながら、体中が真っ赤になるほど血を流しながらそれでも自分に立ち向かってくる男。千秋を自分から奪いにくる男。神崎桜と言う男に。
そして、目の前にいつの間にか立っていた彼は、その剣を振り下ろした。




[662] 第30話「逃れられない悲しき運命」
のんびり - 2009年01月22日 (木) 22時56分

7月30日午後8時13分。
「え?俺勝ったの?」
「は?覚えてないのか?」
ここは、アスタ・デル・バイの森の奥にある屋敷くらい大きい、されど家賃は安い千秋の家の食堂。大きなテーブルが。と思いきや普通よりちょっと大きいくらいのテーブルが1つと、椅子が4つ置いてあり、そこに桜、千秋、当麻、千尋が座り夕食を食べている。当麻と桜の戦闘が終わり8時間経った。当麻は傷は深いが、重傷と言うほどでもない。桜は月の加護の力により、内臓は全部無事。貫通していた傷も一応は塞がっている。動きすぎると開いてしまうが。何せまだまだ使いこなす事が出来ていない桜であるから、というのと、まだまだ未熟ってことだろう。
さて、話によると、桜は今日の戦闘の事をあまり覚えてないらしい。
「吹っ飛ばされて気絶したあとの事が思い出せないんだよな〜」
「今日の事だぞ?何故覚えていない」
「だから分からないって」
表情に嘘をついている様子は無い。どうやら本当に覚えていないようだ。ハンバーグを食べつつむぅ〜、と思い出そうとするがやっぱり無理なようだ。
最終的にはもうどうでも良いと言う結論にいたった。
それにしても。何なのだろうか、この夕飯の味は。恐ろしく美味しい。茹で方炒め方切り方味付けの仕方から何まで完璧過ぎる。いったい誰だ、これほどの料理を作る神様は。
夕飯を食べ終わると、千秋は皿洗いを手伝っているため、桜と当麻は2人っきり。もはや思い出す事は諦めた桜は、千秋がくれたお茶を大事そうに飲んでいる。
「ふう。誰なんだ?あの完璧過ぎる料理を作ったのは。食堂のおばちゃんですら出せない美味さだったんだけど。俺でも無理かな」
桜は意外と料理は出来る。まあ並の奥様より少し上くらいだが。
桜の問いに当麻は食後のデザートとして出されたバニラアイスを食べながら、
「千秋と、千尋さんだ。家で雇ってるメイドさんとかもちょっと手伝ってる。家の料理はそこらじゃ食えないぞ」
「それは認めさせてもらいます。恐怖すら覚えたね、あの美味さには。そしてここに産まれれば良かったとすら思った」
見た目は何処でも見るような物だったが、今思うと何故か輝いていたようにも思う。まるで食材と食材が踊っているように。歯ごたえから味。食べた事を悔やませるほどの美味しさを毎日食べているこの男が羨ましく思えて来た。
皿を洗う音が消えると、千尋と千秋がキッチンから出て来た。
「お風呂沸いてますから入って来てください。もちろん桜君も」
    *           *              *
7月30日午後00分。
風呂は露天風呂だった。夜空が丸ごと切り取られたように空には輝き、しかも温泉。これほど豪華で安い家があるのだろうか。否。あるはずが無い。
ちなみに男湯では、当麻と桜が入っていた。ただただ静かなときが流れて行く。
桜はとりあえず聞いてみたい事を聞いてみた。
「なぁ。それ、しみないの?」
「ああ、傷口に水に触れてもしみない消毒薬を塗ってある。だから全くしみない」
へ〜、と頷きながら聞いていた桜だが、
「で、どこまでいったんだ?」
「は?」
意味の分からない突然の質問に驚き情けない声を出してしまう。
「それは階級か何かか?それとも旅でどこまで行ったかか?それとも別の物か?」
「何を言ってる?千秋との関係はどこまでいったんだと聞いている」
はいぃ!?と叫びつつ立ち上がり再び座る。とりあえず深呼吸をして、
「キスくらいはしたんだろうな?」
「はぁぁ!!!?し、ししししししてねぇよ!!!」
「しらばっくれるな!目が泳いでいるぞ!」
「だからしてないって!!」
かなり焦る桜。まあ本当にキスはっていうか、告白すらしていない。
「ふう・・・・・・まったく、最近の若者は恥ずかしがりやだな。それくらい堂々と白状したらどうだ!」
「恥ずかしがってる訳でも嘘ついてる訳でもなく無いっ!!こ、告白すらしてないわ!!」
「嘘をつくなっていってるだろう!!」
「ついてないって言ってるだろ!!」
ぶしゃあ!と景気のいい音を立てながら2人は温泉の中に倒れる。傷が開きかけたようだ。完全に意識が飛んでいる。
10分後。
「ま、まあ。とりあえずそういう事にしておこう」
「あ、ああ。これ以上は体が・・・」
完全に疲れていた2人だった。
    *              *                *
女湯。
こっちはこっちで、当麻と同じ事を千尋は聞いていた。
「で、桜君との関係は何処まで進展したの?」
「え?」
「キスまでいった?それとも漫画やアニメドラマにも出せないような所まで!?」
「してないよ、そんな事。だいたいまだ桜とはそういう関係じゃないし・・・」
「まだ?ふ〜ん。千秋ちゃん的には今後そういう関係になる予定だと?」
顔を真っ赤にして、
「そ、そんな事誰も言ってないよ・・・・・・」
「へ〜。じゃあ嫌なの?」
「・・・・・・・・・・・・・はぅ」
顔を真っ赤にしたまま口を湯船につける。千尋はにやにやと嫌みな笑いを千秋へ向けている。
「まあ、千秋は、こっちからよりあっちから〜、って言うことだよね?」
聞き慣れた声が聞こえて来た。さらに、
「千秋ちゃんは勇気が無いだけじゃないかな?」
声のした方向に視線を向けると、そこには何故か居るはずのない夏奈と佐百合が居た。しかもいつの間にか温泉に入っていた。
「な・・・・・・何で夏奈ちゃんと佐百合ちゃんが・・・?」
夏奈は、ふっ、と偉そうな笑いをして、
「桜と千秋のデートはどんなイベントが行われ、どういう風に恋人フラグが立つかな〜って思って、ずっと付けていました〜♪」
「まあ尾行、っていうのだね」
男湯の方で、ここまで届く大声が聞こえる。もしかしたら優人や暁も来ているのかもしれない。
男湯。
いつの間にか居た優人は桜といつも道理の喧嘩を繰り広げていた。
「何でお前が居るんだよ!?さっさと帰れ!!」
「ふざけんな!!今から帰っても学園には入れねぇだろうが!!」
学園の閉門は10時。ここからだと学園まで2時間はかかるから、学園には入れないのだ。周りの町にはこの時間チェックインは出来ない。学園の目の前で野宿なんてしたら魔獣に食べてくださいと言っているような物だ。
「いいだろ!別に良いだろ!食われて骨になってろこのバカ!!」
「お前が食われろ!」
「それはお前だけで________________________」
ぶしゅう!と景気の良い音と共にとまた倒れる桜だった。
   *               *                *
8月1日午前1時34分。
夜、千秋と一緒の部屋で寝る桜だったが、恐ろしい緊張感が垂れ流しになっている。
その理由は、仕切りがないこと。ではなく。同じベッドで寝ている事。しかも、気付いていないのか千秋は桜の腕に抱きついている。
(うぉ・・・・・・む、胸が・・・・・・)
かなり無防備な彼女を見て、ちょっと気持ちが変な方に向いたが首を振って目を背ける。体中から嫌な汗が流れ出ていく。頭をフル回転させこの状況の打開策を探る、が、緊張感が正しい方法を見つけ出してくれない。
(や、ヤバヤバヤバいヤバいヤバヤバヤバヤバイヤバヤバイッ!!!!)
最終的に見つけ出した答えは。我慢して寝る。
(って、できるか〜!!!!!!!!)
さらに千秋の抱きしめる力が強くなり腕にかなえいつよく胸が当たる。
(ッッッッッッッッッッッ!!!!!??)
もはや頭の中が真っ白になってしまい、何も考えられない。ただただ、早く眠りにつける事を祈るだけだった。それに対して千秋は、すぅすぅ、と寝息を立てながら落ち着いた様子で寝ている。
気持ちを変な方向に曲げないようにしながら寝ようと努力しながらも無防備に眠る千秋を前に、落ち着いて寝るなんて事は出来なかった。
   *              *               *
8月1日午前3時16分
ようやく眠りにつけた桜だった。
ズドォン!!と何かが爆発したような音が突然響く。それはこの家からというよりちょっと遠くから。そう、アスタ・デル・バイの方から。
「千秋。千秋!」
千秋はまだ腕に抱きついていたが、そんな事は気にせずに肩を揺すって起こす。
「ん・・・・・・どうしたの?桜」
眠気眼をこする千秋。またさっきの大きな音がなる。
「!!な、何!?この音!」
突然勢いよくドアが開け放たれる。そこに居たのは当麻だった。
「さっさと準備をしろ!!襲撃だ!」
     *             *              *
軍による襲撃。それはある男が目的。その男は・・・・・・・

桜と千秋達、優人や夏奈達と当麻に千尋。そして家に居たメイドさん達は山の森をどんどん上っていく。その目的は山頂の超転移空間移動装置に向かうためだ。アスタ・デル・バイの出入り口は軍によって塞がれている。逃げるにはこれを使って一気に遠くに行くしかない。
遠くで「居たぞ!」と言う声が聞こえた。どうやらもう後ろには軍の兵士が来ているようだ。とにかく走らなくては殺られる。
「ちっ。もう来たか。皆!急げ!」
同時に銃声が鳴り響く。あちこちに外れた弾がくい込んでいく音が聞こえるがそんな物は気にしている暇はない。現に後ろには兵が近づいて来ているのだ。
「見えた!」
目の前に超転移空間移動装置が見えた。形としては、大きな卵が土にくい込んでいるような形。人数は25人くらい入りそうだ。
「さあ!入れ!」
次々入っていく。メイドさん達に優人、夏奈、佐百合、暁に千尋に千秋。そして桜と。桜が、
「全員入った!アンタも速く!」
だが当麻は側にあった開閉スイッチの閉まる方を押すだけで入ろうとしない。
桜は閉じるドアを押さえ、
「何やってんだ!早く入れ!」
「それは25人乗りだ。メイドさん達は18人。君らは6人。そして千尋さん。これで丁度25人だ。私は入れない」
人数をオーバーするとエラーがおき、超転移できない。それを知っているからこそ彼は最後まで残ったのだ。
「残るなら俺が!」
「だめだ」迫る兵達の方を向き、「今のお前は動きすぎれば傷が開く状態だ。さっき走るのだってギリギリだったお前には奴等を相手にするのは無理だ」
「でも!」
当麻はこちらを向く。その顔は穏やかに笑っていた。それは初めて桜に向けられた笑みだった。
「お前には守るべき大切な人が居るだろう」
はっと気がついたように退く。何か反論しなくてはと思っているのに何も言葉が出てこない。
「お父さん!!」
当麻は千秋の言葉を初めて無視した。それは彼の決意の示しなのかもしれない。
「これは私からの最初で最後の依頼だ。千秋を守れ。どんな悲しみからも痛みからも悪意からも。何事からでも守り尽くせ。それが私の依頼、だ」
「・・・・・・はは。報酬は・・・千秋との事の父親公認。か?」
その声は震えていた。こんな許し方は馬鹿げている。ちゃんと普通に自分から許してもらいに行きたかったのに。こんなふざけた・・・・・・
「ふん。そうだな」
桜は押さえていた手をゆっくりと引っ込める。その手を千秋は握ってくる。
「桜!扉を斬って!お父さんが!お父さんが!!」
『どんな悲しみからも痛みからも悪意からも。何事からも守り尽くせ』
当麻の言葉が頭に響く。超転移のレバーに手をかけて呟く。
「最初で最後の依頼、か。だとしたらこれは俺にとっての、最初で最後の任務失敗。だな・・・・・・」
ふっと涙を1つ流して。その手でレバーを。

降ろした。

     *              *               *
8月2日。
学園の夏休みの昼頃。千秋は部屋で布団に潜っていた。朝から何も食べていない。桜は部屋に居ない。千秋はただ一人布団に潜っていた。枕には涙のあとがある。昨日はずっと泣いていたのだろう。
(バカ・・・・・・桜の・・・バカ)
頭では思ってはいけない事だと分かっていても、何故か頭にこれだけが滝のように流れ込んでくる。あの時。桜は当麻を残してレバーをおろして学園に超転移した。
その時、千秋と桜の部屋を塞いでいたドアが開き、千秋の母千尋が入って来た。
「千秋、起きなさい」
その台詞には固い物が入っていた。
「お母さん・・・・・・」
「起きなさい。それで、早く桜君に会いにいきなさい」
「でも・・・・・・・」
「お父さんを見殺しにした?」
その目は鋭かった。千秋にも見た事がないほどに、まるで研ぎすまされた刀のように。
「彼はただ自分のすべき事を、お父さんの言葉を無駄にしないために行動しただけ。お父さんはきっとどのみちあそこで死んだわ」
桜に罪はない、と言いたいのだろう。一番彼を失って悲しんでいるはずの千尋は桜に罪を押し付けようとはしなかった。だから、
「普通に接してあげなさい。彼は結構落ち込んでいるから、元気づけてあげなさい」
千秋は起き上がる。目が覚めたように。
   *               *               *
桜は食堂で何も食べずに座っていた。自分のした事に後悔していた。
あの時、自分はレバーを降ろした。千秋に嫌われるのを覚悟で、攻められるのを覚悟で。それでも降ろした。自分のためではない。当麻は言った。守れ、と。だから降ろした。千秋を守るために。でも、
「悲しみって奴からは、守れなかったな・・・・・・」
ぐるるるる、とお腹が鳴る。こんな時でもお腹は空く。
「桜」
声のした方を向く。そこには千秋が居た。
「千秋・・・」
2人は定食を持って席に座る。静かに食べ始め、静かに食べ終わる。無言。会話はなく、ただ時間が過ぎていくだけ。
「ごめん」
桜は一言。
「俺が言えた事じゃないけどさ。アイツは生きるべきだったと思う。今までの罪を生きて生きて生き抜いて、戦って戦って戦い抜いて。自分の罪を流すべきだった」目を細くして、「何でだろうな。いままで俺が戦って来て少しは強くなったのに、あんな時じゃ何も出来ない」
「そんな事・・・ないよ」
静かに言った。桜はその言葉に驚きを隠せなかった。本当は攻められるだろうと思っていたのだが。
「あの時桜がレバーを降ろしてなかったらきっと皆死んでた。私や桜も。だから、そんな事言わないでよ」
何故か涙が出た。本当に理由は分からなかったけど涙は止まらなかった。その肩を千秋は後ろから静かに抱きしめた・・・・・・

逃れられぬ運命編、終了。




[684] 第31話「優人の憂鬱な旅行の中で」優人の不幸編・開始
のんびり - 2009年01月31日 (土) 11時37分

海だ。サラサラした浜辺の砂は感覚は気持ちよく、日差しが強いためちょっと暑い。
浜辺と海には人が何人かいて、はしゃいでいる。浜には何本かパラソルが刺さっていてそこに寝たり、ご飯を食べたりしている。
そのパラソルに一人ぽつんと水着も着ずにブレザーは着ていないがワイシャツ一枚に長ズボンの天草学園の制服を着ている少年がいた。漆黒の長髪を後ろで一本に束ね、その顔はかっこいい部類に入るだろう。その目は赤いルビーのような色をしていて、汗だくで突っ立て居る。
桜井優人。
天草学園の高校一年生で、それなりに腕が立つ。が、問題なのはそんな事ではなく何故海など似合わそうな彼がここに居るかと言う事だろう。
「お待たせ〜!!」
後ろから少女の声が聞こえる。聞き覚えのある声だったので振り返る必要はないと見た。振り返りたくも無かった。
「あれ〜?何で水着着てないの?」
「今日は・・・・・・忘れた、・・・・・・・!!?」
声の主、夏奈を見た瞬間時間が凍った。優人だけの時間が。驚いたのは、その着ている水着だ。
「な、何だそれ!!何でスク水着てんだよ!?」
高校一年と言う歳にしてさらに海でスクール水着、しかも胸元の部分に中学2年って書いてあるのだがいつの物を来ているのだろうか。かなりピッタリなので胸や腰が目立つ。わざとやっているかのような感じだ。優人の記憶の中にはちゃんと別のを入れていたはずなのだが。何故それを優人が知っていたかは謎である。
「別に良いでしょ?こっちの方が人の目ひくかな〜って♪」
「ただの変態だろ・・・・・・さっさと着替えてこいよ。別のあんだろ?」
「え〜別に良いじゃん」
「着替えてこい」
う〜、と唸りながら渋々更衣室に向かう夏奈だった。

10分後。スク水を着替えて普通の水着を着て来た。何故かその手にはジュースを2つ持っている。さすがにこの暑さの中、ずっと立ち尽くしていた優人は汗だくでバテていた。優人は夏奈にジュースを渡されると、とりあえず半分ほど一気飲み。中身はコーラだったみたいで、炭酸が疲れを吹き飛ばす。
「で、本当に水着忘れたの?」
「あ、ああ」
突然夏奈は優人のバッグの中を探り出し、
「お、おい」
「あ、水着あるじゃん」
ギクっと肩が揺れる。
「あ、あったんだ・・・」
「着替え的なよ?」
「いや・・・良い」
「何で?は〜や〜く〜!」
「いや!いい!」
じーっと優人の顔を覗き込み、
「もしかして、泳げないの?」
ギクギクっと肩が再び揺れる。そう、優人は泳げないのだ。最大でも10mしか泳げない。それ以上行くと、確実に溺れるのだ。だからプールの日は絶対水着なしと言う理由で休む。海も例外ではない。
「あはははは!!優人も可愛い所あるんだね〜!!」

嫌みな夏奈の言葉とともに優人の不幸な旅行が始まったのだった。


[695] 第32話「優人の恐怖な一日」
のんびり - 2009年02月06日 (金) 21時20分

宿泊する場所は民宿「果汁」。外見は和風だが、中の部屋は洋風が混じっている。中に入ると、和風の玄関がある。右に木製の靴箱、反対側には木で作られた馬の形をしたかなり手のこった置物が置いてある。奥には2階への階段。全てが新型の料理道具が使われているキッチン。その横の通路を行くと、風呂と食堂がある。
民宿「果汁」の奥さんに部屋へ案内される。
「うわぁ〜!すっご〜い!」
「すげ・・・」
中はかなり・・・と言う訳ではないが、民宿にしては豪華だった。ベッド2つに薄型テレビ。奥の窓は海が一望できるほどの大きさだ。広さは大体8畳くらいだろう。
仕事用の机の上にはインターネットをつなげるようにしてある。部屋にある小型の冷蔵庫には、「全部無料!!」と、書かれた紙が張ってあり、中にはコーラやスポーツ飲料。お茶にアイスまで入っている。
「あはははは!ベッドふっかふか〜!」
「ここは本当に民宿か?」
そんな疑問を抱いてしまうくらいにも豪華だった。これで安いのだから結構客も来るのだろう、と思っていた優人だが、食堂で夕飯を食べる時に、
「あれ、他に客居ないのか?」
そう、誰もいなかった。居るのは優人と夏奈、みんしゅく「果汁」の女将に旦那。娘に息子しか居ない。
夏奈が、
「他にお客さんとかは居ないんですか?」
それに対して女将が、
「はい。ここは滅多にお客など来ません」
こんなに豪華で安いのに客が来ない。そんな事ががあるのだろうか。普通ならもっと客が来てここは儲かっているはずなのだが。
そんな疑問を残しつつ、夕飯を食べる事にした。今回は和食。マグロと鯵(あじ)と鯛(たい)の刺身。コシヒカリのご飯に、豚汁。おひたし、漬け物だ。
(料理もそれなりに豪華・・・)
とりあえず優人はまずマグロの刺身を食べてみる。軽くあぶられているようだ。
(美味い・・・・・・食べるのがもったいないくらいに)
とか思っている割には箸が進み、あっという間になくなった。
ごちそうさま、と手を合わせて席を立つと、
「待ってよ。私もうちょっとだから」
優人としてはさっさと歯磨きして風呂入って寝たいのだが。しつこく袖を引っ張ってくるので、仕方なく待つ事にした。もうちょっとと言う割には残っているが。
30分後、ようやく食べ終わったので、席を立とうとすると、
「お客様、こちらデザートのスイカでございます」
今頃デザートが来た。食べ終わった時に出してくれれば良いのに、と心の中で愚痴を言ってみる。スイカのようだ。メロン横にスプーンが置かれるが、無視する事にした。かぶりついた方が速いし、優人はメロンとスイカにスプーンは使わない男だったので、スプーンは恥に置いておく。

何か妙にぬれていた。

ちょっとだけ舐めてみる。苦い。舌をえぐるような苦みだった。どう考えても普通の水ではなく、
毒、がついているようだった。優人は子供時代、父親の資料庫でいろいろとあさって勉強していた。興味のある事しかしなかったが、その中に毒の有無と、種類の判別法法。その記憶からこの毒の種類を、「ストリキニーネ」、だと判断した。そうとしか考えられなかった。ストリキニーネは強力な毒物で、致死量を摂取すると呼吸麻痺または循環障害を起こし死亡する。舌の鋭敏な人なら40万倍の希釈液でも苦みを感じるという物だ。
スプーンの先全体についているとすると、確実に致死量に達するだろう。
スプーンを使って食べようとする夏奈の腕を掴み止める。
「!?・・・ちょっと、何?」
邪魔するなと言わんばかりの怒りがこもった声で言った。優人は小声で、
『スプーンにストリキニーネがついてる』
『ストリキニーネ?それって、何だっけ?」
『猛毒だ。とりあえず食わずに部屋に戻るぞ』
とりあえず満腹だ、と理由をつけて食べずに部屋へ戻る。
「さて」
優人はポケットからイヤホンを取り出す。実は、さっき部屋に戻る前にスイカの皿に盗聴器を付けておいた。耐水性もあり、感度もよく、小型だからばれる確率が少ない。イヤホンからはさっき食堂に居た女将達と、誰かもう一人男の声がした。やけに低いその声は、
『何ぃ?殺り損ねただとぉ?』
『す、すいません!』
『学園の生徒は殺さなくちゃなんねぇのは分かってんだろ!!なのに何で殺リ損ねんだよ!!?』
『申し訳ありません!!』
『謝るなら誰でもできんだよ!!おらぁ!!』
ドスっという殴る音と蹴る音が聞こえる。
『ぼ、暴力はやめてください!!』
『うるせぇ!!女は黙ってろ!!』
今度はビンタの音だ。
『明日までに殺しとけ!!間違っても武器化種族の方は殺るんじゃねぇぞ!!』
バタン!!と扉を閉める音が聞こえた。どうやら男は出て行ったようだ。
優人と夏奈は下に降りていく。
「くそ!!どうすれば良いんだ!!」
「あなた、私はもうあんな若い子達を殺すなんてもう!耐えきれません!!」
「困ってるみたいですね」
ビクっ、と体が跳ね上がる。後ろから突然声をかけられたのだ。無理もない。
「さっきの会話聞かせてもらいましたよ」
優人はゴミ箱に捨ててあるスイカを取り出し盗聴器を取り出す。
それを見ると、ハッと驚いた顔になり、頭を下げる。何故自分たちを殺そうとしたのかを、聞くと、
「聞いていたのなら、さっきの男はしっているでしょう」
「あれは誰だ?」
降ろしていた顔を上げ、
「あれはビームス・アルマーク。ギャング、とでも表現すれば良いのでしょうか」
思い出すのも嫌だと言う顔をして、「この民宿を建てた時、あの男が一番目の客でした。その時に、かつて私が人を殺していた事を言いふらされたく無かったら言う通りにしろ、と言われて・・・」
それで言う通り、学園の生徒は必ず殺していた、と言う事だった。ここの家族はそうするしかなかった。彼の罪をばらされれば路頭に迷うのは確実だ。
ちなみに学園の生徒を狙う理由はパートナーの武器化種族だ。契約者が死ぬと、その2人の契約は解除される。それが目当てで学園の生徒や、ガードナーを殺そうとする物は少なく無い。武器化種族をほしがっている物等山ほど居るから高く売れるそうだ。
「すいません!!でも、私たちにはそうするしか!!」
優人は深いため息をついて、夏奈が、
「何で学園に連絡しなかったんですか?」
「そ、そんな事したら捕まります!!」
いや、と優人が
「そうとは限らないぜ。家の学園長は結構甘いから、金払うだけで許してくれるかもよ」
それは学園長としてふさわしいのだろうか、と自分で言っておきながら考えてみる。
「ってことは、助けてあげるの?」
からかっているかのような言い方だったがこの際気にしない事にする。
「仕方ないだろ。このままほっといたらまた生徒が殺されそうだし。とりあえず、その、ビームス・アルマークを倒せば良いんだろ?」
それを聞いた彼らは、
「む、無理です!奴はここら辺を仕切ってる奴ですよ!?パートナーの武器化種族も強力だし、何より元軍人だ!君みたいな子供が勝てる訳ありません!!」
その言葉を聞いて鼻で笑うと、
「何言ってやがる。俺は奴を超えたい、そんな馬鹿倒せないなら一生かかってもあいつには勝てない!」
優人は一人の女の事を思い出していた。あの、「クラン・ストレイトス」を。
「随分熱く語るね?」
「うるさい」




[698] 第33話「優人の本気の戦闘」優人の不幸編、終了
のんびり - 2009年02月07日 (土) 23時27分

民宿「果汁」の入り口より約1kmの路地。そこに桜井優人は夏奈を武器化状態にして入り口の方を狙っていた。その理由は民宿「果汁」を含めた人達を助けるため、というよりは学園の生徒の犠牲を防ぐためだ。
優人は自分の目と夏奈のスコープをリンクさせ、ライフルのように遠くまで狙えて、中距離でも少し近くても精密射撃が可能になる。だが距離に応じて魔弾に注ぐ魔力を多くしなければならない。でないと途中で消滅してしまうのだ。1kmだと多少多くなってくる。
ちなみに、これが外れてもみんしゅく「果汁」に被害が及ぶことはない。持って来ていたマジックタロットで結界をはってあるからだ。まあ逆に言えば、民宿「果汁」以外の建物に当たれば被害は出る訳だが。
「・・・・・・・・・・・来た」
調度入り口に向かってこちらの方に来ている。写真で見たのと同じ顔だ。
後ろを尖らせた金髪にサングラスをかけ、アロハシャツに半ズボンをはいて、ビーチサンダルを履いた、約170cmくらいの男だった。歳は大体3、40才くらいだろう。
ビームス・アルマーク。今回倒さなければならない相手だ。表現的にはギャングだそうで、人の弱みを握り自分の思い通りに動かしている奴らしい。それは民宿「果汁」が学園の生徒達を殺していた事を彼が命令していたことが証拠だった。
タイミングは彼が扉を開けようとした瞬間。扉まであと10m9、8、7、6、5、4、3、2、1、
「・・・・・・今だ」
ズガン!と言う音と共に高出力の魔弾が発射される。それはビームスの頭をめがけて飛んでいく。それは一直線に頭に直撃して、

ビームスは間一髪でそれを避けた。

避けたのは良いが、彼もそれなりに驚いているようで、あちこちを見渡している。
外れた魔弾は民宿「果汁」へ当たりそして弾けてなくなった。
「!?結界だと!!?」
ビームスはちょっとだけ触ってみる。触れた瞬間に静電気が放電でもされたようにバチッ!と言う音と共に彼の体が軽く吹っ飛び、尻餅をついている。
そこに5発連発。それを素早く気付き、全て避ける。それにより、こちらの場所が
ばれたようだ。こちらに走ってくる。
「アンナ!来い!!」
何処からともなくポニーテールで白いキャミソールにデニム地のハーフパンツをはいた少女が現れ、彼の肩を触ると、突然形が変わり柄に二本大剣がついた「双大剣(ツインブレイド)」になった。彼女がビームスのパートナーだったらしい。こちらに来る彼に対し、魔弾を連射する。それを次々弾きながら走ってくる。
壁蹴りで上に飛び上がり、上から斬り掛かってくる。それを銃身で受け止める。
「うぐっ・・・・・・・・」
ずっしりとかかってくる重さは尋常ではなかった。普通の人間なら一撃で両断されるだろう。受け止めただけで足下の地面がつぶれる。
優人が怯んでいる隙に顔面へ蹴りを入れてくる。優人の頭がコンクリートの壁に衝突する。そこを更に腹へ蹴りを入れ、頭を掴み壁に引きずる。
「うがっ!・・・・がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
引きずられながらビームスに魔弾を撃ち込む。ゼロ距離からの射撃にはさすがに吹っ飛び、優人を掴む手が離れる。とりあえず体制を立て直し距離を取るため後ろに3歩さがる。
「ほう。俺を相手にしておきながらまだ立っていられるとはなぁ。やるじゃないの」
「(学園の中でもトップクラスかもね)」
さすがに元軍人と言った所だろうか。あれだけ近距離で撃たれておきながら余裕だ。
「ふむ、ここで戦ったら被害がでかくなるな。浜辺にでも行こうかぁ」

浜辺には人は居なかった。まだ時間が早いからだろう。
意外にも優しい一面でもあるのか、町中ではなく浜辺で戦うことになった。ビームスとの距離は約10m。優人にはちょっとだけ近いくらいだ。
「俺に喧嘩を売るたぁなぁ。良い度胸してんじゃねぇか。名前くらい教えてほしいねぇ」
「・・・・・・・・・SYでいいわ」
桜井優人。略してSY、と言いたいらしい。全くどうでも良いことだ。なんでこういう時にそんな冗談を言っていられるのだろうか。
「ふ〜ん、まあいいかぁ。どうせお前は・・・■ぬんだからなぁ!!」
言い放った瞬間、ものすごい力で浜を蹴りこちらに飛んでくる。気がついた時には既に懐に居た。横合いに構えていた双大剣を優人の腰目掛けて振る。間一髪銃身で受け止めるが、反動で横に弾かれる。一瞬早く横に飛んで反動を少なくしたのでなんとか着地できた。前を見た時には彼は居なかった。
「こっちだよぉ!!」
上空からアンナを振り下ろそうとしていた。すぐさま横に飛んでそれを避ける。それによって巻き上げられた砂が優人の視界を奪う。それを切り開いたのは武器化したアンナで、顔面目掛けて飛んでくる。それをしゃがんで避けるが、瞬間、顔面を下から蹴られ、優人の体が上に浮いた。舌を噛みそうになって、危なかった。
だが猛攻はまだ終わっていなかった。優人の真上にビームス・アルマークはいた。
「終わりだぁ♪」
ずしゅっ、という肉が断ち切られる音がした。
優人の体は斬られたあと浜辺に叩き付けられ、血が噴き出し、肺の中の空気を無理矢理吐き出させられる。
「がはっ!ごはっ!ごはっ!」
口の中の血を吐き出し、起き上がろうとする。だが体に力が入らない。骨と骨がきしみ、筋肉に力を入れるだけで全身の血がなくなってしまう気がした。
「(優人!大丈夫!?)」
「うぐっ・・・・・・・大丈夫に見えるか・・・?」
スピード、威力。何処をとっても上位の物だ。これが元軍人の力。いや、そんなのは関係なく強い。少し甘く見ていたのかもしれない。軍人は大抵武器化種族と共には戦わない。だからこちらに優位があると思っていたのだ。だが結果的には全く歯が立っていない。
(・・・・・・でも)
だが、でも、しかし、それでも、まだ、けれど、されど、なれど、だけど、まだまだ全然彼女には及ばない。スピードも威力も何もかも全てがあの女には及ばない。ここまでやれたのは、彼女に対しての対抗心による特訓の成果。だが、
「(優人・・・・・・もう)」
「・・・・・・・・分かった」
優人は立ち上がる。ここで止まっていたら絶対にとどかない。だからこそ立ち上がる。本気で勝ちたいと思ったからこそ立つ。初めてのこの思いを、信念を通すために!
「あんた・・・・・・ついてるぜ」ゆっくりと立ち上がり、「あいつ(クラン)意外に・・・俺の本気を見れる第一観客だ・・・!」
ぶわっと何かがビームスを押し倒すかのような何かが通り過ぎた気がした。
「な、なんだ・・・・・・このこれは・・・・・・?威圧感?殺気?どれも違う?」
立ち上がった優人はビームスに銃身を向け、
「夏奈、リミッター解除」夏奈の銃身から煙が出て、銃身が横に別れて後ろにつく。「セーフティ解除。オーバーロックパージ」スコープが前へ出て、開いた銃身の中から新たに銃身が出てくる。「オールロック、解除・・・!」
「・・・・・・くっ。武器化状態の形が変わっただけで俺に勝てると思うなぁ!!」
思いきり浜を蹴るが、さっきよりは弱かった。ビームスの攻撃を避けつつ、
「ターゲット数1。ターゲット名はビームス・アルマーク、武器は双大剣(ツインブレイド)。これより魔弾のエネルギー充填に入る」避け続けながら、「魔弾に込める魔力の量は、武器化状態リミッター&オールロック解除前の30倍。チャージ完了まで30秒」
攻撃を繰り返しながら、
「何故だ!何故当たらない!!」
「あんたの攻撃ののスピードもパートナーの威力も上位の物だ。だが・・・あいつなんかより全然遅いし、威力もない。そんな物では・・・俺は倒せない!」
それを素手で受け止める。ぐちゅっと肉をつぶす音が聞こえた。そのままそれごとビームスを投げる。受け身もとれぬまま投げ出され、倒れる。
「チャージ・・・完了」
「馬鹿にしやがって・・・」起き上がり、「お前もう■よぉ!!!!」
やけになったのか、馬鹿みたいに速くこっちに迫る。が、そんなのも気にせずに、
「ターゲット、ロックオン・・・!・・・・・・・・お前が、な?」
瞬間。ビームスは、黒い光の中に消え去った。
   *              *             *
旅行から帰って来て、まずやらされたのは資料整理。この学園の罰はたいていこれだ。理由は学園長が大変だからこれにしちゃおう、という自己中心的な発想からによるもの。だから数も多くて、徹夜でもしない限り終わらないような数だ。
ビームス・アルマークが優人に倒されて以来。あの周辺はかなり平和になったらしい。かつてのような活気を取り戻し、観光地としても復活したようだ。
民宿「果汁」は、かなり繁盛しているのだとか。ビームスが居なくなって安心して来れるようになったからだろう。
「ま、よかったんじゃないの?」
「言い訳あるか。おかげでこっちは資料の山に埋もれることになった!くそ、まだこんなにあんのかよ!」
こうして、優人の馬鹿げたような不幸な旅行は幕を閉じた。







[716] 特別話「戦場のバレンタインデーと、悲しみのバレンタインデー」
のんびり - 2009年02月21日 (土) 00時26分

2月14日。それは女の子のお祭り、とは言うが実際にはお祭りなどと言うかわいらしい物ではなく、戦場だ。
2月14日。それは男の子のドキドキのお祭り。だが実際にはドキドキではなく、悲しみのお祭りだ。実際にはお祭りなんて楽しい物があるのは極々一部だ。きっとあちこちでは血の海だらけのはずだ。きっと、絶対、確実に!
こんな考え持ってしまった俺は夢が無いと言われるのだろうか。それとも妄想家だとでも言われてしまうのだろうか。だが実際どちらでもなくこれは事実なのだ。
俺が誰かはその内、いやすぐにわかると思う、多分。
    *               *               *
今日はバレンタインデー。女の子のお祭りとも言える今日は、あちこちの町でも村でも結構盛り上がったりしている。それはここ、天草学園も例外ではない。前日と前々日にはチョコ販売とか、手作りチョコのレシピとかも校内で売っているくらいだ。バレンタインデーの前日は食堂のキッチンや、自分の寮室でセットを借りて作る子も居たりして、男子は期待と不安と緊張感に駆られながら、なるべく欲しがっている感じや、一個も貰ってないと言う感じを出さないように芝居をうっている。理由はその方がかっこいいと思うから、というのが大半の理由。
そんな中、神崎桜は挙動不審にあちこち見回しながら千秋と共に食堂に向かっていた。ちょっと早歩きで、どんどんと歩いていく。
ふと、千秋が軽く息を切らしていることに気付いた。ちょっと早く歩き過ぎたかも、とちょっと反省。
だが今日ばかりはそんな事は言っていられない。千秋の手を握ってまた早歩きしだす。その瞬間、千秋は何故かあちこちから殺気のような物を感じ取った。なんだか会う女の子全てに白い目で見られているような気がしたが、そんな事は自動的に心の隅へ置かれる。何だかドキドキしてちょっと顔が赤くなる。
「あ、・・・あの、ちょっと。どうしたの?」
早歩きをやめずにこちらの方を見て、
「俺と優人は今日、油断しちゃ駄目なんだ。危ない日だからな。だから今日は優人と仕方なく共同戦線をすることになっている」
千秋的には意味が分からない。バレンタインデーは、はっきり言っていろいろあって忘れていた。故にチョコは用意してなかったりする。だが今日は桜でもドキドキしながらチョコを待つような日だと思っていたのだが、桜は、それとどうやら優人も違う意味でのドキドキを味わっているようだった。本当に意味が分からない。
食堂に着き、注文してそれを受け取り席につく。朝食中も桜は挙動不審だ。そこに、優人と夏奈が来た。優人は桜の方を見ると、
「今日は仕方が無いから共同戦線だけど、何か策はあるのか?」
桜は目を閉じて首を横に振りつつ、
「いや、何か策をとった所で何も意味は無いだろ。トラップなんか仕掛けても余裕で突破してくるし」
夏奈が話に加わってくる。
「やっぱ全速力で走るしかないんじゃないの?大群相手に立ち向かったら、いくら桜と優人でも死ぬよ?」
そこまでおおげさな物なのか、と心の中で呟いてみる千秋だった。全く状況を把握していない千秋を見ていた桜はふと思い出した。
「しまったぁぁ!!」
ビクっと千秋の方が震える。
「ど、どうしたの?」
「さっき俺千秋の手を握って早歩きをしたよな?」
千秋はちょっと赤くなりながら頷く。
「うぇ?それってちょっとやばいんじゃ・・・・・・ 」
「え?」
「千秋、今日って何の日か知ってる?」
「バレンタインデー」
「そう、そのバレンタインデーって日はね、この2人にとっては、

バリィィン!というガラスの割れる音が食堂中に響く。

それに続いて食堂の入り口が、出口が、キッチンからまで。ありとあらゆる場所から女の子達が飛び出て来た。それらはまっすぐこちらへ向かってくる。
「や、やばいっ!!」
「逃げるぞ神崎!!」
瞬間、優人と桜は千秋と夏奈の手を引っ張って逃げ出そうとする。まだ包囲網は完成していない。その隙間を全速力で通り抜けて割れた窓から逃げ出し、中庭へとでる。
中庭には色とりどりに咲いた花と、大体カップルが座っているベンチ。そしてちょっとしたコンビニのような所があって、おまけに涼しい風が流れてくる。休むには良い場所かもしれない。だが今はそんな物は邪魔でしかない。カップルが座っているベンチを蹴飛ばし、花はとりあえず避けて、コンビニに入ろうとする生徒の肩をつかみそれを後ろに放り投げる。それで転んだ生徒はそのまま突進してくる女子の軍団に踏みつぶされる。それにこけた者も居るようだ。中庭を出て廊下に出ると、右からは既に女の子達が走って来ている。仕方なく左に逃げようとしたがそっちからも迫る。後ろにも追っ手がくる。優人と桜は千秋と夏奈をお姫様だっこして前に走って、そのまま飛び降りる。ああ〜!!という憎しみのこもった声が響く。これはおそらく夏奈と千秋に向けられた物だろう。1階に着地すると同時に膝を曲げて衝撃を抑える。一応人一人お姫様だっこしているのでいつもよりきつい。そのまま寮の方へ向かい、桜の部屋へと逃げ込んだ。鍵を閉めて、窓にはカーテンをする。ようやく一息つける。
「くっはぁ!!はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・き、きっつぅ・・・・・・」
「息してる暇すらなかったぞ・・・」
疲れている2人を見ながら夏奈が、
「そろそろ降ろしてくれない?」
「あ、わりぃ」
2人を降ろして、とりあえず4人ともベッドに座る。桜のベッドは結構ふかふかだった。
とりあえず、状況が理解できていない千秋は何故追って来たのか聞いてみた。
「皆チョコを渡そうとしてるんだよ」
「チョコ?チョコを渡すために窓を割って入って来たの?」
「おおげさだろ?普通に渡してくれれば良いんだが、どうもそうは行かなくなっているらしい」
「皆早い者勝ちで渡したいんだってよ。それであそこまでおおげさに騒いで来た訳だ」
それはバレンタインと言うより戦争の日では無いだろうか、と心の中で呟いてみる。
「油断と言う言葉を捨てなければ確実にヤバい。死ぬ可能性すらある。戦闘時よりも危険な気がするよ」
ため息をつきながら額から流れる汗を拭う。
はっと気付いたように夏奈が千秋のもとへ来る。小さな声で、
「ところで千秋、チョコ用意したの?」
「え?してないけど・・・」
「え!してない?何で?」
「バレンタインデーって事いろいろあって忘れてて・・・」
「じゃあ桜にチョコ渡さないの?」
ん〜、と考え込む千秋。実際渡そうと思っていたのだが、今日思い出したからチョコは作っても用意もしてないし、今買いにいっても多分売り切れている。
渡すとしたらどうすれば良いだろうか。火星にでも行って買えとでも言うのか。
「食堂に行けばチョコあると思うよ?それで作ってくれば?」
「・・・・・・じゃあそれで」
そういうと、立ち上がり、
「私千秋と一緒に食堂行ってくるね。おばちゃんに料理教えてもらう約束があったんだ。あ、これ義理チョコね」
そう言うと、市販のチョコを2人に渡した。と言う訳で、2人は食堂へ向かった。
    *              *               *
夜、桜は汗だくでベッドに転がっていた。傷だらけのボロボロだ。一日中逃げ回って、最後の最後で女の子に捕獲され、囲まれ一斉に渡しに来た物だから押しつぶされ、もみくちゃになってなんとか抜け出したが、そこに女の子の大群が飛び込んで来て、廊下から落ちて、着地できずに頭を打って気絶。保健室に運ばれた2人は、まだ囲まれていて、仕方が無いのでチョコを全部受け取って他の男子に配って来たので疲れている。だが、そんな桜もちょっとだけ千秋のチョコを期待していたのだが、結局貰えなかったという苦労の末の現実だった。
「はぁ・・・・・・・ちょっと欲しかったかなぁ・・・千秋のチョコ」
そこに千秋が部屋に戻って来た。千秋は千秋で疲れているようだ。
「桜、これ」
それは包装紙に包まれた小さな箱だった。
「・・・・・・え?えっと、これは?」
「チョコ。さっきやっと完成して・・・」
どっと涙が出て来た。本命でも義理でも良いから嬉しかった。
「あ、ありがと・・・」
「?、何で泣いてるの?もしかしてチョコいらなかった?」
ちょっと俯いて言う。ちょっと焦って首を横に振った。
「そ、そんな訳無い!!欲しかったですっ!!」
「そっか」
バレンタインは、一応は夢を見せてくれるらしい。
でもやっぱり。最初に言った事は、現実だと思う、俺、神崎桜だった・・・
夢が無いのかな・・・俺。


って訳で、今日の日記は終了、っと。by神崎桜・・・




[719] 第34話「日常の裏」過去と今編、開始
のんびり - 2009年02月22日 (日) 16時39分

学園から約3km先に、町がある。マーケットタウンとも呼ばれるそこは、生活用品やパソコン類。食材に機械のパーツにCD、DVD。まさに何でもそろっている場所だ。町の中は、ほとんどが専門店ばかり。だからマーケットタウンなんて呼ばれているのだ。
夏休みにここへ来る人は、大体が夏祭りの浴衣や夏祭りに使う道具等を買いにくる人だ。こういう時そういった物は値下げされる。だから急がないと売り切れになってしまうのだ。
だからこそ、こんな早くにヘンリルとアグリアスはマーケットタウンにやって来たのだ。
「今は・・・午前5時、か」
空腹を押さえつけながらヘンリルはゆっくりと歩いていく。だがアグリアスはそんな気配は全く見せない。ただ本を読みながら余裕な顔をして歩いていく。ちなみに題名は「安藤社の陰謀」だ。題名からは微妙だが、推理小説だ。
「・・・・・・お前腹減らないのか?」
本を読みつつ、
「減ってる。でも本で紛らわしてるから」1Pめくり、「この本の一説だが、空腹時こそ何かした方が良いみたいだし、お前も何かしろ」
「何かって、する事無いし・・・ていうかそれ本当に推理小説かよ・・・」
ちなみにだが、彼らが買いに来たのは夏祭りのヘンリルとアグリアスが担当の射的の商品と、射的用のおもちゃのライフル。商品的にはぬいぐるみとかお菓子とかプラモデルを出そうと思っている。
とぼとぼと歩いて行くと、おもちゃ屋さんに着いた。ここで、ぬいぐるみ類とプラモデル類、ついでに射的用のおもちゃのライフル等を買う。費用は学園が出してくれたので、大体の物は用意できるだろう。午前5時なのに開店していた。まだ客は少ない。今のうちに買ってしまった方が良いだろう
「えっと、プラモデルはガ○プラ、一応EZ-○と、ウイングゼロ○○○○か。多いな。ぬいぐるみは、犬と猫と熊か。さ、さっさと買って朝ご飯食べよ」
結構広いようで、プラモデル1つ見つけるのに時間がかかった。とりあえず予定していた物を持ってぬいぐるみと共に、レジへ持っていく。値段は12360円だった。
貰った費用の半分近く使ってしまったので、慎重に行く事を決意する。しなくても当たり前なのだが。
次はとりあえずコンビニに向かう、お菓子を買うつもりだ。さっきの事もあったし、とりあえず、3500円以内でおさめる。さて、次は。
「別に今日で揃えなくても良いんじゃないか?」
突然アグリアスが言い出した。
「夏祭りは再来週だろ?別に今日じゃなくても良いと思うんだけど」
「でも速いにこした事は無いだろ?あとで売ってなくてあちこち回るよりもさ」
意外と慎重な所もあるヘンリルだった。


まだ2人は気付いていない。こんなにのんびりできる時間とは儚く散っていく物だと気付く時が来るとは。






[726] 第35話「現れた現実、隠された希望」
のんびり - 2009年02月28日 (土) 13時32分

マーケットタウンの路地裏にはマフィアのアジトがいくつかある。建物が多いため、その中に紛れ込ませやすいのだ。だから意外とスーパーや専門店の地下や上階にはアジトがある事が少しながらある。前まではもっと多くあったのだが、最近いくつものマフィアがつぶされていた。マフィア間ではその犯人の正体をつかめていない。手がかりを1つも残さずに去っていくからだ。だが遠目でみた仲間からの情報によると、男で、身長的には高校から大学生、どうやら武器化種族を使っていると言う事。
いくつかのマフィアは協力してその男の情報を渡しあい、そいつを殺してしまおうという事を考えているらしい。
そんなマフィアのアジトがある裏路地に一人の少年と少女が立っていた。
少年は薄いロングコートにフードをかぶり、中にはTシャツにジャケットを着てジーパンを履いた少年。
少女はどこかの学校のセーラーを着て、ウェーブのかかったショートヘアの少女。
2人は余裕な顔をして、もはや笑みすら見せながらマフィアのアジトへ入っていく。
ここのアジトは地下にあるようで、階段は下に続いている。そこを何の警戒もせず降りていく、すると前から一人男が歩いてきて、
「あん?誰だオメェ。何処の野郎だ?」
瞬間。
その男の首が飛び、首の先端からまるで間欠泉のように血が噴き出し、少年と少女に雨のように降り注ぐ。そんなものも気にせずに降りていく。クルクルと続く螺旋階段を降りて行くと、1つの扉があった。その奥からは男の声と、女の声が聞こえる。遊んでいるのか、笑い声が聞こえる。少年はただ哀れだと思った。
そしてその扉を開け放つ。隣に居た少女の手を握ると、少年の足下に魔法陣が現れる。武器化の魔法陣が。
     *            *              *
ヘンリルとアグリアスは、買い物を終え、耐えきれなくなった空腹に近くにあったマクドナ○ドで朝食をとっていた。既に買った物は学園に郵便で送ってあり、朝食後はすこしマーケットタウンを回ってみるつもりだった。さっきまでいろいろと急いでいたから、あまり見て回れなかった。何故なら8時あたりから突如現れたバーゲンのおばちゃん達の戦争に巻き込まれ、瞳孔開きっぱなしで、体が弾け飛ぶかのような疲労に溺れながら走り、バーゲンのおばちゃん達を追い抜き、そして欲しかった物を買い取る、という事をここ4時間繰り返して来たのだ。つまりは今朝食なのだが、昼食と化した訳で、空腹のあまり気持ち悪くて食欲が失せ、あまり食が進まない。かと思いきや、多少は進んでいる。アグリアスは走らずに勝手に朝食をとっていたので、きっちり昼食だ。
「あれはまさに戦争だったぜ・・・おばちゃん達、他の人達を蹴落とすために余裕で殴ったり蹴ったりナイフで足刺したり、防弾チョッキ着たり速く走るために女を捨てて下着で走る人も居た。いやぁ〜恐ろしかったぜ」
「それは本当に戦争だな。バーゲンってそこまでさせるのか?」
少なくとも俺はそうしない、とアグリアスは付け足す。
「まぁな〜。バーゲンとはおばちゃん達の、いや、女達の戦場とも言える日だし。俺は売り切れが恐かっただけだけど、彼女達にとっては違うんだろうな」
食べながら喋るな、とアグリアスが注意する。
実際どうなのかは2人には全く分からない。それは多分年を取れば分かる。と側で聞いていたおじさんは思っていた。・・・・・・・・誰?この人。
「ふぅ。で、このあと何処行くんだ?」
「ん〜・・・そうだな、まあ回りながら適当に見てこうぜ」
食欲が復活して来たのか、食べるスピードが上がってくる。パクパクとパクパクと食べていき、ついには無くなる。ヘンリルは立ち上がり店を出て行く。
    *              *              *
外に出ると、まだバーゲンのおばちゃん達が走り回っていた。
本当に元気だなぁ、と思いつつ、おばちゃん達が少ない方へ歩いていく。相変わらずアグリアスは本を読んでいるが、いつの間にか推理小説から恋愛小説へと変わっていた。題名は「D・K〜After・story」。表紙は何かアホ毛が二本立った萌キャラっぽいのが描いてある。アグリアスに絵はどうでも良くただ読める本を読んでいるだけであり、本屋に売っている本を順番に買っているだけ。雑誌は買わないが。
「似たような物を見た事があるんだが、気のせいか?」
「きっと気のせいだろ」
意外な事にこの2人は実は昔からの腐れ縁とも言える中であるのだが、前は「D・K」のKは、Cだったような気がする。やっぱり気のせいだろうか。
ぶらぶらと歩いていると、ひとつの男女のカップルに目が止まった。
「あれ?あれってグレガーとリファエス?」
向こうもこちらに気付いたようで、こちらに向かってくる。
グレガーと呼ばれた少年は薄いロングコートを着て、中にTシャツとジャケットを着ていて、髪がちょっとツンツンした少年。リファエスと呼ばれた少女はどこかの学校のセーラー服を着て、軽くウェーブのかかったショートヘアの女の子だった。
グレガーとヘンリルはお互い抱き合い、リファエスとも同じく抱き合う。
「久しぶりだな、ヘンリル」
「本当だよね〜!何年ぶりかな?」
2人とも笑顔で懐かしさを噛み締めながら言ってくる。
「4年ぶりくらいか。背、のびたな〜リファエス。前はチビだったのに」
4年前のリファエスは同い年でありながらヘンリルの胸あたりしか身長が無かった。
当然胸はまな板のようだった。
「ふふ〜ん♪もうチビ女なんて言わせないわ!」
ちょっと残念そうな顔をしながらグレガーが小さな声で、
「実際は手術したんだよ。膝下の骨切って代用ので固定してのばす。リハビリのときはかなりキツそうな顔してたよ・・・それだけ悔しかったんだな。胸は手術じゃないけどな」
確かにまな板ではなくなってるけど、身長のばすのにそこまでするか?と疑問を持ったヘンリルだが、
「アグリアスも久しぶりだな。大抵本読んでて最初はあまり遊んだ事無かったけど、遊ぶようになってから分かったんだが、結構運動神経良いんだよな、お前」
「まあ、父さんにいろいろスポーツやらされてたからな」
アグリアスの父親も武器化種族で、武器化種族は体力が大切だっとかいってヘンリル達を巻き込んでサッカーやら野球やらアメフトやらいろいろやっていた。ルールはゴチャゴチャだったが。でも楽しかったからそこまでキツい事でもなく、走り回って笑っていた時代だった。が、
「あの事件・・・の犯人。掴まったけど脱獄したらしいな」
突然真面目な顔をして言い出すグレガー。
4年前の8月14日。ある1つの大規模な無差別殺人事件が起きた。その犯人はどうやらマフィアの人間だったようで、錯乱状態にあったようだった。手直にあったチェーンソーを持って、ただ見つけた人を殺す。最終的には何人かの軍人とガードナーによって捕らえられたが、生き残ったのはヘンリルの父と、今ここに居る4人だけ。この4人は、早くにその場を逃げ出し、なんとか見つからずに逃げ出せたのだ。
父はその何人かの軍人の一人。
「ヘンリル、その制服、天草学園のだな。どうしてお前の父さんと同じ軍人にならなかったんだ?」
ヘンリルは少し俯きながら、
「俺は・・・軍人じゃ無理だと思ったんだ」顔を上げて「俺らみたいな事件を速く解決するには。だって軍じゃ上官が必要ないとか言ったらそこの人達は助けられない。そんなのが嫌で、ガードナーの道をとった」
軍では上の命令は絶対だ。それがたとえ残酷な物だとしてもその命令は聞かなければならない。そう絶対に。だからヘンリルはそうではなく、自分の意志で動けて、自分の意志で人を助けられる道を選んだ。命令でしか動けない道が嫌だったから。死にかけた人に手を差し伸べられないのが嫌で。
「・・・・・・そうか。」笑顔になって「まあ、お前はそういう奴だったからな!お前の道に必ず日が当たる事を願ってるよ」
「ああ、サンキュー」
固く握手し、
「そうだ、一緒に行くか?俺ら適当にぶらぶらしてくるけど」
「そうだな・・・・・・・じゃああとで行くぜ。俺らはちょっと用事があってな。それを済ませてから」
「じゃあマーケットタウンの中心にある噴水前で合流で良いか?」
ああ、と言って2人はヘンリル達とは反対方向に歩いていく。ヘンリル達もグレガー達と反対の方に歩いていった。



[728] 第36話「希望を絶った者」過去と今編終了
のんびり - 2009年02月28日 (土) 21時15分

ひたすらぶらぶらと、ぶらぶらとマーケットタウンを歩いて歩いて。あちこち回って疲れた訳で、こうして喫茶店でヘンリルはミルクを飲んでいる、それに対してアグリアスはコーヒーを飲んでいた。しかもブラックだ。本を読みながらコーヒーを飲んでいるアグリアスを見ていたヘンリルは、ぐいぐいとミルクを一気飲み。
「なぁ、アグリアス」何だ、とアグリアスが言うのに対して「それ、苦く無いのか?よく飲めるな。ブラックだろ?」
「苦いぞ。それを美味いと言う人も居る。俺もその内の一人だ」
「美味いのか?」
「ああ、飲んでみるか?」
「良いの?」
「ああ、もうこれしかないし。飲むなら全部飲めよ」
ちょっとしか残っていないカップの中のコーヒーを見せる。そのカップをヘンリルは受け取り、ちょっとにおいを嗅いでからぐいっと全部口の中に入れてのどに押し込む。
「・・・!?にっっっが!!な、何だこれ!コーヒーのブラックってこんなに苦いの!?」
「でかい声だすな。迷惑だろ」
周りを見ると迷惑そうな顔をしてこっちを見ている人達が居た。ちょっと焦って頭を下げてごめんなさい、と一言。椅子に座り直して大きなため息をつく。それから何かぶつぶつ言っているようだがアグリアスは気にしない。今回読んでいるのは前回に引き続き「D・K〜After story」だった。あれを読んでいるアグリアスは時々むかついたような表情になる。何がそんなに気に食わないのだろうかとヘンリルはちょっとだけまじめに考えてみる。アグリアスがあんな顔をする本があるとは・・・と考えていたのだが、
「そういえば、グレガーとリファエスもう用事終わったかな?」
「さぁ?噴水前に行けば分かるだろ」
結局諦めて考えるのをやめる。さっさと金を払い喫茶店を出る。
       *             *            *
噴水前にグレガーとリファエスは居なかった。10分ほど待ってみたのだが、やはり来ない。仕方が無いのでもう一回、回ってみる事にした。あちこち見ているのだが買っている物はほぼ無い。ただ見ているだけで、買う気などは皆無らしい。買っているのは全てが食べ物。焼き鳥やポテトフライや団子にフランクフルト。さっき食べたのにまだ食べるのか、と思っていたアグリアスだがそんな事言っているアグリアスも買って来た物を食べているのだ、人の事など言えない。自覚しているのかヘンリルには言おうとしない。
ぶらぶら歩いていると、1つの店に目が行った。その名も模銃(モデルガン)屋。中には色々とモデルガンが売っている。45口径からRPGまで、いろんな物を売っていた。射的の商品に使えるかも、とちょっと店へ入ってみる。大抵18禁だから使える分けないのだが。
「いらっしゃい!!」
大きな声でおじさんが出迎えてくれる。こんな店には似あわないようなおじさんだった。何気にエアガンも売っている。18禁じゃない物は・・・・・・あった。
15才以上対象と描かれているから一応は使えるだろう。値段も悪く無い。ヘンリルは財布を見ると、少し余裕があったので買う事にした。それをおじさんのもとへ持っていき、それをおじさんに渡す。
「2万4500Pだ」
「はい」
アグリアスは後ろで珍しい物でも見るようにジロジロとモデルガンを見る。
「そこの君。モデルガンを見るのは初めてかい?」
「ええ、結構リアルな物ですね。父さんに一回だけ本物の銃を見せてもらった事があるけど、凄い似てる」
「そりゃ、モデルガンだからな」
買ったエアガンを受け取り、ありがとう、と言って出て行く。

突然目の下辺りに何かの液体が垂れて来た。

ちょっとだけ暖かかったそれを指で触ってみると、赤くてドロっとしていた。
「・・・・・・血?」
それはまだヘンリルの目の下辺りに垂れて来ている。1歩後ろに下がってみる。それは床の上にポタリポタリと落ちていく。天井を見ると、血が滲んでいるのが分かる。
垂れた血を見たおじさんは、突然中へと走って行った。
「アグリアス!!」
ビクッと肩を振るわせてこちらを見る。垂れた血と、走って行ったおじさんを一瞬見え、そのまま置くに入って行くのを見ると、ヘンリルについていった。
置くに入ると、目の前には居間があり、左右には廊下がある。左には階段があり、右にはキッチンと、T字に別れた廊下があった。ヘンリルは迷わずに左の廊下を走り、階段を上っていく。廊下はまた左右に分かれていて、左には半開きになった扉があり、それが大きな音を立てて開け放たれる。
そこで見た物は、

「や、やめ!・・・・やめてくれ!殺さないでくれぇ!!」

泣き叫ぶさっきのおじさんの前には両先端に刃のついた黒い鎌を持った、見慣れた格好の男が立っていた。その男は笑いながら、哀れな物を見るような目で、その刃を振り下ろし、おじさんの首が飛ぶ。そのおじさんの首の先端から血がまるで間欠泉のように、まるで地獄へのシャトルの噴射口のように吹き出し、廊下を赤く染めていく。
ボトリ、とおじさんの首は落ち、バタっと血を噴き出しながら倒れていく体。その先には、

「何だ、居たんだ?ヘンリルにアグリアス」

グレガー・イザース。
武器化されたのはおそらくリファエス・レヴィだろう。こちらへ歩いてくると、かぶっていたフードをとる。確実にグレガーだった。何処からどう見ても。360度何処から見ても。
「グレガー・・・リファエス・・・・・・何やってんだよ」
「何って、仕事。俺って軍人だからさ。それでこのマーケットタウンのマフィアを潰して回ってるって訳。さて、用事は終わったし、行くか」
途中から意味が分からない。グレガーが軍人?仕事がマフィア潰し?何を行ってるんだこいつは、としか思考が回らない。やっと吐き出せた言葉は、
「・・・何処へ?」
「(決まってるでしょ?マーケットタウンをぶらぶら歩いて回るの。昼に言ってたじゃない)」
「そうそう」
即答だった。返り血の浴びた服、顔、髪で笑いながらそう答えた。今まで通りの顔で、そう、言った。
何故?どうして?何が?何で?何を間違ったんだ?何故、あいつが。
頭が回らない、体が動かない、舌が回らず口も動かない。そんなヘンリルが面白いのか、グレガーとリファエスは笑っている。そんな2人を見てヘンリルは歯を噛み締める。動け動け動け動け動け動け動け!!!
そして、動かした手は、アグリアスのもとへ差し出し、
「アグリアス・・・」
「・・・・・良いのか?」
ただ無言で頷く。アグリアスはその手を掴む。落ちていく友を掴み止めるように。
ヘンリルとアグリアスの足下に魔法陣が暖かい光を放ちながら浮かび上がってくる。
武器化する際に現れる魔法陣が。
    *             *             *
2人の距離は約10m。正確に計ると多分7〜8mくらいだろう。
武器化したアグリアスを力強く握り、思い切り床を蹴る。瞬間、ヘンリルはグレガーの目の前に現れ、アグリアスを振り下ろす。グレガーは余裕を見せつけるように笑いながら、それを受け止める。
「何だよヘンリル。どうしたんだ?」
「お前の軍って何処の部隊だ?」
「ん?牙隊だ」
牙隊。帝国の精鋭だけが集められた大隊だ。もはや帝国の政治を動かしているほど力の大きい部隊で、その中にはいくつか部隊分けされ、さらにハルファスと呼ばれる3人のトップと大隊長がいる部隊、俗に言う四天王と言う奴だ。
「そうか・・・なら」ヘンリルは目を閉じ「我が国ライズの女王により定められし法の第24章。人間を3人以上連続で殺した場合、逮捕する前にその場で処刑しても良い、に基づいて、グレガー・イザース、リファエス・レヴィを・・・この場で殺すッ!!」
それをあざ笑うように、
「・・・できるか?」
グレガーは刀身を押し返し、上がった腕の隙間を狙い、脇腹へと刃を滑り込ませてくる。それを1歩下がり、間一髪避け、下がった体を無理矢理前へ押し出して前に進む。狭い場所では鎌は横に使うのは難しい。グレガーは薄い壁を断ち切って滑らせて来たが、薄く無ければ上か下にしか振れない。だから相手の攻撃は防ぎやすく、防がれやすい。案の定下に振った刃を受け止められる。それを引き抜き襲い来る一撃を防ぐ。
「安心するなよバカ」
リファエスの持ち手の真ん中が2つに別れ、鎖につながったまま二本になる。
「何ッ!?」
離された方を上に振り上げる。一歩下がったがそれは腰あたりから胸元まで斬りつけて行き、ヘンリルを上空へとあげる。切られた部分から熱い物が伝わってくる。
「ぐっ!こんのぉぉぉぉ!!!」
上に飛んだままアグリアスを振り下ろす。それをグレガーは横に避け、ヘンリルの胸ぐらを掴んで投げ飛ばす。赤く染まった部屋を通り越して窓を突き破り外へと投げ出される。受け身をとれずそのまま地面に叩き付けられ、肺の中の空気を吐き出させられる。さらに上からグレガーが斬り掛かってくる。それを横に転がり避け、ふらつく足で立ち上がる。
「もうふらふらか?つまらねぇなぁ」不満そうな顔をして「もしかして迷ってるのか?俺とリファエスに刃を向ける事を」
迷いは確かにあった。心の奥で刃を向ける事を拒んでいた。
「昔の事を悔やんでるか?何も出来ず、ただ逃げるしか出来なかったあの頃が。力が欲しかったか?ちゃんと人を救える力が。だったら牙隊(こちら)へ来い!お前なら更なる強さを求められる!俺達はいつも一緒だっただろ!!」
歯を噛み締める。今、心の迷いは失せた。こいつは違う。自分の知ってるグレガーは完全に死んでいた。
「・・・・・・アグリアス」一度目を閉じ、目を開けて「死の書、第23章『武器壊し(ウェポンブレイク)』!!」
「なっ!?お前、あれはっ!」
「良い!!」
その目には迷いなど無かった。アグリアスはそれはヘンリルの決意、こいつの新たな一歩だと思った。これを止めるのは、パートナーとして失格だと。
「天と地獄の狭間に住みし死神よ。その力の断片を我が刃にのせ、勝利を見せよ!!」
言ったと同時。アグリアスの刀身に魔法陣のような物が浮かび上がり、静電気のような物を放ちだした。目に見えるほどの大きさの。
「牙隊の強さは・・・俺の求める強さとは違う。あれは殺す、壊す強さだ!!俺が求めるのは助ける、守る強さなんだよッ!!」
思いが糧になっているかのように静電気のような物がバチバチとバチバチと増えていき、最終的に刃自体を包んでしまうほどになった。
グレガーはただこちらに走ってくるだけ。彼は分かっていないのだろう。それが自殺行為だと言う事を。
「死の書、第23章。武器壊し(ウェポンブレイク)!!」
瞬間。その振られた刃を受け止めたリファエルにはひびが入り、そして砕け散る。何が起きたか確認もとれぬままその刃に貫かれ、叫び声とともに地面へと叩き付けられ、口から血を吐き出す。
「がっ・・・!な、何しやがる・・・?ヘンリルっ・・・!」
「もう、俺の親友達の顔で喋るな、もう」持ち手を強く握り「永遠に!!」
ザシュっ!と肉が切り裂かれる音と共にグレガーの意識も絶たれ、そのまま冷たくなっていった。その顔は安らかだった。まるで眠る子供のように。
    *               *               *
女王の法24章はちゃんと適応され、任務完了、と言う事になり、報酬も受け取ったヘンリルだったが、全く気が晴れない。それはやはり自らの友を殺して得た物だから、だと思う。今回の事件で俺は何かを得られたのだろうか。何か俺にとって特になる事でもあったのだろうか。そんな疑問を残しつつ部屋に戻りベッドに寝転がる。
疑問だらけの中に、1つだけ答えを見つける。それは、
「・・・・・・俺は。ちょっとだけ強くなった」


言葉紹介。
「死の書・・・死の書とは鎌のタイプとしての特性の魔術登録と言う物があり、アグリアスに登録された魔術の本の1つ。中には攻撃的な物だけが書かれ、中には武器化種族の武器化状態すら壊す物もある」


[731] 第37話「迷惑委員長とフォロー佐百合」佐百合編
のんびり - 2009年03月01日 (日) 18時13分

天草学園の1つの寮室。そこだけはやけに広く、やけに機材が多く、やけに暗く、やけに機械音や何かしらの音が鳴り続けている。部屋の中心には巨大なフラスコがあり、周りには制御装置のような物が置いてある。その画面にはサ〜っと流れていく文章の波。それを眺める一人の少女がいた。見た目的には16、7才くらい、少し濃い青色の髪を小さく後ろでポニーテールにし、学園の制服のブレザーの方を着ている。眼鏡をかけ、それなりに整った顔の少女だった。
魅守舞香織。
天草学園一の切れ者なのだが、天草学園一のトラブルメーカーだ。
戦略家としても発明家としても天才な彼女は、戦闘時の指揮をとったらおそらく誰にも負けないだろう。が、発明に関しては別問題だ。確実に成功の一歩手前までいくのに何故か失敗する、というある意味才能とも言える物を持つ少女だったりするのだが。今回はいったいどんな失敗をやらかしてくれるのか。
「うへ、うへへへ。うへへへへへへへへへへへへへへへへえっへえへへへ♪完成・・・しちゃったぁ〜♪」
     *             *               *
天草学園は今、夏休みだ。学園の生徒達は校内に残ったり、外へ旅行に行ったり、実家に帰ったりと人それぞれの夏休みライフを送っている。
学園に残っている生徒は宿題を早々に終わらせる人、この時期に成績挽回を目指す人、補習を受けてる人など学園に居る人だけでもいろいろ名事をしている人が居て、静かになるのは夜くらいしか無い。
佐百合はこの夏休みの間は異境先生の戦闘授業を特別に個人授業で受けていた。学園にはレベル別に修行できるシステム、L・D・B(Lv・Divide・Battle)というものがあり、特殊な材質で出来た材料に、特殊なレーザーあてて、組み立て、再生、修理、再活用の繰り返しで半永久的に修行できる。ちなみに、この材質とレーザーの原理は学園長が「その方が謎が多くて面白いでしょ?」と言って、アイリ・ストレイトスとその秘書以外はどんな原理か知らないと言う。
そして今日も今日とて佐百合はL・D・Bで個人授業を受ける。
「はぁ・・・はぁ・・・ん・・あ・・・・・そこは・・・・・・あ、駄目・・・」
暁はL・D・Bの部屋の外でこの変な声を聞いていた。中で何をしてるかは知っているので、あまり気にはしないのだが、
「この声、なんとかなんねぇかな・・・」
暁はとりあえずさっき見た光景をもう一度目にしてみる事にする。L・D・B室の中では・・・

佐百合がマッサージを受けていた。

大量のロボットに囲まれて背中を押されたり足のつぼを押されたりしてマッサージを受けていた。プロも顔負けの腕で。最近肩こりが悩みだったりした佐百合の肩こりは
既にほぐされて、羽でも持ち上げているように腕が軽い。ロボットなのにマッサージうまいなんてすごいなぁ〜、とか思ってたりする佐百合はマッサージの気持ちよさに眠くなっていた。
「でも・・・」眠気に包まれて意識が途切れかけながら「何で、こうなったんだっけ?」
真実を知るには約5、6時間ほどさかのぼる・・・・・・





[748] 第38話「委員長の勝手」
のんびり - 2009年03月05日 (木) 22時17分

3時13分。時間的には食堂に間食を食べにくる生徒が多い時間だ。食堂にはケーキやフルーツ、お菓子などが売っていたりする。これは朝食や、昼食などの時使うおばちゃんが売っている訳ではなく、いわゆる購買部が売っている訳だ。「美味しく、安く、完売」というのが購買部のスローガンで、毎月結構な売り上げを出している。しかしスローガンの「完売」だけは未だに達成されないのだが。
ちなみに、購買部の売り上げは学園の資金になる。訳ではなく、毎月配布される生徒達の資金となる。食堂のご飯もそうだ。学園内で売られている物は、全てこのようなシステムになっている。これらは、学園の出費を防ぐための策だ。外での買い物は、買って良い合計料金が限られている。それは学園の経済状況にもよるが、現在は4500P。これはそれなりに高い方だ。合計料金設定の最高値は、5000P。かなりケチな値段だが、これは学園長アイリ・ストレイトスの性格によって決められた事で、この人は結構なケチ男だったりする。今までの話を振り返るとそんな事はなさそうに思えるような気もしなくも無いが、ドがつくくらいケチな男だ。
そんな男と似たような少女も居た。いや、ある意味女の子だから、とも言えるかもしれない。
「ん〜・・・どうしよう・・・今日はこっちにしようかな・・・?でも、昨日はちょっと食べ過ぎちゃったし・・・・・・」
購買部の前で頭を抱えている彼女は天苗佐百合。この天草学園の高校1年生だ。ショートヘアに制服のセーラーの方を着た彼女の隣には、一人の少年が立っている。
「別にどれでも良いだろ?早く選べよ」
彼は暁。佐百合のパートナーだ。
「良く無いよっ!最近ちょっとお腹の辺りが・・・・・・よし!今日は我慢我慢・・・」
「面倒くさい奴だな。・・・って、結局食べるのかよ!?我慢はどうした!!」
「だから量の少ない方を選んだでしょ!?」
「・・・・・・お前、ぜってぇ来年には牛と化してるだろうな・・・」
「そんな事無いよ!!」
言い争いながら2人は席につく。がやがやとにぎわっている食堂は、全生徒分の席があるのだがテーブルは生徒分存在しない。だから誰かと同席になるのは必然だと言っても良い、たとえそれが誰だろうと。
2人は気付いてしまった。見てはいけない物を見てしまったような錯覚に陥り、ちょっとした恐怖すら覚えるほどだ。彼女達から血の気が引き、顔が真っ青になっていく。
座った席の前には女子生徒が座っている。学園のブレザーを着て、整った顔に黄金のような瞳。丸いフレームの眼鏡をかけ、背中くらいまであるだろう髪を後ろで束ねた少女が居た。
その少女が2人に話しかけて来た。
「あら、佐百合ちゃんと暁君じゃないですか。1週間ぶりぐらいですか?」
しまった、と思う。迂闊、もっと周りを見るべきだったと後悔する。そしてさっさと逃げなかった自分たちを心の中で責める。
魅守舞香織(みすま・かおり)。皆からは委員長と、恐れられながら呼ばれている。実を言うと、彼女は生徒会長なのだ。委員長と言われているのは、外見的に委員長って感じだから。眼鏡の委員長って何手ベタ何だか・・・
高校まであるこの学校だが、大学も存在はする。しかしこっちは入試を受けなくてはならないので、表向きには小中高一貫の学園としてみられている。まあ大学へ進学する生徒は別の大学の入試を受けるため、ここの大学に入る者は少ない。大学に行かなくても学園卒業でガードナーには成れるし、大学に入ったからと言って、仕事が増えたりする訳でもない。でも、学園の大学を卒業する際行われる試験。世界中の学園にはその学園所属のガードナー、特殊部隊への入隊試験が行われる。この部隊に入ると、様々な情報が入り、仕事も充実している。これを目指す者は少ないが、目標として持つ者は少なく無い。
余計なことを言ったが、生徒会長は歴代大学生がやっていた。つまり彼女は最年少の生徒会長なのだ。それほど優秀なのだが、
「ところでですね」
ぎくっと肩を振るわせる。嫌な予感がした、香織が「ところで」なんて言うときはろくなことが無い。
「実は新しく開発した_______

「「すいませんっ!!」」
「え?」
「私たちこれから!」
「用があるんで!」
「「さようなら!!」」
ダッ!と一斉に逃げ出す2人。こういう時は息が合う2人である。
香織はそれをポカンとしながら見つめ、
「・・・まだお菓子残ってますよ?」
2人はいったい何をするのかを考え始めた香織は、
「まさか!2人は既にデキちゃっててこれからラブラブモードへ突入をしようと海とか屋根の上とかに向かう気ですか!?」
勝手な推測を並べ立てた香織は2人を追っていった。
   
     *            *          *
2人は食堂から逃げ出し、とりあえず部屋まで戻って来た2人は、ベッドに座って休んでいた。冷蔵庫から取り出したスポーツドリンクを飲みつつ、話をしている。
「委員長はいったい何を俺達にしようとしていたんだ・・・?」
「・・・・、考えたくも無いよ・・・」
学園一のトラブルメーカーの彼女のする事など考えたい人間の方がイカレている、と学園の生徒は全員言うだろう。彼女のする事を考えてたら精神崩壊するなんて伝説すらたっているくらいだ、それほど恐ろしい事なんだろう。
これは噂だが、実際に考えた者が居たそうだ。その人は、考えながら、つい、「特大の爆弾を作って特殊反応を起こしたりして。はははは」とか言ったのを香織が聞いてしまい、実際に体育館を吹き飛ばすと言う事件が起こった事があるらしい。吹き飛ばしたのは実話だが、本当にその人が言った言葉を真に受けて行ったのかは闇の中だ。
「あ、そういえばお菓子まだ食べてなかったぁ〜・・・うぅ・・・・・・」
「仕様がないだろ?あのまま、あそこでのんびりしてたら何をされるか・・・」すっと立ち上がり「冷蔵庫に余ったケーキがあるけど食べるか?」
食べる!、即答。すぐさま暁は冷蔵庫に向かおうとして、

足で何かを踏んだ。

どうやら落ちていたCDケースを踏んだようで、ケースにヒビが入っている。が、それだけではない。踏んだ瞬間、ケースが滑り、踏んでいた暁も一緒に滑ってしまった。そのまま体勢を崩し、バランスをとろうとするが意味も無く無駄に終わり、佐百合の方へ倒れていき、佐百合を押し倒してしまう形に成った。
暁の手は完全に佐百合の胸を掴んでいた。
「あ・・・ご、ごめん」
「謝る前に手をどけてくれないかな?」
はっと気付いたように手を佐百合の柔らかい胸からどけようとした時に、

見てしまった。


何となく見た後ろのを見た時に見た。寮室の扉の前に委員長、魅守舞香織が立ち尽くしながら赤面しているのを。
今この状況を何も知らない誰かが見たらどう思うだろうか。女の子が男の子に押し倒されて、胸を触られているこの状況を見たら、
「あ、いや、その、ち、違います!!委員長!ご、誤解しないでください!!」
「ラブラブモードに成っている2人を盛り上げに来てみたら、まさかここまで進展していたとは・・・私、知りませんでした。お、お邪魔ですので私は立ち去ります。では・・・お楽しみを〜・・・」
「違うから!委員長誤解してるから〜っ!!!」
彼は閉まり行く扉の向こうに居る委員長に叫ぶ事しか出来なかった。

   *                *               *
どこかの作品で言っていた。絶望した!と。今の心情としてはまさにそれだ。その作品の男教師の言葉を借りるなら、
「絶望した!変な誤解をされた事に絶望したっ!!」
「・・・・・・えっと、落ち着いたら?」
「落ち着けるかぁ〜!!絶対意味不明な誤解されてるよあれ!絶対的外れな事考えてたよあれ!!」
「私だって巻き込まれてるんだからね・・・。とりあえず落ち着いて誤解を解く方法を考えなくちゃ駄目でしょ?」
一理あるとでも思ったのか、暁は深呼吸をして、落ち着いてみる。空気が絶望の味がした気がしたが、きっと気のせいだろう。
考える時間はそこまで長く無いかもしれない、と考えつつも、誤解を解く方法を考えてみた。




[755] 第39話「委員長の失態」
のんびり - 2009年03月08日 (日) 20時28分

誤解を解くべく香織を追いかけ、1時間ほど説明と口論を続けた結果、何とか信じてもらえた。とはいえ、まだ半信半疑のようだが。
今は香織の手伝い。どうやら生徒会長としての夏休みの仕事が多く、1人では手に負えないらしい。資料の整理、学園の見回り、学園内の武器化種族の体内のソウルエレメントの検査等。いろいろ大変なのだ。だからと言って何故、佐百合と暁が手伝うのかと言うと、
『じゃあ、私の仕事を最後まで手伝ってくれたら全部信じてあげます」
という、香織の言葉によるもの。渋々手伝いを引き受けた2人は、初めて香織の凄さを知った。自分たちがやったら、確実に終わらない。それをいつも完全に終わらせて余裕な顔して自分の研究に没頭している。近くで彼女の仕事を見ていると、自分たちよりも2、3倍速い。資料整理は早く確実で、学園の見回りはどんな問題も逃さず的確な支持を言い渡し、学園内の武器化種族のソウルエレメントの検査は何の間違いも無く。何もかも2人を超えていた。いつも恐怖しか感じない彼女だが、今回ばかりは尊敬できた。
ちなみに、今は現在の学園の経済状況の整理。これが結構大変だ。まず、生徒一人一人と、教師全員のの出費を調べ、それを全部足して、学園内で使った物をそこからひく。そして学園自体の出費をひいた後に足し、それを合計とする。さらに最初に戻り、使った金は何に使ったかを整理する。例えば機材や食材と言ったようにだ。
「うぁ〜・・・つ、疲れた〜・・・・・・」
「弱音を吐かないでください。ほら、まだこんなにあるんですよ」
香織はドサっと大量の生徒と教師一人一人の出費が書かれた書類を置いた。まだ50cmほど残っているようだ。
「うぇ!まじですか!?ああっやる気が・・・!」
「暁、喋ってないで手を動かしてよ。このペースじゃ終わらないよ」
「前は余裕な顔してるな」
「雑用なら慣れてるし」
香織には劣るが、佐百合も結構早い。もともと記憶力が良いので、一回に10人程度の出費料を覚えて一気に計算しているからだろう。もっとも、香織は20人近く記憶できているようだが。暁には非現実的としか言えなかった。例えるなら、人間が飛行機も何も無く空を飛ぶような感じだ。
2人ともやっぱ優等生だな、とか考えつつ地道に作業を進めていった。

     *              *            *

暗い暗いライトによる明るさなど存在しない部屋がある。薄く暗い部屋にはいろいろな機材に、何本ものコード。中心には、巨大なフラスコ。中には緑色の液体が入っている。発光体でも入っているのか、部屋をうっすらと照らしている。
その中には、生物のような、だが人に見えて人ではないような形。雰囲気的には魔獣のような感じがする。何者にも捉えられるような形の生物は、何か喋っているように口を動かしている。フラスコのガラスが厚いのか、少しだけしか聞こえないが、言葉を発しているようだ。
「・・・・た・・・・・か・・・す・・た・・・」
中の何かの姿はシルエットしか見えない。だがそれはもぞもぞと、ゆっくり動いていた。まるで何かを探すように。

     *              *                *

約3時間かけて、ようやく整理が終わり、もう日は落ちて夜だと言う事で3人で食堂で夕飯を食べる事になった。全員自分の頼んだ料理を受け取ると、席につき、食べ始める。
「はぁ・・・疲れたな〜」
口にそばを運び、噛んでから飲み込む。
「そうだね、結構疲れた。雑用に慣れてても結構キツい仕事だったよ」
ご飯をカレーと一緒に口に運ぶ。ぴりっとした辛さを味わいながら噛んで飲み込む。
「生徒会長の仕事って大変でしょう?さっきみたいな仕事が結構回ってくるんですよ。だから大変なんですけど、開発の時間も欲しいし、いつも半日前後で終わらせてます。夏休みの仕事はさすがに無理ですけど」
オムライスの端をスプーンですくうと、とろっとした卵とチキンライスががおいしそうな、においを放っている。
「まあ、いつも半日で終わらせてる事はかなり凄いでしょ」
「そうですか?」
「そうですよ。私でもきっと無理ですよ?」
そういうと彼女はにっこりと笑った。
「ありがとうございます。さて、食べ終わったらまだ仕事がありますから私は行きます」
「俺達は?」
「あなた達はもう良いですよ。十分やってくれましたし、今よく考えてみれば、暁君と佐百合ちゃんがデキちゃってるフラグなんて立ってなかったし、暁君にそんな度胸は無いと思ったのあなた達の言ってた事信じます」
微妙に酷いことを言われていたような気がするが、気にしない事にする。誤解が解けた事の方が重要だ。とりあえずは苦労が報われたって事で安堵する2人。早々に食べ終わり、香織は食堂を後にしていく。
2人はまだオムライスとそばを食べている。ペースは同じなので、2人とも同じくらい食べるのが遅いらしい。黙々と食べ続けた2人はようやく食べ終え、食堂を後にし、とりあえず部屋に戻る。寮へと向かう廊下を歩いていると、突然、パリ〜ン!というガラスの割れる音がした。どっかのバカがボールでもぶつけたか、と思っていた2人だったが、その考えは一瞬にして吹き飛ばされた。目の前に何かが降りて来たからだ。
それは人の形をして人のようでは無く、雰囲気は人でも動物でもなく、魔獣の感覚。
背中には羽がはえ、腕は巨人のように大きく、足は細く、髪は長く、そして耳は長い。ぶつぶつと何かを呟いているようだが、それよりも、これの口元に赤黒い液体がついていた。まるで血のような。
「な・・・何だ?こいつ、魔獣?」
「前にもこんな展開があったような・・・?」
GX504という物があった。何ヶ月か前に、魅守舞香織が作った物のようで、暴走して周りの生徒や教師を襲っていた事があった。香織曰く、あれはじゃれていた、らしいが。
「ま・・・まさかとは思うが。・・・・・・・また?」
「そんなバカな。だって、あんなに生物みたいな機械が作れる訳が_____

「あぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!こんな所に居た!!」

後ろから遮るように誰かが叫ぶ、確実に聞き覚えのある声。さっきまで尊敬していたはずの目は、蔑みの目へと切り替わる。またか、と。やっぱりか、と。
ゆっくりと後ろを見ると、
生徒会長・委員長の魅守舞香織が居た。この事件の元凶が。
「こら〜!!!セリー!勝手にフラスコを割って出ちゃだぁぁぁ!?」
ズドーン!!っと景気よく転ぶ香織。調度前に出した暁と佐百合の足に引っかかったようだ。転んだ香織に2人は近づいていく。
「痛っっっっっ!!まさか転ぶとはぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」
「てめぇ!またやらかしやがったなぁぁ!!?」
「さっきまであった、ちょっと尊敬してた気持ちが走馬灯のごとく走り去っていきましたよっ!!」
「痛い痛い痛い!!ちょっ!蹴るのは止めっ痛い!!一応嫁入り前なんで蹴るのは痛い痛い!!」
「うるせぇ!!黙って蹴られてから、あれ止めろ!!」
「止めるのは良いけど蹴られるのは嫌だ!!」
「ちょっとちょっとちょっと!!」
佐百合が暁の肩を揺すりながら呼んでくる。
「何だよ!?・・・・・・うぉ!!」
香織を蹴るのを止めて、走り去っていく。蹴られるのが止まって、安堵の息をつく香織だったが、はっと気付いたように後ろを見てみる。何か荒い息が後ろから聞こえた。それは想像していた通り、さっきそこに居た奴だった。
それは、突然香織を押し倒し、尖った歯を剥き出しにする。
「ちょっ!ま、まじですか!?私まだ嫁入り前なのでこ、こんな所で吸血鬼みたいになりたくないですぅ〜!!」
涙目になりながら叫ぶ香織。どうやら牙のような歯を剥き出しにしながら首筋に顔を
近づけてくるこれに対し、噛まれたら吸血鬼っぽくなってしまうと思っているようだ。自分で作っておきながら何を言っているのだろうか。
人生が終わったように閉じる香織。
瞬間、ドガっ!という音が響き、肩に入っていた大きな手の感触が消える。ゆっくりと目を開けてみると、そこには奴はいなかった。
突然首の後ろを掴まれて後ろに引きずられていく。軽く首が締まって息がしにくい。
引きずっているのは佐百合だった。持っている槍はおそらく武器化した暁だろう。
「とりあえず逃げますよっ!!」
「(引きずられてないでさっさと自分の足で走れよ!!)」
突然離され、その衝撃で体制が崩れ、思いっきり地面に後頭部をぶつける。一瞬意識が飛びかけたが、ふらふらと立ち上がり、2人を追っていく。
(そういえば暁君、いつの間にかタメ口に・・・
とか考えながらふらつく意識を保ちながら2人を追っていった。




[757] 第40話「委員長の救い」
のんびり - 2009年03月09日 (月) 19時50分

「あれはキメラなんですよ」
ここは教室のベランダ。三人壁に寄りかかりながら、さっきの、化け物。セリーについての説明を聞いていた。
話によると、あれは鳥、猿、ゴリラ、そしてコウモリとライオンを合成したキメラだそうだ。これは私的な研究ではなく、科学者からの依頼で、キメラの研究に使いたいとの事で、頼んできたそうだ。キメラは作った事は無かったから歩き始めた赤ちゃんくらい危ない物だったようだが、とりあえずは成功。フラスコの中で細胞の調整をしていたようなのだが。どうやら予定より早く起きてしまい、あの有様だったらしい。
「セリーは、どうやら空腹状態で何か食べようと生徒を襲ってるみたいです」
「つまり・・・食べようとしてるって事ですか?人間を」
「そういう事みたいです。セリーには戦闘行動もとれるようにしてあります。それなりに強いですよ」
「で、どうするんですか?」
香織は少し考えてから、
「できれば捕獲。出来なければ殺します。これは私の責任ですからね。いつもみたいに怪我人がいなければ良いんですけど、今回ばかりは・・・」
暁は、怪我人がいなくても自分で責任とれ、と言いたかったが、佐百合に口を塞がれ、言えなかった。すっと香織は立ち上がる。
ふらっと、体が倒れそうになる。いつの間にか居た青年に受け止められ、そのまま膝をつく。
髪をツンツンと尖らせ、この暑い中マフラーをして、赤い半袖のシャツに、半袖のYシャツ。黒いズボンを履いている彼は、工藤番(くどう・つがい)。香織のパートナーだ。噂では2人は付き合っているそうだ。あくまで噂だが。
「無理しなさんな。昨日から寝とらんのやろ?お前は休んどき」
「で、でも・・・」
佐百合は香織のもとまで行き、片膝をついて、
「私たちが行きますよ」
え?、と驚いた顔をして、ちょっと怖い顔になり、
「だ、駄目です!セリーは強敵ですよ!?あなた達では・・・」
「委員長を休ませる時間くらいは稼げますよ」立ち上がって「万全の状態で助けに来てくれれば良いです。ここで待ってても生徒が襲われるだけですから」
言った後、暁と共に、この場を後にした。

    *              *             *

佐百合と暁は廊下を歩いていた。走っていてはセリーに気付かれかねない、なるべく足音を消して、セリーを探す。実際、セリーに勝てるとは思ってない。香織の話によればかなり強いらしいし、佐百合は学年の中でも強い方だが、だからと言って、勝てる訳ではない。戦闘中には武器の強さよりも、頭の良さよりも、生きる事に対しての執念を要する。わざわざ死ぬつもりで行く奴などバカとしか言えないだろう。生にしがみつき食らいついて行かないとならない、とか本に書いてあったと佐百合は思い出すが、それは違う、と考えていた。戦いとは何かを守るためにある物であって、自分だけが良ければ良いと言う物ではない。生への執念で強くなれるのなら苦労はしない、守りたい物があるから強くなれるし、なろうと思える。そう考えていた。
今回、何人かの生徒にも助けを求め、一緒に探してもらえる事になった。その人達とは携帯で連絡を取る。見つけたら気付かれないようにその場から離れ、佐百合へと電話するようにと。
「さて、今、奴はいったい何処にいると思う?」
「空腹状態だとすると、食堂あたりにいるかもしれないけど・・・」少し考えた後「体育館とかにも居るかも。あそこは異境先生の特別講習に行ってる生徒もいるだろうし」
とりあえず、近い食堂に行ってみる。
誰の気配もなく姿も無い。冷蔵庫のあるキッチンの方に行ってみても、誰も居ない。人くらいの大きさの入れる所を片っ端から見てみたが、誰もいない。
「ん?」
後ろでカタッという音がした。誰か居るのだろうかと行ってみると。
「お、おばちゃん!!」
額を血で濡らした食堂のおばちゃんが、床下の巨大冷蔵庫に入っていた。全く寒さを感じない特性の防寒具を着ていたから一応は体調はいいようだ。
「佐百合かい。よかった、無事だったんだね」
「大丈夫か?血が出てるけど」
「これくらい大丈夫だよ。それよりさっきのあれは、どっかへ行ったかい?」
「まだ校内に居ると思う。立てるなら、1−2の教室のベランダに行って。委員長と番先輩が居るから」
おばちゃんは頷くと、よろよろと歩いて行った。
「さて、次は______。

ピリリリリリ、と携帯が鳴った。

すぐに携帯をとると、協力してもらっていた同学年の生徒、スウェイトだった。
「さ、佐百合!体育館に、セリーが!!・・・きゃっ!」
ブツっと通話が切れる。どうやらさっきの予想通り体育館に現れたようだった。
すぐに食堂を出て廊下を走り、階段を下りて体育館への廊下を走って扉を開け、中に入ると、

そこには地獄が広がっていた。

床には血だらけの生徒達、床や壁には生徒達の物と思われる血が飛び散っていた。
よろよろと、中からスウェイトとハサウェイ。それと異境が出て来た。3人ともどこかしら怪我していた。異境が一番重傷のようで、一人では歩けない状態らしい。
「佐百合・・・怪我とか無い?」
スウェイトが傷だらけの体で聞いて来た。今はそんなことを言ってる場合じゃないのに。やはりこの学園はお人好しが多いのだろうか、と考えてしまう。
「私は大丈夫。3人は?」
「私とハサウェイは大丈夫。異境先生は・・・」
「俺は・・・さす、がに・・・大丈夫じゃ、無いな・・・」
途切れ途切れの声でそういった。そんな声からも彼がかなりの重症だと言う事が分かる。佐百合は3人に医療室へ行く事を勧める。
「佐百合は・・・そうするの?」
「私はとりあえず、様子を見るよ。どっかへ行こうとしたり、まだ生徒を食べようとしたらとりあえず、委員長が来るまで足止め。スウェイト、動けるなら先生を運んでから1−2のベランダに居る委員長呼んで来て」
頷くと、3人は医療室へと向かった。3人が見えなくなると、
「行くよ、暁」
「ああ」
手を握ると、足下に武器化の陣が浮かび上がる。嘘をついた事を心の中で謝る。様子を見る気なんて全くない。ここでセリーを殺す。それだけを考えていた。

    *              *              *

佐百合は倒れている生徒をまたいで、セリーの後ろへと立つ。ゆっくりとこちらに振り返るセリーは、返り血を浴びて、真っ赤だった。
捕獲と言う道を捨てる。今はただこいつを殺したい、と。そう思うだけだった。
ズガン!という音と共にセリーがこちらに猛スピードで走ってくる、目で追うのがやっとだ。セリーの大きな右腕が佐百合の顔面目掛けて、突っ込んでくる。紙一重で暁で受け止める。両手で押さえないと、押さえきれない。
さらに左腕を顔面目掛けて下から振り上げてくる。一瞬早く一歩下がってそれを避ける、が。避けた瞬間、セリーが細い足で首里の足を払う。対処できずそのまま後ろに倒れる。血でぬれた床がドロッとして感覚的に気持ち悪い。
さらに、倒れた佐百合に、真上から両足で、顔面目掛けて来る。すぐに横へと転がりそれを避けようとするが、着地した瞬間、体育館の床がドッ!と言う音を立てて壊れる。授業用に強化されているはずだが、そんな物すら壊してしまうようだ。
壊れた床の大きな破片が佐百合に降り注ぐ。さらに横へと転がり避ける。さっきまで居た場所に10数個の破片が突き刺さる。強化されている床故に、そうとう固いらしい。ゆっくりと立ち上がる。まっすぐにこちらへ走ってくるのを見ると、横跳びに避ける。瞬間、壁に突っ込むかと思いきや、その壁を蹴って、急ブレーキをかけ、そのまま曲がってこっちに走ってくる。
(なっ!速っ・・・!)
ドンっ!!とセリーに押し倒される。
そして、
瞬間、
ドズっ、と肉を突き破る音がした。左肩にセリーの爪が突き刺さっているらしい。そしてそのまま、
腕をひきちぎった。
一瞬何が何だか分からなくなった。
そして、3秒遅れに、激痛を超えた痛みが体中で暴れ回る。
「うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

     *            *              *

15秒、いや、20秒くらいだろうか。佐百合は気絶していた。目を覚ますと同時、激痛が走る。さらに、出血多量のためか、意識がもうろうとする。うっすらと見えるのは、自分の腕だろう物を食べているセリー。
(くっ・・・・・・立て、る?・・・・・・・今なら・・・)
ゆっくりと立ち上がり、暁を持ち直し、体に入るだけの力を入れる。
「(佐百合、大丈夫か!?)」
「話しかけないで。集中しないと、力が抜ける」
彼女の顔は無表情。そのままゆっくりと前へ歩いて行く。歩くたびに肩から血があふれる。激痛を抑えながら、近づいて行き、
瞬間。暁をセリーの左肩から、右の横腹へと斜めに突き刺した。ギャぁ!と悲鳴を上げるセリーなど気にせずに、そのままセリーを持ち上げ、床に叩き付ける。
「でやあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
引き抜いた暁を更に腹へと突き刺し、持ち上げて、前へと走る。そして目の前の壁を壊して、外に出て、そのまま前へ、前へと走って行く。激痛が体中に走るのも気にせずに、血が溢れ出ていくのを気にせずに。
ズドン!!と、教室の分厚い壁に激突。さすがにこれは壊せないらしい。突き刺さった刃を奥へと押し込んで行く。さっきより大きく悲鳴を上げている。
「お前が傷つけて来た生徒の痛みよりは・・・マシ、でしょ・・・お前が泣き叫ぶなんて許さない。皆がそうして来て、今更痛い止めて、なんて許さない!だからそのうるさい悲鳴を引っ込めろ!!」
言うと同時、暁を思いっきり引き抜いて、セリーの顔面の中心へと突き刺す。
ぶちゅっ、という腐った果実を握りつぶすような音が響き、セリーの返り血が佐百合の顔にかかる。セリーはそのまま力が抜けたようにぐったりとする。
荒い息を履きながら、忘れていた激痛が走る。とりあえずは、何とかなった、と思った瞬間。
ぐったりしていたセリーの腕が佐百合の腹を突き破る。口から思い切り血を吐き出し、そのまま膝をつく。そのまま地面へと倒れ込む。意識は途切れて行った。

     *             *           *

目を開けると、そこは真っ白い病室だった。全身麻酔がかかっていて、首より下が動かない。左肩を見ると、包帯がまかれ、さらに固定されている。どうやらひきちぎられた腕をくっつけたようだ。あの時、意識が途切れたと言う事は、セリーは自分じゃない誰かが殺したのだろう、と勝手に推測してみる。
病室に暁が入って来た。近くにあった椅子に座ると、切り分けてあるスイカを差し出す。それを受け取って、は無理なので、暁に食べさせてもらう。なかなか美味しい。
「腕、大丈夫か?」
「一応ね。全身麻酔がかかってて、首以外動かないけど」
セリーを誰が倒したのかを聞くと、
「委員長だよ。お前が倒れた後、上から飛び降りて来て、素早く首を飛ばしたんだ。すぐに止まったよ。あいつ」
「そっか」
あとでありがとうと言っておこうと思ったら、調度、香織が病室へ入って来た。
「委員長」
「佐百合ちゃん」
「ありがとうございます」
「ごめんなしゃい!・・・噛んだ・・・」
ほぼ同時に言った。ポカンとしている2人は、そのままこらえきれない笑いに溺れ、とりあえず、今回の事は終わらせようとしてみた。夏休みの終わりは、もうすぐだ。




[763] 第41話「輝きける星空」
のんびり - 2009年03月13日 (金) 23時13分

夏休みが終わり、いつもの大なり小なり緊張感のある学園へと戻っていた。
まあ、いつもの8人は除く、が。
9月頃になると、テストが近づき、みんな本気になって勉強し始める。真面目じゃない生徒も、こういう時だけは真面目に勉強する。80点以上とらなければ、異境の超スパルタ補習が待っているからだ。体罰当然、問題が解けなければ、男女関係なく問答無用で殴り飛ばされ、10m飛ぶ事になる。補修時には毎回怪我人が出る。しかも重傷。
桜や、佐百合は補習など受けた事は無い。常に満点、もしくは95点以上しかとらないからだ。優人や夏奈、ヘンリル達は、ギリギリ80点以上。いつも恐ろしいような感覚でテストが帰ってくるのを待っている。異境のテスト返しの顔は、恐ろしい事で評判だ。まるで鬼が怒り狂っているような。
桜は、とりあえず千秋に勉強を教えていた。桜は、飛び級しても良いほど、頭がいいので、教えながら、簡単に復習できたりする。千秋も特に教わる事はないのだが、時々超難問とか存在するので、そういった物の対策を、桜に手伝ってもらっていた。
「一通り終わったかな。後は、あらゆる問題解けば大丈夫だろ」
「分かった。桜、ありがとう。疲れてない?」
ん?、と気がつくと、額から汗が流れていた。今まで、我慢していたのだが、教えていると、どうしても顔が近づいて、緊張してしまう。
千秋はそれを見て、聞いたのだろう。
「いや、大丈夫。暑くってさ」
「なるほど・・・上着を脱がないの?」
「ああ、そうだな」
言う通りブレザーを脱いで、椅子に掛けておく。部屋にある温度計を見ると、32度。暑い訳だ。部屋にあるリモコンをとって、
「エアコンつけるか?それとも扇風機?」
「・・・・・・・扇風機で良いよ」
言われると、扇風機のボタンを押して、扇風機をつける。




[764] 第41話「輝きける星空」七聖石編 序章
のんびり - 2009年03月13日 (金) 23時28分

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夏休みが終わり、いつもの大なり小なり緊張感のある学園へと戻っていた。
まあ、いつもの8人は除く、が。
9月頃になると、テストが近づき、みんな本気になって勉強し始める。真面目じゃない生徒も、こういう時だけは真面目に勉強する。80点以上とらなければ、異境の超スパルタ補習が待っているからだ。体罰当然、問題が解けなければ、男女関係なく問答無用で殴り飛ばされ、10m飛ぶ事になる。補修時には毎回怪我人が出る。しかも重傷。
桜や、佐百合は補習など受けた事は無い。常に満点、もしくは95点以上しかとらないからだ。優人や夏奈、ヘンリル達は、ギリギリ80点以上。いつも恐ろしいような感覚でテストが帰ってくるのを待っている。異境のテスト返しの顔は、恐ろしい事で評判だ。まるで鬼が怒り狂っているような。
桜は、とりあえず千秋に勉強を教えていた。桜は、飛び級しても良いほど、頭がいいので、教えながら、簡単に復習できたりする。千秋も特に教わる事はないのだが、時々超難問とか存在するので、そういった物の対策を、桜に手伝ってもらっていた。
「一通り終わったかな。後は、あらゆる問題解けば大丈夫だろ」
「分かった。桜、ありがとう。疲れてない?」
ん?、と気がつくと、額から汗が流れていた。今まで、我慢していたのだが、教えていると、どうしても顔が近づいて、緊張してしまう。
千秋はそれを見て、聞いたのだろう。
「いや、大丈夫。暑くってさ」
「なるほど・・・上着を脱がないの?」
「ああ、そうだな」
言う通りブレザーを脱いで、椅子に掛けておく。部屋にある温度計を見ると、32度。暑い訳だ。部屋にあるリモコンをとって、
「エアコンつけるか?それとも扇風機?」
「・・・・・・・扇風機で良いよ」
言われると、扇風機のボタンを押して、扇風機をつける。涼しい風が、桜を包む。椅子に座っていた千秋は、桜のそばまで来て、風に当たりにくる。風になびく髪が、桜に当たって、甘いにおいが流れてくる。
気持ちいい風が睡魔を呼び寄せたのか、千秋が眠そうな顔でふらふらし始め、そのまま桜に寄りかかる。目を閉じていたため、気付かずに寄りかかって来た瞬間、そのまま倒れてしまう。いつもなら緊張感に襲われていただろうが、桜もそのまま眠ってしまった。こうして、のんびりと昼は過ぎて行く。





[769] 第42話「見ている星は奇跡」七聖石編 第1章(1)
のんびり - 2009年03月15日 (日) 21時39分

テストが終わり、生徒達の緊張の糸は切れていた。テスト勉強ばかりで、遊ぶ時間もなかったため、授業後には、町に遊びに行く生徒も結構多い。
桜達は、町に行っても特にする事はないので、いつも通り桜と優人の喧嘩を見ていたり、ご飯を食べたり、特訓っぽい事とかをやっていたりした。こういう時だけは、喧嘩をせずに居られる2人であり、終了後には、疲れ果てて喧嘩する余裕も無いほどになるのだった。
今はお昼時で、8人は食堂で昼食を食べていた。さっきまで特訓でもしていたのか、2人は疲れた表情で食べている。周りの人達は、珍しそうな目でこちらを見ていたが、すぐに自分の食べていた物へ、視線を戻す。
何人かが見ている、食堂のテレビでは、七聖石と呼ばれる、7つの宝石。「風の翡翠(ジェード)」、「火の紅玉随(カーネリアン)」、「水の天河石(アマゾナイト)」、「地の藍銅鉱(アズライト)」、「空の天青石(セレスタイト)」、「月の瑠璃(ラピスラズリ)」、「闇の血玉石(ブラッドストーン)」が、博物館より盗まれたと言うニュースがやっていた。この7つの宝石は、普通の石より、魔力が高く、危険な魔術に使用される事もあるため、女王の認めた博物館で、厳重なセキュリティに守られていたのだが、それを突破して盗み出した物が居たようだ。
ライズの女王は、この犯人を1級危険人物として特殊武装隊「女王の守護神」に
七聖石奪還の命が下ったらしい。「女王の守護神」と言うのは女王が治める、ライズ国の、最強部隊と言われる部隊だ。対武器化種族用武器や、完全領域結界(クイーン・ザ・フィールド)というほぼ無敵な防御結界発生装置などの、様々な装備を持った精鋭達だ。第2次ライズ防衛戦争と言われる戦争時には、大活躍だったそうだ。
ニュースを見ていたヘンリルは、
「女王の守護神なんて出すのかよ。ちょっとおおげさじゃないか?」
それに対し、アグリアスが、
「いや、七聖石クラスの物となれば、当然だと思う。もし、盗んだ奴が、危険な奴にそれを渡したら、世界滅亡の危機にまで陥るほどの大魔術が使われてもおかしく無いんだ」一度深呼吸し「俺ら武器化種族のソウルエレメントの根源とまで言われている物だ。聖獣や、悪魔の召還はもちろん、神ノ鉄槌(ゴッド・ザ・クラッシングブロウ)なんて物まで使われる恐れだってある。そんなの使われたらおしまいだ」
そうとう危険な物であり、もしかしたら女王の守護神ですら歯が立たない可能性すらあるのだ。もしかしたらガードナーに依頼が来るかもしれない。軍よりも自由度が高いため、遂行速度が速いとされているためだ。戦闘力もそれなりにあるし、タイムリミットが分からない、こういう時はガードナーに依頼が来る時が多い。さすがに学園には来ないだろうが。
「もし来たらどうするんだろうな」
「多分先生がやるんじゃないかな?さすがに生徒にやらせるのはちょっと・・・」
「いや、」優人は食べていたカレーを飲み込み「先生達は今かなり忙しいから多分
学園に来たら生徒に回ってくるだろうな」
教師達は、突然大量の任務がまわって来て、猫の手も借りたい状況らしい。そこに学園に依頼が来たら、教師では抱え込めず、生徒にまわってくる確率が高い、と言う事だった。つまりは、面倒な事になるかもしれないと言う事だ。
七聖石クラスの物だと、まだガードナーのライセンスも、持っていない高校生が、首を突っ込んでくるのは、やはり女王の守護神には鬱陶しいものだろう。おそらく、除け者にしてくるはずだ。かなりやりにくいかもしれない。
「もしかしたらさぁ・・・」桜が食べ終わったオムライスの、皿を返して来て「俺達に来るんじゃないか?だって、あの学園長だしさ・・・ 」
牙隊と戦りあったことがある、桜達に任せてくるかもしれない、という事だった。面倒くさがりの学園長だから、可能性が高いだろう。それに、おそらく覚えている生徒なんて、桜や優人しか居ないだろうし、自分が行く事なんて絶対にしない。
実際、本当はベサリウス討伐は学園長の任務だったのだが、結局、桜達が行く事になっていた。ちなみにだが、生徒達に、まわって来ている任務は、大半が学園長の物だ。それを、生徒達にやらせ、自分はちょっとでも楽しようとしている。言い訳としては、「ちょっとでもキツい仕事こなした方が、成長するでしょ?僕も一応学園長として、考えてる訳だよ。あっはははははは♪」だそうだ。これを聞いた、秘書を含む教師達全員、呆れて、口が開いたまま何も、言えなかったそうだ。
「・・・・・・・・・まぁ、確かに良い経験にはなりそうだけどな」
自信なさげにヘンリルは言う。続いて佐百合が、
「女王の守護神まで出すほどの人なんでしょ・・・?そんな人に私たちを送るなんてあるの?」
優人は皿を返却し、残っていた水を飲み干す。辛さで満たされていた口の中が、潤される。コップを置いて、
「まぁ。実際は、神崎の「月の加護」の力が知りたいんだろうさ」少し目を細め「学園長が今回俺達を出すとすれば、それしか無い。本で読んだんだが、月の加護や死の眼なんて言う物は、神と契約しないとならないらしいんだが、契約するにはまず、一度その力を、覚醒させなきゃならないらしいんだ。つまりは、もし出されるなら、今回の事件で、俺達は確実に、死にかける」
何の冗談も無い声で言った優人の、周りの空気は完全に乾いていた。緊張からか、それとも恐怖や何かか。それは桜達には分からなかったが。

      *           *          *

全員が昼食を食べ終え、とりあえず、部屋に戻る事にした。
月の加護。
夏休み前に、ソウルエレメントの鉱石を乗せたトラックの護衛という任務で、桜は死の眼と言う物に完全に飲み込まれた。それを千秋が、月の加護へと変えたのだ。桜はまだ、その力を完全には使えていない。まだ力が完全に覚醒していないのだ、無理に使おうとすると、体が耐えられない。だから桜としては、ただ待つしか無い。
寮のリビングとも言える、場所に着き、自分の部屋の扉の前に立つ。自動ドアのため、すぐにス〜っと開いて行く。
最近思うのだが、千秋の部屋が直されているような気がしない。形は戻ったようだが、かつてあった、ベッドや机がまだ置かれない。何故なのだろうか。
おかげで、千秋と一緒のベッドに寝るはめになってしまっている。最近は多少慣れたのだが、やはり意識してしまう。本当は、下に敷く布団があったのだが、優人との喧嘩でいろいろあって、焼却炉に入って燃えてしまった。はじめは、床で寝ていたのだが、千秋が、それを許してくれなくて、寝る時は、いつも服の裾を掴んでいて、逃げられない。ちなみに、学園の生徒の大半は、制服のまま寝ている。理由は謎だが、校則で決まっていて、これを破ると、資料の山に埋もれる事になる。
「はぁ・・・・・・結局どうなるんだろうな」
「何が?」
「七聖石の事だよ。結局学園にまわってくるのか、って話」
千秋は、それを聞いた後、そのままゆっくりと机の上を指差す。さっきは気付かなかったが、手紙の封筒のような物が置いてある。ちょっと嫌な予感がした。
・・・・・・・まさか。
桜は机の上に置いてある、封筒を開けてみて、中に入っていた、紙を見てみる。
そこには、
「ヤッホ〜♪桜君。あえて久しぶりって言わせてもらうよ?」
「手紙を出したのは、多分分かってるだろうけど、七聖石の奪還任務についてだよ」
「本当は僕が行くように言われてるんだけど、面倒だから、君たちが言って来てよ」
「明日あたり、任務説明があるから、ちゃんと来てねぇ〜♪」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!!!!何これ何だよ何ですかこれぇぇ!!面倒だから俺達を行かせるのかよ!?自分で行けっつぅの!」
落ち着いた表情、だが瞳は落ち着いていない千秋は、
「・・・・・・・・まぁ、とりあえず文句は明日言おうよ」
始まる任務は、やはり学園長の気まぐれだった。



言葉紹介
「神ノ鉄槌(ゴッド・ザ・クラッシングブロウ)
魔術の書、第57章に記される超強力破壊系魔術。発動すれば、一瞬でその場から10kmは砂漠化すると言われているほどの威力。イメージ的には、巨大隕石が時速5555mで落ちてくるのと同じくらいの威力」


[774] 七聖石編 第1章(2)
のんびり - 2009年03月19日 (木) 17時09分

今日は夏祭りだ。すでに9月なのに夏祭りが行われるのは、天草学園で、魅守舞香織が作ったキメラ、セリーに襲われた生徒と教師達は、半分以上が夏祭りの店を開く者達で、店が少なすぎる、と言う事で延期になったのだ。ちなみに、祭りの場所は学園の敷地内だ。やはりこの学園はかなり広い。学園で行われる夏祭りは、いつも二日間行われるため、どちらも来る人や、2日目だけ来る人も居る。
夏祭りに行こうと思っていた桜達は、学園長室に居た。もちろん七聖石を盗んで行った犯人を捕まえるためだ。当然、これは学園長の仕事であり、それを押し付けて来た学園長、アイリ・ストレイトスに対しての怒りを心の中に燃やしたまま、ここに居る。
作戦実行日は明日。これは、女王の守護神の情報部による予測だが、今回、七聖石を盗んだ犯人は明日以降に動くらしい。ブローカーに売る場所としては、学園の敷地内が相応しいと思われる。学園の敷地内は、軍が手出しできない。さらに、夏祭りが行われているため、学園の敷地内には民間人が大勢居る。そんな中では、軍はもちろん、ガードナーでも下手に攻撃できない。もし民間人に怪我でもさせよう物なら、すぐに問題となり、仕事がまわって来るのは少なくなってしまうかもしれない。そういった、様々な理由から、この夏祭り中は犯人にとってはかなり有利な取引場所かもしれない。ちなみに、女王の守護神からの予測には、犯人が学園内でトップクラスの魔術を七聖石を使って発動させる事は、無いと言う事だった。民間人を傷つける事はしないと見ているのかもしれない。
作戦、といっても、祭りの参加者の中に紛れ込み、そこから探すと言う物だ。かなりシンプルだが、民間人や生徒に怪我をさせないためにはこれしか無いだろう。
ヘンリルが手を上げる。
「何かな?ヘンリル君」
「女王の守護神のその予測って、信じられるんですか?」
アイリは、少し考えた後、
「僕的には五分五分だと思います。確かに、七聖石の保管してあった博物館からここまでは、一日はかかりますし、犯人の逃走ルートから、ここにたどり着くのは分かりますが、根拠が無い。現時点ではこれは確実とは言えません。全ては推測の域ですから」続けて、「それに、犯人が転移タロットを持っていないかどうかは、分からないですし、転移タロットなら、今日既に近くまで来ている可能性だってあります。ですが、今の所は、学園の敷地内をマークしているしかありません」
ヘンリルは、すこし納得がいかなそうだったが、それを無視してアイリは話を進める。といっても、実行日は明日だから今日は祭りを楽しむと良い、とだけ言っただけだったが。

    *                *              *

ガードナー育成校は、世界にいくつかあるが、天草学園はこの中でもリーダー格にあたる。故に、ここで行われる夏祭りは、かなり賑わう。民間人からしたら、リーダー格の学校が開く祭りは何かが違って面白い、とでも思っているのだろう。
実際、敷地が広いので、祭りに開かれる店はかなり多く、たとえ生徒が居て、300人入って来ても、余裕なくらいだ。ここは小中高一貫校+大学、の学校だから無駄に広く、今の在校生は1400以上だが、まだ余裕があったりする。
夏祭りには、やはり花火は上げられる。これもやっぱり凄く、モビ○スーツの形や、リアルなライオンの形など、現実的に無理そうな形が多い。そのため、かなり有名で人気だ。もしかしたら、今学園にいる客は大半がこれ目当てかもしれない。
ちなみに、祭り中での生徒や教師の売り上げは、すぐに学園の資金となる。ケチな学園長を見れば当然と言えば当然かもしれないが。
桜は、千秋と2人でゆっくりと歩いていた。桜は、
(・・・・・・・・・・どうすればいいんだろうか)
そう、桜はこういう時、どこへ行けばいいか分からない。別にそんな事考えずに、2人であちこち回って行けばいいはずなのだが、そんな事には考えがまわらない桜だった。それだけまだまだ若い、と言う事なのだろう。
そうやって、迷い続けていた桜の裾を誰かが掴む。そちらの方向を見てみると、
「桜、あれ・・・」
ちょっと顔を赤くしながら指差す方向には、産まれた赤ちゃんくらいの大きさの、コアラの人形。そしてその置かれている店は、射的、ヘンリルが経営していた。
桜はただ無言で、ヘンリルの店のもとまで行き、バンっ!と、100円を置く。
「お、桜じゃん。はい、ライフル(おもちゃ)と弾」
それを受け取ると、ゆっくりと構える。ターゲットはコアラのぬいぐるみだ。そこまで大きい訳ではないので、当てれば何とか倒れるかもしれないが、桜は射的未経験者であったりする。射撃、といっても遊びでおもちゃの銃を使って的当てくらいしかした事は無く、しかもそれは5、6才のときの話。10年前ほどの経験が役に立つかは分からない。
(・・・・・やっぱ狙うはおでこか。当たるかな・・・・・・・)
一発目、よく狙って撃つ。それは吸い込まれるようにコアラのおでこに当たり、後ろに倒れて行く。よっしゃぁ!と、叫びそうになった瞬間、
コアラは空中に高く飛び上がり、そのままさっき置いてあった場所へと、戻ってくる。
「な、何だそれ!!」
「あらら。ドンマイだねぇ。くっくっく♪」
「ヘンリル!お前なんかしただろ!」
ヘンリルは悪笑しながら、
「言いがかりはよしてくれよ。俺はさっきからここに居たぜ?どうやってそんな事するんだよ」
「それは・・・・・・」
言い返せない自分に腹を立てるが、確かにコアラとヘンリルの距離は4mは離れている。そこからでは手すらとどかないはずだ。
桜は渋々2発目をライフルに入れ、またコアラを狙う。今のが偶然なら、同じ事は起こるまい、と、またコアラのおでこ目掛けて放つ。やはり弾はおでこに当たり、落ちて行くが、また空中に飛び上がり、戻ってくる。
桜は地団駄を踏むしか無い。何故戻ってくるのか。その謎が解けぬまま、3発目を入れる。
(何かがあるはずだ、何かが・・・!)
周りを良く見てみれば、お菓子やエアガンなど、いろいろな物が置いてある。台を見る限りは、何の変哲も無いただの台だ。後ろの方はよく見えないが、下の部分だけは見える。木箱やダンボール。椅子の足みたいな物が置いてあるだけだ。そういえばアグリアスは何処に行ったのだろうか。ここはヘンリルとアグリアスの2人で経営していたはずなのだが。と、一瞬見えた物があった。

足。

そう、今椅子の足の近くに人の足としか思えない物が見えたのだ。まさか、と思う。
(アグリアスか・・・!あいつがコアラを戻してたんだな?)
だとすると、後ろに倒した所で何の意味も無い。ただ倒れてアグリアスに戻されるだけ。ならば前に倒すしかない。桜は最後の一発を放つ。それはコアラのおでこでは無く、屋根の柱の部分に当たる。
「残念!何にも取れなかったね」
ヘンリルは大笑いしているが、その笑いは一瞬にして止まる。コアラが倒れたのだ。しかも前に。コアラはそのままボトッとビニールシートの上に落ちる。唖然としているヘンリルに桜は、勝利の笑みを向けていた。

桜はは射的でコアラをゲットし、千秋にあげると、かなり喜んでくれた。最近思ったのだが、千秋は最近笑うようにって、口数も増えて来た気がする。前までは無表情だったし、口数ももっと少なかった。何が千秋をあかるくして来たのか、とちょっと真剣に考えてみる。自分のせいだと気付かない桜だった。
「千秋、どこに行くんだよ?」
「来てみれば分かるよ」
あっ、と言って千秋は桜の手を取って走り出す。結構暖かく、柔らかい手だった。ちょっと赤面しながら、引っ張られて行くと、そこは少し小さな公園だった。学園の敷地内にはいろいろな物がある。もう学校というより町くらい。
公園には、端に砂場があるだけで、他にはベンチくらいしかなかった。千秋はそのままそこに座ると、桜も隣に座る。
「夏奈が、ここは花火がよく見える特等席だ、って言ってたから」
(・・・・・・・・・・夏奈、か。あいついっつも余計なことをしてくるな。今回は良いけど・・・)
突然、何かが爆発するような音がし、見てみると、大量の花火があがっていた。犬にガンダ○に何故か異境の顔型の物まで。数十という花火が打ち上げられて行く。
はっ、と気がつくと、桜の手を千秋が握っていた。ちょっと赤くなっているような気もする。
「桜・・・」
千秋は桜の方を見ながら目を閉じる。桜は何かを察したように目を閉じ、そのまま唇を近づけて行く。

    *            *            *

(って!!何を考えているんだ俺はっ!!?)
今までの出来事は妄想上、もとい、想像上の出来事だったようだ。
自分で考えておきながら心の中で騒いでいる桜は、真っ赤になりながら学園の屋上に居た。下の方では祭りの光で明るい。
千秋は何を考えているのか、分からないが、何か自分関係の事のような気がしていた。千秋は意外にも鋭い勘の持ち主だったようだ。
「桜。これ、どうかな・・・?」
千秋は言うと、そのままくるりと回る。どうやら今着ている、薄いピンクの桜模様の着物のことを言っているようだ。が、
「・・・・・・・・えっと、何が?」
気付いていなかった。これだけ見せているのに気付かない桜の神経を疑わずにはいられない。千秋はかなりがっかりした顔をしていたが、桜は未だに気がつかなかった。




[790] 七聖石編 第1章(3)
のんびり - 2009年03月26日 (木) 14時12分

想像(妄想)内と現実では全く違うと思い知らされる。
今、桜と千秋は祭り中である学園の敷地内を歩いている。興味のある、店に行ってみたり、友達と話していたり。とりあえず、ぶらぶらと歩き回ってみた。
桜は今までずっと考えていた事があるのだが、その答えは未だに導けずに居るようだ。実は、この桜と言う男は、

未だに、千秋の浴衣に気付いていなかった。

『これ、どうかな・・・?』って言いながら、くるりと回って居るのだから、浴衣以外何かあると言うのだろうか。まさか、髪留めがどうとか、言ってるとでも思っていたのだろうか。だとしたら、鈍感なんてレベルではない。
とりあえず、ちょっと真剣に考えながら、ちょうどヘンリルとアグリアスの射的が目に入った。さすがに想像の中にあったコアラの人形はないが、代わりにクマの人形はあった。大きさ的には小さめなクッションくらいで、何故か頭に小さな鳥がついていた。
「千秋、射的やってみようぜ。どれか欲しいもの____
「あれ、あのクマ。あれが良い」
でもある?、って言い切る前に千秋は言った。そう言っていた千秋の瞳は何か輝いていて、横から見ていた桜は、
(うわ・・・・・・可愛いかも・・・)
とか思っていると、はっ、と気がついた。
(・・・・・・・まさか。さっきのどうかな・・・?って、浴衣の事かっ!?)
考える事、約1時間。ようやく気がついたようだ。今の桜の頭の中では、ヤバいという言葉だけが走り回る。今更それ似あってるだの可愛いだの言っても遅いだろう。いや、もしかしたら喜んでくれるかもしれないが、ちょっと危ない橋では?と考える。
と、言う事で。
バァン!!!と銃声みたいな大きな音を立てながら、桜は100円を払う。
突然の事に、ちょっと驚いていたヘンリルとアグリアスだったが、とりあえずライフルを渡して、3発弾を置く。
(当てて、千秋に上げて、浴衣の事謝らなくてはっ!!)
1発目、はずれ。2発目、はずれ。
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!全然当たらないっ!あと一発・・・外したらどうしよう・・・)
財布の中は、ちょっと危なく、今もう100円払ったら、ちょっとこの1ヶ月の食費が危うい。はっきり言って、3食は食べられないだろう。さっきまで回って来た店でちょっといろいろ買っていたから、これは冗談ではない。
ちらっと千秋の方を見てみると、諦めと不安が含まれた目でクマ+小鳥の人形を見ていた。見ていると、かなり焦る。緊張と焦りが手を震わせてしまい、狙いがつかない。震えを止めようとしても全く止まらず、さらに緊張と焦りが高まる。一発でも当てれば確実に倒れるはず。だが、考えてみれば、桜は今も昔も射的で何か当てた試しがない。それどころか、店の人に哀れまれて商品をもらうほどだ。
3発目を放つ。その弾はクマの上の小鳥に当たり、クマは揺れる。やったか?と思ったのだが、倒れずにそのままその場に立ち尽くしていた。
桜は膝をついて絶望していた。

    *               *              *

桜は、3回目でようやくクマを倒し、千秋にあげた。その笑顔は、確実に襲いかかってくるであろう食費問題を忘れさせてくれた。
想像の中でも思っていたのだが、千秋は本当にあかるくなった。もしかして誰か好きな人でも出来たのだろうか。恋をすれば人は変わるとか誰かが言っていたような気がするし。自分以外だったらどうしようとか、千秋結構モテるし、既に誰かと付き合ってたらどうしようとか、考えてしまう。、自分で考え自分でショックを受けている桜だった。そんな桜の葛藤も知らず、貰ったクマの人形を輝いた笑顔で抱きしめている千秋を、何か、周りの男達はにやにやしながらそれを見ていたが、桜が怒りのこもったオーラと、鬼のような表情で睨んでくるので、すぐに目をそらす。
ざわっと、ヘンリル達の射的から歓声が上がっていた。気になってちょっと見てみたら、優人がものすごいテクニックで次々と倒して行く。それを見ている客は歓声を上げ続けている。さっきまで自分が苦労して当てていた商品は、まるでドミノ倒しのように次々倒されて行く。ゆっくりと射的場へと近づいて行き、少ない資金をバンっと置く。そしてライフルを受け取ると、優人と睨み合い、商品の方へ向き直ったかと思うと、一斉にライフルに込めた弾を放つ。さっきまで全く当たらなかった桜も、全弾命中し、倒して行く。優人も当然倒して行き、商品数も少なくなって行く。
おおおぉぉぉぉ!と、さっきよりも大きな歓声が上がる。それを見ていた千秋の肩を、叩く人が居た。振り向いてみると、夏奈だった。
「それ、桜に貰ったの?」
「うん、3回くらい失敗してたけど。別にそこまでしなくても良いんだけど・・・」
「ふぅん。ところでさ、前から気になってたんだけど」千秋の顔を覗き込み「桜、千秋に何かしたの?」
え?、千秋が何を言ってるのか分かっていない顔をしている。
「だって、私が見た限り、桜は千秋との恋愛フラグを立てては居ないと思うんだよね。特に何もしてないし。だから、私が見ていない所で何かあったのでは、と思って」
「・・・・・・分からない。特別な事は何もしなかったし、何か起きた訳でもないけど・・・」
恋愛関係では気弱な桜に、何か出来るはずは無い。それに、今までを見ても、特に特別と言える事も、恋心を芽生えさせるような事もしていない気がするのだが。恋するのに理由なんていらない、とかって言う物だろうか。
ちらっと桜の方を見てみる。まだ射的で優人と争っているようだ。相変わらずというか、優人と競うときは、普段の何倍もの力を発揮している。「らいばる」っていう奴だろうか。千秋にはよく分からないが、夏奈に聞いた話だと、喧嘩するほど仲が良い
、って言うのが通る良い友達って言う意味とか言っていた。 
そういえば、もう既に商品が1つになっている。それに2人の弾が一斉に当たり、倒れるのだが、
「今のは俺だっ!」
「いぃや。俺だ!」
いつも通り喧嘩しだしたのだが、珍しくヘンリルが仲裁に入る。店の前で騒がれるのは迷惑なのだろうか。とりあえず商品を2つ置いて、早撃ち勝負、と言う事になった。弾は一発。どちらも外す、もしくは当てて判定不可の場合、パートナー同士でのじゃんけん。桜と優人では、じゃんけんは勝敗が決まらない。
2人は一斉に放ち、一斉に当たる。かと思いきや、そこに、風が吹いた。その風は桜のはなった弾を吹き飛ばし、飛んで行った弾は優人の弾を弾き飛ばす。
「「・・・・・・あ」」
と、言う訳でじゃんけん。千秋と夏奈が2人の隣に立ち、
「「最初はグー、じゃんけんポイ」」
千秋パー。夏奈グー。
「あ・・・・・・」
「か、夏奈ぁぁっ!!」
優人が夏奈にガミガミ言っているが、桜は歓喜の表情でありがとう連呼しながら千秋に抱きついている。千秋はちょっと赤くなりながら慌てている。
「あぁもう、うるっさいっ!優人が当てないから悪いんでしょ!?だったら自分でやれば良いじゃん!!」
「いいぜ、やってやろうじゃねぇか!!千秋!俺とじゃんけんだ!」
結果、負け。
膝をついて落ち込む優人に夏奈は、ほら!優人だって勝てないじゃん、とか笑いながら言っている。優人の落ち込みは更に深くなって行く。
桜は満面の笑みでまた千秋に抱きついている。それにまた慌てている千秋だった。

     *             *            *

今は調度夕御飯時。私は浴衣を着て暁と一緒にお祭りの中を歩いているんだけど。
「食い過ぎんなよ」
絶対言うと思った。暁って、何か事あるごとにこれ言うんだよね・・・他に言う事無いのかな・・・?って言っても、太るぞ、とかしかないだろうけど。
「だ、大丈夫!晩ご飯食べる意外は、食べないから!」
「とか言いつつ、いつも綿菓子とかりんご飴とか買って、デザートって言って食べてるのは誰だよ?デザートなんて量じゃないだろ、あれ」
うぅ、言い返せない・・・確かにお祭りの時とかは晩ご飯食べるのに焼きそばとかかって、その後に甘い物買うけど、そこまで買ってるかなぁ・・・?綿菓子とりんご飴とアイスとチョコパフェと・・・十分買ってるかも・・・
「佐百合、お前さぁ。女として太りたく無いんだったら、カロリー考えろよ・・・栄養十分、味良し、量十分、カロリー少なめ。お前に必要なのは我慢だ。一応パートナーとして太ってもらうと困るんだよ。戦闘中の動きとか悪くなるし、一応第一印象とかも大事だし」
「うぅ・・・・・・そう言われても・・・だって、美味しそうなんだもん」
「美味しそうなんだもんじゃない。ったく・・・・・・」
確かに太るのは嫌だけど・・・でも、食べられないって言うのもちょっと・・・ていうか、暁って何で太らないんだろう。私と同じくらい食べてるのに。ちょっと羨ましいかも・・・
「お前と違って鍛えてるからな」
あぅ。心読まれてた・・・やっぱり暁可愛く無い。もうちょっと可愛気あっても良いのに、何でこんなにキツい性格に・・・しかも私だけだし。何で他の人にはキツくしないんだろう。差別じゃないの?
「良いだろ?別に」
「人の心を読まないでよ・・・」
「お前、考えてる事がすぐ顔に出るから、分かるんだよ。第一、俺には読心術は使えん」
私ってそんなに分かりやすいの!?ちょっとショックかも・・・つまり、単純・・・って事?お、落ち込まずにはいられないかも・・・・・・
あ、焼きそばだ。買ってこ〜♪
「俺も買う」
おぉ、これは。ソースのいいにおいが・・・ひゃぁ!凄い美味しい!!あれ?もうこんな時間だ。早く席取らないと花火が良い所で見れないよ・・・
急がなくちゃ!!焼きそばに蓋して・・・走る!!
「お、おい!手引っ張るなよ!や、焼きそばがこぼれる!!」
何か暁が言ってるけど気にしてられない!!急げ、私!!



[808] 七聖石編 第1章(4)
のんびり - 2009年04月05日 (日) 22時38分

七聖石奪還作戦開始まで、あと21時間。今は夜の9時で、作戦開始時間は18時だ。ちょうど祭りが始まる時間で、犯人が来るとすれば、学園の警備の薄い、祭りの間の可能性が高いため、祭りが始まる時間から作戦開始となる。
その時間までにまず、犯人の特徴を掴まなければならない。ここ、学園長室では博物館のカメラに映っていた犯人の映像を解析していた。映像がブレているのだ。カメラは犯人が侵入した際に、壊され、全部床に落ちていたが、1つだけ落ちていない物があった。それは隠しカメラであったが、他のカメラを破壊したときのあとの攻撃で、落ちかけたカメラで、少しブラブラと揺れていたため、ブレたそうだ。
学園長室では、そのカメラに写った犯人の映像をパソコンで編集し、もう少し見やすくしようと言う事だった。
「まだちょっと見えませんねぇ・・・」
「これでも、かなり編集加工したんですけど・・・まだまだする必要がありますね」
話しているのは、学園長アイリ・ストレイトスと、教師の五月蝿異境(うるさ・いきょう)だ。2人ともパソコンの画面を移した巨大画面を見ていた。画面には、人のような形のした物が映った、モザイクと言えるような物だった。まだ犯人の姿さえまともに見えない。これでもかなり編集加工したようなのだが。
「ちょっと、なんて物じゃなかったみたいですね。そうとう揺れていたみたいです」
「ですね。じゃなかったら1時間何度も加工して何も見えないはずがない。学園長。どうすれば良いでしょう?」
アイリは仮面の奥で目をつぶる。
「とりあえず、これの100倍くらい加工してみてくださいい。それでこれと変わらないようだったら・・・他に何かあるはずです」
「・・・・・・分かりました。100倍・・・ですね」
時間的にはおそらく、そうはかからない。今の状況で既に100倍近く加工してあるのだから、かかっても1時間程度。それで何も映らなければ・・・
「カメラに細工・・・されていた、つまりあのカメラはわざと残した事になりますね・・・」
もし、そうだとしても理由が分からない。何故カメラを残したのか・・・
何か、何か理由があるはずだろう。もしかしたら、誰かに何かを知らせるために・・・だとしたら、軍か学園に知り合いが居る可能性がある。そう考えた途端、その可能性を捨てた。軍はまだしも、自分の学園の生徒を疑うなど、学園長失格、と思ったから。アイリは、異境が戻ってくるまでの間、それ以外の可能性を探した。

    *             *            *
   
少し戻り、今は8時30分。そろそろ花火のやる時間だ。花火開始は9時からだから、それまでに良い席を取りたい。しかし、既に人々が集まっていて、それを押しのけようとしても、押し出されてしまう。席を取るどころではなかった。
だから、ちょっとした裏技を使う事にした。とっておきの特等席。学園の屋上にある時計塔の屋根の上だ。あそこなら、学園の敷地内の花火ならよく見えるだろう。誰も居ないし誰も邪魔しない。桜的には、千秋との距離を縮めるチャンスと考えていた。
とりあえず、さっき浴衣に気がつかなかった事(普通は気がつくが)を謝らなくてはならない。
ていうか、2人っきりなんて久しぶりだ(寮室以外では)。いったい何を話したら良いか分からない桜だった。寮で話していた事と言っても授業の事とか、任務の事とか、世間話みたいな事ぐらいだった。祭りの時に花火を見ていると言うシチュエーションで、いったい何を話せば良いのか、それを考えている最中だ。
ちなみに、今は時計台の屋根に向かうべく、学園の敷地内を歩いて学園内へと向かっている。
(ん〜・・・・・・やっぱ、昔の事とか世間話とかで良いのかな・・・ていうか、それぐらいしか俺には思いつかないしなぁ。とりあえずこれで行くか)
とか、考えながら千秋と歩いて行く。さっきよりも人が多くて、少し歩きづらい。人込みをかき分けて歩いていると、千秋と少しずつ離れて行ってしまう。一旦立ち止まり、千秋を待ってみると、千秋が追いついて来た。急いで来たのだろうか、息づかいが荒い。
「ごめん、ちょっと早く歩き過ぎたかな・・・。はぐれないように気をつけないとな」
「はぐ・・れる?」
心配そうな顔をしながら言う。桜は心の中でちょっと、ときめきながら、さっきより遅いペースで歩いて行く。すると、千秋が桜の裾を掴んで来て、
「掴んでて良いかな・・・?はぐれるの・・・恐い」
「ん・・・じゃあ、こっちの方が良いんじゃないか?」
そう言うと、千秋の手を握る。千秋の手は暖かくて柔らかくて、桜の手よりちょっと小さく感じた。自分で手を取っておきながら、ちょっと赤くなっているが。
「・・・・・・・・・うん」
どこかの漫画にこんな、感じのシーンがあったのだが、そんな事も気にせずに、2人は手をつなぎながら、歩いて行く。桜は、千秋と手をつないでいるという状況に、頭が真っ白になっていて、何も考える事が出来ないようで、一言も喋らない。それは千秋も同じだ。まぁ、頭は真っ白にはなっていないだろうが。
ボーッとしていると、突然どすっ!!と、走って来た誰かにぶつかってしまい、千秋と手を離して、尻餅をつく。
「いっててて・・・だ、大丈夫かい?」
「あ、ああ。何とかね」
ぶつかって来たのは、白いTシャツの上に灰色の薄いジャンパーを着て、黒いズボンを穿いていて、歳は桜の2、3才くらい上の男性。帽子の傘を後ろにして、かぶっていて、見えている前髪の銀髪は、爆発している。右肩に鞄をぶら下げ、手にはまだ未開封らしい焼きそばを持っている。
「ごめんね。ちょっと急いでやがったもんで。待ち合わせに遅れちまいやがったもんだから、早く行かないといかんのよ」
「はぁ、まぁ良いですけど」千秋の方を向いて、「千秋、大丈夫か?」
「うん、一応転んだりはしてないから・・・」
「本当ごめんな、じゃ、俺は行きやがりますから」
じゃあ、と桜の横を走って行く。その際に彼の肩にぶら下がっていた鞄に右手が当たった。時だった。

頭の中、そして瞳の中がバギンっ!!と音を立てて、一瞬何かが走った。

まるで、何かを知らせるように走ったそれは、瞬間的に桜の視線をさっきの男性の方に向かせる。が、既にさっきの男は人ごみに紛れたか、既に見えない所まで走って行ってしまったか、もう見えなくなっていた。
(な、何だったんだ・・・?さっきの感覚。・・・月の加護、か?)
さっきの感覚が、心の中に引っかかる中、桜は歩き出す。千秋は、桜を見て首を傾げていたが。

    *               *              *

学園の屋上に来た桜と千秋は、時計台の扉を開き、それほど長くは無い螺旋階段を上っていた。そして、上りきった後、首の辺りにある天窓を開き、そこから屋根に出ると、ちょうど花火が始まる時間だった。一本の光が上がり、大きな音を立てて綺麗な花をを咲かせる。そして次々と花火が打ち上げられて行く。リアルな猫や、ドラグ○ー1型やプリング○スのあれ、等の形をしていて、ちょっと面白い。
天窓のちょっと上あたりに座り、花火を眺める。いろんな形や色が綺麗だ。この花火が目当てで来る人達の気持ちがわかる気がする。桜はちらっと千秋の方を見てみる。花火に見とれているのか、珍しい物を見るような目で花火を眺めている。
だが、何故かいつも見たいに心はときめかなかった。さっきの、頭と瞳に走ったあの感覚がまだ、心に引っかかっていたのだ。かつて、あんな感覚は感じた事はなかった。死の眼の時も、あのような感覚は起こらなかったし、あの時、頭と瞳の中を走った物は、何かの形をしていたような。長方形の何か、お札、だろうか。微妙にモザイクのような物がかかっていて何なのかは判断できない。
「桜?」
鞄、だろうか。いや、さすがにあんな形はしていなかったはずだ。多分、札というのが一番近いはず。まぁ、形的にだが。
「桜、桜」
しかし、あの男は何者なのだろうか。待ち合わせとか言っていたが、誰と?彼女でも居ると言うのだろうか。いくら考えても分からない。後で調べてみる事にしてみよう。
「桜ってば!」
どすっと千秋が肩を押して来た。突然の事に耐えきれず、そのまま倒れてしまう。そしてそのまま・・・
「うおわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
時計台の屋根から転がり落ちて行く。ガン!!と思いっきり頭を打って、気を失ってしまう。

頭が痛みながら、目が覚める。気を失ってから10分くらい経ったのだが、まだ花火はやっているようだ。花火の音がまだ続いている。
10〜15秒くらい経って、気がついたのだが、頭の後ろに何か柔らかい物がある。
ゆっくり目を開けてみると。
「ん・・・気がついた?」
少し間が開いて、
「うわぁぁ!!!」
「きゃっ!?」
がばっと起き上がり、思いっきり、おでことおでこをぶつけてしまう。そうとう痛いらしく、2人とも下を向きながらおでこを押さえている。
「あ、えっと。ごめん。ちょっと驚いちゃって・・・」
小さな声で、膝枕が、と言う。千秋はちょっと涙目で、
「うん。大丈夫」
涙目なので、ちょっと説得力がないが、とりあえず安堵する。
それにしても、膝枕か・・・と1つの思い出として頭の中のメモリーに入れておこうと思う桜だった。
作戦開始まであと20時間。そんな事も忘れて、2人は花火を眺めていた。





[820] 第43話「月が見下ろす世界」七聖石編 第2章(1)
のんびり - 2009年04月13日 (月) 21時42分

愛する人のために。そう言って旅に出たのはどのくらい前の事だっただろうか。
今の自分ではあの人の、隣に立つ事は出来ない。だから力が欲しかった。あらゆる修行を積み、あらゆる経験をして、あらゆる事を知った。
やっと、たどり着いたはずだった。帰って来た時に待っていたのは、愛する人の居ない故郷と、師匠の敗北と行方不明と言う報せ。帰って来た時にはもう、自分には何も残っていなかった。
何故、こんな事になったのか。旅になど出ずに、この故郷で暮らしていれば良かったのか。まだ自分の力が足りなかったからなのか。
結局なんであれ、自分はまたあの人の隣には立てなかった。
自分に足りない物は何なのか。今は、それすら分からない。いったい何が答えなんだろう。そんな物はない。いったい何が足りないんだろう。そんな物は分からない。ただただ、そんな自問自答を繰り返すだけ。
心の中にポッカリ開いた穴。それを埋める事はきっと自分には出来ない。それはきっと、あの人にしか・・・
   *             *            *

花火が終わり、祭りもあと1時間半ほどで終わろうと言う時に、桜はもう祭りの後の脱力感を感じていた。千秋と2人きりで見ていた花火は、心に深くメモリーされていた。なんだかんだで、楽しい一日ではあったようだ。
とりあえず、祭りの場に向かって歩いている。屋上にいても、特に何もないからだ。校内から出る所で、突然桜の携帯が鳴り始めた。どうやらメールが来たらしい。
「えっと・・・すぐに学園長室へ。か」
「何かあったのかな・・・?」
さぁ?と適当に返答しておきつつ、学園長室に向かう。今回の作戦関係だという事は大体分かるのだが、いったい何を話されるのかは、まったく予測がつかない。
急ぎの用なのだろうか。ていうか、用があるなら電話ですれば良いのでは、と思ったが、異境達は盗聴でも気にしているのかもしれない。
「さて・・・何なのかなぁ〜・・・」

    *              *             *

学園長室に来てみると、優人やヘンリル達も、もう来ていた。部屋には、何故か大きめのモニターがあり、カーテンが閉められて、部屋はうっすらと光があるくらいの暗さだった。
2人はとりあえず、空いている席に座る。それを見た学園長は、目の前にあるパソコンを操作し、博物館のカメラ映像モニターに映す。しかし、映ったのはブレ過ぎて何も見えない映像だった。
「―――――何も見えないんですけど」
言ったのは佐百合だった。軽く脱力してるみたいだが、理由はおそらく、座っている椅子の下にある、食べ物の楽園中に邪魔が入ったからだろう。それにしても、焼きそばやら、たこ焼きやらアイスやらいろいろと、椅子の下にあるのだが、あれ全て食べきるつもりなのだろうか。
佐百合の言葉に学園長は頷き、
「そう。これでも200倍加工したんですけどね、全然見えなくて。だからこの映像を撮ったカメラを見てみたら・・・」
床に置いてあった鞄から、カメラを取り出すと、
「ここ、ここに機械類を狂わせる魔術式が書かれていまして」
ヘンリルが眉間にしわを寄せながら、
「・・・それって、何か問題あるの?」
「いえ、魔術式が書かれているだけなら良かったのですが、書かれているこれが問題でして」カメラに書かれている魔法陣を指差し「これ、結構な上級魔術でしてねぇ。
工程が素人じゃ出来ない物で、魔術師クラスの物なんですよ。機械に介入する魔術と言うのは、機械の回路に魔力を注ぎ込みながら、効果を示す魔法陣を魔力を込めながら書く。これを同時にやらなくてはなりません。簡単そうですけど、かなり難しいんですよ」
続いて異境が、
「まぁ、そういう話は置いといてだなぁ。顔は見えないから、顔の作りを解析してみて、祭りの参加者全員の顔と照合してみたんだけどな」少し間をあけて「一人だけ一致したんだよ。もう犯人はここに来てる」
驚かずにはいられない一言だった。確か軍の予測では明日じゃないと、犯行現場の博物館から学園には着かないはず。いったいどんな裏技を使ったのだろうか。
実際、軍の予測通り、博物館から学園までは、そうとうの距離があり、到着するまで確実に明日まではかかるはず。かなりの上級魔術か、もしくは。
「犯人の名前は、柊斎季(ひいらぎ・さいき)。経歴とかは不明です。分かっているのは、相当の魔術師である事だけ。獲物は何なのかとか、宗派や流派なんなのかとかは全く分かりません。本当に謎だらけですね」
あ、と抜けた声を出してしまう。桜は気付いたのだが、千秋は気付いていないようだ。忘れてしまっているのだろうか。
さっきぶつかって来た、男性だ。そして思い出す。この男性、柊斎季の鞄にぶつかった時に感じたあの感覚。あれはいったいなんなのか。月の加護による物なのか、あの鞄の中身による物なのか。謎は増えるばかり、まだ解決されない。
「と、言う訳だから、明日開始されるはずだった作戦は、今から開始する」
1日早まった作戦は、開始された。




[831] 七聖石編 第2章(2)
のんびり - 2009年04月23日 (木) 21時12分

天草学園主催の、この祭りに来ている人間は、生徒を含めて、およそ2500人。スペース的には余裕がある。しかし、それは何も無い時の事であり、店が開かれ、スペースが取られると、さすがにちょっとキツい。
その中から、たった一人の人間を見つけようと言うのだ。骨の折れる仕事である事には違いない。
探さなければならない場所は、校内と校庭に、中庭など。とにかくあちこちある。もし、見つけたとしても追いかけるのはさらに難しい。人混みを掻き分けながら見失わないようにしなければならないのだ。時間があるかないか分からない故に、今回はなかなか難しい任務だ。
桜達は、パートナーとの2人組に分かれ、手分けして探す事にする。優人・夏奈は校内。ヘンリル・アグリアスは、校庭。佐百合・暁は、学園入り口付近。桜達は中庭を担当する事にした。
桜と千秋は、学園内を歩き、中庭へと向かっていた。周りを見て、人が見えない事は無い。だが、最初の頃よりは減って来たのだろう。さっき時計塔に向かう時、2人横に並んで歩くのは無理だったが、今では、そんな余裕ができている。
中庭に着くと、賑やか、と言うほどでもなく、どちらかと言うと静かな方だ。ベンチの上に座って2人寄り添っている(イチャついている)カップルが何組か居て、ちょっと居にくい(ムカつく)雰囲気だった。
中庭は、結構広い。広さは大体グラウンド2つ分と同じくらいで、憩いの場として使われている。中庭の広場の真ん中には、大きめの噴水があり、確実と言って良いほど、夜には何組かカップルがいる。現在も3組のカップルが噴水に座っている。
2人はとりあえず、噴水のもとまで行き、周りを見回してみる。
「さて、どう探すかな」






[836] 七聖石編 第2章(2)
のんびり - 2009年04月26日 (日) 13時25分

↑のやり直し。・・・すみません。

天草学園主催の、この祭りに来ている人間は、生徒を含めて、およそ2500人。スペース的には余裕がある。しかし、それは何も無い時の事であり、店が開かれ、スペースが取られると、さすがにちょっとキツい。
その中から、たった一人の人間を見つけようと言うのだ。骨の折れる仕事である事には違いない。
探さなければならない場所は、校内と校庭に、中庭など。とにかくあちこちある。もし、見つけたとしても追いかけるのはさらに難しい。人混みを掻き分けながら見失わないようにしなければならないのだ。時間があるかないか分からない故に、今回はなかなか難しい任務だ。
桜達は、パートナーとの2人組に分かれ、手分けして探す事にする。優人・夏奈は校内。ヘンリル・アグリアスは、校庭。佐百合・暁は、学園入り口付近。桜達は中庭を担当する事にした。
桜と千秋は、学園内を歩き、中庭へと向かっていた。周りを見て、人が見えない事は無い。だが、最初の頃よりは減って来たのだろう。さっき時計塔に向かう時、2人横に並んで歩くのは無理だったが、今では、そんな余裕ができている。
中庭に着くと、賑やか、と言うほどでもなく、どちらかと言うと静かな方だ。ベンチの上に座って2人寄り添っている(イチャついている)カップルが何組か居て、ちょっと居にくい(ムカつく)雰囲気だった。
中庭は、結構広い。広さは大体グラウンド2つ分と同じくらいで、憩いの場として使われている。中庭の広場の真ん中には、大きめの噴水があり、確実と言って良いほど、夜には何組かカップルがいる。現在も3組のカップルが噴水に座っている。
2人はとりあえず、噴水のもとまで行き、周りを見回してみる。
「さて、どう探すかな」
場所を限ってあるとはいえ、ここから、たった一人の人間を捜すのはかなり厳しい。それにここに居るかも分からない。とにかく見つける見つけないではなく、居るか居ないかをはっきりさせた方が早い。
「二手に分かれても、相手がかなりの魔術しであり、経歴とかが不明な得体の知れない奴だからな。ちょっと危な過ぎる。やっぱり、あちこち探しまわるしか無い、か」
それは、面倒くさい事だが、仕様がない。
とりあえず桜達は、周囲を見回しながら、歩き出した。

   *              *                *


白いTシャツの上に灰色の薄いジャンパーを着て、黒いズボンを穿いていて、帽子の傘を後ろにかぶっていて、見えている前髪の銀髪は、爆発している。右肩に鞄をぶら下げた男が、祭りの中の天草学園を歩いていた。

柊斎季。

ライズ国内の北西にある博物館から、七聖石と呼ばれる宝石を盗み出した男だ。
七聖石は今、魔力を外に漏れるのを押さえる特殊な袋にいれて、右肩にぶら下げた鞄に入れてある。それなのに、さっき一度だけ魔力が強制的に漏れだされたときがあった。走っていた時にぶつかった、あの青年が鞄に振れたときだ。
あの時のが察知されていれば、いくら特殊な袋に入れていても、相当な出力で魔力探知されれば、見つかってしまう。
だが、今気になっているのは・・・
(あの男・・・何者なんじゃ?魔術師なんて物じゃない。魔術で強制放出させやがったのなら魔導師クラスだ・・・だが、呪文も魔法陣も、何の魔術式も行っていやがらなかったはずじゃ。あいつは一体・・・)
強制放出ともなれば、確実に何か準備が必要だ。手の甲に魔法陣を描いてはいなかった。ましてや呪文すら。何か特別の力を持っているとしか考えられないだろう。
さらに考えを巡らせて行くと、何故か彼の後ろにいた女性に至った。
(何故じゃ?何故あの子に思考が回る?あの子は何もしてやがらなかったはずじゃ・・・何故・・・)
見た事があるような気がする。それも、自分に取って何か特別な人だったような・・・
「ま、まさか・・・」
つい声に出してしまう。かつて自分が金剛流剣術を極めんとしていた頃だった。あの時に出会ったあの人。
「千秋、さん?」



[841] 七聖石編 第2章(3)
のんびり - 2009年04月29日 (水) 12時00分

しばらく校内を歩き回っていたが、柊らしき男は見当たらなかった。
優人は他の場所にいる物と思っていたが、とりあえず、もう少し回ってみる事にした。入れ違いになってしまっては仕方が無い。
一階から3階まで歩いて回ったから、あとは4、5階と屋上だけ。優人的には居るような気がしないが、見回ってみない事には分からない。とりあえずエレベーターにのって4階に行ってみる。
人は少なめだが、すかすかと言うほどではない。
夏奈はアイス片手に、優人の後ろを歩いている。適当そうにしているが、内心は結構真面目だ。一応、日常と仕事の区別はついているらしい。
「バニラ、うまぁ♪」
夏奈が持っているアイスは球状の2段のアイスで、上段がバニラ、下段がチョコだ。地味な感じだが、それが良いと夏奈は言う。夏奈はアイスを買うときは、いつもこの形だ。種類は主にバニラ、チョコ、抹茶。これ以外を頼んでいる所は今の所優人は見ていない。アイスは2週に一度だけ買い、食べる。まぁ、結局食べきれずに優人にあげるのだが。
「あのなぁ、一応、作戦中だって事分かってるだろうな?」
「わはってるひょ、ひゃんと」
「・・・食べるか喋るかどっちかにしろ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
食べる方を選んだらしい。
優人は溜息をつく。相変わらずマイペースな奴だと思う。B型は自己中心的とかマイペースだとか言うが、全く当てにならない。夏奈はA型だ。
「あと、前から言おうと思ってたんだけどな。食べきれないなら一段にしろ。いちいち俺に食わせるな」
「固い事言わないでよ、良いじゃない。この夏奈ちゃんと『間接キス』出来るんだから♪」
「全然よくねぇよ。何でお前なんかと間接キスなんてしなきゃなんないんだよ?」
2人とも別に間接キスとかは気にしていないようだが、周りの人達がそんな事聞いてたら、変な誤解を生む事に違いない事に、気付いていない。
ゆっくりと、仕事の話からズレて行っているのだが、まだ関係ない事を議論している辺り、2人は結構仲が良いんだなと思わされる。作ってる人が言うのもなんだが。
とか、どうでも良い会話に花を咲かせつつ、見回っていると、いつの間にか4階を一周してしまっていた。
一応、話しながら周りは見ていたが、見た限り柊らしき人物は居なかったと思う。
それから、またエレベーターを使い、5階に上がり、さっきの展開と同じ物なって行く。

     *             *            *

学園長室では、アイリが監視カメラの映像をじっと見つめていた。
今、監視カメラでは柊の顔の作りと一致する人を、フル回転で検索中だ。カメラに映る人間全部に検索をかけて、一致する人間が居るかどうかを調べているのだが、まだ見つかる事は無い。カメラの視界を通っているのか、魔術でカメラに写らないようにしているのか。
どちらにしても、今では場所を掴む事は出来ない。だからこそ、今、魔術師を呼んでいる。カメラで見つけられないのなら、魔術で見つけるしかない。
「はぁ・・・全然見つかりませんねぇ。早く来てくださいよ、異境先生・・・」
今、異境はその魔術師をここに連れてこようとしている。学園最新鋭の超転移空間移動装置で、遠い所までひとっ飛び、とまでは良かったのだが、その魔術師様は多忙な身らしく、少し時間がかかるそうだ。異境も手伝って少しでも時間短縮をしているそうなのだが。
先程来た電話では、あと30分くらいと言っていたが、本当かどうかは分からない。
「はぁ・・・・・・やっぱり見つかりませんね〜。もう彼らに任せた方が早い気がします」
言った瞬間、後頭部を後ろに居た秘書に殴られた。

    *              *              *

柊斎季は袋に入った七聖石を見つめていた。さっきの男の隣に居た、千秋の事を考えながら。
居るはずの無い場所に、居るはずの無い人間が、居た事への驚きもある。が、今考えていたのは、ありし、昔の事。
『だい、じょうぶ?』
今、自分を突き動かしている理由の1つ。それを今、改めて思い知らされた時だった。強き物が手に入れる物。それを手に入れた男を前にしたときだった。
『柊・・・斎季さん・・・・・・って言うんだ。よろしく、ね?』
我が師匠を倒した、男を、前にしたときだった。
「神崎・・・桜、か。あいつが」
そして新たに、自分を突き動かす理由が出来てしまった。我が師匠の仇であり、己が愛した女性を手に入れ、自分の全てを奪って行った男から、
「奪い返しやがる、っていうな」
思い出すのは千秋に初めてであった頃の言葉。
『私は・・・逢坂、千秋って言うの・・・』





[855] 七聖石編 第2章(4)
のんびり - 2009年05月06日 (水) 22時03分

ヘンリルとアグリアスは、広い校庭を歩き回っていた。
「・・・・、」
「・・・・・・なぁ、アグリアス。こんな時くらい本、読むの止めない?」
さも、当然のように、「止めない」と一言。
ヘンリル的には、いくら任務中と言っても、会話が無いのはちょっと寂しい。せめて本を読みながらでも良いから喋ってほしいのだが、そんなことはしようともしない。
正直、つまらない。
何か話題を探そうと、アグリアスの読んでいる本を見てみる。題名は「機動戦記ZERO」。裏表紙のあらすじには、『平凡な毎日を過ごしていた少年、秋瀬海利(あきせ・かいり)。突如襲って来た連邦軍に対抗すべく、祖父が作りし、「クロス・ゼロ」に乗り戦う!』とか書いてあった。どうやらロボット系のライトノベルのようだ。
「それ、どんな話なんだ?あらすじだけじゃあよく分からないんだけど」
「この巻では主人公、秋瀬海利がZEROシリーズとか言う奴のファーストタイプのクロス・ゼロに乗って連邦軍のミストラルっていう大部隊と戦う話だ。まぁ、戦うっつても、まだ決着つけに行こうとかそういうのじゃないからな」
よく分からなかったが、とりあえず、アグリアス的には面白いらしい。

      *            *            *

天草学園の入り口近くでは、主に何かの道具が売っている。料理なら包丁とかフライパンとか。工具ならげんのうとか、釘とか。薬品なんかもある。
主に女性客が多く、工具はあまり売れないが包丁とかフライパンや、薬品とかはよく売れる。女性で工具を買う人は、ほぼ居ないと言っても良い。
佐百合は柊を探しながら、適当に店を見ていた。一応、料理が好きな物としては、学園に居ても滅多に手に入らない学園製の包丁とかフライパンが欲しかったりする。
そんな佐百合はほっといて、暁は柊を探す事に集中している。
仕事には結構熱心な暁だった。
「はっ!あの金庫の扉も両断する学園製の包丁欲しい!!」
「買ってくれば?俺は柊探しに集中してるし」
「良いの?じゃあちょっと行ってくるから待っててね〜」
そう言うと佐百合は包丁を買いに、宣伝してる店へと駆けて行った。
ぶっちゃけ、興味ないから勝手にやってくれ、と小さく呟く暁だった。
「す、凄い・・・これだけ切れ味が良いのに、たったの4500P!安いかも・・・」
通販で買うと、7000Pくらいはする。2500Pお得な訳だ。
とりあえず、『包丁村雨』と書いてある箱を取り、店員に渡す。そして4500P払い、受け取る。持っていたバックに入れて暁のもとへ戻る。律儀にも彼は待っていた。
「ごめんね、待たせちゃって。さ、捜索続行♪」
「捜索じゃなくて、尾行だろ」
え、と抜けた声を出してしまう。
暁の視線を追ってみると、その先に居たのは、黒いジャンパーを着て、後ろ髪を尖らせた男がいた。さっき佐百合が包丁村雨を買った店だ。
男も、包丁を買ったのか、手に箱を持って、店から立ち去る。
その時に見えた横顔は、見た事がある物だった。

柊斎季。

「が、学園長に連絡した方がいいかな・・・?」
「しとけ。尾行しながらな。気付かれない距離を保つぞ」
2人は柊を追い始める。

    *              *             *

「佐百合達が見つけた?」
桜は、学園長から、佐百合達が見つけたと言う連絡を受けていた。
『はい、ですから、あなた達も佐百合さん達のもとに____ 』
「無理だろ・・・」
はい?と、間の抜けた声を出す。
「だって」2秒ほど間をあけて「俺らの前にも、居るんだぜ?柊が」
は?と、もう一度間の抜けた声を出してしまう。
今、柊は佐百合達が尾行している。それは学園入り口付近だ。中庭に居るはずが無い。だがしかし、彼は目の前に柊が居ると言う。
『学園長』
携帯の向こうから優人の声が聞こえる。多重連絡のようだ。
『俺らも、柊を尾行してるんだけど・・・』
『まさか・・・ヘンリル君達も?』
『ああ。俺達の前にも柊が居るよ』
4人の柊斎季と言う人間が今この場に存在していた。どれかが本物か、それとも。
「魔術、って事になるのか?でも、3、4人同時、って事になると、かなり難しく無いか?」
分身系の魔術は、1人の分身を保つのに、いろいろな部分で魔力を使う。
3、4人の分身をそれだけの魔力を持っているのはかなり少数だし、均等に魔力を注ぎ込む必要があり、そのコントロールは相当難しい。
『これで、相当の魔術師だと言う確証が得られましたね』
『俺達はこのまま尾行してりゃ良いのか?』
『ええ、そのまま尾行してみてください』ただ、と続ける『一応、僕。学園長なんですよ』
ちょっとテンション低めな声を出す。
『『『だから?』』』
『あの、ため口ってどうかと思うのですが?』
『『『あぁそう』』』
聞いてもらえなかった。




[871] 第44話「愛した人の形」七聖石編 第3章(1)
のんびり - 2009年05月17日 (日) 19時10分

柊斎季は、とある場所を探していた。
それは、既に決定された場所がある訳ではない。いくつかの条件が満たされた場所を探しているのだ。
この無駄に広い学園の中なら、そんな場所はいくらでもある、と思っていたのだが、意外とそんな場所は無い。周りの人に不振に思われないようにして、その場所を見つけるのは意外と面倒くさい。
おそらく、既に学園は自分の捜索に入っているだろうな、と思って出しておいた、分身。あれらは柊自身であり、柊ではない。きちんとした実体があり、仕草や、言動。何もかもをコピーした囮人形(ダミー)だ。魔力は使うが、本物の分身ほどではなく、制御も簡単。分身と思っていた物がそうではないのだから、敵も驚くに違いない、と思っていたのだがどうだろうか。
適当に色々考えていると、グゥ〜、とお腹が鳴る。
よく考えれば、朝食べてから今の今まで何も食べていない。ちょうど目の前にあった、たこ焼き屋で、たこ焼きを買って食べる事にする。時間的に人はあまり並んでないので、そこまで待たずにたこ焼きにありつけるだろう。
「な・・・何じゃこれ・・・」
メニューがあったのだが、そこに書いてあるのは「たこ焼きコーラ漬け」とか、「たこ焼き もどきのキノコ焼き」とかよく分からない料理名が書いてあった。
特に気になったのは、「たこ焼きレインボーストリーム」だ。
何の気の迷いか、柊はそれを選んでしまった。
店員に頼むと、たこ焼きを焼き始め、店の裏の方へ行ってしまった。
ガリガリガリ!!バンバンバン!!キュイィィィン!!!ドッカァ〜〜〜ン!!!ゴロゴロゴロ!!ズビィィィィィィィ!!チュド〜〜〜〜〜〜ン!!!!バチバチバチ!!!ドドドドドドドド!!!アインス!ツヴァイ!グゥレイトォ!!!
つい、笑顔が引きつってしまう効果音とよく分からない声に、頭の中で、逃げた方が良いと言う一言が走馬灯のように駆け巡る。が、恐怖からか、体が硬直してしまって動けない。
「はい、たこ焼きレインボーストリームをどうぞ」
そこにあったのは、七味唐辛子と塩と砂糖とマヨネーズとケチャップとこしょうとサラダ用ドレッシングの、七つの調味料のかかったたこ焼きだった。
食欲を核ミサイルで丸ごと消滅させるような、よく分からない色で、何処にたこ焼きがあるか分からないほどの量の、七つの調味料。それを平然と、むしろ満面の笑みで渡してくる目の前の眼鏡をかけた少女(魅守舞香織)の神経を疑うと言うか、この料理を開発した人を今すぐに、ぶん殴りに行きたい気分にさせてくる料理だった。ていうか料理かどうかも分からない。
さらに何の気の迷いか、それを受け取ってしまい、更にそこから立ち去ってしまった自分を絞め殺したくなる。
受け取ってしまった物は仕方が無いので、とりあえず1つだけ食べてみる事にする。貰った串に1つ刺してみる。ずちゅ、と普通聞こえるはずの無い効果音が鳴ったかと思うと、一応形だけはたこ焼きらしく、丸い球体の形をしていた。
「こ、これを食べやがらなくちゃならないじゃ?」
別に食べなくても良いと思うのだが、柊は恐る恐る口に運んで行く。
嫌な汗が全身から流れているような気がして、何となく吐き気がする。それでも口の中に持って行って、舌とたこ焼きレインボーストリームが触れる。そして噛んでみる。と、
「う・・・・・・・・・・うまい」
意味不明でよく分からない味なのに何故か美味しいと感じてしまう自分が、よく分からない。だが、現実に美味しいと感じているのだ。
もう1つ食べてみると、やはり美味しい。見かけによらないとはこの事だな、と思った柊だった。

   *                *              *

桜達8人は、囮人形(桜達には分身系の魔術を使ったと思っている。)尾行していた。
だが、佐百合は、それが、分身とは思わなかった。たこ焼きを買っていたのだ。
しかも禍々しい色をした「たこ焼きレインボーストリーム」とか言うものだ。それは暁も見ていたから、今尾行しているのは本物だろうと思っていた。
だが、それは他の6人も同じ事を思っている。みたらし団子や、焼きそば。金魚すくいをしてたりしていたからだ。ますます分からなくなってくる。
佐百合と暁は、たこ焼きを食べている、柊を尾行しているのだが、何か行動を起こそうともしない。適当に店を見て回っているだけだ。祭りを楽しんでいるようにしか見えないのだが、何をしているのだろうか。
と、考えていると、柊が何の店も無い短い路地を通って、花壇のある庭のような所に入って行った。それを追いかけ、短い路地を抜け花壇のある庭のような場所に出ると、

そこに柊は居なかった。

見回さなくても良いくらい小さな場所で、出入り口は今通った路地しか無いはずなのに、柊は姿を消していた。やはり分身だったのだろうか、と思っていると、

「不用心な女の子と男の子じゃなぁ」

声が聞こえたのは右から。だが、そっちを見ても誰もいない。
「何処見やがってんじゃ。上、上」
右を向いていた目線をそのまま上に持って行く。と、そこに居たのはまるで浮いているように壁に立った柊斎季の姿だった。
「なっ!?」
「どういう事だよ・・・」
「簡単な事じゃよ?これって。まぁ、君たちに取っては難しい事かもじゃが」
こちらを見下ろしながら喋っている。自然と後ろに下がって行く。何故か、まだ何もしていないのに逃げたいという感情が、後ろに下がらせる。
が、路地に入ろうとした瞬間、背中に何かぶつかり、後ろを見ると、何も無いはずの場所に見えない壁が立っている。
「ここと外との干渉は完全に切っちまいやがったんで、逃げやがる事は無理じゃよ、お嬢さん」
心の危険信号はうるさいまでの音を出しているのに、逃げる事が出来ない。
戦うしか、無い。
暁と目を合わせると、手を握りあい、武器化する。足下の武器化の魔法陣が、何故か、恐く感じていた。




[875] 七聖石編 第3章(2)
のんびり - 2009年05月25日 (月) 17時10分

柊は、壁からゆっくりと降りて来る。
こちらに歩いてきながら、薄気味悪い笑いを顔に浮かべ、武器も持たず、素手で歩いてくる姿を見ると、思わず恐くなってしまう。威圧感などではない。まるで心を覗かれているような感覚が恐い。
「君は・・・何故戦いやがるんじゃ?恐いんじゃろう?」
武器化した暁が何か言った気がしたが、何も聞こえない。それどころか、庭の外からさっきまで聞こえていた、祭りの楽しそうな声や、物音すら消えていた。
「外との干渉は遮断してあるって言ったじゃろ?それに、今は、俺の声以外は聞こえやがらないよ?」一度目を閉じ、そしてまた開ける、「さて、さっきの質問の答を聞きやがろうかな?」
恐いかと聞かれれば、恐い。恐く無い訳が無い。戦ってるときはいつも恐い。
「恐い、よ。でも・・・私にはそれしか出来ないから。守るために戦うしか出来ないから・・・・・・恐いから戦わなかったって言って、誰かを死なせてしまったなんて事の方がもっと恐いから・・・ッ!」
暁の声は佐百合には届かない。が、彼女の声は聞こえる。
彼女の母は、ガードナーだった。が、佐百合のいた町が、繁殖期の魔獣に襲われた事があった。幼馴染みだった暁もその場にいて、逃げていた。その時に、佐百合の母が言っていた言葉。それをそのまま言っている事はすぐに分かった。
「・・・・・・なるほど、良い答えじゃな。君は強くなりやがるね。だが、今はまだまだ弱い、弱過ぎる」
「そんな事分かってるけど、今逃げるわけにはいかないよ」
「そうか・・・・・・なら、その勇気に敬意を表して戦いやがろう。安心しやがれ、我が師匠の教えとして、女性には刃は向けんよ、これくらい、ハンデの1つじゃ」
瞬間、柊は、こちらに走ってくる。

   *               *            *

学園長室では、囮人形(今は分身だと思われている)の尾行中の6人の近況報告を聞いていた。
佐百合とは通信が途絶。今、携帯のGPS機能で佐百合の現在位置を探し出し、そこに人を向かわせている所だ。
「学園長、佐百合は見つかりましたか・・・?」
「いえ、まだ向かっていった先生達はまだ到着していないようです」
「佐百合はまさか、柊と?」
「戦ったのでしょう、相手が柊かどうかは確定できませんが」
残った6人からは、今尾行している柊は、全く怪しい行動や、怪しい場所に向かう様子が無い。何処からどう見ても祭りを楽しんでいるようにしか見えないそうだ。
少しの間沈黙が続き、その沈黙をドアを開ける音が壊した。
「失礼します。天苗佐百合と暁を発見、保護いたしました。かなりの重傷ですが、死んではいないようで、ただいま、治療室で治療中です」
「分かりました、ありがとう」
佐百合が死んでいない事にとりあえず、安堵する。
「ふぅ、とりあえず佐百合の問題は解決、っと。さて、佐百合を倒した奴が柊かどうかという事ですが」
「残った6人が追っている柊は何なのかと言う事もですね」
たこ焼きや、焼きそばを買っている事から、実体があるのは間違いない。だとするとただの分身ではないだろう。もしかしたら分身ではなく、変装した協力者かもしれない。それとも魔術で柊に見せているのか。
何にしろ、まだ分からない。
「ところで・・・さっきから気になっていたのですが」
「?」
「何なのですか?その食べ物の山は」
「あぁーいやぁーその〜・・・・・・さっき、祭りの中売ってて、美味そうだったからつい・・・」
「仕事中に何祭り楽しんでやがるんだよこの、筋肉バカがぁぁぁぁァァァァ!!!」
「すッ、すいまっせ〜〜ん!!!!!」
アイリの踵落としが異境の後頭部に炸裂し、食べ物の山へと顔を叩き付ける。
たこ焼きのソースで顔が汚れ、出来たての焼きおにぎりと焼きそばの熱さで、突っ込んだ部分だけ火傷し、持っていたジュースが落ちて来て、頭に滝のようにかかっていった。
「痛ってぇぇ!?うがっ!!アッッチィぃぃ!!!冷ってぇぇぇぇエェ!!!!」
「楽しんでねぇで、仕事ちゃんとしろやぁぁぁぁぁ!!!」
言った瞬間、アイリのこめかみに、秘書の膝蹴りが入り、さらに追い討ちをかけるように後頭部に蹴りを入れられ、顔が床に叩き付けられる前にあごに下から蹴りが飛んで来て、仰け反りながら上空に舞った。
「うごぉぉぉぉあぁぁぁぁぁ!!みげぇぇぇ!!?じゃがはぁぁぁアアァ!!!」
「人の事言ってないで、アンタも仕事してください!!秘書がどれだけ苦労すると思ってるんですか!?」
「ず、ずびばぜん・・・・・・」
あごに炸裂した蹴りのせいで、うまく喋れなくなってしまった学園長、アイリ・ストレイトスであった。
ちなみに、異境の顔が叩き付けられた食べ物の山は、生徒に片付けさせた後、秘書に2時間休みなしで拷問を受けたと言う。





[879] 七聖石編 第3章(3)
のんびり - 2009年06月16日 (火) 23時03分

今は11時半。
祭りに来ていた人達はもうほぼ居ない。
店がいくつか並んでいるが、客は居ないし、店を建てた生徒も居ない。品物もほぼ全部が売り切れと書かれた紙が貼られていた。
今開かれている店は、今となっては学園内にいくつかあるだけだ。そして、それらも閉店の準備をしようとしている所だった。客もそれにあわせるように帰る準備をしていく。
そんな人気の無い学園を柊は歩いていた。光り輝く夜空を見上げながら、血のりの蛮刀をその手に握りながら。
「夜空ってのは良いものじゃなぁ。まるで人の中にうっすらと輝く希望の光のようじゃ」
武器化したアグリアスを持ち、血まみれの左肩を押さえながらそんなことを言われていた。
ヘンリルとアグリアスは何の油断もしていなかった。ただ相手の方が一枚、いや二枚も三枚も上手だっただけ。いや、それもただの良い訳か。
佐百合が倒されたと言う事を、携帯で聞いた直後だった。
目の前に居たはずの柊がいつの間にか自分たちの後ろに、立っていた事。
収納用のマジックタロットから、一本の蛮刀を取り出して斬り掛かって来た。一撃目は何とかアグリアスの武器かが間に合い、防げた。だが、防いだ瞬間に弾かれて二撃
目を防げず、避けようとしたら肩をえぐられたと言うだけの事だった。
それだけのはずなのに、2人の中では絶望感が沸き上がっていた。
(か、肩ごと持っていかれる所だった・・・!)
「そんなに恐い顔しやがるなよ、斬られたのは君の失態だろう?」
「そうじゃねぇよ、俺は今マジでイラついてんだ。ちょっと仲間がやられちまってな。だから、お前で憂さを晴らすから」
痛みをこらえながら無理矢理、笑顔を作って言う。
「俺が偽物かもしれないのに?」
「ぜんっぜん関係ないから」
そうかい、と言いつつこちらを向く。
そして、負ける事はあり得ないと確信した笑みを浮かべながらこちらに歩いてくる。
ヘンリルはアグリアスを握り直す。肩の痛みは退くどころか増す一方だ。治まると言うのは期待できないかもしれない。
だが、今更逃げる何て事はしたく無いしさせてもくれないだろう。
戦うしか無い。今ここで。
「さっき、別の俺が女の子と戦ったみたいじゃけど、君はどうなんだろうね?」
「別の俺・・・?」
「そう、もう正体をばらしやがるけどさ、俺達は『柊斎季』と言う名の囮人形(ダミー)何だよね。つまり君たちが尾行している『柊斎季』という男は全部偽物。本物は別の所でいろいろと準備中、ってね」
「なッ!?」
つまりは全て時間稼ぎ。
ヘンリル達8人は全員『柊斎季』によって踊らされていたと言う事だと言う事だ。
「もう1つ教えてあげるよ。タイムリミットは00:00だ。その時間に達して約20秒までに本物の俺達を止めないと、この天草学園は消滅する」
「ば、馬鹿な!!?この学園を20秒で消滅させるなんて不可能だ!どれだけ広範囲だと思ってるんだよ!?」
言った瞬間、思い出した。

七聖石。

今回の事件の原因とも言えるその七つの宝石には、膨大な魔力が込められている。
そう、何人かの魔力をあわせて発動できる魔術を余裕で一人で発動できるほどの。
「今回発動を試みているのは、『ラグナロク』。神ノ鉄槌じゃでか過ぎるからな?」
ラグナロク。
前に読んだ本に書いてあった。
確か、天使を降臨させ、その天使に目標を消滅させる、と言う物だったはずだ。詳しい事は思い出せない。適当に読み流していたからだ。だが、発動の準備にはかなり時間がかかり、何か特殊な条件が必要だったはずだ。
「そうか・・・だから時間を稼ぐためにこんな時間まで、お前らで祭りを楽しませていた訳か。俺達がお前ら全員を見つければ尾行すると予測して・・・!」
「そう言う事じゃ。だから、今までの君たちの行動は全部、無駄だった事じゃな」
「無駄・・・?佐百合が戦ったのも無駄だったってのかよ!?」
「そうじゃね・・・あの場で逃げようとしてくれれば結界はいつでも解いた。でも、彼女は逃げようとはしてくれなかったんじゃ。いや全く、無駄な事を・・・」
瞬間、ヘンリルは斬り掛かっていった。
それを当然のように受け止め、弾き返す。
「駄目じゃよ、そんな怒りに身を任せた攻撃じゃぁ簡単に弾かれちまうぜ?」
「仲間を侮辱するな!あいつは自分の正義に従って戦ったんだ!絶対に・・・絶対に無駄な事じゃないッ!!」
柊は、ポカンとしていると、突然笑い出した。大きな声で。
それがヘンリルを更に苛立たせた。
また力任せに斬り掛かり、受け止められ、弾き返されて。その繰り返しだ。
「そんな攻撃してると・・・」
さっきまでのように弾き返す。そして、
「隙が出来て攻撃される」
蛮刀を振り下ろし、ヘンリルを斬りつける。
後ろに飛び上がって少しだけ浅く出来たが、ほんの少しだった。
右腰の辺りから左胸までを大きく斬られ、血が噴き出す。肩の傷とあわせると、かなりの出血量だ。意識がもうろうとしてくる。腕にも足にも力が入らず、膝をついてそのまま倒れてしまう。
「あれ?もう終わっちまいやがったのか?」
「うぐ・・・こ、この野郎・・」
声が出にくい。思わず血を吐き出してしまう。
体から血が抜けていく感触と共に、意識が抜けていくような気さえして来た。
アグリアスの武器化が緩やかに解けていく。
「はは。パートナーの武器化も保てなくなったんだ?情けないねぇ」笑いながら、「殺す気はないよ、だから早く回収してもらいな」
柊の形をした人形はそのまま去っていく。
立ち上がろうとしても無理だった。全身に力が入らない。アグリアスが何かを叫んでいるが耳に入らない。そして、そのまま意識が無くなっていった。

   *                 *               *

ヘンリルは学園に回収され、治療室で緊急治療を受けている。
血が足りなく、輸血を受けながら傷口を塞いでいく。
「まさか・・・ヘンリル君までが・・・」
学園長アイリ・ストレイトスはその治療を見ていた。隣に居た異境が、
「学園長、もうあいつらだけじゃ無理です!俺もこの任務に参加させてください!」
「・・・・・・分かりました。必要最低限の手伝いを許可します。が、」間を空けて
「桜君の月の加護の覚醒にだけは邪魔をしないでください」
「分かっています。では」
異境はそのまま踵を返し、治療室を出て行く。
アイリは怒りと悲しに耐え、そのままヘンリルの治療を見ていた。




[893] 七聖石編 第3章(4)
のんびり - 2009年07月04日 (土) 23時44分

「き、キツ・・・」
2人に続いて襲われた優人は、とりあえず人形を壊す事が出来た。
ぶっちゃけた話し、結構危なかった。突然の奇襲には何とか対応できたが、リーチの長い槍には苦労した。
ヘンリルが戦った柊の人形は蛮刀を使ったって言うから、こっちもそうかと思ったら違うなんて、思わなかったのだ。実際、強かった。
「ったく、いちいち武器を変えてくるなんて、面倒くせぇ奴・・・」
肩をかすめただけで、かなり血が出た。
柊の技術が凄いのか、武器が凄いのかそれとも両方かは知らないが、結構痛い。
「夏奈、神崎の方はどうなってる?」
緩やかに武器化を解いていく。
「えっと、ちょうど接触した所みたいだね」
「そうか・・・まぁ、あいつならこんな偽物、どうにか出来るだろうが」
言いながら、治療室に向かう事にした。

    *       *      * 

「あ、危なかった・・・」
とっさに後ろに跳んだが、足下には何本かナイフが地面に突き刺さっている。
「さすが、避けられるんじゃ?」
「な、なめんじゃねぇ。ちょっと危なかったけど、これくらい避けれなくてガードナーは勤まらん!」
心配そうな目で、桜を気遣う千秋を、何となく冷たい目で柊は見つめていた。
・・・・・・・・・・・。
「だぁぁぁあああああ!!いつまでイチャついてんじゃ!?今目の前に敵が居やがるってのに!!」
「い、イチャついてなんかねぇよ!」
「どっからどう見てもイチャつきやがってるじゃろうが!周りに不自然なお花畑みたいなのが浮かんでるし!!」
それはただの演出だ。
「ナレーターは黙らんかい!!こんな演出、台本にもなかったぞ!!」
喋り方戻ってる。
「あ・・・!」
「ちゃんとやれよ、バカ」
「ウッサイ!とりあえず仕切り直しだ!!」
一度咳払いをして、深呼吸をしてから、嫌みな笑顔を浮かべる。
「とにかく、いちいち後ろをつけてくる理由もないじゃろ?もう回りに人は居ないんじゃから」
中庭には既に客も生徒も居ない。尾行する必要なもうないと言う訳だ。
逆にしていると、怪しい。
さらに何処からかナイフを取り出す。
「邪魔なんで、さっさと死んでくれやがらないか?」
「誰がお前なんかにッ!」
心の中で威勢がいいなと思っていた。
だが、そんな事は心の片隅でしか思っていない。目に入っているのはさっきから千秋だけだった。
たとえ柊の形をした人形だとしても、心だけは直結しているのだ。
「いぃや、お前の相手は、俺だッ!!」
ズッドォン!!と、もの凄い爆発音と共に何かが落ちて来た。
さすがの柊もポカンと、開いた口が閉じなかった。唖然としている。
モクモクとあがっていく煙が晴れて行くと、そこに居たのは。
「この俺、天草学園がスポ根先生。五月蝿異境が挑もう!!」
異境先生だった。武器化した神流も一緒だ。
「桜!本物の柊斎季は学園の屋上だ!!早く行け!」
「わ、分かった!行くぞ、千秋」
「うん」
桜達が学園の中に戻っていくのを、柊は静かに見ていた。
追っていく気配は・・・無い。
「随分と素直に行かせてくれたな?」
「本物が、神崎桜と、逢坂千秋に会いたいって言いやがったんでね」
なに?と、異境が聞き返すと、
「それなりの因縁があるって事さね」
瞬間、手に持ったナイフを投げつけて来た。

     *                *            *

後ろからは、金属音のような音と、火花の散る音が聞こえる。
きっと2人が戦っているのだろう。
だが、今はそんな事を考えている場合ではない。早く屋上に向かい、柊を止めなければ。ヘンリルからの報告によれば、柊は『ラグナロク』を発動させようとしているらしい。
世界の終わり名を持つこの魔術は、全開で行けば、地球すら半壊させるなんて簡単な事だ。だが、学園を壊すくらいなら、それほど力はいらない。
エレベーターに乗り、一気に屋上まで上がる。
電子音と共に、扉が開く。
「やぁ、遅かったね」
聞き覚えのある声が、桜に話しかけてくる。
柊斎季だ。
彼の前には、巨大な魔法陣と共に、円形に並べた七聖石が置いてあった。
石はこんな夜でも、十分に明るいほど光っている。魔術発動一歩手前だ。
「本当はもっと早く、来てほしかったんだけどね?」
「お前・・・喋り方違わない?」
気になったのはそこか。
「ん?ああ、人形だからね、あっちは。多少のバグみたいなのはあるのさ。ぶっちゃけた話、台詞変換が面倒くさかったって言うのも本音なんだろうけど」
そのまま続けて、
「まぁ、彼奴らと同じ喋り方がいいなら、喋ってあげても良いけど」
「今更面倒くさいから良いよ。それより、さっさと魔術を止めろ。学園を消そうなんてバカみたいな事をな」
千秋はじっと柊の顔を見つめている。見覚えがある気がするのだ。
さっきぶつかったとかそう言う事ではなく、もっと昔に。
「悪人がそんな説得聞くと思うかな?まぁ、俺にとっては、お前らが悪人だけど」
「俺らが悪人?」
そう、と言いつつ、横に刺してあった中剣を抜く。
刀身には、金剛流剣術皆伝、刻まれていた。つまり、柊は。
「お父さんの・・・お弟子さん?」
「そう言う事だよ、千秋さん」
冷たい風は、まさに戦いの始まりを意味しているようだった。そう、彼にとっては自分の師である人の仇であり、恋敵でもある物との戦いだった。






[896] 第45話「天使がもたらす終わり」 七聖石編 第4章(1)
のんびり - 2009年07月11日 (土) 01時24分

ふぅ、とため息をついてみる。
柊の人形を倒して、一息ついた所だった。やはり偽物、そこまで強く無い。あくまで、異境目線で、だが。
学園の屋上の方を見てみる。まるで花火のように輝いた光が屋上付近を舞っていた。ソウルエレメントの光だ。それは、エメラルドグリーンと、血のように赤い色をしていた。
桜達と、柊の戦いが始まっていた。

第4章  「天使がもたらす終わり」

走って暖まった体に通る、夜の風はかなり気持ちいい。高い所でならなおさらだ。
だが、今はそんな事を楽しんでいる場合じゃない。
剣にしては、大剣並みの重さのある一撃を、受け止めるたびにかなりの体力が削られていく。これだけの物を振り回して、息が切れない柊は、かなり鍛えているのだろうか。いや、いくら鍛えていても、こんながむしゃらに振っていてはすぐに疲れるはずだ。
「魔力の変換、精力。それを腕と手に集中させれば、こんな物軽くなるよ。君には重くて俺には軽い。かなり都合がいいだろう?」
「ついでに、剣は火のソウルエレメントで作られてるってか?随分と出来のいい物持ってきやがったな、この野郎・・・!」
「金剛流を受け継いだ物にのみ持つ事が許される名剣だよ。火の精霊、サラマンダーが作ったともいわれてる。だから・・・武器化種族にも劣らない」
受け止めていた剣を弾き返し、後ろに跳んで距離をとる。
ソウルエレメント出来ているなら、属性攻撃も可能だ。といっても、炎剣がでたり、風なら風の刃が走っていったりとするだけなのだが、それを応用して色々な技を繰り出す事も出来る。
ちらっと、七聖石の方を見てみる。
さっきよりも強い光を放っていて、完全に屋上を照らしている。
ラグナロクは00時00分から10分までの間だけ発動可能になる魔術だ。それ以降は、また長い時を待たなくてはならない。
柊はにとって、それは一番避けたいだろう。この学園を完全消滅させるだけの威力があるのはラグナロクだけだから。他にあっても、学園以外にも被害が出る事は絶対だ。
はやく、止めなければ。学園が消される前に。
「何でこんな事をする?天草学園を消して、お前に何の特があるんだ?」
「君が死んでくれれば何でもいいんだけどね。ガードナーが皆死んでくれればもっといい」
「だったら、俺だけ狙ってくればいいだろうに!わざわざ他の奴等まで狙うな!」
「俺の師匠を倒した奴なんだ、正攻法じゃ倒せないかもしれないだろ?」
炎剣を鞭のように振り回し、先端を竜の形にする。
それは本物の流のようにリアルで、目も口も歯も舌も完全に炎で出来ていた。まるで生きているように大きな声で鳴いた。共に火の粉を振りまきながら。
振り回している手を止め、そのまま振り下ろす。それについてくるように炎で出来た竜は、降りて来た瞬間、桜の方に突っ込んで来た。
それを千秋で風を起こし、吹き飛ばす。
「何故、君はここに居るんだい?俺の師匠、逢坂当麻の死のおかげだろ?・・・俺にはそれが腹立たしくてならないんだよ・・・!」
吹き飛ばした竜は、再構築され、元の形に戻る。
「ラグナロクは発動させる、君を殺すためだけに」

     *                *            *

「桜君、君だけがたよりですよ・・・」
学園長、アイリ・ストレイトスは学園長室から移動して、体育館に来ていた。
床に、タロットカードと、魔法陣を書いて、開けてある扉から屋上を眺めていた。
ラグナロク発動阻止が出来なかった時のために、強制解除の術式を組み立てておいたのだ。それには学園長室じゃ狭過ぎると言う事で、ここに来た。
「神崎流剣技の後継者と、金剛流剣術の後継者の戦いか。兄弟と言っても良いこの2つの流派が戦う事になろうとは、思いませんでしたね」

ラグナロク発動まで、あと15分。





[901] 七聖石編 第4章(2) 
のんびり - 2009年07月22日 (水) 20時39分

15分後。それは天草学園が地図から消えてしまうとき。
15分後。それは1万近い生徒、教師が消滅する時。
そして15分後。それは彼にとっての復習が完了した事を伝える狼煙が上がる瞬間だ。
「じゃあ、もし今ここで俺がお前に殺されたら、ラグナロク発動は止めるのか?」
「まさか。そんな事する訳がないだろ?そんな事で解決するなら、俺はさっさと君を殺しにかかってるよ」
横から迫ってくる一振りを、かがんで避け、そのまま柊の懐に入り込む。千秋を持っていない左手を固く握りしめ、あご目掛けて突き出す。それを剣で受け止めてくる。
その反動が手首と肘に伝わり、腕全体がビリビリと痺れてくる。
怯んだ桜の真上から剣が振り下ろされてくる。とっさに横跳びで避ける。靴の裏を軽く擦っただけでも、かなりの火花が散っていた。
(あんなの喰らったら一発で2つの人間焼きが出来上がっちまうかも・・・!)
コンクリートの地面に突き刺さった剣をゆっくりと引き抜きつつ、
「そんなに、ネズミみたいに逃げ回っちゃって。本当にあの人を倒したのか?不正でも働いたんじゃないの?」
「んなもん働くかッ!気がついたら勝ってたんだよ!!」
「そんな、気がついたらシュートが入ってたみたいな、まぐれとか偶然で勝てる人じゃないんだよ!」
2人一斉に属性攻撃を放つ。風の刃と炎剣がぶつかり合い、爆発が起こり、爆風が2人を吹き飛ばす。
飛ばされた方にあった、時計台に思いっきり衝突した。もの凄い、痛い・・・
柊は普通に地面に転がっていた。そのままゆっくりと起き上がってくる。桜もそれにつられるように立ち上がる。少し足がガクガクと震えている。力が入りにくい、立ち上がろうとしているだけで、かなりの体力が奪われていく。
柊の持っている剣が放つ熱気が体力を奪い、さらに襲い来る連激を避けて受け止めて体力を減らされた中、思い切り叩き付けられさらに奪われる。かなりキツい。
立ち上がった瞬間には、既に柊がこっちに走って来ていた。
柊との距離は現在5mも無い。
「君に俺は倒せない!君とは歩んで来た道が。積んで来た経験が違うッ!!」
「自意識過剰にもほどがあるな、まだ終わってないのに・・・決めつけるな!」
懐に入って来られる前にバックステップで距離をとろうとするが、後ろには時計塔があって無理だ。もう柊は目の前。
「ち、っくしょうッ!!」
柊が懐に入る一歩を踏み出した瞬間に思いっきり地面を蹴った。
後ろでも横でもなく、前に。
「なっ!?」
自分から懐に入れて来た。その驚きに一瞬剣を振り上げるのが遅くなった。
桜にはその一瞬で十分だった。
かがんでいる柊の背中に手をついて前回りに飛び越え、そのまま柊を蹴り跳ばす。
大きくバラスを崩した柊はそのまま思い切り時計塔の外壁に衝突する。
そこに桜は思い切り飛び蹴りを放つ。首からちょっと下辺りの背中に。
横顔だけに当たっていた体は、さらに無理矢理、胴体も叩き付けられる。肺から無理に空気を吐き出させられ、そのまま膝から崩れ落ちる。
「がはっ!うはっ!!・・・くっ・・・・・・さすがにあの人を倒した人だ。やっぱり一筋縄では行かない。さっきのナメた発言は撤回しよう」
だけどね、と続けて。
「俺だってまだ、本気で向かっていった訳じゃない。本当だ、負け惜しみではないからね。今からそれを証明してあげるよ・・・!」
自分の持っている剣をゆっくりと持ち上げる。何となく足は震えていた。
剣身をなぞる。うっすらと赤く光っていた剣身が、さらに強く光る。
それはまるで、暗闇を照らす松明のようだった。
「神ノ力(エレメント・フォルム)、炎(フレイズ)!!」
光は一層強くなり、柊の持っている剣が徐々に形を変えていく。
「力型変化(フォルムチェンジ)だと!?武器化種族ではないと無理なんじゃ・・・!」
「ううん、ソウルエレメントだけでも力型変化をできる人は居るんだよ・・・ごく少数だけど・・・」
「その通りだ、忘れたのかな?僕は金剛流を受け継いだ者の前に、一流の魔術だって事を。これくらいは出来て当然ッ!!」
最初の形は完全に失い、巨大な槍状の大剣となっていた。
「残り7分。この巨人槍剣(ア・ジャイアント・ジャベリン)でご相手しよう」
長さはとんでもなく長い。柄の部分は槍の物と同じくらい長く、男性の大人の拳と同じくらい太い。剣身はと言うと、刃は鋭く、剣身の幅が尋常じゃない。長さも相当あり、5m近くはある。
「こいつは魔力変化、精力をフル使用しないと振るえないんでね、魔力が尽きる前に終わらせないと駄目なんだよ。だから、さっさと終わらせてもらうよ・・・!」

ラグナロク発動まで、あと6分半。


[905] 七聖石編 第4章(3)
のんびり - 2009年07月25日 (土) 03時19分

「はああぁぁぁあぁッ!!」
その巨大な剣身を桜の頭上から大きく振り落として来た。それも3m以上は慣れた場所から。その長い柄と長く巨大な剣身だからこそ出来る事だった。まるで重さを感じていないようにそのまま振り下ろしてくる。
それはまるで、巨大な岩石が真上から振ってくるような感覚だった。
そんな感覚に我を忘れていた、桜は千秋の声で現実に引き戻される。もう剣身は目の前だ、避ける事は出来ない。なら。受け止めるしか無い。
ガッキィン!!!と言う音と共に桜に尋常じゃない、重さの一撃が襲いかかる。受け止めただけでこれだけの威力。千秋が壊れてしまうんじゃないかと言う気さえしてくる。
骨と筋肉がきしみ、足の震えは止まらない。それでも力を抜けば一撃で真っ二つだ。気は抜けない。だが長くは持ちそうに無い。
刀身を少しずつ斜めに傾けていく。そして30度くらい傾けた瞬間、片足を思いきり踏み込み、出せる限りの力で蹴り跳ばす。千秋の刀身が襲いかかっていた剣身を滑り、火花を散らしながら呪縛から解けていく。
瞬間、桜と言うストッパーの無くなった巨大な剣はそのまま落ちていき、地面に激突する。なんて物じゃなかった。
激突なんてレベルじゃない。当たった瞬間に地面が粉砕されたのだ。粉砕された地面は煙を上げている。相当の熱も打ち込まれたようだ。
「千秋、大丈夫か!?」
「うん、私は何ともないよ・・・」
その言葉にほっと安堵する。
が、そんな安心はもの凄い風斬り音に吹き飛ばされる。
「一撃で終わると思ってたけど、まさか逃れてくるとはね。いやはや、凄い物だ、称賛に値するよ」
「お前に褒められても困るね」
「褒めてないよ」
柊は冷たく切り捨てる。そう、今の彼の瞳は凍っていた。その視線は何よりも鋭く。何よりも冷たい物だった。その瞳を桜は知っている。

神崎裕太。

桜の兄であり、桜を、父の優作と母の雪を裏切った男。そして、桜に■の眼を植え付けた男だ。彼にとって自分以外の物は今となってはどうでも良いはず。そんな物を見る冷たい目。裕太はそんな目を最後に見た時にはしていた。
だが、それでも柊のこの凍った瞳は意味が違う。仇と恋敵を見る目。裕太とは違う、冷たく凍った殺意がこもった目だった。
あの時。消されていた記憶が裕太によって甦らされたとき。自分はこんな目をしていたのだろうか。もしかしたらもっとドス黒かったかもしれない。もしかしたらもっと・・・・、
思考を途切るように柊は斜めに一線を描く。横跳びでそれを避ける。が、粉砕された地面が桜を襲う。破壊された地面は分厚い岩となって桜にいくつもぶち当たる。1つ1つが当たるたび、さっきまで減らされていった体力がさらに削られていく。熱を帯びた岩は、普通に当たるよりも痛い。
「もし避けても、こいつが襲いかかってくる。熱くて痛いだろう?それを師匠は味わったんだ。いや、もっと恐ろしい痛みをあの人は感じていた!お前もその痛みを味わえ!神崎桜ぁぁぁ!!」
横から柊の攻撃が迫る。横からでも斜めからでも上からでもない。真っ正面から。
避ける事も防ぐ事も出来ない距離だった。
(ヤバっ!!)
「桜!!」
何度か嫌な音がした。おそらく骨が何本かもっていかれた音だろう。さらに激痛が走る。口から血があふれる。胸元が熱い。・・・■んだ?
ズドォン!!と爆発音と共に桜は時計塔に叩き付けられる。体には力は入らない。だが、まだ生きているようだ。胸元から血が流れる感覚はない。吹き出た記憶も無い。うっすらと残る意識の中で、
(剣身じゃなくて・・・柄の、部分で・・・やったのか・・・・・・?)
でなければ既に■んでいるだろう。地面を一撃で粉砕するほどだ。もしかしたら肉片と化していたかもしれない。
「・・・ら。さ・・・・・くら・・・!」
千秋の声が聞こえるが、今の桜には千秋の声かも分からない。意識を保つだけでやっとだ、薄れる視界の中で、柊はこちらに自らのもつ武器をこちらに向けていた。こんどは柄ではなく、刃を。
「これで終わりだ。神崎桜。千秋さんは俺がちゃんと守るから安心して逝くと良い」
聞こえるはずの無い言葉。だが桜には聞こえなくても何となく言ってる事は分かった。
(■ぬ?このまま・・・俺は■ぬのか・・・?)
もう何も見えなくなった。そんな暗闇の中で桜は考える。
(俺はまだ・・・裕太を倒してない。・・・・・・まだ、ここを卒業もしてない・・・。まだ・・・・・・・・・まだ、千秋の父さんと交わした約束を守りきってない・・・!)
自分はまだ■ない。そう思えば思うほど何故か意識は冴えていく。さっきまで途切れていった意識は逆に冴えて行く。さっきまで何も見えなかった目が。さっきまで何も聞こえなかった耳が。さっきまで力が入らなかった体が。全てが正常になっていく。
頭には生きる事しか無い。ただただ、まだ■ぬわけにはいかない、その一言だけを体全体に叩き込む!

ずちゃっ!っと肉を潰し、引き裂く音がした。

だがそれは桜の胸板を貫いた音ではない。

「・・・なっ!?」
驚きながら、柊は桜の方を見ていた。
驚くのも無理は無い。何故なら、

自分の左の掌を剣身のど真ん中を受け止め、引き裂かれながら軌道をずらしたからだ。

ゆっくりと桜は立ち上がる。左腕は薬指から肘までにかけてが無く、ビチャビチャと血が流れている。
(こいつは・・・神崎桜はまだ、戦う気なのか・・・!?)
ゆっくりと目を開ける。サファイアのように青く、三日月の模様の入った瞳をゆっくりと。そう、桜は今。覚醒した。

月の加護と言う名の真の力が。

今、桜は手に入れた、自分のなすべき事をするための力を!
「おい」
ゆっくりと開いた口から出た言葉は。
「お前の七聖石、力を借りるぞ」
柊には意味が分からなかった。だが、これだけは分かる。さっきまでの「神崎桜」と、今ここに居る「神崎桜」は全く別の物だと。
「闇を照らすは光。光を生み出すは希望。希望は天に上り、絶望は血に染まる」
桜が呟くたびに、柊の後ろにある七聖石はさっきとは別の光を放つ。まるで月の光のように眩しい光を。
「導きは光。愛は煌めき。月は恩恵。3つは1つであり、1つは3である。それを司るは月神。その力は我が崇拝せし神、セレーネーの名の下に我に流れ込まん」
七聖石の光が頂点に達する。そして屋上全体に。屋上を飛び出して空中に巨大な魔法陣が突如浮かび上がる。そう、契約陣が。
雲が真っ二つに分かれ、月から光が流れ込んでくる、それは桜を照らし・・・
「契約・・・完了だ」
月の神との契約を終えた。
と同時に、さっきまで流れていた左での血が止まった。それどころかバチバチと音を立てながら再生していく。骨が、筋肉が、そして肉が。全てが元通りになっていく。桜の体からもバチバチと音を立てていた。おそらく、折れている骨が治っているのだろう。
次に瞬きを終えた時には彼の体は無傷となっていた。
「さぁ、残り2分半だ。さっさと終わらせてラグナロクは止めさせてもらう」



[908] 七聖石編 第4章(4)
のんびり - 2009年07月26日 (日) 03時20分

光り輝く月光は、まぶしいほどに輝いていた。
その光は絶えず一人の男を照らしている。
その男は、死を拒み、何よりも生にしがみついた。なすべき事をするために。守るべき物を、人を。守り続けるために。
そのための力を欲した。しぶとく足掻き、もがき、そして手を伸ばした。
そして掴んだ。とてつもなく小さいが、とても力強い光を、希望を。そして、自分の道を。
「千秋・・・、出来る限りソウルエレメントの力を全面に放出してくれ。出来るか・・・?」
「・・・え?あ、・・・うん。出来るよ」
そうか、と言葉を途切る。
目を閉じ、千秋を握り直す。柔らかく、優しく。ゆっくりと。
頭が冴えていく。感覚が研ぎ澄まされ、今考えられるのは千秋の事と相手に勝つ事。それから、それから・・・・・・・、
何も無い。
ただパートナーの事と、相手に勝つ事しか今考える事が出来ない。これが月の加護の効果なのか、どうかは分からない。考える気も起こらない。ただただ頭が白く塗りつぶされていく。体が、頭が勝つ事だけに集中している。
「・・・・、言っておくが、俺は千秋に殺されるなら全く気にしない」
「・・・え?」
だけどな、と続けて。
「お前に殺されるのは、絶対に断る。俺にはそんな事されてる暇はないし、される気もない。お前が俺を殺したいと言うなら無理矢理ねじ伏せてみろ。お前に出来るならな、パートナーが。いや。信頼できる仲間と、大切な人も居ないお前に」
「何だと・・・!?」
「言った通りだ。お前は何も持っちゃいない。自分で全て捨てただろ?まあ・・・お前がそんなスタート地点からずっこけてる事にも気付いてるとは思えないが」
(桜・・・喋り方も雰囲気も全然違う。どうしたの・・・?)
柊は巨人槍剣を強く握る。知ったような口をきく桜の方を見ながら。
その怒りはもう頂点に達している。
自分で捨てた?お前が奪ったんだ、捨てたんじゃない。お前が、お前が!
自分の心を必死に誤魔化す。
気付いていなかった訳じゃない。強くなるために旅に出ると言ったあの日。あの、瞬間に。全てを捨て去っていたのだ。守りたいと願うなら、あの場を離れるべきではなかった。逢坂当麻を助け、千秋を守り、その中で強くなっていくべきだった。
そんな行程を柊はすっ飛ばし、いきなり強くなろうとした。
その結果がこれだ。
・・・それでも、彼は認めたくは無かった。自分の歩んだ道に誤りがあったなどと。
認めたく無かった。自分は最初から負けていたんだと言う事を。
「ぅああああぁアアアア!!!!」
柊はそのまままっすぐ振り上げ、その巨剣を振り下ろして来ようとして来た。だが桜はゆっくりと柊に近づいていくだけだ。
「桜!危ないよ!!このままじゃまた・・・」
「大丈夫だ」
桜は自分に向かってくる刃を見た。見て、ただ右手に持った千秋をその巨大な剣身の横にカチン、と当てただけだった。
ただそれだけだった、なのに。

まるで銃弾にでも弾かれたように、柊の巨剣は真横に吹き飛ばされていく。必死に離すまいと、柄を握っていると、剣に引っ張られて自らもその方向に飛ばされていく。
剣が地面に落ちるのと柊が地面に転がるのは同時だった。
「上出来だ、千秋」
「なん、だと・・・?」
教えてる暇はないな、と切り捨てる。
柊がゆっくり立ち上がろうとしている間に、もう桜は目の前まで来ていた。それどころかもう刃は、目と鼻の先。意味が無いと分かっていても、後ろに跳ばずに入られなかった。
赤い鮮血が宙を舞う。
血の抜ける嫌な感覚と、激痛とその中から溢れ出てくる熱い何か。柊にとっては驚きの隠せない事だった。
「なんだ?今まで斬りつけられた事も無かったのか・・・呆れたな、一度も殴られないで一人前になる奴が居ないように、斬られた事もなしに一人前になる奴なんて居ない」
これだけの事で体に力が入らない。まだ自分は戦えるはずなのに。何故・・・?
そんな自問が頭の中を走る。
「苦しいだろ。お前がさっき言ってた痛みって奴だ。千秋の父さんも感じてたって言うな」
冷めた目つきで柊を見る。何の感情も見受けられない、真に冷めた目だった。
何故かその目で見られると、背筋が凍った。
(止めろ・・・その目で俺を見るな・・・!止めろ、止めてくれ!!)
「・・・・、お前、恥ずかしく無いのか?」
「な、何・・・?」
冷めた目つきで見下ろしながら。
「何故真っ正面から挑んでこなかった。これだけの腕を持ちながら。俺を殺す一歩手前まで来てたはずだ。それなのに何故、ラグナロクなんて大規模破壊の魔術を使って殺そうとした。・・・・俺は、いや。きっと、千秋の父さん(あのおっさん)も思うはずだ」
一時の間をあけて、告げた、自分の彼に対しての怒りを。
「お前・・・プライドは無いのか?」
「何だと・・・?」
「確かにこのまま放っておけば、ラグナロクは発動され、俺は死ぬだろうさ。あと1分もきってるだろうしな。だけど、お前はそれで良いのか?お前は結果的には殺せても、敗北と言う事実は殺せやしない」
「敗北だと?」
「この状況を敗北と言わずして何と言う。たった一回斬られただけで動けなくなって。何の反撃も出来ない。何とも哀れな負け方だよ」
ゆっくりと七聖石の方に向かっていく。話を続けながら。
「お前はこのまま行けば、きっとお前の言う師匠を汚す事になるぞ。それはお前が最も嫌う事じゃないのか?お前が教わったのは、剣だけだったのか?」
もうラグナロク発動しかかっている。それを桜は止めないのは、柊を導くためだろう。逢坂当麻が歩ませようとした、正しい道へ。
柊は指を鳴らす。その音と同時に七聖石が放っていた光が薄れていく。
発動が解除されたのだ。
ゆっくりと立ち上がり、その剣をもとの形に戻す。
「確かに・・・・・・な。俺は師匠を汚す所だったのかもしれない・・・『剣を持つなら、横からも斜めからでもない、真正面から戦え」。師匠に教わった最初の言葉も守れてなかった・・・。俺は・・・」
柊の言葉が途切れた。それは桜が製したのではない。その理由はすぐに桜と千秋にも分かった。

ラグナロクが再発動している。

「お前・・・まさか」
「ち、違う!!俺は何もしてない、本当だ!今再発動なんてすれば、師匠を汚してしまうと知った今、俺が発動なんてするはず・・・!」
「じゃあ、どうして!」
「・・・・・・・桜。あれ」
千秋の飾り布が示した方向をゆっくりと見る。
そこには。
現れた天使と。
その目の前にいる人影があった。
スカイボードに乗ったその人物は。
「まさか・・・・!?」
サファイアのように青く、三日月の模様が2つならんだ瞳が捉えたのは。ただ一人の男。そう、それこそが。
「裕太か・・・ッ!」
「ご名答だ、桜きゅん♪」
ゆっくりと降りてくる。月明かりに照らされた彼の顔には笑みが浮かんでいた。黒く、邪悪で内臓をえぐるような不気味な笑顔だ。
その後ろでゆっくりとラグナロク発動により現れた天使が閉じた羽を力強く開く。その姿は美しく、煌めいていて。今まさに災厄をもたらす存在だとは信じられないほどだった。
「桜、月の加護が完全覚醒したんだってな?だから兄としての抜き打ちテストだ。あれからこの天草学園を守ってみな?頑張れよ、月の王子様」
言い捨てると同時、彼は闇に消えていった。空間転移の魔術だろう。
しかし。
「こいつから学園を守ってみせろ、か。完全覚醒したっつっても、学園破壊ほどの威力がある奴を受けきるなんて、さすがに無理だぞ・・・」
「じゃあ、どうするの?ラグナロクは発動後から約5分でエネルギー充填を終える。受けきる意外にあるとしたら、それまでに強制帰還させるしか・・・!」
「そいつは無理だ、千秋さん。あいつは恐怖の天使(イロウエル)。俺でもあいつを強制帰還させる術式。神命術式は5分じゃ無理だ」
それ以前に、もし出来たとしても、それで天使が帰るかどうかと言うのもある。
所詮は人間が偽造して放つ神の命令。天使がそれを聞くかどうかが一番問題だ。過去にはその命令をウソだと見破り、その術式を組んだ魔術師達に天罰を与えたと言う話もある。
「じゃあ、やっぱり受けきって防ぐしか無いのか?」
「多分、な。俺の剣をさっきの状態にして、ソウルエレメントの力をフル使用すれば
、あるいは・・・」
「無理だ、天使の力を舐め過ぎてるぞ、それは。たった一人で天使の膨大なエネルギー量を防ぎきるなんて。正気の沙汰じゃない」
「じゃあどうするんだ!?他に方法が無いだろう!」
考えろ、考えろ。
どうすればあれを防ぎきれる。どうすれば。
人を集めて全員でソウルエレメントの力を放出して食い止める。いや無理だ。今の残り時間では確実に。
なら天使自体を殺す?もっと無理だ。一撃で天使を殺せれば苦労は無い。ならどうする、今の状況ではかなり選択肢が絞られてくる。むしろ無いに等しい。
そんな状況でどうやって防ぐ?
(裕太・・・あいつは俺に防げと言った。なら、俺に何か出来るって事か?月の加護の覚醒はした。月の神セレーネーとの契約も果たした。でも今の俺には到底無理だ。まだ完全に使いこなせる訳じゃない。第一・・・)
そこで思考が途切れる。ふと気になった事があった。
月の神セレーネーだ。
(セレーネーは魔法の女神とも言われている神だ。その力を借りる事が出来れば・・・)
時間はない。おそらくこれが唯一の手段。
彼女と契約している桜ならセレーネーに話しかけられるはずだ。
(セレーネー、セレーネー。月の神セレーネー。聞こえるはずだ、返事をしてくれ)
・・・・・・・・・、
長い沈黙が続いたような気がする。が、
『何かしら?月の王子様』
答えた。
後は頼むだけだ。
(頼む、俺に力を貸してくれ。ラグナロクが発動して学園が破壊されそうなんだ。今ここには何千人ていう生徒、教師が居る。俺はその人達を助けたい・・・だから!)
『はいはい。そんなベラベラベラベラ喋らなくても良いって)
適当な感覚で返答を返して来た。桜としては真面目な話なのだが、こうも適当に返されるとなんかムカつく。
『バカだね、君。私とあなたは契約をかわしている身。そんな理由を喋らなくても正しい事なら私は何でもしちゃうんだから♪とうい訳なので、さっさとこっちとそっちの繋がりを作っちゃってくださ〜い♪君ならすぐにできるでしょ?』
・・・・・・・・・・
随分適当な神様も居たもんだ、と。本気で思った瞬間だった。
『聞こえてるよー』


「桜?どうしたの?」
「よし、行けるぞ・・・!」
「何か策でもあるのか!?」
見てれば分かる、と言い捨てて桜は。
「千秋、力型変化(フォルム・チェンジ)、出来るか?」
「桜となら、きっと」
そうか、と暖かく握り直す。そして、力を解放していく。
風が桜と千秋の周りを渦巻いていく。それは息吹から風へ。風から突風へと変わっていく。まるで彼らの進化を祝福し、守るかのように。
「神ノ力(エレメント・フォルム)、風神(ウインズ)・・・」
武器化した千秋の形が変わっていく。刀身が2本に分かれていく。鍔の事態が消え、柄と刀身と飾り布だけになった。それが2本。つまり、言わなくても分かるだろう。
「二刀流、か?」
「セレーネー、今扉を開くからさっさと出てこいよ?」
右手の刀を十字架の形に空を切る。すると、そこの空間が割れ始めた。
「これって・・・!」
「召還?いや、神の世界(むこう)と学園(こっち)を結んだのか!?」
割れた空間は大きくなって行く。その穴は恐怖の天使(イロウエル)に向いていく。その穴が巨大化するのを止めたとき、それは現れた。
人の形をしたそれは、見とれてしまうほど美しかった。セミロングの髪は、風になびき、着ているその装束は、輝いて見える。
が、見とれている時間はなかった。
ラグナロクの一撃が放たれたのだ。
『はいはい、下がっててね〜』
「しゃ、喋った!!?」
「とりあえず下がれ、死にたいのか?」
言われ、ゆっくり下がる。
逆に彼女は前に出て行き。
『ふふ、神様に勝とうなんて、100億光年早い!!!』
と、叫ぶと同時。その一撃は消えてなくなり、恐怖の神(イロウエル)も消えていた。跡形も無く、まるで何も無かったように砕け散ったのだ。
「でも・・・100億光年って。距離、だよ・・・?」
「それは言わないでやれ・・・」
振り向いたセレーネーは赤くなっていた。間違いを指摘された事に対してだろうか。
が、そんな事はどうでも良くなってしまった。
驚くべき物を見たからだ。彼女の顔。それは。
(友美・・・と、同じ顔?)
踊り機を隠せない桜を見て、彼女はクスリと笑った。



[911] 第46話「神がもたらした始まり」 七聖石編 終章
のんびり - 2009年07月27日 (月) 20時03分

結果から言うと柊斎季は逮捕されなかった。
司法取引と言う感じだ。魔術的な事件などに、依頼されれば学園ならびに軍に知識と力を貸し、戦闘に関しての力も貸すと言う条件で、監視付きではあるが逮捕されずに済んだ。
まぁ全て学園長アイリ・ストレイトスの手回しのおかげだが。
柊は現在、学園で技術委員として働いている。柊の意志ではなく、学園長の恩着せがましい『お願い』により、学園で働かねばならなくなったのであった。
まぁ、柊に異論は無いようだが。
学園で彼が起こした事件を知っているのは、異境と学園長。それから桜達8人だ。つまりほぼ知らない。故に問題は起こらなかったりする。優人達6人には蟠りがあるようだが。
問題どころか、教師にも生徒にも人気だ。主に女子。
男子には武術の稽古をつけたりしているらしく、勉強も教えているし、魔術関係も聞かれているそうな。
優人がぼやく。
「はぁ・・・学園吹っ飛ばそうとした輩が随分と言うがに過ごしてやがるな・・・」
「まぁ、学園長の決めた事だし。何もしなければあの人も良い人だし」
「不満に思っても仕方が無い。害がないなら親しくしても問題は無いだろう。ほら見ろ、桜と千秋は結構仲良くしてるぞ」
アグリアスが指した方を見ると、柊と桜と千秋が仲良く戦っている。
「・・・・・・・・・仲が良いのか?あれ」
「稽古をつけてるんじゃ、ないかな・・・?」
「でも・・・■ッ!!とか、砕けちれッ!!とか叫んでるけど・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
なんだかんだで平和であった。なんだかんだで、ね。


   *               *              *

学園長室では、シリアスムードが流れていた。
「何故、神崎裕太があそこに居たんですかね?」
アイリはしばらく間を置いた後。ゆっくりと口を開く。仮面の裏ではどんな表情をしているのだろうか。唯一覗ける目は、深刻そうな瞳をしていた。
「ずっと見ていたんだと思います。理由は柊の七聖石か、それとも・・・」
考えていたのは桜の『月の加護』。
あれが覚醒する瞬間を待っていたのだろうか、とか考えていたのだが。
「・・・・・・考え過ぎですか。さすがの彼もそこまで読んでいたとは考えにくいのですが・・・」
力の覚醒なんて人それぞれのタイミングがある。それを確実に言い当てるなど、不可能に近い事だ。もしかしたら1秒後かもしれないし、10年後かもしれない。それほど微妙な物なのだ。
「彼が何を考えているのかは知りませんが、とりあえず今は置いておきましょう。推理するには材料がなさ過ぎです」
そう、今。そんな事を気にしている場合ではなくなっていた。
「これが今、気にすべき物ですからね」
学園長アイリ・ストレイトスは一枚の封筒を取り出し、その中から一枚の写真を取り出す。写真が入っていた封筒には、『J・S』と、名前の頭文字らしき物が書かれていた。
学園長はじっとその写真を眺める。
「ジョシュア君が送って来てくれたこの、『約束の地』の写真ですが。ここに写っているのは、やはり『彼』でしょうか。異境先生。顔が見えるまで拡大してみてください」
「わかりました」
学園長は写真を封筒に戻し、異境に渡す。それを持って異境は学園長室を走って出て行った。
今は夕方。もうすぐ夜を迎える。
学園長は窓を見た。落ちていく夕日は、役目を終えたように隠れていく。そのオレンジ色に輝く太陽はとても美しかった。おそらくあと5分もすれば月が出てくるだろう。そして、その時にこそ真実が明かされるはずだ、あの写真によって。
明かされねば良いはずの真実が。
「さて、また神崎君と千秋ちゃんに働いてもらいますか」
机に置いてあったグラスを口元で傾け、中に入っていた赤ワインを飲み干す。
太陽の姿が消え、オレンジ色の光も見えなくなり、月が上り始めた頃。異境は大きな音を立て部屋に入って来た。
学園長アイリ・ストレイトスは、仮面の中で笑っていた。優しく暖かい、だが邪悪な笑みを。





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