[269] 1.きっかけ |
- 月姫/Tsuki-hime - 2006年08月03日 (木) 22時23分
“運命”“鍵”“奇跡” これらが全て重なりあったとき、世界は《予言》から開放される。 ――『予言の書』より
1.きっかけ
少年カルロはいたって普通の少年だった。裕福でも貧乏でもない、好奇心旺盛な、ただの少年だった。 そんな彼が運命に興味を持ち始めたのはつい昨日のことだった。彼はその日、何もすることがないので、その日の半分ほどを部屋の掃除に使った。 彼がクローゼットを掃除していると、奥の方にあった埃まみれの本が彼の目にとまった。不思議と彼はその本から目が離せなくなった。――それが好奇心からなのか、その本の力のせいなのかはよく分からなかったが。 彼はとうとうその本を手にとった。 『運命の書』 表紙にはそれしか書いていなかった。彼は興奮に震える手で一ページ目をめくった。 彼の目に飛び込んできたのはただの真っ白な紙だけだった。パラパラと他のページをめくっても、やはり彼の目には白紙しか映らなかった。 「何だよ……つまんねーの」 彼はガックリと肩を落として呟いたあと、部屋の掃除を再開した。
カルロは夕食のとき、彼の母、ラウラに訊ねた。 「ねえ、今日部屋の掃除をしていたら、クローゼットの奥の方にこんな本があったんだ」 彼はそう言って、あの埃まみれの本を見せた。ラウラは一瞬驚いた表情をしてから、諦めたような表情に変わった。 「そう……」 「ねえ、これ全部白紙だよ? どうやって読むの? 何が書いてあるの?」 「お願いだからカルロ、私を質問攻めしないで。時がきたら教えてあげるから。さあ、もう寝る時間よ」 ラウラがいらいらした口調でそう言うと、カルロは拗ねた様子で寝室へと向かった。
その夜、カルロは眠れなかった。『運命の書』という題名からして、何か運命のことが書いてあるのだろう、と彼は察していた。 彼は昔彼の父、ロベルトから運命は複雑なものだ、という話してもらったことを思い出していた。 あの『運命の書』ではその複雑な“運命”のことが書いてある、と思うと興奮して眠れなかったのだ。 (明日は絶対読み方を教えてもらうぞ!) 彼は心の中でそう決心すると、すやすやと整った寝息をたてはじめた。
それとほぼ同時刻、リビングではラウラとロベルトが話し合っていた。 「そうか……」 「そろそろ出発するべきじゃないかしら。ピエトロやアレッシオに連絡をいれておきましょう」 「ああ、そうだな。出発は何時ぐらいがいいか……」 「そうね、あの二人が着き次第、ってところね」 「じゃあ、あの二人に連絡をいれておくから、今日はもう寝よう」 「そうね」
ここから、全てが始まった。
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